4.日本国政府が関与した主要な共同コミュニケ等

 

(1) 第31回OECD閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(92年5月19日 OECD日本政府代表部)

 OECD閣僚理事会は,1992年5月18日及び19日に開催された。議長はノルウェーのシグビョルン・ヨンセン大蔵大臣及びビョルン・トーレ・ゴーダル貿易・海運大臣が務め,副議長はフランスのロラン・デュマ国務大臣・外務大臣,ミッシェル・サパン経済・財政大臣及びドミニク・ストロースカーン産業貿易大臣並びにニュー・ジーランドのモーリス・マッティーグ国営企業担当大臣兼大蔵補佐大臣が務めた。会合に先立って,議長は,OECDの経済産業諮問委員会(BIAC)及び労働組合諮問委員会(TUAC)との協議を行なった。両諮問委員会は,閣僚の考慮のため,声明書を提出した。

 OECD閣僚は,OECD加盟国が共有する人権,多元的民主主義及び市場経済という基本的原則を受け入れるという,世界の歴史的展開を歓迎する。これらの価値は,協調の枠組みの下で追求され,加盟国の過去40年にわたる顕著な経済的社会的発展において貢献してきた。この急速な国際的変化の時にあたり,閣僚は,OECD及びその加盟国の直面する以下の3つの挑戦を取り上げた。

-持続的成長及び社会発展の促進,

-多角的枠組みの強化,及び

-変化する世界におけるOECD

 OECD諸国及びより一般的に世界における,持続的なインフレなき持続的成長の潜在的可能性が大きくなっている。この成長の潜在的可能性を完全に実現させるため,閣僚は,適切で一貫した政策を国内レベルにおいて,及び国際協調を通じ,追求することを決意する。閣僚は,経済の基礎的条件を堅持するとともに,新たな活力をもって,いくつかの分野にまたがって構造改造を追及することを決意する。このことは,成長を促進すると同時に失業との戦いをも資するものである。

 閣僚は,多角的枠組みの強化及び保護主義との戦いの必要性を再認識する。ウルグァイ・ラウンドの,実質的,包括的かつ均衡のとれた成果が緊急に求められている。これは,全ての国の利益となる。OECD諸国政府はこのために全力を尽くす。閣僚は,各々の政府が交渉を再活性化させ,早期かつ成功裡の終結に導くことに全面的にコミットすることを公約する。競争及び構造改革に資する開放的な多角的貿易体制は,持続的成長を支えるために不可欠である。従ってOECD諸国は,急速に変化しつつある国際貿易環境が必要とさせる,公正,透明かつ実行可能なルールを開発することに貢献する。また,閣僚は,持続可能な開発のための新たなグローバルな協力関係を樹立するにあたりUNCEDが果たす重妾な役割を強調する。

 閣僚は,途上国との協力の強化に対する強いコミットメントを再確認する。閣僚は,中・東欧諸国及び旧ソ連諸国における改革過程を,市場アクセスの提供を通じる支援を含め,強く支援することを決意する。閣僚は,OECDとより多くの非加盟国の間で,早急かつ多様に接触が行なわれており,協力が強化されていることを歓迎し,支持する。なぜならば,このような接触は,人権,多元的民主主義及び市場経済の尊重が世界の隅々まで広がることを促進すると信ずるからである。閣僚は,かかるつながりがより強化されることを期待する。閣僚は,OECDが非加盟国経済についての作業をさらに進展させることを要請した。

 これらの課題を達成するため,OECDは,包括的,実現可能かつ活動的な作業計画を必要としている。閣僚は,国際協力におけるOECDの独特な役割を確認する。OECDの作業及びその資源配分について優先順位の見直しを求めるとともに,各々の政府が引続き十分な資金を供給する用意があることを表明する。

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持続的経済成長及び社会発展の促進

経済情勢と必要な政策

1.

 閣僚は,OECD諸国の2年近くにわたる低成長を回顧した。いくつかの国で景気後退があり,期待された景気回復は弱く,そして多くの国で失業の執拗な増加があった。閣僚は,ほとんどの国でインフレ圧力が減退していること,大陸欧州諸国以外では短期金利は概ね下がっており,いくつかの国でその低下は急激であること,長期金利についても,いくつかの国で物価上昇率との関係では依然として高いものの,1年前に比べ低下し始めていること,家計及び企業の債務軽減及び金融分野の諸問題への取り組みにも進展が見られていることに留意した。このような要因は,1992年内の緩やかな回復を導くと見込まれ,翌年のOECD諸国の成長はより強いものとなるであろう。

2.

 OECD諸国政府にとっての主要な課題は,消費者及び投資家の信認を強化するため,既に働いている前向きの要因を基礎として,インフレなき持続的成長の展望を改善することである。この観点から,健全な財政・金融政策及び加速された構造改革から成る,安全的かつ包括的な中期政策の枠組みが不可欠である。この枠組みの中で,閣僚は,インフレなき成長の確保を助けるため,各国に特有な状況を勘案しつつ,適切かつ均衡のとれた財政・金融政策をとることに合意する。構造改革は加速されるのみならず,一層,多角的サーベイランス及びピア・レビューの対象とされるべきである。一般に,政策措置は,協調して国際的協力を行うことによって,より効果が高められる。この協力は世界経済のグローバル化によっていままでになく不可欠となっている。引続き為替相場及び非常に大きな対外不均衡の縮小に関する協力を行うことは,為替市場の一層の安定化,ひいては国際金融制度の機能向上にも貢献しよう。

3.

 安定した政策枠組みの中核は,健全な公共財政である。すなわち,税によるか借入れによるかを問わず,歳入を確保するために民間貯蓄を先取りせず,また,労働,投資及び貯蓄への誘因に不当な歪みを生じさせないような予算であり,その構成が持続可能な成長及び雇用並びに経済の効率的機能に資するような予算である。多くの国において,過去1年間の財政赤字削減の過程はかなりのずれ込みを見せており,それをすべて経済の減速のせいには出来ない。

 閣僚は,それぞれの国の状況に応じた適切な措置をとることにより,財政赤字を削減し,公的債務残高を抑制することを確約する。すなわち,ある国においては,より意欲的な財政目標の設定であり,また他の国においては,既存の目標をより厳格に遵守することである。

 閣僚は,大きな財政不均衡を抱える国については,より均衡のとれたポリシーミックスを実現するために赤字を削減する努力を強化すべきであることについて合意した。財政上の不均衡が抑えられてきている国においては,公的支出のコントロールを維持しつつ,中期的によりよい成長に資するような適切な措置を目指すべきである。大きな黒字があり,かつ,成長が落ちている国においては政策決定者は適切な措置を通じて内需を強化する可能性を念頭に置いておくべきである。

 これには,より高い費用対効果,透明性及び責任を確保するため,公的部門の管理の改善が伴う。ここでとられる措置は,資源の最適配分を実現し,支出を抑制し,公的部門の実効性及び効率性を向上させ,そして社会の要請及び公共サービスの利用者のニーズにより良く応えることを目的とする。

4.

 OECD諸国の過去1年のインフレ鎮静は歓迎できる。最近の物価動向の改善を堅持するとともに,それを基盤とすることが重要である。この観点から,健全な金融政策は極めて重要である。従って,金融政策は警戒的かつ慎重に運営される。しかしながら,そのような考え方の中で,閣僚は,金利を更に持続的に低下させるための条件を整備することの重要性に留意した。

より多くの雇用創出

5.

 持続的成長を高めることは,長期的には,生産性を飛躍的に向上させる強調された構造改革に依存している。このような観点から,人的資源は決定的に重要なものである。8年にわたるインフレ低下を伴う経済成長の後に,OECD地域の失業はなお高水準のままであり,1990年以降増加してきている。若年失業とともに長期失業が多くの国で増加してきた。従って,失業との戦いは引続き最優先課題である。

6.

 OECD諸国政府は,均衡のとれた成長の復活のための条件を整備するための努力を一層強化する決意である。これは,失業の削減に貢献する。1月のOECD労働大臣会議で強調されたように,失業の実質的かつ永続的な削減は,経済社会の変化に対応できるような労働市場の効率性を改善するために一貫性のある構造政策措置の枠組みを遅滞なく実行することによっても追求される。これらの措置は,

-教育と訓練システムを強化及び近代化し,

-必要な技能の習得及び適応を改善し,

-雇用創出にとっての残された障害を除去し,

-雇用法制及び規制が企業,被雇用者及び失業者のニーズの間の適切なバランスを取ることを確保し,

-男女いずれの被雇用者にとっても仕事及び家庭の責任を組み合わせることをより容易にする労働慣行を奨励し,

労働市場参加を促進及び援助するために社会保護システムの設計を改善する。

 閣僚は,事務総長に対し,OECDの多分野にまたがる能力を十分に活用し,また各国横断的なモニタリング及び詳細なピア・レビューを含み得るサーベイランス制度に向けて作業することによって,失業の減少の進展が期待を裏切るものであることの理由とその対応策に関し,包括的な調査努力を開始するよう要請する。これに関する経過報告は,次の閣僚理事会に提示されるべきである。

より広範な分野での社会的行動

7.

 失業を削減する政策は,労働生活において,全ての人に対し仕事の上で均等な成功の機会を創造することに貢献する。この点は,社会的コンセンサスを維持し,変化に適応しようとの意欲を増す上で決定的に重要な要素である。労働市場及び所得支持に依存し続けるよりも収入のある職に復帰する為の個人の能力を強化する社会政策は,このようなアプローチの本質的な部分である。教育・訓練,労働市場及び社会政策間の相互関係は複雑であり,必要な行動は,政府の責任を超えるところもある。政府,社会パートナー並びに他の民間機関及びグループ間の新規かつ改善された協力の形を開発することとなろう。

8.

 閣僚は,移民の流れ,原因及び動向につきモニターし,評価を行う上でのOECDの役割を推賞し,その重要性を再確認する。他の国際機関ですでになされつつある作業を十分に考慮に入れつつ,OECDは,かかる状況が流出国及び流入国にとって経済及び社会的にどのような結果をもたらしているかについて評価を行うことにも優先度を与えるべきである。

9.

 多くの都市では,経済,社会及び環境問題があまりに深刻であるため,人口の大きくかつ増大する部分が,経済・社会の主流から離れていく危険性が存在する。閣僚は,経済的,社会的及び環境的側面にわたり,都市の生活の質を改善するために,中央及び地方政府が新たな強化された政策を追求する必要があると認識する。

10.

 農村地域の経済社会問題は,その解決が多くの諸国で農業改革の成功に決定的な要因となり得るものであるが,特に複雑である。これらの諸問題は,総合的にかつ費用対効果の高い形で対処する必要がある。このためには,調整政策や,農村地域の経済,文化,社会,環境及び資源基盤の多様性を受け入れて利用する政策が必要とされよう。総合的な農村地域開発政策の枠組みの中では,地方の自発性や連携が非常に大切なものとなる。

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多角的枠組みの強化

11.

 ウルグァイ・ラウンドで,実質的,包括的かつバランスのとれた結果を得ることは,競争,構造改革及び経済成長の国際環境を下支えし得る多角的開放貿易体制を維持・強化する上で決定的に重要である。ウルグァイ・ラウンドの早期終結が緊急に必要である。そのために,現在行き詰まっている交渉の過程を再活性化する必要がある。同交渉の主要参加者は,最近,同交渉を可能な限り早期に終結することについての新たな政治的コミットメントを示している。この決意はOECD加盟国すべてが共有している。更なる遅れは,同ラウンドの成功裡終結に必要なモメンタムを失う危険を伴う。本問題への対応は,開放的国際貿易体制へのOECD諸国のコミットメントを計る重要な試金石である。国際貿易環境は急速に展開しつつあり,これは,生産者及び消費者のグローバル化しつつあるネットワークからの仮借ない圧力にさらされている。市場開放措置及び実施可能かつ予見可能な一連の強化された規則へ向けた躊躇することのない動きなくしては,国際貿易関係は分裂,争い及び非効率性に陥る危険を有している。ウルグァイ・ラウンドは,将来の自由かつ改善された市場アクセスを確保するための継続すべき努力を確固とした基盤につなぎ止めるための極めて重要性を有する一歩である。従って,早期の,包括的かつバランスのとれた結果は,実質的利益をもたらす。

12.

 地域統合の分野においては,既に示されたように,例えば最近における欧州経済通貨同盟の署名,欧州経済地域協定の決着及び現在行われつつある北米自由貿易地域の設定の交渉など,重要な展開が起こりつつある。地域統合は,多角的な自由化プロセスを促進し得るものであり,また,国際的な義務や多角的貿易体制の維持・強化という目的に合致したものであるべきである。OECDは,引き続きこの分野における展開を,緊密にモニターしていく。

13.

 経済活動に関するグローバルな多角的枠組みを強化する為の集団的努力はゆるめ得ない。この関係で,閣僚は,保護主義的な傾向と戦うという決意を表明した。この枠組みが世の中の出来事に遅れることなく,経済活動,特に国際貿易の継続的な発展にとり十分に満足のいく基礎を引続き提供していくことを確保する為に,新しい概念,ガイドライン及び規律が,適切な範囲で開発される。広い範囲の政策分野における既存の問題及び新たに生起しつつある問題いずれについても,新たな活力をもって取り組むこととなる。重要な目的は,統一性を促進することである。

14.

 農業政策の改革については緊急の必要性がある。1991年においては,1987年に合意された改革の諸原則の実施は,引続き非常に限られたものであり,かつ一様ではなかった。閣僚は,1992年3月の農業大臣会合における提言に留意し,これを支持する。閣僚は,OECDにおいて行われつつある農業改革,環境及び農村地域開発という相互に関係する諸問題についての作業に留意し,これらの問題に対する統合されたアプローチの必要性を強調する。改革により一般経済や農業食料部門は利益を得るものの,農業収入に大きく依存している一部の農業人口や一部の地域には困難をもたらす可能性がある。従って,適切な場合には,調整的補助が必要となる可能性があるが,かかる補助は,構造調整に対する障害を増加させず,経済上の,特に貿易上の歪曲を減少させるような方式で行われることが求められる。

15.

 全世界で持続可能な開発を実現するためには,すべての国の政策が,経済成長,社会の福利及び環境の質の間にある密接な相互関係を考慮したものであることが必要である。昨年12月の環境と開発大臣会合で強調されたように,地球の基本的な生命維持システムが問題となっているが故に,ここでは世界のすべての国の真の意味で共同の責任及び義務がかかわっている。その成功のために必要なものは次のようなものである。各国の経済,社会及び環境政策のよりよい統合。規制に加え,環境上の目標が費用対効果が高い形で達成されることを確保するような市場メカニズムの利用の拡大。すべての国,特に開発途上国が,充分に役割を果たせるよう,拡張された技術的財政資源の動員及び新規かつ追加的な財政資源の合意に従った動員により支援される国際協力。並びに科学研究及び環境関連技術の開発の奨励。従って,OECD諸国政府は,持続可能な開発のための非加盟国とのより強化された協力関係を築くための触媒として来たる国連環境開発会議(UNCED)を利用するとともに,会議から生ずる合意された長期的政策,戦略及び条約の実施のために非加盟国と協力していくことを約束する。このような協力関係は,その相対的な能力と共通でありながら差別化された責任を配慮しつつ,すべての国が相互にコミットすることに基づくべきものである。閣僚は,リオ・デ・ジャネイ口のUNCEDにおいて署名のために開放される国連気候変動枠組み条約が5月9日INCによって採択されたことを満足をもって留意する。閣僚は,この条約がOECD諸国による特定のコミットメントを含む気候変動への取り組みの国際的行動のための良い基盤を提供するであろうと認識し,OECDに対し,特に,条約の下でのコミットメントを実施するための行動の準備と調整において加盟国を支援するため,気候変動に関する問題についての作業を強化することを要請する。

16.

 閣僚は,公的輸出信用ガイドライン取極め及び開発援助委員会(DAC)において,透明性を高め規律を強化するための措置に関してまとめられた公的輸出信用及びタイド援助信用に係る合意を歓迎する。閣僚は,これらの措置が,効果的に実施されることの重要性を強調する。閣僚は,貿易委員会輸出信用部会の輸出プレミアムの体系を含む問題についての一層の作業を含め,関係委員会等が決定した方向に沿った一層の進展を期待し,1993年閣僚理事会における報告を要請する。

17.

 閣僚は,資金洗浄の目的で金融システムを使うことを防止するために,過去数年間にわたり,特に金融活動作業部会(FATF)の作業を通じて,国際的な協力の努力の中で成し遂げられた進展を歓迎する。閣僚は,この分野における多国間協力を一層強化し,すべての国が,金融活動作業部会の勧告に基づき,資金洗浄に対する戦いに積極的に参加するよう要請する。

18.

 閣僚は,今後数年を展望しつつ,世界経済のより一層のグローバル化から生じる貿易政策及び貿易関連の他の国内諸政策の重要問題に取り組む必要性を強調する。貿易政策と,特に,環境,競争,産業支持及び技術開発・技術革新政策との関係は,より緊密になってきている。問題をより良く理解すること,及び,必要な政策の調整を明らかにすることにつき,一層の前進が図られる。

-貿易政策と環境政策は,特に,貿易上・環境上悪影響をもたらす政策介入が除去され,環境上の利益及びコストが国内的,国際的な価格に内部化される場合には,持続可能な開発を追求する上で,相互に支援するものとなり得る。OECD諸国政府は,可能な限り早期に閣僚に提出するため環境及び貿易政策の両立性を改善するための適切なガイドラインを作成し,環境規制及び環境関連貿易措置が偽装された貿易障害として作用することにならないようにするため,一層の分析的作業及び討議を推進することに高い優先順位を与える。

-貿易政策と競争政策は経済効率という共通の目標を有する。しかし,これらの政策は時として衝突してきた。OECD諸国政府は,競争及び市場アクセスを強化するために両政策間の整合性を高め,競争政策における実質的規則と執行手続きを収斂させるための基礎を提供し,貿易及び競争政策のサーベイランスのためのよりよい手続きを明らかにし,消費者の利益を強化することを目指す。

-貿易も海外直接投資もともに企業の国際戦略の一翼を担っていることから,貿易政策と投資政策とは密接に関連している。これら2つの政策分野の相互作用は,市場アクセスのための政策の一貫性を高めるために更に分析されるべきである。閣僚は,OECDのより広範な投資インストルメントの実現可能性につき迅速に研究することを要請する。

19.

 工業補助金及び他の公的補助手段は,国内国際の双方の市場に歪曲を生じさせる可能性があり,それは国際貿易摩擦につながる可能性がある。また,工業補助金は,一般的に,構造調整を促進するよりもむしろ阻害し,公共支出に対する圧力を高める。閣僚は,貿易歪曲効果を持つ補助金を廃止し,又はより強化された規律の下に置くためにあらゆる努力がなされるべきであるとの見解を堅持している。OECDにおける工業補助金及び構造調整指標に係る現在の作業は,この分野における一層の透明性確保に向けた重要な進展を示しており,関連した国際機関による共通に受け入れ可能な国際規律を作り上げるための一層の作業を促進する。閣僚は,OECDに対し,真の国際比較を可能ならしめる共同分析,及び,ピア・レビューを主たる特徴とするこの作業を強化することを要請するものである。これは,体系的なモニター及びサーベイランスの重要な出発点である。特に,比較可能性,定量化,及び分析を可能ならしめるために必要な概念及び方法論についての作業が続けられるべきである。閣僚は,この分野における進展ができるだけ速く成し遂げられる必要性を強調する。

20.

 多角的協力,特にOECDにおける協力では,また,各国の政策手段の収斂が世界経済の機能を改善し得る他の分野において問題を明らかにし,適切な場合には,規律を強化することをも目指す。この関連で,閣僚は,最近OECD諸国の科学技術担当大臣が,大規模科学プロジェクトに係る情報交換及び開放的で実質的な議論のためのフォーラムを打ち出したことを歓迎する。その他の分野として以下のようなものが含まれ得る。税制の国際的側面,資本市場の自由化及び監督,電気通信,海運,バイオテクノロジー及び技術政策。この他に,衛生,安全及び環境規制,専門家及び熟練労働者の移動及び資格,機会均等法令。

21.

 閣僚は,OECD域内と域外の諸国間の増大しつつあるエネルギー相互異存関係,並びに,加盟国及び非加盟国におけるエネルギー・環境政策への整合的なアプローチの重要性に一層の注意が払われる必要性を認識する。閣僚は,適切な場合には,加盟国が,関心を有する開発途上国及び市場経済へ移行しつつある諸国と,エネルギー技術革新に関する情報へのアクセスを含む,加盟国のエネルギー政策の経験と専門知識を分かち合うことを勧奨する。

 閣僚は,OECD及びIEAによるUNCED/INCプロセスに対する積極的貢献を支持し,適切な場合には,将来におけるプロセスにも引続き参加し貢献することを要請する。

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 変化する世界の中のOECD

22.

 多元的民主主義,人権尊重及び競争的市場経済へ向けた世界的な動きの中で,OECD加盟国の有するこれらの基本的原則の有効性を認識する諸国が増大し,それらの諸国はOECDと接触し関係を発展させることを希望している。より相互依存性の高まる世界にあって,かかる展開は閣僚の歓迎するところであり,また,これは,OECDにとり挑戦であるとともに機会を提供している。OECDは,この新しい状況に積極的かつ効果的に対応せねばならない。同時に,OECDは,加盟国及び非加盟国双方にとり利益のある形で,その活動の有用性及び質並びに同様の考え方をする諸国の集まりとしての効率性を維持し強化しなければならない。非加盟国との接触の必要な拡大は,適切な協力の組織及び形態をつくり出す上で,これら各国の様々な状況,事情及び政策を考慮に入れつつ,OECD固有の価値及び作業方法と整合する形で進められるべきである。このような協力には,相互の利益が明確に認識されるOECD活動への非加盟国の参加及びOECDの価値及び性格を全面的に共有し,かつ,加盟に伴う義務を引き受ける意思及び能力を有する諸国のOECD加盟を含み得る。

開発途上国

23.

 OECD諸国は,引続き開発途上国との協力に高い優先度を与える。そのために一貫した包括的アプローチが必要である。このアプローチには,インフレなき成長に資するとともに,世界経済の安定的環境に貢献するマクロ経済政策の追求,開発途上国製品のOECD諸国市場へのアクセスの一層の自由化,特に経済的及び民主的改革を支援するための質量両面における追加的な援助努力,及び,殊に最貧国に対する債務救済に関する協力的アプローチの推進が含まれる。従って閣僚は,加盟国において一貫した開発政策がとられ,開発途上国が直面する問題につき相互理解が深まるよう,OECDがもてる分析能力を動員することを奨励する。他の国際機関によって設定されたODA水準のGNP比0.7%という目標を約束している援助国は,その達成のため一層努力すべきである。他の援助国は,そのODAの水準を増加させるため最善の努力をすべきである。また,開発途上国との協力においては,あらゆる適切な場で環境保護,過剰な人口増加,貧困,教育及び技術面での協力等の基本的問題に一貫した形で取り組むための方法を見出すことを目的とした,建設的な対話を進展させることも必要である。先般のUNCTAD会合で合意された制度面の改革は,より建設的な政策対話に向けての歓迎すべき一歩である。

24.

 開発途上においては,民間部門の役割の増大を含む参加型開発,民主化,人連尊重,及び過度の軍事支出削減を含む良い統治は,広範な基礎を持つ持続可能な経済・社会開発のための条件を確保する上で基本となる。閣僚は,世界全体でそのような傾向が見られることを歓迎する。しかしながら,個々の開発途上国の状況には,依然として大きな開きがある。多数の諸国は,これら原則の実施に向けて決意をもって行動してきた。こうした努力の成果が,民間投資の流れにおけるものを含め,目に見えて表れてきている。しかしながら,他の多くの諸国では,十分な努力が払われてきておらず,またこのうちの一部諸国では経済・社会状況は一貫して悪化してきている。OECD諸国政府は,関連する問題の複雑さを認識しているが,上記の原則を実施するための継続的かつ確固たる努力は,援助の配分を含む開発協力を考慮する上で益々重要となっている。OECD諸国は,これらの努力を奨励し,支援する用意がある。

  中・東欧及び旧ソ連の新独立国家

25.

 OECD諸国政府は,自ら及び関係諸国の利益の観点から,中・東欧諸国と旧ソ連の新独立国家における移行プロセスの成功を手助けすることに深くコミットする。閣僚は,この多元的民主主義,人権尊重及び競争市場経済への移行は,真に困難かつ複雑な過程であり,この過程はこれらの国々の政治的,経済的及び社会的現実の全ての面に影響を与えることを認識する。

26.

 移行の成功は国内及び外国の経済主体が効果的に活動し得る条件をつくり出すことを目標とした包括的な改革プログラムの導入または継続を必要とする。これらの条件の中でも重要なものは次の通り。

-政治,行政及び法律的側面における制度的明瞭性及び安定性,効果的な社会保障制度,並びに改革プログラムを支える社会的コンセンサスの維持。

-インフレ抑制,健全財政及び通貨安定を含む効果的なマクロ経済安定化。

-市場経済が繁栄し,雇用を創出するために必要な技術,誘因及び競争的環境を個人及び中小企業を含む企業に提供することを主たる眼目とした構造改革。

-他国からの投資及び貿易に対する非差別的開放性。このような開放性は世界経済への漸進的統合に寄与する。

-環境及び原子力の安全性,あるいは,基礎的インフラの不足並びに産業及び科学技術の潜在力の軍事利用から民生利用への転換といった重大な問題への取り組みに対する高い優先度付与。

27.

 各国政府及び国際機関による外的支援は,各受入れ国の個別の状況及びOECDの作業を含む全体としての作業の規模の増加を考慮しつつ,過去1年に大幅に増加した支援受入れ国が上記の条件を形成する上での手助けのために向けられる。この支援は増大している。閣僚は,各国際機関がその能力を有する分野に沿って,引続き調整を深めることの重要性を強調する。閣僚は,特に構造政策に関する政策形成のための技術支援を,より多くの国に提供しているOECD及びその「移行する欧州経済に対する協力センター(CCEET)」の役割を推賞し確認する。閣僚は,技術支援プロジェクトに関するOECDのオン・ライン登録の有用性を強調し,各国がこれに貢献することを奨励する。閣僚は,旧ソ連の新独立国家に対する技術支援に関する情報のクリアリング・ハウスとしてのOECDの役割に期待する。閣僚は,旧ソ連の新独立国家及び中・東欧諸国の改革への支援を伝達する上で必要なメカニズムをより一層発展させるよう,OECDに対し要請する。特に,全てのOECD加盟国,中・東欧諸国及び旧ソ連の新独立国家が一堂に会する「連絡及び協力委員会」を創設するとの提案を検討し,また,中・東欧諸国及び新独立国家における生産性向上に対し,OECDがいかに支援できるかを検討することを要請する。閣僚は,また,国際エネルギー機関(IEA)による支援努力及び原子力エネルギー機関(NEA)による原子力安全促進のための調和のとれた国際的努力への貢献を支持する。

28.

 中・東欧諸国は多元的民主主義の確立及び市場経済への移行において既に進展を示しており,国によってはその進展は目覚ましいものがある。OECD諸国は,これらの努力を強く支持する。閣僚は,ハンガリー,ポーランド及びチェッコ・スロヴァキアに対する「移行期のパートナー(PIT)」プログラムの実施について満足をもって留意する。閣僚は,これらの国々との今後の連絡委員会会合が,今日までの進展の評価及び今後の発展のための機会を提供することを期待する。閣僚は,他の中・東欧諸国の努力を賞賛し,これらの諸国の変化するニーズに適切に対応することを求める。

29.

 旧ソ連の新独立国家においては,移行への挑戦は,より威圧的でかつ大変な規模にのぼるものとなっている。OECD諸国政府はこの歴史的な変化が成功に至るよう最善の手助けを行う決意である。閣僚は,OECDが,新独立国家に対し,各々の事情に最も適した専門分野に焦点を絞った支援を申し出ることを指示する。閣僚は,OECDに対し,情報のクリアリング・ハウスとしての機能を明確にし,それを効果的に活用することを指示する。閣僚は,OECDを引続き情報交換及び技術支援の経験の交換のための場として引続き活用することを歓迎する。

30.

 閣僚は,商業及び経済の開放の過程に取り組んでいる中・東欧諸国及び旧ソ連の新独立国家にとって,輸出を拡大することが決定的に重要であることを認識する。従って,加盟国は,

-中・東欧諸国及び新独立国家が重要な輸出能力を有するセンシティヴな部門及び分野を含めた一般的な輸入自由化政策をとることによって,これらの国における貿易自由化を支援すべきである。

-また,例えば,貿易障壁の認識及び消滅のための技術支援を供与し,あるいは,同諸国間の効率的な貿易関係を維持し,貿易を育成する手段として,同諸国間の地域的協力を支持することができる。他方,中・東欧諸国及び新独立国家は,自国産業及び外国投資家からの保護主義的圧力に対抗しつつ,自国の貿易体制を一層自由化すべきである。

アジアの活力ある経済(DAEs)

31.

 アジアの活力ある経済は,その力強い経済パフォーマンスを維持しており,今後も継続するものと予想される。世界経済におけるこれら経済の益々重要な役割は,4年前に開始された非公式の対話をさらに発展させることが望ましいことを示している。かかる対話は,アジアの活力ある経済(DAEs)とOECDとの経済関係についてのより良い理解,及び,特に貿易及び投資といった相互に関心のある分野における経済政策に関する見解の一層の歩み寄りに既に貢献している。対話の対象範囲を環境や教育・訓練といった相互に関心のあるグローバルな政策問題にまで拡大することが望まれよう。閣僚は,韓国のOECD加盟への関心に留意し,OECDと韓国との公式の接触の増加を歓迎する。

ラテン・アメリカ

32.

 中南米のいくつかの国は,経済の安定化,自由化,再編成に向け,相当の進歩を果たしてきており,その利益は既に具体化してきている。この点は特に,数年にわたる市場経済に向けた改革を経たメキシコの場合に顕著である。事務総長の報告を聞いた後,閣僚は,メキシコのOECD加盟への関心に留意し,OECDとメキシコとの間の関係の進展を歓迎し,この関係を一層強化することについての希望を表明した。閣僚は,OECDとこの地域において改革を進めている他の国との間の接触を増加することが望ましいかについてOECDが検討するよう要請した。

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(2) 国連環境開発会議(UNCED)関連文書

(イ) 環境と開発に関するリオ宣言(L.33/Rev.1)(仮訳)

前文

 環境と開発に関する国連会議は,1992年6月3日から14日までリオ・デ・ジャネイ口で開催され,

 ストックホルム宣言を再確認すると共にこれを発展させることを求め,

 各国,社会の重要部門及び国民間の新たな水準の協力を作り出すことによって新しい公平な地球的規模のパートナーシップを構築するといる目標を持ち,

 全ての者のための利益を尊重し,かつ地球的規模の環境及び開発のシステムの一体性を保持する国際的合意に向けて作業し,

 我々の家である地球の不可分性,相互依存性を認識し,

 以下の通り宣言する。

第1原則

 人類は,持続可能な開発への関心の中心にある。人類は,自然と調和しつつ健康で生産的な生活を送る権利がある。

第2原則

 各国は,国連憲章及び国際法の原則に則り,自国の環境及び開発政策に従って,自国の資源を開発する主権的権利及びその管轄又は支配下における活動が他の国,又は自国の管轄権の限界を越えた地域の環境に害を与えないようにする責任を有する。

第3原則

 開発の権利は,現在及び将来の世代の開発及び環境上の必要性を公平に充すことができるよう行使されなければならない。

第4原則

 持続可能な開発を達成するため,環境保護は,開発過程の不可分の部分とならなければならず,それから分離しては考えられないものである。

第5原則

 全ての国及び全ての国民は,生活水準の格差を減少し,世界の大部分の人々の必要性をより良く充すため,持続可能な開発に必要不可欠なものとして,貧困の根絶という重要な課題において協力しなければならない。

第6原則

 開発途上国,特に最貧国及び環境の影響を受け易い国に特別な状況及び必要性に対して,特別の優先度が与えられなければならない。環境と開発における国際的行動は,全ての国の利益と必要性に向けて取られるべきである。

第7原則

 各国は,地球の生態系の健全性及び完全性を,保全,保護及び修復する地球的規模のパートナーシップの精神に則り,協力しなければならない。地球環境の悪化への異なった寄与という観点から,各国は共通のしかし差異のある責任を有する。先進諸国は,彼らの社会が地球環境へかけている圧力及び彼らの支配している技術及び財源の観点から,持続可能な開発の国際的な追及において有している義務を認識する。

第8原則

 各国は,全ての人々のために持続可能な開発及び質の高い生活を達成するために,持続可能でない生産及び消費の様式を減らし,取り除き,そして適切な人口政策を推進すべきである。

第9原則

 各国は,科学的,技術的な知見の交換を通じた科学的な理解を改善させ,そして,新しくかつ革新的なものを含む技術の開発,適用,普及及び移転を強化することにより,持続可能な開発のための各国内の対応能力の強化のために協力すべきである。

第10原則

 環境問題は,それぞれのレベルで,関心のある全ての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは,各個人が,有害物質や地域社会における活動の情報を含め,公共機関が有している環境関連情報を適正に入手し,そして,意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。各国は,情報を広く行き渡らせることにより,国民の啓発と参加を促進し,かつ奨励しなくてはならない。賠償,救済を含む司法及び行政手続きへの効果的なアクセスが与えられなければならない。

第11原則

 各国は,効果的な環境法を制定しなくてはならない。環境基準,管理目的及び優先度は,適用される環境と開発の状況を反映するものとすべきである。一部の国が適用した基準は,他の国,特に開発途上国にとっては不適切であり,不当な経済的及び社会的な費用をもたらすかもしれない。

第12原則

 各国は,環境の悪化の問題により適切に対処するため,全ての国における経済成長と持続可能な開発をもたらすように協力的で開かれな国際経済システムを促進するため,協力すべきである。環境の目的のため貿易政策は,恣意的な,あるいは不当な差別又は国際貿易に対する偽装された規制手段とされるべきではない。輸入国の管轄外の環境問題に対処する一方的な行動は避けるべきである。国境を越える,あるいは地球規模の環境問題に対処する環境対策は,可能な限り,国際的な合意に基づくべきである。

第13原則

 各国は,汚染及びその他の環境悪化の被害者への責任及び賠償に関する国内法を策定しなくてはならない。更に,各国は,迅速かつより断固とした方法で,自国の管轄あるいは支配下における活動により,管轄外の地域に及ぼされた環境悪化の影響に対する責任及び賠償に関する国際法を,更に発展させるべく協力しなくてはならない。

第14原則

 各国は,深刻な環境悪化を引き起こす,あるいは人間の健康に有害であるとされているいかなる活動及び物質も,他の国への移動及び移転を控えるべく,あるいは防止すべく効果的に協力すべきである。

第15原則

 環境を保護するため,予防的方策は,各国により,その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な,あるいは不可逆的な被害が存在する場合には,完全な科学的確実性の欠如が,環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない。

第16原則

 国の機関は,汚染者が原則として汚染による費用を負担するとの方策を考慮しつつ,また,公益に適切に配慮し,国際的な貿易及び投資をゆがめることなく,環境費用の内部化と経済的手段の使用の促進に努めるべきである。

第17原則

 環境影響評価は,国の手段として環境に重大な悪影響を及ぼすかもしれず,かつ権限ある国家機関の決定に服す活動に対して実施されなければならない。

第18原則

 各国は,突発の有害な効果を他国にもたらすかもしれない自然災害,あるいはその他の緊急事態を,それらの国に直ちに通報しなければならない。被災した国を支援するため国際社会によるあらゆる努力がなされなければならない。

第19原則

 各国は,重大な国境を越えた環境への悪影響をもたらしうる活動について,潜在的に影響を被るかも知れない国に対し,事前の時宜にかなった通知と関連情報の提供を行わなければならない。

第20原則

 女性は,環境管理と開発において重要な役割を有する。そのため,彼女らの十分な参加は,持続可能な開発の達成のために必須である。

第21原則

 持続可能な開発を達成し,全ての者のためのより良い将来を確保するため,世界の若者の創造力,理想及び男気が,地球的規模のパートナーシップを構築するよう結集されるべきである。

第22原則

 先住民とその社会及びその他の地域社会は,その知識及び伝統に鑑み,環境管理と開発において重要な役割を有する。各国は彼らの同一性,文化及び利益を認め,十分に支持し,持続可能な開発の達成への効果的参加を可能とさせるべきである。

第23原則

 抑制,制圧及び占領の下にある人民の環境及び天然資源は,保護されなければならない。

第24原則

 戦争は,元来,持続可能な開発を破壊する性格を有する。そのため,各国は,戦時における環境保護に関する国際法を尊重し,必要に応じ,その一層の発展のため協力しなければならない。

第25原則

 平和,開発及び環境保全は,相互依存的であり,切り離すことはできない。

第26原則

 各国は,全ての環境に関する紛争を平和的に,かつ,国連憲章に従って適切な手段により解決しなければならない。

第27原則

 各国及び国民は,この宣言に表明された原則の実施及び持続可能な開発の分野における国際法の一層の発展のため,誠実に,かつ,パートナーシップの精神で協力しなければならない。

目次へ

(口) 全ての種類の森林の経営,保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明(A/CONF.151/6/Rev.1 of 13 June 1992)(仮訳)

(92年7月)

I. 前文

(a)

 森林問題は,持続可能な基盤の上に立った社会・経済発展への権利を含む環境と開発の全ての問題及び機会と関連する。

(b)

 この諸原則の目的は森林の経営,保全,持続可能な開発に貢献し,森林の多様かつ補完的な機能及び利用を可能とすることである。

(c)

 森林の問題及び機会は,伝統的利用を含む森林の多様な機能及び利用,利用が抑制あるいは制限される際にありうる経済・社会的問題,及び持続可能な森林経営がもた開発の潜在力を考慮しつつ,環境と開発の総合的文脈の中で全体的かつ均衡のとれた方法で検討されるべきである。

(d)

 この諸原則は,森林に関する最初の世界的合意を反映するものである。この諸原則の迅速な実施を拘束するに際し,各国は森林問題に関する更なる国際協力との関係で,同原則の適切さを常に評価していくことを決定する。

(e)

 この諸原則は,南方,北方,亜熱帯,温帯,亜熱帯及び熱帯を含む全ての地理的区域・気候区分内にある天然及び人工の森林に適用されるべきである。

(f)

 全ての種類の森林は,人類の必要を充足させる資源と環境的価値を供給する現在及び潜在的な能力の基礎である複雑で固有の生態学的プロセスを有しており,従って,その健全な経営と保全は森林の存する国家の関心事であり,地域社会と環境全体にとって価値を有する。

(g)

 森林は経済発展及び全ての形態の生命の維持にとって必要不可欠なものである。

(h)

 森林の経営,保全及び持続可能な開発の責任は多くの国において連邦・中央政府・州・地域・地方自治体に分割されていることを認識しつつ,各々の国は,その憲法及び/あるいは法律に従い,政府の適切なレベルでこの諸原則を追求すべきである。

II. 原則/要素

1.

(a)

 各国は国連憲章と国際法の原則により,自国の環境政策に沿った資源の開発を行う主権を有し,その管轄権の及ぶ範囲の活動が他の国家や管轄権外の地域の環境へ被害を与えない責任を有する。

(b)

 森林保全と持続可能な開発に関連する利益の達成のための合意された全ての増加費用は一層の国際協力を必要とし,国際社会によって衡平に分担されるべきである。

2.

(a)

 国家はその開発の必要及び社会・経済発展の水準に従い,また,持続可能な開発及び法制度に合致した国家政策に基づき,森林を利用,経営,開発する主権的かつ不可侵の権利を有し,それは総合的社会経済開発計画の下で合理的な土地利用政策に基づき林地を他の用途へ転用することを含む。

(b)

 森林資源及び林地は,現在及び将来の世代の人々の社会的,経済的,生態学的,文化的,精神的な必要を満たすため持続的に経営されるべきである。これらの必要は,木材,木製品,水,食料,飼料,医薬品,燃料,住居,雇用,余暇,野生生物の生息地,景観の多様性,炭素の吸収源・貯蔵源のような森林の財及びサービス及びその他の林産物に対するものである。森林の全ての多様な価値を維持するため,森林を大気汚染を含む汚染,火災,害虫,病気による有害な影響から保護するための適切な措置がとられるべきである。

(c)

 森林と森林の生態系に関する時宜を得た正確かつ信頼し得る情報の提供は一般の人々の理解と見識ある政策決定に必要不可欠であり,確保されるべきである。

(d)

 政府は国の森林政策の策定,実施,発展に際して,地域社会,先住民,産業界,労働界,NGO,個人,森林居住者及び女性を含む関心を有する者の参加を促進し,機会を提供すべきである。

3.

(a)

 国の政策と戦略は森林と林地の経営,保全,持続可能な開発のための制度とプログラムの強化発展を含む,一層の努力のための枠組みを提供すべきである。

(b)

 国際的な制度的取決めは,適宜,既存の機関及びメカニズムを基礎として,森林分野の国際協力を促すべきである。

(c)

 森林と林地に関連する環境保護と社会・経済発展の全ての側面は統合され,包括的なものであるべきである。

4.

特に,脆弱な生態系,流域,淡水資源を保護する役割や生物多様性及び生物資源の宝庫及びバイオテクノロジー生産物のための遺伝物質の源泉としての役割及び光合成を通じて,地方,国,地域,地球レベルの生態学的プロセス及びバランスを維持するのに果たす全ての種類の森林の極めて重要な役割が認識されるべきである。

5.

(a)

 国の森林政策は,先住民とその共同体,その他の共同体及び森林居住者の独自性,文化及び権利を認識し適切に支援すべきである。これらのグループが森林利用に経済的利害関係を有し,経済活動を行い,適正な水準の生計及び厚生,文化的独自性,社会的組織を達成・維持するための適切な条件が,特に,森林の持続可能な経営のインセンティブとして機能するような土地所有制度を通じて,促進されるべきである。

(b)

 森林の経営,保全,持続可能な開発の全ての側面における女性の十全な参加が積極的に推進されるべきである。

6.

(a)

 全ての種類の森林は,特に途上国において,再生可能な生物エネルギー資源の提供を通じてエネルギー需要を満たす重要な役割を果しており,家庭及び産業用燃料材の需要は持続可能な森林の経営と造林及び再造林を通じて満たされるべきである。この目的のため,燃料用及び産業用木材供給のため郷土樹種及び導入樹種の植林が寄与する潜在力が認識されるべきである。

(b)

 国の政策及び計画は,森林の保全,経営及び持続可能な開発と林産物の生産,消費,再利用及び/あるいは最終処分に関連する全ての側面との間に関係が存在する場合には,その関係を考慮すべきである。

(c)

 森林資源の経営,保全及び持続可能な開発にかかる決定は,実行可能な範囲において,森林の財とサービスの経済的・非経済的価値及び環境的費用と便益の包括的な評価に支援されるべきである。そのような評価の手法の開発と改良が促進されるべきである。

(d)

 再生可能なエネルギー及び工業原料の持続可能かつ環境上健全な源泉としての人工林及び恒常的農作物の役割が認識され,増進され,促進されるべきである。生態学的プロセスの維持,一次林/原生林への圧力の相殺及び地域住民の適切な関与の下での地域の雇用と開発に対する人工林及び恒常的農作物の貢献が認識され増進されるべきである。

(e)

 天然林も財とサービスの源泉であり,その保全,持続可能な経営及び利用が促進されるべきである。

7.

(a)

 全ての国において森林の持続可能かつ環境上健全な経営に資する支援的国際経済環境を促進する努力がなされるべきであり,そのような努力には,とりわけ持続可能な生産消費パターンの促進,貧困の撲滅と食糧確保が含まれる。

(b)

 相当量の森林面積を有し,天然林の保護区域を含む森林の保全プログラムを策定する途上国に対して特定の資金が供与されるべきである。この資金は,とりわけ,経済的社会的な代替活動を刺激するような経済部門に向けられるべきである。

8.

(a)

 世界の緑化のための努力がなされるべきである。全ての国,特に先進国は,適宜,再造林・造林及び森林保全のため,積極的かつ透明性のある行動を起こすべきである。

(b)

 森林面積と森林生産性を維持,増加するための努力が,非生産的な,劣化した,あるいは森林が消失した土地における樹木や森林の再生,再造林,再造成及び,現存する森林資源の経営を通じて,環境的,経済的,社会的に健全な方法でなされるべきである。

(c)

 特に途上国における森林の経営,保全,持続可能な開発を目的とした国の政策と計画の実施は,適宜,民間分野を含む,国際的な資金的・技術的協力によって支援されるべきである。

(d)

 森林の持続可能な経営及び利用は,国の開発政策と優先順位に従い,また,国の環境上健全なガイドラインに基づいて行われるべきである。そのようなガイドラインの策定に際しては,関連する国際的に合意された手法と基準が,適当な場合であって,かつ,適用可能ならば,考慮されるべきである。

(e)

 森林経営は,生態系のバランスと持続可能な生産性を維持するため,隣接する地域の管理と統合されたものであるべきである。

(f)

 森林の経営,保全,持続可能な開発のための国の政策及び/あるいは法制は,一次林/原生林と国家的重要性を持った文化的,精神的,歴史的,宗教的その他独自の価値を持った森林を含む生態学上活性が保たれるような代表的かつ独自の森林の保護を含むものであるべきである。

(g)

 遺伝物質を含む生物資源へのアクセスは,森林保有国の主権的権利,及びそれらの資源からもたらされるバイオテクノロジー生産物からの利益と技術の相互に合意された条件での共有に対する然るべき配慮とともに行われるべきである。

(h)

 国の政策は,諸活動が重要な森林資源に重大な悪影響を及ぼす恐れがあり,かつ,そのような活動が権限のある国の当局の決定の対象となる場合には,環境影響評価の実施を担保すべきである。

9.

(a)

 とりわけ先進国への資源の純移転によって状況が悪化している場合の対外債務への取組みの重要性,及び林産物,特に加工林産物に対する市場アクセスの改善を通じて少なくとも森林の再生に必要な価値を実現する問題を考慮しつつ,途上国が自らの森林資源の経営,保全,持続可能な開発を強化するための努力が国際社会によって支援されるべきである。この関連で,市場経済への移行過程にある諸国に対しても特別の注意が払われるべきである。

(b)

 森林資源の保全及び持続可能な利用を達成するための努力に障害となる諸問題及び,森林及びその資源に経済・社会的に依存している地域住民,とりわけ都市貧困層,農山村貧困層にとって代替的な選択肢が欠けていることに起因する諸問題についての政府及び国際社会による取り組みが行われるべきである。

(c)

 全ての種類の森林に関する国の政策形成は,森林部門以外の影響要因によって森林の生態系及び資源に加えられる圧力及び需要を考慮すべきであり,これらの圧力及び需要に対処するための横断的手段が探求されるべきである。

10.

 造林,再造林及び森林減少・森林及び土地の劣化の抑止等を通じ途上国がその森林資源を持続的に経営,保全,開発することを可能とするために,新規かつ追加的な資金が途上国に供与されるべきである。

11.

 

 特に途上国が内在能力を向上させ,森林資源をよりよく経営,保全,開発することを可能とするため,アジェンダ21の関連規定に従いつつ,相互に合意された,譲許的で特恵的な条件によるものを含む,有利な条件で,環境上健全な技術とそれに対応するノウハウへのアクセス及び移転が,適宜,促進され,助長され,資金を供与されるべきである。

12.

(a)

 関連する生物学的,物理的,社会的,経済的要因,技術開発及びその森林の持続可能な経営,保全,開発の分野への適用を考慮に入れつつ国の機関によって行われる科学的研究,森林の資源調査及び評価は,国際協力を含む効果的な方法により強化されるべきである。この関連で,持続可能な形で収穫される非木質生産物に関する調査・開発にも注意が向けられるべきである。

(b)

 森林及び森林経営の教育,訓練,科学,技術,経済学,人類学,及び社会的側面に関する国家的,そして適当な場合における,地域的及び国際的な制度的能力は森林の保全と持続可能な開発にとって必要不可欠であり,強化されるべきである。

(c)

 森林及び森林経営に関する調査研究と開発の結果についての国際的情報交換が,民間部門を含む教育訓練機関を最大限活用しつつ,適宜,強化,拡大されるべきである。

(d)

 森林の保全と持続可能な開発に関する適切な地元における能力及び地域の知識が制度的財政的支援を通じて,関係する地域社会の人々の協力のもとに,認識,尊重,記録,発展され,また,適宜,諸プログラムの実施に取り入れられるべきである。従って,地元における知見の利用から生じる利益はそのような人々と衡平に分かち合われるべきである。

13.

(a)

 林産物の貿易は,国際貿易法規及び諸慣行と合致し非差別的かつ多国間で合意された規律及び手続きに基づくべきである。これに関連して,林産物の開かれた自由な国際貿易が促進されるべきである。

(b)

 生産国が再生可能な森林資源をよりよく保全,経営することを可能とするため,付加価値の高い林産物に対する関税障壁及びよりよい市場アクセスと価格の提供に対する障害の削減または撤廃,及びそれら産品の地元における加工が奨励されるべきである。

(c)

 森林の保全と持続可能な開発を達成するため,市場の力学とメカニズムへの環境的費用と便益の算入が国内的にも国際的にも奨励されるべきである。

(d)

 森林の保全と持続可能な開発の政策は,経済・貿易,その他関連政策と統合されるべきである。

(e)

 森林の劣化につながり得るような財政政策,貿易,産業,運輸,その他の政策及び慣行は,避けられるべきである。森林の経営,保全及び持続可能な開発を目的とする適切な諸政策が,適切な場合にはインセンティヴを含めて,奨励されるべきである。

14.

 

 長期的な持続可能な森林経営を達成するため,木材及び他の林産物の国際貿易を制阻かつ/あるいは禁止するための,国際的な義務や取決めと両立しない一方的措置は除去又は回避されるべきである。

15.

 汚染物質,特に酸性降下物の原因となるものを含む大気汚染物質は,森林生態系の健全性にとって,地方的,国家的,地域的,地球的レベルで有害があるので規制されるべきである。

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(ハ) アジェンダ21の概要

第1章 前文

第2章 途上国における持続可能な開発を促進するための国際協力及び関連国内政策

第3章 貧困撲滅

第4章 消費形態の変更

第5章 人口動態と持続可能性

第6章 健康の保護と促進

第7章 持続可能な人間居住の開発促進

第8章 政策決定における環境と開発の統合

第9章 大気保全

第10章 陸上資源の計画・管理

第11章 森林減少対策

第12章 砂漠化と干ばつの防止

第13章 持続可能な山岳開発

第14章 持続可能な農業と部落開発

第15章 生物多様性の保全

第16章 バイオテクノロジーの環境上健全な管理

第17章 海洋環境及び海洋生物資源

第18章 淡水資源の質の保護と管理

第19章 有害化学物質の環境上健全な管理

第20章 有害廃棄物の環境上健全な管理

第21章 一般廃棄物の環境上健全な管理

第22章 放射性廃棄物の環境上健全な管理

第23章-第32章

    主要グループの役割

第33章 資金源及びメカニズム

第34章 環境上健全な技術の移転,協力,及び能力開発

第35章 持続可能な開発のための科学

第36章 教育,広報,及び研修の促進

第37章 途上国における能力開発の為の国家メカニズム及び国際協力

第38章 国際的な制度組織の整備

第39章 国際法措置及びメカニズム

第40章 意思決定のための情報

 

第9章 大気保全

 大気保全に関するアジェンダ21は,次の4つの計画分野について,行動の基礎,目的及び行動手段を明らかにしたもの。

(イ)科学的不確実性への対処

(口)持続可能な開発の推進

(あ)エネルギーの開発,効率性及び消費

(い)運輸

(う)工業発展

(え)陸上・海洋資源開発及び土地利用

(ハ)成層圏オゾンの破壊

(二)越境大気汚染

第11章 森林減少対策

 森林に関するアジエンダ21は,全ての種類の森林の保全,持続的経営及び持続的開発を確保することを目的とし,次の4つの計画分野について,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)森林の多様な役割・機能の維持

(口)森林の保全・持続的経営の強化及び荒廃地の緑化

(ハ)森林からの財・サービスの効率的利用の促進

(二)森林及び関連計画の作成・評価能力の確立及び強化

第12章 砂漠化と干ばつの防止

 砂漠化と干ばつの防止に関するアジエンダ21は,砂漠化と干ばつの影響を受け易い土地の劣化を防止することを目的として,次の6つの計画分野について,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)砂漠化と干ばつの影響を受け易い地域のための知識・情報の収集と監視体制の強化

(口)土壌保全,植林,再植林による土地劣化の防止

(ハ)砂漠化し易い地域の貧困撲滅のための総合的な計画の策定・強化及び生活・生産様式の転換促進

(二)総合的砂漠化防止計画の策定と同計画の国家開発・環境計画への統合

(ホ)干ばつの影響を受け易い地域の総合的干ばつ対策と環境難民対策策定

(ヘ)砂漠化防止と干ばつ対策に重点を置く国民参加と環境教育推進

第16章 バイオテクノロジーの環境上健全な管理

 バイオテクノロジーに関するアジェンダ21は,持続可能な開発を確保することを目的として,次の5つの計画分野について,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)食糧,飼料,再生可能な原材料の入手可能性の増大

(口)人類の健康の向上

(ハ)環境保護の向上

(二)安全性の向上,協力のための国際的メカニズムの発展

(ホ)環境にやさしいバイオテクノロジーへの応用

第17章 海洋環境及び海洋生物資源

 海洋に関するアジェンダ21は,海洋及び隣接沿岸域を含む海洋環境及び海洋生物資源の保護,並びに持続的開発を確保することを目的とし,次の7つの計画分野についての行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)排他的経済水域を含む沿岸域の統合的管理及び持続的開発

(口)海洋環境の保護

(ハ)公海海洋生物資源の持続的利用と保存

(二)国家の管轄下における海洋生物資源の持続的利用と保存

(ホ)海洋環境の管理及び気候変動の危機的不確実性への対応

(ヘ)国際的,地域的協力及び調整の強化

(ト)小島嶼の持続的開発

第19章 有害化学物質の環境上健全な管理

 有害化学物質に関するアジェンダ21は,有害化学物質の健康上及び環境上健全な管理を目的とし,次の7つの計画分野について,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)化学物質リスクの国際的な評価プログラムの強化及び促進

(口)化学物質の分類と表示に関するハーモナイゼーション

(ハ)有害化学物質及び化学物質リスクに関する情報交換

(二)化学物質の危険度削減計画の確立

(ホ)化学物質の管理に関する各国の能力の強化

(ヘ)有害及び危険物の不法国際輸送の防止

(ト)幾つかのプログラム分野に関する国際協力の強化

第23-32章 主要グループの役割

 主要グループの役割に関するアジェンダ21は,すべての人々の関与なしには持続可能な開発の実現はありえないとの認識の下に,次の9分野について,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)持続可能かつ衡平な開発に向けた女性のための地球規模での行動

(口)持続可能な開発における児童及び若者

(ハ)先住民及びコミュニティの役割の認知及び強化

(二)NGOの役割強化:持続可能な開発のためのパートナー

(ホ)アジェンダ21支援のための地方自治体の主導

(ヘ)労働者及び労働組合の役割強化

(ト)実業界,産業界の役割強化

(チ)科学技術コミュニティ

(リ)農民の役割強化

第33章 資金源及びメカニズム

 資金協力問題に関するアジェンダ21は,アジェンダ21の実施のための資金源とメカニズムに関する手段の確立を目的として,以下の分野につき規定したもの。

(イ)経済協力

(口)その他の実施手段

(ハ)アジェンダ21実施のための年間コスト(推計値)

(二)UNCEDにおける決定を実効的たらしめるための措置

(ホ)審査及び監視

第34章 環境上健全な技術の移転,協力及び能力開発

 環境上健全な技術の移転,協力,及び能力開発に関するアジエンダ21は,地球環境問題に対する全地球的取り組みを確保するために必要とされる環境保全技術に関する協力及びその移転について,次の7分野の,行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)国際情報ネノトワークの開発

(口)技術へのアクセス及び移転

(ハ)環境上健全な技術の開発及び管理のための能力向上

(二)調査機関協力網の形成

(ホ)協力及び支援計画への支持

(ヘ)環境上健全な技術の管理のための技術的査定

(ト)協力体制及びパートナーシップ

第38章 国際的な制度組織の整備

 国際的な制度組織の整備に関するアジェンダ21は,アジェンダ21の実施の為の制度組織の整備を目的として,次の12の計画分野についての行動の基礎,目的,行動実施手段を明らかにしたもの。

(イ)国連総会

(口)国連経済社会理事会

(ハ)持続可能な開発委員会

(二)国連事務総長

(ホ)国連機関間のハイレベル調整の仕組み

(ヘ)高等諮問評議会

(ト)国連の事務局支援構造

(チ)国連システム内の組織,計画,機関

(リ)地域,準地域の協力と実施

(ヌ)国内における実施

(ル)国連機関と国際金融機関の協力

(ヲ)非政府機関

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(3) 第18回主要国首脳会議(ミュンヘン・サミット)関連文書(仮訳)

(イ) 政治宣言-新しいパートナーシップの形成

(92年7月7日)

I

1.

 我々7カ国の首脳及び欧州共同体の代表は,東西対立の終焉をもたらすとともに世界の政治地図を根本的に塗り変えた民主革命を支持する。我々が前回会合して以来,劇的な一層の変化が民主主義,市場原理に基づく経済及び社会正義に向けての進歩を加速した。ついに再統合された欧州のみならず,アジア・太平洋地域その他の世界の地域においても,責任を共有する新しいパートナーシップへの道が開かれた。我々は,協力が対立にとって代わる時代に入りつつある。

2.

 この新しいパートナーシップは,様々な形態をとることとなろう。東西間でこれまで敵対してきた諸国は,経済,政治及び安全保障問題につき広範に協力することとなろう。我々は,同種の協力が各地域内及び各地域間において世界中で発展することを期待する。我々は,先進国として,開発途上国に対して継続的な支持及び支援を提供する。国境を越えた問題,特に大量破壊兵器の拡散問題は,国際協力を通じてしか解決できないと信じる。政治的及び経済的自由,人権,民主主義,正義並びに法の支配という原則に基づき共通の価値観が根付くにつれて,パートナーシップが発展することとなろう。我々は,政治的自由と経済的自由とが密接に結び付いているとともに,相互に強化し合うものであり,それゆえ,良き統治及び人権の尊重が経済援助を供与するに当たっての重要な基準であると信じる。

3.

 中欧及び東欧諸国並びに旧ソヴィエト連邦諸国は,今や前例のない機会をつかみ取ることができる。他方,これらの諸国は,多大な課題に直面してもいる。我々は,これらの諸国が民主的な社会と政治的及び経済的自由の実現に向けて進むに応じ,これらの諸国を支援する。我々は,これらの諸国が改革計画のための安定的な憲法その他の法制を制定することを奨励するとともに,軍事部門に向けられる公共支出の割合を大幅に削減するこれらの諸国の努力を賞賛する。

4.

 欧州共同体の12カ国によりマーストリヒトにおいて署名された条約は,欧州連合に向けての歴史的な一歩である。この条件の実施は,欧州大陸における政治的安定を増進するとともに,協力の新たな機会をもたらすこととなろう。

5.

 我々が前回会合して以来,北大西洋協力理事会の設立は,北大西洋同盟の中欧及び東欧諸国並びに旧ソヴィエト連邦諸国との協力関係を強化した。また,西欧連合も中欧及び東欧諸国との関係を強化しつつある。

6.

 民族主義の再燃と民族間の緊張に起因する新たな不安定と紛争も,国際協力の必要性を浮き彫りにしてきた。旧ユーゴースラヴィアの全土,旧ソヴィエト連邦の一部その他の世界の地域において,地域共同体及び領土をめぐる紛争は,武力による解決が図られており,このため無辜の人々が命を落とし,破壊に遭い,大規模な避難を余儀なくされている。

7.

 欧州安全保障・協力会議(CSCE)のすべてのコミットメントを完全かつ即時に実施することは,欧州の安全保障と安定を構築する上で不可欠である。CSCEのすべての参加国は,紛争を平和的手段によって解決し,すべての少数民族に対する平等の待遇を保証しなければならない。我々は,CSCEヘルシンキ首脳会議に対し,紛争の予防,危機管理及び紛争の平和的解決に関するCSCEの能力を強化するための決定を行うよう要請する。我々は,また,ヘルシンキ首脳会議において安全保障協力フォーラムが設立されることを期待する。この点に関し,我々は,CSCEの責任の下で実施される平和維持活動に対する支援に関するNATO外務大臣会合及び西欧連合閣僚会合が最近行った決定を歓迎する。我々は,共通の関心事項に関する日本とCSCEとの間の定期的かつ生産的な対話の進展を支持する。

8.

 アジア・太平洋地域においては,アセアン拡大外相会議,アジア・太平洋経済協力(APEC)等の既存の地域的枠組みが平和と安定を促進する上で重要な役割を有する。我々は,カンボディアの現状に深刻な懸念を有しており,すべての関係当事者に対し,和平プロセスが成功裡に完了するよう,国連カンボディア暫定行政機構(UNTAC)を支援するとともにいまだ脆弱なこのプロセスを支持していくことを求める。

9.

 我々は,法と正義の原則に基づき外交政策を遂行するとのロシアの公約を歓迎する。我々は,このロシアの公約が領土問題の解決を通じた日ロ関係の完全な正常化の基礎となるものと信じる。

II

1.

 東西対立の終焉は,核兵器その他の大量破壊兵器及びこれらの兵器を運搬する能力のあるミサイルの拡散を抑制するための歴史的な機会を提供する一方で,この抑制を緊急に図る必要性を強める。我々は,1995年の再検討会議における核兵器不拡散条約(NPT)の無期限延長はこの過程における重要な一歩となるものであり,かつ,核兵器の軍備管理及び削減の過程は継続されなければならない旨の確固たる意見を有している。また,地域的安全保障を進める努力を通じても,核拡散の動機は減少されよう。

2.

 我々は,NPT非締約国に対して参加を求める。我々は,ウクライナ,カザフスタン,ベラルーシその他のロシア以外の旧ソヴィエト連邦諸国が非核兵器国としてNPTに早期に加入することを期待する。我々は,二国間の接触並びにモスクワ及びキエフにおける国際科学技術センターを通じ,大量破壊兵器に関する専門知識の拡散を阻止するための努力を継続する。我々は,核物質,核兵器その他機微な物品及び技術に関する効果的な輸出管理体制が旧ソヴィエト連邦において確立されることを最も重視するとともに,その実現に資するために研修及び実務的な支援を提供する。

3.

 世界は,核物質に保障措置を適用させるため,及び核兵器の移転又は核兵器の不法な若しくは秘密裡の生産を発見しかつ防止するための可能な限り最も効果的な行動を必要としている。今後の原子力協力に当たっては,NPT又はこれと同等の既存の国際約束への加入を条件とするとともに,最近原子力供給国グループにより定められたとおり国際原子力機関(IAEA)のフルスコープ保障措置の採用を条件とすることとなろう。IAEAの既存の保障措置制度を強化するため,及びこれを達成する一つの方途として未申告で疑惑のある原子力施設に対する効果的な特別査察を行うために必要な手立てをIAEAに与えなければならない。我々は,IAEAが拡散問題に係る未解決の事案を国連安全保障理事会に付託することを支持する。

4.

 我々は,不拡散に関するコミットメントに従って,原子力の平和的利用技術の利益を他のすべての国と分かち合う意思を有することを再確認する。

5.

 我々は,ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)のガイドラインを採用するようすべての国に対して引き続き奨励するとともに,あらゆる種類の大量破壊兵器を運搬する能力を有するミサイルに対してこのガイドラインの適用範囲を拡大する旨のMTCR全体会合で最近とられた決定を歓迎する。我々各自は,通常兵器の移転に係る透明性と協議を強化し及び通常兵器の移転の抑制を奨励するよう,引き続き努力する。国連軍備登録制制度に対する完全かつ適時の情報提供は,このような努力の重要な要素である。

6.

 我々は,国際の安全に対する脅威を減少させるため,適当な場において機微な品目の輸出規制の分野における協力を引き続き強化する。こうした努力の重要な要素は,このような輸出規制を改善しかつ調和させるための非公式な情報交換である。

7.

 旧ソヴィエト連邦によって署名された軍備管理条約,特にSTART及びCFE条約は,発効させなければならない。CFE条約の完全な実施は,欧州における新たな協力的安全保障の枠組みの基礎となるものである。我々は,6月に米国とロシアにより締結された戦略核兵器に関する画期的な追加合意を,より安全で安定した世界に向けての新たな大きな前進として歓迎する。米国及び旧ソヴィエト連邦が独自に表明した地上発射短距離核兵器の撤廃を始めとする更なる措置は,できる限り早期に実施すべきである。我々は,核兵器の廃棄の結果生じる核物質の平和的利用を確保するためのロシアの努力を支援する。化学兵器の実効的かつ包括的禁止に関する条約のためのジュネーヴ交渉は,今年中に成功裡に終結させなければならない。我々は,すべての国に対し,この条約の原署名国となるよう求める。

III

1.

 新たな挑戦は,変化する国際情勢を考慮しつつ国連を強化する必要性を浮き彫りにする。ロンドンにおける前回会合以来,特に危機の予防,紛争の管理及び少数民族の保護の分野において,国連の任務及び責任が劇的に一層増大した。国連は,湾岸,カンボディア,旧ユーゴスラヴィアその他の世界の地域における事態の展開に対する国際的な対応において,中心的な役割を果たしてきた。

2.

 我々は,国際の平和と安全を維持する上での国連の役割を支持する。新たな国々の国連加盟により,この役割の重要性が増大した。我々は,これらのすべての新加盟国に対し,国連憲章の目的及び原則を遵守するという厳粛な約束を履行するよう要請する。

3.

 我々は,現に存在する難民問題に関して協力するとの公約を再確認する。我々は,いかなる国又は集団によるものであれ,難民及び避難民の新たな流出を発生させることとなる少数民族に対する行為につき遺憾の意を表する。

4.

 我々は,緊急援助高級調整官の任命を含め,国連を改革するために事務総長がこれまでにとった措置を支持する。「平和のための計画」と題する事務総長の報告は,予防外交,平和の創出及び平和維持に関する国連の事業に対する価値ある貢献である。我々は,国際の平和と安全を維持するために必要な政治的支持及び手立てを提供する用意があることを事務総長に対して保証する。

5.

 我々は,国連憲章第8章に規定する国連と地域的取極及び地域的機関との間の協力の改善を強く支持する。紛争の解決に当たり,このような取極及び機関の役割は増大している。

6.

 宣言を締めくくるに当たり,我々は,人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由,正義及び平和の基礎をなすものであることを再確認する。人権は,個々の国家又はその政府が恣にしてよいものではなく,また,いかなる政治制度,イデオロギー体制又は宗教制度による統制に服させてもならない。人権の擁護及び増進は,引き続き国際社会の主要な責務の一つである。

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(口) 旧ユーゴースラヴィアに関する宣言(仮訳)

(92年7月7日)

 我々7カ国の首脳及び欧州共同体の代表は,進行しているユーゴースラヴィア危機を深く憂慮する。我々は,旧ユーゴースラヴィアにおける暴力の行使を強く非難するとともに,住民の蒙っている苦しみに対し遺憾の意を表する。我々は,特に,一般住民に向けられた行為及び民族グループの強制追放に対し遺憾の意を表する。現在の状況に至るについてはすべての当事者に責めがあったとはいえ,セルビア指導部及びその統制下にあるユーゴースラヴィア軍が最大の責任を負う。

 我々は,キャリントン卿を議長とするユーゴースラヴィアに関するEC会議を,ボスニア・ヘルツェゴヴィナの憲法上の枠組みを含む旧ユーゴースラヴィアの未解決の問題につき永続的かつ衡平な政治的解決を確保するための重要な場として支持する。我々は,すべての当事者に対し,この会議において誠実にかつ前提条件を付すことなく交渉を再開するよう要請する。我々は,また,キャリントン卿を議長とする会議,EC,国連及びその他のユーゴースラヴィア危機の関係当事者の間の緊密な協議を歓迎する。これらの協議は,少数民族に関連する問題を含む未解決の諸問題を検討する幅広い基礎の国際会議の開催をもたらすこともあり得よう。我々は,ユーゴースラヴィアの当事者が平和を求める意思を示すことが断然必要であることを強調する。この意思こそ成功のために不可欠であり,これなくしてはユーゴースラヴィアの人々は苦しみ続けることとなる。

 人道面での悲劇的な状況,特にボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける状況は,受け入れることのできないものである。我々は,国際社会が行っている救援努力を全面的に支持する。我々は,サラエヴォ空港を再開するために払われた努力を歓迎するとともに,UNPROFORが同空港の安全確保のために行っている活動を支持する。幅広い救援活動を維持するためには,サラエヴォの封鎖が解除され,サラエヴォへの砲撃が中止されなければならない。

 我々は,サラエヴォへの空輸及びその住民に対する物資供給に参加しているすべての者に対し謝意を表する。我々は,ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおけるすべての当事者に対し,この人道上の努力を脅かすことのないよう訴える。我々は,非正規軍を含む関係当事者に対し,この救援活動に従事している者の人命を危険にさらすいかなる行動もとらないよう強く警告する。我々は,関係当事者が国連と全面的に協力する意思を有しないことによってこの努力が失敗に帰する場合には,安全保障理事会がその人道上の目的を達成するための他の措置(軍事的手段を排除しない。)を検討しなければならなくなると考える。

 サラエヴォへの空輸は,一層大規模な人道上の努力の始まりに過ぎない。サラエヴォへの及びボスニア・ヘルツェゴヴィナの他の必要な地域への陸路による安全な通行が保証されなければならない。

 数十万人に上る難民及び避難民の必要に対し,一層の大幅な資金援助が求められる。我々は,これに貢献する意思を有するとともに,他の諸国に対しても応分の貢献を行うよう要請する。

 我々は,セルビア及びクロアチアがボスニア・ヘルツェゴヴィナの領土の保全を尊重することの必要性,及びボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府の指揮に服さないすべての軍隊が撤退すること又は解散され,武装解除されかつその武器を実効的な国際的監視の下に置くことの必要性を強調する。

 我々は,すべての当事者に対し,紛争が旧ユーゴースラヴィアの他の地域へ拡大することを防止するよう要請する。

 我々は,セルビア指導部に対し,少数民族の権利を十分に尊重するよう,コソヴォにおけるこれ以上の抑圧を慎むよう,また,コソヴォの代表者との間でユーゴースラヴィアに関するEC会議の条約案に従ってコソヴォの自治権を定めるため真剣な対話を行うよう求める。

 国連安全保障理事会が決議757により決定した制裁及び国連の他の関連決議のすべての規定は,完全に実施されなければならない。

 我々は,クロアチアに係る国連の平和計画をそのすべての事項について実施するための国連平和維持隊の努力を支持する。我々は,セルビア人及びクロアチア人に対し,国連の平和計画に十分に協力するよう,また,クロアチアにおける流血に終止符を打つためあらゆる努力を行うよう要求する。

 我々は,セルビア及びモンテネグロを旧ユーゴースラヴィアの唯一の継承国とは認めない。我々は,CSCEその他の関係する国際的な場及び国際機関の議事へのユーゴースラヴィア代表団の参加を停止するよう求める。

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(ハ) 議長声明(仮訳)

(92年7月7日)

1.ナゴルノ・カラバフ,モルドヴァ,オセチア

 我々は,ナゴルノ・カラバフにおける戦闘の継続につき遺憾の意を表する。我々は,紛争当事者に対し,直ちに敵対行為を停止するよう求めるとともに,部隊の引き離し,難民の故郷への帰還等の追加的な措置の実施を容認するよう訴える。我々は,努力によりもたらされた既成事実を決して承認しないことを強調する。我々は,すべての紛争当事者に対し,CSCEの原則に沿った公正かつ永続的な政治的解決を見いだすため,ローマ及びその後ミンスクで行われる交渉に参加するよう訴える。

 我々は,モルドヴァ共和国内のドニエストル川左岸における紛争の拡大を強い懸念をもって注視している。我々は,すべての関係当事者に対し,直ちに敵対行為を停止するとともに,いかなる攻撃も控えるよう緊急に訴える。

 我々は,1992年6月25日にイスタンブールで開催された黒海沿岸諸国首脳会議において,モルドヴァ,ルーマニア,ロシア連邦及びウクライナの大統領が行った平和的解決を実現するための努力を支持するとともに,CSCEに対して解決策を見いだすための助力を求めた訴えを支持する。

 我々は,すべての国に対し,政治的又は物質的に戦闘の維持に資することとなり得る一切の措置も容認することのないよう訴える。

 我々は,南オセチアにおける停戦がおおむね守られていることに満足の意をもって留意するとともに,すべての関係当事者に対し,グルジアにおける紛争の平和的解決を促進するために自らの力でできることはすべて行うよう訴える。南部及び北部オセチアの政治指導者に対し,ロシア連邦及びグルジアの大統領の間で交渉された停戦合意に署名し,かつ,これを遵守するよう再度求める。我々は,関係当事者に対し,CSCEの原則に基づき紛争の平和的解決を早急にもたらすとともに,被害を受けた国々の領土の保全及びそこに居住する少数民族の権利を尊重するよう要請する。

2.バルト諸国

 バルト諸国におけるすべての少数民族に対する平等の待遇は,この地域の平和と安定の基礎的な構成要素である。

 我々は,旧ソヴィエト軍の撤退をめぐるロシアとの交渉が暗礁に乗り上げていることに関するバルト諸国の懸念を理解する。我々は,また,軍の撤去につきロシアが直面する実際上の問題を承知してもいる。しかし,こうした問題により,軍隊を同意なしに他国の領土に駐留させてはならないという国際法の原則の適用が妨げられることを容認してはならない。したがって,現在行われている交渉において部隊の撤退日程に関する合意が早急に成立することが重要である。

3.中東

 我々は,マドリッド和平会議により開始された中東和平プロセスに対する無条件の支持を再確認する。我々は,紛争当事者間の二国間直接交渉及び地域問題に関する多数国間交渉が安全保障理事会決議242及び338に基づく公正,永続的かつ包括的な平和解決に結び付くよう期待する。

 我々は,5つの多数国間作業部会のすべてが最近の第1回会合において進展を遂げたことを歓迎する。こうした話合いは,被害を受けた国々の間の信頼醸成を中東和平への過程で促進する努力の主要な部分を成す。

 我々は,すべての当事者に対して信頼と信任の雰囲気を生み出すよう訴える。

4.イラク

 我々は,イラクがすべての安全保障理事会決議を留保なく遵守することを依然として拒否していることに留意する。我々は,イラクのすべての大量破壊兵器の廃棄及びすべての捕虜の釈放を引き続き要求する。我々は,国連安全保障理事会決議688に違反してとられたイラク内のすべての人々に対する抑圧的な行為につきイラク政権に対して警告を発する。

 イラクは,自国民の福祉と少数民族に対する平等の待遇につき責任を負わなければならない。食料及び医薬品が衡平に分配され得るよう,イラク当局が安全保障理事会決議706及び712を遵守することが不可欠である。我々は,住民の救援に従事している者に対するいかなる武力行使も非難する。

5.朝鮮半島

 我々は,南北間の対話において達成された進展を歓迎する。この進展は,一層の緊張緩和に向けての希望を抱く根拠となる。

 我々は,北朝鮮の核兵器開発計画の疑いについて懸念を有する。IAEA保障措置協定が完全に実施されるとともに,効果的な二国間の査察制度が実行されなければならない。

6.中国

 中華人民共和国における経済改革に向けての最近の動向には,意を強くさせられる。我々は,中国が政治改革に向けて一層大きな努力を行うことも期待する。人権をめぐる状況は,一層の相当な改善を必要とする。我々は,中国による核兵器不拡散条約への加入並びにミサイル関連技術輸出規制のガイドライン及びパラメーターの採用を歓迎する。我々は,中国が国際場裡において一層建設的な役割を果すことを希望する。

7.地中海

 我々は,地中海における動向に対して一層の注意を払うことが必要であると考える。我々の目的は,平和と安全を維持すると同時に,民主主義の原則に対する理解を増進し,かつ,人権の一層の尊重を確保する形で関係国が発展することができるよう,共同の努力を開始することでなければならない。

 我々は,サイプラス紛争に解決を見いだすための最近の国連事務総長の努力を支持する。我々は,すべての当事者に対し,安全保障理事会決議750の線に沿ってこの長年にわたる悲劇的な問題を解決すべく,現下の交渉の機会をとらえるために事務総長と協力するよう要請する。

8.アフリカ

 アフリカにおいては,基本的人権の尊重,政治的多元主義及び市場経済体制が定着しつつある。我々は,この政治的及び経済的改革の進展を引き続き支援する。

 南アフリカにおけるアパルトヘイトの完全撤廃に向けての大幅な進展は,新たな残酷な暴力事件により中断されている。我々は,すべての当事者に対し,交渉をできる限り早期に再開するとともに,暴力を防止するため一層の努力を行うよう要請する。我々は,すべての関係当事者に対し,引き続き交渉を通じて人種的障壁のない民主主義に向けての道を進むよう訴える。持続可能な経済成長は,南アフリカの問題の永続的な解決にとり不可欠である。

 アフリカの角における情勢は,依然として警戒を要する。エティオピアの部族紛争は,物議を醸した選挙の後でも継続している。

 ソマリアにおける無政府状態,混沌,暴力及び飢餓の終結は,国連,赤十字国際委員会その他の機関による住民に供給するための食料及び医薬品の持込みを多数の地方勢力が容認する意思を有するかどうかに引き続き依拠している。我々は,ソマリアに対する国連平和ミッション(UNOSOM)を歓迎し支持する。

9.ラテン・アメリカ

 我々は,ラテン・アメリカ及び中央アメリカにおいて民主主義及び市場経済体制を確立する上で達成された進展を評価する。

 この関係で,我々は,ハイチの憲法秩序への復帰を確保するための米州機構(OAS)の努力(制裁を含む。)を歓迎する。

 我々は,また,ペルーの憲法秩序への復帰を期待する。

 我々は,エル・サルバドルの和平協定の署名及びこの協定を早急に実施するための両当事者の努力を歓迎する。

 我々は,継続中の紛争を解決するための努力をこの地域の他の国が行うよう奨励する。

 この地域においては,環境保護,麻薬取引等の地球的規模の課題を克服するために緊密な国際協力が必要であるとの認識が高まっている。

 我々は,この地域における協力に参加し,かつ,この協力を支持する用意がある。我々は,テロリスト組織と麻薬取引業者との間の結び付きの強化に対し,重大な懸念を有している。

 アルゼンティン及びブラジルが自国の原子力活動に対する全面的な査察を受け入れるためにとった措置,並びにトラテロルコ条約を発効させかつIAEAとの包括的な保障措置協定の署名を検討するとの決定も,この地域における協力に資する。

10.麻薬

 我々は,近年のイニシアティヴを通じて麻薬取引を撲滅するための国際協力を相当強化してきた。他方,20カ国を優に超える国,欧州共同体及び国連薬物規制計画を含む様々な国際機関は,麻薬資金の洗浄を調査するための金融活動作業部会の作業及び化学物質が麻薬の不法な製造に流用されることを防止するための化学物質規制作業部会の作業に参画している。麻薬との闘いは,引き続き主要な課題である。この課題に実効的に対処するため,我々は,引き続き広範な国際協力を実現するよう努力する。この文脈において,我々は,国連,特に薬物規制計画の役割に特別の重点を置く。

11.テロリズム

 我々は,あらゆる形態のテロリズムを非難するとともに,テロリズムと闘うに当たって協力する決意を再確認する。我々は,すべての関係国に対し,財政支援を含むテロリズムに対する支援を絶つとともに,テロリスト組織による自国の領土の使用を否定するための実効的な措置をとるよう求める。

 我々は,人質をとることも同じように強く非難する。我々は,レバノンにおいて人質2名が最近解放されたことを歓迎する。我々は,依然として拘束されているおそれのあるすべての人質を即時かつ無条件に解放すること,及び人質として拘束されたまま既に死亡したおそれのあるすべての人々を明らかにすることを再度求める。

 我々は,リビアが安全保障理事会決議731及び748を即時かつ完全に遵守する必要性を強調する。我々は,すべての国に対し,パンナム103便及びUTA772便の爆破の責任者が裁判にかけられ,並びにリビアのテロリズムに対する支援が終焉するよう,リビアに対する裁を厳格に執行することを求める。

 我々は,民間航空の安全性の向上を目的とする国際民間航空機関の措置を支持する。我々は,プラスチック爆薬探知条約がこの目的に向けての重要な一歩であると考える。

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(ニ) ミュンヘン・サミット経済宣言(仮訳)

(92年7月8日)

「成長とより安全な世界のために共に働く」

1.

 我々主要先進7カ国の元首及び首相並びに欧州共同体委員会委員長は,第18回年次サミットのため,ミュンヘンで会合した。

2.

 国際社会は,東西対立の重荷から解放され,新たな時代の入口にある。恒久的な平和の構築,人権尊重の保証,民主主義の諸原則の貫徹,自由経済の確保,貧困の克服及び環境の保護のために,これほど条件が整ったことは稀である。

3.

 我々は,パートナーシップの精神の下で行動することによって,いまある無比の機会をつかみとる決意である。抜本的変化にはリスクが伴うものの,我々は,人々の創造性,努力及び献身に,経済的及び社会的進歩の真の源泉としての信頼を置く。課題及び相互依存が地球的次元のものであることは,世界的な協力を要請する。かかる協力の一環としての緊密な政策協調は,いまやこれまでになく重要である。

世界経済

4.

 世界経済の力強い成長は,我々が冷戦後の世界において直面する様々な課題を解決するための前提条件である。世界経済の回復の兆しが強まっている。しかし,我々は,これを当然のこととせず,回復が力強さを増し成長が上向くことを確保するため協力して行動する。

5.

 失業している人々が多すぎる。人,工場及び資源の潜在的な力は,完全には活用されていない。我々は,失業が生み出す辛苦を特に懸念する。

6.

 我々は夫々,若干異なる経済状況に直面している。しかし,我々は皆,より力強いインフレなき持続可能な成長から大いに稗益する。

7.

 より高い成長は,他の諸国を手助けすることにもなる。成長は,貿易をもたらす。貿易の増加は,開発途上国,及び統制経済を世界市場における生産的な参加者へと転換させる努力を払っている新たな民主主義国家を後押しする。彼らの経済的成功は,我々共通の利益である。

8.

 ウルグァイ・ラウンドの成功は,世界経済の将来に対する重大な貢献となる。交渉の早期終結は,我々の経済を強化し,東欧における改革過程を促進し,特に開発途上国を含む他の国々の福祉にとって新たな機会をもたらす。

 我々は,昨年のロンドンでの会合以来の交渉の遅い進展を遺憾に思う。しかし,この数カ月に進展があった。従って,我々は,均衡のとれた合意が手の届くところにあることを確信する。

 我々は,採択されて間もないECの共通農業政策の改革を歓迎するものであり,これは,他の残された問題の解決を促進するであろう。共通農業政策の改革と整合性がとれた形での内国支持の問題,補助付輸出の量への取組み,及び将来の紛争の回避に関し進展があった。これらの問題は一層の作業を必要とする。加えて,当事者は,市場アクセス及び穀物代替品の貿易の分野において依然として懸念を有しており,これらの分野に取り組もうと努めている。

 我々は,交渉は包括的に均衡のとれた結果をもたらすことを再確認する。合意は,物とサービスに対するより開かれた市場を作り出さなければならず,また,それは,全ての交渉パートナーからの同等の努力を必要とする。

 この基礎の上に,我々は,合意は1992年末より前に達成され得ると期待する。

9.

 我々は,協調的措置及び個別的措置を通じて,投資家,貯蓄家及び消費者の信任を築くことにコミットしている。それは,勤勉に働くことが生活の質の向上をもたらすことへの信任,投資が利益をもたらすことへの信任,及び,貯蓄が報酬をもたらし物価の安定が危険にさらされないことへの信任である。

10.

 我々は,雇用と成長とを生み出すことを目指した政策をとることを誓約する。我々は,より力強い持続可能な成長を促進するための健全なマクロ経済政策を確立するため,各々の状況を認識しつつ,適切な措置をとるよう努力する。これを念頭に置き,我々は,以下の指針に合意した。

(a)

 インフレを再燃させることなく景気の上向きを支えるため,引続き健全な金融及び財政政策を追求すること。

(b)

 過剰な財政赤字の削減,及び貯蓄の促進を通じ,金利の低下の余地を作り出すこと。

(c)

 とりわけ公的支出を制限することによって過剰な財政赤字を抑制すること。納税者の資金は,一層経済的且つ効果的に活用されるべきである。

(d)

 環境上健全な消費と生産とを促す市場インセンティブ及び技術革新を奨励することにより,我々の環境面の目標と成長の目標とをより密接に統合すること。

 我々の政策の結果としてインフレの危険性が後退するにつれ,金利が低下することは,益々可能となる。これは,新たな投資,そしてそれによるより力強い成長及び雇用の増大を促進することを手助けする。

11.

 しかし,良好なマクロ経済政策では十分ではない。我々の経済は全て,潜在成長率を制約する構造的な硬直性により重荷を課せられている。我々は,競争を奨励する必要がある。我々は,民間のイニシアティブにとってより良好な環境を整備する必要がある。我々は,技術革新,企業活動及び創造性を抑圧する過剰な規制を削減する必要がある。我々は,より良い訓練,教育,及び高められた流動性を通じ,雇用機会を拡充する。我々は,インフラストラクチャーの改善,及び研究・開発への一層の注意を通じ,長期的な成長のための基礎を強化する。我々は,市場経済への移行過程にある新たな民主主義国家に対し,この種の改革を求めている。我々は,自らに対し,より少なきを求めることはできない。

12.

 経済・金融対策の協調は,インフレなき持続的成長のための我々の共通戦略において,中心的な要素である。我々は,我々の大蔵大臣に対し,我々が合意した指針に基づいて協力を強化し,また成長への障害を削減する作業を強化し,それによって雇用を促進することを要請する。我々は,彼らが1993年の日本での会合に報告を行うことを要請する。

国連環境開発会議(UNCED)

13.

 地球サミットは,地球環境の課題に対する意識を高める上で,また,開発と環境とに関する世界的なパートナーシップを形成する過程に対し新たな弾みを与える上で画期的であった。気候変動に対する我々のコミットメントを遂行し,森林と海洋とを保護し,海洋資源を保全し,また生物的多様性を維持するため,迅速且つ具体的な行動が求められている。従って,我々は,先進国及び開発途上国の全ての国に対し,政策と資源とを,現在及び将来双方の世代の利益を保護する持続可能な開発に向けるよう求める。

14.

 リオ会議のモメンタムを持続させるため,我々は,他の国々が我々とともに以下の行動をとることを要請する。

(a)

 1993年末までに気候変動条約を批准するよう努力すること

(b)

 UNCEDにおいて見通されたように,1993年末までに国の行動計画を策定し公表すること

(c)

 種及びそれらが依存する棲息環境を保護するよう努めること

(d)

 特に国際開発協会(IDA)への増資を通じた政府開発援助(ODA)による持続可能な開発のため,及び,地球環境基金(GEF)が恒常的な資金供給メカニズムとして確立されることを目的とする同基金を通じた世界的に利益をもたらす措置のため,開発途上国に対し追加的な資金的及び技術的支援を供与すること

(e)

 1992年国連総会において,アジェンダ21の実施をモニターする上で重要な役割を果たす「持続可能な開発委員会」を設置すること

(f)

 森林に関する諸原則のための国際的な審査プロセスを確立すること,これら原則の実施を基礎に,可能な国際的に合意された適切な取極について早期に対話を行うこと,及び国際的な支援を拡大すること

(g)

 宇宙衛星及び他の地球観測プログラムからのデータのより有効な活用等を通じた,地球環境のモニタリングを一層改善すること

(h)

 革新的技術に関するプログラムのための提案を含む,エネルギー・環境技術の開発及び普及を促進すること

(i)

 可能な限り早期に,200海里内と公海とにまたがる漁業資源,及び高度回遊性魚種に関する国際会議が招集されることを確保すること

開発途上国

15.

 我々は,多くの開発途上国,特に東アジア及び東南アジア,またラテン・アメリカや,アフリカの一部においても示された,経済的及び政治的進展を歓迎する。しかし,世界の多くの国は,依然として貧困と闘っている。とりわけサハラ以南アフリカは,懸念材料である。

16.

 我々は,共有された責任,及び基本的な政治・経済の諸原則に関して広まりつつある意見の一致に基礎を置く,対話とパートナーシップにコミットしている。人口増加や環境といった地球的な課題は,全ての国による協力的な努力を通じてのみ取り組むことができる。国連システムの経済・社会部門を改革することは,この目的のための重要な一歩となる。

17.

 我々は,良い統治の諸原則が益々受け入れられつつあることを歓迎する。経済的及び社会的進歩は,各国が自らの潜在力を活用し,国民の全ての層が関与し,人権が尊重される場合にのみ確保され得る。開発途上国間の地域協力は,開発を促進し,また,安定,平和的関係,及び武器支出の削減に貢献し得る。

18.

 先進国は,健全な世界経済に対する特別な責任を有する。我々は,我々の政策が開発途上国に与える影響を考慮する。我々は,我々のコミットメントに沿ってODAの量及び質を拡充するため引き続き最善の努力を払う。我々は,ODAを一層最貧国に向ける。貧困,人口政策,教育,保健,女性の役割,及び児童の福祉は,特別の注意に値する。我々は,特に,信頼し得る自助努力を行う国を支持する。より成功している開発途上国は,国際的支援に対し貢献することが求められる。

19.

 我々は,開発途上国にとって,貿易,海外直接投資及び活発な民間部門が重要であることを強調する。貧しい開発途上国に対しては,特に製品分野における一層多様化された輸出基盤を確立するための技術的支援が提供されるべきである。

20.

 IDAの相当規模の増資に関する交渉は,1992年末より前に終結されるべきである。国際通貨基金(IMF)は,最貧国に対し,改革プログラムを支援するための譲許的資金供与を継続すべきである。我々は,IMFによる,拡大構造調整ファシリティー(ESAF)の1年間の延長に関するIMFの早期の決定,及びその後の期間に関する同ファシリティーの更新を含む選択肢についての十分な検討を要請する。

21.

 我々は,南部アフリカにおける前例のない干ばつを深く憂慮する。干ばつアピールの目標は,3分の2が達成された。しかし,依然としてなすべきことが多く残っている。我々は,全ての国に対し支援を求める。

22.

 我々は,多くの開発途上国が,債務問題の克服及び信用力の回復に関し達成した進展を歓迎する。これまでのサミットにおけるイニシアティブは,これに貢献した。にもかかわらず,多くの開発途上国は,依然として困難な状況にある。

23.

 我々は,国際債務戦略の有効性を確認する。我々は,パリ・クラブによる最貧国に対する強化された債務救済を歓迎する。我々は,パリ・クラブが,一定の条件の下で,3年あるいは4年の期間の後に,調整を行う用意のある最貧国のための債務ストック・アプローチを検討することに合意していることに留意し,また,いくつかの重債務・低中所得国の特別な状況をケース・バイ・ケースで認識することを奨励する。我々は,環境保護のための債務転換を含む自発的債務転換の一層の活用を大いに重視する。

中・東欧

24.

 我々は,バルト諸国を含む中・東欧における民主主義国家(以下「中・東欧諸国」)の政治・経済改革及び世界経済への統合に向けた進展を歓迎する。改革は,強力に追求されなければならない。これら諸国の国民には,大きな努力,そして犠牲すらをも払うことが依然として求められている。彼らは,我々の継続的支援を得る。

25.

 我々は,中・東欧諸国における改革を支える,多国間及び二国間の相当規模の支援を歓迎する。欧州復興開発銀行(EBRD)による資金供与は,有用な役割を果たしている。1989年以降,G-24及び国際金融機関による贈与,融資及び信用保証の形態での支援及びコミットメントの総額は,520億ドルにのぼる。我々は,G-24が調整活動を継続し,改革を行っている各国の要請にその活動を適合させるよう呼び掛ける。我々は,相応の貢献を行う用意があることを再確認する。

26.

 我々は,IMFプログラムに関する合意を受けて,通貨安定化基金の資金を,既存の取極に基づいて,特に企業の競争力を強化することによるポーランドの市場改革努力を支援する新たな使途に振り向けるため,ポーランドと協働するとの考え方を支持する。

27.

 先進国は,中・東欧諸国の改革努力の成功することを確保するために,これら諸国に対し相当程度の貿易上の譲許を与えた。しかし,全ての国は,市場を一層開放すべきである。これら諸国との自由貿易地域創設を目指したEC及びEFTAの合意は,大きな貢献である。我々は,中・東欧諸国に対し,その輸出能力を増強する上での技術的支援を引き続き提供する。

28.

 我々は,全ての中・東欧諸国が,相互間の,また旧ソ連邦の新独立国家との間の経済関係を発展させること,及び,より広く,市場指向に基づき且つガットの原則に合致した経済関係を発展させることを求める。この方向への一歩として,我々は,チェッコ・スロヴァキア,ポーランド及びハンガリーの間の特別な協力を歓迎し,これら諸国間で自由貿易が早急に可能となることを期待する。

29.

 外国からの投資は,歓迎されるべきである。これは,中・東欧諸国の経済的潜在力を完全に開発するために重要である。我々は,中・東欧諸国に対し,民間資本にとって魅力的且つ信頼し得る投資環境の整備に政策の焦点を当てるよう求める。債務返済を含み,これらの環境が整った際には,我々は,外国投資を促進するために二国間の信用,保険及び保証の手段を供与する。我々は,先進国の企業に対し,中・東欧諸国における投資機会を利用するよう要請する。

旧ソ連邦の新独立国家

30.

 旧ソ連邦における広範な変化は,世界をよりよい場所にするための歴史的な機会を提供する。すなわち,それは,より安全な,より民主主義的な,より繁栄した場所である。エリツィン大統領の指導の下で,ロシア政府は,困難な改革過程に乗り出した。我々は,これらの改革を支える我々の協力について討議するために彼と会うことを待望する。我々は,改革を追求している全ての新国家の指導者と協働する用意がある。成功は,国際社会の利益である。

31.

 我々は,移行が辛い調整を伴うことを承知している。我々は,新国家に,自助努力に対する支援を提供する。我々の協力は,包括的なものとなり,また,彼らの改革の進捗,並びに,軍事支出の一層の削減,及び既に約された義務の履行を含む国際的に責任ある行動に合せたものとなる。

32.

 我々は,新国家が,とりわけ財政赤字及びインフレを抑え込むことにより,健全な経済政策を採ることを奨励する。IMFと協働することは,この作業に経験をもたらし,払われている努力に対して信頼性を付与することができる。マクロ経済の安定化は,遅れるべきではない。それは,私有化,土地改革,投資と競争との促進措置,及び国民のための適切な社会的セーフガードを通じ,市場経済の基盤が同時に併せて整備されてはじめて成功する。

33.

 信用力及び信頼し得る法的枠組みを確立することは,民間投資家を引きつけるには不可欠である。新国家の信用力は,特に,彼らの債務履行の態様によって評価される。

34.

 民間資本及び企業家的なコミットメントは,経済再建において決定的且つ益々大きな役割を果たさなければならない。我々は,新国家に対し,効率的な民間事業部門,特に市場経済に不可欠な中・小規模の民間会社の層を発展させることを要請する。

35.

 急速な進捗は,2つの部門において特に緊急且つ達成可能である。それは,農業及びエネルギーである。これらの部門は,供給状況の改善及び外貨収入の増加において決定的に重要である。我々の国の貿易・産業界は,協力する用意がある。投資に対する障壁が依然として残っているため,貴重な時間が既に失われた。エネルギーに関し,我々は,生産を促進し供給の安全保障を確保するための欧州エネルギー憲章の重要性につき留意する。我々は,準備作業の早急な終了を求める。 

36.

 全てのサミット参加国は,広範な食糧援助,信用及び医療支援を供与することにより危機的な状況の中で連帯を示した。彼らはまた,技術的支援にコミットした。新国家が自らの潜在力を実現することを助けるには,新国家へのノウ・ハウ及び経験の広範な流入が必要である。民間及び公的部門の双方がこれに貢献できる。何よりも必要であるのは,現場における具体的な助言,及び実際的な支援である。模範例としての価値,あるいは改革過程にとっての戦略的重要性の観点から選ばれたプロジェクトに重点が置かれるべきである。法人レベルでのパートナーシップ及びマネージメント支援は,特に効果的であり得る。

37.

 我々は,新国家の産品に対し,国際市場を一層開放する必要性を強調する。新国家との貿易には最恵国待遇が適用されるべきであり,また,一層の特恵的取扱いが検討されるべきである。新国家は,彼らの間の貿易に対する障壁を設けることにより再建を阻害すべきではない。経済及び金融政策において協力することは,彼ら自身の利益である。

38.

 我々は,新国家が高度に発達した科学技術能力を保持し,これを経済の構築に活用することを手助けしたい。我々は,先進国の産業界及び科学界に対し,新国家との協力及び交流の推進を呼び掛ける。国際科学技術センターを設立することにより,我々は,大量破壊兵器製造における機微な知識を有する科学者及び技術者の専門知識を,平和目的のために方向転換することを助けている。我々は,高資格の民間科学者が新国家に留まることを可能にすること,及び西側先進国との研究協力を促進することに引続き努力する。

39.

 我々は,新国家の国際金融機関への加盟を歓迎する。これは,彼らが,これらの機関と協力して経済改革プログラムを策定し,この基盤の上でこれらの機関の相当規模の資金を利用することを可能とする。これら資金の引出しは,改革の実施の進捗状況に関連づけられるべきである。

40.

 我々は,ロシア政府とIMFとの間の協力の段階的戦略を支持する。これは,IMFが,ロシアと包括的な改革プログラムについて引き続き交渉する一方で,最も緊急な安定化措置を支援する第1クレジット・トランシュを今後数週間のうちに実行することを可能とする。これは,4月に表明された240億ドルの支援パッケージの完全な利用に道を開くことを可能とする。このうち,ルーブル安定化基金のためにイヤマークされている60億ドルは,必要なマクロ経済の条件が整った場合に利用可能となる。

41.

 我々は,新国家,国際機関及び,パートナー諸国の間における緊密な協力を強化するために,必要な場合には,国別協議グループが新国家のために設置されるべきであると提案する。これらのグループの課題は,構造改革を奨励し,技術的支援を調整することである。

旧ソ連邦の新独立国家及び中・東欧における原子力発電所の安全性

42.

 我々は,世界のエネルギー供給において原子力発電が果たす重要な役割を認識するが,ソ連型の原子力発電所の安全性は,重大な懸念材料である。各国は夫々,その安全規制当局及び発電所の運転員を通じ,原子力発電所の安全性に責任を有している。該当する旧ソ連邦の新国家,及び中・東欧諸国は,この危険を除去することに高い優先度を付与しなければならない。これらの努力は,エネルギー部門の開発に対する民間の資金供与を奨励するような市場指向的なエネルギー政策改革の一部であるべきである。

43.

 これらの発電所の安全性を高めるために特別な努力が払われるべきである。我々は,該当する国に対する支援を,多国間の行動計画の枠組みの中で提供する。我々は,これらの国が十分に協力することを期待する。我々は,関心を有する他の国に対しても,貢献することを要請する。

44.

 行動計画は,以下の分野における即時的措置を含むべきである。

 

(a)

 運転上の安全性改善

(b)

 安全性評価に基づく短期の技術的改善

(c)

 規制制度の強化

 これらの措置によって,早期且つ大幅な安全面での利益を得ることができる。

45.

 以上に加え,行動計画は,以下の点の検討によって,より長期的な安全性向上のための基礎を築く。

(a)

 代替エネルギー源の開発及びより効率的なエネルギー利用によって,より安全性の低い発電所を置き換える余地

(b)

 より新しい型の発電所の改修の可能性

 これらを補完するものとして,我々は,原子力の安全性に関する条約の早期締結を追求する。

46.

 行動計画は,明確な優先順位を設定し,諸設置に一貫性を与え,その可及的早期の実施を確保すべきである。即時的措置を実施するために,原子力の安全性に関するG-24の既存の調整権限は,該当する旧ソ連邦の新国家に拡大されるべきであり,同時に,一層効果的なものにされるべきである。我々は皆,二国間支援を強化する用意がある。

 以上に加え,我々は,二国間のプログラムにより手当てされない,運転上の安全性及び技術上の安全性に関する即時的な改善措置に取り組むための補足的な多国間のメカニズムを,適当な場合には,設置することを支持する。我々は,国際社会に対し,そのための資金拠出に貢献することを要請する。その基金は,二国間の資金供給に考慮を払い,拠出国からなる運営機関により全会一致に基づき管理され,G-24及びEBRDと調整され,またそれらにより支援される。

47.

 より新しい型の原子力発電所の改修に関する決定は,発電所の安全性,エネルギー政策,代替エネルギー源及び資金供与に関する問題の事前の明確化を必要とする。このような決定が行われ得るための適切な基礎を確立するために,我々は,以下の措置が必要と考える。

(a)

 安全性に関する必要な調査報告が遅滞なく提出されるべきである。

(b)

 関係国際機関,特に国際エネルギー機関(IEA)とともに,世界銀行は,代替エネルギー源及びそのコスト面での影響を含めたエネルギーに関する必要な調査報告を作成すべきである。これらの調査報告に基づき,世界銀行及びEBRDは,潜在的な財政上の要請に関し,可及的速やかに報告を行うべきである。

48.

 我々は,1993年の会合においてこの行動計画の進捗状況を審査する。

49.

 我々は,様々な元首及び首相,並びに機関から寄せられた意見に留意し,関心をもってそれを検討する。

次回会合

50.

 我々は,宮沢首相よりの,1993年7月における東京への招待を歓迎し受諾した。

目次へ

(4) アジア・太平洋経済協力閣僚会議共同声明(仮訳)

(92年9月10~11日 於バンコック)

1.

 第4回アジア・太平洋経済協力(APEC)閣僚会議は1992年9月10~11日バンコックにおいて開催された。豪州,ブルネイ・ダルサラーム,カナダ,中華人民共和国,香港,インドネシア,日本,韓国,マレイシア,ニュー・ジーランド,フィリピン,シンガポール,チャイニーズ・タイペイ,タイ及び米国の閣僚がAPECのプロセスについて引き続き議論するために同会合に出席した。ASEAN中央事務局,太平洋経済協力会議(PECC),南太平洋フォーラム,(SPF)がオブザーバーとして出席した。閣僚及びオブザーバーの全員のリストは別添1(省略)の通りである。

2.

 本会議は,タイのアーサー・サラシン外務大臣及びアマレート・シラオン商務大臣が共同で議長を務めた。

3.

 閣僚は,アナン・パンヤラチュン・タイ国首相閣下が以下を強調した基調演説をしたことを感謝した。

-APECは,世界情勢をとりまく急速な変化と不確実性にもかかわらず,増長しつつある保護主義に対する強い防御を築きつつ,地域の成長と繁栄を促進させる上で枢要な役割を果たす態勢にあること,

-APECは,APECがその上に協力を築くことができるような均衡のとれた結果をウルグァイ・ラウンドにて達成することを奨励すること,

-独特の形で多様性及び開放性を有する協議の場としてのAPECは,経済その他の分野における広範な分野で,未だに開拓されていない多大なる可能性を有していること,

-APECがアジア・太平洋地域における主要なサブ・リージョナルな自由貿易地域間の有り得べき架け橋としての可能性が注意深く探求されねばならないこと,及び,

-相互に補完的なサブ・リージョナルな経済機構の密接に入り組んだネットワークの一つとしてのAPECは,地域経済協力のみならず,メンバーたる諸経済それぞれにおける均衡のとれた発展を促進し得る開かれた,進化しつつある過程であること。

4.

 閣僚は,以下を含む諸点につき議論を行った。

A.地域経済の動向及び諸問題

B.ウルグァイ・ラウンドとこの地域における貿易自由化

C.APECワーク・プログラム

D.APECの将来のステップ

E.将来の参加

地域経済の動向及び諸問題

5.

 閣僚は,1992年8月10日~11日,東京でカナダ,日本及び韓国が共同で議長を務めた経済動向及び諸問題に関するアド・ホックグループ会合のレポートを検討した。右会合は,「APEC地域の2000年のヴィジョンと課題」と題する地域の経済的繋がりに関する日本の調査と「APEC地域の最近の経済動向と見通し」と題する地域経済の展望及び動向に関する韓国のレポートにつき討議を行った。

6.

 閣僚は,これらの研究がアジア・太平洋地域の中の主要な経済フロー及び進化しつつある相互依存性を数量化することに資する独創的かつ画期的な研究をAPECに提供したことに留意した。右相互依存性,就中,太平洋の両側の間の相互依存性は,商品貿易,サービス貿易,直接投資及び人的交流の分野で明瞭である。この地域における,相互依存性及び構造変化を促進している重要な要素として,開放的な経済政策及び堅実な経済運営との連携,グローバリゼーションのプロセス及び多国籍企業の役割がある。

7.

 閣僚は,APEC地域の展望として持続的かつ力強い経済成長があるとの見方を有し,地域の経済ダイナミズムを維持する上で多角的貿易体制の強化及び太平洋横断貿易の拡大の推進の重要性に留意した。

8.

 閣僚は,APECメンバー間の主要な経済統計の定期的な回付に関する手配を検討するとの豪州の提案を歓迎し,高級実務者に本件提案を更に検討するよう指示した。

9.

 閣僚は,経済の動向及び諸問題に関する対話がAPECの作業の中心的な要素をなすことに留意した。閣僚は,第2回アド・ホックグループ会合の成功へのそれぞれの貢献に対し,日本及び韓国に謝意を表明し,高級実務者にアド・ホックグループの次のステップ,特に,経済の動向及び諸問題に関する対話が如何に将来の閣僚間の対話に貢献し,APEC諸ワーク・プロジェクト及び他の活動にとりより広い背景を提供するための方法につき検討するよう指示した。

10.

 この目的のため,閣僚は,高級実務者に対し,1993年の閣僚会議で使用するため,地域の諸経済の短期から中期の経済展望のレヴューの準備及び高級実務者がその次回の会合において,決定する優先的問題分野の検討を確実に行うよう指示した。取り上げられうる問題を検討するに際し,高級実務者は,開放的な経済政策及び貿易,成長及び発展のための投資及び技術の流れ,構造変化,人材養成,域内の所得格差の減少,及び地域統合の進展の持つインプリケーションを含む東京のアドホックグループ会合のレポートが明らかにしている諸問題に依拠することができる。

ウルグァイ・ラウンド

11.

 ウルグァイ・ラウンドの成功を達成する決定的な重要性を認識し,閣僚は別添2(省略)として添付したURに関する別途のAPEC宣言を発出した。

地域の貿易自由化

12.

 閣僚は,高級実務者により合意された地域の貿易自由化に関する非公式グループの報告を検討し,エンドースした。閣僚は,グローバリゼーションの過程及び北米自由貿易協定(NAFTA)やASEAN自由貿易地域(AFTA)といったサブ・リージョナルな貿易取極を含め,地域に関連した貿易政策諸問題との関係において,合意を築き,情報を分かち合う手段として,APECの貿易政策対話の重要性に留意した。閣僚は,APECの諸経済は投資リンケージ並びに地域的及びサブ・リージョナルな貿易取極が外向的でガットと整合し,より広い貿易自由化のプロセスを支援するよう奨励すべきであり,また,かかる問題に関する活発な対話が引き続き行われるべきであるとした非公式グループの見解をエンドースした。閣僚は,ウルグァイ・ラウンドの見通しがより明瞭になった際に貿易政策を担当する閣僚間の会合を召集する意図を再確認した。

13.

 閣僚は,「地域の貿易自由化へのアプローチに関する選択を確認し,勧告を行う」とのソウル閣僚会合よりのマンデートを進展させるべく非公式グループによって明確化された現実的な方策について討議した。閣僚は,非公式グループに対し,表面化しつつある貿易諸問題の将来を考え,要請し,より長期の措置及びより短期の行動計画双方を追求すべきとの見解をエンドースした。

14.

 地域貿易自由化を次の10年間にかけて進めるために,閣僚は,2000年に向けてのアジア・太平洋における貿易に対する展望を明言し,APECによって検討されるべき制約と問題を明らかにし,1993年に米国で開かれる次回閣僚会合に最初の報告をするために小規模な賢人グループを設立するべきことにつき合意した。閣僚は,報告中に述べられている賢人グループの構成及び指示委任事項に関する提案をエンドースした。

15.

 より近い時期において,閣僚は,非公式グループにより勧告された4つの提案の実施が作業に有意義な成果をもたらすものであることにつき一致した。閣僚は,高級実務者に対し,以下の4提案を実行するよう指示した。

(1)

 よりよい情報の流れを通じて地域貿易を容易にするためにAPECメンバーの関税に関する電算データ・ベースを,フィージビリティー・スタディーの結果に従って確立する。

(2)

 地域の関税協力理事会(CCC)の活動を考慮しつつ,税関の手続きと慣行を調和させ,容易ならしめるために計画された現在の地域的活動を調査し,かつ,その作業を促進乃至補完するためにAPEC内で取り得る追加的な手段を勧告する。

(3)

 市場アクセスの行政的側面を明確化し,また討議し,これら措置の障壁とコストを減らし,継続的に右をレヴューするための過程に関する提言を含む報告を第5回APEC閣僚会議に提出する。

(4)

 APECメンバーを調査し,可能であれば1993年に閣僚に提出すべき投資規則手続きに関する詳細なガイドブックを,将来における電算化によるガイドブックの継続的な保持とアップデートの可能性を有する形で準備する。

16.

 閣僚は,これら方策の実施が地域貿易化に関する更なる作業に対し確固たる基礎を与えること,及び貿易自由化と貿易政策問題が来年の米国における第5回APEC閣僚会議の中心的な討議事項をなすべきことにつき合意した。

APECワーク・プログラム

17.

 閣僚は,APECワーク・プログラムに関する総合報告書をレヴューし,多くのワーキング・グループが実体的に進捗を成しており,かつ明瞭な利益を本地域にもたらしていることにつき,満足の意をもって留意した。

18.

 閣僚は,ワーク・プロジェクトの可能性を最大限に引き出すべくそれを更に発展させるため,関係実務者が調整のとれた努力を強化すべきことに合意し,次の諸点に留意した。

   a.貿易投資データのレヴュー

サービス貿易のデータ及び投資フローのデータに関するインベントリーの作成作業が継続されている。更に,APEC諸経済間でほぼ対照可能な商品貿易のデータを得るための努力が行われる。

   b.貿易促進:協力のためのプログラムとメカニズム

各参加メンバーのコンピュータ・システムにつなぎ,貿易,産業及び経営の情報交換を可能とするAPECの電子情報ネットワークが機能している。1994年に日本で第1回アジア・太平洋国際貿易フェアを開催すべく準備が進められている。

   c.アジア・太平洋地域における投資・技術移転の拡大

 アジア・太平洋投資・技術情報ネットワークの創設に関する種々の選択肢が専門家会合により議論される。日本は,APECの全参加メンバーの協力の下,「工業団地開発ハンドブック」を編纂する。

   d.アジア・太平洋多国間人材養成構想(HRD)

 人材養成ネットワークの多くの有益な活動が経済開発管理,経営管理及び産業技術に関して実施されている。米国・APECパートナーシップ,日本・APECパートナーシップ,太平洋経済協力会議(PECC)による人材需給見通し及び豪州によるアジア・太平洋地域における大学間交流計画等,教育と訓練に関する他の活動も実施されてきている。APEC教育大臣会議がワシントンD.C.で1992年8月に開催され,教育に関連する問題を議論するため,APEC教育フォーラムを創設するとの提案がエンドースされた。

   e.域内エネルギー協力

 エネルギー政策問題の議論をより容易にするAPECのエネルギー・データベース及びデータベースからの情報のためのフォーマットが開発されており,1993年3月には使用可能となる。クリーン石炭技術の利用についての勧告が作成されており,1992年11月以前に全参加メンバーに対し配布される。APECのメンバーにおけるエネルギー効率化の手法に関する概要が,1992年10月までに配布される。天然ガス利用車の技術についての情報を共有するためのネットワーク,光電池他の太陽エネルギー技術についての情報を共有するための情報交換のプログラム及び地域の再生可能なエネルギーのプログラムの作成が策定されている。

   f.海洋資源保全:APEC地域における海洋汚染問題

 赤潮/貝毒問題に関する実際的な行動のために提言が作成された。詳細な計画案及び(1)情報交換(2)人材養成(3)技術交流に関連するプロジェクトの経費見積りを作成するために作業チームを設立することが提案された。報告書は,1993年央に予想される次のワーキング・グループ会合の前に,完成することとなっているが,その時期には提案の評価がなされ,プログラムの運営は既に始まっている。参加者は取り上げられる追加的な議題,特に陸上に起因する汚染に関連した議題に関する提案を提出するよう要請された。

   g.電気通信

 香港とチャイニーズ・タイペイの電気通信環境データを含んだ補充版,「電気通信機関内における人材養成の取り組み方法」に関するガイドラインを提示する訓練手引き,及び「テレポート実現に向けて解決すべき課題」に関する報告が出版された。幾つかの電子データ交換(EDI)のパイロット・プロジェクトが地域におけるEDI利用に対する一般の認知を広げるために実施されている。

   h.漁業

 進行中のワーク・プログラムとしては管理措置に関する国際的な協力を必要とする種に関する調査,漁業資源に関する情報,既存の管理措置及び科学的な支援措置を組み合わせた概観ペーパー,APEC参加者間における漁獲後の技術の移転のための既存施設・機会の明細,更に,APEC地域より発生する海産物の世界及び国内における市場に関する定期的な動向・予測の編集である。

   i.運輸

 短期の活動,即ち,運輸ボトルネック,既存データ,運輸のシステム及びサービス,及び他の国際的な機関における関連作業に関する調査が行われてきている。地域の運輸に対する中期的展望を概説する文書の大要も準備されている。

   j.観光

 観光と航空との相互関係の調査及び観光のワーキング・グループと他の国際組織との関係,観光環境に関する研究,データ集計と統計報告の改善,観光への障壁の明確化,観光訓練の改善及び,現在の観光プロジェクトに関する目録の編集を含む特定の作業計画が作成されつつある。

19.

 閣僚は,3つの新しいメンバー,即ち中華人民共和国,香港,及びチャイニーズ・タイペイがAPECワーク・プログラムに対し行った積極的貢献を歓迎した。閣僚は,特に,中国が1993年5月に上海での中小企業輸出拡大促進セミナー,1994年にアジア・太平洋貿易促進セミナーを,そしてAPEC貿易促進訓練コースを開催することを申し出たこと,香港が「電気通信インフラの状況及びAPEC諸経済の規制環境」に関する研究の補遺を出版するため資金面の貢献を行ったこと,また,協力を通ずる中小企業の発展促進に関するチャイニーズ・タイペイのプロジェクト提案が貿易促進ワーク・プロジェクトに編入され,電気通信及び漁業に関するワーキング・グループにより検討されたことに留意した。

20.

 閣僚は,ワーク・プログラムの一般的な問題に留意し,総合報告書の中に含まれた政策の提言に留意した。10のワーク・プロジェクトの一層の進展を図るため,閣僚は高級実務者に対し,如何にワーキング・グループ活動を調整し,重複を避け,補完性を明確にするかに関し,ワーキング・グループにガイダンスを与えるように指示した。

21.

 閣僚は,ソウル宣言に述べられているAPECの目的に関しワーキング・グループの焦点を改善するために,高級実務者がワーキング・グループの全体的な調整及び管理につき積極的な役割を果たすように指示した。

22.

 閣僚は,APECが開かれたプロセスにあることを再確認した。セミナー,シンポジウム及びワーク・ショップを含めたAPECのワーク・プロジェクトへのアジア・太平洋の非メンバーからの参加は非メンバーと同様メンバーにとっても有益たりうるものである。

APECの将来のステップ

23.

 閣僚は,ソウルでの閣僚共同声明に規定されている通り「APECの将来におけるステップ」と題されたタイ事務局作業ペーパーに基づく本件に関する掘り下げた研究を高級実務者が実施することを多とする旨表明した。閣僚は,地域の経済協力を促進する上で,機構化により,一層APECの役割を強化し,その効率性を高め得る段階にAPECが到達したことを認識した。徹底的な検討の後,閣僚は,APECが効果的な支持機構(サポート・メカニズム)としての事務局を,また,APEC活動実施のための経費を支弁するAPEC基金を設立することが時宜を得かつ適切とする高級実務者の提言に合意した。この関連で,閣僚は,APECの将来におけるステップに関する総合報告書をエンドースし,別添3(省略)のAPECの機構的取り極めに関するバンコック宣言を採択した。

24.

 閣僚は,APEC事務局がシンガポールに置かれることに合意した。

25.

 閣僚は,APECの管理・運営費用を賄うため,APECメンバーが,決められた比率に従いAPEC基金に毎年拠出することに合意した。閣僚は,各々の活動のためにAPEC基金を使用するためにはコンセンサスが必要であるとの意見であり,高級実務者に対し,APEC基金の割当てに関するガイドラインの詳細を可及的速やかに策定することを委任した。閣僚は,ワーク・プロジェクトのシェパードと他のグループの議長に対して次回の高級事務レベル会合に先立ち会合を持ち,詳細な予算案を編成するよう指示した。高級事務レベル会合は閣僚の承認のため,2百万米ドルを上限とする1993会計年度のための詳細の予算案を準備すべきである。

26.

 閣僚は,APECプロセスへの民間セクターの参加問題を討議した。閣僚は,ワーク・プログラムの現実的妥当性を高める上での民間部門の役割の重要性を再認識し,貿易促進や電気通信等のワーク・プロジェクトにおける積極的な貢献に謝意を表明した。閣僚はワーク・プロジェクトが民間部門の技術的専門性と資金力から利益を受けるため,民間部門による直接的な関与を更に慫慂することの必要性を強調した。閣僚は,高級実務者に対し,民間部門をAPECワーク・プロジェクトにより十全に関与させる方法を明確にし,1993年の第5回閣僚会議に報告することを委任した。

将来の参加

27.

 閣僚は,幾つかの国々と組織がAPECプロセスに何らかの資格で参加することにつき引き続き表明している関心に留意した。閣僚は,APECが開かれたかつ進展するプロセスであることを再確認し,ソウルAPEC宣言に規定された参加基準,即ち,参加に関する決定はその時点の全ての参加者のコンセンサスに基づきなされること,

 また,APECへの参加は

(A)アジア・太平洋地域に強固な経済的結びつきを有し,そして,

(B)ソウルAPEC宣言に具現化されたAPECの目的と原則を受け入れる

 アジア・太平洋地域の経済に対し原則として開かれていることを想起した。

28.

 閣僚は,また,APECがその強化と有効性を主たる関心事項とすべき段階に入っており,そして,更なる参加に関する決定については,APECの現在及び将来の参加者双方に対する利益に関し注意深い検討を要するとの見解も表明した。

29.

 統合された北米経済の現実が出現しつつあること,及び,北米経済とアジア・太平洋地域の残りの地域との増大しつつある経済的連繋に留意し,閣僚は,高級実務者に対し,メキシコのAPEC参加問題を検討し,米国での第5回閣僚会議に対しその検討結果を報告するよう要請した。閣僚はまた,高級実務者に対し,他によるとAPEC参加というより広い問題をレヴューするよう要請した。

今後のAPEC閣僚会議開催場所

30.

 第5回閣僚会議は,1993年に米国で開催される。第6回閣僚会議は1994年にインドネシアで開催される。また,閣僚は,日本,フィリピン及びカナダが1995年,1996年,1997年に開かれる第7回,第8回,第9回の閣僚会議をそれぞれの国で開催するとの申し出を歓迎した。

その他の事項

31.

 閣僚とその代表団は,タイ王国政府及び国民が彼らを温かく盛大に歓迎し,また,会議のための素晴らしい施設を提供し,種々の配慮を行ったことに深甚なる謝意を表明した。

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(5) アジア・太平洋の視点に関する共同新聞発表

(92年9月21日)

1.

 宮澤総理大臣及びキーティング首相は,本日の会談において,日豪関係の重要性を確認するとともに,この関係が将来において日豪両国及びアジア・太平洋地域に利益をもたらすものであるとの双方の確信を確認した。

2.

 会談における両首脳の間の話合いの主要なテーマは,冷戦の終えん後のアジア・太平洋地域における重大な変化に関する共通の認識であった。両首脳は,とりわけ,新たな機会及び課題がアジア・太平洋の経済のダイナミズムの継続及び地域的貿易取極への動きの活発化から生ずることに留意した。両首脳は,この地域において現在展開しつつある諸変化に対し,長期的視点に立って,かつ,この地域においてこれまではぐくまれてきた協力関係を一層強化する方法で対処していくと双方の決意を確認した。両首脳は,アジア・太平洋地域の他の諸国と共同して,双方がこの地域の平和と繁栄の促進のために協力する用意があることを再確認した。

3.

 両首脳は,米国の関与がアジア・太平洋地域の平和と繁栄のために極めて重要であり,西太平洋における米軍のプレゼンスが同地域の安定要因であるとの双方の政府の見解を改めて表明した。両首脳は,日本国及びオーストラリアがそれぞれ米国との間で有する防衛分野における関係(日本国による相当規模の在日米軍駐留経費負担を含む。)が,地域の安定にとって重要な貢献を果たしていることに留意した。

4.

 両首脳は,日本国及びオーストラリアが地域的な紛争の解決に当たって,可能な限り協力するとの決意を有することを確認した。キーティング首相は,日本国が一層積極的な国際的役割を果すことを支持するとともに,国際連合平和維持活動に参加するとの日本国の決定を歓迎した。両首脳は,カンボディアにおいて国際連合が果たしている役割に対する双方の完全な支持を再確認した。両首脳は,日本国及びオーストラリアが和平プロセスを前進させるための努力につき引き続き緊密に協力することを確認した。

5.

 両首脳は,朝鮮半島及び同半島周辺における外交的環境の改善を歓迎するとともに,緊張緩和の一層の促進に対する期待を表明した。両首脳は,疑念の対象となっている北朝鮮の核兵器開発計画に対する双方の重大な懸念を強調するとともに,IAEA保障措置協定の完全な履行の必要性及び効果的な南北相互査察の枠組みの必要性を強調した。

6.

 宮澤総理大臣及びキーティング首相は,東南アジア諸国連合(ASEAN)による地域協力への貴重な貢献を歓迎した。両首脳は,地域的な安全保障に関する対話の場として,ASEAN拡大外相会議の重要性が増大しつつあることに留意した。両首脳は,個々の紛争の解決に当たって既存のサブ・リージョナルなアプローチが有する重要性を認識する一方,相互の安心感及び安定を助長するため,地域的な安全保障に関する対話を支持した。

7.

 両首脳は,世界経済の見通し及びそれが日本国及びオーストラリアの経済に与える影響につき話し合い,アジア・太平洋地域が世界で最も成長の著しい複数の経済を擁していること,及び将来のこの地域の繁栄が貿易の成長に大きく依存していることに留意した。両首脳は,さらに,この地域のこれまでの経済的な成功は,貿易,投資及び技術の世界的規模の統合を通じた経済活動のグローバル化の恩恵を如実に示すものであることを認めた。

8.

 両首脳は,日本国及びオーストラリアが開かれたかつ無差別な多角的貿易体制の維持に根本的な重要性を付していることを再確認した。両首脳は,世界経済に重要かつ必要な推進力をもたらすこととなるウルグァイ・ラウンドの早期かつ成功裡の終結が優先課題であることで一致した。両首脳は,工鉱業製品,農産物及びルール作りの分野並びにサービス等の新分野における前向きな結果を伴い,かつ,均衡のとれた成果が手の届くところにあることに留意した。両首脳は,世界経済へのこれらの利益が早期に実現されるためには,すべての参加国による政治的意思の表明が必要であることを強調した。

9.

 両首脳は,地域的貿易取極への傾斜が強まりつつあることに留意しつつ,このような取極は開かれたものでなければならず,また,GATTその他の国際的義務に適合し,かつ,貿易その他の分野における第三国の利益を損なうことなく世界経済の拡大に貢献するものでなければならないとの両政府の見解を強調した。

10.

 両首相は,開かれた地域的な経済協力のための重要な機構としてのアジア・太平洋経済協力(APEC)に対する双方の支持を再確認した。両首脳は,また,貿易の自由化におけるAPECの役割を引き続き強化していくとの双方の意思を再確認した。

11.

 両首相は,国際問題におけるアジア・太平洋地域の重要性の増大を一層的確に反映させるための国際的制度及び地域的制度の必要性につき話し合った。両首脳は,毎年開催される先進7カ国首脳会議においてアジア・太平洋問題に一層多くの関心が払われるよう呼びかけた。キーティング首相は,宮澤総理大臣に対し,APEC加盟国を基礎とするアジア・太平洋地域の首脳会合の定期的な開催のためのプロセスを中期的に確立していくとの同首相の提案に対するこの地域の他の首脳のこれまでの反応につき説明した。宮澤総理大臣は,キーテイング首相の提案は,急激に変動する国際環境及びこの地域の重要性の増大に照らし,大変有意義であるとの考えを表明した。宮澤総理大臣は,オーストラリアのイニシアティヴを歓迎するとともに,同構想がこの地域の他の諸国との協議を通じて追求されることに同意した。キーテイング首相は,国際連合が変化した国際情勢を一層的確に反映したものとなるために,日本国が国際連合安全保障理事会の常任理事国となることに対するオーストラリアの支持を確認した。

(了)

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