第2章 地域別に見た外交 |
【拉致問題】
2004年には、5月に小泉総理大臣が2002年9月に続いて再訪朝した結果、拉致被害者家族の帰国が実現するなど、拉致問題に関し、一定の前進が見られた。平壌にて開催された日朝首脳会談では、両首脳間で、日朝平壌宣言が日朝関係の基礎であり、これを遵守していくことを再確認した。その上で、金正日国防委員長からは、安否不明の拉致被害者に関し、「白紙」に戻っての徹底した再調査を行う旨の約束がなされた。このようにして、日本政府から国際機関を通じて、食糧25万トン、医療品等約1,000万ドル相当の人道支援を北朝鮮に対して行うことを表明した。また、日朝首脳会談の結果、拉致被害者家族5人が小泉総理大臣とともに帰国し、既に帰国した被害者との再会が果たされた。なお、ジェンキンズ氏と2人の娘は、小泉総理大臣とともに来日することは果たせなかったものの、7月にインドネシアで妻である曽我ひとみさんと再会、7月18日に来日した。ジェンキンズ氏については、11月3日、米軍軍法会議で、最大30日間の拘留及び不名誉除隊等の判決が下され、服役した後、11月27日に釈放され、12月7日、一家4人で佐渡に到着した。
その一方で、安否不明の被害者の問題の解決は、未解決のまま、依然として重い課題であり続けている。金正日国防委員長の約束に基づき、5月の日朝首脳会談のフォローアップとして、2004年8月、9月に日朝実務者協議を開催したが、北朝鮮側から納得できる説明は得られなかった。11月に開催された第3回実務者協議では、日本側代表団が平壌に赴き、安否不明者10名の再調査を担当する北朝鮮側「調査委員会」の責任者からの直接の聴取を行い、また、「証人」とも面会するなど、安否不明の被害者に関する真相究明に努めた。しかしながら、「8名死亡、2名は入境を確認せず」との北朝鮮側の結論には変わりはなく、日本側は、この協議を通じて得られた情報及び物証を持ち帰り、これらの精査を行った。
この精査の結果、12月になり、拉致被害者の一人である横田めぐみさんの「遺骨」として北朝鮮側から提供された骨から別人のDNAが検出された。これに関し、12月8日、北京の「大使館」ルートを通じて北朝鮮側に厳重に抗議したところ、北朝鮮側は、日本側の鑑定結果を受け入れることも、認めることもできない、今後、真相の究明が行われることを望む旨発言した。また、その後、その他の情報及び物証についても、「8名死亡、2名は入境を確認せず」との北朝鮮側の説明の客観的な裏付けはないことが判明したため、12月24日、日本政府は、この精査結果を公表し、翌25日には北京の「大使館」ルートを通じ、北朝鮮側に対してこれを伝達するとともに、北朝鮮側の迅速かつ納得のいく対応がない場合には、日本政府として厳しい対応をとる方針である旨を伝えた。北朝鮮側は、12月31日に明らかにした外務省スポークスマンの発言で、日本政府の精査結果は「受け入れることも認めることもできないし、断固排撃する」、「日朝政府間接触にこれ以上意義を付与する必要がなくなった」と述べるなど、強硬な姿勢を繰り返した。
翌2005年1月26日、北朝鮮側は、北京の「大使館」ルートを通じ、横田めぐみさんの「遺骨」とされた骨片に関する日本側鑑定結果はねつ造であるとする1月24日付「備忘録」を日本に伝達した。これに対し、日本は、同日に外務報道官談話を発表し、北朝鮮側の対応を極めて非建設的であると指摘した。また、2月10日には、北朝鮮の「備忘録」への反論文書において、改めて、生存する拉致被害者の即時帰国と全ての安否不明の拉致被害者に関して、真実を早急に明らかにするよう要求するとともに、引き続きそのような対応がない場合には、「厳しい対応」をとらざるを得ない旨伝達した。北朝鮮側は、日本側反論文書への回答(2月24日)において、依然として非建設的な対応をとったことから、日本は同日に外務報道官談話を発表し、北朝鮮に迅速かつ納得のいく対応を求め、北朝鮮側が非建設的な対応に終始する場合「厳しい対応」を講じざるを得ず、北朝鮮の利益にならない旨を再度発表した。
また、北朝鮮側の対応に関し、国会においては、2004年10月及び11月に設立された衆議院・参議院それぞれの拉致問題特別委員会が北朝鮮による日本人拉致問題の解決促進に関して、現行の国内法制上とり得る効果的制裁措置の発動を求める決議を12月に採択している。
安否不明の被害者に関する再調査は、2004年5月の日朝首脳会談における金正日国防委員長の約束であり、政府としては、北朝鮮が、「日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」との日朝平壌宣言に則り、日本政府が示した精査結果及び同結果に基づく申し入れを真摯に受け止め、生存者を直ちに帰国させ、一刻も早い真相究明を行うよう強く求めている。
また、いわゆる特定失踪者問題については、政府では、拉致の可能性を排除できない失踪者についても調査・捜査を実施しているところである。今後、拉致と認定される事案があれば、北朝鮮側に対して安否確認等を求めていく考えであり、過去3回の日朝実務者協議でも、この問題を取り上げ、関連情報があれば速やかに提示するよう要請してきている。
5月に小泉総理大臣が訪朝した際に表明した人道支援に関しては、8月5日、世界食糧計画(WFP)を通じた12.5万トンの食糧支援、国連児童基金(ユニセフ)及び世界保健機関(WHO)を通じた約700万ドル相当の医薬品等の人道支援を行うことを発表し、9月30日以降、一部支援が北朝鮮に到着した。この支援物資が適正に市民に配布されているかを確認するため、11月、12月の2回にわたり、外務省職員が世界食糧計画(WFP)等の国際機関が実施するモニタリングに参加した。視察の範囲においては、支援が受益者に届き、日本からの支援として感謝されていることが確認された。
しかし、2004年12月8日に、北朝鮮側から提供された横田めぐみさんの「遺骨」とされる骨が別人のものであったことが判明したこと等を受け、日本として残りの人道支援については、仮に国際機関からの要請があっても、直ちにこれを実施することは困難であるという立場をとっている。
拉致問題に関連し、「よど号」ハイジャック犯については、日本は従来から北朝鮮にその身柄の引渡しを求めてきているが、「よど号」犯の元妻の証言等により、彼らが欧州における拉致事案に関与していたことが明らかとなっている。2004年には、「よど号」グループメンバーの魚本(旧姓阿部)公博容疑者の妻である魚本民子容疑者(旅券法違反で国際手配)及び2000年6月、日本に引き渡され、逮捕、起訴の上、現在服役中の田中義三被告の妻である田中協子容疑者が帰国したことから、捜査当局において検挙し、拉致事案の全容解明に努めている。
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