【テロとの闘いと大量破壊兵器等の拡散防止】
<テロとの闘い>
2001年9月11日の米国における同時多発テロ以降、テロは国際社会の平和と安定にとっての深刻な脅威であるとの認識の下、テロ対策は依然として国際社会が取り組むべき最優先課題として位置付けられている。
2003年も、連合暫定統治当局(CPA)の統治下にあるイラクをはじめ、アフガニスタン、モロッコ、サウジアラビア、インドネシア、トルコ、ロシアなど世界各地でテロが頻発した。特にイラクでは、国連等の国際機関や赤十字等の人道援助機関までもが攻撃対象となり、テロの対象は初期の米軍等の連合軍を中心とするものから、以前はテロの標的とされてこなかったものにまで拡大している。
伝統的な抑止の概念が働かないテロを根絶するには、国際社会が一致協力して粘り強く取り組むことが必要である。2003年にはイスラム諸国で現地のイスラム教徒も犠牲になるテロ事件が相次ぎ、多くのイスラム諸国においてもテロとの闘いに国際社会が一致して取り組むことの必要性が広く共有された。こうした認識に基づき、国際社会によるテロ対策は着実に進展してきており、東南アジア等の開発途上国のテロ対処能力の向上に向け、日本をはじめとする先進諸国によるキャパシティ・ビルディング支援も積極的に行われている。
<大量破壊兵器等の拡散防止>
大量破壊兵器等の拡散は国際社会の平和と安定に対する脅威であり、テロリストが大量破壊兵器を用いるような事態になればその脅威は計り知れない。国際社会はG8、国際原子力機関(IAEA)をはじめ多くの国際会議、国際機関において大量破壊兵器等の拡散防止に向けて努力を続けてきた。5月にポーランドを訪問したブッシュ米大統領は、大量破壊兵器等関連物資の拡散阻止のための国際協調の枠組みとして「拡散に対する安全保障構想(PSI)」を提唱した。同構想の下で、日本を含めた多くの国の支持を得て関連会合や訓練が行われるなど、国際的な拡散の防止のための枠組み強化に向けた動きも加速化した。そうした中、国際社会で大量破壊兵器等の開発疑惑が指摘されている一部の国々に注目すべき進展が見られた。
イランの核問題は不拡散体制に関わる重要な問題であり、国際社会はその解決に向けた外交努力を続けてきた。9月のIAEA理事会で日本、オーストラリア、カナダが共同提案した決議が採択され、イランは10月に英国、フランス、ドイツ3か国の外務大臣による共同訪問を受け入れ、同決議を実質的に受け入れる決定を行った。その後、11月のIAEA理事会でも、イランに対し、9月のIAEA決議の内容を実施するよう求める決議が採択され、イランは12月にIAEA追加議定書に署名するなど前向きな動きも見せている。また、12月には、米国、英国による水面下の外交努力によりリビアがすべての大量破壊兵器計画を廃棄し、国際機関による即時査察受入れを決定した。こうした前向きな動きも見られる中、北朝鮮は依然として核やミサイルの開発及びその拡散を続けているものと見られており、2003年1月には核兵器不拡散条約(NPT)脱退を表明し、さらに核兵器の開発を強く示唆する等、NPT体制の揺さぶりを図り挑発的な外交を展開している。北朝鮮をはじめとする「懸念国」がリビアに倣い、大量破壊兵器計画の廃棄に向けて前向きな動きをとることが強く期待されている。