(1) 第46回国連総会中山外務大臣一般演説
(91年9月24日)
議長,並びにご列席の皆様,
私はシハビ閣下がこの歴史的会期である第46回総会議長に選出されたことに対し,心がら祝意を表します。同時に,デマルコ閣下の前総会議長としての業績に対して敬意を表するものであります。
私は日本政府及び国民を代表して今回初めて加盟国として国連総会に参加する朝鮮民主主義人民共和国,大韓民国,ミクロネシア連邦,マーシャル諸島共和国,エストニア共和国,ラトビア共和国,リトアニア共和国に対し心からの祝福を送ります。
カンボディアの議席を最高国民評議会が占めることとなったこととあいまち,7ケ国の新加盟国が実現し,国連が創立時の理想を実現できる時代が到来したこの時期に,国連の普遍性が高まったことを歓迎するものであります。
また,国際平和のために多大の貢献をしてきた事務総長の努力を高く評価するものであります。
(新しい世界)
1,2年の間に,世界は,冷戦構造の終焉と湾岸危機という重大な歴史的地殻変動を経験してまいりました。
世界は歴史の大きな転換点にさしかかり,新しい国際秩序の構築を模索しています。新しい世界は,対立から協力へと向い,今や人類の発展の大きな可能性が開かれてぃます。
この流れは地域問題の話し合いによる解決にはずみを与えています。湾岸危機の終了のプロセスが中東,カンボディア,西サハラ,アンゴラ,中米,アフガニスタン等他の地域紛争の平和的解決の促進に好影響をもたらしていることは明らかであります。欧州においても,92年末のEC統合,さらにEFTAとの提携,東欧詣国の欧州への復帰と,将来に明るい展望が開けております。
他方,過渡期に特有の不確実性や不安定性をはらむのもまた事実であります。宗教,民族,領土等に起因する各種の対立が冷戦構造の解消にともない表面化する危険性があります。湾岸危機は,国際社会による断固たる行動によって解決しましたが,今後ともこの過渡期の特色を正確に把握し,誤りない対応を行うことが必要であります。この関連で私は最近のユーゴースラヴィア情勢を深く憂慮するとともに,EC等による平和的解決に向けた仲裁努力を我が国としても支持するものであります。
ソ連において現在現れつつある状況は,自白,民主主義という21世紀に向けての人類共通の価値に向かって歴史的転換をなすものであります。
また,世界の人口の4分の3が住む開発途上国の多くは,深刻な貧困,低成長,累積債務,人口増の問題に悩んでおり,途上国の持続的な開発を図ることは国際社会の責務であります。
さらに,相互依存の拡大により,一国ないし一地域だけでは解決できず,「世界は一つ」の考えにたって取り組まねば解決しない地球環境,難民,麻薬,テロなどのような全人類的課題が続出しています。
このような歴史の大転換期にあたり,世界の各国は新しいアプローチが求められています。世界はそれを踏まえて,新しい国際秩序の構築に向けて,共同の努力を強化しなければなりません。
(日本の基本的立場と新しい世界の目標)
我が国民は,過去の戦争に対する厳しい反省の上に立って,再び軍事大国とならないと固く決意していることをあらためて申し述べたいと思います。戦後の40数年にわたり,経済を始めとする各種の交流を通じて営々と平和国家の理念と決意を政策に反映する努力を重ね今日の発展を築いてまいりました。何故我が国が平和な国際環境の中で今日の繁栄を築きあげることができたのかという原点に立ち帰って,我が国としては,新しい国際秩序の達成すべき目標は次のようなものであると考えます。
平和と安全が確保されること。
自由と民主主義が尊重されること。
開放的な市場経済体制の下,世界の繁栄が確保されること。
人間らしい生活のできる環境が確保されること。
対話と協調を基調とする安定的な国際関係が確立されること。
このような目標は,我が国の国是であると同時に国連憲章そのものの基本的目的に合致するものであります。
協調と協力の関係が支配する新しい時代には,ロンドン・サミット政治宣言の呼びかけにもみられるように国連が国際社会の抱える共通の挑戦に立ち向かうための中核的役割を果たすことが期待されています。
歴史の反省を十分に踏まえた日本国民の平和に対する信条に基づき,また,その経済力の然らしめる世界の将来に対する責任からも,新しい世界の目標を達成するための共同の努力に最大限の貢献をしていくことは我が国にとっての歴史的使命であるといえましょう。
(世界の平和と安定をめざして)
湾岸危機に際し,国際社会は国連を中心に一致団結してこの試練を見事乗り切りました。我が国も,湾岸の平和を回復するための関係諸国の努力や経済的困難に直面した周辺国に対し最大限の協力を行ないました。
法の支配に対するあからさまな挑戦,平和の破壊に対処する国際協力の体験から我が国民の中に国連を中心とした国際平和を確保し,維持するための努力に対し平和国家として相応しい積極的な貢献をすべきであるとの国民的認識が高まりました。この一助として我が国は停戦後の湾岸地域へ環境対策や難民救助のため国際緊急援助隊を派遣し,また,航路の安全確保のために掃海艇を派遣しました。
停戦成立後も,国境画定,停戦監視,賠償処理,イラクの大量破壊兵器の廃棄等,戦後処理の課題が山積しています。これらの処理は全て国連に委ねられましたが,大量破壊兵器の廃棄に関する特別委員会の作業を始め,その円滑かつ迅速な実施のためには,イラクによる誠実な決議履行が不可欠であります。また,加盟各国はこれらの国連の活動を積極的に支援する必要があり,我が国としても,引き続き協力を惜しまない所存であります。
湾岸危機後も中東地域の長期安定にとって中東和平問題,湾岸の安全保障問題等の解決が不可欠であります。そのためには域内諸国のイニシアティヴ・意向を踏まえつつ,国際社会全体として積極的に取り組む必要があります。
米ソの共同努力により中東和平問題に関する和平会議の準備が進められていますが,関係当事者全てが柔軟かつ現実的な姿勢をもって交渉の進展を共同で生み出す真撃な努力を行い成功に導くことを希望いたします。我が国として,今後とも国連安保理決議242,338に基づく公正,永続的かつ包括的な和平達成に向け関係者との対話を深め適切かつ可能な限りの協力を行っていく所存であります。
湾岸危機は我々に多くの教訓を教えました。その一つは,武力による紛争が一旦端を発するや,その解決には莫大な人的,物理的資源を要し,人類に多大の損害を与えることであります。
このことから紛争の未然防止が最重要であり,緊急の課題であることは明らかであります。国連が効果的な予防外交の機能を発揮するためには事務総長,安保理,総会の三者が各々の持ち分に応じた役割を果たすことが必要であります。
我が国としては,今次総会に提出された「国連の事実調査に関する宣言案」の具体化として,事務総長が安保理等の支援も得て,早い段階で紛争の未然防止のための活動を積極的に行なう次のような紛争予防システムの確立を提案したいと思います。
I関連情報の恒常的モニターと分析を行う事務局の機能の抜本的強化,
II事実調査団の現地派遣,
III必要に応じ「早期警報」の発出,
IV事務総長の権威による問題解決のための調停・仲介
今次総会における加盟国間の共同努力により実効あるシステムの早期設立に努力したいと思います。
第2の教訓は,兵器の国際移転や拡散を通じる一国の膨大な兵器蓄積が,その国の政治的意図と結びついた場合には,侵略行為の一つの原因となることであります。ゆえに湾岸危機後の最重要課題は,通常兵器の国際移転や大量破壊兵器・ミサイルの拡散の問題に対する取組みの強化であり,我が国は従来から積極的にイニシアティヴをとってまいりました。
通常兵器の国際移転に関しては,透明性の増大に向けて国連報告制度の創設が急務であります。我が国は,本年3月以来その創設を提唱し,海部総理は5月の国連軍縮京都会議で,関連の決議案を今次総会に提出する旨表明いたしました。現在,EC諸国をはじめ関係国と協力しつつ決議案の準備を進めていますが,この制度の早期創設の重要性に鑑み,皆様の幅広い積極的な御支持を求めたいと思います。我が国は,この制度の円滑な実施に必要となる技術的な問題の検討会合を国連と協力しつつ来年,日本で開催する用意があります。また,この制度の実施のため国連軍縮局のデータベース・システムの整備が必要となる場合には,応分の協力を行う用意もあります。
我が国は唯一の被爆国として核兵器の究極的廃絶を目指し,段階的核実験停止も提案してきております。米ソ戦略兵器削減条約の署名を高く評価し,更なる核軍縮努力に期待するとともに,昨今のソ連情勢に鑑み,国際社会が同国による諸条約の批准,履行と厳格な核管理を希望している旨指摘しておきたいと思います。
核不拡散については,核不拡散条約(NPT)体制の普遍化を重視し,私自身,非締約国に度々締結を訴えてきました。仏のNPT署名決定,海部総理訪問時に表明された中国のNPT締結決定,南アのNPT締結を心より歓迎するとともに,仏,中その他の非締約国による早期締結と95年以降のNPTの長期延長を希望いたします。
NPTの強化のためには,国際原子力機関の保障措置制度の強化,改善が重要であり,我が国は特別査察の活用等を提案しております。その関連で,NPT締結国でありながら保障措置協定の締結義務を履行していない国が存在することは誠に遺憾であり,早急な是正を求めたいと思います。
化学兵器については,私が本年6月,軍縮会議での演説で述べたとおり,湾岸危機によるモメンタムが失われないうちに,化学兵器禁止条約交渉を早期妥結に導くことが焦眉の課題であります。来年半ばという目標時期までに残された時間は極めて短く,国連総会の期間中もジュネーヴ軍縮会議において作業が継続されるよう希望いたします。
ミサイルについては,本年3月ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)東京会合で我が国の提案により発出されたアピールのとおり,各国がこのガイドラインを採用するよう改めて訴えたいと思います。
(国連の平和維持機能の強化)
湾岸危機は,国連を中心とする国際協調により紛争を平和的に解決することが如何に尊いものであるかを示しました。更に一旦実現した停戦の合意が再び壊れることのないように監視する国連のPKOの重要性を改めて認識させました。新しい世界において,地域紛争解決の促進に不可欠の活動としてPKOの役割が重要性を増しており,今後さらに活性化の見通しであります。PKOの機能と権威を高めるためには,より幅広い加盟国からの要員参加と安定した財政基盤の確立が不可欠であります。
我が国は,PKOに対しこれまで財政面では立ち上がり経費への自発的拠出,PKO信託基金により貢献してきました。今後,世界の平和のために資金的な協力にとどまらず人的貢献を強化する目的で,国内実施体制を整備するための法案を国会に提出したところであります。
(ソ連の変革と日・ソ関係)
ソ連における変革の波は,新しい国際政治経済秩序の中でのソ連との協力関係への展望に希望を抱かせるものであります。
我が国は,ソ連における歴史的転換を心から歓迎し,次の原則によりつつ新しいソ連との関係を発展させる所存であります。
第1に,ソ連の内外政策全体にわたる改革に対し強い連帯と支持を表明し,適切かつ効果的な支援を強化・拡大していきます。
第2に,各共和国,特に隣接したロシア共和国との多面的協力を飛躍的に拡充・強化していきます。この関連で,ロシア共和国指導者による「戦勝国と戦敗国との区別の存在しない」新たな国際秩序の形成との考え方を高く評価し,その様な新しい協力関係の強化を目指します。
第3に,開かれたソ連が,真に建設的なパートナーとしてアジア・太平洋地域に受容されるための適切な協力を拡大します。
第4に,ソ連が国際経済体制に統合されるため,IMF,世銀への特別提携関係を始め国際経済機関との協力関係を拡大することを積極的に支持します。
第5に,最も重要な問題として,ロシア共和国がつとに重視する「法と正義」に基づき,両国が一日も早く領土問題を解決して平和条約を締結し,両国関係の抜本的改善を図ることが重要であります。我が国は,日露・日ソ関係の飛躍的発展が新たな国際秩序の構築に創造的な貢献を果たすと確信するものであります。
アジア・太平洋地域においては未解決の紛争,対立が依然として存在しています。アジア・太平洋国家の一国として我が国は,対立と分断が永遠に除去されるような国際秩序を目ざし,積極的な外交を展開しております。
その意味で今総会において南北朝鮮の国連同時加盟が実現したことは,歴史的な出来事であり,朝鮮半島に平和と緊張緩和をもたらすものとして歓迎するものであります。今後,南北朝鮮が国連憲章の原則に則り,直接対話を通じ,朝鮮半島の平和的統一に向けて努力していくことを期待いたします。この関連で,先程虜泰愚大統領がその演説で,平和的統一に向けた建設的提案を行ったことを評価します。また,我が国は,本年初めより日朝国交正常化交渉を行っており,朝鮮半島の平和と安定に資するよう,誠意をもって交渉を継続する考えであります。
カンボディア問題にもようやく包括的解決へ向けての確かな明るい兆しが見えてきました。我が国は,和平の達成にはカンボディア人当事者自身の対話の促進が何よりも重要であるとの認識の下,昨年の東京会議開催など一連の外交努力を行ってきており,その意味でシハヌーク殿下の指導の下,SNCが成しとげた最近の進展を心から歓迎する次第です。パリ国際和平会議の早期再開を通じ,国連の適切な関与を得た形で恒久的和平が実現し,カンボディア国民の総意に基づく力強い国造りが一刻も早く始まることを強く期待するものであります。
また,我が国は,アパルトヘイトの法的根幹の撤廃等,南アの国内改革が急速に進展を見ていることを歓迎します。新憲法制定へ向けた話し合いが早期に開始されることを期待するとともに,人種差別のない自由かつ民主的な体制の樹立へ向けての関係者の努力を支援する考えであります。
更に,アフガニスタン情勢についても事務総長の5項目提案,米ソ間の武器供与相互停止の合意等による政治的解決に向けての動きを歓迎し,関係当事者の粘り強い努力を支持する考えであります。
(世界の持続的繁栄をめざして)
深刻化する経済社会困難に悩むアジア,アフリカ,ラ米の多くの開発途上国の開発を促し,繁栄を達成することは世界の安定にとって死活の重要性をもっています。これは,核戦争の危機,イデオロギーの対立がすぎ去った新しい世界における国際社会の最大の責務であります。
経済再建・発展のため国際機関等とも協調しつつ自助努力を行っている途上国を支援することが必要であり,特に,これら諸国に民間資金を含めた必要な資金が先進国から流れていくようにすることが必要であります。我が国は,第4次中期目標のもとODAの拡充に努めるとともに,資金還流措置を着実に実施中であります。
我が国は特別の配慮が必要なLLDC諸国の抱える諸問題に関する東京フォーラムを今年5月国連資本開発基金との共催で開催しました。このような国際的協力の輪を広げ,アフリカ諸国の開発に関する首脳レベルのアフリカ開発会議を1993年東京で開催することを予定しております。
多角的自由貿易体制の維持・強化は世界経済の発展にとり不可欠であり,ウルグァイ・ラウンドの成功裡終結は,国際経済分野の最優先課題であるとともに,我が国の優先外交課題であります。我が国としては,ウルグァイ・ラウンドの年内妥結に向け,関係諸国とともに最大限の努力を払う所存であります。
(人間性が豊かで住みやすい世界をめざして)
持続的繁栄の大前提は,人類の生存基盤を脅かす地球環境問題の解決に努め,住みやすい地球を作っていくことであります。近年温暖化の脅威,熱帯雨林の激減,オゾン層の破壊,砂漠化の拡大等地球環境は,むしろ悪化の傾向にあります。
昨年発足した国際防災の10年に自然災害の未然防止,緩和に向け努力を倍加することが必要であります。
地球環境問題を解決するためには,人類全てがあらゆる境界を乗り越え共同して対処していかねばなりません。
明年の「国連環境開発会議」(UNCED)は全ての国が人類共通の未来のために良好な生活環境を確保する方途につき合意する重要な機会であります。我が国はアジアの先進国として,また,開発と環境対策を両立させた国として,先進国と開発途上国の協力体制作りに貢献し,この会議の成功のため積極的役割を果たす覚悟であります。このような立場から気候変動枠組み条約交渉に引続き重要な役割を果たす所存であります。
途上国における環境保全の対応能力の向上を支援するため,UNEP国際環境技術センターの日本設置,国際熱帯木材機関等を通ずる熱帯林の持続的経営の支援を始めとして,地球環境分野への援助を今後とも積極的に実施していく方針であります。
また,人間性が豊かで,人間らしい生活のできる世界を作るための努力は一国のみでは不可能な全人類的課題であります。すべての人間が,基本的人権を保障され,天賦の能力を発揮できるようにすることがこのような世界を作る第一歩であります。我が国としても,人権の尊重が普遍的な価値を有し,また平和と安定の基礎であるとの立場から,世界における人権の尊重と促進に積極的に取り組んでいます。しかし,未だ一部の国においては基本的人権が尊重されていない事実を憂慮しております。
東欧で切っておとされた民主化の波は,世界各地の民主化への大きな流れとなって世界の変革をもたらしています。日本政府は,本年4月,政府開発援助の実施に当って,被援助国の軍事支出の動向等とともに,民主化の促進及び市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況等に十分な注意を払うとの考え方を明らかにしました。我が国としては,この考え方を踏まえることにより,援助を通じても世界の民主化,経済改革努力を支援し,貢献する所存であります。
世界各地の地域問題や紛争のため,増加する一方の難民・避難民の惨状は人間としての尊厳を真向から否定するものであります。1,700万人にのぼるこれらの悲惨な人々に対し救済の手をさしのべることは世界が一丸となって推進すべき責務であります。我が国としても今後ともUNHCRを始めとする関係国際機関を通じ積極的な援助を実施していく所存であります。また,難民の発生を予測し,その発生に備えて早期警報を発出するシステムを国際機関を中心として作業部会で研究することも適当であると考えます。
大規模な緊急事態に対する国連救済活動の能力を強化することが急務であります。事務総長の下,人道援助機関間の調整・協力体制を強化し,救済活動の最も効果的な実施のため所要の措置が必要と考えます。我が国としては,各国・国連諸機関が各々要員,救援物資を緊急に提供しうる体制を整備することが有効と考えており,我が国としてもこのような国際協力の輪に今後とも積極的に参加していきたいと思います。
(国連の機能強化)
国連は,新しい世界の秩序造りのための国際的協力の中心的役割を果たす事が期待されています。約半世紀にわたるこの間,国連の歴史でこれほどまでに国連に対する広汎な支持と期待が高まったことはありません。その歴史で始めて創立者達の理想が花開く展望が開けたと申せましょう。
歴史の大きな転換点に当たり,人類にとっての壮大な事業に国連が期待される役割を果たし,21世紀に向けて意義あるものとしうるかは我々加盟国が如何にこの機構を活用し,支援し,守っていくかにかかっています。国連は加盟国が作りあげていくものであります。
この機構の現在の体制は期待される任務を十分効率的に実施できるものであるとは言いきれません。新しい時代に十分対応できるより効率的で強力な機構作りが必要であります。国連の機能強化のために国連を重視する加盟国が事務総長とともに力をあわせて,努力していくことが求められています。我が国としても出来る限りの協力を惜しまない所存であります。この関連で私は,憲章中の旧敵国条項は速やかに削除されるべき全く不適当な歴史的遺物であることをあらためて指摘しておきたいと思います。
この総会は,冷戦構造の終焉と湾岸危機後という2つの戦後,さらにはソ連の大きな変革という状況の中で新しい世界のありかたが問い直される歴史的会期であります。我が国としては,平和国家として我が国に相応しい国際的責務を最大限果たしていくことがその歴史的使命であると認識しており,この立場から人類にとって平和で繁栄し,人間性豊かな世界を実現するためにあらゆる努力をしていく覚悟であります。
このような努力の積み重ねによって具体的な成果を上げていくことが真にこの会期を意義あらしめるものであります。共同の努力に参加すべきではありませんか。
(2) 宮澤内閣総理大臣の大韓民国訪問における政策演説(於ソウル)
(アジアのなか,世界のなかの日韓関係)
(92年1月17日)
(はじめに)
尊敬する朴浚圭国会議長,そして御列席の大韓民国国会議員の皆様,
私は,本日,大韓民国を代表する皆様に,そして皆様を通じて韓国国民の方々に,こうしてお話をする機会を得たことを,大変うれしく存じます。国会閉会中にもかかわらず,私にこのような機会を与えて下さった議長閣下,各党の指導者と議員の皆様に,心から感謝の意を表したいと思います。
世界は今日,まさに激動の最中にあり,ここ朝鮮半島にも大きな変化の波がおし寄せています。貴国は昨年秋,ついに40数年来の念願だった国連への加盟を果たされ,また,去る12月の南北首相会談では,画期的な合意書が署名されて南北の関係に大きな進展が見られました。まさに慶賀すべきことであり,隣国としても喜びにたえません。
私は,かねてから貴国の力強い成長ぶりに注目し,是非とも貴国を訪問して虜泰愚
(新しい平和秩序を求めて)
御列席の皆様,
冷戦の終焉は,平和を切望する世界のひとびとにとって朗報でした。私たち人類は新しい世界に大きく一歩を踏みだしたと言うことができます。しかし,湾岸危機をはじめ,旧ソ連邦の混乱やユーゴースラヴィアの内戦など,冷戦後の世界は激しい流動を続け,新しい平和秩序の確立が容易ならぬものであることを示しています。
このような時代に対処するには,世界のあらゆる国々が,積極的にその力を合わせ,新たな秩序づくりに向けて努力を行わなければなりません。世界の諸国が国連を中心に結集し,世界の平和と安定のために,それぞれの国力と国情に応じた貢献を行わなければならない時代が来ています。いまこそ国連がその創設時の理想の実現に邁進すべきときではないでしょうか。
私は,この意味からも,貴国が,正式に国連の仲間入りをされたことを,誠に心強く感じます。日韓両国は,アジアと世界のダイナミズムの牽引車としての役割を果たすことを求められています。両国が,これを契機に,国連という場においても,相談し合い,協調し合って行くことが大切です。日韓の協力関係は,国際社会に対して新たな意義を持つこととなるでしょう。
世界の平和と安定に貢献する際に我が国は,過去の教訓を踏まえ,平和憲法のもと専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針を堅持してまいります。そして,この方針をむねに,国際の平和と安全の維持のため,経済的貢献の強化に加え,政治的,さらには人的貢献の強化をはかってまいります。とくに,多大な貢献をしている国連の平和維持活動に対しては,平和維持隊への参加も含め,一層の人的協力を可能にするよう,現在国内体制の整備を進めており,国際社会の期待に応えていく決意です。
(アジア・太平洋地域)
御列席の皆様,
昨年10月のパリ会議において,カンボディア問題の包括的政治解決のための合意が達成されました。我が国は,アジアの一国として,また,カンボディア問題についての東京会議を開催する等の努力を行ってきた国として,このたびの和平の到来を心から喜んでいます。カンボディアは,今回の合意をもって長く苦しい戦火に終止符を打ち,国家再建に取り組んでいくことになりました。それは,東南アジアで最も不安定な地域だったインドシナ全体が,アジア・太平洋地域の活力ある経済発展に参加することを意味するとともに,私たちが強く関心を抱いているアジア・太平洋地域の平和と安定に明るい希望を投げかけるものでもあります。
そして今,アジア・太平洋地域は,近年のめざましい成長によって,国際社会から大きな注目を集めるようになっています。21世紀の世界を引張っていくのはこの地域だと言う人もいます。私は,このようなアジア・太平洋の活力は,この地域の人種,宗教,文化,伝統,価値観,経済の発展形態等が極めて多様であることに起因すると思います。かつては,その多様性と,それゆえの複雑性は,アジアの発展を遅らせている原因だとされました。しかし,時代の大きな変化の中で,いまそれが自ずと補完し刺激し合うようになり,たくましいエネルギ一が生み出されているのです。
したがって,私たちは,この地域の発展をはかるに当たって,それが持つ多様性を尊重しつつ,域内の協力と対話を,この地域に適する,開かれた形で強化していかなければなりません。域内の協力と対話の場としては,既にアセアン拡大外相会議があり,この会議に貴国が昨年から参加されるようになったことは,心強いかぎりです。私はまた,1989年のアジア・太平洋経済協力閣僚会議,すなわちAPECの発足を極めて意義あることと考えています。特に,昨年秋,貴国で開催された第3回APEC閣僚会議において,中国,台湾,香港の参加が実現し,APECの理念,指針等を示す宣言が採択されたことを高く評価したいと思います。APECにおける我が国と貴国との協力がますます重要になっていくことは疑いありません。
さらに,私は,朝鮮半島と中国とロシアと我が国とを包含する北東アジアの大きな発展の可能性に注目したいと思います。この地域には,豊富な労働力と資源があり,日韓の経済力と技術力があります。今まで政治の壁にはばまれ,必ずしも十分な交流,協力が行われなかったこの地域ですが,冷戦の終焉に伴い,それぞれの経済の長所,短所を補い合い,生かし合える素地ができつつあります。日韓両国を中心に,また,米国等他の関係諸国の協力も得つつ,この地域を「緊張」の地域から「協力」の地域に変え,繁栄する開かれた北東アジアを創造することは,努力次第で実現の可能な私たちの夢と言えましょう。私は,この夢の実現の成否は,我が国と貴国との今後の協力にかかっていると申しても決して過言ではないと思います。
(朝鮮半島情勢)
日本国民は,朝鮮半島に平和的な統一が実現する日が来ることを心から願っています。それは,何よりも朝鮮半島の平和と安定が東アジアの平和と安定の要であるからです。また,その平和的統一を求めてやまない皆様の民族的な願いは,ここに多くの友人を有する隣人として,私たちにも痛いほどよくわかるのです。同じ家族でありながら,離れ離れになって暮らさなければならない朝鮮半島の離散家族の話を耳にするたびに,私は,胸を締めつけられる思いがいたします。日本人の中にも,配偶者と共に北朝鮮に移住したひとびとがおり,日本にいるその父母や親類縁者は再会を望んでいますが,なかなか実現いたしません。多くは高齢になったこれらのひとびとから,私たちに寄せられる手紙には,北朝鮮に移住した娘や妹に一目会いたいという思いが切々と綴られています。分断の悲劇は一日も早く終わらせなければなりません。その際,朝鮮半島の平和的統一は,南北間の対話を通じて達成されるべきものであることは言うまでもありません。
昨年の南北首相会談で署名された合意書の中で,私が特に注目しましたのは,貴国の主張によって南北間の交流と協力がうたわれたことであります。イソップ物語にもあるように,人がマントを脱ぐのは,北風に吹かれたときよりも,暖かい太陽の光を浴びたときであります。私は,異なる政治,経済,社会体制の中で半世紀近くも過ごしてきた人々に,同胞としての変わらない愛情をもって接しようとする貴国の暖かい心に感銘しました。同時にまた,北朝鮮を孤立化させるよりもむしろ外の世界に迎え入れた方が,その改革と変化,特に開放を促し,朝鮮半島の平和と安定に資するという貴国の考え方に共鳴しました。貴国が,北朝鮮の国連加盟を支持されたのも,そのような気持の現われと言えるのではないでしょうか。私は,北朝鮮が,貴国の真意を理解し,国際社会の責任ある一員として行動するよう強く希望いたします。
我が国が現在北朝鮮と行っている国交正常化交渉は,これまでに5回の会談を重ねました。この交渉において,我が国は,日本と北朝鮮との間の不正常な関係を正すという側面だけでなく,日朝間の国交正常化が朝鮮半島の平和と安定に資するべきであるという側面をも重視しています。これは,北朝鮮を責任ある一員として国際社会に迎え入れた方がよいという貴国の考えと軌を一にしています。また,私は,これまでの会談で,我が国がこうした考え方に立って,朝鮮半島の平和と安定にとって特に重要な南北対話の促進を,常に呼びかけてきたことを申し上げておきたいと存じます。
ただし,かなり活発な議論の結果,双方の立場についての理解は進んだものの,日朝両者間の基本的立場の隔たりは依然としてさほど狭まってはおりません。とくに私は,核開発問題はこの地域の安全にとって重大であり,日朝の国交正常化までにどうしても解決しておくことが不可欠だと考えます。唯一の被爆国たる日本の国民は,朝鮮半島において核兵器が開発されることがないよう心から念願しています。そのため,我が国は,従来から,北朝鮮が国際原子力機関の査察を受け入れることに加え,再処理施設を保有しないよう求めてきたのです。
我が国は,貴国がこの問題の解決に向けてとってこられた非核化宣言,南北同時査察提案,核不介在宣言等の一連の措置を高く評価してきています。また,昨年末に南北間で非核化に関する共同宣言の案文に仮署名が行われたことは,この問題の解決に向けての大きな前進であり,心から歓迎します。我が国としては,今後この宣言が早期に実施に移されることを期待するとともに,北朝鮮がその言葉通りに,一刻も早くIAEA保障措置協定を締結,完全履行し,核開発に関する国際的な懸念を解消するよう引き続き強く求めてまいります。
我が国は,近い将来に朝鮮半島のすべてのひとびとの幸福を保障する平和的統一が実現することを期待し,今後とも貴国とは緊密に連絡をとりつつ,引き続き北朝鮮との交渉を粘り強く進めていきたいと考えます。
(日韓関係)
御列席の皆様,
日本国民は,貴国が世界の平和と自由と繁栄のため,努力してこられたことを知っています。1988年のオリンピックも,湾岸危機における多国籍軍への協力も,先般のアジア・太平洋経済協力閣僚会議の開催も,その一例だったと思います。日本国民は,貴国のそのような努力を高く評価し,その成功を心から喜んでいます。
貴国は今や世界の有力な国家であります。世界が貴国に期待する国際的役割もますます大きなものとなるでしょう。新しい世界への困難な航海をするに当たって,我が国が,そのような貴国を,歴史的,文化的な共通点の多い隣国として持っていることを,私は実に心強く感じます。このような貴国と我が国との間のゆるぎのない関係は,両国はもとより,アジア,ひいては世界を大きく稗益するでありましょう。そして,そのようなパートナーシップを,私は,「アジアのなか,世界のなかの日韓関係」としてとらえたいと思います。
このように重要なパートナーシップの基礎として,私たちは,何よりも両国間の信頼関係を確固たるものとしなければなりません。我が国と貴国との関係で忘れてはならないのは,数千年にわたる交流のなかで,歴史上の一時期に,我が国が加害者であり,貴国がその被害者だったという事実であります。私は,この間,朝鮮半島の方々が我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されたことについて,ここに改めて,心からの反省の意とお詫びの気持ちを表明いたします。最近,いわゆる従軍慰安婦の問題が取り上げられていますが,私は,このようなことは実に心の痛むことであり,誠に申し訳なく思っております。
さらに私は,先の大戦時に生きた人間の一人として,21世紀を担う次の世代に,私たちの世代の過ちを過ちとして伝え,これを二度と繰り返すことのないよう,歴史を正しく伝えていかなければならないと感じています。それは,私を含めて,私たちの世代の責任です。我が国はこれまでも日韓関係の正しい理解の普及に努めてまいりましたが,今後ともこのような努力を重ねてまいりたいと考えております。私は,過去の事実を直視する勇気,被害を受けられたひとびとの感情への理解,そして,二度とこうした過ちを繰り返さないという戒めの心を,国民のあいだ,とりわけ青少年たちのあいだにさらに培ってまいる決意です。
今日,日韓両国の交流・相互依存関係は,飛躍的に高まっています。それに伴って,新たな摩擦や問題が生じてきていることも否定できません。しかし,これらの問題は,率直な話合いによって,理解や協調という解決を求めることができるでしょう。貿易不均衡についても,両国の協力により,貿易の拡大均衡の方向で解決されていくものと信じています。そのため,私は,泰愚大
私たちは,常に明日の世界を見つめつつ,二国間の調和と協力に全力を尽くさなければなりません。それが,未来志向的な日韓関係を深め強化して,新しい世界をつくっていくための重要な道程です。
二国間の相互協力の土台は相互理解です。相互理解を推し進めていくには,双方が相手の歴史,文化,社会等をよく知らなければなりません。一昨年の虜泰愚
私は,こうした関心の高まりを活かすため,新たに次のような措置をとっていきたいと考えます。一つは,我が国の大学等における朝鮮半島の文化,言語等に関する教育研究と日韓両国の大学等の共同研究の一層の推進です。これを通じて両国の学術的,知的な交流が発展することが期待されます。もう一つは,貴国の歴史,文化,思想,伝記等の優れた書物を日韓共同で日本語に翻訳した上,我が国で出版し,我が国国民の幅広い層に貴国に対する理解を深めることです。また,これまでもいろいろな施策を講じてきた青少年交流については,明年度から5年間にわたり,さらに500名の貴国の青年を我が国に招聘したいと思います。これに加えまして,私は,単に二国間だけでなく,近隣国を含めた幅広い交流を進めていくため,日本,韓国,中国,旧ソ連邦等の青年を対象とする多角的な青年交流計画を検討しているところです。
他方,貴国におかれても,我が国の歴史,文化,社会等に対し理解を深めていただくことを希望いたします。このような双方の努力が進むならば,人的,文化的な交流はさらに進み,両国の友好協力の関係は,ますますゆるぎないものとなるにちがいありません。
御列席の皆様,
「漢江の奇跡」と呼ばれる貴国の経済成長は,すでに世界の知るところとなりました。日本がアジアで唯一の先進工業国であった時代は既に過去のものになりつつあります。両国が手を携えて,アジアで,また国際社会で行っていくべきことは,多くの分野に広がっています。
私はまず,我が国は,いまや援助供与国となった貴国と協調しながら,経済的貢献を進めていきたいと考えています。双方の豊かな経験を生かして,開発途上国への経済協力を推進していけるとは,実にすばらしいことではありませんか。
また,私は,自由貿易体制の恩恵を受けてきた日韓両国は,その体制の維持と強化に共に努力していくことが必要であり,ウルグァイ・ラウンドの成功のため協力していきたいと思います。
さらに私は,新しい協力分野として,日韓間の環境協力を挙げたいと思います。明るい21世紀をつくり,次の世代の子供たちに美しい自然の遺産を残していくため,共に国境を越えた課題としてこれに取り組んでゆこうではありませんか。
(むすび)
御列席の皆様,
私の地元の広島県福山市には,鞆浦
私は,日韓両国の先人たちが残してくれたこのような交流の歴史の上,「アジアのなか,世界のなかの日韓関係」として何百年,何千年と続く両国の友好協力関係が築かれることを願ってやみません。このたびの私の貴国訪問が,そのような両国の関係の進展にいささかでも貢献できるものとなることを願いつつ,私の話を終わりたいと思います。
御清聴ありかどうございました。
(92年1月31日)
メージャー首相閣下,
ブトロス=ガーリ事務総長,
御列席の皆様,
国連の輝かしい未来への船出にあたる1992年の年頭,安全保障理事会が初めて首脳レベルで開催されることとなったことは,誠に時宜に適ったことであり,私は,この会合の実現のために並々ならぬ指導力を発揮されたメージャー首相閣下に対し,心から敬意を表します。
次に私は,ロシア連邦を代表して初めて国連の舞台に出席されたエリツィン大統領を心から歓迎したいと思います。ロシア連邦の政治・経済的な安定は,世界の平和と安定にとり極めて重要であり,私は,同国が国連においても安保理常任理事国としてその特別の責任を十分に果たされることを希望いたします。
私はまた,国連の果たす役割に対する大きな期待の高まりの中で就任されたガリ新事務総長に対し,心から祝意を表すると共に,あらゆる面で支援を惜しまないとの日本政府の決意を表明いたします。
(国際情勢の変化と国連)
議長,
戦後長きに亘った東西の冷戦が幕を閉じ,歴史は今,第2次大戦後の世界の構図を大きく塗り替えようとしています。「冷戦後の時代」と称される今日,国際情勢は極めて流動的でありますが,この「冷戦後の時代」は,同時に,新しい世界の平和秩序を構築する時代の始まりとも申せましょう。来るべき秩序の姿は未だ明確ではありませんが,人類の自由と繁栄,地球の将来のため,各国が共に手を携えて新しい時代に相応しい平和秩序を作り出していかねばなりません。
このような状況の下,昨今国連は,世界平和の維持・創造に向け,名実共に中心的な役割を果たしつつあり,国連に対する各国国民の期待もかつてないほど高まっております。湾岸危機における安保理を中心とする国連の活動は記憶に新しいところでありますし,中米和平の達成,ユーゴー紛争の解決,更にはカンボディア和平の最終局面等においても国連の関与がこれらの成功の鍵を握っているといえます。
特に,創設以来四十数年間,国際の平和と安全の確保のために大きな役割を果たしてきた国連平和維持活動(PKO)は,今日その重要性を一段と増しております。このことは,昨年だけでも5つもの新たなPKOが設立されているという事実に現れております。アジア・太平洋地域においても国連カンボディア暫定機構(UNTAC)の設立が近日中にも見込まれておりますが,このUNTACの活動は国連がいまだかつて経験したことがない程の壮大なものとなりましょう。このような状況の中で,PKOは加盟国の一層積極的な協力が求められる分野であると考えます。なお我が国としても,まさにこのような認識の下にPKO活動への人的貢献を可能とする国内体制の整備に努めているところであり,私としても,今月より開始された国会において,PKO法案の成立を期したいと考えております。
平和の維持と創造に対し国連の果たす役割への期待に応えていくにあたり,国連は現在どのような課題に直面しているのでしょうか。
(国連が直面する課題)
議長,
現在の国連にとって最大の課題は,第1にいかに時代の変化に適合していくか,第2に国連がいかにその有効性を高め平和の創造と維持を推進していくか,及び第3にそのための財政的基盤をどう確保していくかの諸点にあると考えます。
先ず第1に,世界の平和秩序を確保する上で,普遍的な指導原理である国連憲章の理念と目的は従来以上に重要な意味を持ってくるものと思われます。我々は,これらを一歩ずつ現実のものとする努力を着実に積み重ねていがなければなりません。これらの理念と目的をより良く実現していくためには,時代の変化に適合して,国連自身が変革していくことも必要であります。例えば,憲章の一部には,冷戦よりも更に古い1945年の国連創設当時の状況を前提にしたものもあります。また,安保理が国際の平和と安全を確保していく上での国連の努力の中核として,その機能,構成を含め,新たな時代に一層適合したものとなるよう,絶えず検討を続けていくことが重要でありましょう。勿論我が国自身,このようなプロセスに積極的に参画していく所存であります。
第2に,今日の世界の平和秩序の確保にあたり国連がその機能をより効果的に果たしていくための具体的強化策を検討することが重要であります。この関連で,平和維持活動の重要性については繰り返すまでもありませんが,ここでは特に紛争予防のための機能を強化することの重要性を指摘したいと思います。この点,種々の仲介・調停努力等の面において重要な役割を果たす国連事務総長が国際紛争に繋がり得る緊張に関する情報を十分に有していることが不可欠であります。昨年12月の国連総会において,我が国他の提唱により,「国際平和の維持の分野における国連の事実調査に関する宣言」が採択されたことは,この方向に向けての一歩前進と考えますが,更に,高度な情報収集能力を有する国々が入手した情報を的確に国連事務総長に提供することができれば有益であり,そのための方途が検討されるべきでありましょう。
第3に,国連の有効性を高め,その諸活動を円滑に行っていくためには財政基盤の確保がきわめて重要でありますが,その点で国連の財政は,昨年秋のデ・クエヤル前事務総長の報告にも述べられているように,依然として危機的な状況にあります。昨年末現在でなお8億ドルの分担金の未払いがあり,今後国連が新しい世界平和の秩序の構築に向けて中心的な役割を果たしていくためにはこの点についての加盟各国の早急かつ真剣な取組みが必要であります。PKOもまた,深刻な財源の問題に直面しております。とりわけ,立上がり段階における資金の確保はPKOの円滑な展開の鍵を握っていると言えます。加えて,担当の経費を負担することになる国を含む関係国が早い段階からPKO設立に関する協議に参画することの重要性も指摘し得ます。
(国際司法裁判所の活用と機能強化)
また,国際紛争の平和的解決の促進に寄与するとの観点から,国際司法裁判所(ICJ)の役割が重要であることを指摘したいと思います。国際社会における法の支配強化が新しい平和秩序の中核となるべき時にあって,国際司法裁判所の一層の活用と機能強化を図っていくことが肝要であります。
(人類共通の課題への取組み)
議長,
伝統的な考え方によれば,平和と安全に対する脅威とは,軍事力によるものと見られておりました。しかしながら,軍事的な脅威が相対的に低下しつつある今日,経済や科学技術の発達という人類の輝かしい側面が,皮肉なことに地球規模の環境問題等,将来の人類の生存を脅かしかねない問題を提起するようになっております。おりから,本年6月には環境と開発に関する国際会議(UNCED)が開催されることもあり,国連としてより一層効果的かつ真剣な対応が求められていると考えます。
また今日,世界平和の流れを将来にわたって一層確実なものとするためには,いわゆる「平和の配当」を,全人類,とりわけ,飢餓や貧困,疾病などに悩む「南」の人々にあまねく拡げていくための国連による努力の重要性も忘れてはなりません。国連の南北問題への真撃な取組みは国際の平和と安定を高めるものであり,開発途上国の自助努力に対し,援助を適切に実施していくことが必要と考えます。更に,このような努力を通じ人権や民主主義といった人類共通の価値が一層拡大することも可能となりましょう。
(軍備管理・軍縮)
議長,
平和を担保する軍備管理・軍縮において国連の果たす役割も極めて重要であります。我が国は,従来よりその役割の強化に積極的に貢献すると共に,関係国の軍縮努力,特により低位の戦略的安定に向けての核軍縮の努力を強く支持して参りました。この関連で,私は,先日ブッシュ,エリツィン各大統領が示された軍縮提案を歓迎すると共に,これらが今後,両国間の協議を通じ具体的な成果として結実するよう衷心より念願する次第であります。
国際情勢の激変は,大量破壊兵器の拡散防止を始めとする軍縮の重要性に新たな脚光を当てております。特に旧ソヴィエト連邦の解体と新たな独立国家共同体(CIS)の誕生に伴って生ずる大量破壊兵器,その製造設備,更にこれらに関する技術の拡散の可能性を如何にして防止するかは,現下の緊要な世界的課題であることに各位の注意を喚起したいと思います。私はCIS各国の首脳が軍事偏重の体制から脱却するために大きな努力を払っておられることを高く評価すると共に,これら諸国が今後とも核兵器をはじめとする大量破壊兵器,関連技術の拡散の防止に向け更に努力することを心から期待致します。
また,兵器の拡散・移転は国際社会全体の問題であり,我が国,EC諸国等の発意の下,昨年の国連総会でその創設が決定された通常兵器移転の国連登録制度の円滑な実施に向け,安保理各国の協力を得たいと思います。核不拡散条約(NPT)体制の強化,化学兵器禁止条約交渉の今年中の妥結も重要であり,安保理としてこれらの進展に今後とも重大な関心を持ち続けることが必要であります。
(結語)
議長,
以上のような基本的認識の下で,21世紀の国際情勢に相応しい国連を築くため,具体的な提案として私は次の諸点を提起したいと思います。
1.1995年の国連創設50周年を念頭に置きつつ,国連が新たな世界平和の維持と創造のために中心的役割を果たし得るよう,その機能,組織の在り方を含め,国連において議論を重ねる。
2.PKOの円滑な活動を確保するために,特に大規模なPKOについては,PKOに対し大きな財政その他の貢献を行っている国,及び地域の関係国等を含む適正規模の協議グループを必要に応じ設置し,PKOの設立に関する協議体制を確立する。また,立ち上がり段階における財源確保をより確実なものとするとともに,国連に設けられた平和維持活動支援強化信託基金に対する各国の自発的拠出を呼び掛ける。
3.環境,難民,貧困等,将来の人類の安全と繁栄に対する非軍事的な脅威に関する国連の役割を強化するための具体的方途を探る。国連事務総長は,このような非軍事的脅威についても国連関係機関の注意を促すこととする。
4.軍備管理・軍縮努力については,旧ソ連邦の解体に伴う核管理問題を含む大量破壊兵器の拡散防止や通常兵器の移転問題に関する関係国及び国連の取組みを格段に強化するための具体的措置の検討に緊急に取り組むことを呼びかける。
議長,
国際の平和を維持し,人類の一層の発展を図ることは,国際社会の構成員すべての責務であります。21世紀に向けて,新たな国際平和秩序を構築するにあたり,世界の各国が,また安保理自身が真撃に問題に取り組むことが求められています。我が国もまた,今回の安保理非常任理事国への選出には過去のいずれの場合にも比べるべくもない大きな責任が伴うものと受け止め,憲法の基本理念である国際協調のもと,国連に対し引き続き最大限の支援を行って参る所存であります。
(4) 国連環境開発会議(UNCED)における宮澤内閣総理大臣演説
(92年6月13日)
コロール議長閣下,ガリ事務総長閣下,並びにご列席の皆様,
まず,皆様の前で所見を述べる機会を与えて頂いたことにつき,開催国ブラジルをはじめとして関係者に深く感謝致します。
議長,
世界は今大きな転換点にあります。我々は新しい国際秩序を模索しています。この新秩序は,人間一人一人の幸福を重視し,自由,民主主義,持続的開発という原則を通じて人間の尊厳が全うされる秩序でなければなりません。我々は,新しい「地球市民時代」の構築を目指すべきであります。
環境を保全しつつ持続可能な開発を実現することは,「地球市民時代」の最も基本的な要件であります。我々が地球的行動をとり得るか,しかも,今取り得るか否かに,将来の世代の生存がかかっています。
議長,
今回,リオ宣言をはじめ,環境分野の国際協力の枠組みについていくつかの画期的な合意が得られたことは,持続的開発に向けての我々の取り組みの重要な第一歩であります。
気候変動枠組み条約に関しては,特に先進国を中心とした全ての諸国がコミットメントを忠実に実施することが期待されております。我が国は,「地球温暖化防止行動計画」に従ってCO2排出量を2000年までに概ね1990年レベルで安定化させるよう努めていく所存です。生物多様性の保護も国際協力の重要な分野であります。オゾン層の保護に関しては,我が国は条約と議定書の義務を前倒しして,96年に全廃する方向で,オゾン層破壊物質の段階的削減を早めて参ります。森林に関する原則声明については,我が国はこれを行動に移していくよう努力します。我が国は,国民運動を通じ,国土緑化に取り組んできましたのでこの経,験を世界の緑化推進に役立てたいと考えます。
貧困の問題と結び付いた途上国の伝統的な環境問題も,国際的な取組みを必要とします。アジェンダ21の行動計画はまさにこれを求めるものです。
我々の仕事は始まったばかりです。これからどのような行動がとられるかが肝要であります。
議長,
私は,環境と開発は両立するのみならず,長期的に見れば,両者は相互に補強しあうものと確信しています。我が国は,戦後,急速な経済成長を遂げた過程で,深刻な公害を経験しました。水銀汚染による水俣病,大気汚染による四日市喘息などの公害に起因する悲惨な病の発生もありました。このことは,幾千年の間,自然の摂理と移ろいと共に生きてきた我が国の人々を深く悲しませました。ここから,我が国は,国際的にも最も厳格な環境規制を実施してきました。企業の側も,技術革新などの努力を鋭意進めました。これらが相俟って我が国は省資源,省エネルギーの社会体質へと脱皮し,環境状況にはようやく顕著な改善が見られるようになりました。今日,世界のGNPの14%を占めている我が国のCO2排出量は世界の総量の5%に充たす,硫黄酸化物(SOx)の排出量はわずか1%に過ぎません。
議長,
我が国は,地球資源を利用して豊かな繁栄を享受する国として,環境と開発に関する国際協力において率先した役割を果たしていくべきであると考えます。
我が国の社会経済はその規模の大きさだけからしても地球環境に大きな係りを持っています。従って,日本を地球に優しい日本としていくことは国際的な責任でもあると思います。私は,日本の社会を,本当の豊かさとゆとりを持った品位ある社会に成熟させていくことを自らの政治的使命と考えており,環境への取組みはその重要な柱であります。具体的には,省資源,省エネルギーを一層促進すると共に,現状を打破する技術的な方途を追求し,これを国際的にも役立てていきたいと思います。
議長,
次に,我が国は,他国,特に途上国による環境への取組みを,現在ある二国間,多国間のメカニズムを通じて支援していきたいと思います。その際,こうした支援が真に有効に活用されるためには,途上国自身の自助努力がまず重要であることも指摘したいと思います。
アジェンダ21を実施していく上では,特に,国際開発協会(IDA)が有益な役割を果たすことになりましょう。第10次増資交渉に当たっては,この点に適切な配慮を払う必要があります。地球環境基金(GEF)については,所要の改善を経て,今後とも地球環境問題に対する資金協力の面で中心的役割を果たすこととなりましたが,効果的かつ効率的実施を確保するメカニズムができることを前提に,適切な資金が確保される必要があります。我が国としても,積極的貢献を検討していく考えであります。
議長,
政府開発援助については,着実にその拡充に努めており,現在88年から92年までの5年間の実績を500億ドル以上とするべく努力中であります。特に,環境分野の援助については,アルシュ・サミットにおいて89年度から91年度まで3年間3,000億円を目標として表明し,その実績は4,000億円以上と立派に達成しました。
国連環境開発会議(UNCED)を契機として,地球環境保全の重要性についての内外における認識が高まっていることを踏まえ,我が国は政府開発援助の適切かつ計画的な実施を通じて,地球の緑,水,空気の保全,そして途上国の環境問題対処能力の向上に貢献をして参りたいと思います。そのため,引き続き本年4月から始まる92年度より5年間にわたり,環境分野への二国聞及び多国間政府開発援助を9,000億円から1兆円を目途として大幅に拡充・強化することに努めることとします。
環境分野の援助実施に当たっては,途上国との共同の努力(パートナーシップ)が特に重要であり,政策対話を通じ優良な案件の発掘,形成,実施を積極的に進めて参る考えです。
資金協力,技術移転,及び人材開発等において,政府の援助のみでなく,民間企業の協力が極めて重要な役割を果たします。NGOの活動ももとより不可欠であります。日本政府はこうした民間の活動を高く評価しており,今後ともこれを積極的に支援していく所存です。
議長,
地球環境を守るための我々の共同事業は,今ようやく緒についたところであります。このリオでの決意をこれからどのように将来の行動に結実させ,地球の未来を守っていくか,それが我々にとっての真の挑戦であります。上り坂がいかに苦しくとも,我々は,前進していかなければなりません。地球市民としての矜持を羅針盤として,共にこの挑戦に立ち向かおうではありませんか。
有難うございました。
(5) カンボディア復興閣僚会議における柿澤外務政務次官ステートメント
(92年6月22日)
1. |
本日ここに,カンボディアの平和と繁栄のために貢献しようという意思を有する多くの国々及び国際機関の代表が一堂に会し,カンボディアの和平プロセスへの国際社会のコミットメントを一層強化する機会を有するに至りましたことは,会議主催国として,また,これまで和平プロセスに深く関与して参りましたアジアの友人として,喜びとするところであります。 また,この機会に,和平の原動力として国民和解に向けた不断の努力を行われているシハヌーク殿下,そして国連史上未曾有の事業に取り組まれている明石特別代表に,深甚なる敬意を表したいと思います。 |
2. |
今次閣僚会議の主要テーマであります復旧・復興に関しましては,1989年のパリ会議以来,将来の和平達成を念頭に置きつつ,関係国・国際機関の間で真撃な議論,努力が積み重ねられて参りました。昨年10月のパリ会議におきましては,今後カンボディアにおける復旧・復興を取り進めて行く上での基礎となる「カンボディアの復旧及び復興に関する宣言」が採択されました。また,本日の会議には,復旧・復興援助の優先分野を特定する上で有益な報告書がUNDP,世銀,IMF及びアジア開発銀行により準備されました。今般この閣僚会議を実現することができましたのも,このような関係者の真剣な努力の賜物であり,また,カンボディア支援に対するゆるぎないコミットメントの反映であると考えております。 |
3. |
我が国としましても,和平合意の達成直後より累次にわたり調査団を派遣し,カンボディアの経済社会状況,復旧・復興にかかわるニーズの把握に努めるとともに,我が国の協力の具体的方途につき,積極的に検討を進めて参りました。これらの調査結果を踏まえつつ,また,4月に発出された国連事務総長アピールにも留意し,カンボディアの復旧・復興に向けて今後数年の間に着手することが必要な案件については,協力を行うこととしております。このため,これまでに行った人道的観点からの支援の他,基礎的なインフラ整備,保健医療,農業,人造り等の分野において,国連事務総長アピールが所要額と位置づけている約6億ドルのうち,約1.5億から2億ドルを目途に協力を行うべく,努力していく所存であります。また,カンボディアに対する復旧・復興支援を取り進めるに際しましては,ASEAN諸国をはじめとする近隣諸国の知識・経験を活用することを念頭に置き,これら諸国との協力の可能性を探求していきたいと思います。 |
4. |
カンボディアの本格的な復興事業が効果的に進捗していくためには,関係国・国際機関の間の緊密な意見交換と,カンボディア側との十分な政策対話が不可欠であります。このような認識は,上記宣言にも,中長期的な復興支援の調整メカニズムとしての「カンボディア復興国際委員会」(ICORC)の設立という形で示されております。右設立の暁には,我が国としては同委員会の議長を関係国・国際機関との緊密な連携の下に務める用意があることを申し添えます。 |
5. |
カンボディアの復旧・復興に関し忘れてならないのは,NGOの役割であります。世界各国の民間ボランティアの方々は和平達成前より長年にわたり,カンボディア各地において医療,教育,職業訓練といった様々な分野で人道的な活動を行ってきておられます。これらNGOの方々は,今後の復旧・復興のプロセスにおきましても,重要な役割を果たされて行くでありましょう。今次会合にもNGOの方々の代表に御参加いただいておりますが,今後とも一層の連携を保ち,そして更に,NGOの活動を一層支援して行くことが望まれます。 |
6. |
「復旧・復興宣言」にもある通り,復旧・復興は,全てのカンボディア国民に遍く稗益すべき性格のものであり,同時に,全てのカンボディア国民が参加し,その知恵と汗を結集することが不可欠な大事業であります。このような全国民的事業を前にして,最近に至り,カンボディアの一派の協力が得られないことにより,和平プロセスの順調な進展が妨げられていることには重大な懸念を表明せざるをえません。我が国としてはカンボディア各派がパリ和平協定に則り,自由・公正な選挙の実施に向けて速やかにUNTACに対して全面的協力を行うことを強く呼びかけたいと思います。また,カンボディアに対する経済支援は国民の福祉・生活の向上を通じて社会の安定に寄与するものであり,自由かつ公正な選挙を実施していくために不可欠の課題であります。本件を政治問題化することだけは厳に避けなければなりません。 なお,UNTACの任務遂行のためには国際社会による必要な支援が確保されることも不可欠であります。我が国としても,UNTACに対し,応分の貢献を行っていく所存であり,先般決定された所要経費6億ドルに係る我が国分担金約7,500万ドルを今月中に支払えるよう手続を行っております。これと同時に,UNTACに対する人的貢献の実現に努力していく所存であります。 |
7. |
カンボディアは東南アジア,そしてアジア・太平洋地域の成長・発展の大きな流れから取り残されてきました。これは地域全体の政治的安定にも重苦しい影を投げがけると同時に,国内外のカンボディア人自身に大変な犠牲を強いてきました。しかし,今やカンボディアにおいて真に永続的な和平が確立することを祈念する国際社会の総意は,カンボディア国民に直接届いております。今後とも,全てのカンボディア国民が自ら努力を重ねて行かれることを強く期待すると共に我々はそのための支援の努力を怠ることは決してないことを明言しておきたいと思います。 |
(6) ASEAN拡大外相会議全体会議(6+7)における柿澤外務政務次官ステートメント
(92年7月24日 於マニラ)
1.はじめに
マングラプス外務長官閣下
ASEAN各国及び各対話国外相の皆様
御列席の皆様
まず始めに,日本政府を代表して,主催国フィリピンに対し,ラモス大統領の下での新政権誕生,そして今回早速本会議主催の重責を果たしておられることに対しお慶び申し上げます。1978年にASEANとの間で外相会議が開催されるようになって以来,我が国はこの会議を極めて重視し,毎回,外務大臣が出席して参りましたが,本年はあいにく渡辺副総理兼外務大臣が健康上の理由から欠席せざるを得ませんでした。渡辺副総理が本会議の御成功を祈念し,次の機会に出席者の皆様にお会いすることを楽しみにしていることを皆様にお伝え致します。
2.ASEAN創設25周年
議長及び御列席の皆様
ASEANは本年で創設25周年を迎えました。日本政府を代表して心よりお祝い申し上げます。ASEANは,四半世紀の間,変化する国際環境に鋭敏かつ現実的に対応しつつ,域内協力を着実に進め,経済面で目覚ましい成果を挙げるとともに,政治的にも友好の絆を強化して来ました。この間ASEAN諸国は,拡大外相会議等の場を通じ,域外国との対話を積み重ね,幅広い協力関係を推進して来ました。我が国は,世界に向かって域内協力の一つのモデルを示したASEAN諸国の強い使命感とたゆまぬ努力に対し,深い敬意を表するものであります。
創立25周年と時同じくして,ASEANを取り巻く国際環境は大きく変動しております。このような中で,ASEAN各国の首脳は,本年1月シンガポールに集まり,今後ASEANが進むべき道につき真剣な討議を重ねられ,いくつかの分野において明確な方向性を打ち出されました。我が国としては,各首脳のこのような政治的リーダーシップに深い敬意を表するものであり,ASEANが今後更なる発展を遂げることを心から祈念するとともに,そのために引き続き積極的な協力を惜しまない所存であります。
3.インドシナ情勢及びカンボディア和平
議長及び御列席の皆様
国際情勢が変化する中で,今後のASEANにとり重要なのはインドシナ諸国との関係を強化し,これらの諸国をダイナミックなアジア・太平洋地域の発展へ取り込んでいくことでありましょう。我が国は,従来よりインドシナ諸国との間に相互理解に基づく関係の醸成をはかり,もって東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築に寄与することを我が国の東南アジアに対する政策の一つの重要な要素として参りました。かかる観点から,第4回ASEANサミソトにおいて全ての東南アジア諸国による東南アジア友好協力条約への加入を歓迎する旨合意されたことを受けて,今般,ヴィエトナム及びラオスが同条約に加入されましたことを我が国としても歓迎するものであります。今後,ASEAN諸国とカンボディアを含む全てのインドシナ諸国及びミャンマーとの友好協力関係が強化され,このことが,東南アジア全体の安定と繁栄に寄与することを期待しております。
インドシナ地域で,もっとも重要な緊急の課題は,カンボディア和平及び復旧・復興に対する取り組みであります。私は先月東京で開催された「カンボディア復興閣僚会議」の議長を務めましたが,同会議では,和平プロセス及び復旧・復興に関する2つの東京宣言が全会一致で採択され,期待を上回る8.8億ドルのプレッジがなされる等,大きな成果を挙げることができました。右を可能にした各国よりの積極的な協力に対し改めて感謝を申しあげます。同閣僚会議においては,「復興なければ和平なし」,「和平なければ復興なし」との認識が参加者に共有されたと考えます。我が国としてはカンボディア各派が東京宣言において表明された永続的な和平の確立に向けての国際社会の総意に応えることを強く期待するものであります。然るに民主カンボディア(DK)が依然フェーズII入りを拒否し,和平プロセスが停滞している現状に対して深い憂慮の念を表明せざるを得ません。民主カンボディアが同派の主張をも考慮して復興会議の際に作成された11項目の提案を真撃に検討し,カンボディアに関するパリ和平協定の迅速かつ完全な実施に向けて国連カンボディア暫定機構(UNTAC)に積極的に協力することが急務となっています。
UNTACはポスト冷戦期の国連の平和維持能力の試金石となるものであります。UNTACが,難民の帰還・再定住,停戦の監視,武装の解除といった任務を順調に果たし,予定通り自由かつ公正な選挙を実施して,右に基づき樹立される新政府の下でカンボディアが速やかに復興に取りかかれるように,各国ともUNTACに対する支援を一層強化していくことが不可欠であります。我が国としては,今般のASEAN外相会議(AMM)において,有意義な議論が行われたことを評価するとともに,本会議においてカンボディア和平につき同様な議論が行われることを期待しております。また,我が国は今後とも関係諸国とも協議連絡の上,和平プロセス促進及びカンボディア復旧・復興のための積極的努力を行っていく所行です。
なお,カンボディアの復旧・復興支援にあたっては,我が国として,ASEAN諸国とも十分協調しつつ積極的にこれを行って参りたいと考えております。昨年,当時の海部総理がASEAN諸国を訪問した際に述べたように,今や日本とASEANは相互の関係に留まらず,広くアジア・太平洋地域の平和と繁栄のために共に考え,共に行動する成熟したパートナーの関係にあります。現在,カンボディア復興のために,カンボディアのニーズを十分踏まえた上で,我が国の資金及び技術をASEAN諸国の経験及び知識と組み合わせる形の「三角協力」により,難民定住促進のための共同事業を推進できないか検討を行っているところでありますが,こうした事業が実現の運びとなれば,日本とASEANとの協力形態に新次元を切り開くことになるものと期待しております。
また,国際平和協力法が成立したことを受けて,国連からの要請を待って行うUNTACへの人的な支援につき具体的に検討して参りたいと考えております。この際に,この法律による我が国の協力は国連の決議や国際機関からの要請に基づき,国連を中心とした国際平和のための努力に協力するものであり,我が国が独自に行うことはあり得ないことを強調致したいと思います。このような人的貢献を行うにあたっては,我が国は正しい歴史認識に基づき過去の教訓を踏まえ,平和憲法を堅持し,二度と軍事大国の道を歩まないことを決意しており,このような基本方針を引き続き堅持していくという我々の決意をアジア諸国の友人に理解願いたいと思います。
インドシナ情勢において忘れてならないのは依然として深刻な難民問題であります。関係諸国の負担軽減のため,我が国は従来より国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の関係予算に各国中最大の支援を行うことなどにより積極的に協力してきました。今後とも引き続き適切に対応していく所存です。
4.政治対話,安全保障のための方策
議長及び御列席の皆様
ASEAN諸国の首脳は,シンガポール・サミットにおいて,拡大外相会議の場を利用して域外諸国との間で政治・安全保障対話を強化することに合意されました。これは,昨年の拡大外相会議において当時の中山外務大臣より行った「安心感を高めるための政治対話」提案に沿うものであり,我が国政府としても歓迎するところであります。我が国はかねてからこの地域における未解決の問題の解決にあたっては,個々の紛争や対立の状況に最適な,注意深く考慮されたサブ・リージョナルな協力が適切であると考えております。同時に,これと並行して,より広い範囲の域内諸国が参加する全域的な政治対話の促進も重要であると認識しております。このトゥー・トラック・アプローチについては,先般米国ワシントンにおけるスピーチで宮澤総理が述べたところであります。このうち,政治対話のためには,この地域には既に多様な国際協力の場が重層的に存在しているとの実態に照らせば,既存の枠組みを利用すべきと考えます。そして,そのような場としてはこの拡大外相会議を活用することが最も適切と考えており,今後,この会議の場で充実した政治対話が行われることを期待しております。
議長及び御列席の皆様
変化する国際環境の中で,アジア・太平洋地域の平和と安定のためには,米国の存在,米国の関与が今後とも極めて重要であります。この地域における米軍のプレゼンスは,単に軍事的のみならず,政治的にも地域の安定要因であります。我が国としても,米国が今後ともこの地域における前方展開を維持していくことを強く期待しております。このため,我が国は,日米安保体制を堅持し,接受国支援の充実を含む種々の手段を通じその円滑な運用の確保と信頼性の向上のために一層の努力を払っていく方針であります。我が国の接受国支援は1992会計年度で40億ドルに達しており,1995会計年度には米軍人軍属の給与を除く在日米軍経費の7割を我が国政府が負担することが見込まれております。ASEAN諸国においても,米国の前方展開を維持するための協力を行っておりますが,我々としてもこれを歓迎しております。
この地域では,先に述べたカンボディア以外にも,朝鮮半島,南シナ海等において,依然として紛争や対立が存在しております。朝鮮半島の緊張緩和を図ることは,今日のアジア・太平洋の安全保障に関わる最も重要な課題の一つであります。このための努力においては,南北の間の対話が基軸であり,このような対話を通じて和解への道が開けてくることを期待して止みません。同時に,かかる対話を周辺諸国が協力して支援していくことも重要であります。また,現在,北朝鮮による核兵器開発の可能性に関し深刻な懸念がもたれており,これが地域の大きな不安定要因となっております。同国によるIAEAの査察受入れは若干の前進を意味しておりますが,残念ながら南北相互査察の実施は未だ目途が立っておりません。これらの査察を通じこの疑念が完全に払拭されるように,アジア・太平洋諸国をはじめとして国際社会が協調して北朝鮮に対する働きかけを行っていかなくてはなりません。我が国も,日朝国交正常化交渉において,この問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化は困難との立場にたって,この目的の達成のために努力する決意であります。
南シナ海は北東アジアとインド洋とを結ぶ海上交通の要衝であります。同海域の群島の領有権をめぐり,最近当事国間の対立が強まっておりますが,関係当事国が,自制しつつ,話合いによる平和的な解決を図るとの観点から,同地域の緊張緩和を目指して,インドネシアのイニシアティヴにより非公式なワークショップが推進され,また,今般のASEAN外相会議において宣言が発出されたことを注目しております。このような努力の積み重ねを通じ,この地域の対立が緩和されていくことを強く期待しております。
5.経済
議長及び御列席の皆様
アジア・太平洋の平和と安定を考えるにあたり,域内諸国の経済発展も不可欠な要素であります。ASEAN諸国はASEAN自由貿易地域(AFTA)創設に踏み切るなど,域内協力の強化を指向しておられます。我が国としては,ASEANが域内の経済関係を強化していくことは,この地域のみならず,世界経済の発展にも貢献し得るものと考えております。このような観点から第4回ASEANサミットで示されたASEAN各国首脳のリーダーシップを評価するとともに,シンガポール宣言が謳っているようにASEANがGATTの諸原則を引き続き遵守し,また,AFTAが多角的自由貿易体制の維持・強化に資するものとなることを期待するものであります。
ウルグァイ・ラウンド交渉の早期の成功裡終結による多角的自由貿易体制の維持・強化は,世界はもとよりアジア・太平洋地域における経済の更なる発展の鍵であり,今次会合に出席されている交渉参加各国にとって極めて重要な協力課題であることは申すまでもありません。ミュンヘン・サミット経済宣言にも述べられているとおり,我が国はウルグァイ・ラウンドの合意が1992年末より前に達成され得ると期待しております。我が国としても,種々の困難はあるものの,相互の協力によるウルグァイ・ラウンドの早期終結に向け最大限の努力を傾注する決意であり,各国からも交渉の進展のため一層の努力を期待するものであります。
我が国としては,アジア・太平洋地域の経済発展の重要性に鑑み,貿易,投資の面での関係発展に努めるとともに,二国間中心の政府開発援助(ODA)とAPECを中心とする多国間の経済協力を引き続き積極的に推進していく所存であります。特に,ODAに関してはこれまでその拡充に努めて参りましたが,今後それだけでなくその一層の効果的実施を図り,内外の理解を深めることを目的として,先般,政府開発援助大綱を閣議決定しました。その中で,我が国は,政府開発援助について,(1)環境と開発を両立させること,(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避すること,(3)軍事支出等の動向に十分注意を払うこと,及び(4)民主化促進や基本的人権の保障状況に十分注意を払うという原則を踏まえるとともに,被援助国の経済社会状況,二国間関係等を総合的に判断して実施するとの考え方を明確にしました。右については,アジア・太平洋地域の諸国にも十分理解して頂きたいと思います。同大綱は,更に,アジア地域の我が国との密接な関係,また,とりわけASEAN諸国の経済発展の世界経済の発展にとっての重要性等をも踏まえるとともに,引き続き我が国ODAの重点をアジア地域に置くこととしております。
6.環境及び麻薬問題
議長及び御列席の皆様
環境問題,麻薬問題等の人類共通の課題に対しまして,我が国は,引き続き各国と協力しつつ取り組んで行く所存です。先ず,我が国の環境問題に対する取り組みについては,先の国連環境開発会議(UNCED)において表明した通り,地球の緑,水,空気の保全及び途上国の環境問題対処能力の向上に貢献すべく,1992年度より5年間に亘り,環境分野に対する政府開発援助を9,000億円から1兆円を目途として大幅に拡充・強化することに努めることと致します。その際,被援助国との政策対話を通じ,優良な案件の発掘・形成・実施に努めて参ります。また,森林に関する原則声明につきましても,我が国はこれを行動に移していくよう努力します。また,麻薬問題は地球的規模の深刻な問題であり,国際社会が一丸となって取り組むべき重要な問題であります。東南アジア地域における麻薬の不正な生産,取引,乱用は深刻さを増しており,これら問題の解決に向けた各国の協力の強化が必要と認識しております。
7.結語
議長及び御列席の皆様
現在,旧ソ連,東欧の民主化や経済改革に国際社会の焦点が当たっております。しかし,重大な変化はアジア・太平洋においても始まっております。こうした変化は欧米では見落とされがちですが,世界の平和と繁栄のためのアジア・太平洋地域らしい国際協力関係の構築が重要な意味を有しております。先般のミュンヘン・サミットの諸会合においてはこの地域についても相当の議論が行われ,また,政治宣言において,「アジア・太平洋地域においては,ASEAN拡大外相会議,アジア・太平洋経済協力(APEC)等の既存の地域的枠組みが平和と安定を促進する上で重要な役割を有する」ことについてサミット参加各国の認識が確認されました。次回のサミットは東京で開催されることもあり,同サミットでアジア・太平洋の視点が反映されるよう,参加各国と一層緊密に連絡・協議していきたいと考えております。
今次拡大外相会議において有意義な議論が行われ,実りある成果が挙がらんことを期待して,私の発言を終わります。
ありがどうございました。
(7) 第4回APEC閣僚会議における柿澤外務政務次官ステートメント
(92年9月10日 於バンコック)
議長閣下,御列席の皆様
昨年に引き続き渡部通産大臣とともに,このAPEC閣僚会議に出席できましたことは私の大きな喜びとするところであります。今回の会合の開催のためにホスト国として献身的に尽力されてきたタイ国政府及び関係者の皆様方に対し,心より感謝申し上げます。特に,昨日は国王陛下に拝謁するという光栄に浴することが出来,またアナン首相主催晩餐会にも出席させて頂きましたが,かかる御配慮に厚く御礼申し上げます。また,渡辺副総理兼外務大臣より,本会議の成功を祈念し,次の機会に出席者の皆様にお会いすることを楽しみにしている旨のメッセージを託されましたので,ここにお伝え致します。
国際社会は,東西冷戦の終焉を軸にして,歴史的な変革期を迎えております。人類は,より平和で,より豊かな世界を創る機会を手にしていると言えます。アジア・太平洋の諸国は,このような中,環境の変化を現実的,鋭敏に捉えながら,独自の道を切り拓きつつあります。
ここ東南アジアでは,カンボディアに於ける永続的和平の達成及び国家再建に向けたプロセスが進められています。私は本年6月東京で開催された「カンボディア復興閣僚会議」の議長を務めましたが,同会議では,和平プロセス及び復旧・復興に関する2つの東京宣言が全会一致で採択され,期待を上回る8.8億ドルのプレッジがなされる等,大きな成果を挙げることができました。同閣僚会議においては,「復興なければ和平なし」,「和平なければ復興なし」との認識が広く参加者に共有され,今やカンボディアにおいては復旧・復興面での取り組みが本格化しつつあります。然るに民主カンボディア派(DK)のUNTACへの非協力に起因し,依然和平プロセスが停滞している現状は打開する必要があり,各国がUNTACに対する支援を一層強化するとともに,カンボディア各派が国際社会の総意に応え,その協定上の義務を迅速かつ完全に履行していくことを強く期待致します。
アジア・太平洋地域は,また,多様性を尊重しつつ,同時に,相互の依存関係を強めてきており,今後とも,世界で最も魅力ある,開かれた地域として発展することが期待されています。このような中,APECは,昨年中国,香港,チャイニーズ・タイペイの参加を実現し,世界のGNPの約半分を占める一大地域協力体に成長,今後の一層の進展が期待されております。このような認識は,本年のミュンヘン・サミットの政治宣言において,ASEAN拡大外相会議と並んでAPECという地域的枠組みが,この地域の平和と安定を促進する上で重要な役割を有する旨謳われたことにも反映されております。昨年のAPEC閣僚会議以降の活動を振り返ってみると,人材養成,電気通信といった本地域の将来に関わる分野のワーキング・グループが一層活発化しているほか,海洋資源保全のワーキング・グループやアドホック経済グループ会合などの場では,国連環境開発会議(UNCED)の成果をも踏まえた,環境への新たな取り組みの必要性が唱えられるようになっております。また,本年8月ワシントンにおいてAPEC教育担当大臣会合が初めて開催され人材養成について新たな角度からの検討を開始する有意義な議論が行われました。このようにAPECの活動はますます拡充の途をたどっております。
今次会合は,APECの将来に向けての推進・強化の礎として,事務局設置及び予算制度の確立という体制整備についてコンセンサスを目ざす誠に意義深いものであります。APECの体制整備が大きく前進し,今後のアジア・太平洋経済協力の進展の礎が固められていくことを期待致します。
(アジア・太平洋地域の経済展望,我が国の経済動向)
議長
去る8月に,東京で開催されたAPECアドホック経済グループ会合の報告にもみられるとおり,アジアNIEs及びASEAN各国の経済発展は引き続き堅調でありますし,北米やオセアニアの経済の復調も確かなものとなりつつあります。
我が国の経済動向について簡単に振り返ってみますと,1987年以降力強い拡大を続けてきた我が国の経済は,1990年末から緩やかに景気の減速を始め,91年後半には調整過程に入っております。我が国経済は現在,住宅建設に回復の動きがみられるものの,個人消費の伸びの鈍化が続いており,設備投資は製造業を中心に弱含みとなっているなど,最終需要を中心に停滞しており,これに加えて株価と不動産価格の大幅な低下もあって厳しい状況に直面しております。かかる状況に政府として適切かつ機動的に対処するため,去る8月28日には,公共投資等の拡大をはじめとする10兆円を超える財政措置を中心とした総合的な経済対策を実施することが決定されたところであります。
右総合経済対策は,我が国経済の内需中心のインフレなき持続的成長に大きく寄与するとともに,本年7月のミュンヘン・サミットの経済宣言にもあるとおり,世界経済の回復の兆しが強まっている中において,世界経済の安定的発展にも資するものとなることを期待しております。
(ウルグァイ・ラウンド)
議長
アジア・太平洋地域の経済的ダイナミズムが,まさしく多角的自由貿易体制に依拠していることに鑑みますと,本地域にとって最優先の経済上の課題はウルグァイ・ラウンド交渉の早期かつ成功裡の終結であることは言うまでもありません。ミュンヘン・サミット経済宣言にも謳われておりますとおり,我が国はウルグァイ・ラウンドの合意が1992年末より前に達成されると期待しております。我が国としても,種々の困難はあるものの,相互の理解と協力によりラウンドの早期終結に向け最大限の努力を傾注する決意であることをここで繰り返し申し上げます。
この関連で,最近,北米自由貿易協定(NAFTA)の妥結が世界の注目を集めました。我が国としては,交渉妥結のための関係当事国の努力に敬意を表する一方で,NAFTAが地域ブロック化につながらず,ガット規定に整合し,第三国の利益に深く配慮するものとなることも必要であると考えます。
また,ASEAN自由貿易地域(AFTA)については,その創設を決定したASEANのイニシアティヴを歓迎しており,AFTAが多角的自由貿易体制の維持・強化に寄与するものとなることを期待しております。
(結び)
議長
アジア・太平洋の世紀ともいわれる21世紀に近づくにつれて,アジア・太平洋諸国の役割は一層大きなものとなって参ります。この関連でアジア・太平洋諸国にとっての新たな挑戦の一つは,内政外政の改革へ向けた旧ソ連邦諸国の努力への支援であります。ユーラシア大陸に広がるこれら諸国の多くは,アジア・太平洋地域と,歴史的にも,文化的にも深い関わりがあります。我が国は来たる10月28日,29日の両日,渡辺外務大臣が議長を務め,「旧ソ連支援東京会議」を主催しますが,これにAPEC加盟諸国の外務大臣の積極的参加をお願いしたいと思います。
議長
最後に,我が国としてAPECが「世界に開かれた協力」という基本理念にたって,新しい世界に向けて着実に進展していくことを心から願っており,そのために可能な限りの貢献を果たしていく決意であることを申し上げて,私の発言を終わります。
ありがとうございました。
(8) ナショナル・プレス・クラブにおける宮澤内閣総理大臣スピーチ(仮訳)
(92年7月2日)
スピアーズ会長,並びに御列席の皆様,
伝統あるナショナル・プレス・クラブにおいて,お話をする機会を得ましたことは,私の大変光栄とするところであります。
顧みまして,1939年に日米学生会議の日本側学生の一人として訪米して,米国の学生と日米関係の将来を議論したのが,私が日米関係にたずさわった最初の機会でありました。その頃の米国側の学生会議の同窓生の一人が皆様方が良くご存じのフローラ・ルイスさんであります。それ以来私は,日米関係の幾多の節目に立ち会いましたが,米国社会,とくに米国言論界の自由さと健全さ,そしてバランス感覚には常に新鮮な驚きと大きな敬意を抱いてまいりました。また,私は常に知的好奇心を持ち続けることが,如何に人を若々しくさせるかをルイスさんに見る気がいたしております。日本の政治において私が長らく「ニュー・リーダー」であり続けることができましたことも,アメリカとの係わり合い,アメリカの友人達とのお付き合いを通じて得た知的刺激のおかげかと思っております。
1 御列席の皆様
冷戦を克服した現在,我々は,世界のより多くの人々が,そして,我々の後に来る多くの世代が,更に生きがいのある人生をおくれるように,より平和な,そしてより豊かな世界を作る歴史的な機会を手にしております。
我々が成功するか否かの鍵は国際協調にあります。その中でも,世界のGNPの4割を占める日米両国の間の協力関係が決定的に重要であります。
本年1月にブッシュ大統領が訪日された際に,大統領と私が,21世紀に向って日米両国が,グローバルな視野で,政治,経済から未知の探求までの幅広い分野の課題について協力するという,グローバル・パートナーシップを推進する決意を明らかにしたのは,まさに,このような認識に立ったものであります。
事実,日米間のグローバル・パートナーシップは,アジアはもとよりNIS支援から中南米,中東,アフリカにおける共同の努力までを含む,まさに全地球的な広がりをもちつつあります。5月のクウェイル副大統領訪日の際に,東欧,中欧について,4億5千万ドルの米国のエンタープライズ・ファンドと協調して,日本も4億ドルまでの追加的資金協力を行うことを明らかにしたことは,その端的な例であります。なお,ベルリンの壁が崩壊して以来今日までの間に,日本は東欧,中欧に対して,45億ドルを超える経済支援を提供しております。
1 御列席の皆様
私は本日,日本が米国とのグローバル・パートナーシップを今後どのように発展させていこうとしているかについて,アジア・太平洋地域に重点を置きつつ明らかにしたいと思います。現在,旧ソ連,東欧の民主化や経済改革に国際政治の焦点があたっておりますが,重大な変化はアジア・太平洋地域においても始まっております。こうした変化は欧米では見落されがちですが,世界の平和と繁栄のための新しい国際協力関係の構築にとって重要な意味を持っております。そして,この地域の多くの国は,日米両国こそが,これらの国々がこの地域により恒久的な平和と一層の繁栄をもたらすこの好機をつかむことを助けうる立場にあると考えております。
アジア・太平洋地域は,文化,言語,経済面での多様性を特徴としております。他方,この地域の諸経済は,緊密に結びついております。こうした多様性と相互依存関係を活力にして,この地域は,NIES,ASEAN諸国の例にみられるように,近年目覚ましい成長を遂げておます。アジア・太平洋地域は,2015年頃には欧州,北米と同じ規模の市場になるとの試算もあります。アジア・太平洋地域の経済的な活力が,21世紀に向かって世界経済の拡大を促す原動力の一つになることは疑いを入れません。
日本は,従来から,これらの諸国の国造りの努力に積極的に協力してまいりました。事実,我が国の政府開発援助の約半分は,毎年,この地域の開発途上国に向けられております。日本は今後とも経済面での協力を続けていくとともに,この地域の政治的安定のためにも積極的な役割を果たしていく考えであります。
他方,米国は19世紀から一貫してアジア・太平洋地域の運命に深く係わってきた国であります。また,アメリカの参加はこの地域の平和と繁栄を支える中心的な要因でありました。また,米国にとってもこの地域との経済的な結び付きはますます重要,かつ幅広くなっております。米国の太平洋貿易は今やその大西洋貿易を大きく上回っており,米国のアジアへの投資も近年飛躍的に増大しております。この地域の経済の潜在力を考えますと,これらは今後更に伸びていくものと期待されます。
アジア・太平洋地域の平和と繁栄のために,米国の存在,米国の関与が今後とも極めて重要であることは言うまでもありません。この地域では,米軍のプレゼンスは,単に軍事的にのみならず,政治的にも地域の安定要因と広く認識されております。米国が今後ともこの地域での前方展開を維持していくことが強く期待されております。
日米安保体制は,この前方展開に不可欠の支援を提供しております。日本における空母を含む15隻に上る米艦船の乗員に対する「海外家族居住計画」は,米軍のこの地域における存在や活動を大いに容易にしております。また日本の接受国支援は1992会計年度で40億ドルに達しており,1995年度には米軍人軍属の給与を除く在日米軍経費の7割を日本国政府が負担することが見込まれております。このような日本政府の支援がアジア・太平洋の安全に対する米国のコミットメントを維持するための不可欠の前提であると私は考えております。そして日本政府は,今後とも,接受国支援の充実を含む種々の手段を通して,日米安保体制の円滑な運用の確保と信頼性の向上のために一層の努力を払っていく方針であります。
1 御列席の皆様
これらの経済や安全保障面の基盤に立脚する日米両国間の政治協力は,アジア・太平洋における両国のパートナーシップの極めて重大な要素であります。この地域には,朝鮮半島,カンボディアといった,軍事的な緊張をはらんだ対立や紛争の芽が依然として存在しておりますが,これらについては,かかる日米パートナーシップの文脈において検討していくべきであります。そしてこれらの問題の解決には,各々の状況に最適な,注意深く考慮されたアプローチが必要であります。
38度線をはさんで140万を越える地上軍が対峙している朝鮮半島の緊張緩和を図ることは,今日,アジア・太平洋地域の安全保障に係わる最も重要な課題であります。この問題について,南北和解のための対話を日米中露4カ国間の協力によって支援していくことが重要であります。現在進められている北朝鮮の核兵米開発問題についての日米韓三国間の協力は,こうした協力関係の始まりと考えることもできます。
北朝鮮による核兵器開発の可能性に関し,深刻な懸念が存在しております。もしこれが事実であるとすれば,東アジア,ひいては世界の安全保障にとり大きな不安定要因となります。たしかに,IAEAによる査察の受入れは,若干の前進を意味しております。しかし,この疑惑が国際社会から完全に払拭されるように,すべての関係各国が協調して北朝鮮に対する働きかけを行なっていかなくてはなりません。日本は北朝鮮との間の国交正常化交渉において,この問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はないとの立場を堅持し,この目的の達成のために努力する決意であります。
もう一つの緊急の安全保障上の課題は,カンボディアの和平プロセスであります。最近カンボディアの一派により,和平への順調な進展が妨げられていることに,私は,重大な懸念を表明せざるを得ません。
現在カンボディアにおいて進行中の国連カンボディア暫定機構(UNTAC)の活動は先例のない壮大な実験であります。また,その成否は,ポスト冷戦期における国連の平和維持能力の試金石でもあります。それだけに,停戦の確保,武装の解除,難民の帰還といった課題を解決し,カンボディアが来年に予定される自由かつ公正な選挙に基づき樹立される新政府の下で,速やかに復興にとりかかれるように,我々は支援を一層強化していかなければなりません。
2週間足らず前,日本は,東京でカンボディア復興閣僚会議を主催いたしました。そして,各国の積極的な協力を得て総額8.8億ドルに上る復旧及び復興支援のためのプレッジをまとめることが出来ました。更に,この会合において全てのカンボディアの当事者を含む参加者の間でパリ和平協定の完全かつ迅速な実施の重要性が改めて確認されました。私は,このことが,和平プロセスの進展に良い効果をもたらすことを強く期待しております。また,この会議において米国が日本とともに際立った役割を果たしたことは,まさしくグローバル・パートナーシップの好例でありました。
日本としても,国際平和協力法が成立したことにともない,今後人的な支援を通ずるUNTACプロセスへの参加によって,戦後のカンボディアの国作りに貢献する構想を有しております。
この地域の不安定に対するこれらの二国間またはサブ・リージョナルなアプローチと併行して,より広い範囲の域内諸国が参加する全域的な政治対話の枠組みを構築していくことも重要であります。私は,ASEAN諸国の外相と日米両国,豪州,二ュー・ジーランドにカナダ,EC,韓国の外相が参加する,ASEAN拡大外相会議の場をこのために活用することが,当面最もこの目的に資するものであると考えております。その見地から,同じ方向を目指す本年1月のASEAN首脳会議の決定を心から歓迎しております。
APEC閣僚会議の枠組みも,対話のためのもう一つの枠組みとなりうるものであります。APECはそもそも経済協力を目的とする場でありますが,開発途上国の多いアジア・太平洋地域では,経済協力は地域の安定のための重要な手段であります。
APECは発足してまだ3年でありますが,昨年には中国,香港,台湾の参加により,アジア・太平洋地域の主要な経済主体をほとんどすべて包含することとなり,参加経済主体の国民総生産の合計は世界全体のほぼ半分を占めるに至っております。日本は,米国を始めとする参加国・地域と共に,開かれた地域協力に向け努力するAPECの活動強化のために協力していく決意であります。明年は米国においてAPEC閣僚会議ふ開催される予定であり,我々としても,グローバル・パートナーシップの一環としてその実りある成功のために協力を惜しまない所存であります。
以上を要するに私は,紛争や対立の解決をめざすサブ・リージョナルな協力の促進と,お互いの安心感を高めるための全域的な政治対話の促進との二つを併行的に進める,トゥー・トラック・アプローチこそが,アジア・太平洋地域の安全保障のために最も効果的と考えております。
更に将来的には,このような対話と協力のプロセスに,中国とロシアが建設的なパートナーとして参加することを如何にして実現していくかという課題があります。まず中国については,その安定と発展が,アジア・太平洋地域の平和と繁栄に大きな影響を与えることは言うまでもありません。このような見地から私は,今般米国政府が対中最恵国待遇を1年延長することを決定されたことを高く評価いたします。
中国は,今や大きな歴史的転換点にさしかかっております。我々は,経済分野での改革・開放を大胆に進めつつある中国の努力を引き続き慫慂し,支援していく必要があります。またその過程において,中国の人権問題を含む政治改革についても関心を表明することも重要であります。しかし同時に,10億を超える人口を有し,国民所得も低い中国のような国においては,国民経済の拡大が国内の安定のために不可欠であることを理解する必要もあります。そして,経済面での改革こそが,政治面での改革につながるべきものであります。
更に,平和のための国際的な努力への中国の関与を得ていく必要もあります。中国の参加は,核不拡散,MTCR(ミサイル関連技術規制),通常兵器の移転規制といった分野においてとくに重要であります。
言うまでもないことながら,ロシアは日本にとって重要な隣国であり,ロシアはアジア・太平洋の安定のために欠かせない国であります。また,日露関係の改善はこの地域の安定のために不可欠であります。我々は,ロシアの民主化,市場主義経済の導入を支援していく必要があります。それ故に日本は,ソ連,その後はロシアによる北方領土の不法占拠が続いているにもかかわらず,先進民主主義工業国による対ソ,対NIS支援に積極的に参加してまいりました。また,日本は,日露間の対話,交流の拡大にも努力しております。
しかし,日本にとってもロシアにとっても,北方領土問題の解決は避けて通れない課題であることを明らかにしておかなければなりません。永年にわたって,これらの島々がロシア領であると教えられてきたロシア国民にとって,それらの島々の日本への返還を受け入れることについて,強い心理的な抵抗があることは容易に想像できます。しかし,あたかもこの問題が存在しないかのように両国が振る舞うことは,かえって問題を複雑にし,両国関係の不安定な状態を長びかせるだけであります。それだけに,対露支援と併行して,ロシアの政府,国民がこの問題を解決することの重要性について,正しい認識を持つように働きかけていくことが必要であります。
この問題は,単に日露二国間の問題ではありません。エリツィン大統領自身が述べているように,法と正義の原則に則ってロシアがこの問題を解決するかどうかは,ロシアがスターリニズムの残滓を払拭し,我々と基本的な価値を共有する国際社会の真に建設的な一員となる用意があるかどうかを試すものであります。この点について米国政府が,この問題に関する日本の立場に確固たる支援を行なってこられたことを,日本政府,国民は高く評価しております。
日本としては,今秋のエリツィン大統領の訪日を北方領土問題の解決のために極めて重要な機会としてとらえて,一層真剣な努力を行なっているところであります。最近のエリツィン大統領の訪米を通じて一層深まってきた新しい米露協力関係を踏まえて、米国の一層の支援を期待しているところであります。
1 御列席の皆様
世界経済の安定した発展を図ることも,グローバル・パートナーシップの重要な側面であります。各国の経済の調和ある発展を確保するために,保護主義や閉鎖的地域主義の誘惑に打ち勝ち,より開放された国際的貿易・経済制度を構築することは,我々にとって緊要な課題であります。
世界経済の運営に関し,日本の果たすべき最も大きな役割は,日米経済がインフレなき持続的成長を確保することであり,また,そうした中で「生活大国」を実現することであります。
世界経済の回復が依然弱い中で,私は日本経済の持続的な成長を確保していく所存であります。既に私は,1992年度において景気に最大限配慮した予算を編成し,また,公共事業の前倒し等の追加的景気対策を実施する等精一杯の努力を行ってきております。そして,これらの施策の効果が十分でない場合には,新5カ年経済計画において示された諸目的を念頭に置きつつ,状況を見極めた上で相当の追加的財政措置を含めあらゆる方策をとる決意であります。
中長期的な課題として,経済力に相応しい豊かな生活を国民が享受できることを確保することが重要であると私は考えております。これまでの日本経済は,どちらかといえば「生産優先」の傾向がありました。しかし,日本は,生産者重視から消費者や生活者重視に経済運営の力点を変えていかなければなりません。我々は,質の高い生活環境を創造するために,労働時間を短縮し,公園や緑地や公共施設等の社会資本の充実を図ろうと努めております。国民ひとりひとりが日々の生活を満喫出来るような経済を構築するために我々が努力することは,国際社会における日本に対する期待に合致するものでもあります。
このような日本の努力は,日米関係全体の極めて重要な側面である二国間の経済関係をより強固で永続的なものとするものでなくてはなりません。私が本日アジア・太平洋地域に焦点をあてたことは,この重要な側面に対する関心の欠如と解釈されてはなりません。私は,日米両国が,この分野において重大な挑戦に直面していることを十分に認識しております。
我々の貿易関係は,両国がこれを強い政治的な意識をもって,常に注意を払っていくことを必要としております。そして,日米のグローバル・パートナーシップを前進させるためには,日米経済関係に対するこのような対応が不可欠であります。ブッシュ大統領と私が,本年1月に日米の経済・貿易関係に関し行動計画を発表したのも,まさに,このような理由からであります。それ以来,我が国政府は,外国製品に対する市場アクセスの機会を拡大するために,行動計画に言及された分野を始めとする様々な分野の実業・産業界とともに努力してまいりました。そして,我々は確固たる前進を遂げつつあります。このような,日本側の努力については,我々のマクロ経済分野での努力や米国の財政赤字削減と競争力強化に向けた努力と相俟って,前向きの成果を生み出すと期待されます。
経済貿易問題との関連で,一つ指摘しておきたいことがあります。冷戦期の軍事的な対立の図式を国際経済関係の分析に応用し,経済面での競争関係を対立的あるいは敵対的な図式でとらえ, 一国の経済的成功が他国にとっての脅威であるかのごとくさえ受け止める見方が一部に存在いたします。しかし世界経済はゼロ・サム・ゲームではありません。世界経済は,すべての構成員が利益を得ることの出来るプラス・サム・ゲームとなっております。なぜなら,経済の相互依存が増々進んでいるからであります。我々が開放された国際経済制度を維持・強化するなら,一層そうなるでありましょう。
1 ご列席の皆様,
世界は歴史的な変化の過程にあります。米国もまた同様であります。米国は,それぞれの時代の課題に立ち向かい,もって建国の父祖たちの理想を貫いてこられました。このことは,私が米国民の特色として尊敬する柔軟性,活力,創造性によって可能となったものでありました。米国が世界の他の諸国とともに,今日の諸課題を克服するために今一度その勇気と智恵を発揮されることを私は確信しております。
世界は米国の指導力を必要としております。米国が孤立主義に戻ることは,すべての者にとっての悪夢であります。言うまでもないことながら,日米グローバル・パートナーシップは,米国が対外的にコミットし続け,国際的なかかわりあいを持ち続けていくことを期待しております。他方,日本としては,その国力と国際的な立場に相応しい責任と役割を果たしていく方針であり,私自ら,そのことを明確にしておきたいと思います。
御清聴ありかどうございました。
(92年9月22日)
議長並びに御列席の皆様,
私は,ガーネフ閣下が第47回国連総会議長に選出されたことに対し,心から敬意を表します。同時に,シハビ閣下の前総会議長としての業績に対して敬意を表するものであります。本年4月のシハビ前議長の訪日は我が国と国連との絆をより一層深めるものとなりました。
昨年の7カ国に引続き,本年も13の国が新たに国連に加盟しました。私は,日本政府および国民を代表して,今回初めて国連総会に参加するこれら諸国の代表に対し心からの祝福を送ります。今や国連は179カ国が加盟する名実共に全地球的な組織になりました。それと同時に世界の平和と安全の維持の面における国連の役割も飛躍的に増大しており,国連憲章の理想の実現に向けて人類はまたとない好機を迎えております。
この様な時期に重責を担われるガリ事務総長に対する我々の期待は極めて大きく,私は,日本政府を代表し,ガーネフ総会議長およびガリ事務総長に対し全面的な支援と協力を約束致します。
(国連を取り巻く環境)
今や国際社会は,国連創設後半世紀近くを経て,東西間のイデオロギーと力による対決のシステムから解放されるに至っています。冷戦が終った後の世界は,旧い秩序を支えていた諸国家間の力関係の変化,地域主義の新たな胎動,民族,宗教等を巡る地域情勢の不安定化といった問題に直面しております。
湾岸危機は,一旦破壊された平和の回復のためには政治的にも経済的にも多大なコストを払う必要があることを示しました。旧ユーゴースラヴィアでは,相次ぐ戦闘のため,日々大量の避難民が故郷を去ることを余儀無くされ,また多くの非人道的な行為の事例が伝えられています。ソマリアにおいては,内戦に加え,千魃とも相俟って,住民の惨禍は計り知れないものがあります。更に,世界の人口の大多数を占める開発途上国の多くでは,依然として貧困の克服が早急な取組みを必要としておりますし,地球環境の保全は我々の子孫のためにも重大な使命であります。
このような状況に鑑み,各国は協調と協力の精神に基づき問題解決に向って一層努力する必要があります。かかる協調と協力の潮流は,来るべき国際秩序構築に向けての原動力として積極的に活用すべきであり,なかんずく国連を中心とした取組みが一層重要性を増しております。このような観点から,国連についても,その役割と機能の強化,各国の貢献の在り方につき真剣に検討する時期にきています。
(平和のための戦略)
本年1月に開催された安保理首脳会議は,国際社会が直面するこれら問題につき首脳レベルで真剣な検討が行われた初めての機会でありました。この首脳会議の申し合わせに基づき作成された事務総長報告「平和のための課題」は,すでに述べた世界の現状認識にも照らし,誠に時宜を得たものであり,ガリ事務総長のイニシアティヴと事務局の尽力に心より敬意を表します。我が国としては,今後平和な世界を築くためには次の5つのアプローチが重要であると考えます。
第一に,国際的な緊張のレベルを低下させる努力が重要であります。
本年6月の米露サミットにおいて大幅な核兵器の削減が合意されたことは歓迎すべきことであります。このような気運がすべての核兵器国による核軍縮の進展に繋がることを期待します。また,核兵器の拡散の問題については,NPT体制の強化と普遍性の拡大が重要であり,各締約国が95年の延長会議においてその円滑な延長を目指し協調すべきであります。旧ソ連の科学者に対する支援は核不拡散の観点からも重要であり,我が国としても米国,EC等と協力して国際科学技術センターが早期に活動を開始し得るよう努力しているところであります。また,今般軍縮会議において化学兵器禁止条約交渉が妥結し,条約案が今次国連総会に提出されましたことは画期的なことであり,一国でも多くの国が本条約の原署名国となるよう強く希望致します。
他方,通常兵器については,一部地域において顕著な移転が見られるだけに,地域の不安定化を招かぬよう関係国の慎重な対応が求められます。兵器移転の透明性を高め,もって諸国間の相互信頼を強化するためには,昨年我が国がEC諸国ほかと共同で提唱した国連軍備登録制度の円滑な実施が重要であり,このために我が国は関係国と共同で,今次国連総会において,加盟国に対し同制度への幅広い参加を呼び掛ける新たな決議案を提出することとしております。
第二に紛争を未然に防止するための努力を一層強化する必要があります。
我が国はこれまで,「紛争予防宣言」並びに「国連の事実調査宣言」等の総会決議採択に積極的な役割を果たしてきました。国連の紛争予防機能の強化のためには,国連事務総長による事実関係の調査や早期警報の発出,情勢の恒常的な監視等が必要となります。このような観点から,紛争に関する情報の事務総長への積極的な提供が重要であります。更に,国連事務局が事実調査を行い,各国から収集した紛争に関する情報を整理した上で,安保理はもとより加盟各国に客観的な形で提供し,各国の判断材料に資する「紛争情報クリアリングハウス」を事務局内に設置することを提案致します。なお,前述の事務総長報告における予防外交に関する認識に基本的には賛意を表明しますが,一方の紛争当事者のみの同意に基づく国連による平和維持活動等の「予防的な展開」の構想については,更に検討すべき問題を含んでいると考えます
第三に国連加盟国による紛争の平和的な解決のための外交努力の強化の重要性が指摘されます。
昨今の地域紛争の多発化現象に鑑み,当該地域の地域機関や国連加盟国を中心とした地域的な紛争解決の努力が益々重要になりつつあります。旧ユーゴースラヴィア紛争に関するECを中心とした和平努力や,カンボディア和平に関する地域の関係国と安保理常任理事国の努力などがその例としてあげられます。また現在行われている中東和平達成に向けての関係国の努力も歓迎されるところであり,我が国としても多国間協議等の場で積極的な役割を果たしていく考えであります。
私は,アジア・太平洋地域における平和と安定の構築のためにも,我が国の外交努力を強化して参ります。カンボディア和平に関しては,我が国は本年6月のカンボディア復興閣僚会議の東京開催等の積極的な役割を果たしてきましたが,ポルポト派が他のカンボディア各派と共に国連カンボディア暫定機構(UNTAC)に協力し,早急に和平プロセスを進めていくよう,関係国とも協力しつつ同派への働き掛けを粘り強く継続して参ります。我が国としても,安保理における検討に積極的に加わっていく考えであります。朝鮮半島の緊緩和は東アジアの平和と安定のために重要な意義を有しており,南北対話推進のための環境作りに出来る限りの貢献を行う所存です。この関連で我が国は,中国と韓国の間の外交関係の樹立を歓迎すると共に,今後これを契機に,韓中両国の間で幅広い交流が拡大されることを希望するものであります。虜泰愚韓国大統領が本日の演説で触れられた,北東アジア地域において利害を有する国々の間での対話の機会をより強化するとの構想は,我が国の考え方に沿ったものとして歓迎致します。私は,隣国ロシアとの関係が全体として均衡のとれた形で発展していくことが極めて重要であると考えています。また,この関連で,平和条約締結により両国の間に信頼関係が構築されることがこの地域の平和と安定に大きく貢献するものと考えます。
第四に,国連の中心的な任務たる平和維持活動の一層の強化が必要であると考えます。
国連の平和維持活動は,昨今活動領域の拡大や大規模化に伴い質量両面に亘る発展を遂げつつありますが,資金需要の増大や後方支援部門の要員の不足等の問題が事務総長報告においても指摘されているところであります。そのような状況から,加盟各国のより積極的な協力が不可欠となっております。我が国としても本年6月の国際平和協力法の成立に伴い,平和維持活動及び人道的な国際救援活動における人的貢献のための国内体制がようやく整備されました。これにより従来の資金協力に加え,右法律の枠組みの下でなし得る最大限の人的な協力を行ってゆく決意です。既に第2次国連アンゴラ監視団(UNAVEMII)への選挙監視要員の派遣および国連カンボディア暫定機構(UNTAC)への停戦監視要員,施設部隊,文民警察の派遣を決定し,一部は派遣が開始されております。来年のカンボディアの選挙監視についても参加を予定しています。
我が国としては,国連が40数年間かけて培ってきた国連平和維持活動の原則と慣行は現在および将来も引き続き適切かつ有効であると考えます。他方,事務総長報告において提案されているいわゆる「平和執行部隊」の考え方は,将来の国連による平和構築の構想として興味深いものでありますが,従来の平和維持隊とは全く異なった考え方に根差すものであり,引き続き検討していくことが必要と考えます。
第五に世界の各地に平和を構築するためには,地域の特性を踏まえた対話と協力の強化・促進が必要であります。
欧州安全保障協力会議(CSCE)に代表される欧州の地域協力メカニズムは,従来の対立を前提とした信頼醸成の場から,域内の安定と繁栄のための協力の枠組みへと変化し,紛争予防及び平和維持能力拡大のための具体的動きが始まっています。
他の地域においては,平和と繁栄のための地域協力は欧州ほどには成熟していませんが,当該地域のおかれた政治的,地政学的な特性を十分踏まえた地域独自の対話と協力の方途を追求していくべきでありましょう。アジア・太平洋地域の安全保障に関しては,我が国はニ国間乃至関係諸国間での対応の枠組みを維持強化すると同時に,全地域的な対話の促進を追求していくことが重要と考えます。かかる対話の場として当面ASEAN拡大外相会議を活用することが最も適切と考えており,我が国は,既に昨年来,同会議で政治対話を行うことを提唱しております。また,アジア・太平洋地域における開かれた協力を進展させるとの観点から,アジア・太平洋経済協力(APEC)の発展に積極的に貢献してきているところであります。
(新たな脅威への取組み)
今日,人類を取り巻く脅威としては軍事的なものにとどまらず,地球規模の環境問題,難民,貧困,人口,麻薬およびエイズの問題等の非軍事的な性格のものが重要性を増しつつあります。これらに対しては,単なる対症療法ではなく,国連および国際社会が一丸となった根治療法を必要としています。またこれらの問題への対処に当たっては,人類の叡智と高い倫理性,道義性が問われているといっても過言ではありません。この関連で私は,人権尊重の重要性を改めて強調致します。基本的人権は,普遍的な価値であり,また個人と民主的な社会の発展の原動力でもあります。昨今の紛争地域において人道法や少数民族の権利すら守られていないような状況は極めて憂慮すべきであります。
東西冷戦の終焉により,途上国の貧困の問題は,世界全体の秩序を維持していく上で南北がいかに協調していくかとの観点から,より積極的に取り組む必要が生じております。国連としても,貧困の克服と貧困に端を発する社会的不安定要因の除去に努め,経済の発展が人類の福祉,ひいては政治的な安定をもたらすとの視点から,一層真剣に取り組んでいくことが必要であります。その際,経済の自立的な発展を開始しつつある国や累積債務問題の解決の糸口を得つつある国と,サハラ以南のアフリカ諸国のように依然として経済困難に苦しんでいる国があることに留意し,肌理
環境と開発の問題については,国連環境開発会議(UNCED)の着実なフォローアップが重要であります。我が国としては,特に今次国連総会において設置予定の「持続可能な開発委員会」を始め,UNEP,UNDP等環境関連国際機関への積極的貢献を行う所存です。また,国内体制を整備しつつ,国別行動計画を早期に策定すると共に,途上国の計画策定を支援する用意があります。同時に,今後5年間における9千億円から1兆円を目途として環境ODAを拡大・強化するとの目標についても途上国との政策対話を通じ優良案件の発掘,形成,実施に努めたいと考えています。更にUNCEDの結果の再検討を行うためにも97年までに国連環境特別総会を開催するとの我が国の提案を再確認致します。
難民問題については,カンボディア等で難民の帰還が進む一方で旧ユーゴースラヴィア,ソマリア等においては事態は極めて深刻になっております。国際社会は,難民の保護,緊急援助,自主的帰還後の再定着の支援といった複雑な諸問題への対応に一丸となって取り組まねばなりません。我が国としては引き続きUNHCRを始めとする関係国際機関を通じて積極的な人道援助を実施する所存です。
人口問題については,全人類の問題として先進国,途上国双方の協力を必要としますが,我が国としては,1994年の国際人口開発会議に対し貢献するため,世界の有識者からなる賢人会議を国連人口基金(UNFPA)及び国連大学と協力して94年に我が国において開催したいと考えております。
(国連の再活性化に向けて)
国連が目下直面している構造的な諸問題は,時代の変化に十分に対応していない国連の組織,深刻な財政危機,国連における機関相互の連携の不足等であります。
第一に,今日国連に最も求められているものは真に世界組織たるに相応しい正統性,信頼性並びに実効性の拡大でありましょう。
国際の平和と安全の維持を始めとして,国連憲章に掲げるその理念と目的を達成するためには,加盟国の国連に対する全幅の信頼が根底に無ければなりません。そのためには,国際情勢の急激な変化と加盟国の飛躍的な増大,国際関係における力関係の変化等,国連創設時には予想されなかったような時代の大きな流れに即した自己変革が行われていることが必要であります。しかるに,国連憲章に関しても旧敵国条項等歴史的な遺物が存在し,また,組織についても現在の体制は国連に対する期待に十分に応えられるほどの実効性を備えたものとなっているか否か疑問なしとしません。我が国としては,世界の平和と安全の維持のため特別に重要な役割を担っている安保理の信頼性と実効性を高めるとの観点から,その機能・構成を含む国連の組織の在り方につき真剣に検討すべきであると考えます。私は,国連の機能を強化するため,国連自身がこの問題への取り組みを開始することが必要と考えます。折しも95年は国連創設50周年記念の年であり,この問題を考える上での一つの節目になるものと考えます。なお,国連の組織の再検討には安保理と同様重要な役割を果たす経済社会理事会の改革も行われるべきであり,目下その議論が行われていることは歓迎すべきことであります。
国連の抱える第二の問題は財政赤字であります。
今や国連財政は破産寸前にあると言われております。国連が構造的な赤字から脱却するためには,加盟国として当然の義務である分担金の支払いが早急になされるべきであり,分担金の滞納国に対し,その支払いを強く要請します。とりわけ国連平和維持活動についてはその資金需要の急激な増加に対応するためには立ち上がりの段階での資金の円滑な確保が活動全体の成否を左右する重要な意味を持っています。そのような観点から,今回,特に大規模な国連平和維持活動の立上がり段階での資金確保を目的として,加盟国の新たな財政負担を伴わない形でそのような資金需要に応えることを可能とする総会決議案を提出する予定であり,各国の支援をお願いいたします。
第三の問題である国連機関の間の連携不足については,
国連の限られた資源を効率的に活用し,以て国連の機能を十二分に発揮させるためにも,国連内部の各機関相互の連携が強化されねばなりません。具体的には,安保理と経済社会理事会間の連携強化,安保理と総会のコミュニケーションの強化が重要であります。例えば安保理,経社理,総会の各議長間の二者又は三者間の定期的な意見交換乃至意思疎通の場の設置について検討すべきでありましょうし,憲章第65条に基づく経済社会理事会による安保理への情報提供も同様に重要であると考えます。更に,大規模な資金負担を伴う大型平和維持活動の設立等に際しては,安保理常任理事国と大口資金負担国,主たる要員派遣国,地域の関係国等との協議体制の確立が是非とも必要であります。
議長,
国連はその半世紀に近い歴史の中で最も可能性に富んだ時期を迎えつつありますが,同時にまた,国連が人類社会の平和と繁栄のために真に実行力ある世界的な組織に発展し得るか否かの試練の時でもあります。今や国連に課せられた課題と任務はあまりにも大きく,国連加盟各国の新たな自覚と責任の分担が一層求められております。国連中心主義を掲げ,平和国家として歩んできた我が国は,その国際的な地位と責任に相応しい貢献として,財政面のみならず,人的な貢献,更には新たな平和秩序の構築のための政治的な役割を強化していかねばなりません。我が国は現在,安保理非常任理事国として,平和な世界の実現のために努力しております。そして私は,将来に亘り,協調と協力の精神にのっとり我が国のこのような能動的な国際貢献を一層強化・推進して参る決意であることを申し上げ,私の演説を締め括ることと致します。
(10) 旧ソ連支援東京会議における宮澤内閣総理大臣開会演説(仮訳)
(92年10月29日)
1.はじめに
議長,
代表団の皆様,
ご列席の皆様,
旧ソ連支援東京会議に皆様をお迎えできますことは,私が大いに光栄とするところであります。特に国際社会の新たなメンバーとなった12カ国の代表全員を歓迎いたします。これらの国家の国際社会への参人は,冷戦の終結を象徴するとともに,世界の人々が民主主義と自由経済に対する思いを真に共有し得る新時代の到来を告げるものであります。
この思いを現実のものとすることは決して容易な課題ではありません。しがしなから70の国々,20の国際機関からの代表の出席を得たという事実が,NIS諸国の社会経済改革並びに政治改革努力を支援しようとする国際社会の確固たる決意の証左であります。このような決意を雄弁に証明しているのは,ワシントン,リスボン両会議と比べて,世界のさまざまな地域から新たな参加国が加わったことであります。
また,今回の会議は,この種の国際会議としてはアジア・太平洋地域で初めて開催されるものであります。この地域は,政治的安定と経済的繁栄で知られており,ユーラシア大陸の大きな部分を占めているのみならず,幾世紀にもわたってNIS諸国民と歴史的,文化的,宗教的遺産の多くを共有してきました。我々アジア・太平洋地域諸国は,近代国民国家として比較的新しい経験を有しております。そのことが我々がNIS諸国における政治・経済改革に向けての努力に対し意味のある貢献をなし得ると確信する所謂であります。
NIS諸国の前途にあるきわめて大きな課題は,わが国が戦争の荒廃の中から国家を再建していった際に直面した課題を想起させるものがあります。当時,私はある指導的立場にある政治家の補佐官としてこのプロセスに関わりました。この時の経験は,私に,とどのつまり状況を変革することを可能とするのは,国際社会からの支援ではなくて,むしろ国民自身の骨身を惜しまぬたゆまざる努力と意志に他ならないと確信するに至りました。
2.NIS諸国の改革の成功の意義
ご列席の皆様,
1989年11月のベルリンの壁の崩壊と,1991年12月のNIS12カ国の誕生は,戦後これに比肩するもののないほど重要な歴史的事件でありました。これら一連の事件は,人類の歴史に新たな1頁を開き,それにより我々が平和と安定の下で,経済的進歩を求めて共に努力することを可能としたのであります。
これら新国家が現在経験している改革の過程は,3つの面で歴史的意義を有しております。第1に,それは自由と多元的な価値を基礎とした民主主義を確立するという命題であります。第2に,それは,価格自由化の導入,引き締め型の金融・財政政策及び民営化を通じて自由市場と開放経済を確立するという命題であります。第3に,それは,国際社会と建設的な協力関係を構築するという命題であります。
これらの命題は,単にNIS諸国にとっての命題であるのみならず,むしろ今日ここに出席している我々全員にとっての命題でもあります。これらは,地球規模で相互依存関係が深化していく過程の一部をなすものであります。我々は,より自由かつ開放的な経済と政治体制,技術革新及び情報の流れの革命的発展によって,各国民が国家の相違を超えて直接に協力していけるような世界を目指して活動しています。しかしNIS諸国の一部の地域における社会的・政治的不安定及び紛争は改革努力の成果を損ないかねないものであり,我々全てに重大な懸念を抱かせるものであります。NIS諸国における国家形成と平和と進歩のための新しい国際的構造の構築にとって重要であるこの時期に,これらの問題や立場の相違が平和的にかつ最大限の忍耐と寛容をもって取り扱われることを希望いたします。
3.我が国の対NIS政策
ご列席の皆様,
NIS諸国は,豊富な天然資源や教育水準の高い国民といった社会的・経済的発展に不可欠な資源に恵まれており,大きな経済発展への潜在力があります。同時に,75年間続いた中央計画経済運営は,その国民が非常に貴重な資源を十全に活用することを不可能にしてきました。本日ここに出席している我々全ては,NIS諸国の現状に関心を有しており,NIS諸国民が困難に取り組むに当たっては彼らと共に協力することを約束しています。
ワシントン・プロセスの下で国際社会がNIS諸国に対して供与してきた技術支援は,「自助努力に対する支援」の精神の下で形作られており,この精神なくしていかなる支援も成果を生むことは出来ないのであります。2国間及び多国間の技術支援プログラムは,単に継続されるだけではなく,NIS諸国がその改革を効果的かつ効率的に完遂することができるように,新たな調整の枠組みの下でさらに促進されなければならないと,私は確信しております。わが国は,技術支援を特に重視している国でありますが,これは,我々の経験によれば,国民を進歩を向けての道を歩むよう動機付け,督励してきた真の要因がしばしば技術支援であったからに他なりません。日本は,米国及びECと共に,技術支援分科会共同議長国として従来より積極的な役割を果たしてきており,今後の調整プロセスにおいても同様に積極的な役割を果たしていく所存であります。
ご列席の皆様,
厳しい冬と社会・経済組織の疲弊により悪影響を受けたNIS諸国が緊急人道支援を必要としていることは,ワシントン・プロセスの当初の段階から明らかなことでありました。次の冬はもう数週間後に近づきつつありますが,今次会議は,人道支援の必要性を出来る限り客観的に評価することを期待されております。
食糧,医薬品または燃料のいかなる不足も特定の地域,あるいは社会的に脆弱な人々に破滅的な影響を与え得るものであります。もし現在の状況が社会不安や民族紛争故に更に悪化するようなことになれば,その結果は不幸なものとなりましょう。それ故に,これらの紛争が平和的手段によって解決されるべきことを強調したいと思います。さらにこの機会に,皆様に日本国政府及び国民は,ロシア極東部に特に重点をおきつつ,NIS諸国民に対する追加的な人道援助を供与することを申し上げたいと思います。
4.結語
議長,
ご列席の皆様,
私は,今次東京会議がワシントン・プロセスの終了のみならず,関係する全ての国民の完全なる支持の下に,NIS諸国に対し国際的な支援を行う新しい調整プロセスの創設を印すことを希望します。演説を締めくくるに当たって,私はNIS諸国からの友人に対し,暖かい歓迎の意をもう一度表明すると共に,日本での短い滞在が今後の真に建設的かつ協力的な関係をもたらす永続的な友好関係の始まりとなることを祈念致したいと思います。
ご静聴ありかどうございました。