第3章 分野別に見た外交 

【国連改革】

  <安保理改革>
 冷戦後、安保理の扱う分野は著しく拡大し、その対処において迅速な対応が求められている。しかし、安保理の基本的構成は国連創設当初から変わっていない。グローバルな責任を果たす意志と能力のある国を常任理事国に加える形で安保理を改革し、その正統性を揺るぎないものとし、その決定が実効性に裏付けられたものにしなくてはならない。日本としては、今後のあるべき安保理の具体像を作り上げ、安保理改革の実現に積極的に取り組み、日本の常任理事国入りを実現したいと考えている。
 2000年9月のミレニアム・サミットをはじめとする様々な機会における議論を通じて、安保理改革の早期実現は国連加盟国の総意であること、また、常任・非常任議席双方の拡大については多くの加盟国の支持があることが明らかになっている。しかし、1994年より審議が行われている安保理改革作業部会がコンセンサス方式を採用していること等もあり、これまで具体的な進展は全く見られていない。特に近年は、各国の関心がテロ、イラク等に集中していたこともあり、安保理改革の議論は低調なものに留まっていた。
 2003年3月の米英等による対イラク武力行使をめぐる安保理の対応を契機に、安保理改革に関する国連加盟国の関心は高まった。5月にクロフォードで行われた日米首脳会談において、小泉総理大臣とブッシュ米大統領は、安保理を含む国連改革の重要性につき認識の一致を見た。9月、アナン事務総長は、第58回国連総会に先立ち、「国連ミレニアム宣言の実施」の報告を発表し、その中で、国連改革の重要性を強く訴えた。
 9月23日より開催された第58回国連総会一般討論演説においては、演説を行った189か国のうち141か国が国連改革に言及し、安保理の改革、機能強化が必要であることが多数の加盟国により認識されていることが改めて明らかとなった。特に、アナン事務総長が、国際社会が直面する新たな脅威に対して一国主義に拠らず集団行動で対処するために、いかに国連の機能・組織を改革するかという問題意識の下で「ハイレベル委員会」の設置を提唱したことは、安保理改革に関する意見を集約するための重要な機会として関心を集めている。「ハイレベル委員会」は、11月に正式に発足し、12月にニューヨークにて第1回会合が開催された。同委員会は、今後数回会合を開催し、2004年末までに報告書をまとめる予定であり、日本としても、アナン事務総長のイニシアティブを支持し、同委員会の活動に積極的に協力していく考えである。同委員会に、日本からは、緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長が委員として参加している。
 日本も、この高まったモメンタムを具体的成果に繋げるために、川口外務大臣が、国連総会一般討論演説の中で、2005年に行われるミレニアム宣言の進展のレビューの機会に各国の首脳レベルが集まり、安保理改革をはじめとする国連改革に関し政治的意思決定をすることを提唱した。
 また、国内での議論を活性化させて国連改革に関する建設的な提言を得るため、川口外務大臣は、9月、諮問会議として「国連改革に関する有識者懇談会(座長:横田洋三国連大学学長特別顧問)」を発足させた。同懇談会には、財界、労働界、マスコミ、NGO、国際機関関係者、外務省OB、文化人、学者等様々な分野より有識者が参加しており、安保理改革、旧敵国条項、行財政改革(分担率)、日本人職員増強を主要な議題として、2004年5月までに計8回の会合を開催して、川口外務大臣へ最終報告書を提出する予定である。

 
国連の活動の規模の推移

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主要国の国連分担率

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国連加盟国と安保理常任・非常任理事国の地域別構成

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  <旧敵国条項>
 旧敵国条項は、1995年の総会決議において既に「死文化している」と決定されているが、削除されず未だに国連憲章に存在すること自体極めて問題である。日本は、9月の一般討論演説においてこの問題を取り上げた。今後とも、国連改革の動向も踏まえながら、同条項の削除に向けて取り組んでいく考えである。

  <行財政改革>
 国連が有限の資源の中で国際社会の広範な優先課題に取り組むため、効率的・効果的な行財政を確立することも国連改革の重要な柱である。こうした考えから日本は、政策の優先順位を反映した資源配分の重要性を訴え、より効率的・効果的な国連となるよう取り組んでいる。12月末に編成された2004/05年度国連通常予算は、テロ対策、アフガニスタン・イラク等での国連特別政治ミッションの拡張などを反映して、30億ドルの大台を超えた(前期予算に続く増加(対前期当初額比で20.4%増))。効率的・効果的行財政確立の面では、アナン事務総長が2002年9月に報告書「国連の強化:さらなる変革のためのアジェンダ」を発表し、国連の機能強化のための検討が進められる中で、予算プロセスの簡素化に向けた措置が今回盛り込まれた。また、事務総長にポスト管理権が付与され、事務総長が、ポストの等級振り替えを含めた人員の再配置を一定範囲で実施できるようになった。
 日本は、厳しい経済・財政事情にもかかわらず、加盟国中第2位の分担率19.468%(2004年)の財政負担を行っている。日本としては、加盟国による分担金負担について、分担率が各国の経済実勢に則し、かつ、国連における地位及び責任をも反映したものになるよう求めていく考えである。

  <日本人職員の増強>
 日本の国連等国際機関に対する財政的貢献に比べて、国連等国際機関に勤務する職員は著しく少ない。例えば、国連事務局では全体の約4.5%の112人に過ぎず、国連事務局が定める望ましい職員数の範囲(251~339人)の下限の半分にも満たない。
 このような状況を改善するために、政府としては、〔1〕職員数の増加、及び〔2〕国際機関における意思決定に影響を行使できるポストの確保を達成するための取組を実施している。具体的には、外務省内に国際機関人事センターを設置し、ホームページ(http://www.mofa-irc.go.jp)等による広報、的確な人材発掘に努めるとともに、国際機関への応募支援や日本人職員の採用・昇進に向けた国連等国際機関に対する働きかけを行っている。また、若手国際公務員志望者のためのアソシエート・エキスパート等派遣制度の活用、国際機関からの採用ミッションの受入等の施策を通じ、日本人職員の増強に努めている。
 この結果、日本人職員数は2000年の437名から2003年には557名とこの3年間で約27%増加した。また、意思決定に影響力を行使できるポストの確保として2003年には、国連(UN)軍縮担当事務次長に阿部信泰氏が就任したほか、経済協力開発機構(OECD)事務次長に赤阪清隆氏、国連大学(UNU)副学長に安井至氏、国連世界食糧計画(WFP)経営企画部長に青木修博氏、世界保健機関(WHO)感染症対策・予防及び撲滅部長に遠藤弘良氏などが就任した。
 日本人職員増強のためには、海外で生活し、国際機関における様々な国籍の者との競争の中で生きていくことを選択する覚悟のある優秀な人材を発掘する必要があるなど日本人職員の増強には種々の困難が伴うが、今後とも各方面と協力しながら、積極的に取り組んでいく。

  <総会改革>
 全加盟国から構成され、最も代表制の高い機関である総会の改革も忘れてはならない。第58回国連総会では、ハント総会議長のイニシアティブの下、総会の権威と役割の強化、総会の作業方法の改善に関する議論が続けられている。

 
▼第58回国連総会において一般討論演説を行う川口外務大臣(9月)

▼第58回国連総会において一般討論演説を行う川口外務大臣(9月)

 

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