ODA評価 年次報告2019
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13無償資金協力個別案件の評価 <概要> (2013年度トーゴに対するノンプロジェクト無償資金協力)本案件の見返り資金で再建された保健センターにて現地関係者と評価チーム評価者(評価チーム)評価主任佐藤 寛 アジア経済研究所新領域研究センター上席主任調査研究員アドバイザー勝間 靖早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授コンサルタントグローバルリンクマネージメント株式会社評価対象期間2013年~2017年評価実施期間2018年7月~2019年3月現地調査国トーゴ/コートジボワール(日本大使館所在地) (注)下記は評価チーム作成の報告書(和文)本文に基づき、ODA評価室が作成したものです。全文はこちらからご覧いただけます。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/les/000496683.pdf 評価の背景・対象・目的 外務省は、トーゴの経済社会開発を支援し、貧困削減に寄与するため、2013年にノンプロジェクト無償資金協力(11億円)を実施した。本評価は、外務省が実施する無償資金協力案件の成果を評価することにより、今後のODAの立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。 評価結果のまとめ開発の視点からの評価(1)案件の妥当性 (評価結果:B 高い) 2012年の石油価格高騰に伴う社会的不安やトーゴの開発指標を鑑みると、本案件は、貧困削減を目的としている点において、ODA大綱(2003年)など日本の上位政策、トーゴ政府の開発ニーズ、国際的な優先課題、他ドナーの支援方針と整合している。ただし、貧困削減に向けて支援の効果を高めるためには、調達品としてガソリン以外の製品も検討する余地があったのではと考えられる。(2)結果の有効性(評価結果:B 高い) 交換公文に記載通りの金額・期間で無償資金が贈与され、ガソリンが調達された。また計画通り、ガソリンは国内で使用されたと考えられ、その販売による収入の推計額とほぼ同額が見返り資金として期限内に積み立てられた。貧困削減への効果については、本案件の規模では検証に限界があり、調達されたガソリンが特に脆弱層に対する裨益をもたらしたという根拠も確認できなかったが、見返り資金は保健・教育・農業分野の事業に使用され、本案件の実施期間中に同国の貧困・社会開発指標は改善していることから、本案件もその改善の一翼を担っていたと考えられる。(3)プロセスの適切性(評価結果:C 一部課題がある) 要請からガソリンの調達まで迅速かつ計画に即して実施され、プロセスはおおむね適切であったが、PDCAサイクルの強化及び広報の観点で今後検討すべき課題が確認された。具体的には、過去の類似案件の教訓への対応など案件形成・開始時の記録が確認できなかったこと、また、在コートジボワール日本大使館が兼轄している事情もあり、日本人関係者(大使館や調達代理機関)の立ち合いは交換公文署名時のみであったこと、また、見返り資金の使用申請方法に関するトーゴ政府との事前協議及び他ドナーとの意見交換の記録が確認できなかったことなどである。外交の視点からの評価(1)外交的な重要性 案件形成時期は、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)日本開催の直前であり、トーゴは国際連合安全保障理事会非常任理事国を務め、国際的な場でも日本と密に連携していた。これらの状況を踏まえ、二国間関係の強化に向けた本案件の意義が日本政府に考慮されたことから、その外交的な重要性は極めて高かったと言える。(2)外交的な波及効果 本案件は、2013年の対トーゴ支援額において、OECD諸国間でフランスに次いで日本が第2位となることに貢献した。トーゴ政府は、本案件は二国間関係の強化に貢献したと評価しており、外交的な効果は高い。ただし、広報が交換公文署名時のみであった点などから、日本のプレゼンス向上に貢献したとは言い難い。本案件による日本企業などへの直接的な裨益は確認できないが、同国の経済社会開発と安定化を通じ、日本人が進出しやすい環境づくりに貢献すると考え得る。 評価結果に基づく提言(1)外務省が実施する無償資金協力の準備における改善 「経済社会開発計画」(旧ノンプロジェクト無償資金協力)の準備においては、外務省は、支援対象分野や調達品の種類の選定理由と期待される成果、過去の類似案件からの教訓など案件形成時の検討内容について、財務省との協議資料などに記載することが望ましい。また、地域・国別の調達品目の実績などの情報を整え、相手国政府との協議の際に参考となるよう執務参考用資料を作成することが望まれる。典型的な調達可能品目リストの適切性についても、国際優先課題である持続可能な開発目標(SDGs)などを踏まえた上で、外務省は有識者を交えて検討することが望まれる。(2)調達品の納品から販売・活用までのモニタリングと記録の改善 調達前に、日本側関係者は、当該品の販売や見返り資金の積み立て過程・金額見込を先方政府と確認した上で、それが要請書や交換公文で意図された成果に合致するかを検討し記録しておくべきである。また、調達代理機関は、納品時及び最終報告書作成時に当該時点の情報を記録し、事前情報と異なった場合は理由を記録すべきである。外務省は、2017年度からの事後(内部・外部)評価導入の経緯も鑑み、調達代理機関の最終報告書の公開も、先方政府からの了承を得ることができたものから検討すべきである。(3)見返り資金の使用に関する情報共有の改善 外務省は、見返り資金の使用・申請方法に関し先方政府への事前の情報共有を強化することが望ましい。また、見返り資金の一般概要、使用基本ルール、報告方法に関する情報を英文でも公開すること、新規案件では公開用の交換公文データベースの情報や案件概要に、当該案件の交換公文が見返り資金に関する事項を含んでいるかを記載することが望ましい。(4)兼轄国への日本の支援に関する協議・広報の強化 大使館は、複数の外務省実施案件の情報を見返り資金事業名も含めて一覧表などで明示化し、兼轄国への限られた訪問機会に先方政府やODA関係者とまとめて協議することを検討すべきである。広報強化の一環として、 JICA実施の案件も含めた、オールジャパンODA情報の共有に寄与するイベントなどの定期的実施は、有効と考え得る。また、先方政府側の日本に関する知識を持つ人材の育成として、現職行政官の研修コースなどの枠を兼轄国に留意して配分するなどの施策を検討することも一案であろう。

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