第4節 国連等の国際機関の役割とわが国の協力
1. 国連の活動
(1) 概 観
国連は、1945年の創立以来、平和維持、軍縮、南北、社会、人権問題等の幅広い分野で活動を行ってきたが、東西間の対話の進展を始めとする最近の国際情勢の変化の中にあって、その活動は活発化し、またその役割と任務も拡大しつつある。特に、平和維持面においては、アフリカの最後の植民地といわれたナミビアの独立移行や90年2月のニカラグアの総選挙で国連は重要な役割を果たした。従来、停戦監視などを主要な任務としてきた国連の平和維持活動は、ナミビアでの活動を契機に選挙監視などを含むより包括的な活動に発展してきている。また、90年8月のイラクによるクウェイト侵攻に際しては安保理が22年ぶりに強制制裁措置を決定した。麻薬問題や地球環境問題などのように地球的規模の問題に対する国際的な取組みの分野でも、国連や国連諸機関を通じる国際協力が一層重要になってきている。
従来、国連の活動に消極的であったソ連はゴルバチョフ政権になって、これを重視する姿勢に転じている。米国もブッシュ政権の下で、国連分担金の滞納金を支払うとの姿勢を打ち出すなど、国連への協力姿勢を明らかにしている。この関連で、89年の第44回総会において、米ソ両国は国際平和、安全保障、国際協力について国連の役割を強化することを内容とする決議案を共同で提案し、これが採択された。このような米ソ両国の共同提案は国連史上初めてである。
他方、財政困難、経済分野の機構改革などのように、国連は依然として課題を抱えており、これらの問題への取組みは、国連が今後国際社会の信頼を確保していく上で重要である。また、対立から対話へという新しい流れの中で、国連の体制や機能なども改めて問い直される時期にきていると言えよう。
わが国は、1956年の加盟以来一貫して国連に対する協力をわが国外交の重要な柱の一つとし、米国に次ぐ規模の財政的支援を行ってきたのみならず、その活動に対し幅広い協力を行ってきた。国連大学(UNC)(注1)本部や国際熱帯木材機関(ITTO)(注2)本部をわが国に誘致し、積極的な支援を行っているのもこのような協力の一環である。
国際社会におけるわが国の役割は年々大きくなっているが、それに伴って国連に対するわが国の貢献も新たな段階に入ってきている。国連の平和維持活動に対し選挙監視要員を派遣したことなどはその一つの例である。89年9月、中山外務大臣は、第44回国連総会において、国連支持を通じて地域紛争の恒久的解決、軍縮の促進、繁栄の持続、地球環境の保全等のグローバル・チャレンジに取り組み、世界の平和と安定、繁栄に貢献していくとの決意を強く訴えたが、このようなわが国の姿勢は各国より高い評価を得た。
(2)政治分野での活動
(地域紛争については本章第1節第3項参照)
(イ) ナミビア問題
自由かつ公正な選挙によるナミビアの民族自決、独立の実現に向けて、89年1月、安保理は、国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)設立決議を4月から実施することを決議し、各国に対し物的、人的支援を求めた。11月にはUNTAGの監視の下で制憲議会選挙が行われた。ナミビアは、90年3月に独立を達成し、4月に国連に加盟した。
わが国は、UNTAGに対し4,600万ドルの特別分担金のほか、車両などを購入するための立上がり経費として1,355万ドルの任意拠出金を拠出した。また選挙の監視のため27名の要員を派遣した。この人的貢献は、国連の平和維持活動に対するわが国の協力の本格的な第一歩として、国際社会の高い評価を得た。
(口) 中米紛争
中米紛争は国連の関与の下で、その解決に向けて大きな前進が見られた。90年2月25日にニカラグァで総選挙が実施されたほか、コントラの解体、帰還については、中米諸国の要請に基づき国連及び米州機構は国際支援・検証委員会(CIAV)を89年9月に設置し、活動を開始した。さらに、安全保障面の検証メカニズムである国連中米監視団(ONUCA)も89年11月、安保理で設立され、90年5月のコントラ解体合意に従いコントラの武装解除を行ったほが、現在、国境地域周辺の監視を行っている。
このような背景の下、89年10月国連総会では、中米和平における域内諸国及び国連の努力を評価し、国連事務総長に対し、更に中米和平への貢献を継続するよう促す趣旨の決議案がコンセンサスで採択された。
わが国は国連ニカラグァ選挙監視団(ONUVEN)に対し、資金面の協力を行うとともに、6名の選挙監視要員を派遣し、ニカラグァ総選挙の自由かつ公正な実施の確保に貢献した。
(ハ) カンボディア問題
例年、国連総会で可決されてきた外国軍の撤退、暫定政府の創設、シハヌーク殿下の指導下での国民和解の促進などを骨子とするASEAN主導のカンボディア情勢決議案(わが国も共同提案国)は124対17という圧倒的多数で再び可決された。89年は、パリ国際会議の開催とヴィエトナム軍の「撤退」という重要な動きがあったが、第44回総会の審議に際し、ヴィエトナムは、ASEANの結束を崩すに至らなかった。ただし、決議には「近時国際的に非難された政策等の再来防止」という記述がそのまま残され、クメール・ルージュ派に対する国際社会の不信、反感の根深さが改めて認識された。その後、安保理5常任理事国が非公式に会合を重ね、包括的政治解決のための努力を行ったが、90年8月に開催された第6回会合においては、5か国において和平の焦点であった暫定期間中のあり方等に関する包括的な基本文書に合意し、和平早期達成に向け大きな前進がみられた。
他方、和平プロセスの動きの中で、第45回総会においてはカンボディア代表権の問題が大きな焦点となっている。
(ニ) 中東問題
被占領地情勢の悪化を背景に、総会、安保理での最近の中東問題審議は被占領地情勢問題にその重心を移してきている。89年の第44回国連総会では、イスラエルの被占領地政策を非難する旨のインティファーダ(蜂起)決議が賛成多数により採択され、世界各国のこの問題に対する高い関心が示された。また、安保理において、イスラエルによる被占領地からのパレスチナ人追放は戦時における文民の保護に関するジュネーヴ条約違反であるとする決議が、89年7月及び8月に続いて採択されている。
一方、90年に入って大きな懸案となってきたソ連のユダヤ人移住問題に関しては、ソ連の要請により90年3月~5月に安保理が開催されたものの、決議の採択には至っていない。
また、90年5月20日のイスラエル元国防軍兵士によるパレスチナ人労働者襲撃事件に際しての安保理決議案の取扱いでは、関係者間の対立は続いている。
このほか、PLOの国連における地位向上、専門機関への加盟問題が注目を集めている。わが国は、現在いわゆる「パレスチナ(PLO)」を国家とは認めておらず、このような問題提起は中東和平の前進に貢献しないどの基本的認識に立っている。
(ホ) イラン・イラク紛争
88年8月の停戦以来、88年及び89年に、国連事務総長はイラン・イラク外相レヴェル和平交渉を4回主宰したが、実質的な進展は見られなかった。
この紛争の和平交渉は、当面事務総長の手に委ねられているため、国連総会や安保理は特に審議を行っていないが、90年2月、安保理議長は声明を発表し、国連事務総長の和平努力への支援を表明した。
(ヘ) 南アフリカ問題
89年の第44回国連総会においては、12本のアパルトヘイト関連決議案が票決に付され、例年のとおりいずれも圧倒的多数で採択された。なお、包括的強制制裁決議においては、今回は西独が名指しで非難され、わが国などの反対にもかかわらず採択された。なお、89年12月に開催されたアパルトヘイト特別総会において建設的、協調的な内容を有する宣言がコンセンサスで採択された。同総会には、わが国より田中外務政務次官(当時)が出席し、わが国の反アパルトヘイトの立場を強く訴えるとともに、デ・クラーク政権の諸施策は歓迎するが、実質的改善が見られない限り、南アに対する既存の制裁措置は継続する旨の演説を行った。
(ト) 西サハラ問題
西サハラの領有を主張するモロッコと分離独立を主張するポリサリオ戦線の間の紛争に関しては、88年8月以来、国連事務総長が調停を行っている。停戦実施のための直接交渉と同地域の帰属を決定する国連監視下の住民投票の実施を骨子とする事務総長の和平提案に基づき、90年6月、住民投票の選挙人名簿を確定する作業を行う会合が開催された。また、住民投票の実施主体となる国連西サハラ住民投票監視団(MINURSO)の設立と具体的な和平計画日程の承認を求める報告書が安保理に提出された。
(3) 経済分野での活動
(イ) 国連経済特別総会
「国際協力、特に途上国の成長と開発の再活性化のための特別総会」が90年4月に開催され、60名以上の首相、閣僚を含む代表が出席し、宣言をコンセンサスで採択した。この特別総会は80年以来10年ぶりに開かれた経済分野における特別総会であり、90年代の国連における南北対話を方向づけるものであった。
(口) 国際防災の10年
わが国が中心になって進めている国際防災の10年については、第44回総会において、90年1月からの開始を宣言し、10月の第2水曜日を国際防災の日に指定し、特別上級理事会、科学・技術委員会、事務局、信託基金の設立等を内容とする行動計画を定めた決議が、国連加盟国159か国(当時)中155か国という圧倒的多数の共同提案国を得て、コンセンサスで採択された。
(ハ) 流し網問題
近年、北太平洋におけるイカ及び南太平洋におけるビンナガマグロの流し網漁業により他の水産資源が無差別に混獲されているとして、その増大が問題視されている。第44回国連総会では流し網漁業を一定期間後に一時停止することを求める米国等と、科学的データに基づき必要ならば措置をとるとするわが国が決議案を提出した。両者間で調整を行った結果、92年6月までに水産資源の保存、管理措置が実施されない場合には、流し網漁業の一時停止に合意するよう総会が勧告すること等を内容とする決議案がコンセンサスで採択された。
(4) 人権分野での活動
わが国は、人権が人類にとり普遍的価値を有し、また世界平和、安定の基礎であるという基本的立場から、世界における人権の尊重と促進のため、人権問題に関する国連の活動に積極的に参加してきた。90年5月、わが国は再び国連人権委員会のメンバー国に選出された。
89年の国連総会では、児童の権利に関する条約がコンセンサスで採択された。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択試定書が採択されたが、この議定書は必ずしも国際世論の一致を見ていない死刑の廃止を義務づけるものであり、わが国を含む多くの国が反対または棄権した。
また、東西関係の変化を背景として、国連においても東側諸国の人権問題に関する討試は少なくなり、開発途上国の人権問題が注目されるようになってきている。例えば、89年の国連総会や90年の国連人権委員会においては、ミャンマーの人権問題が取り上げられ、また、「6.4事件」以降の中国の人権問題については決議案をめぐって激しい討議が行われた。
国際機関における邦人職員 国連、国連専門機関、OECD等に勤務する邦人職員数は、90年1月現在、932名である。その内訳は、幹部職員約10%、専門職員約53%、一般事務職員約37%である。 各国際機関に勤務する邦人職員数は年々増加する傾向にあるが、待遇・雇用慣行の違い、子女教育、帰国後の再就職等の問題もあり、分担金比率や人口等を基準として設定される「地理的配分の対象となる専門職以上の望ましい職員数の範囲」を大幅に下回っている。国連の場合、89年6月の調査では、わが国の望ましい職員数の範囲152人~206人に対し、邦人職員数は91人に過ぎない。 わが国は、74年度、外務省内に国際機関人事センターを設置し、国際機関への邦人職員の派遣を積極的に推進している。
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(5) 行財政問題
(イ) 行財政改革
わが国の提唱により設置された賢人会議の報告書に基づき3年間にわたって行財政改革が実施され、89年の第44回総会には最終報告書が提出された。この報告書によれば、この期間に予算決定手続きにおけるコンセンサス方式の導入、12.1%の職員削減などのように、改革の進んだ分野もあるが、経済、社会における政府間機構の整理統合のように、あまり進捗の見られない分野もある。89年をもって3年間の改革の実施期間は一応終了したが、わが国は国連の健全な運営と活性化のために、今後ともその一層の効率的運営に向けて引き続き努力していく必要がある。
(口) 財政危機
国連は加盟国の分担金未払いを主因とした慢性的な財政困難にある。89年末の時点では、4億6,116万ドルが未払いとなっており、これは国連の通常予算の約4割に当たる。従来、滞納の多かったソ連が徐々に方針を変更し、計画的に滞納額の解消に努め始めた一方、米国の滞納が続いており、米国の未払い金は国連全体の未払い額の約8割を占めている。
米国は国連行財政改革の進捗状況などにも鑑み、政治的理由により不払いとしている部分を除き、分担金を完済する姿勢に転じており、91年度予算教書において、米国が加盟している全国際機関の90年分担金の総額を予算に計上するとともに、過去の国際機関及び平和維持活動への支払い遅滞分についても今後5年間で支払いを完了させる計画を立てている。これが実現すれば、国連システム全体の財政状況が好転することが見込まれる。
(ハ) 90年~91年国連通常予算
89年の第44回総会において、90年~91年(注)の通常予算を約19億7,463万ドルとすることが決定された。これは前会計年度比、名目10.4%の増加となる。わが国は国連通常予算の11.38%を分担しており(米国に次いで第2位の分担率)、90年の分担金は約9,000万ドルとなっている。
2. その他の主要な国際機関
(1) 経済協力開発機構(OECD)
OECDは、政治、経済についての基本的価値観、理念を共有する先進国の間で、政治、軍事を除くあらゆるテーマについて自由に議論を行う機関である。OECDは、世界のオピニオンリーダーとして、将来国際社会が直面しうる問題を先取りし、世界が長期的に発展していくためにとるべき道を常に模索している。例えば、近年とみに国際的な関心が高まっている地球環境問題についても、OECDは従来から強い問題意識を持ち、その有する経済分析の手法も活かしつつ、様々な角度から検討を行ってきている。また最近では、「欧州の変革する経済に対する協力センター」を設置し、急激な変革を経験している東欧諸国に対し、OECD加盟諸国が有する市場経済の運営に関する知識、ノウハウを提供し、これら諸国を世界経済に統合する上で重要な役割を果たしつつある。
わが国はOECDのこのような役割を高く評価し、あらゆる議論に積極的に参加するとともに、財政面でも米国並みの拠出を行っている。このようにわが国はその国際的地位にふさわしい指導的役割を果たしてきている。
(2) 国際通貨基金(IMF)
IMFは、国際通貨制度の中心に位置し、先進国間の政策協調の推進、累積債務問題の対応等に関して重要な役割を果たしてきた。今後、特に東欧における改革の支援、「新債務戦略」の推進において積極的な役割を果たしていくことが期待されている。
90年5月の暫定委員会においては、IMFの資金基盤と債務履行遅滞国対策の一層の強化の必要性が強調され、第9次増資とIMF第3次協定改正の実施が合意された。その結果、91年末までに、IMFの資金規模を50%増加し、債務履行遅滞国の投票権の停止等を可能とする協定改正が発効する予定である。
わが国は、この第9次増資で、IMFの権利、義務の基礎となるクオータ・シェアにおいて西独と同列の第2位の地位が認められた。(世銀等の国際開発金融機関については本章第2節第6項参照)
人類の生存、発展及び福祉に関する緊急かつ全世界的な諸問題を国際的な協力により研究し、問題の解決に寄与することを目的とする国際機関で、74年、東京に本部が設置された。わが国は大学基金に対し、1億ドルの拠出を行うなどの協力を行ってきた。 |
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ITTOは国連の機関ではないが、国連貿易開発会議(UNCTAD)の協力により設立された。 |
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国連は74年以降、2年間の会計年度を採用している。 |