26村岡 昨年度外交の視点からの評価の拡充を図り、ガイドラインに落とし込みました。実際アンゴラ調査の評価主任をしていただいた稲田先生のご経験からお気づきの点など、お話をお聞かせください。稲田 外交の視点からの評価というのは、そもそも国益をどのように定義しているのかがはっきりしないとなかなか評価は難しいです。何が国益かという場合、かなりハイレベルな考慮による国益のとらえ方、中レベルや事業レベルの考慮による国益のとらえ方など様々あります。ODAを行う際の決定プロセスにおける国益のとらえ方というのは多種多様であり、一つ一つ検証して外交の視点から評価するのは、この第三者評価では難しいですね。村岡 限られた時間とリソースの中で一つ一つ追加的にやっていただくのは難しい…。稲田 時間的制約だけでなく、何が国益かという根源的な問題もあります。「外交の視点からの評価」といった場合、ODA供与によって日本と相手国との外交的関係が強化されるということも、狭い意味での国益。日本が持てる比較優位のあるリソースで開発途上国の経済社会の改善に貢献していくことを通じて、日本人が国際社会で活躍しやすくすることが長期的な国益なのではないかと思います。 その観点からすれば、日本の強みを生かせて比較優位のあるリソースとは何か。それは広い意味での人材育成なのではと思います。途上国の人たちの人材育成をして、そこに関わる日本人を増や稲田 十一先生(専修大学教授)していく、専門家でも協力隊員でも構わない。途上国で自分自身の生きがいを見い出しながら相手国の人材育成に関わっていくことで、親日的な人たちを増やすことになるし、専門家や若い人の活躍の場にもなる。このような場を増やしていくことが結局長い目で見て日本人がよりよく生きていけることに繋がる国益ではないかと思います。人材育成は時間がかかるが、お金はあまりかからないので実のある活動だと思います。村岡 途上国からの信頼にも繋がっていく…。稲田 その通りですね。現場でやりがいを持ちながら活躍する人が増えていくことが一番重要なのではないでしょうか。昨年アンゴラに評価調査で行ったとき、現地中国大使館の担当者と面談の機会がありました。担当者曰く、「日本のODAで評価しているのは人材育成。」「中国人は一つの仕事を数年やるとすぐ別の仕事に行ってしまって長続きしないが、日本の人材育成は非常に息が長くて効果的であり日本の強みだ。」と。日本のODA資金量が限られていく中で、相手側にも評価され、日本人にも生きがいの一つになり、日本の利益にも相手国への貢献にもなる、そこが日本型支援のポイントであり、国益にも繋がっていくのではと思います。村岡 外交の視点からの評価をする場合、ODAの現場で多くの人たちが活躍し、信頼を得ているということが日本の外交の目的とどうリンクしているかうまく説明できれば、税金としてのODAの使い道として説得力があります。稲田 税金の効果的な使い道という観点からすれば、日本の専門家派遣や協力隊など金額に見合うだけの効果が本当に出ているかと問われると、そうでないものも正直あるのではと思います。ただ、国益という観点からすれば、良くも悪くも日本人が現地に入って日本人が関わり、そこで日本との接点が生まれ、日本を知る人たちが先方にできて、行ったり来たりしながら、密接な関係を作り上げることは、長い目で見て日本の国益だと思います。宮森 かつて世界一の援助実績を誇っていた日本のODAにより、多くの専門家や協力隊員が世界中に派遣され、日本の国際化に役立った事実は否定できないと思います。稲田 その通りです。「ODAは外交のツール」と言いますが、歴史的に見ると、潤沢なODA資金とツールがある種のてこになって外交的影響力の向上に繋がりました。現在、資金供与のインパクトは低下しましたが、質の高いものつくりのノウハウやインフラ整備の技術や調達などの公正な手続きの面で日本が蓄積してきた高い能力は引き続き重要です。ただ、客観的に見て効率的で世界で通用するノウハウでないと長続きしない。世銀の民営化やガバナンス改善ノウハウは、いろいろと批判を受けながらも開発に効果的で必要なものなので、今でも長続きしています。日本もソフト面で競争力のあるノウハウを持って、国際社会に日本人が関与していくことを目指していくべきではないかと思います。村岡 比較優位のある分野を伸ばしていく…。稲田 そうですね、そういう分野を強化していくことが必要だと思います。 活躍する人が一番重要なのは、開発の現場でやりがいを持ちながら活躍する人が増えていくこと。
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