1. 外交体制の強化の必要性
増大する一方の外交業務を処理するとともに、湾岸危機のような緊急事態に的確に対応していくためには、外交実施体制を拡充していかなければならない。91年7月に臨時行政改革推進審議会(第三次行革審)が提出した第一次答申も、「我が国の国際化を推進し国力にふさわしい国際的責務を果たしていく」という時代の要請に合致するように「外交実施体制の見直し」、「人員面を含めた体制の整備・拡充」を図るよう求めている。
日本の国際社会における地位の向上とともに、外交業務は増加の一途をたどっている。外務省本省と在外公館を結ぶ主要な通信手段である電信の総数は90年には74年に比較して10倍以上になった。同期間中に、経済協力実績額は8倍以上、条約やその他の国際約束の締結数は6倍以上、査証発給数は4倍以上になっている。こうした通常の外交業務を引き続き迅速かつ適切に処理し、新しい国際秩序の形成に積極的に参加する能動的外交を展開するとともに、情報収集、分析、調査等の能力や、湾岸危機のような緊急事態に対応する能力も一層充実させていかなくてはならない。また、今や日本の年間の海外旅行者数は約1,000万人、海外での在留邦人は約60万人となっている。海外においては一人一人が自分の身は自分で守らなければならないという厳しい現実を自覚して行動する必要があるが、側面的支援として政府が国民を保護する能力を一層強化していかなくてはならない。以上のような状況の下で、外交実施体制の強化がますます重要となってきている。
外交実施体制の強化は、外務省の定員の増加、在外公館の機能強化、
特に、危機管理体制強化の観点からの通信・連絡設備等の整備や、関連予算の拡充等、ソフト及びハードの両面にわたる一層の強化が前提である。それに加えて、より機動的な外交を可能にするために何が真に必要とされているかを日本全体として制度面、意識面での見直しや改革も含めて徹底的に問い詰めて行くことが必要である。国際社会において「名誉ある地位」を占めるためには偏狭な利害関係にとらわれず、日本が全体として持てる力を結集し、十分に整合性のある外交を推進していかなければならない。
2. 機構、定員、予算面での努力
外務省としても外交機能の改善に真剣に取り組んでいる。機構、定員、予算の面で外交実施体制の強化に向けて過去1年間に行ってきた努力は次のとおりである。
(1) 機構、定員
機構面では一層複雑化、高度化する日米経済関係、欧州秩序の変動、日ソ平和条約交渉の本格化等の諸事情を踏まえて企画官を4つ新設したほか、米国のマイアミ、フランスのストラスブールに総領事館を新設した。これにより、91年度末における日本政府の在外公館(実館)の数は大使館107、総領事館61、領事館2及び政府代表部6の合計176となる。外交実施体制を強化する上で不可欠の外務省の定員の増加については、ソ連や東欧諸国を中心とする国際情勢の激変に対応した体制整備、日米関係の再構築とグローバル・パートナーシップ推進のための体制整備、中東情勢の緊迫化に対応した体制整備、国際協力構想の充実等を重点として掲げた。この結果、厳しい予算・定員事情ではあるが、91年度には外務本省24人、在外公館86人の合計110人の増員(注)を図ることとしている。
(2) 予 算
引き続き厳しい財政事情の中ではあるが、91年度予算においても、(あ)定員等の増強、(い)在外公館の機能強化、(う)国際協力の推進(平和のための協力、政府開発援助の拡充、国際文化交流の強化等)という3本柱を中心に着実な予算拡充に努め、前年度比424億円増(伸び率7.9%)の5,764億円を計上した。また、情報機能の強化及び海外邦人対策の整備と拡充(邦人安全対策、海外子女教育等)にも力点を置いた。
(注) | 増員される110人から定員削減計画等による減員51人を差し引き、アタッシェ受入れ等による他省庁からの振り替え29人を加えると、前年度比実質88人の増加。 |