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「七福神、英国を行く!」


 チキチンチンチンチンチン!! あのハイドパークにチンドンの鉦が鳴り響いた。目を輝かせて跳んで来る子ども、家族、カップル、老人、若者…、あっという間に人垣に取り囲まれる。その人垣を引きつれて、カラフルな七福神が“ハーメルンの笛吹き男”よろしく世界一有名な公園をパレードする。曲目はチンドン屋の定番「竹に雀」から「美空ひばり」、「プッチモニ」まで。踊り出す人、タンバリンを叩く人、一緒に歌い出す日本人…。
 私達U-Stage7人は、英国における日本紹介大型事業であるJapan 2001の趣旨に賛同し、草の根レベルでの交流を実践すべく5月17日に英国へ渡り、ロンドンを皮切りに、約4か月間に及ぶ公演ツアーを敢行した。車の屋根に、黒地に赤文字で「遊舞台」と大書きした大太鼓を入れる箱を載せ、七福神の宝船に見立てて、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドまで、英国全4地域、約2万kmを走り回った。
 小雨降るケンブリッジの街をびしょぬれになりながら神輿を囃した。カーディフでは、ウェルシュ・ダンスのパーティーに呼ばれ、昼はもちろん、夜を徹して歌い踊った。エジンバラの国立博物館、マンモスやキリンのかたわらで、天狗の面を被った猿田彦が絡む獅子舞を。アイルランド共和軍(IRA)問題なども話し合われるヒルズバラの「迎賓館」では北アイルランド首相を前に太鼓を披露。スコットランドのボーダー地方では、地元の劇団、地域の子ども達と「天の岩戸」神話を劇に創作し、主要な役で出演。
 湖水地方や各地の小学校では、子ども達と一緒に太鼓を叩き、持参した世界地図を見せ「日本から見れば英国は極西である。」などと…。
 ある学校で午後のワーク・ショップが終わった時、先生が大喜びしながら朝撮った写真を持ってきてくれた。その中の一枚、子どもの表情が活き活きして実に良い。すると先生は「彼は両親を無くしたばかりなの。その子がこんなに…。」と涙ぐむ。「無くした」は離婚の意味であったのだが、一時でも子ども達を勇気づけることができたことに私達も感動した。
 私達のチンドン屋を沿道で見ただけで涙ぐむ日本人女性。お結びの差し入れ。世界各国のパフォーマー達との共演。拍手、歓声、笑顔、泣きながら別れを惜しんでくれた人達…。小学校の給食を食べ、男女の区別さえない宿に泊まったこともある。公演、宿泊、移動に至るまですべて自分たちで直接連絡をとった。
 そうして得た感動体験の数々。
 日本はとかく閉鎖的と言われるが、世界中の文化を貪欲に吸収してきたのも事実だ。それが証拠の七福神。私は「日本は文化の吹き溜まり」とさえ思う。今必要なのは発信していくことではないのか。だからこそ七福神で海を越え、狭くなってしまった地球に共生する多様な世界観や文化の共存を表現したつもりだ。それを暖かく迎えてくれた英国の人達。今はただ、この旅を支えて下さった大勢の方々に感謝の気持ちで一杯だ。何はともあれ、まさに“チン道中”であった。

執筆:U-Stage 主宰 嶋崎 靖



七福神、英国を行く!(先頭を行くのが嶋崎氏)


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