ODA評価 年次報告2019
30/33

27山形 辰史先生(立命館アジア太平洋大学教授 国際開発学会会長)ODAを行う4つの理由である人道目的、道義的責任、共通利益、自己利益のどれを重視するかは、日本人一人一人の問題。チームとしては一番困っていると思います。その点を我々から問いかけしていくことで外務省内でも対応ができるように努めていきたいと考えます。山形 国民への広報としてのわかりやすさを追求すれば評価のポジティブな部分が出た方がいいのですが、他方、評価では当然のことながら、ネガティブな点も指摘されます。自分としては、評価において、ポジティブな面も挙げつつ、厳しいことも語るように心がけています。村岡 我々としては、評価主任の客観的な評価を尊重し、開発協力の実務担当者には評価結果を役立ててもらいたいと考えています。外交の視点からの評価はとても難しい話で外務省の人たちは当事者であり外交のプロでありそんなこと他人に言われる話ではないと思われるかもしれません。ただ、第三者評価をする場合、外交そのものを評価するわけではなく、外交目的にODAがどのように貢献しているかという観点から評価するということを理解してもらうよう、公開されているファクトを検証しながら説得性のあるストーリーが作れないか試行錯誤しています。山形 一つ一つの援助と、それが受入国の社会経済全体に及ぼす効果はなかなか結びつけにくいものです。 また、一般の方々は、ODAの効果のわかりやすさを求めていると感じます。例えば私は講演会の場などで「そもそも日本がODAをすることによって相手国は感謝してくれているのでしょうか。感謝されているのであれば、続ける意味があるし、感謝されていないのであれば、やっても意味がないのではないでしょうか」といった質問を受けることがあります。この質問に対して「感謝されている」と答えることは簡単です。しかし、他の国も同じ途上国に対して支援をしているわけですから、感謝されているということと、国連の投票等で、日本の立場を支持してくれることは別だということも伝える必要があります。 また強調しておきたいのですが、日本は長い間、プロフェッショナリズムや支援の高い質を日本の特徴として付与しているという矜持をもって、頑張ってきました。しかし、そのような点に関する相手国の認識は、それが続けられなければ簡単に損なわれるものだと思います。「日本は日本企業のためにODAを使っているな」と相手国が思い、その認識が強まっていけば、今まで積み上げた信用がなくなるわけなので、それは避けるべきだと強く感じます。村岡 ODA評価の世界では、ODAが開発協力からの視点のみならず、その元になる外交などにも視野を広げて評価すべきという現状がありますが、確立した方法論がないので試行錯誤しています。現在、国際開発学会の会長も務められているお立場から、開発協力の視点からの国益に対する考え方など、先生のご意見をお聞かせください。山形 日本政府が実施するODA評価なので、我々は日本国民の代弁者として評価していることを強く認識しています。2015年に開発協力大綱に「国益」が明記されて以来、ODAの現場では国益をどのように解釈していいのか、かなりの戸惑いがあると感じていました。この戸惑いに対して何らかの材料を提供できないかとの問題意識から、2018年の国際開発学会全国大会で特別セッションを開催し、それをきっかけとして紀谷昌彦・山形辰史『私たちが国際協力する理由』という本を出版しました。 その本の中で「日本のODAは日本人のためになされるべき」という言葉の中の「ために」は、2つ意味があると書きました。一つはon behalf of。日本人のためにその代理人として日本政府が援助するという意味。もう一つは、for the sake of。受益者が誰なのかを示す意味であり、途上国の人々を受益者とした援助のことです。日本人が途上国の人々を受益者としてODAを使う気持ちにどのような種類があるのか考えました。マンチェスター大学のヒューム教授の分類によれば、(1)純粋な人道目的、(2)先進国が植民地宗主国としてかつて途上国にしたことに対する道義的責任、(3)日本が援助することによって途上国が利益を得ることが、まわりまわって日本にも利益をもたらすという共通利益、(4)直接的な自己利益の4つの理由が挙げられます。2000年代は新ミレニアムの期待に胸膨らませた理想主義が充満し、援助供与国の国益を話題にすることさえ非常識とされました。その次の10年は国益に言及しないことが非常識に聞こえるように思え、前の10年の反動がきたのかなと思います。日本人はこの4つの理由のうちどれを重視するのか、それは日本人一人一人の問題であろうということを、この本の中で問いかけました。村岡 外交の視点から評価するに際し、具体的に何を見たらいいのかが、委託を受けた第三者評価

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る