冷戦時代には、東西間の対立が国連の場にも反映され、国連はその第一の目的である国際の平和と安全の維持に必ずしも十分な役割を果たすことができなかった。しかし、冷戦終結後の国際社会の構造変化により、国連は、国際の平和と安全の維持により効果的な役割を果たし得るようになったことに加え、開発途上国における開発の推進、環境問題、人口問題、難民などの様々な問題への対応にあたり、一層大きな役割を果たすことが期待されるようになっている。
こうした中で、96年、日本は国連加盟40周年を迎え、12月18日には、皇太子殿下及び同妃殿下並びに橋本総理大臣他の出席も得て、日本の国連加盟40周年記念式典が盛大に行われた。1956年に国連に加盟して以来、日本は常に国連憲章の目的と原則を遵守し、一貫して国連重視を外交方針の一つの柱として国連の活動全般に寄与してきた。橋本総理大臣は、9月24日、第51回国連総会の一般討論における演説の中で、国連への協力を更に強化して、世界の平和と繁栄のためにこれまで以上の積極的役割を果たしていきたいという日本の決意を表明した。

第51回国連総会において演説する橋本総理大臣(9月)
[安保理非常任理事国選挙]
10月21日に行われた国連安保理非常任理事国選挙において、日本は142票(有効投票数180票、必要投票数120票)を獲得し、当選を果たした。この結果、日本は97年1月1日より98年12月31日までの2年間、国連加盟国中最多の8回目の安保理非常任理事国を務めることとなる。
日本は、近年、国連の場において、財政面での多大な貢献、国連平和維持活動(PKO)への参加、軍縮・不拡散や開発分野でのイニシアティヴ、人道分野での活動など、幅広い分野における活動に積極的に取り組んでいる。今回の日本の当選は、国際社会が、このような日本の積極的な姿勢を評価し、日本が一層重要な役割を果たすことへの強い期待感を表明したものと考えられる。今後2年間は、国連安保理が21世紀の国際社会の平和と安全の基本的な枠組みを提供するにあたり重要な役割を担っていくものと考えられる。日本としても、各国の期待に応えるよう、国連の機能強化や地域紛争の解決などのため、安保理非常任理事国として、より積極的かつ主体的に関与していく必要がある。
[国連改革]
国連が、創設の目的を十分果たすとともに、21世紀の課題に十分に応え得るようになるためには、その機能強化のための改革が必要である。国連改革については、現在、国連総会の下に設置された「安保理改革」、「財政状況」、「開発のための課題」、「平和のための課題」、「国連システム強化」の5つの作業部会において分野別に議論が行われている。
国連創設50周年を機に改革のための機運が高まったにもかかわらず、国連がいたずらに議論を繰り返すばかりで時代に適合した自己改革のための能力すら持ち合わせていないということになれば、国連に対する信頼は低下しかねない。したがって、各国が改革のために一層の努力を払うことが強く求められている。前述の国連総会一般討論演説で、橋本総理大臣は、第51回総会の会期中(97年9月まで)に改革の主要点につき一般的な合意の形成が目指されるべきであると訴えた。また、日本は国連改革の中核をなす安保理改革、行財政分野の改革、経済社会分野の改革の三つが全体として均衡のとれた形で進められることの重要性を主張してきている。
日本の常任理事国入り問題を含む安保理改革問題は、93年12月以降、「安保理改革に関する作業部会」において議論されている。これまでのところ、安保理の能力と実効性を強化し、代表性を向上させ、運営効率を改善させるような方法で安保理を拡大すること、また、透明性を高めるなどその運営方法をも見直すことについては各国の意見の一致があるが、常任理事国の増大の可否、拒否権の扱いなど、改革案の主要論点についての各国の見解は必ずしも収斂していない。日本は、①グローバルな責任を担う能力と意思を有する限定された数の国を新たに常任理事国に加え安保理の機能を強化すること、②非常任理事国の議席数の適当な増加により安保理の代表性を改善すること、③議席の地理的配分の不平等を改善することなどの考えに立って、安保理改革についての議論に積極的に参加している。また、橋本総理大臣は前述の国連総会一般討論演説において、憲法が禁ずる武力の行使は行わないという基本的な考えの下で、多くの国々の賛同と国民の理解を得て、安保理常任理事国として責任を果たす用意があるという日本の立場を改めて表明した。
「財政状況に関する作業部会」では、国連の財政制度全般につき議論が行われている。米国に次ぐ2番目の拠出国である日本としては、国連の機能強化のために、政治・安全保障分野、開発分野を含め、全体として均衡の取れた形で改革が実現されることを重視している。国連の財政危機の問題と分担率見直しを含む制度的な財政改革の問題とを区別し、分担率については安保理常任理事国の特別の責任にかんがみ、「支払い能力に応じた支払いの原則」に加え、「責任に応じた支払い」を合わせて考慮することを提唱している。
「開発のための課題に関する作業部会」では、94年5月、ガーリ事務総長が「開発のための課題」を発表したのを受け、開発問題への取組につき議論が行われてきた。日本は作業部会に提案を提出するなど、議論の推進のためのイニシアティヴをとり、冷戦の終結後、先進国と開発途上国が従来の南北対立から脱却して協調し、新たなグローバル・パートナーシップに基づいて開発問題に取り組むことが重要であることを主張してきている。

「平和のための課題に関する作業部会」では、ブトロス・ガーリ事務総長が92年6月に発表した「平和のための課題」及び95年1月に発表した「平和のための課題(追補)」に関して、4つの個別テーマ(予防外交・平和創造、紛争後の平和構築、調整、制裁)ごとのサブ・グループで議論が進められている。日本としても、国連による予防外交の強化のための議論に積極的に参画していく方針である。
「国連システム強化のための作業部会」では、総会改革及び事務局改革につき検討が行われ、当面、効率化の具体策(総会などの国連の会合や議題の整理、予算手続の効率化、事務局運営の効率化など)につき議論を進めていくことが予定されている。

[国連平和維持活動(PKO)]
PKO が国際社会の平和と安全の確保に重要な役割を担っていることを踏まえ、日本は、PKO への要員派遣などの協力を行うとともに、国連 PKO 特別委員会の副議長国として、財政問題や緊急展開能力の強化などの懸案への対応を始めとする PKO 改革の問題にも積極的な取組を行っている。(PKO については第2章第1節3.(1)を参照。)
|