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国際経済・金融システム研究会最終報告書
各委員報告の要旨


伊藤委員報告「アジア通貨危機の政治経済学―アジア通貨危機の分析―」

 アジア通貨危機は1つの要因だけでは全体を説明し切れない。共通要因と個別要因とを区別して分析し、この通貨危機が持つ政治経済学的なインプリケーションを把握することが、日本にとっても意義がある。共通要因は3つある。(1)ドルペッグ制を採用していたこと、(2)金融システムが脆弱であったこと、(3)短期資金流入が非常に大きかったこと。個別の要因としては、タイでは資産バブルと投機筋の通貨攻撃、インドネシアでは資本逃避、韓国では投資家(主に銀行)の群集行動があげられる。これからのIMFの役割については、最後の貸し手―レンダー・オブ・ラストリゾートになることと、バンクラプシ-・コート―破産管財人になることの2つの方向がある。今後日本の進むべき道は、IMFにおける発言力を増すこと、及びアジアにおける地域的協力の枠組みを積極的に作っていくことの2つ。そして日本は、資金だけではなく、人やアイデア―アジア通貨基金構想のようなアイデアを、どんどん積極的に打ち出して、アジアの信頼を勝ち得ていくことが重要である。米国と中国とは、何事であれ、筋を通した付き合いをすることが重要である。

篠原委員報告「地域協力としてのアジア通貨機構」

 アジア通貨危機を踏まえて1997年秋のIMF・世銀総会で話題となったアジア通貨機構(AMO)構想は、米国とIMFの反対に遭って一時頓挫を余儀なくさせられたが、その後も多くのところで多くの人々によって語られてきた。98年の危機の深化と拡散、99年の回復過程の中で、それについての議論は様々に変容し、今やまたその創設に向かって強く真剣な関心が寄せられている。日本はアジア地域を大きく包む重要政治課題としてタイミング良く地域国際政治の場に、強い決意をもって再提出することが期待される。アジア地域の経済復興のために打ち出された新宮沢構想の第2フェーズとも言うべき我が国外貨準備の有効利用は、AMOが創設された折には、そのまま日本と対象の国との間にそれが入り、その活動の一部として継承されるべき性格のもの。日本は、新宮沢構想の実行・実施をもって、AMOにコミットしていることも明らかにすべきである。アジアの国々は、日本の極めて判然とした態度表明(イニシアティブ)を高く評価するであろう。また同様に重要な課題は、本邦におけるアジア学・日本学の一層の、そして早急の深化展開である。我々の市場経済学とも呼ぶべき理論の枠組み作りが必要不可欠である。

楠川委員報告「国際金融システムの問題点」

 国際金融システムのあり方が議論されてきているが、先ず資本取引の自由化は経済効率化、高度化に貢献するものの、アジア危機を契機に、特に短期資本規制は止むを得ないとの現実論が強くなっている。しかし規制する場合も自由化を展望できるように努力すべきである。また先進国を含めて、国際資本市場としての各市場のルールの整備、統一化、新しい金融環境に対応した金融監督などは必要である。またアジアについては、地域情報の収集、分析、為替市場や貿易動向の監視、各国の経済政策への助言、緊急融資など、IMFの補完という形で地域密着の仕事を行う地域的な組織が必要であろう。さらに金融システム安定化のためには、新興国の場合には銀行制度、法律・司法制度、行政哲学、人的基盤などのいわゆるマーケットのインフラが出来上がっていないという欠点がある。先進国側も国際的なスタンダードに基づいて新興国のインフラ整備や人材要請に協力を行うべきである。途上国の債務不履行問題について付言すれば、借り手は身の程以上に借りず、出来れば自国通貨建ての長期資本市場を育成していくことが望まれ、また貸し手は貸し手責任を認識した上で借り手の状況の把握に努めるべきであろう。

小川委員報告「為替制度・国際通貨体制の問題点」

 東アジア諸国で発生した通貨危機は金融の脆弱性に起因するものである。またこの通貨危機は金融のグローバリズムが進展した現在では、投資家や投機家の行動を通じた伝染効果の影響が大きくなっている。アジア通貨危機の教訓としては貿易構造が米国一国に集中していないにもかかわらず、ドルペッグを採用していた危険性が認識されている。ドルペッグを採用した理由としては、円高ドル安トレンドで日本企業との国際的な価格競争力を有利にすることや貿易取引の決済がドル建てであること、また円安ドル高局面でドル建て債務を膨らませないことが挙げられる。特に後の2つの理由を考えた場合には、円の国際化を推進することで、ドルペッグより適切な為替相場制度を採用する環境を作り出すことができる。どのような為替相場制度が適切なのかに関して言えば、為替相場の変動に起因する貿易収支の変動を最小化することを目標とすれば、ドルとともに円を含む通貨バスケットをターゲットとする為替相場政策が最適である。さらには各国が採用する為替相場制度の相互に及ぼす影響を考えて、国際通貨協調を行うことが必要である。

浦田委員報告「試練にさらされる世界貿易体制」

 貿易・投資の自由化を目指す国際機関である世界貿易機関(WTO)はシアトルでの閣僚会議が決裂し、時期ラウンドの開始は大幅に遅れる。その背景には貿易・投資の自由化は世界貿易を拡大させる一方で、先進諸国と発展途上国との対立をも生んでいるという事情がある。WTOでは企業活動の急速なグローバル化に伴い、投資と競争のルールの整備、環境や労働問題などの新しい分野も議論に上ってきている。また経済のグローバル化の進展の中でリージョナリゼーションの動きも活発化しており、二国間・多国間の自由貿易協定も急増している。こうした中、日本としては幼年期にあるWTOの抱える課題に対して、積極的な解決策を提示する一方で、片務的自由化、二国間、地域間、グローバルでの自由化という複数のチャンネルを効果的に使い分けて、世界貿易体制の整備と円滑な運営に貢献していかねばならない。WTOへの貢献では、国際機関や国際舞台で活躍できる人材を育てる教育システムの構築、事務局へのそうした人材の供給、広報活動などを通じたWTOへの関心の醸成などが指摘できよう。

鷲尾委員報告「グローバル市場のガバナンスと社会的側面の強化」

 アジア金融危機を機にグローバル市場に対する反発が強まってきたが、その背景には国家間および国内の富裕層と貧困層との格差が増大していることがある。こうしたグローバル市場の負の側面の解決には経済の成長だけではなく、社会的側面を強化していくことである。そのためには社会的セーフティネットの強化と中核的労働基準の遵守が挙げられる。前者は単に弱者救済ではなく、集団的社会契約や所得再配分という点からも、公共政策と民間契約両方のセクターにおいて促進していく必要がある。また後者は具体的には団結権、団体交渉権、強制労働の廃止、差別の撤廃、児童労働の撲滅であるが、あとの三分野は労働組合権が担保する分野である。労働組合はまた、グローバル市場において経済成長と社会的安定を確保するためには、通貨の安定と投機的資本移動の制御の必要性を指摘してきた。そしてその具体的な取り組みとしては、国際金融市場規制監督委員会の設置、コーポレートガバナンスに関する指針、多国籍企業の行動監視、アジア・パートナーシップ基金の設置などが挙げられる。さらにシアトルでのWTO閣僚理事会の決裂は市場が統合されるにつれ、国家間、地域間の利害調整や紛争仲裁が難しくなってきたことのあらわれであり、この調整には労働組合を協議に加えた政労使の三者構成主義が解決の鍵を握っている。

長谷川委員報告「アセアンにおける自動車産業の状況と課題について」

 通貨危機によってアセアン各国の自動車生産・販売は極端に落ち込み、現地会社は過剰雇用、過剰設備、過剰借入に陥り、この苦境を切り抜けるために、減産体制による在庫の圧縮、現地会社の増資、日本から現地会社への自動車部品の輸出決済条件の変更、投資の繰り延べ、原価低減、経費節減などを行ってきた。99年に入り、アセアンの市場は回復の兆しをみせはじめたが、2000年からはWTOルールに基づく自動車市場の自由化がなされねばならず、状況変化を踏まえた事業戦略を展開することが重要な課題となっている。また欧米メーカーのアセアン市場への再進出もはじまるなど、競争は益々厳しくなっている。アセアンが今後順調に経済回復していくためには日本からの支援が重要な鍵を握る。実効ある支援を行うためには、資金支援のみではなく、投資型の支援(資金不足企業の株式買い取り、増資対応、負債買い取りなど)が求められている。さらには企業経営の指導に当たるような人材派遣も有用なものである。また安定した事業環境の構築には為替の安定化が不可欠であり、技術学校などの専門教育機関設立の自由化も望まれる。さらには現地の債券市場の育成、日本市場の活用促進などにも日本政府の支援を期待したい。

田中委員報告「アジア太平洋の安全保障をめぐる諸情勢」

 アジア太平洋地域の具体的な安全保障問題としては、朝鮮半島の問題と台湾海峡を巡る問題が挙げられる。前者は事態は安定化の方向に向かっていると言っても、国内経済状況は破綻したままで、いつ激変が起こるか予想することは困難である。後者は台湾総統選挙後の中台関係がどうなるかであるが、本質的な不安定性は解消していない。これらに加えて中国の情勢全般も懸念材料として指摘できる。このようにアジア・太平洋の安全保障環境は米中関係がやや不安定になっているなど、まだまだ不安定なところがあるが、しかし、主要国である日・米・中・ロの関係が一進一退であるものの、それほど悪くなってきたわけではないという救いがある。またこの地域の安全保障全般の構築、日本の外交において東アジアをどういうふうに構想するかという問題では、地域的枠組みに日本がどのような内実を付け加えていくかということ、東アジアの枠組みをどのように建設的に作り上げていくかが課題となろう。その枠組みには90年代後半になってできてきたAPECやARFの中の東アジア部分を強調する枠組みであるASEMやASEANプラス3(日・中・韓)が考えられよう。

山澤委員報告「日韓経済関係の緊密化に向けて」

 日韓関係は90年代にはかつてに比べて疎遠になったが、アジア危機、日本の長期不況を契機に、回復プロセスの中で日韓関係見直しの気運が双方で高まった。金大中大統領の「21世紀の新しいパートナーシップ構築」提案に応じて、小渕総理の「日韓経済アジェンダ21」で日韓関係強化を提案されており、そこには投資促進、租税条約、基準認証、知的所有権、WTO次期交渉の5分野に亘る協力が含まれている。加えて日韓FTAは双方にとって初めての試みである。その効果としては、関税及び非関税措置撤廃による相互貿易の拡大、日韓企業の競争の促進、日韓企業提携や欧米企業の参加による企業構造の変化とそれによる日韓両国の経済活性化や貿易の増加などが挙げられる。日韓FTAは自由化のみならず広範な経済協力を含むため、その中核となるFTAの制度的枠組みが必要になってくる。このため個別交渉と並行してFTA交渉も進められていくことになろう。また日韓FTAはアジア・太平洋諸国・地域経済の活性化に直接貢献すること、GATT/WTOのFTAの資格条件とも整合的に実施されることが第三国に伝えられなければならない。さらに日韓関係緊密化には通貨・金融面での協力も不可欠であり、また日韓の金融・資本市場の統合化努力も必要であろう。

岡本委員報告「アジア太平洋地域の安定化と日本」

 今後のアジアの安定化を考える上ではアメリカの今後の行動の方向性が決定的に重要である。アメリカン・スタンダードがデファクトのグローバル・スタンダードとなる中で、アジアは一層アメリカに傾斜しているが、冷戦後のアメリカはディシプリンが失われているのではないかと懸念される。特にクリントン政権のアジア外交は、国内政治の反映としての状況対応的な政策になっていると見受けられる。特に日本に影響が大きいのは米中関係であり、そこではアメリカと日米安保体制に対する本質的なコミットメントについて再協議する必要もあろう。こうした状況では、日本とアジア諸国の関係がアメリカとその国の従属変数になってしまうおそれが出てくる。いかにしてそのような振れに影響されないアジア政策を取るかが日本の今後の課題である。経済面でも日本にはアジア経済に対する独自のアプローチがあってよい。注意すべきは日本がアジアと欧米の架け橋になるという構図が成立しにくくなっていることである。日本自身が真のアジアの一員としてのアイデンティティを確立し、アジアの共通意識形成の輪の中に入っていくことが先決で、その意味では例えば日韓のパートナーシップ、経済的な盟友関係の構築は重要な枠組みとなろう。

下村委員報告「『戦略的ガバナンス要因』の提案」

 途上国の経済開発への支援について、最近の動きの中で特に重要なのは、「貧困問題の一層の重視」と「経済改革から政治改革への重点移行」の2点である。前者は貧困の深刻化をもたらした最大の背景要因に触れないという問題を抱え、グローバリゼーションの負の影響から途上国をいかに守るかとの視点が必要である。後者の背景には冷戦の終結、構造調整アプローチの限界の露呈、ドナー諸国による援助効果への要求の強まりなどが挙げられる。ここに政治的変数と援助供与をリンクさせる「政治的コンディショナリティー」が登場し、世銀やIMFも政治的変数の中のグッド・ガバナンス重視の傾向を強めている。適切な経済運営を行えるようなガバナンスは必要であるが、ドナー主導の政治改革というコンセプト自体に問題があり、グッド・ガバナンスの概念にも再考が必要である。途上国に有意義なのは、理想的ガバナンス条件の提示ではなく、具体的な提言であり、「持続的発展の始動の鍵を握るガバナンス要件」としての「戦略的ガバナンス要因」の特定がもっとも重要であろう。戦略的ガバナンス要因は、試案では、民間投資が経済成長のエンジンであること、公的部門の能力が重要であること、権力は必ず腐敗すること、との三つの原点に立ったものとなろう。

原委員報告「アジアと日本:21世紀の課題」

 東アジア経済危機を契機として、西欧は東アジアのクローニー型政治経済システムの大改造を要求した。しかしアジア諸国が直面している問題は西欧文明対アジア文明との対立ではない。一切の倫理的価値を相対化させ放棄させながら激しい速度で拡大し続けるグローバル資本主義と、各地域の分化の保持との対立という、世界規模での対立が問題なのである。日本ももはや「先進国日本対途上国アジア」という発展段階論的二分法だけでは、アジア地域と接することはできなくなっている。そしてグローバル資本主義と伝統の保持との対立という点では、日本も近隣のアジア諸国と全く同じ問題を抱えている。この点で、日本はアジア諸国の抱える問題を的確に理解し、効果的な協調のあり方を模索する必要がある。また日本は非西欧文明圏の中で最も早く近代化を達成させた特異な文明圏である。日本は過去の経験を素直に振り返り、近代文明と日本の伝統との関連について明確な理解を打ち出し、自らの位置を認識した上で世界ヴィジョンを作り上げることが課題であろう。

小松特別委員報告「インドネシア経済の現状」

 今回の危機の特徴は、通常の通貨・金融危機から国際的信認を失ったコンフィデンスクライシスへと続き、ここで華僑や資本の大規模な逃避が発生し、社会政治危機となり、社会システムが崩壊してしまったことである。もう1つの特徴がクローニーイズムに対する批判であるが、現在でもその相互扶助的社会システムは変わっておらず、インドネシアのクローニーイズムの改善は疑問とされる。またインドネシア経済の中心を担っているのは華僑であり、華僑がコンフィデンスを取り戻し、インドネシア経済を立て直そうとしなければ、経済の再建はおぼつかない。そのための重要なポイントはコンフィデンスを取り戻すようなセキュリティの確保である。今後の課題としては、援助する側は、国際収支支援と共に財政支援を継続させていかねばならないことが挙げられる。これからの援助はプロジェクトや開発支出援助ではなく、利払い、すなわち経常支出を援助する必要が出てこよう。また対外債務については、デット・リダクションの要請が出てくる可能性がある。いずれにせよ支援する側はインドネシア人が何を望んでいるかを考えねばならず、それを離れては、どのような政策も支援も成功しない。そして彼等の望みは民主的政治と公平な経済であろう。後者にはテクノクラティックな経済政策運営の継続が重要な課題である。

深川特別委員報告「韓国の構造調整2年の評価と残された課題」

 最近の韓国の成長回帰は(1)流動性回復、(2)デフレ回避、(3)ベンチャー企業の叢生などによる新成長基盤の明確化などを伴った力強さを持っている。2年あまりの間に迅速に金融・企業部門の構造調整を行い、市場の信頼を勝ち得てきたことで外資は順調に流入してきた。ただし、金融部門ではノンバンクの調整はまだ不十分であり、企業部門もワークアウトがほぼ終了し、大宇グループをめぐる危機が完全に終息するまでメドが着いたとは言えない。2000年で為替管理自由化が実現するため、今後は不安点な北朝鮮情勢を抱えながら大量の資本流入や流出に耐えてマクロ経済運営を行わなければならず、(1)財政・金融・為替管理政策の効率的運用、(2)金融監督能力の強化と市場の自律的機能強化、(3)「財閥」に対するガバナンスの確立などが課題となっている。韓国の急速な自由化は日本にとって貿易・人的交流に加えて資本交流の可能性拡大を意味する。韓国は投資対象として、また円の国際化にとっても重要なパートナーと目され、政策対話により安定した交流環境の整備や、地域協力の強化に向けた協力推進などが望まれる。

竹中委員報告「アジア太平洋経済の持続可能性:経済危機の克服と日本の役割」

 アジア危機の背景にある共通した要因としては、ドル・ペッグ制の採用、巨額の短期資金流入、国内の金融システムの脆弱性が挙げられる。さらに危機を悪化させた追加的要因には、民間部門の過大な投資、一般企業の借入が大きなウェイトを占めていたこと、相互依存性の高いアジアにおいて合成の誤謬が作用したことが指摘できよう。危機後、アジア経済はV字型の急回復を記録したが、これは需要側の要因によるものであり、総じて、経済の供給サイドに関する構造的な脆弱さは依然として保持されたままである。その需要拡大要因としては、財政拡大政策に支えられた内需の成長と外需が挙げられ、外需を支えたのがアメリカの経常収支赤字と日本の財政赤字である。このようにアジア経済の回復は特殊な需要要因によるものであり、持続可能なものではない。今後の課題はグローバル・キャピタリズムが抱える基本問題(急激な短期の資本移動)の側面を確認し、これを克服するための複合的な危機管理を考えることであろう。基本的には危機が生じた際の政策枠組みと、できるだけ危機を生じさせない枠組みを区別して準備することが必要で、前者についてはアジア通貨基金のような地域通貨基金の役割は検討されるべき課題である。後者では長期的にすべての資本移動に課税するトービン・タックスの導入を考える必要もあろう。

小島委員報告「発展途上国の経済危機再発防止と経済発展のための日本の貢献」

 今回のアジア危機はタイを起点として始まり、その後各国に波及、伝染していったのだが、その原因は多様であり、アジアの国毎の原因、アジア諸国の共通の原因、グローバルなシステム上の原因が重なって拡大し、深刻化した。したがって危機再発防止策も多面的なものとなる。途上国自体の危機防止策としては、経済のファンダメンタルズの健全性維持、弾力的為替相場政策の遂行、対外外貨建て債務比率の重視や短期資本の監視、直接投資を安定的に誘致するための制度的な体制作り、金融システムやコーポレート・ガバナンスの強化、情報開示制度の充実などが必要である。また地域としては、地域的な金融協力機構の構築や地域資本市場の育成が有効であろう。さらにグローバルには、IMF自体の政策のあり方を見直すことが課題となる。こうした中で、日本のアジア危機再発防止に対する貢献としては、日本自体が健全な経済を回復し、アジア諸国に経済大国としての新しいモデルと長期的に頼りになる市場を提供すること、ODAの適正な活用と知的貢献・協力ができる日本人の人材の育成、地域的な金融協力機構の構築や国際的な制度改革・制度作り(アーキテクチャー作り)への積極的な参加などが考えられよう。

茂木委員報告「経済学への疑問と期待」

 経済学の基本的使命は「経国済民」であり、「人類社会をよりよく運営するための理論的枠組みを提供し、政策提言・立案に役立つこと」である。また人類社会の望ましい姿は、「全人類が、平和で、出来るだけ快適な生活を、永続的に送れること」と規定できよう。その実現の基本的な課題は、「地球環境問題への対処」と「全地球的安全保障体制の確立」である。環境問題の本質は、人間の活動から生ずる地球への負荷が、地球のキャパシティを越えつつあることであろうが、経済学はこの問題をほとんど考えていない。将来的には人口増加とともに環境問題は加速度的に深刻化し、これが争いに繋がっていくことも考えられる。したがって地球環境問題への対処と全地球的安全保障体制の確立とは、人類にとって不可分の重要課題なのであり、経済学は正面からこれらの問題を取り上げるべきである。思うに開発途上国の経済発展に協力しつつ、人口問題についての認識を深め、環境負荷を低下させる様々な技術開発を強力に推進することが、いわゆるサステイナブル・ディベロプメントを可能にする循環型社会確立の唯一の方策であろう。そのために先ず必要なことは、問題の本質を一人でも多くの人に認識してもらうことと考える。

吉冨委員報告「アジア危機:眞の構造問題と国際金融システム」

 アジア危機の特質は資本収支危機であることで、その内容は大量の短資が流入し、しかもマチュリティとカレンシーのダブル・ミスマッチを内包していたことである。その結果、国際流動性危機と国内銀行危機のツイン・クライシスが発生した。しかしこの対策には国内の金融政策一つしかなく、前者への対処として使ったため、後者はさらに悪化させられることになった。それで内需が大激減するが、国際収支の調整過程を通じて、回復の端緒を掴んでいく。このアジア経済の眞の構造問題はfamily business(財閥)のコーポレート・ガバナンスであり、革命的なことができなければ改革されない。アジア危機はまた国際金融の制度上の問題も露呈させた。国際流動性の危機ではIMFを補完するリージョナル・マネタリー・ファンド(Asian Monetary Fundのようなもの)が必要となろう。そしてAMFにとって重要なのは、リージョナル・モニタリングであり、ピア・プレッシャーをかけていく仕組みも必要である。緊急融資を受けるコンディショナリティのあり方も考えねばならない。またリージョナル・モニタリングには的確な国際金融に関する情報が必要で、これを持っているのはインベストメント・バンカーである。しかし日本はこの分野が弱く、その発達を阻害する銀行のコーポレート・ガバナンスが日本の最大の問題点である。

近藤委員報告「世界経済の安定と持続的成長を求めて」

 アジア危機の背景にはマクロ政策上の歪みがあり、具体的には、自由化の順序付け(シークエンス)の問題、自由化と国内システム整備のインバランスの問題、為替政策の歪みの問題の3点を指摘できよう。同時にアジア危機は国際システム上の問題点の所在をも明らかにした。それはモニタリング・システム上の欠陥、適切なセラピー(政策プログラム)を出すシステムと能力上の欠陥、為替の不安定性の3つに分類されるものである。途上国のミクロ経済構造上の諸問題については是正の動きが出ているが、それを確かなものとし、透明性の高い国内経済システム作りに向けて構造改革が思い切って促進されることを期待したい。また日本に対する政策上のインプリケーションとしては、内需主導型経済に向けた日本経済の構造改革の必要性、開発支援の質的強化の必要性、国際システムの強化に向けた日本によるイニシアティブの必要性が挙げられる。さらに沖縄サミットを念頭において日本が具体的にイニシアティブを発揮すべき短期的課題としては、WTOの強化と次期ラウンドの早期立ち上げ、IMFの強化、為替の安定などであり、これらにつき具体的構想を積極的に提示し、合意形成に向けて政治的リーダーシップを発揮することが期待される。



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