1. 国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説
(1) 第122回国会における宮澤内閣総理大臣所信表明演説
(91年11月8日)
この度,私は,内閣総理大臣に任命され,国政を担うこととなりました。重責に身の引き締まる思いであります。我が国の進路に誤りなきを期し,国民の皆様のご信頼とご期待に応えてまいる決意であります。
(はじめに)
国際社会は今,激動のさなかにあります。何百年に一度という大きな変化が起こりつつあると思われます。世の中ではこれを「冷戦後の時代」と呼んでおりますが,この言葉は,何が終わったかということを意味してはおりますが,何が始まるかを示唆してはおりません。事態は流動的ではありますが,私はこれを,新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まりと認識したいと思います。
今後とも,世界においては,様々な対立や武力紛争が容易に姿を消すとは思われませんので,私の考えに対して,あまりに楽観的だというご批判があるかもしれません。しかし,米ソが共に自発的に核兵器の大幅削減に取り組み始めるなど,現実の流れはにわかに早まっているように思われます。世界平和が,依然として軍事力の均衡と抑制によって維持されていることは事実ですが,核兵器について我が国が何十年も唱え続けてきたことが,世界的に理解され始めているものと思います。
このように世界平和への速やかな動きの中で,国連の役割が増大しつつあります。国連の動きは湾岸危機でも例証されましたが,カンボディアでは,包括和平の成立を受け,国連の平和維持活動として,国連カンボディア暫定機構が近々作られようとしており,新政府が生まれるまでの間,平和の維持に当たることが期待されております。このような新たな国際環境の中で,我が国憲法の基本理念である国際協調主義の下,世界の平和の確保に向け大きな役割を有する国連に対して,我々は最大限の貢献をしなければならないと思います。もちろん,このような国連を中心とした秩序づくりには,日米の緊密な協力やアジア諸国との友好関係などが不可欠の前提となることは言うまでもありません。
我が国は,湾岸危機に際しては,異例ともいうべき思い切った財政的貢献をいたしました。今後とも,世界平和秩序の構築に当たって,我々の国際的役割は増大すると考えておかなければなりません。そのために我が国が成し得る人的貢献については,前国会でご審議いただいた,いわゆるPKO法案を,国際緊急援助隊への自衛隊の参加を可能とする法案とともに,できるだけ速やかに成立させていただきたいと思います。
1989年11月のベルリンの壁の崩壊に象徴される世界の激変は,それから2年足らずの間に,ソ連の共産党の解体にまで及ぶことになりました。これは,我々が信奉してきた自由主義と市場経済の勝利を意味しています。我々は,ソ連や東欧諸国が経済,政治,外交の各面にわたって抜本的改革を推進すること,とりわけ,ソ連及びロシアの新思考外交が,我が国との関係を含め,アジア・太平洋地域においても十分発揮されることを強く期待しており,これらの諸国が市場経済と民主主義に立脚して新しい世界秩序の建設的な担い手となる努力に対して,適切な支援を進めていく考えであります。
このような歴史的転換の流れの中で,日ソ間にいまだに平和条約の締結をみていないことは,誠に不自然であります。しかし,ようやく今,北方領土問題を解決し,平和条約を締結すべき時が熟しつつあります。この時に当たり,我が国とソ連,ロシアがそれぞれ,この問題の解決に向け一層真剣に取り組んでいかなければなりません。
自由主義と市場経済は勝利を収めましたが,その反面,市場経済自身の中にも,自由と繁栄を追及する過程で,ひずみやゆがみが起きていることを忘れてはなりません。近年,我が国において,異常な地価や株価の高騰などでバブルと言われる現象が生じましたが,額に汗している人々が,自分が取り残されたという感じを持つようなことになれば,9割が中流意識を持ってきた国民の間の連帯感や社会の安定感にも,ほころびが出るおそれがあります。
また,ここまで経済発展を遂げてきた我が国においては,行政は,消費者や国民生活,一般投資家重視へと姿勢を変えていかなければなりません。
私は,そういう意味から,政治は,公正な社会をつくる努力を怠ってはならないと考えております。
(政治改革の実現)
政治改革はこうした時代の要請です。海部前総理は,その実現のため心血を注いでこられました。私は,前総理のこのご努力に深い敬意を表するとともに,その志を継いで,真摯に政治改革に取り組んで行く決意であります。
どのように選挙や政治に金がかからないようにするか,どのように金の流れを透明にするか,そして選挙区制をどのようにするかなど,政府が先の国会に提案したところを出発点に,これをたたき台として,各党間の協議会で論議を深めていただきたいと思います。今日強く求められている投票価値の格差是正の要請に応えるためにも,おおむね1年をめどに具体的な結論が得られるよう念願いたしております。
いわゆるリクルート事件に関連して,私の不行き届きから皆様にご迷惑をおかけいたしました。政治家として深く反省すべきことであり,今後の政治生活においても片時も戒心を怠らない決意であります。
(外交)
米国との関係は,我が国の外交の基軸であります。我が国と米国は,基本的価値観を共有しており,また,日米安保体制と緊密な相互依存の上に立って,強い友好関係を維持しております。
両国は,経済関係や相互理解の促進を含め,友好・協力関係を一層深めるとともに,世界の平和と繁栄に向けての共通の責任を自覚し,地球的規模で協力していかなければなりません。私は,このような認識に立って,21世紀に向け,日米の協力関係を一層強化してまいりたいと考えております。
私は,今後とも,日米安保体制の効果的運用と信頼性の向上を図ってまいります。我が国の防衛政策については,平和憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないという基本理念に従い,節度ある防衛力の整備に努めてまいることは申すまでもありません。
アジア・太平洋地域においては,この地域の多様性を念頭に置きつつ,経済面だけではなく,政治対話の機会を広げ,政治面における役割も積極的に果たしてまいります。このような考え方に立って,アジア・太平洋経済協力閣僚会議などを通じ,開かれた協力を推進するとともに,朝鮮半島の平和と安定への協力,中国の政治・経済両面にわたる改革・開放政策に対する支援,アセアン諸国との一層の関係強化,カンボディア和平達成後のインドシナ全体の平和と繁栄への協力など多角的かつ積極的な外交を展開してまいります。
日欧関係については,先般出された歴史的な日・EC共同宣言を踏まえ,経済面のみならず,政治面,文化面を含む広い分野で,包括的,全面的な関係の強化を図ります。
中東和平達成のための努力が現在,関係諸国の間で続けられています。我が国としても,この国際的努力に参画し,これを支援してまいります。
軍備管理・軍縮面では,最近の米ソ両国による大幅な核兵器削減への動きを歓迎するとともに,我が国は,引き続き,国連の場などを通じて主導的な役割を果たし,通常兵器の移転に関する透明性の増大や自主規制の強化,大量破壊兵器やミサイルの拡散防止のための国際的な枠組みの整備と強化に一層の努力を傾注してまいります。
国際経済の分野では,我が国は,持てる経済力,技術力などを積極的に活用し,世界経済の発展に貢献するとともに,幅広い産業,経済の国際交流などを通じ,我が国経済と世界経済との一層の調和を図ってまいります。
ウルグァイ・ラウンド交渉は,保護貿易主義や閉鎖的地域主義などの傾向を排して,21世紀に向け多角的自由貿易体制を維持し,更に発展させることを目指す極めて重要な交渉であります。現在,交渉は最終段階を迎えておりますが,我が国としては,他の主要国とともに,この交渉が年内に成功裡
国際社会においては,これらの課題と並んで,早急な対応を迫られる地球環境の保全,開発途上国への支援,麻薬,テロ,難民問題など人類共通の課題が山積しています。我が国は,これらの問題に,これまでの知識・経験などを活かし,正面から取り組みます。
(「生活大国」への前進)
私は,国民の一人一人が,生活の豊かさを真に実感しながら,多様な人生設計ができるような社会の実現を目指したいと思います。このため,私は,21世紀を展望しつつ,中央,地方にわたって,住宅や生活関連を中心とする社会資本の充実を図り,質の高い生活環境を創造して,所得のみではなく社会的蓄積や,美観などの質の面でも,真に先進国家と誇れるような,活力と潤いに満ちた,ずっしりと手応えのある「生活大国」づくりを進めていきたいと思います。
(経済運営の考え方)
生活大国の根底を支えるのは,やはり経済であります。我が国経済は,現在,住宅建設の減少などにみられるように,拡大のテンポが緩やかに減速しつつあります。政府は,物価の安定を基礎として,内需を中心とした経済の持続的拡大を図るため,内外の経済動向を勘案しつつ,適切かつ機動的な経済運営に努めます。また,これらの経済運営などを通じ,公正かつ自由な競争を含む経済活動の自律的発展や雇用の安定に努めるとともに,対外不均衡の動向を注視しつつ,調和ある対外経済関係の形成を図ってまいります。
(雲仙等災害対策)
本年は,雲仙岳の噴火をはじめ相次ぐ台風の襲来などで,各地は多くの災害を被りました。犠牲者の方々とそのご遺族に対し,深く哀悼の意を表するとともに,被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。雲仙岳噴火災害については,政府は,地元と一体となって,住民の生活や事業の再建を支援するとともに,災害終息後の防災,振興,活性化に向け,今後とも万全を期してまいります。台風災害についても,被害の大きい農林漁家の救済や被災施設の早期復旧などの対策を推進いたします。このような災害に負けない国土づくりや国土の均衡ある発展を図ることも,生活大国の重要な課題であります。
(行財政改革の推進)
我が国の財政は,平成3年度末の公債残高が168兆円程度にも達する見込みであり,加えて,これまで税収増をもたらしてきた経済的諸要因が流れを変えてきており,現時点での税収状況も低調であることなどから,極めて厳しい状況にあります。政府としては,後世代に多大の負担を残さず,再び特例公債を発行しないことを基本として,公債残高が累増しないような財政体質を作り上げていかなければなりません。このため,今後の予算編成に当たっては,決意を新たに制度や歳出の徹底した見直しに取り組んでまいります。
また,行革審の答申などを最大限に尊重し,地方分権,一極集中の是正や規制緩和などに引き続き努力するとともに,国,地方を通じた行政改革の推進を図ってまいります。
(証券・金融問題)
証券・金融をめぐる一連の問題は,我が国の証券市場や金融機関に対する内外の信頼を大きく損なうものであり,誠に遺憾であります。
既に,損失補てん
以上,所信の一端を申し上げました。21世紀まであと10年,私は,我が国が,国際社会において名誉ある地位を占め,国民が誇りを感ずることができる品格ある国となるよう,全力を傾けて国政に取り組んでまいります。
議員各位,国民の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
(92年1月24日)
平成4年を迎えた我が国は,激動する国際情勢に適切に対応する必要に迫られ,また処理すべき内政の課題も山積しております。
このような年の幕開けに当たり,私は,ブッシュ大統領を我が国にお迎えし,また,初の外遊先である韓国で虜泰愚
私は,両大統領との話合いを通じて,これらの指導者と国民が,いかに世界平和を切望しているかを確認すると同時に,我が国への強い期待と担うべき重責に思いを致し,改めて,身を引き締めて国政に臨む決意を新たにしたところであります。
このように,内外ともに極めて重要な時に当たり,かつて国務大臣の職にあった同僚議員が収賄容疑で逮捕されたことは,誠に遺憾なことであります。この事件は,目下司直の手によって究明が進められておりますが,このような事が生じたことについて,国民の皆様に対し,深くお詫びいたします。
将来に向けて対処しなければならない問題を多く抱えている今日,政治がこのような事態によって停滞することのないよう,政治倫理の確立を期するとともに,政治改革の実現に全力を挙げて取り組む決意であります。何とぞ各党各会派,そして国民の皆様のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
(「新しい平和秩序」の構築と我が国の役割)
歴史は今,第二次世界大戦後の世界の構図を大きく塗りかえようとしています。世界を二分してきた冷戦構造に終止符が打たれ,ソ連邦が解体し,朝鮮半島の南北対立も緩和の方向に急速に動きだしています。欧州では統合への歴史的作業が着々と進められ,中東やカンボディアでは和平への動きが現実のものとなっています。
その一方で,イデオロギーの対立と核による対峙
このように来たるべき秩序の姿は未だ明確ではありませんが,大きな流れとして世界は,平和を求める人類の願いがかなう方向に進みつつあることはまちがいありません。先の所信表明演説で私が,冷戦後の時代を「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まり」ととらえたのも,まさにこのような認識に基づくものであります。我々は,このような流れを確実なものとし,人類の幸福と繁栄,そして地球の将来をかけて,新しい時代にふさわしい世界の平和秩序を創り出すことに成功しなければなりません。各国がそれぞれ,その国情と国力に相応した責任を引き受けながら,手を携えて,この問題に取り組むことが必要な時代が到来したのであります。
その中で我が国が,大きな経済力とこれを背景とする影響力に見合って,どのような責任と役割を果たすかに国際社会の注目が集まっています。そして今年,平成4年こそは,我が国がこの点で真価を問われる年であります。叡
「新しい世界平和の秩序」づくりを進めるに当たって,世界の人々とともに追及すべき目標として,私は,「平和」と「自由」と「繁栄」を挙げたいと思います。このような目標が一体的なものとして追及されてこそ,個人の尊厳が保たれ,真の人間的価値が保障されるのだと思います。私は,このような考え方に立って,我が国の担うべき責任と役割を,外に対しては,「国際貢献」,内にあっては,「生活大国の実現」を通じて果たしていく決意であります。
(我が国の国際貢献)
「平和」は,新しい国際秩序の基本であります。
冷戦後の国際社会において,国連の果たすべき役割はますます大きくなっています。国連中心外交を展開してきた我が国としては,国連の行財政改革や紛争予防制度の確立などを通じて,その活性化を図るとともに,安保理の非常任理事国という立場から様々な地域問題などに政治的役割を果たし,国際社会からの期待に応えてまいります。この意味からも,今月末の安保理首脳会議には,国会のお許しを得て私自身が出席し,理事国首脳と直接話し合ってまいりたいと思います。また,国連平和維持活動などに対して十分な人的貢献を行う見地から,いわゆるPKO法案を,国際緊急援助隊法の改正案とともに,今国会においてできるだけ速やかに成立させていただくようお願いいたします。
平和を担保する軍備管理・軍縮の動きは大きく進みましたが,ソ連邦の解体に伴う核管理問題や核拡散への懸念が生じています。核の究極的廃絶を願う我が国としては,関係各国と協力して,核軍縮のための国際的努力の促進や化学兵器禁止条約の本年中の妥結に積極的に取り組み,さらに,核,生物・化学兵器やミサイルの拡散防止の徹底を図ってまいります。また,昨年,我が国などの提案で創設された通常兵器の国連登録制度は,通常兵器の国際移転の透明性の増大と自主規制の強化を図る上で画期的なものであり,我が国としては,その効果的運用に努めてまいります。
日米安保体制は,アジア・太平洋地域の平和と繁栄に不可欠の枠組みであり,我が国としては,今後ともこの体制を堅持してまいります。
また,平和憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという基本理念に従い,文民統制を確保し,非核三原則を守りつつ,引き続き節度ある防衛力の整備に努めます。現行の中期防衛力整備計画は一昨年末に策定されましたが,その後の国際情勢はソ連邦の解体にみられるように激動しつつあります。政府としては,このような大きな情勢の変化などを見極めつつ,中期防の修正について前広に所要の検討を行ってまいります。
真の平和とは,単に戦禍がないというにとどまらず,人々に幸福を保障するものでなければなりません。したがって,私の言う新しい世界平和秩序が目指すところは,「自由と民主主義」が尊重され,市場経済の原理に基づく「繁栄」が享受される国際社会の構築であります。
この意味で,旧ソ連邦,東欧諸国,さらに多くの開発途上国がこの方向に沿った改革を進めることは,これらの価値が国際社会の中でより広く受け入れられ,新しい国際秩序の基礎となるために極めて重要であります。我が国としても,その支援に適切な役割を果たしていく考えであります。経済協力の実施に当たっても,このような観点に配慮してまいります。また,我が国がかつて先進諸国から学び,あるいは努力して蓄積してきた経済などに関するノウハウの提供など知的支援の展開に努めます。
繁栄の原動力である世界経済は,依然として多くの問題を抱えています。世界の繁栄の恩恵を最も多く享受してきた我が国としては,持てる経済力,技術力などを積極的に活用し,また,我が国の経済を世界経済と一層調和のとれた構造に転換し,世界の繁栄と発展に貢献していく考えであります。
このため,経常収支の動向などを注視しつつ,一層の輸入拡大を図るとともに,外資系企業や外国製品の我が国市場への参入を促進するなど,幅広い投資,産業分野の国際交流に努め,調和ある対外経済関係の形成に努めます。
ウルグァイ・ラウンド交渉を,早期に,かつ成功裡
また,我々は,世界平和への流れを将来にわたって確実なものとし,その結果生ずる「平和の配当」を,全人類,とりわけ,飢餓や貧困,疾病などに悩む「南」の国の人々に振り向けていかなければなりません。我が国としても,政府開発援助の拡充などにより開発途上国の自助努力を支援し,南北格差の是正に努めてまいります。
さらに,我々は,地球環境,難民や麻薬,人口やテロの問題など,人類共通の課題に真剣に取り組んでいかなければなりません。我が国としては,技術や経験の蓄積を活かしつつ,国連などの国際機関の場において積極的な役割を果たしてまいります。
特に,地球環境の悪化は人類の生存基盤を脅かしています。有限な環境と資源の中で,「持続可能な開発」を目指す経済社会を形成していかなければなりません。このため,6月に予定されている国連環境開発会議,いわゆる地球サミットの成功に向け,我が国としても,各国と協調しつつ,率先して努力してまいります。
また,相互理解促進のための文化の交流や教育問題,宇宙や地球そのものについての科学技術の振興や国際協力についても積極的に取り組んでまいります。
日米関係は,我が国外交の基軸であります。日本の戦後の繁栄は,米国からの善意に満ちた支援なしには実現できなかったと言っても過言ではありません。また米国は,戦後世界の平和を支えるため,多くの犠牲を払ってきました。その米国は今,少なからぬ困難に直面しており,我が国としては,その苦境克服の努力にできる限り協力すべきであります。そして,両国が力を合わせ,世界平和秩序の構築に向けて,地球的な規模の責任を共同で果たしていくこと,私は,それこそが真の両国間のグローバルパートナーシップだと思います。
このような認識に立って,私は,先般,ブッシュ大統領と会談し,その成果を東京宣言や行動計画として発表しました。我が国と米国は,共通の価値観を基盤として,日米安保体制の下,緊密な相互依存関係を発展させてきております。このような堅固な関係の上に立って,世界の平和と繁栄のための協力と,地球環境をはじめ幅広い分野の人類共通課題への共同取組について合意することができました。二国間関係についても,経済問題をはじめ,双方の努力を通じ,友好協力関係を深めていく考えであります。もとより,こうした協力関係を維持,発展させていくためには,両国の相互理解を更に進めることが重要であることは言うまでもありません。
アジア・太平洋地域の平和と繁栄を図るには,この地域の持つ多様性や活力ある経済を十分に活かすことが大切です。我が国は,域内諸国との緊密な協力の下,アセアン拡大外相会議やアジア・太平洋経済協力閣僚会議などの国際協力の場を通じて,経済,政治の両面で積極的な役割を担ってまいります。
我が国が,このような役割を果たすに当たり,留意すべきことは過去の歴史認識の問題であります。アジア・太平洋地域の人々は,過去の一時期,我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されました。私は,ここに改めて深い反省と遺憾の意を表します。我々は,過去の事実を直視し,歴史を正しく伝え,2度とこのような過ちは繰り返さないという戒めの心を更に培って,国際社会の一員としての責務を果たしていかなければなりません。
朝鮮半島では,非核化に向け大きな前進がみられるなど緊張緩和に向かう新たな動きが生じています。我が国の朝鮮半島政策の基本は,日韓友好協力関係の強化にあります。今般の私の韓国訪問では,21世紀に向けた未来志向的な協力関係を具体化していくため,両国国民の深い相互理解と幅広い交流の促進を図り,経済問題も率直な話合いによって協調を旨とする解決を図っていくことで認識が一致しました。北朝鮮とは,関係諸国と密接な連携を取りつつ,朝鮮半島の平和と安定に資する形で,引き続き国交正常化交渉に臨んでまいります。
カンボディアでは,国際社会の共同作業により,和平と復興のための画期的な試みが行われています。我が国としても,インドシナ全体の平和と繁栄への協力を行い,特に,カンボディアの復興については,そのための国際会議を今年我が国で開催したいと考えます。また,今年で国交正常化20周年を迎える中国については,政治,経済両面にわたる改革・開放政策への支援を行うとともに,間断のない対話を通じ,同国の国際社会との一層の協調を促していきたいと考えます。さらに,アセアン,南西アジア,大洋州諸国との一層の関係強化などを進めてまいります。
冷戦後の国際秩序を考える場合,その帰趨
我が国としては,これら各国が,内政,外交両面にわたる改革路線を推し進めるとともに,条約その他の国際約束に基づく義務の誠実な遵守,核兵器の一元的かつ厳格な管理,旧ソ連邦の債務の承継などを確保するよう期待します。このような正しい方向に沿った改革努力に対しては,国際社会とも協力して適切な支援を実施してまいります。
我が国は,独立国家共同体の参加各国との新しい関係を発展させていきたいと考えています。特に,我が国の隣国であるロシア連邦との関係については,「法と正義」に立脚して,北方領土問題の解決と平和条約の締結が1日も早く実現し,日露関係が抜本的に改善されることを強く期待します。
欧州諸国は,米国と同様,共通の価値を分かち合う重要な友人であります。本年は,ECにおいて市場統合が完成し,その後の,政治,経済・通貨統合の拡大のための基礎となるべき歴史的な年であります。我が国は,昨年7月,このように欧州の中核としての役割を高めているECと,日・EC共同宣言を発表しました。私は,その趣旨を踏まえ,双方の間の包括的な協力関係を促進していく考えであります。
中東地域では,アラブ・イスラエル間の中東和平問題の解決に向けて新たな展開が見られ始めています。我が国としても,近く開催される地域の諸問題解決に向けた多国間会議などを通じて,湾岸危機後の中東の真の安定のための国際努力に参画し,これを支援してまいります。
(「生活大国」への前進)
21世紀には,我が国も本格的な高齢化社会を迎えます。世の中に余力があるうちにできるだけ社会の基盤を強めていくことが,今を生きる我々の責務であると考えます。また,生産者中心の視点から消費者や生活者を重視し,効率優先から公正にも十分配慮した社会への転換を図らなければなりません。
これらの課題に応えるため,私は,内政の最重要課題として,「生活大国への前進」を挙げたいと思います。国民1人1人が豊がさとゆとりを日々の生活の中で実感でき,多様な価値観を実現できる,努力すれば報われる公正な社会,私は,こういう社会を育む国家を「生活大国」と呼び,その実現を目指してまいります。
私の描く生活大国とは,
第1に,住宅や生活関連を中心とする社会資本の整備により,環境保全も図られ,快適で安全な質の高い生活環境を育む社会であります。
第2に,労働時間や通勤時間の短縮により,個人が自己実現を図るため,自由時間,余暇時間を十分活用することのできる社会であります。
第3に,高齢者や障害者が,就業機会の整備などを通じ社会参加が適切に保障され,生きがいを持って安心して暮らせる社会であります。
第4に,女性が,男性とともに社会でも家庭でも自己実現を図ることのできる社会であります。今や女性の社会進出は当然のことでありますが,その能力と経験を活かすことのできる条件を一層整備していく必要があります。
第5に,国土の均衡ある発展が図られ,中央も地方も,ゆとりある生活空間や高度な交通,情報サービスなどを享受できる社会であります。
第6に,創造性,国際性を重んじる教育が普及し,国民が芸術,スポーツに親しみ,豊かな個性や香り高い文化が花開く社会であります。
私は,このように,国民生活の隅々に至るまで,活力と潤いに満ちた社会を建設していきたいと考えます。なお,この生活大国の実現などに向けて,先般,新しい経済5か年計画の策定を経済審議会に諮問いたしました。夏頃をめどに1つの方向を得たいと考えております。
〔社会資本,生活環境の整備〕
国民が快適な暮らしを営むために,下水道,環境衛星,都市公園などの社会資本を計画的に整備することが重要になっております。このため,昨年,「公正投資基本計画」を踏まえて策定した住宅,下水道など8分野の5か年計画では,直接的に国民生活の質の向上に結びつくように十分配慮しました。平成4年度予算においても生活関連分野の社会資本の充実に重点を置いているところであります。
また,きれいな空気と水と緑に囲まれた美しい生活環境づくりや,廃棄物の減量,再生,自然還元などのシステムの確立に取り組み,環境保全型社会の形成に努めてまいります。
〔土地・住宅問題〕
豊かな住宅水準を確保するためにも,社会の公正さを保つためにも,土地神話を打破し,二度と地価高騰を生じさせないことが必要です。監視区域の運用の強化,土地税制の総合的見直し,土地関連融資の総量規制などの対策により,既に東京や大阪などにおいては地価の沈静化のきざしが見えてきておりますが,政府としては,土地基本法の理念を踏まえ,引き続き「総合土地政策推進要綱」に基づき,需給両面にわたる構造的かつ総合的な土地対策を講じてまいります。また,特に,大都市地域における住宅・宅地の供給に努め,良質な住宅ストックや良好な住環境の形成を図ってまいります。
なお,総量規制は今年から解除しましたが,今後とも,金融機関に対して,投機的土地取引などに係る融資は厳に排除するよう指導するとともに,地価高騰のおそれが生じた場合には総量規制を臨機に発動することとしております。
〔労働時間の短縮,快適な職場づくり〕
労働時間の短縮や快適な職場づくりは,ゆとりある勤労者生活の実現のため,是非とも達成しなければならない国民的課題です。労使の自主的努力を一層支援するための仕組みを整備することなどにより,完全週休2日制の普及促進,所定外労働時間の削減などを推進してまいります。なお,国家公務員の完全週休2日制については,平成4年度のできるだけ早い時点での実施が可能となるよう,所要の法律案を今国会に提出することとしています。
〔健康で心豊かに暮らせる長寿福祉社会の構築〕
我が国の人口は今後急速に高齢化に向かい,30年後には国民の4人に1人が高齢者という本格的な高齢化社会となることが予測されます。「すこしのことにも,先達はあらまほしき事なり」と言いますが,高齢者の豊富な人生経験や知識は,我々の社会にとって貴重な資産であります。私は,高齢者の方々がこれを社会で活かしつつ,生き生きと安心してその人生を送ることができるような社会を造りたいと考えます。このため,雇用・就業環境の整備などにより社会参加を促進するとともに,ゆるぎない年金制度を確立し,また,適時に適切な保険・医療・介護が安心して受けられるような社会の実現に向けて真剣に努力してまいります。特に,今後一層困難になると見込まれる看護職員,福祉施設職員,ホームヘルパーなどの確保は重要な課題であり,その勤務条件の改善,養成の強化などに総合的な対策を講じてまいります。
次代を担う子供たちを取り巻く環境も,出生率の低下や女性の社会進出などにより大きな変化が生じております。引き続き,子供たちが健やかに生まれ育つための環境づくりに取り組んでまいります。
本年は,「国連障害者の10年」の最終年に当たります。障害を持つ人々が家庭や地域で安心して暮らすことができるよう,完全参加と平等の理念に沿ってきめ細かな施策を講じてまいります。
また,女性が男性とともに,あらゆる分野で平等に活躍できる社会の実現を目指して,「西暦2000年に向けての新国内行動計画」に基づき,女性の地位向上のための施策を鋭意推進してまいります。
〔国土の均衡ある発展と地域の活性化〕
東京一極集中を是正し,多極分散型の均衡ある国土の発展を図るため,国の行政機関などの移転や首都機能移転問題の検討に加え,都市・産業機能の地方分散を進め,特に,来年度からは,地方の自立的成長を牽
また,地方の創意工夫に基づく地域づくりを図るため,国から地方への権限委譲を図るとともに,「ふるさと創生」を契機として高まってきた自主的,主体的な動きを更に支援し,住民が誇りと愛着を持ち得る地域づくりを推進します。北海道の総合開発と復帰20周年を迎える沖縄の振興開発に,引き続き積極的に取り組んでまいります。
〔希望と誇りを持てる農山漁村づくり〕
農林水産業は,国民生活に1日も欠かせない食料の安定供給という重要な使命を担っています。また,国土の広範な部分を占め,国民のふるさとの地である農山漁村は,緑豊かな自然と伝統文化に裏付けられた,ゆとりある生活・余暇空間を提供するなどの機能も併せ有しています。
こうした使命,機能を持つ我が国の農業,農村が今,担い手不足,高齢化,国際化などの進行により大きな節目を迎えています。私は,このような事態に対応して,農業を営む方々が,生産活動を活性化し,魅力と誇りを持って農業に従事し農村地域に定住できるよう,その基本的条件を整備することが特に重要であると考えます。このため,経済社会の中長期の展望を踏まえ,食料,農業,農村をめぐる施策について,21世紀という新しい時代にふさわしいものとするよう努めてまいります。また,林業,水産業については,国土・環境保全など緑と水の源泉としての森林の働きを増進させる森林
〔教育,文化・伝統,スポーツ,学術・科学技術の振興〕
教育や芸術文化,科学技術は,国家,社会のあらゆる分野の発展基盤です。
学校教育においては,個性や創造性を伸ばし,日本人としての自覚に立って国際社会で活躍し貢献できる,心豊かなたくましい国民を育成する教育に努めます。また,生涯にわたる学習機会を整備するとともに,スポーツや芸術文化の振興を図ってまいります。
さらに,人類全体の知的資産を創出し,国際的責務を果たしていくためにも,独創的,先端的な学術研究や科学技術の推進を図ることが必要です。高等教育機関の教育・研究環境の抜本的な改善や研究開発基盤の整備,研究交流や国際協力の一層の促進などを図るとともに,宇宙,海洋,原子力などの開発利用を推進してまいります。
〔消費者,一般投資家重視の行政の確立〕
市場における公正かつ自由な競争の維持,促進については,今後とも,独占禁止法違反行為に対して厳正に対処するとともに,その運用の透明性を高めてまいります。
証券・金融をめぐる一連の問題については,既に損失補てん
さらに,国民が安全で豊かな消費生活を営むことができるよう,消費者の被害防止・救済のあり方の検討など,総合的な消費者行政を推進してまいります。
なお,行政手続法制の整備に取り組むなど,公正,透明で信頼される行政を目指します。
〔災害・治安対策〕
昨年,我が国は,雲仙岳の噴火,相次ぐ台風の襲来など数多くの災害に見舞われました。尊い生命を失われた方々やそのご遺族に対し,深く哀悼の意を表するとともに,住居を失い,農作物に壊滅的な打撃を受けた方々に,心からお見舞いを申し上げます。
これらの災害による被災者の救済については万全を期するとともに,雲仙岳噴火災害については,これに加え,将来の防災地域づくりと地域の振興・活性化に向けて,現在,必要な調査検討を進めております。私は,今後とも,生活大国にふさわしい災害に負けない国土造りを進めてまいります。
最近の治安情勢は,広域にわたる凶悪犯罪の多発,暴力団の市民への脅威,薬物乱用の深刻化など厳しさを増しています。私は,治安の確保は法治国家の根幹であるとの認識に立って,今後とも安全な国民生活の確保に万全を期してまいります。また,交通事故による死者の数が高水準で推移していることから,交通安全に努めてまいります。
(経済・財政運営)
世界の平和秩序の構築に貢献していくためにも,また,生活大国の実現を図っていくためにも,我が国の経済が健全に発展し続けることが不可欠の条件であります。政府としては,今後とも内需を中心とするインフレなき持続可能な成長を図ってまいります。
我が国経済は,住宅投資の減少などにみられるように,このところ拡大テンポが減速しております。したがって,こうした状況が企業家や消費者の心理を大きく冷え込ませないよう,内需を中心に景気に十分配慮した経済運営を行う必要があります。
平成4年度の予算編成においては,税収の鈍化など極めて厳しい財政事情の下,歳出の徹底した見直しに努めるとともに,建設公債の発行額の増加や税制面での所要の措置により財源を確保した上で,予算の重点的,効率的配分を図り,景気にも十分配慮した予算としました。特に公共投資については,生活関連分野を中心に,一般歳出や財政投融資,地方単独事業において思い切った拡充を図っております。これは,公定歩合の引下げなどの施策と併せ,今後の内需を中心とするインフレなき持続可能な成長の確保に十分に資するものと考えております。
我が国の財政は,公債残高が平成4年度末に約174兆円にも達する見込みであり,依然として構造的に厳しい状況にあります。後世代に多大の負担を残すことなく,再び特例公債を発行しないことを基本として,公債残高が累増しないような財政体質の確立に向けて努力を重ね,来たるべき高齢化社会においても経済社会の活力を維持し,また,国際貢献をはじめとする内外の諸要請に適切に対応できるようにしなければなりません。
地方財政についても,その円滑な運営を図ってまいります。
また,行革審の答申などを最大限に尊重し,規制緩和の推進などに努力するとともに,国,地方を通じた行財政改革を引き続き推進してまいります。
最近の物価動向をみますと,その基調は安定した動きを示しております。今後とも,原油価格,為替レート,国内需給などの動向を十分注視しつつ,物価の安定に最善の努力を尽くしてまいります。また,内外価格差の是正・縮小を引き続き図ってまいります。
雇用に関しては,中小企業や地域における人材の確保や定着などのための施策を推進するとともに,障害者雇用対策の充実強化,職業能力開発の積極的促進などを図ってまいります。
中小企業は,我が国経済の活力の源泉であります。厳しい環境の変化に柔軟に対応できる創意と活力に満ちた中小企業の育成を目指し,創造的な事業展開への支援や伝統的工芸品産業の振興など中小企業施策の充実,強化に努めてまいります。
エネルギーについては,環境調和型の需給構造への転換を図り,需要面ではあらゆる部門における抜本的な省エネルギーを推進するとともに,供給面では,石油の安定供給の確保に万全を期する一方,原子力や再生可能なエネルギーなどの開発導入により,石油依存度の低減に努めてまいります。原子力発電については,一層の安全性を確保しつつ,立地を促進し,国民の皆様の信頼感を醸成するよう最大限努力してまいります。
(結び)
以上,第123回国会の開会に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにいたしました。冒頭に申し上げたとおり,我が国が激動する諸情勢に機敏に対応し,国政が的確に遂行されるためには,政治が国民の信頼に支えられて,その機能を十全に発揮することが必要不可欠であります。
政治改革の実現には,まず何よりも政治倫理の確立を図ることが重要であります。しかし,個々の議員の意識,行動とは別に,国民の政治不信の根底には,制度上解決を要する問題が横たわっていることも事実であり,金のかからない政治活動や政策を中心とした選挙が実現できる仕組みをつくる必要があります。このため,政治資金制度や選挙制度の改革が急務であります。また,投票価値の格差是正の要請にも応えられるよう努力しなければなりません。政治改革協議会における各党間のご議論を早急に深めていただき,実りある合意が得られ,国民の理解を得て改革が実現できることを心から期待するとともに,政府としても最大限の努力を払ってまいります。
私は,このような改革を通じて政治が国民の信頼を回復し,国家国民のため,また世界人類のため,時代の負託に応え,よくその使命を全うできるよう,真剣に努力していきたいと考えます。
重ねて,議員各位,国民の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
(92年1月24日)
第123回国会が開かれるに当たり,我が国の外交の基本方針につき所信を申し述べます。
(国際情勢の変化)
国際社会は今日,世界史上にほとんど例を見ない,大きな変革を経験しつつあります。東欧諸国に続いてソ連においても,共産主義体制は崩壊し,ソ連邦は今や存在しておりません。東西間の冷戦は終わり,多くの国々が,民主主義と市場経済の導入に取り組んでおります。その一方で,西欧諸国は,統合に向かって協力を深めつつあります。
アジア・太平洋地域でも,国家関係が,政治体制の違いを乗り越えて正常化しつつあり,経済面で市場原理に基づいた改革,開放が進められております。カンボディアや朝鮮半島においては,和解と安定に向けて具体的な措置がとられ始めております。
東西間の冷戦を背景にした地域紛争は,アフリカにおいても,中米においても,急速に終わりつつあります。また,イスラエルとアラブとの間の対立,抗争についても,すべての当事者が参加する話合いが始まりました。軍縮の分野でも進展が見られます。
これらの動きは世界人類の未来に明るい展望を開くものであります。
しかし同時に,今日の世界は多くの困難を抱えております。かってのソ連や東欧諸国は,既に,失業,日常品の不足,インフレといった深刻な経済困難に直面しております。また,旧ソ連邦は,民族,宗教などによる対立や新旧の権力闘争を抱え,極めて不安定な状態にあります。さらに,旧ソ連邦内の混乱によって,核兵器などの大量破壊兵器やその関連技術の国外への流出や,チェルノブイリで起きたような原子力発電所における事故といった極めて危険な事態が起こる可能性も強く懸念されるところであります。
世界的に見て今後も,民族や宗教に起因する対立,経済的な権益や領土をめぐる抗争などが地域的な武力紛争に発展する危険性は,引き続き存在しております。むしろ,旧
さらに,世界は,地球環境を始めとする国境を越えた問題や,開発途上国における貧困の問題に対する取組を迫られております。
しかるに,頼りにされるべき多くの先進工業国では,自国の経済成長の減速,根強い保護主義圧力の台頭などが深刻になってきつつあります。
(日本の対応)
このように大きく,かつ,激しく変わりつつある国際社会の中にあって,日本はいかに行動すべきか。今,我々はこの問いに対して,自ら答えを出さなければなりません。なぜならば,我が国の対応が新しい国際秩序の形成に,直接,間接に大きな影響を及ぼすようになってきたからであります。
しかも,我が国は昨年末の国連総会において,安全保障理事会の非常任理事国に選ばれました。今回の選出に当たって国連加盟国の圧倒的多数が日本に寄せた期待を十分に認識しておかなくてはなりません。
第2次世界大戦における敗戦から約半世紀が経
新しい世界平和秩序を構築するための国際協力を進めるに当たっては,これまでにも増して日本の特色をいかした外交を展開することが重要であることは言うまでもありません。このような観点から,我が国は,世界平和のための国際貢献を重視し,世界各地の地域紛争の解決や地域的安定への協力,軍備管理・軍縮の促進に取り組んでまいります。それとともに国境を越えた問題の解決や文化,科学技術に関する協力などにも力を入れてまいります。
また,我が国は,人類普遍の原理である個人の自由,民主主義,基本的人権に配慮していかなければなりません。我が国がこのような外交を展開することは,また,国際社会の期待にこたえることにもなると私は考えます。
さらに,我が国が行う国際貢献は,単に資金面での協力にとどまらず,国連憲章の精神をくんだ我が国の憲法の下で,最大限の人的協力を行うべきであります。我が国が額に汗した人的な貢献を含め,幅の広い国際貢献を行うことこそが,「平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において,名誉ある地位を占めたい」という平和憲法の理想を実現していくことなのであります。
国連の平和維持活動は,国連憲章の精神にのっとり,平和を守るため,国連が実績を積み上げてきた活動であり,これまでに世界の80以上の国が参加した国際社会に対する汗をかく人的貢献であります。継続審議をお願いしているいわゆるPKO法案は,正にこのような活動に我が国が積極的に参加できる体制を整備しようとするものであります。国民の皆様の理解の下に,この法案を今国会において是非とも成立させ,国際社会における我が国の責任の一端を果たそうではありませんか。また,同じ観点から,国際緊急援助隊法改正法案についても,今国会における成立をお願いするものであります。
(軍備管理・軍縮)
冷戦後の世界平和を一層確かなものとするための重要な課題は,軍備管理・軍縮であります。そうした中で,我が国が,原爆体験を持つ世界唯一の国家として,核兵器の廃絶を究極の目標とし,そしてまた,政府が,武器やその製造に関連する設備の輸出を慎
冷戦が終わったこの機会をとらえて,政府としては,国際的な核軍縮に関し,一層の貢献を行うとともに,大量破壊兵器及びミサイルの不拡散体制の強化,並びに通常兵器の移転問題等の分野で,一層積極的な役割を果たしていく方針であります。特に我が国としては,核兵器不拡散の分野で,現行の保障措置制度を抜本的に強化するために努力するとともに,化学兵器禁止条約の交渉を本年中に妥結に導くよう一層尽力してまいります。
北朝鮮,朝鮮民主主義人民共和国の核兵器開発問題は,我が国のみならず,アジア・太平洋,ひいては世界の安全を脅かす重大な事態であります。このような認識に立って,政府は,北朝鮮との国交正常化交渉に当たり,北朝鮮が国際原子力機関との保障措置協定を締結し,無条件,かつ,速やかに査察を受入れるよう強く求めてまいりました。また,もし再処理施設があるとすれば,それを撤去することも引き続き求めてまいります。このような見地から,我が国は,朝鮮半島における核兵器の不存在の確認を可能としたブッシュ大統領の核軍縮措置,そして,将来にわたって核兵器及びその関連設備の不保持を宣言した虜泰愚
旧ソ連邦における核兵器の管理は,世界の平和と安全に極めて大きな影響を及ぼす問題であります。我が国は,核兵器が厳格な一元的管理の下に置かれること,及び,ロシア以外の新しい独立国が速やかに非核兵器国として核不拡散条約を締結し,また,そこに存在する核兵器を1日も早く廃棄し,あるいは撤去することを強く求め続けていく方針であります。
(世界経済の持続的な成長)
国際社会が大きく変化している時だけに,世界経済のインフレなき持続的な成長を確保することは,これまで以上に重要であります。我が国としても,そのために進んで積極的な役割を果たしていかなければなりません。また,ブレトン・ウッズ体制の下で,戦後の復興を成し遂げ,世界第2位の経済大国と称されるまでに至った日本としては,多角的自由貿易体制の維持,強化に積極的な役割を果たしていく責務があります。ウルグァイ・ラウンド交渉の成功に寄与することは,その重要な第一歩であります。多角的自由貿易体制の維持,強化にとり極めて重要なこの交渉は,昨年末に最終合意文書案が提示されるという新たな展開を経て,現在最終段階にあります。仮に,この交渉が失敗するというようなことになれば,国際経済及び我が国経済に多大な悪影響を与えるものと考えられます。我が国としては,この交渉が早期に成功裡
(開発途上国に対する支援)
自由貿易体制の下で相互依存関係が強まる中で,一国だけの繁栄を永続させることは困難であります。そこで,開発途上国に対する支援に取り組んでいくことも極めて重要であります。特に,日本は,開発途上国が多いアジア・太平洋地域に位置しております。また,日本自身,欧米の先進国から技術や知識を学び,その支援,協力も受けて,近代国家として発展を遂げてきたという経験を持っております。それだけに開発途上国の発展を支援することは,国際社会における日本の使命であります。
今国会で審議をお願いする平成4年度の政府開発援助予算について,厳しい財政事情の下,第4次中期目標の達成に向けて9,522億円の一般会計予算を計上したのも,このような認識に立つものであります。
今後,政府開発援助の活用に当たっては,地球環境,難民,麻薬等の国境を越えた新しい課題に対応する努力を行っていくことが重要であります。また,第4次中期目標に沿って,援助のハード面のみならず,ソフト面も重視し,質の改善を図るほか,その一層,効果的,効率的な実施についても引き続き十分な配慮を払っていく方針であります。
(先進民主主義諸国との関係)
以上のような外交を進めていくに当たっては,我が国が,自由,民主主義,市場経済といった価値を共有する先進民主主義諸国との協調を図っていくことが重要であります。
中でも,米国との緊密な協力関係は我が国の外交の基本であります。日米安全保障体制に裏打ちされた強固で広範な両国の協力関係は,アジア・太平洋地域の平和と安定を確保し,また,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという日本の立場の国際的信頼性を高めるためにも役立っています。したがって,日米間の各種の摩擦,対立が伝えられる中でも,日米安保体制を中心とした両国の協力関係を,一層強化するよう努力しなければなりません。
今回,ブッシュ大統領の訪日を期して,日米両国が「東京宣言」を発表して,21世紀に向けて日米のグローバル・パートナーシップの下で,地球的,世界的な責任と役割を果たしていく決意を表明したことは,時宜を得たものであります。また,日米両国が,世界経済の安定的発展のために,できる限り協力し合うことは当然であります。我が国は,日米の「行動計画」にあるとおり,自由貿易の原則に立ち,一層の市場開放をも含めた種々の措置を決定したところであり,今後その着実な実施に努めてまいります。
我が国は米国のみならず,西欧諸国とも価値観を共有しており,これらの諸国とも関係を一層強化していく必要があります。特に,EC諸国は,市場統合に続いて,経済・通貨統合及び政治統合に向けて更に歩みを進めることによって,ますます一体性を強めようとしております。このように国際社会における影響力が増大しつつあるEC諸国との間で,政策協議と政策調整の緊密化を図っていくことは,我が国の外交の重要な柱であります。この観点から我が国は,昨年7月に日欧関係にとって歴史的意義を持つ「日本・EC共同宣言」に合意いたしました。今後この宣言に基づき,EC加盟各国との二国間関係の強化に加え, 一体としてのECとの間でグローバルな観点から幅広い協力を推進していく方針であります。
(アジア・太平洋諸国との関係)
韓国,ASEAN諸国,豪州を始めとするアジア・太平洋諸国との間で,地域の安定,発展にかかわる政治,経済両面の課題や世界的な問題について,二国間,多数国間で共に考え,相協力して,問題の解決に当たっていくことも,これからますます重要になってまいります。また,日本が,二国間のみならず,ASEAN拡大外相会議やAPECといった多数国間の協議や協力の場に積極的に参加することは,アジア・太平洋地域の国々と日本との間の相互信頼関係を高めるためにも重要であります。この地域の国々には,過去の歴史や日本の存在感の大きさに根ざす不安感が依然として存在しております。それだけに,将来に向かって日本は,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという基本方針を堅持してまいります。
朝鮮半島については,北東アジアの長期的な安定を確保するという見地がら,韓国,米国,さらには中国などとも十分な連携をとりつつ,政治,経済両面において積極的な外交を展開していく方針であります。宮澤総理大臣が今般,韓国を訪問したのも,このような方針の下で,日韓両国関係の一層の強化を図るためでありました。
また,日韓友好関係を基本としながら,朝鮮半島の平和と安定に資するような形で,引き続き日朝国交正常化交渉に誠意をもって臨んでまいります。
東南アジア全体の安定と発展を確保していく上で,インドシナ半島をアジア・太平洋の活力ある経済発展の枠組みに取り込んでいくことが重要であります。このような観点からも,カンボディア及びヴィエトナムの復興と発展を図っていかなければなりません。我が国としては,カンボディアの和平協定を真に実効あるものとするため,その安定と復興の面で国連の活動に積極的に協力するとともに,本年,日本で,カンボディア復興のための国際会議を主催したいと考えています。
アジア・太平洋地域の安定と発展のために重要なもう一つの課題は,アジアの友邦としての立場から,11億余の人口を有する中国の政治と経済の両面にわたる改革,開放に積極的に協力することであります。本年は,日中国交正常化20周年に当たります。これを契機に,日中間の協力関係を,21世紀に向けてアジア・太平洋地域の安定や世界の平和に資するものにしていくことが重要であります。私も,このような立場から先般中国を訪問し,二国間関係のみならず,軍備管理・軍縮,地域情勢,地球環境問題等について中国の指導層と腹蔵なき意見交換を行ってきたところであります。
さらに,民主主義と市場経済に基づく改革を進めつつあるモンゴルや南西アジア諸国に対する支援やこれらの諸国との関係強化にも努めるとともに,豪州,ニュー・ジーランドとの協力関係を発展させてまいります。
(旧ソ連邦の国々との関係)
旧ソ連邦の国々の国内的な混乱を回避し,その民主化,市場経済導入のための努力を支援し,成功に導くことは,国際政治の当面の重要課題であります。このような認識に立って,私は,各国による支援を調整するため,去る22日よりワシントンで開かれた閣僚会議に出席し,これらの独立国の抱える問題の克服のために,日本が適切な役割を果たす用意があることを明らかにしてきた次第であります。
また,我が国は,旧ソ連邦の対外的権利義務を継続するというロシア連邦との間で「法と正義」に基づいて1日も早く北方領土問題を解決し,平和条約を締結し,日本とロシアとの関係を長期的に発展させる基礎をつくらなければなりません。このような認識に立って政府は,民主化と市場経済の導入を定着させる方向でロシアにおける変革を安定的に促進することと,北方領土問題を解決することという2つの政策目標を達成すべく,最大限の努力を傾注していく方針であります。
(その他の地域の諸国との関係)
東欧諸国は,深刻な経済状況に直面しつつも民主主義と市場経済の導入に努力しており,我が国としても引き続き積極的に支援を行ってまいります。
中東諸国との関係強化は,我が国にとって引き続き重要な課題であります。それだけに,中東の長期的安定の確保には,日本も重大な関心を寄せております。来週,モスクワで開かれる中東和平問題に関する閣僚レベルの国際会議にも,国会のお許しを得て,私自ら出席し,日本の考え方を伝えたいと考えております。
アフリカでは,多くの国が困難な状況の中で民主化や経済構造調整に取り組んでおり,我が国はこのような努力を可能な限り支援してまいります。先般,我が国は,南アフリカとの間で外交関係を再開しましたが,同国に自由で民主的な体制が早期に確立されるよう,働き掛けを一層強化してまいります。
中南米でも,多くの国が民主主義と市場経済に基づく改革を進めており,我が国はこれらの改革を可能な限り支援してまいります。また,我が国は,最近のエル・サルヴァドルの和平合意を歓迎し,今後とも,中米地域の安定のために努力する所存であります。
(国連の強化)
第2次世界大戦の反省の上に立って,恒久の世界平和を求めて,国際連合憲章が生まれ,国連が誕生しました。しかし,イデオロギーの異なる超大国の対立によって,その機能は必ずしも目的どおりには動きませんでした。しかし,ソ連邦の崩壊と政策の革命的大転換により,国連はその原点に立ち返って,活動しやすくなったと言えましょう。超大国間の軍縮や核不拡散が進んだとしても,残念ながら地域紛争は絶えません。難民,テロ,麻薬,地球環境汚染など,世界は克服しなければならない多くの問題を抱えています。今や,国連は見直され,大きな役割が期待されています。
このような中で,安全保障理事会の非常任理事国に選ばれた我が国は,国際の平和と安全のため中心的な役割を果たすべき立場にあることを肝に銘じつつ,国連外交を強化してまいります。その際,国連が新しい時代に対応できるよう,その機能強化と機構改革を促していく方針であります。
(国境を越えた問題)
さらに,国際社会は,地球環境,難民,麻薬,テロなどの国境を越えた様々の問題を抱えており,我が国はその解決のために努力していかなければなりません。特に地球環境問題については,本年6月に,気候変動に関する枠組み条約や地球憲章の採択を目指す国連環境開発会議が開催される予定であります。政府としても,公害対策などに関する我が国の経験と技術をもいかしつつ,この問題に対する国際的取組において積極的な役割を果たしていく方針であります。
また,全世界で1,700万人を超すと言われる難民の存在は,開発途上地域の安定に大きな影響を及ぼす深刻な問題であります。我が国としては,カンボディア避難民の帰還の促進を始めとする世界各地の難民問題について,国連難民高等弁務官事務所等の国際機関を中心とする国際協力の一層の推進を図るべく,積極的な役割を果たしていく方針であります。
(文化,科学技術)
これからの外交においては,文化や科学技術の分野における交流の促進を図ることも重要であります。文化交流は,諸国民の間の相互理解を深め,信頼関係を助長し,安定的な国際関係の確立に資するものであります。政府としては,長期的な視野に立った文化交流の拡大に努めていく方針であります。また,世界の文化財の保護や伝統文化の保存等の分野でも積極的な協力を行っていく考えであります。さらに,科学技術の分野では,外国人研究者の受入れや国際的な各種研究プロジェクトを着実に進めていくことが重要であります。
(むすび)
以上に申し述べましたように,我が国が国際社会において果たすべき役割は飛躍的に大きくなっております。激動する国際情勢に的確に対応し,機動的な外交活動を展開していくためには,それを支える体制の強化が必要であります。私は,臨時行政改革推進審議会の第1次答申を受け,国民の皆様の御理解をも得つつ,外交実施体制の強化に努めていく決意であります。
新しい世界平和の秩序を構築していく上で,我が国は今までになく幅広い役割を果たしていかなければなりません。そのような外交の展開は,内政に直接影響をもたらすものであります。
それゆえに,現在の国際環境における我が国の立場と果たすべき役割の必要性を国民の皆様が,御認識いただけるかどうかが,与野党の外交に対する共通の立場ができるかどうかという分岐点になろうかと存じます。
私は外交を極力分かりやすいものとして国民各位に訴え,世界と共に生きるしかない我が国の国益を守ってまいる決意であります。
道は近くにあります。誠意をもって実行していけば,至誠天に通ずと言いますが,私はそれをやり遂げる決意であります。何とぞ国民各位の絶大なる御支援をお願い申し上げる次第であります。
(92年10月30日)
第125回国会の開会に臨み,当面する諸問題につき所信を申し述べ,国民の皆様のご理解とご協力を得たいと存じます。
天皇皇后両陛下には,去る10月23日,中国ご訪問の途につかれ,28日,つつがなくご帰国になられました。誠に慶賀にたえません。両陛下の中国ご訪問は,両国の長い交流の歴史の中で今回が初めてのことであり,これが日中国交正常化20周年という両国間の友好関係を象徴する重要な時期に行われましたことは,極めて意義深いものと存じます。ご訪問先での人々の温かい歓迎ぶりと,これににこやかにおこたえになる両陛下のお姿は,まさに日中両国民の心の交流を強く印象づけるものでした。国民相互間での友好親善こそが両国関係の今後の発展の礎となるものであります。
私は,両陛下のご訪中を契機として,これまで培われてきた両国間の友好関係を将来に向けて更に強化発展させるよう,一層の努力を傾けてまいりたいと思います。
(政治改革の実現)
何世紀に一度という歴史的な転換点にあって,世界も日本も,かつてない変革を迫られています。今ほど政治が大きな役割を期待されている時はありません。
このような時にいわゆる東京佐川急便事件のような政治と金をめぐる問題や政治家のあり方の問題に関して国民の不信を招く事態が生じたことは誠に残念なことであります。私は,今日の国民の政治不信は,かつて経験したことのないほど深刻なものと痛切に感じており,政治家の一人として,また,国政を預かる立場にある者として,国民の皆様に対し深くお詫びいたします。
国民の政治に対する信頼は,議会制民主主義の基本であります。今ここで国民の疑念が解消され,政治への信頼が回復されなければ,我が国の将来に大きな禍根を残すことになりかねません。
国民の信頼回復のためには,まず第1に,政治に携わる者一人一人が国民の不信,不満を謙虚に受け止め,自ら襟を正し,自粛自戒して日々の政治活動にあたることが肝要であります。このたびの事態に関連して,政治家と暴力団との関係について指摘がなされておりますが,およそ政治家がこのような集団とかかわりを持つべきでないことは言うまでもありません。
第2に,政治は国民のためにあるという民主政治の原点を片時も忘れることなく,かりそめにも一党一派の利害にとらわれて行動しているとの批判を受けることのないよう心がけていかなければなりません。
第3に,再びこのたびのような事態が起こらないようにするため,政治構造に立ち入った制度面の見直しを行うことが不可欠であります。私は,政治資金の透明性の確保,金のかからない政治活動や政策を中心とした選挙の実現など,今日の政治不信を招来した根本的要因に遡った思い切った政治改革を実現するため,不退転の覚悟で取り組んでまいります。
政治改革実現のための具体的方策については,政治改革協議会において,各党間で熱心なご協議を頂いてきているところであります。これまで衆議院議員の定数是正を行うことを始めとして,政治倫理審査会の機能強化,すべての国会議員及び政治団体の資産公開,違法な寄附金の没収など,いわゆる緊急改革の実施について与党と大方の野党の間で合意が得られております。一日でも早く改革の実をあげるため,その第一歩として,緊急改革が今国会で早急に実現されることを念願いたします。さらに,国民の期待に応えるためには,抜本的な政治改革が必要であります。選挙制度や政治資金問題を含めた抜本改革についても,引き続き与野党間で十分なご協議を頂き,国民の納得が得られる政治改革をできるだけ早く実現していかなければなりません。このため,政府としても最大限の努力を払ってまいります。
政治改革は政治家にとって痛みを伴うものでありますが,それを克服して初めて国民の信頼と負託に基づいた国政運営が可能になると信じるものであります。引き続き各党各会派のご理解とご協力をお願いいたします。
(総合経済対策の推進)
時代の変化に柔軟に対応し得る経済社会基盤を構築していくためには,今後とも我が国経済の健全な発展を確保していかなければなりません。現在,我が国経済は,引き続き低迷しており,資産価格の下落もあって厳しい状況に直面しております。このため,政府としては,景気の低迷がこれ以上国民経済に悪影響を及ぼすことがないよう,史上最大規模の10兆7,000億円にのぼる総合的な経済対策を決定しました。
この対策においては,公共用地の先行取得,地方単独事業の推進を含む公共投資等の拡大,民間設備投資の促進,中小企業の省力化・合理化支援などにより内需の拡大を図るとともに,雇用面への配慮や輸入促進などの措置を講ずることといたしました。また,いわゆるバブル経済の崩壊により生じた問題を是正して景気回復を確実なものとするため,金融・証券業界の徹底した合理化努力を前提として,金融システムの安定性の確保や証券市場活性化のための措置などを積極的に講ずることといたしました。
我が国は,これまで何回か深刻な経済的苦境に見舞われてきましたが,そのたびに国民が困難を克服し,より強靭な経済構造を実現してきました。生活大国を実現するためには,社会資本の整備を始めとしてやらなければならないことが多く残されており,また,世界中から国際貢献の責任を果たすことを期待されております。私は,我が国経済にはこれらに応える十分な潜在力が備わっていると考えます。バブル経済への逆戻りを回避しつつ,今回の総合経済対策を着実に推進することは,民間部門の活力を引き出し,必ずや我が国経済を内需を中心とするインフレなき持続的な成長経路へと円滑に移行させるものと確信いたします。7月のミュンヘン・サミットでは、世界経済のより力強い持続的な成長を実現するための政策協調の重要性について合意を見ましたが,今回の対策は,こうした国際的要請にも応えるものであり,各国から高い評価をもって迎えられております。
今回の対策のうち,公共投資の拡大や政府関係金融機関による融資制度の拡充などの実行可能な分野については既に実施に移しておりますが,本対策の着実な実施を確保するとともに,人事院勧告の完全実施などのための補正予算を今国会に提出したところであります。補正予算の速やかな成立を切望いたします。
(生活大国に向けての着実な前進)
我が国は,戦後半世紀にわたる国民のたゆまぬ努力により,世界有数の経済大国にまで発展いたしました。しかしながら,労働時間や住宅事情,社会資本の整備状況などは他の先進国と比較しても見劣りするものが多く,国民生活の質的側面が必ずしも国力に見合ったものになっておりません。これからは経済成長のあり方やその成果の活用に対する考え方の転換を図り,政府はもとより企業や個人の意識や行動を生活者・消費者重視へと変革していくことが必要であります。このような考えから,私は,総理就任以来,生活大国の実現を内閣の最重要課題のひとつとして掲げてきました。先日,住宅団地,福祉施設,教育文化施設,農村地域などにおいて,そこで生活する方々の,心の豊かさや生活の質の向上,さらには不安のない老後を願う声を聞き,生活大国を実現することの重要性を改めて痛感いたしました。
もとより生活大国の実現は,一朝一夕にできるものではなく,長期的な取組が必要であります。我が国の人口が今後急速に本格的な高齢化に向かい,労働力供給の伸びも鈍化すると予測されることを考えるならば,我が国経済に潜在力が十分に備わっている今のうちにどれだけ前進できるかが生活大国実現の鍵を握っております。
こうした認識の下に,先般,今後の政策運営の長期的な指針として「生活大国5か年計画」を策定いたしました。この計画においては,生活者や利用者の視点に立った具体的な目標値を掲げ,事業の進み具合が国民の目にも明らかになるようにするとともに,政府が一丸となってその目標の達成に努力することといたしました。21世紀を展望して,年間総労働時間を1,800時間に短縮すること,大都市圏においても良質な住宅を勤労者世帯の平均年収の5倍程度で取得できるようにすること,下水道普及率を7割程度にまで引き上げること,中学校区に1か所程度の割合でデイサービスセンターを設置することなどを目指してまいります。既に,今回の総合経済対策においても,生活関連社会資本の整備や住宅建設の促進などに十分配慮しているところであり,今後とも,生活大国の着実な実現に努力してまいります。
生活大国づくりを進めるに当たっては,地球社会との共存を図るという観点からの取組も忘れてはなりません。なかでも地球環境問題に対する関心が高まるなか,環境と調和した持続可能な経済社会の構築が求められております。そのためには,国,地方自治体,企業,国民一人一人が幅広い分野において,環境問題克服のための努力を払っていかなければなりません。政府としては,環境基本法制など法制度の整備も含め,こうした努力を方向づけ,促進する方策について検討を進めていく考えであります。
また,社会の安全確保なくして生活大国の実現はありえません。暴力団の民事介入による市民被害は改善されつつありますが,暴力団は依然として市民生活に重大な脅威となっています。このほか,けん銃の一般国民への拡散傾向や過激派のテロ,ゲリラ事件などの凶悪事件の多発,交通事故の大幅な増加など,国民の日常生活に不安をもたらすような事態が目につきます。私は,国民生活の安全確保のための対策に万全を期してまいります。
生活大国を着実に実現していくためにも,財政の健全性を確保し,政府が一体となって整合性のとれた政策展開を図っていくことが重要であります。現在,我が国の財政は,巨額の公債残高に加えて税収の大幅な減少が見込まれるなど容易ならざる状況にあります。再び特例公債を発行しないことを基本とし,公債残高が累増しないような財政体質を作り上げることを目指して,引き続き制度や歳出の徹底した見直しを図るなど財政改革の推進に取り組んでまいります。また,簡素で効率的な行政を実現するという行政改革の目的を実現するため,行革審の答申などを最大限に尊重し,今後とも規制緩和や地方分権などを積極的に進めてまいります。さらに,幅広く政府部門の役割を再検討するとともに,いわゆる縦割り行政の弊害にメスを入れ,真に対応力に富み,総合的な政策展開が可能となる行政システムを構築していきたいと考えております。
(新しい平和秩序構築へ向けての積極的な対応)
ソ連邦が解体して冷戦構造の中での力と力の対立の時代が終わりを告げ,世界の構図は,今,大きく塗り替えられようとしております。
歴史の大きな流れが平和へと向かっていることは間違いありませんが,民族や宗教に根ざした対立の激化などに見られるように,今,世界は,冷戦後の新たな秩序が模索して産みの苦しみともいうべき深い悩みの中にあります。世界が再び混乱の荒波に見舞われることなく,新たな平和秩序を構築していくためには,各国が「平和」と「自由」と「繁栄」という共通の目標に向かって,これまで以上に緊密な協調関係を築いていがなければなりません。私は,今こそ,戦後一貫して平和主義,国連中心主義を堅持してきた我が国が,世界平和秩序の構築に向けて国力にふさわしい役割を果たしていくべき時だと信じています。
先の通常国会において成立した国際平和協力法は,こうした我が国の対応を世界に示す重要な取組のひとつであります。既に9月にはアンゴラの選挙監視に協力を行い,現在,カンボディアにおいて,派遣隊員の諸君が,国連の旗の下,この国の復興を目指して停戦監視や警察行政の指導,道路や橋などの修理といった平和協力業務に汗を流しているところであります。こうした我が国隊員の活動は現地の人々からも温かく受け入れられており,大きな期待が寄せられております。このような実情を見るにつけ,私は,今後とも世界平和秩序構築のための国際的な努力に対し,資金面の協力のみならず,人的な貢献や我が国が蓄積してきた技術,ノウハウなどを活用した知的支援をより積極的に進めていかなければならないとの思いを新たにいたしました。
また,世界の平和を確保するためには,国連自身が時代の変化に適合して変革していくことが必要であります。私は,各国とも協力しつつ,国連の平和維持機能の中核を担う安全保障理事会の信頼性と実効性の向上など,国連の機能強化のために積極的に努力する考えであります。
地球環境問題を始め,難民,人口,エイズ,麻薬の問題など世界がその解決を心から願っている人類共通の課題に積極的に取り組み,また,飢餓や貧困に悩む開発途上国の経済的自立を支援することは,将来にわたり世界の平和を確保し,世界全体の繁栄を揺るぎないものとする上で極めて重要であります。今や世界最大級の援助国となった我が国としては,これらの問題に率先して取り組んでいくことが求められております。私は、問題解決に向けた国際的な枠組み作りに主体的に取り組んでいくとともに,先般策定した政府開発援助大綱の下,環境保全や相手国の軍事支出動向などにも十分配慮しつつ,途上国援助を更に拡充するとともに,より効果的・効率的な実施に努めてまいります。
現在,ウルグァイ・ラウンド交渉は,最終段階を迎えていますが,自由貿易体制を維持・強化し,21世紀に向けた世界の経済的繁栄を確保していくためには,交渉を早期かつ成功裡
東西対立が消滅し,大きく浮かび上がってきたのは,国際社会におけるアジア・太平洋地域の重要性であります。この地域の経済的な活力は21世紀に向かって世界経済の拡大を促す大きな原動力であり,その安定的発展が今後の世界の平和を左右すると言っても過言ではありません。私はこのことをミュンヘン・サミットにおいて強く主張し,その結果,政治宣言にも大きく取り上げられることとなりました。この地域の活力が多様性を前提とした密接な相互依存関係の中に生じてきたことを考えるならば,この地域の国々が域内の対話と協力を一層進めるとともに,他の地域と開かれた協力関係を形成していくことが極めて重要であります。
今後,我が国が世界平和秩序の構築に参画していくに当たっては,アジアの中の日本という基本的な立場に基づいて新たな外交を展開していくことが重要であります。そのためには,近隣諸国はもとよりアジア・太平洋地域の国々とより緊密な協力関係を築き上げていかなければなりません。現在,我が国の途上国援助の半分以上をこの地域の国々に振り向けておりますが,今後は,経済的な協力にとどまらず,地域内の対立や紛争を解決するための協議や政治対話を積極的に進めていきたいと思います。私は,これまで述べてきたとおり過去の歴史に対する深い反省の上に立って,将来に向けて我が国がこの地域の平和と繁栄のために更に何をなすべきかについて真剣に検討してまいります。
目まぐるしく変化する国際環境の中で,アジア・太平洋地域の平和と繁栄にとって,米国の存在,米国の関与が今後とも不可欠であります。また,日米安保体制を始めとする米国との緊密な協力関係は,我が国がこの地域で積極的な役割を果たすための重要な前提であります。
日米関係は,日本外交の基軸であり,私は,引き続き日米両国が共通の価値観を基盤として,世界平和秩序の構築のために地球的規模の責任を共同して果たしていくべきだと信じております。
冷戦後の世界において,統合を目指す欧州は,ますます重要な役割を果たしつつあります。我が国としては,今後とも昨年の日・EC共同宣言にのっとり,基本的な価値観を分かち合いながら,国際関係の新たな枠組みを構築していくパートナーとして,貿易・産業協力などに限らず,政治面,文化面を含む広い分野での一層の関係強化を図ってまいります。
我が国は,領土問題を含む日露関係の正常化が法と正義に基づいて実現されてこそ,ロシアを我々と価値観を同じくする真のパートナーとして迎えることができるとの考え方を従来から主張してまいりました。ミュンヘン・サミットにおいても,このような我が国の考え方は,参加各国の共通の認識となりました。この意味で,エリツィン・ロシア大統領の訪日は,日露間の相互理解を深め,両国関係に新たな第一歩を記すものと考えておりましただけに,その延期は誠に遺憾なことでありました。政府としては,領土問題の解決と日露平和条約の締結に向けて,一貫した姿勢で粘り強く対露外交を進めてまいりたいと思います。
一方,ロシアを始めとする旧ソ連邦,中・東欧諸国などにおける民主主義と市場経済導入のための改革の支援は,今後の世界の平和と繁栄を確保する上で重要な課題であります。このことは,旧ソ連支援東京会議においても各国共通の認識でありました。我が国としても国際社会と協調して,人道的援助や改革努力の支援に適切な役割を果たしてまいります。
(結び)
総理に就任して以来この1年の間,私は,「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まり」にふさわしい国際貢献と21世紀をにらんだ生活大国の実現に心血を注いでまいりました。我々の進むべき道の険しきを思い,自らに課せられた責任の重さを改めて痛感しております。
日本が我々の子供たちの誇れる国になれるかどうかは,我々が時代の要請を見極め,世界的な視点に立ってこの国が進むべき方向を明確にし,それに向かって全力を尽くしていけるかどうかにかかっています。私は,このことを深く心に留め,引き続き国政全般に取り組んでまいります。
国の将来を左右する重要な時期に国民の政治不信によって国政が滞るようなことがあってはなりません。政治倫理の確立を急ぎ,政治改革をやり遂げることは,現下の急務であります。一日も早く政治に対する国民の信頼を回復するとともに,国民一人一人の意見や選択が正確に国政に反映されるような政治システムを築き上げていかなければなりません。「志は易きを求めず,事は難きを避けず」と申します。私は,どんな困難に直面しようとも,政治改革の実現に一身を捧げて取り組んでまいる決意であります。
ここに重ねて,議員各位,国民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。