I 資 料
1. 国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説
(93年1月22日)
この度,国民がひとしく待ち望んでおりました皇太子殿下の御婚約のことがめでたく決定になりました。国民の皆様と共に心からお喜び申し上げます。この御慶事は,我が国の明るい将来を象徴するものであり,これを機に皇室と国民とを結ぶ親愛の絆が更に揺るぎないものとなることを確信いたします。
(はじめに)
今,我々は,久しく経験したことのない歴史的変動の中にいます。
東西間の冷戦の時代が終わり,歴史の流れは大きく平和へと転じました。しかしながら,このことは,国際社会に新たな平和秩序の構築という重い課題を投げかけるとともに,我が国の外交を取り巻く環境にも,また国際社会における立場にも大きな変化をもたらすものとなりました。今や,我が国の行動が国際社会の動きを左右するまでになっており,新たな平和秩序の構築に対し,国力の増大に応じた責任と役割を積極的に果たしていかなければなりません。私は,この度のアセアン訪問における各国首脳との意見交換を通じて,我が国の国際貢献に寄せられている期待の大きさを改めて痛感いたしました。
現在,我が国経済は極めて厳しい状況にあります。今,国民は景気の早期回復を心から待ち望んでおり,これは官民が力を合わせて全力で取り組んでいかなければならない緊急の課題であります。他方,国民の意識は,これまでの成長や効率優先主義から,ゆとりや安心,公平,公正を重んずるものへと変化しつつあることも見逃せません。一日も早く景気の回復を図るとともに,国民一人一人が心からゆとりと豊かさを実感できる経済社会の実現に着実に進んでいくことが必要であります。
国際環境と国民意識におけるこのような変化は,戦後我々が積み上げてきた経済社会システム全体の変革を迫るものであり,そしてそのための先導役が今政治に求められています。
こうした時に東京佐川急便事件を契機として国民の政治に対する不信感が広まっていることは,誠に遺憾なことであります。真相の解明が重要であることはもちろんでありますが,真に国民の信頼を回復するには,民意が的確に反映される政治構造の実現に向けて政治改革を推進し,目に見える具体的な成果を挙げていくことが肝要であります。戦後半世紀近くも慣れ親しんできた政治や行政のシステムから脱却し変革を遂げていくことは,決して容易なことではありません。勇気と決断と,それを実行する強い意思が不可欠であります。今や政治改革こそがすべての変革の出発点であります。
我が国はこれまで大きな変動を何度か経験してきましたが,その都度,進んで自らを変革して,新たな発展の道を切り開いてまいりました。今また,変動の時代を迎えておりますが,必ずやこれに対応した変革を成し遂げ,21世紀に向けての新たな発展の礎を築くことができると確信しております。
私は,外にあっては世界平和秩序構築のための積極的な国際貢献,内にあっては政府を始め個人や企業の意識や行動の転換を伴う生活大国づくり,そしてこれらの前提となる国民に信頼される政治の確立―この三つを柱に我が国の変革を推進してまいりたいと思います。
(積極的な国際貢献の推進)
冷戦の終了は,これまで我々民主国家群が追求してきた自由,民主主義,市場経済という基本理念が世界的規模で認知されたという一面を有しております。他方で,冷戦終了の結果,国際社会は,民族や宗教に根ざした地域紛争の激化や核兵器を始めとする大量破壊兵器の拡散懸念など新たな課題の発生を見ています。また,開発途上国における貧困問題,地球環境問題など人類共通の課題も深刻化しております。西側社会の基本理念は,むしろ今こそその真価が問われていると申さなければなりません。
我が国は,戦後一貫して平和主義,国連中心主義を堅持してまいりました。国際政治において軍事力の持つ意味が相対的に低下し,東西対立に代わる新たな世界秩序の構築が模索されている今,この理念の実現が現実的な課題となってきました。冷戦終了後,世界の平和を確保するための国連の努力が活発に行われていますが,我が国も,人的貢献を含め様々な形でこれに参画していくことが必要であります。現在,その第一歩として,国際平和協力法に基づいて,既に多数の派遣隊員諸君がカンボディアの復興を目指して汗を流しておりますが,その労苦を多としたいと思います。
また,ソマリアにおける事態は,人道上の緊急事態として座視し得ないものであります。我が国は,国連のソマリア信託基金への1億ドルの拠出を行いましたが,今後とも,こうした国連を中心とする国際的努力に対してできる限りの貢献を行うことが我が国に課せられた責務であります。
国際情勢の変化を受け,軍備管理・軍縮の重要性はますます高まっております。この度,米露両国が戦略核兵器の画期的な削減に合意したことは人類の平和にとって大きな前進であります。しかし他方,核兵器などの大量破壊兵器の拡散の動きが見られることは懸念すべき問題であり,また通常兵器の移転が地域の不安定化を招かないよう,十分注意していかなければなりません。我が国としては,大量破壊兵器の不拡散体制強化のための国際的な努力に積極的に参画するとともに,化学兵器禁止条約や通常兵器の国連登録制度への各国の参加を引き続き呼びかけてまいりたいと思います。
このような緊張緩和の流れなどに対応して,政府は昨年末,我が国の中期防衛力整備計画の修正を1年早めて実施し,計画期間中の防衛関係費を5,800億円削減することといたしました。もとより,平和憲法の下,専守防衛に徹し,今後とも必要最小限の基盤的な防衛力の整備に最善を尽くしてまいることは申すまでもありません。
世界の平和の流れを確実なものとしていく上で,多くの開発途上国において貧困の拡大や経済の低迷などが深刻化する様相を見せていることは見逃せない事実であります。また,旧ソ連などかつての社会主義国における民主主義の導入と市場経済化の努力は幾多の困難に直面しております。東西対立が削減した今,南北問題の解決や旧社会主義国の改革支援は,我が国として真剣に取り組まなければならない問題であります。この場合,政府開発援助大綱に基づき,経済力に見合った規模の途上国援助を実施するだけではなく,地球環境を始め,難民,人口,エイズ,麻薬など地球的規模の問題や世界の政治情勢を十分に踏まえ,重点的な対応を行っていくことが重要であります。また,我が国の国際貢献の観点から世界経済の活性化に資する開発途上国などへの資金の流れを引き続き確保するとともに,これまで蓄積してきた技術やノウハウの提供など知的支援についても積極的に進めていく必要があります。
今日の我が国の経済的発展はこれまで国際的に自由貿易体制が維持されてきたことに負うところが多く,また,自由貿易体制の堅持が我が国はもちろん世界経済の発展にとって不可欠の前提であることは異論のないところであります。現在進行中のウルグァイ・ラウンド交渉がもし不調に終わるようなことになれば,保護貿易主義の台頭など世界経済に深刻な影響を与えるおそれがあり,他の主要国とともに,交渉を早期かつ成功裡に終結させるべく努力を続けていく決意であります。なお,農業については,各国ともそれぞれ困難な問題を抱えておりますが,我が国としても,これまでの基本的方針の下,相互の協力による解決に向けて最大限努力してまいります。
(各国との協力強化)
この度,私は,インドネシア,マレイシア,タイ,ブルネイのアセアン4か国を訪問し,今後のアセアン諸国との協力のあり方,さらにはアジア・太平洋地域のあるべき姿と我が国の果たすべき役割について各国首脳と意見交換を行ってまいりました。冷戦構造崩壊後の世界において,アジア・太平洋地域は,政治的にも経済的にもますます重要性を増してきております。この地域が安定性を維持しつつ,今後ともダイナミックな経済発展を遂げていくことは,世界の平和と繁栄にとっても不可欠であります。様々な歴史,文化,社会的特性を持ち,また,異なった発展段階にあるアジア・太平洋地域の国々が経済的発展を遂げることができたのは,異質なものの存在を許容しながら,開かれた自由貿易体制の下で,相互に切瑳琢磨してきた結果にほかなりません。地域全体の平和と繁栄を確保していくためには,今後とも,こうした多様性の尊重と開放性の確保が不可欠であり,また,こうした流れを世界の流れへと発展させていくことが重要であります。
このため,域内の政治・安全保障対話を促進するとともに,今後とも環境保全や人材育成の面での支援を含む経済協力の拡充に努め,地域全体の平和と繁栄を我が国自身の問題として取り組んでまいります。その際,過去の歴史に対する反省の上に立って,誠実かつ謙虚な態度でこれら各国に接すべきことは申すまでもありません。
日中関係は,今,様々な分野で着実に進展しております。我が国としては,今後とも政治,経済両面にわたる改革努力への支援を行うことにより,中国と国際社会との一層の協調を促進していく考えであります。
朝鮮半島政策については,我が国は韓国との友好関係の強化を軸にこれを進めてきております。私は,2月に就任予定の金泳三次期大統領とも緊密な対話を通じて未来指向的関係の構築に努力してまいります。北朝鮮については,依然として核兵器開発の疑惑が解消されていないこともあり,国交正常化の今後の見通しは不透明ですが,関係諸国とも連絡を取りつつ,原則的な立場を堅持し,粘り強く交渉に臨んでまいります。
去る20日,米国ではクリントン氏が大統領に就任されました。新大統領は就任演説において,米国の再生の必要性を強く訴え,引き続き国際的リーダーシップを発揮するとの決意を述べられました。私は,米国が,若く,知性にあふれた,新たな指導者の下で,経済の再活性化を始めとする国内問題の解決や新たな世界秩序の形成に真摯に取り組もうとしていることを心から歓迎いたします。
冷戦後の世界が抱える課題の解決のためには,各国が協力して取り組んでいくことが不可欠でありますが,ことに世界のGNPの4割を占める日米両国が,共通のビジョンの下に,連携してリーダーシップを発揮し得るかどうかが21世紀に向けて世界の展望を大きく左右するといっても過言ではありません。また,アジア・太平洋地域の安定確保にとって,米国の存在,米国の関与が従来にも増して重要となってきており,我が国がこの地域において更に大きな役割を果たすに当たっても,米国との緊密な協調関係の維持が不可欠であります。
日米間には,共通の価値観に加えて,日米安保体制を始め広範な分野で密接な相互依存関係が存在しております。こうした基盤に立って,両国間の経済問題を迅速・適切に処理するとともに,新たな平和秩序の構築に共に手を携えて取り組んでまいります。
ECにおいては,この1月1日に市場統合が実現されました。さらに欧州連合条約の批准を目指して積極的な努力が続けられており,国際社会におけるECの重みはますます増大してきております。ECは我が国と価値観を共有する重要な友人であり,今後とも政治経済両面での対話,政策協調を深めてまいりたいと思います。
現在,ロシアは,改革に伴う多くの政治的,経済的諸問題に直面しておりますが,同国での改革が進展すること,また,法と正義に基づき北方領土問題が解決され,日露関係の完全な正常化が実現することは,我が国にとってのみならず国際社会にとっての利益でもあります。私は,このような考えに基づき,一貫した方針の下,日露関係が均衡のとれた形で発展していくよう,対露外交を進めていく考えであります。
イラクは,国連を中心とする国際社会の度重なる警告にもかかわらず,安保理決議違反を繰り返してきております。我が国は,一連の安保理決議の履行を確保するために米,英,仏合同軍がイラクに対し限定的に武力を行使したことを理解し,支持するものであります。
(東京サミットに向けて)
本年7月には東京で主要国首脳会議が開催されます。冷戦終了後アジアで開催される初めてのサミットであり,また,我が国の世界平和秩序構築に向けての姿勢が問われる重要な会議でもあります。私は議長として,世界経済の回復を始めとする諸問題の解決に向けた主要国間の政策協調を一層強化し,世界に明るい展望を開くことができるよう,このサミットの成功に全力を尽くす決意であります。
(経済運営)
我が国経済の現状は,住宅投資や公共投資など一部には明るい兆しが見られるものの,一般家庭の消費は停滞気味であり,また,中小企業や自営業の方々を始め企業経営者を取り巻く環境にも厳しいものが見られるなど,依然として景気の低迷が続いております。加えて,バブルの崩壊によって資産価格が大幅に下落し,金融面では金融機関の融資対応能力の低下や金融システムの安定性の問題が懸念される一方,実体経済面にも影響を与えております。
こうした状況に対して,政府は,昨年3月には公共事業等の前倒し実施などを内容とする緊急経済対策を,また,8月には内需の拡大と金融システムの安定性の確保のための施策を含む過去最大規模の総合経済対策を決定するなど,機動的に可能な限りの努力を行ってまいりました。
平成5年度予算は,こうした努力につなげる形で,公共投資等について,国の公共事業のほか財政投融資計画や地方単独事業においても近年にない高い伸び率を確保するなど景気に十分配慮したものといたしました。さらに,雇用情勢に細心の注意を払って,失業の予防,就職促進など機動的な雇用対策を講じていくほか,小規模企業対策の強化や中小企業が直面している時短や労働力確保の問題への対応など,きめ細かな中小企業対策を推進してまいります。また,金融・証券業界の徹底した合理化努力を前提として,金融システムの安定性の確保や証券市場活性化に引き続き努力していく考えであります。
我が国企業の旺盛な活力とその底力は,これまで幾多の困難を乗り越えてきた実績が証明するところであります。我が国経済の潜在力を考えるならば,政府の政策努力によってやがて民間の活力が引き出され,再び内需を中心としたインフレなき成長路線へと移行していくことは疑いありません。対策の効果が誰の目にも見える形で現れるにはある程度時間がかかるため,もどかしさを感じられる向きもあると思いますが,政府は,今後とも,経済情勢の変化に細心の注意を払い,一日も早く景気の回復が実感できるよう機動的な対応を怠らないようにいたします。まずは,景気の足取りを確実なものとするためにも,平成5年度予算の速やかな成立を切望いたします。
(生活大国実現への前進)
現下の厳しい経済環境の中にあって,企業においては,経営体質の見直しや21世紀に向けた企業行動の変革など構造的な課題への積極的な取り組みが行われており,個人においても,環境と調和した簡素なライフスタイルを目指す動きが着実に進展しつつあります。また,景気の低迷もあって,地価の下落や労働時間の短縮が進んでおります。こうした傾向を一時的なものにとどめず,むしろこれを契機として消費者・生活者重視へと政策の重点を移し,個人や企業の意識や行動の転換を促して,生活大国の実現に向けた構造的な変革へとつなげていかなければなりません。
政府は昨年,「生活大国5か年計画」を策定いたしましたが,本年は,生活大国の実現に向けて本格的な第一歩を踏み出す年であります。
(住宅,生活環境の整備)
国民一人一人が経済力に見合った生活の豊かさとゆとりを実感できるためには,住宅や社会資本の整備が不可欠であります。21世紀までに残された期間は,後世に残すべき良質な社会資本ストックを形成するための貴重な時間であります。
このため,平成5年度予算においては,住宅や都市公園,下水道,環境衛生施設など生活に関連した分野に思い切って重点的に予算を配分することといたしました。
特に,住宅については,大都市圏において勤労者年収の5倍程度で良質な住宅取得が可能となるよう,住宅金融公庫融資の拡充や住宅地供給促進のための基盤整備など総合的な対策を講ずることとしています。また,土地神話を打破し,地価の下落・沈静化傾向の定着を図るため,引き続き国土政策との連携を保ちつつ総合的な土地対策を推進してまいります。
(労働時間の短縮)
我が国の繁栄が国民の勤勉に支えられていることは申すまでもありませんが,今後の課題として,個人の生活に潤いをもたらし,また,家族との団欒の機会を増やすためにも,是非とも労働時間の短縮を図っていかなければなりません。年間総労働時間1,800時間の達成に向けて,中小企業等による時短のための自主的な取組を支援し,完全週休二日制の普及を図るとともに,週40時間労働制への移行を実現するための労働基準法改正案を今国会に提出することとしております。
(男女共同参画型社会の形成)
国民の誰もが自らの能力に応じて社会参加し,社会に貢献できるようにすることは,生活大国の実現の鍵となる重要な課題であります。特に,女性が十分に社会で活躍できるよう,これまでの男女の固定的な役割分担意識を始め社会の制度,慣行,慣習などを見直すとともに,男女の雇用機会均等の確保を図り,男女共同参画型の社会を実現していく必要があります。
このため,育児休業制度や介護休業制度の普及促進に努めるほか,パートタイム労働対策の充実のための法的整備を行うなど所要の対策を推進してまいりたいと考えております。
(健康で心豊かに暮らせる社会の建設)
世界一の長寿国となった我が国は,世界でも未だ経験したことのない超高齢化社会を迎えようとしています。住み慣れた地域社会の一員として高齢者が充実した老後を送ることができるようにすることは,政治の基本であります。その基盤づくりとして,高齢者が活躍できる職場を確保し,公的年金制度の長期的安定を図るとともに,地域における保健,医療,福祉サービスが総合的・計画的に提供される体制づくりを進めてまいります。特に,看護婦,福祉施設職員等の確保は緊急の課題であり,勤務条件の改善等総合的な対策を講じてまいります。
さらに,出生率の低下など状況の変化に対応して将来を担う子供たちが健やかに生まれ育つ環境づくりに取り組むとともに,「国連障害者の10年」終了後も長期的展望に立って,障害を持つ人の社会への完全参加と平等の理念の実現に努めるなど福祉施策全般にわたって充実・強化を図ってまいります。
エイズ患者や感染者が急増しております。何としてもその拡大を食い止めなければなりません。そのため,地方自治体や民間の協力も得ながら地域や職場,学校などあらゆる場で正しい知識の啓発普及を推進するとともに,相談や検査・医療体制の整備,治療法の研究など総合的かつ集中的な対策を展開してまいります。
次に,社会秩序と安全の問題について申し上げます。最近の治安情勢は,暴力団活動の悪質・巧妙化を始め,けん銃を使用した凶悪事件やテロ,ゲリラ事件の多発,薬物事犯の増加など厳しさを増しております。また,交通死亡事故も高水準で推移しています。申すまでもなく,法秩序の維持や安全の確保は,国民生活の基盤をなすものであり,私は,今後ともその対策に万全を期してまいる所存であります。
(国土の均衡ある発展と地域の活性化)
国民が等しくゆとりと豊かさを実感できるようにするためには,多極分散型の国土を形成していくことが重要であります。このため,都市・産業機能の地方分散を一層推進するとともに,成長と定住の核となる地方拠点都市地域の重点的整備や地方の自主的・主体的なふるさとづくりへの支援を積極的に推進してまいります。また,東京一極集中への今後の対応として,過密問題対策と合わせて,国会等の移転の具体化に向けて積極的な検討を進めてまいります。さらに,高規格幹線道路を始めとする道路網や,幹線鉄道,空港など基幹的な高速交通網,生活や地域に密着した高度な情報・通信網の整備などにより,全国土を有機的に結び,国土の一体化を図ってまいります。
また私は,北海道の総合開発と沖縄の振興開発にも引き続き積極的に取り組んでいくほか,地域の実態に即した国土の保全にも努めてまいります。
先日の釧路沖地震により被災された方々に心からお見舞い申し上げます。政府としては,被害の復旧に早急に取り組むなど災害対策全般の一層の充実に努力してまいります。
(21世紀に向けた農林水産政策の展開)
農林水産業は,国民生活に欠くことのできない食料の安定供給という大切な使命に加えて,国土や自然環境の保全,伝統と地域文化に裏付けられたゆとりある生活や余暇空間の提供といった多面的な機能も有しております。
現在,我が国の農業,農山漁村は後継者の減少,高齢化の進行などの事態に直面しております。私は,21世紀という新しい時代を視野に置いた長期的展望の下に,経営感覚に優れた意欲的な農業者が生産の根幹を担う力強い農業構造を実現してまいります。同時に,条件の不利な中山間地域を始め農山漁村が多様で活力のある地域として発展できるよう,基本的な条件の整備を推進してまいります。また,林業,水産業については,国土・環境保全など緑と水の源泉としての森林づくり,豊かな海の恵みをいかした水産業の振興などに努めてまいります。
(環境・エネルギー対策の総合的推進)
人類の生存基盤としての有限な環境を守り,それを次の世代へ引き継いでいくことは,現在に生きる我々に課せられた使命であり,それはまた生活大国実現の礎でもあります。政府は,環境と調和した持続可能な経済社会を構築するためにも,地域環境時代にふさわしい政策を総合的,体系的に進めていくための環境基本法案を策定すべく目下検討を進めております。
また,地球環境問題に適切に対応していくためには,エネルギーの需給両面からの対策も不可欠であります。需要面では,あらゆる部門における抜本的な省エネルギーを推進するための総合的な対策を講ずることとし,供給面においては,環境負荷の小さい原子力や再生エネルギーなどの開発導入を積極的に推進してまいります。特に,原子力については,安全性の確保に万全を期しながら,原発立地や原子燃料の平和的利用の促進を図るほか,旧ソ連・東欧地域の原発の安全性向上のための協力を進めてまいります。
(教育,芸術文化,科学技術等の振興)
教育や芸術文化,科学技術は,我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し,世界に貢献していく基礎を築くものであります。
このような認識に立って,私は,個性や創造力を伸ばすことを学校教育の基本に置き,日本人としての自覚を持って国際社会に貢献できる,心豊かなたくましい国民の育成に努めてまいります。また,生涯にわたって自由に学習の機会が得られる社会の実現を目指すとともに,国際的な文化交流の促進,スポーツや芸術文化の振興を図ってまいります。
さらに,我が国の将来の発展を確保し,知的な面での国際貢献を行っていくためには,基礎研究の基盤整備を図り,独創的,先端的な学術・科学技術研究を推進しなければなりません。高等教育機関の教育・研究環境の抜本的な改善や研究開発基礎の充実・強化,研究交流や国際協力の促進に努めるとともに,地球規模の諸現象の解明,宇宙,海洋などの開発利用を推進してまいります。
(消費者重視の政策の推進)
生産者中心の視点から消費者や生活者を重視し,効率優先から公正にも十分配慮した社会への転換を進めることは,生活大国づくりの基本理念であります。
私は,国民の一人一人が真に安全で豊かな消費生活を営むことができるよう,消費者行政を積極的かつ総合的に推進してまいります。現在,政府部内において総合的な消費者被害の防止や救済のあり方についての検討を行っておりますが,年内には結論を得たいと考えております。また,消費者の利益を保護するためには,市場における公正かつ自由な競争を維持し,促進することが重要であり,今後とも,独占禁止法違反行為に対し厳正に対処するとともに,その運用の透明性を高めてまいります。
(行財政改革の推進)
21世紀をにらんだ社会資本の整備や人口の高齢化などに適切に対応し,生活大国実現に向けて着実に歩みを進めるためにも,また国際社会における我が国の役割の増大に積極的に応えていくためにも,引き続き健全な財政運営を確保し,公債残高の累増を避けるべく財政改革を進めていかなければなりません。なお,地方財政についても,その円滑な運営を図ってまいります。
また,時代が大きく流れを変えようとしている時にあって,行政組織やその役割は根本からの見直しや変革を迫られております。私は,簡素で効率的な行政の実現という基本に立って,これまで進めてきた地方への権限委譲,規制緩和の推進に加えて,官民の役割分担そのものの見直し,セクショナリズムの打破による総合的な政策展開能力の強化などを断行する決意であります。
なお,行政手続法制の整備に取り組むなど,公正,透明で信頼される行政を目指します。
(政治改革の推進)
国民の政治に対する不信感の高まりは,かつてその例を見ない状況に達しており,政治家の一人として,また,国政を担う者として,誠に憂慮に堪えません。今こそ政治が我が国の進むべき方向を提示し,その具体化に邁進すべき時であり,一日も早く政治改革を実現し,国民の政治に対する信頼と期待を取り戻さなければなりません。イギリスでは,かつていわゆる腐敗行為防止法の制定を転機に政界の浄化が進んだと言われております。我が国も今,将来にわたって民主政治を発展させていくための抜本的な改革を断行する時期を迎えるに至りました。
先の国会で成立した緊急改革は,政治改革に向けての着実な第一歩を記すものでありました。しかしながら,ここで前進の歩みを止めることなく,引き続き抜本的な改革を推進することこそが国民の期待に応えるゆえんであります。
先般,自由民主党が策定した「政治改革の基本方針」は,政治倫理の確立,政治資金の透明性の確保,政策論議を中心とする政党本位の選挙制度の確立などを目指すものであります。抜本改革のあり方については,様々な意見や利害の対立があることは当然でありますが,私といたしましては今日の後に今日なしとの覚悟で政治改革の実現に取り組んでまいります。
今国会中に抜本的な政治改革が実現するよう,十分建設的な議論が行われることを念願いたします。
(結び)
今,我々は,21世紀に向けて明日への展望を開く岐路に立たされております。内外の環境が大きく変化し,国内的にも国際的にも変革が迫られ,また,その機が熟しているのは誰の目にも明らかであります。変革は大きな困難を伴うものでありますが,今ここで,新たな路への一歩を躊躇するならば我が国の将来を危うくするおそれがあります。
私は,改造内閣の発足に当たり,「変革と実行」を掲げました。我が国を,国際社会から尊敬され,国民一人一人が誇りを持ち幸福を実感できる国とするため,政治を始めとする社会制度全体を見直し,新たな時代に対応していくための変革を実行してまいる決意であります。
議員各位と国民の皆様のご理解とご協力を心からお願いいたします。
(93年1月22日)
第126回国会が開かれるに当たり,我が国の外交の基本方針につき所信を申し述べます。
国際情勢認識について
国際社会は,旧
先の湾岸危機や,旧ユーゴースラヴィア,ソマリアでの今日の悲惨な内戦や飢餓の状態は,このような時代を象徴する出来事であります。これまで抑えられていた宗教,民族,領土問題等の対立や紛争,抗争が,今後とも引き続き表面化してくる危険があります。
ロシア等の旧ソ連諸国においては,民主化と市場経済化への改革はいまだその途上にあり,国民の日常生活を含めた経済面の諸困難は依然として深刻であります。
世界経済は,アジアの一部の地域が高成長を続けていることを別にすれば,おおむね景気回復の足取りは重く,先進諸国は,深刻化する国内の経済・社会問題に忙殺されて,ともすれば内向きになりかねません。また,多くの開発途上国の貧困,人口増大等の問題は,ますます深刻となってきており,国際社会は結束して一層真剣に取り組む必要があります。 国際社会は,歴史の転換期にあって,一方では冷戦の終結により各地で噴き出した民族,宗教紛争等への対応に追われつつ,他方では,新しい平和と繁栄の枠組みを模索しています。しかし,新しい枠組みが構築され,国際社会が安定するためには,なお少なからぬ年月を要するものと思います。
日本外交の目標について
国際社会は,このような歴史の転換期の諸問題を着実に克服し,平和と自由と繁栄を世界のより多くの人々が享受できるよう努力しなければならないという歴史的課題に直面しております。我が国は,そのような国際社会の課題にこたえて,明るい未来を開いていくため,その国力にふさわしい指導力を発揮していく必要があります。そのため,経済力・技術力のみならず,人的及び知的な協力を通じ,積極的に努力してまいります。
我が国は,第二次大戦の灰燼
日本の存在が飛躍的に大きくなった今日,我が国は,国際秩序から単に受益するだけでなく,これに貢献し,これを強化する役割を担わなければなりません。また,そうした役割を果たすことこそが我が国の長期的国益にかなうものであり,我が国外交の目標でなくではなりません。
国際協調の推進について
今日の世界が抱える諸問題は,主要国といえども一国のみでは対応することができず,国際社会が協調して解決していくことが必要であります。その意味で,国連の場での,また,日米欧間及びアジア・太平洋地域の諸国間での協力が重要であります。
本年7月には主要国首脳会議が東京で開催されますが,我が国は,議長国として,このような認識に立って,その成功のために最大限の努力を行ってまいります。
(国連の強化)
米ソの二極構造が消滅した今日,国際秩序を維持していく唯一の現実的な道は各国間の協力を前提とした協調体制を強化していくことであります。そのためには,まず,国連を始めとする国際機関を強化し,各国が協調して共同の責任を果たしていくことが,不可欠であります。特に,国連は,東西のイデオロギー対立から解放されて,国際の平和と安全の維持という本来の機能を取り戻してきており,今日,その役割への期待は飛躍的に増大しています。戦後一貫して国連中心主義を掲げている我が国としては,その更なる活性化に向け一層の努力を行っていかなければなりません。
近年,国連の平和維持活動の件数は著しく増加し,1948年以来実施されてきた計28件のうち,実に15件の設立が過去5年間に集中しています。また,活動内容や規模も大型化してきております。このようなすう勢にこたえていくため,国連加盟国の一層の協力が必要となっております。我が国としても,国際平和協力法により人的貢献を行うとともに,財政基盤の強化のため平和維持留保基金,いわゆるPKO立ち上がり基金の設立を提唱し,これが実現いたしました。
さらに,従来の伝統的な平和維持活動を超える新たな国連の活動が必要となる場合も出てきております。この点で,ソマリアでの人道支援のための安全な環境作りを目的とした国際的な活動が注目されています。このように国際の平和と安定のための国連の役割と任務は,より多様なものとなってきており,加盟国にも一層柔軟な対応が求められております。これは,我が国としても,責任ある国際社会の一員として,真剣に受け止めなければならない問題であると思います。
また,国連が効果的に機能するためには,安全保障理事会の構成を含め国連の機構改革と機能強化に取り組んでいく必要があるとの認識が国際的に広がりつつあります。私は,昨年の国連総会出席の機会にこの点を訴えましたが,このような我が国の主張は,国連総会において安保理改革に関する各国の意見を国連事務総長に提出することを求める決議として満場一致で採択されました。私としては,引き続き国際社会と共に,この問題を真剣に検討していきたいと考えています。
(日米欧関係)
国際社会が直面する諸問題の解決に当たり,日米欧間の緊密な協力の重要性はますます高まっており,我が国はこうした協力に一層主体的に取り組むことが求められております。
その中で,国際的な協調を強化するには,米国に代わり指導力を発揮し得る国はどこにもありません。この意味で,私は,クリントン新大統領が先の就任演説において,「米国の再生」という目標の下に国民の結束を求め,冷戦後の世界において引き続き指導的役割を果たしていく決意を示されたことを心から歓迎いたします。我が国は,クリントン新政権との間で,世界の平和と繁栄の確保を共通の課題として,歴史の転換期にふさわしい新たな協力関係を構築するよう努めてまいります。
日米安保体制に基づく日米関係が我が国の外交の基軸であることは,冷戦後の今日においても変わりません。むしろ,日米基軸外交が,アジア・太平洋地域の平和と安定を確保し,また,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという日本の立場の国際的な信頼性を高めるために,今後とも一層重要であると申せましょう。
それと同時に,日米間の経済関係は今や密接不可分に結び付いており,そのために,時として摩擦が生じることは避けられない面もありますが,両国がその経済的調和を目指し,協調関係を強化していくことは,日米両国のみならず,世界経済の繁栄のために重要であります。クリントン新政権及び米国議会が,自由貿易体制擁護の立場から国内の保護主義的な動きに対して確固たる態度を示されるとともに,米国経済再建の努力が実を結ぶことを期待し,そのための努力を支持してまいります。
欧州においては,近年の国際情勢の劇的な変化の中にあって,ECを中心とした歴史的な統合が進められております。欧州の統合は,正に国家間の歴史の変革であり,統合完成の暁には世界の政治と経済に大きな影響を与えることは確実であります。その意味で,今回の私の欧州訪問と各国指導者達との政治対話は,大変有意義であり,今後とも,欧州との関係強化を図ってまいります。
(アジア・太平洋地域との協力)
近年の目覚しい経済発展を受けて政治的安定を達成しつつあるアジア・太平洋地域の諸国は,地域の平和と繁栄のための協力において重要な役割を担うようになってきております。我が国は,それらの諸国との協力を進め,アジア・太平洋地域での平和と繁栄を確保し,これを世界の平和と繁栄につなげていくよう努力してまいります。
このような考え方を背景にして,今般,宮澤総理は,ASEAN4か国を訪問し,日本とASEANの協力関係を一層強化していく決意を表明してきたところであります。
主要な政策課題について
(世界経済の繁栄の確保)
国際社会が直面する様々な問題に取り組んでいく上で,世界経済の活力を維持・強化することが,今や,これまで以上に重要な課題となっております。しかし,世界の自由経済体制の下では,各国経済は,相互依存関係が強いだけに,一国のみの繁栄は長続きしません。先進各国における景気回復が遅れている中で,各国の政策協調が強く求められているのはそのためであります。我が国としても,内需を中心とするインフレなき持続的成長を確保していくことは,国内的に重要であるのみならず,国際的にも世界経済の健全な発展に向けて大きな貢献となるものであります。
現在最終段階にあるウルグァイ・ラウンド交渉は,多角的自由貿易体制の維持・強化の観点から,世界経済の将来にとり決定的に重要であります。我が国は,この交渉が成功裡にかつ早期に終結するよう引き続き最大限の努力を行っていく方針であります。
(世界の平和と安定の確保)
中東の不安定な状況や,旧ユーゴースラヴィア,ソマリア,カンボディア等における紛争は,転換期の世界における大きな懸念材料であります。このような認識に立って,我が国は,地域紛争の解決のため,資金的協力にとどまらず,人的貢献や外交努力を積極的に行っていきます。
まず,資金的協力の面では,カンボディア問題以外にも,旧ユーゴースラヴィアやソマリアにおける避難民の救済のため,それぞれ2,000万ドルを超える人道援助を行っています。特に,ソマリアに関しては,人道援助に加え,国連のソマリア信託基金に対し,1億ドルを拠出することを決定しました。次に,人的貢献としては,国際平和協力法の下,既にアンゴラ,カンボディアに平和協力隊を派遣いたしました。さらに,外交努力としては,カンボディア問題,中東和平問題等の多数国間の協議の場に積極的に参画しております。しかし,ソマリアでの惨状に対して典型的に示されているような国際社会の積極的な対応は,国民の皆様が連日の報道で御覧のとおりであります。地域紛争も国際社会の対応もますます多様化しようとしている中で,我が国の取組はどうあるべきかが改めて問われているように思います。
転換期の世界の平和と安定を確保するためのもう一つの重要な課題は軍備管理・軍縮への取組であります。昨年以降この分野においていくつかの大きな成果が見られました。
第1に,米露両国間において,昨年6月,2003年までに戦略核兵器の弾頭数を現保有量の約3分の1まで削減することが合意され,先般,条約への署名が行われました。我が国は,唯一の被爆国として核軍縮を重視しており,これまでの合意の着実な履行とともに,米露以外の核兵器国の核軍縮過程への参加を強く期待しております。
第2に,中国,フランス等が核兵器不拡散条約に加入し,核兵器国がすべて締約国になるとともに,締約国数も150か国を超えるなど同条約の普遍性がますます高まってきていることは歓迎すべきことであります。
第3に,長きにわたり行われてきた化学兵器禁止条約交渉が9月にまとまり化学兵器の全面的な禁止が実現する運びとなったことは画期的なことであります。先般,パリで行われた署名式には私自身出席してまいりました。
以上のような好ましい動きが見られる反面,北朝鮮や,イラクなどにおける核兵器開発の疑惑,そして旧ソ連からの大量破壊兵器やその製造技術等の流出の危険が国際的な懸念を呼んでいます。
我が国は,大量破壊兵器やミサイルの不拡散体制の強化のため,他の関係国とともに一層努力していく方針であります。また,旧ソ連での核兵器等の製造技術の流出防止を目的とした国際科学技術センターの設立に当たっても,2,000万ドルの資金貢献を表明しており,今後とも同センターの円滑な活動のために積極的に協力してまいります。
通常兵器については,まず兵器移転の透明性を高め,これにより各国間の相互信頼感を高めることが重要であり,我が国等の提案により発足した国連軍備登録制度の円滑な実施に一層努力いたします。また,冷戦中に膨らんだ各国兵器産業の余剰生産能力が一部地域への兵器の無秩序な移転を生み,地域の不安定化を招く結果とならないよう,関係国による慎重な対応の重要性を国際的に強調してまいります。
(民主化や市場経済の導入に対する支援)
世界平和を真に長続きするものとしていくためには,自由,人権,民主主義が尊重され,市場経済の下で繁栄が享受され,人間一人一人の幸福が保障される社会を形成する必要があります。
旧ソ連諸国や中・東欧諸国においてのみならず,モンゴルや南西アジア諸国,アフリカ,中南米の多くの開発途上国において,民主化や市場経済の導入に向けての改革を進める気運が高まっております。
ロシアに対しても,我が国は,技術的支援,人道支援など他の諸国に劣らぬ支援を行ってきており,今後とも国際社会と協調しつつ,適切な支援を行っていく方針であります。昨年10月に我が国が旧ソ連支援東京会議を主催したのも,このような努力の一環であります。中央アジア諸国については,我が国の働き掛けにより,政府開発援助の対象国となることが先般国際的に決定されたところであります。
また,我が国の政府開発援助大綱においては,援助の実施に当たり,被援助国の軍事支出の動向などとともに,民主化の促進と市場経済導入の努力に十分注意を払っていくこととしておりますが,これは,こうした民主化と経済改革の動きを,援助を通じ積極的に支援し促進していくとの考えに基づくものであります。
翻って,開発途上国の現状に目を向けると,依然として飢餓や貧困,成長の低迷,累積債務問題などの問題が山積しており,援助の必要性はこれまで以上に高いものとなっております。
我が国は,今後とも開発途上国援助を外交の重要な一分野としてとらえ,政府開発援助大綱に掲げた理念と原則にのっとり,開発途上国を支援していく考えであります。今国会において審議をお願いする政府開発援助予算は,このような考えに立って,厳しい財政事情の下,1兆144億円の一般会計予算を計上したものであります。
(地球的規模の問題)
国際社会は,地球環境,人口,難民,エイズ,麻薬,テロ等の全人類にとって共通の重要な問題を抱えており,我が国も,地球市民としての自覚の下,それらの問題の解決のために,一層の努力を払っていかなければなりません。
特に,地球環境問題については,昨年の国連環境開発会議(UNCED)の成果を着実に実施していくことが必要であり,そのため,我が国の行動計画の策定と気候変動枠組み条約等の締結に向け努力してまいります。また,国連環境開発会議で発表したとおり,環境分野における政府開発援助を拡充・強化してまいります。
難民問題については,中米やカンボディアでは,難民の本国への帰還が始まり,問題が解決に向かっておりますが,旧ユーゴースラヴィアやソマリア等では,新たな難民問題が発生し,関係地域の安定にも大きな影響が及ぶことが懸念されております。我が国は,世界各地の難民問題の解決のため,一層の協力を行い,より積極的な役割を果たしていきたいと考えます。国連難民高等弁務官事務所に対する我が国の拠出金として,平成5年度予算に前年度より800万ドル多い8,300万ドルを計上したのも,その現れであります。
(文化・科学技術)
各国との間で,知的及び文化的交流を推進し,国家間の相互理解を深め,信頼関係を築いていくことは,平和で安定した国際関係を構築する上で不可欠であります。また,我が国は,人類共通の財産である文化財の保存や開発途上国の教育・文化の振興等にも積極的な協力を行っていく考えであります。
科学技術の分野についても,経済とのかかわりのみならず,環境問題の解決のためにも,国際的な協力がますます重要となってきており,我が国も,外国人研究者の受入れや国際的な各種研究プロジェクトを着実に進めていくことが重要であります。
アジア諸国との関係について
天皇皇后両陛下の先の中国御訪問は,日中両国民の間の相互理解と友好を促進する上で大きな成果を収められ,誠に意義深いものでありました。中国との間で友好関係を維持・発展させ,また,国際社会において共に建設的役割を担っていくことは,アジア・太平洋ひいては世界の平和と安定にとって重要であります。我が国は,このような認識に立って,中国が政治・経済両面にわたる改革・開放を推進し,国際協調を行っていくよう慫慂
我が国は,香港が1997年以降も繁栄を続けていくことを強く希望しており,そのためには,香港が,英中間の合意に基づき,政治的にも経済的にも開かれ,安定した体制を維持していくことが肝要と考えます。
朝鮮半島については,南北対話の一定の進展は見られたものの,緊張緩和に向けた動きはなお定着したとは言い難い状況であります。
このような状況の下,我が国は,韓国との友好協力関係を基本として,北東アジア地域の平和と繁栄に貢献していく考えであります。2月には,韓国で金泳三
北朝鮮,朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉については,依然として核兵器の開発疑惑が解消されていないこともあって,なお見通しを申し上げることが困難な状況であります。我が国は,引き続き北朝鮮の動向を慎重に見守りつつ,韓国,米国といった関係諸国とも緊密な連絡をとりながら,原則的な立場を堅持し,交渉に臨んでいきたいと考えます。
インドシナの経済社会の発展は,アジア全体の安定と繁栄にとり重要であり,我が国は,ヴィエトナムを始めとする各国の開放政策を支援してまいります。カンボディアでは,国連カンボディア暫定機構(UNTAC)の指導の下で,多くの困難と闘いつつ,総選挙に向けての準備が進められていることを高く評価しております。我が国は,予定通り本年5月までに総選挙が実施され,カンボディアの真の永続的和平が実現されるよう,引き続き外交努力を行ってまいります。
旧ソ連諸国との関係について
ロシアとの関係については,我が国はその改革努力を支持してきております。ロシアの改革の成否が世界的に極めて重要な意味を有しているなかで,日露関係の完全な正常化はアジア・太平洋地域の将来の発展にとり不可欠であります。そのためにも,両国間の最高首脳を含むハイレベルの対話を継続的に行うことが必要であります。この関連で,エリツィン大統領の訪日が延期されたことは残念でありましたが,訪日延期によってつまづいた日露関係の「仕切り直し」として,昨年9月下旬には,私がコズイレフ外相と会談し,日露間の対話を再開しました。さらに今般,パリでの同外相との会談では,エリツィン大統領の訪日の早期実現に向けて真剣な準備を行うことを確認しました。我が国は,今後とも「拡大均衡の原則」にのっとって,領土問題を解決し平和条約を締結して日露関係を新しい次元に引き上げるよう全力で努力を継続していく考えであります。
また,我が国は,他の旧ソ連諸国との関係強化も進めており,今般,ウズベキスタン,カザフスタン,ウクライナには大使館を,ベラルーシには駐在官事務所を開設しました。
その他の地域の諸国との関係について
湾岸地域を含め,中東地域の平和と安定の確保は,世界の最大の関心事の一つであります。今般,米国を始めとする合同軍がイラクに限定的な武力行使を行いましたが,これは,国連安保理諸決議の履行を確保するためのものであり,我が国はこれを理解し,支持することを表明しました。我が国としては,安保理の決議に公然と挑戦するような行動は,到底容認できません。また,我が国は,この地域の安定にとり不可欠である中東紛争解決のため,多数国間協議において重要な役割を担うなど,問題の早期解決を促す努力に積極的に取り組んでおり,さらに,シリア,イスラエルを始めとする交渉の直接当事者に対し,交渉の早期妥結に向けて柔軟な対応を行うよう引き続き働きかけてまいります。
アフリカでは,今なお100万人以上が飢餓線上にあると言われているソマリアでの緊急事態に対応するため,人道支援の分野でさらにいかなる協力が可能かについても検討しております。また,我が国は,民主化と経済構造の調整に向けての多くのアフリカ諸国の努力を支援してきており,それらの諸国の努力を一層促す目的で,本年10月に「アフリカ開発会議」を東京で開催します。
中南米では,先般,ペルーで民主体制復帰の第一歩となる憲法制定議会選挙が平穏裡
海外における邦人の安全対策と危機管理について
世界各地の地域紛争に日本人が巻き込まれる危険性が増大し,日本人を標的とした凶悪犯罪も多発しているため,海外における我が同胞が安心して活動を行えるよう,安全対策の強化が必要であります。また,万一緊急事態が発生した場合にも,安全確保のための政府としての役割に遺漏のないよう,在外公館の危機管理体制を一層整備してまいります。
むすび
今日,様々な側面で,外交活動は日常生活に直接影響するようになっています。今や,外交と内政は正に一体でありますので,私は引き続き国民の皆様の一層の御理解と御協力を得るため,「分かりやすい外交」を目指して,努力してまいります。また,様々な視点から正確に国際情勢を分析し,適切かつ機動的な外交活動を展開していく「頼もしい外務省」とするために,それを支える外交実施体制と諸機能の強化に努めてまいります。
国際社会が様々な課題に取り組んでいく中で,我が国がより大きな役割と責任を担っていくのに伴い,外交の成否が我が国の将来に及ぼす影響は一層重大なものとなります。外交の責任者として,その重大な任務を前に身が引き締まる思いであります。私は,将来にわたり国を誤ることのないよう,使命感を持ち,誠意をもって職務に粉骨砕身してまいる決意であります。何とぞ,国民の皆様の一層の御理解と御協力を切にお願い申し上げる次第であります。
(93年8月23日)
(新しい時代の幕開けを迎えて)
この度,私は,内閣総理大臣に任命され,国政を預からせていただくこととなりました。
我が身に課せられた責任の重さは誠に測り知れないものがございます。と申しますのも,この内閣は,歴史の一つの通過点ではなく,新しい歴史の出発点を画するものと私は受け止めているからでございます。このような認識から私はこの度の内閣を新しい時代のための変革に着手する内閣と位置付け,「責任ある変革」を旗印に,心魂を傾けてその職責を遂行してまいる決意でございます。
長らく続いた米ソ両大国を二つの極とする東西対立の時代が終わり,国際社会では今,旧来のシステムに代わる新たな国勢秩序を模索して,様々な試みが検討され,また,必死の努力が行われております。ひとり我が国だけが時代の大きな流れに逆らえるはずもなく,冷戦の終焉とともに,冷戦構造に根ざす日本の政治の二極化の時代も終わりを告げました。今回の総選挙の結果は,多くの国民が保革対立の政治に訣別し,現実的な政策選択が可能な政治体制の実現を期待されたものと受け止めております。ここに一つの時代が終わりを告げたことを国民の皆様方とともに確認し,21世紀へ向けた新しい時代が今,幕開きつつあることを明確に宣言したいと思います。
このところ鹿児島を中心とする豪雨災害や北海道南西沖地震,雲仙岳噴火など自然災害による被害が相次ぎました。国政についての所信を申し述べるに先立ちまして,これらの災害で亡くなられた方々とその御遺族に対し謹んで哀悼の意を表しますとともに,負傷された方々や避難生活を続けておられる方々に心からのお見舞いを申し上げます。
先般,私も鹿児島の被災地を訪れ,自然の猛威の恐ろしさを目の当たりにしてまいりました。災害の復旧と今後の安全の確保に全力で取り組むことは言うまでもありませんが,避難生活を強いられている方々が不安な毎日を送られていることを思い,一日も早く平常時の生活に戻れるよう,政府,地方公共団体が一体となって住居の確保や被災施設の早期復旧など生活環境の整備を急いでまいりたいと思います。また,災害復旧後のこれらの地域の活性化に必要な措置についても積極的に展開してまいりたいと思っております。
(政治改革の断行に向けての決意)
私はまず,この政権がいわゆる「政治改革政権」であることを肝に銘じ,政治改革の実現に全力で取り組んでまいります。
我が国が終戦以来の大きな曲がり角に来ている今日ほど,政治のリーダーシップが必要とされている時はなく,一刻も早く国民に信頼される政治を取り戻さなければなりません。歴代の内閣が抜本的な政治改革の実現をその内閣の最優先の課題として取り組んでまいりましたが,いまだ実現を見るに至っておりません。政治改革の遅れが政治不信と政治の空白を招き,そのことが景気の回復など多くの重要課題への取組の妨げとなり,これからの日本の進路に重大な影響を及ぼしつつあることを私は深く憂慮してまいりました。今回の選挙で国民の皆様方から与えられました政治改革実現のための千載一遇のチャンスを逃すことなく,「本年中に政治改革を断行する」ことを私の内閣の最初の,そして最優先の課題とさせていただきます。
そのため,選挙制度については,衆議院において,制度疲労に伴う様々な弊害が指摘されている現行中選挙区制に代えて小選挙区比例代表並立制を導入いたします。また,連座制の拡大や罰則の強化などにより政治腐敗の再発を防止するとともに,政治腐敗事件が起きるたびに問題となる企業団体献金については,腐敗のおそれのない中立的な公費による助成を導入することなどにより廃止の方向に踏み切ることといたします。これらの改革案の詳細については,現在連立与党各党の間で精力的に検討作業が進められておりますので,私といたしましては,その結論を待って,できるだけ早い機会に国会に御審議をお願いし,これらを一括して何としても本年中に成立させる決意でございます。
政治改革は,単に政党や政治家だけの問題ではございません。法律や制度を代えるとともに,国民,有権者の皆様方にも,いわゆる金権選挙や利権政治を根絶する決意をお持ちいただかなければ,政治改革を真に成功に導くことは困難であろうと思っております。是非とも国民の皆様方の御理解と御協力をお願い申し上げる次第でございます。
また,私は,政治腐敗の温床となってきた,いわゆる政・官・業の癒着体制や族議員政治を打破するために全力を尽くしてまいります。直接,間接を問わず,行政が政治家の票や資金の応援をすることがあるとすれば,その弊害は政治や行政の根幹にまで及ぶことになるだけに,政治と行政との関係改善や綱紀の粛正に毅然たる態度で臨んでまいりたいと思います。
冷戦終結後の国際社会や国民の多様な要請に応えていくためには,行政の面でも,より一層柔軟性や機動性を高めていくことが不可欠であります。まずは緊急の課題である政治改革の実現に全力を投入することといたしますが,行政改革にも本格的に着手しなければならないと思っております。率直に申し上げまして,規制緩和や地方分権の推進,縦割り行政の弊害是正などの課題は,利害が錯綜し,また,様々な障害もあって,これまで大きな前進を見ないままに今日に至っております。しかしながら,これらの課題は,国民の目から見て透明で公正な行政を実現するためにも,そして東京一極集中を是正し,地域の特色や自主性が反映される活力に満ちた地域行政を展開していくためにも,何としてでも成し遂げなければならない課題であり,私としても具体的な成果を挙げるべく強い決意でこれに取り組んでまいりたいと思います。
(景気回復に向けた積極的な取組と財政改革の推進)
我が国は今,政治ばかりでなく経済の分野においても依然として厳しい局面にあり,一日も早く長期化した不況を克服してまいらなければなりません。国内景気は,一連の経済対策の効果もあってバブル経済の崩壊による最悪の状態からは脱しつつあるともみられますが,最近の急激な円高や異常な天候不順は内需拡大の動きに悪影響を与えかねず,今後の景気回復には予断を許さないものがあります。私は,景気の先行きに対する不透明感を払拭するためには,円高の国内経済への影響や景気の状況を注視し,厳しい財政状況を十分踏まえつつ,時機を失することなく必要かつ効果的な対策を講じることが肝要であると考えます。そこで,今年度予算の執行や4月に決定した総合的経済対策の実施に万全を期していくことはもとより,規制緩和や円高差益の問題を始め,幅広い観点から現下の緊急状態に対応するための諸施策を早急に取りまとめ,実行に移してまいりたいと思います。
また,日本経済の潜在的な活力を高めていくためには,長期的視野に立って経済構造の変革を図り,民間の活力がより自由に発揮されるための環境を整備していくことが重要であると考えております。
現在,国家財政は依然続く構造的な厳しさに加えて,バブル経済の崩壊に伴い誠に深刻な状況に立ち至っておりますが,来年度予算編成に際しましては,特例公債を発行しないことを基本に財政改革を強力に推進しつつ,従来にも増して財源の重点的効率的配分に努めてまいります。特に,公共事業のシェアの抜本的な変更に取り組み,国民生活の質の向上に資する分野に思い切って重点投資するなど,本格的な高齢化社会の到来する21世紀を見据えて,社会資本整備の着実な推進を図ってまいりたいと思います。
また,税制については,平成元年度に抜本的な税制改正を行って以来,約5年が経過しておりますが,その間,バブルの発生とその崩壊,高齢化の一層の加速などの事態が生じております。私は,このような経済社会情勢の変化に現行の税制が即応したものになっているのかどうかを点検し,公正で活力ある高齢化社会を実現するため,年金など国民負担全体を視野に入れ,所得・資産・消費のバランスのとれた税体系の構築について,国民の皆様方の御意見にも十分耳を傾けながら総合的な検討を行ってまいりたいと存じます。現在,税制調査会では,このような方向で御審議をいただいているところであり,その検討の成果を尊重してまいりたいと考えております。
(生活者利益優先への転換)
我が国は,これまで経済的発展に最大の重点を置き,その本来の目的であるはずの国民一人一人の生活の向上や心の豊かさ,社会的公正といった点への配慮が十分ではなかったことを率直に反省すべきであります。最近になって政府は,生活者のための様々な対策を講じてきてはおりますが,必ずしも政策の重点が変わったというふうに国民の皆様方が肌で実感されるまでには至っておりません。私は,豊かな生活環境を求め新たなライフスタイルを指向する動きが見られることを念頭に置いて,ここで今一度,生活者・消費者の視点や環境の保全,男女共同参画型社会の実現といった視点に立って,従来の制度や政策について徹底的に見直しを行っていくことが必要であると考えております。直近の問題で申し上げるならば,輸入品を中心として円高の効果がより速やかかつ円滑に還元され,円高のメリットを国民が確実に享受できるよう対応してまいりたいと存じます。
今,我が国は急速に高齢・少子社会へと移行しておりますが,21世紀までに残りわずかな期間しか残されていないことを考えるならば,今のうちに福祉の充実を始めとする対策を積極的に打ち出し,美しい快適な環境の中で,都市勤労者も農山漁村で暮らす方々も生き生きと多様な価値観を実現できる社会の実現を目指してまいらなければならないと考えます。
(国際国家としての自覚と国際社会への寄与)
思えば内閣が発足したこの8月は,我が国にとって永遠に忘れられない月であります。十二支をちょうど4回さかのぼった昭和20年8月,我々は終戦によって大きな間違いに気付き,過ちを再び繰り返さない固い決意で新しい出発を誓いました。
それから48年を経て我が国は今や世界で有数の繁栄と平和を享受する国となることができました。それは先の大戦での尊い犠牲の上に築かれたものであり,先輩世代の皆様方の御功績の賜物であったことを決して忘れてはならないと思います。我々はこの機会に世界に向かって過去の歴史への反省と新たな決意を明確にすることが肝要であると考えます。まずはこの場を借りて,過去の我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことに改めて深い反省とお詫びの気持ちを申し述べるとともに,今後一層世界平和のために寄与することによって我々の決意を示していきたいと存じます。
世界は今,地球的規模の様々な課題に直面しておりますが,私は,平和と国際協調という憲法の精神を尊重しつつ,国際国家としての我が国の立場と責任を十分に自覚し,これらの世界的な課題の解決に従来にも増して積極的な役割を果たしていく決意であります。
現在,国連を中心として冷戦後の新たな世界平和秩序を構築するための懸命の努力が行われておりますが,私は,より平和で,そして人権が尊重される世界を目指して,国民の十分な理解を得つつ,国連による国際的な努力に対する人的貢献を着実に展開していくとともに,冷戦後の世界に対応できるような国連改革・国連強化のためにも積極的に寄与してまいりたいと思います。
大量破壊兵器の不拡散は,我が国を含む国際的な安全保障を確保する上で緊急の課題であり,私としては核不拡散条約の無期限延長を支持してまいりたいと考えております。更に進めて究極的に地球上から核兵器を廃絶し,国際的軍縮を達成することこそが世界の平和をもたらすゆえんであり,そのため,より積極的な外交努力を展開してまいる決意であります。
世界全体の平和と繁栄のためには日米安保条約を中核とする日米両国の緊密な協力が不可欠であります。私は,米国がアジア・太平洋地域における米国の存在と関与を継続する決意を示していることを歓迎するとともに,良好かつ建設的な日米関係を維持・構築していくことを日本外交の基軸として最善を尽くしてまいりたいと思います。
また,私は,アジア・太平洋地域の一員としての我が国の役割を重視し,常に謙虚な姿勢を忘れずに相互の信頼を醸成しながら,この地域の平和と繁栄のために可能な限りの貢献を行ってまいりたいと考えております。そこで,これらの国々との間の経済・政治両面にわたる対話と協力をこれまで以上に緊密に進めるとともに,中国,韓国,アセアン諸国等近隣諸国との一層の関係改善に努めてまいります。
ロシアとの関係については,北方領土問題を解決し,国交の完全正常化が実現するよう努力するとともに,ロシア国内の改革に対し応分の支援を行ってまいりたいと考えております。
さらに,統合を進め国際社会における役割をますます高めつつあるヨーロッパ諸国などとも引き続き一層緊密な協力関係を築いてまいりたいと思います。
(自由貿易体制の維持・強化に向けた国際協調の推進)
戦後から今日に至るまでの我が国の経済的繁栄は,国際的に市場経済が機能し,多角的自由貿易体制が維持されて初めて可能であったと申し上げても過言ではありません。現在,世界経済の低迷を背景に保護主義的な動きの高まりや国際経済摩擦が激化する様相を見せていることは誠に懸念すべき状況であり,このような時にこそ我が国が自由貿易体制を維持・強化するための国際協調に率先して取り組んでいくことが重要であります。
ウルグァイ・ラウンド交渉が不調に終わるようなことがあれば,世界経済に深刻な影響を与えることは確実であり,先般の東京サミットにおいて確認されたように,交渉の年内終結に向けて,我が国としても引き続き全力を尽くしてまいる決意でございます。なお,農業については,各国ともそれぞれ困難な問題を抱えておりますが,我が国としても,これまでの基本方針の下,相互の協力による解決に向けて最大限努力してまいります。
米国やEC諸国を始め,いくつかの国々から我が国の大幅な経常黒字が国際経済に与える影響を懸念する指摘がなされていることを真摯に受け止め,私は,良好な対外経済関係を維持するのみならず国民生活の向上を図るためにも,内需拡大努力や市場アクセスの改善,内外価格差の是正,規制緩和等消費者重視の政策を積極的に推進し,経常黒字の縮小に向けて努力してまいりたいと考えております。このため,各方面からの意見も拝聴して,我が国の経済社会構造の変革も視野に入れた今後我が国が採るべき対応策について,早急に取りまとめを行いたいと考えております。9月にも日米包括経済協議が開始されますが,自由貿易主義や市場経済原則に従って日米双方が努力することにより対外不均衡の改善を図り,安定的な日米経済関係を築いていくことが重要であると認識いたしております。
また,ODAの積極的な活用などによる資金面,技術面等での協力を通じた地球的規模の問題の解決,開発途上国や旧社会主義国の改革努力への支援など,国際社会の期待に応え我が国の国力にふさわしい国際社会への寄与を行ってまいりたいと思います。特に,近年,世界各地で異常気象が常態化しつつあることもあって,地球環境問題への関心はますます高まってきております。地球環境問題は遠い将来の問題ではなく,一時の猶予も許されない緊急の課題であり,私は,我が国が有する経験と能力を十分にいかしながら,地球環境問題の解決に向けた国際的な努力に対し率先した役割を果たしてまいりたいと思っております。
(「質の高い実のある国づくり」を目指して)
私は,今後の政治運営に当たって,質の高い実のある国づくり,言ってみれば「質実国家」を目指してまいりたいと思います。
かつて小泉八雲は第五高等学校の生徒に向かって,
「日本にはすばらしい精神がある。日本精神とは,簡潔,善良,素朴を愛し,日常生活において無用の贅沢と浪費を憎む精神である。その精神を維持,涵養する限り,日本の将来は期して待つべきものがある」と申しました。
私は,若い頃この言葉を知ったのですが,今や我が国は,国も国民も背伸びをせずに,自然体で内容本位の生き方を採るべき時代を迎えていると感じております。外に向かっては大国主義に陥ることなく,内にあっては,文化の香り豊かな質の高い実のある生活様式を編み出し,美しい自然と環境を将来のために残していくことが何よりも大切だと思っております。
政治や行政はもちろん,経済や国民生活においても,できる限り虚飾を排して質と実を追求していくことを私の政治理念の根本に据えてまいりたいと思っております。
(結び一国民の信頼回復のために)
この度の内閣は,8党派によって樹立されたいわゆる連立政権でありますが,私どもは政権の樹立に際し,外交,防衛,経済,エネルギー政策などの基本重要政策について,原則として今までの国の政策を継承することを確認いたしました。新しい時代のために,政治の刷新のために,あえて立場の違いを乗り越えて国民の負託に応えようと努力したそのこと自体が大きな歴史的意義を有していると考えている次第であります。
今何よりも重要なことは,国民の政治に対する信頼を回復することであります。そのためには,政治改革を早急に実現することが必要なことは言うまでもありませんが,私は,冷戦時代が国内政治にもたらした傷痕を癒すための「国民的和解」の観点に立って,与野党間の関係も「対立から対話へ」,「相互不信から相互信頼へ」そして「反対のための反対から建設的提案競争の時代へ」と転換していくことが何よりも肝要だと思っております。わだかまりやこだわりを捨て,共に力を合わせて,常に国民に目を向けた政治が我々の原点だということを忘れずに,国民生活の向上と安定につながる施策を大胆に打ち出していくことこそが重要であります。
我々は,国民の皆様方が示された歴史的審判が正しい選択であったことを証明するため,一致協力して国政の運営に取り組んでまいる決意でございます。
何とぞ,国民の皆様方,議員各位の深い御理解と御支援を賜りますよう心よりお願いを申し上げます。
(93年9月21日)
天皇皇后両陛下は,イタリア,ベルギー,ドイツ御訪問の旅を終えられ,去る9月19日に無事御帰国になられました。今回の御訪問は欧州と我が国との長い友好親善の歴史に新たな1ページを加えるものであり,これによって国民相互間の交流が更に深まることを確信いたします。
(はじめに)
国民の皆様方の熱い期待を担って連立政権が成立して以来,約1か月半が経過いたしました。この政権が真価を発揮して国民の皆様方の御負託に応えていけるかどうかは,当面する国政上の課題に対して具体的成果を打ち出していけるかどうかにかかっており,まさにこれからが我々にとっての正念場であると認識しているところであります。
まず,我々がやらなければならないことは,政治への国民の信頼を回復することであることは申すまでもありませんが,経済の緊急状態への対処や,中長期的な経済社会構造の変革への着手,激動する国際情勢への対応など,適切に処理していがなければならない待ったなしの課題が控えております。このため,新政権といたしましては,「政治改革」,「行政改革」,「経済改革」の三つの改革を中心に国政の運営に取り組んでまいる所存でございます。
新政権の政策理念及びその目指す方向については,前回の特別国会において,既に明らかにいたしたところであり,今回は当面する諸課題に対する新政権としての対処の方針を申し述べ,国民の皆様方のより一層の御理解と御協力をお願いいたしたいと存じます。
(政治改革法案の成立に向けて)
前国会における所信表明演説でも申し上げましたように,政治改革の実現は,本内閣にとって是非とも成し遂げなければならない最優先の課題であります。冷戦の終焉を契機に国際社会において旧来のシステムや価値観が音を立てて崩れ落ちているという激動のなかにあって,毎年のように政治腐敗事件が世間を騒がせ,その対応に忙殺されている現在の国会の姿は,国民の政治不信を限界にまで高めているのみならず,我が国の国際的信用の失墜すら招きかねない状況であります。もはや政治改革に1日の猶予も許されず,政治改革を断行して新たな体制の下で,国際国家としての責任を果たし,国民生活の安定と向上のための政策展開に果敢に取り組んでいかなければなりません。
選挙制度改革を含めた抜本的な政治改革を断行するということは,政治活動の土台を大きく動かすものであるだけに様々な意見や利害の対立があることは当然のことであります。しかしながら,ここでまた政治が自らの改革に尻込みするようなことであれば,政治への不信はいよいよ決定的なものになってしまうばかりか,政治へのあきらめや無関心が更に広がりかねないことを我々すべての政治家がしっかりと自覚することが何よりも肝要であります。
政府は,今国会に,公職選挙法改正案,衆議院議員選挙区画定審議会設置法案,政治資金規正法改正案,正当助成法案の4法案から成る政治改革法案を提出し,その成立に力を尽くしてまいる考えでありますが,国会におかれましても法案の早期成立に向けて実り多い御論議をいただきますようお願い申し上げる次第であります。
選挙制度いかんによっては議会制民主主義が形骸化したり機能不全に陥りかねないという意味において,選挙制度は言うまでもなく議会制民主主義の根幹を成すものであります。現行の中選挙区制の下では,いわゆる同志討ちが避けられず,選挙は必然的に政党間の政策論争というよりは候補者個人間の競争にならざるを得ないという要素を内在しており,これが政策課題に対する政治の対応を不十分なものとし,また,「政治と金」をめぐる様々な問題を生じさせる大きな要因となってきたことについては,これまでの国会論議を通じて既に共通の認識が得られているものと私は考えております。
また,この中選挙区制の下で,長年にわたり政党間の勢力状況が固定化してきたことが政治における緊張感を失わせ,政策論議がなおざりにされるとともに政治腐敗の温床ともなってきたことを考えますならば,今こそ,現行中選挙区制を思い切って改革し,政策中心,政党中心の選挙制度を確立することが必要であります。
そこで,この度の公職選挙法改正案では,小選挙区250名,比例代表250名の2票制による小選挙区比例代表並立制の導入を図ることとし,これによって,国民の政権選択の意思が明確な形で示され,顔の見える小選挙区制の特性と多様な民意を国政に反映させるという比例代表制の特性とがあいまって,より健全な議会制民主主義を実現できるものと期待する次第であります。なお,小選挙区の画定については,公正を期するために政府内に衆議院議員選挙区画定審議会を設置し,その勧告に従って区割法案を策定することといたしております。
さらに,国民の政治不信の直接の原因となった政治腐敗事件がこれ以上発生しないようにするためには,毅然とした腐敗防止措置を講ずることが不可欠であります。この度の法案では,政治家個人に対する寄附を禁止するとともに,企業等の団体献金については政党,政治資金団体に対するものに限り認めることといたしましたほか,政治資金規制法違反者の公民権の停止や,選挙違反に対する連座制の拡大,罰則の強化などの措置を講ずることとしており,こうした一連の措置は,政治腐敗の防止に大きな効果を持つものと確信いたしております。企業団体献金の存否について様々な御意見があることは承知いたしておりますが,私としては,企業団体献金にできる限り依存しないことが望ましい姿であると考えており,この度,企業団体献金の廃止に向けて大きく一歩を踏み出すこととした次第であります。しかしながら,現実問題として政治活動に一定の金がかかることも事実であり,いわば健全なる民主主義を実現するコストとして一定規模の公費助成の導入など条件の整備を図ることが必要であります。今回の改革案では政治団体の政治資金収入の公開基準を大幅に引き下げるなど資金の透明性の確保を図ることとしており,何とぞ国民の皆様方の御理解を頂戴いたしたいと存じます。
国民の政治への信頼を回復することが政治改革の最大の眼目でありますが,同時に,政・官・業の癒着により硬直化した構造によって阻まれてきた地方分権,規制緩和等の行政改革の推進,生活者重視の政策への転換,国際社会と調和のとれた経済社会構造の実現など,今我が国に求められている「変革」を協力に推し進めるための起爆剤ともなるものであります。
与野党を問わず政治改革の必要性と意義については認識を共有していると思っておりますが,国民生活に直結する諸課題に本格的に着手し,1日でも早く具体的な成果を挙げていくため,私は国会の御協力を得て何としてでも今会期中に政治改革の実現を図る決意であります。
(経済の緊急状態への機動的対応と経済社会構造の変革のために)
個人消費の伸び悩みや民間設備投資の低迷に,急激な円高,冷夏の影響なども加わって,我が国経済は誠に厳しい状況に置かれており,中小企業の方々の御苦労は言うまでもなく,将来に対して懸念を抱かれている国民の皆様方も多いのではないかと思います。このように景気の低迷が長期化,深刻化している背景には,バブル経済の崩壊とそれに伴う企業の資産内容の悪化があり,また,広範な分野における内外価格差に象徴される我が国経済の非効率な制度やシステムの存在などの構造問題が,真に豊かさを実感できる消費生活の実現や企業家精神に基づくダイナミックな事業活動の展開を阻害していることも見落とすことはできません。
景気が回復に向けて本格的に動き出すためには,日本経済の主役である民間部門がその潜在的な活力を十分に発揮していくことが肝心であり,長期化する不況から脱出するために今政府が行うべきことは,こうした民間の活力が最大限に発揮されるよう,将来に対する不透明感,閉塞感を払拭するための可能な限りの努力を傾注することにあると思います。こうした認識の下に,私は,内閣が成立して間もない8月後半に緊急経済対策関係閣僚会議を開催し,この度,規制緩和,円高差益の還元に加えて,円高の影響や災害による被害への財政措置を伴う対応等国民が直面する厳しい経済情勢に対し速効的に対応し得る幅広い諸施策を取りまとめ,早急に実施に移すこととしたところであります。
規制緩和については,経済活性化や内需拡大,輸入促進に直接的な効果のあるものを重点的に実施するという観点から,通信・放送事業の新しい展開や小口生産のビール製造など新たな事業の創出や事業拡大に結びつくもの,ガス料金や運賃など公共料金の弾力化に結びつくもの,食品の日付表示の改正や自動車検査の緩和など国民生活の利便の向上につながるものなど,全体で94項目の広範多岐にわたる規制緩和を行うこととしたところであり,その経済効果は相当大きなものと期待いたしております。
また,円高差益の還元についても,電力・ガス,国際電話料金等の差益還元や鉄道・航空運賃等の割引料金の拡充等を早急に実施することとしました。また,こうした公共料金に限らず,食品,衣料・雑貨,化粧品,ガソリン等国民生活に身近な一般輸入消費財等についても円高のメリットが速やかに還元されるよう,関係業界に対し必要な要請を行うことといたしております。円高差益の還元が本当に実効あるものとして実施されるよう,政府としても引き続き国民の皆様方の御意見に耳を傾けるとともに,有用な情報の提供に努力してまいりたいと存じます。
現在の困難な経済状況を克服するためには,こうした努力が重要なことは言うまでもありませんが,景気回復への弾みをつけるためには,より速効性の高い施策を機動的に実施していくことも不可欠であります。そこで,今回の取りまとめに当たっては,4月に決定した経済対策等の着実な実施に加えて,頻発する災害や異常な冷夏,急激な円高等がもたらした深刻な事態に適切に対応するために,集中豪雨や台風等により被害を受けた地域の災害復旧事業等を早急に実施に移すとともに,極めて厳しい経営環境に置かれている中小企業の方々の活性化を支援するための法的措置を含めた各種の支援措置をきめ細かに講ずることや雇用対策の充実・強化,金融円滑化のための施策などを実施することといたしております。また,将来の発展基盤を確保しつつ,真に豊かさが実感でき,国際社会とも調和のとれた活力ある経済社会を構築するという中長期的な目標に向けて着実に歩みを進めるためにも,10万戸の貸付枠の追加や税制の充実など画期的な住宅投資の促進,生活者・消費者の視点に立った社会資本整備の推進,構造調整に資する設備投資を促進するための税制上の措置,輸入拡大に関する基本方針の策定等の対策を講ずることといたしました。
政府としては,対策の着実な実施に全力を挙げるとともに,今後の景気動向や雇用情勢等に細心の注意を払い,景況感がこれ以上冷え込むことがないよう,機動的な経済運営に努めてまいりたいと思っております。
種々論議のある所得税減税の問題につきましては,誠に深刻な状況に立ち至っている財政の現状を考えますと,その財源を特例公債に求めることは避けなければならず,所得・消費・資産等の均衡のとれた税体系を構築するなかで取り組んでいくべき課題であると考えております。先日の税制調査会総会に私自身も出席し,所得税減税を含めて直間比率の是正など税制の抜本的改革について十分御審議をいただき,適切な指針を出していただくことを改めてお願いしたところでございます。私は,税制調査会での検討の成果を尊重し,国民の皆様方の御意見に十分耳を傾けながら税制改革に取り組んでまいりたいと考えております。
本格的な高齢化社会の到来に備えると同時に,国際社会とも共存可能な経済構造を実現していくためには,まず第1に,潜在的に活力がある今のうちに,良質な社会資本の整備などを進めることによって,国民生活の一層の向上を図ってまいらなければなりません。ひいてはこれが新たな需要の創造や経常黒字の縮小にもつながるものと考えております。そこで,住宅や公園,廃棄物処理等の生活環境・福祉施設,都市交通網等の整備など消費者・生活者の利便の向上に直接つながるものを重点的に整備していくとともに,研究開発施設の整備・高度化,教育機関や行政の情報化の推進など将来に向けた発展基盤の構築に資するものについても着実に進めていくことが重要であると思っております。このような観点から,今後の財政運営に当たっては,財政改革を強力に推進しつつ,限られた資金の重点的,効率的配分に努めてまいります。
第2に,政府規制の緩和や新しい時代にそぐわなくなった旧来の競争制限的な制度や慣行の改革などを推し進め,内外価格差の是正等を通じた消費者利益の増大や経済効率の一層の向上,広く内外に開かれた経済社会の実現を図ってまいらなければなりません。今回取りまとめを行った規制緩和策や円高差益の還元は,こうした方向に向けた第一歩とでも言うべき性格のものであり,今後とも継続して規制緩和等を進めていくことが肝要であります。また,10月中旬に予定されている官民の役割分担の見直しや縦割り行政の弊害是正などについての行革審答申についてもしっかり受け止めさせていただきたいと考えております。
経済社会構造の変革という中長期的な目標に向かって着実に歩みを進めていくためには,様々な政策が一つの方向に向かって整合性のとれた形で展開されることが重要であります。そこでこの度,民間の有識者の方々から成る経済改革研究会を設置し,先般,早速第1回目の会合を開いたところでございます。今後,我が国経済社会の在るべき姿とそれに向けた必要な政策対応などについて御検討いただき,年内を目途として取りまとめをお願いいたしております。その検討結果を踏まえて早急に新たな経済社会を構築するための対策に取りかかってまいりたいと考えております。
なお,政府としては,今国会に環境基本法案,行政手続法案の提出を予定しておりますが,これらは,それぞれ今後の環境政策の総合的展開,公正で透明な行政の実現を図るという意味において,中長期の対策を実施するための土台ともなる法案であり,早期成立を目指して最善を尽くしてまいりたいと存じます。
(国際社会の中で信頼される国となるために)
今日の国際情勢は,極めて不透明で流動的な状況にあり,世界経済の低迷,ボスニア等における地域紛争,北朝鮮等での核兵器拡散の懸念,飢餓や貧困に悩む開発途上国や地球環境の問題など世界には困難な問題が山積しております。これを克服し,冷戦後の新たな平和秩序を構築することは歴史的課題であり,我が国としてもこれらの世界的な諸問題の解決に積極的な役割を果たすことによって,国際社会の中で一層信頼される国としてできる限りの責任を果たしてまいりたいと存じます。
先日来,カンボディアのPKO活動に参加していた我が国の隊員諸君の帰国が始まっておりますが,改めてその御苦労に対し敬意を表する次第であります。私は,我が国が平和憲法の下に国連の平和維持活動に対し積極的な貢献を行うことは,国際協調を掲げ,恒久の平和を希求する我が国の理念にも合致するものであると考えております。今後とも国民の十分な御理解を得つつ,このような国連を中心とした世界の平和と安定のための国際的努力に対し我が国としてなし得る役割を着実に果たしてまいりたいと存じます。国会の御了承がいただければ,今月末の国連総会に出席し,こうした考えの表明と併せて,国連改革・国連強化に取り組む我が国の姿勢などについても私の考えを申し述べたいと思っております。
また,国連総会出席の際にクリントン米国大統領と会談できることになれば,共に「変革」を訴える同世代の指導者として,日米の二国間関係や国際社会の直面する諸課題について胸襟を開いて率直に意見を交換し,信頼と協力の関係を築いてまいりたいと考えております。特に,経済面では,日米両国が協力して世界経済の運営に責任を果たしていくことが重要であり,今月から始まった日米包括経済協議に当たっても,地球的意味合いを有する諸課題に対し両国が共同して取り組むとともに,我が国として内需中心のインフレなき経済成長,市場アクセスの改善等に向けて自主的な努力を進め,また,米国の財政赤字削減,国際競争力強化等の政策課題についても同時に改善を求めるなど建設的な運営に心掛けてまいりたいと存じます。
これから年末までの外交予定を見ますと,10月上旬には東京でアフリカ開発会議,11月中旬には米国でアジア・太平洋経済協力閣僚会議に引き続き非公式首脳会議の開催が検討されているほか,エリツィン・ロシア大統領の訪日なども期待されるところであります。また,ジュネーヴを中心にウルグァイ・ラウンド交渉の年内妥結に向けた最終的な調整も行われることになっております。私は,我が国に寄せられる各国の期待を十分に認識しながら,国際国家としての自覚を持って世界の平和と繁栄のために可能な限りの寄与を行い, 一貫した姿勢でその責任を果たしていかなければならないと思っております。ロシアとの関係については,北方領土問題を解決し,国交の完全な正常化が実現するよう,粘り強い対応を行ってまいるとともに,ロシア国内の改革に対し応分の支援を行ってまいりたいと考えております。
また,中東和平交渉の画期的な進展を踏まえ,中東における平和の実現のため,我が国としても協力してまいりたいと考えております。
(結び)
終戦から今日に至るまで我が国は,経済成長や産業の発展という目標に向かってわき目もふらずにひたすら走り続け,いつの間にか経済大国と言われるまでになりました。その間の先輩各位の御努力には深く敬意を表する次第でありますが,その一方で,国全体の発展の名の下に犠牲にし,見過してきたことが少なからずあったことも事実であります。
国民の皆様方には,これほど努力し世界有数の経済力を有するに至ったにもかかわらず,豊かさを実感できないのはなぜか,また,必ずしも世界の国々から十分な尊敬をかち得ているという実感が持てないのはなぜだろうかといった戸惑いを感じておられる方も多いのではないかと思います。およそ半世紀にわたって慣れ親しんできた価値観や制度を根底から見直し,変革することに苦しみや抵抗を感じるのは当然のことと思いますが,時代が大きく変貌を遂げつつあるなかで,将来への展望を明るいものとするためには,これはどうしても踏み越えなければならない試練であると存じます。
「政府は帆であり,国民は風であり,国家は船であり,時代は海である」という言葉がございますが,今こそ,国民の皆様方一人一人が我が国の向かうべき方向について声をあげ,また,政治家がそれに応えなければならない時であります。政治改革はそうした国民の皆様方の声を国政に反映させるための重要な第一歩でありますが,我々の目の前にはもはや猶予を許されない,決断をしなければならない課題が山積しております。私は,一日でも早く政治改革を成し遂げ,国民の皆様方とともに確かな手応えとして豊かさが感じられる明日に向けて,しっかりと第一歩を踏み出してまいりたいと思います。
国民の皆様方と議員各位の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。