第 4 章 外 交 体 制
1. 外交体制の強化の必要性
ソ連・東欧の変化に象徴される国際社会の大きな動きは、戦後の世界の政治・経済秩序を基本的に変えつつあり、今や世界は、戦後の国際秩序に代わる新しい国際秩序を模索する時代に入っている。このような大きな変化の流れの中で、好ましい方向への動きをさらにグローバルに定着させていくことは、わが国と国民生活の将来に極めて重要な意味をもっている。例えば、地域紛争自体は東西対立の緩和にかかわらず依然として存在し続け、わが国にとっても邦人保護の問題が極めて重大な問題となることはイラクのクウェイト侵攻一つをとってみても明らがである。すなわち、わが国外交に課された責務には極めて大きなものがあると言わざるを得ない。
わが国の外交が担う最も重要な責務の一つは、新しい国際秩序の構築に積極的に参画する決意をもって「国際協力構想」を中心とする国際社会への貢献を進めていくことである。なぜならば、わが国の将来は、平和で繁栄する国際社会の中にしかありえないからであり、国際秩序を担う主要な一国となったわが国は、そのために応分の貢献をする必要があるからである。また、的確な対外政策を遂行するために、世界各国・各地域や国連を始めとする各種の機関において広く情報を収集し、これを効果的に分析し、政策に結びつけていく能力を更に磨いていくことの重要性は論をまたない。加えて、海外との関係が強まるに従って急速に増大してきている邦人保護問題や外国人問題に、適切に対処することも重要な課題である。さらには、世界の中で大きな地位を占めるに至った「日本」という国を様々な側面から世界に知らせるための広報や、諸外国との様々な分野での交流のための努力も極めて重要になってきている。
このような重大な使命を帯び、役割を担っているわが国の外交活動は、外務本省及び173の在外公館(大使館、総領事館、領事館、政府代表部)に勤務する4,233人(89年度末定員)の外務省職員によって支えられている。しかしながら、現在の体制では、先に述べたような外交に課された重要な使命と外交に対する需要の急激な増大に十分に応え得る状況にない。大きく変動する国際情勢に的確に対応していくためには、外交実施体制を抜本的に拡充し、強化していくことは焦眉の急と言わざるを得ない。
在サウディ・アラビア日本国大使館
2. 機構、定員、予算面での拡充
このような観点に立って、種々の制約の中、機構、定員、予算面での過去1年間に行ってきた努力は次のとおりである。
(1) 機構、定員
本省の機構については、経済協力局に評価室を設置し、国際連合局に地球環境室を設置する改編が行われた。
評価室の設置は、経済協力の評価に関する体制を強化することを目的とするものである。89年のわが国の政府開発援助額は約90億ドルに上っており、世界で最大の援助供与国となっている。このような援助をより効果的・効率的に実施し、援助対象国の経済開発と民生向上に貢献していくためには、既往案件から得られる様々な教訓を、その後の援助政策と新たな案件の実施に反映させていく不断の努力が必要である。評価室という新たな機構の下で、従来より行われてきた援助の評価活動を一元的にとらえ、更に充実していくことが期待されている。
地球環境室は、近年地球社会の大きな課題となってきている地球的規模の環境問題に関する事務を専門に扱うものである。この問題は、わが国がその持てる知識と技術で積極的に国際社会に貢献することが期待されている分野であり、今後国際的な取組みが更に本格化することが見込まれている。地球環境室の設置によって、このような動きに的確に対応することが期待されている。
このほか、省令職として、アジア・太平洋協力問題、サービス貿易を担当する企画官2ポストが新設された。
在外公館関係では、アフリカのカメルーンに大使館が、英国のエディンバラに総領事館がそれぞれ実館として設置されることとなった。また、90年3月にナミビアが独立したことに伴い、新たに在ナミビア大使館を設置した(ただし、在ジンバブエ大使館が兼轄)。さらに南北両イエメンが90年5月に統一されたため、従来の在イエメン大使館が統一イエメンの大使館となった。この結果、90年度末におけるわが国在外公館(実館)数は、大使館108、総領事館59、領事館2及び政府代表部6の合計175となる。
外交実施体制の強化に不可欠の外務省定員の増大については、情報収集・分析機能、「国際協力構想」のための定員の増強、邦人保護・外国人問題への対応、官房関係業務等の強化を重点として掲げた。この結果、厳しい予算・定員事情ではあるが、90年度には本省32人、在外76人、合計108人(前年度比実質95人の増加)(注)の増員を図ることとしている。
(2)予 算
引き続き厳しい財政事情の中ではあるが、90年度予算においても、(あ)定員等の増強、(い)在外勤務環境の改善等の外交実施体制の強化、(う)国際協力の推進(平和のための協力、政府開発援助の拡充、国際文化交流の強化等)という3本の柱を中心に着実な予算拡充に努め、前年度比673億円増(伸び率14.4%)の5,339億円を計上した。
また、このような3本柱のほかに、情報収集・分析処理能力の強化・拡充、海外邦人対策等の整備・拡充(邦人安全対策、海外子女教育等)にも力点が置かれている。
前年度比実質95人の増加というのは、108人から定員削減計画による減員44人を差し引き、アタッシェ受入れ等により他省庁からの振替え31人を加えたもの。 |