4. 日本国政府が関与した主要な共同コミュニケ等

 

(1) 第28回OECD閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(1989年6月1日)

 

1.

   OECD閣僚理事会は5月31日及び6月1日に開催された。議長はアイスランドのジョン・シガードソン商工大臣が務め,副議長はベルギーのロベール・ユルバン貿易大臣,カナダのジョー・クラーク外務大臣,ジョン・クロスビー貿易大臣及びマイケル・ウィルソン大蔵大臣が務めた。閣僚は-般経済情勢をレビューするとともに,OECD地域及び開発途上国の経済的,社会的前進に必要な政策のあり方について討議した。

2.

   閣僚理事会は,ジャン・クロード・ペイユOECD事務総長を,1989年9月30日より5年間の期間再任した。閣僚はこの機会に同事務総長がこれまでOECDを指揮するに当たり示した能力に対し謝意を表明した。
    (1980年代の成果からの一層の前進)

3.

   現在のOECD経済情勢は全般的に良好である。経済活動は力強く,インフレは比較的穏やかな水準に抑制されており,雇用創出の面では大幅な前進があり,設備投資は盛り上がっているが,これは広範な経済政策分野にわたってとられた行動と経済面での国際協力の着実な強化によって支えられた経済界の自信を反映したものである。

4.

   近年における成果にもかかわらず,多くの成すべきことが残されている。今後,持続的で雇用創出的な,インフレなき成長を確保していくためにOECD各国政府は以下のことを実行する。
 

(1)

 最近,多くの国において再び問題として現れているインフレ圧力に対して抵抗すること。
 

(2)

 最近,目立って弱まってきた大幅な経常収支と黒字の削減プロセスを強化すること。
 

(3)

 多くの国において依然として高い失業を,若年及び長期失業の問題に特段の注意を払いつつ,低減すること。
 

(4)

 各国経済及び国際的に存在する,構造的な硬直性とゆがみの縮小を加速すること。
 

(5)

 健全な財政ポジションを確立するとともに,公共部門の効率的運営を推進すること。
 

(6)

 多くの国で国全体の貯蓄の構造と水準を改善し,それによって生産的投資の持続的浮揚に貢献すること。
 

(7)

 ウルグァイ・ラウンド交渉を1990年に成功裡に完了させることを積極的に追求し,市場アクセスを拡大し,あらゆる形態の保護主義の圧力に抵抗し,多角的貿易体制を阻害するいかなる手段をも差し控えることにより,開放的・多角的貿易体制を強化すること。
 

(8)

 現在及び将来の世代のための持続可能な発展を確保するため,特に経済と環境に関するそれぞれの意思決定のより良い統合により,環境の保護と管理を改善すること。
 

(9)

 ウルグァイ・ラウンドの大枠の取組みで確認されたように,世界農産物市場における制約とゆがみの是正と予防のために,農業の支持と保護の相当程度の段階的削減及び強化され,かつ,運用上より効果的なガットの規則及び規律の制定を合意された期間内に追求すること。
 

(10)

 開発途上国が直面する債務と開発の問題の実行可能な解決策を見い出すための開発途上国の努力を支援する政策を強化すること。

(政策指針)

5.

   1990年代において,これらの課題に対処し,改善された経済パフォーマンスを確保していくために、各国政府は実行可能な政策手段とそれらの間の相乗的効果を最大限に活用する。1980年代の経験は,広範な分野で経済政策上の措置を実施し,また,一国に限らず多くの国で実施することが,個々の措置の効果を高めることを示している。

6.

   したがって,
 

(1)

 金融政策は,成長経済においてはその主要目標たる物価安定に向けられる。これは,安定した持続的成長の条件を作り出すことに役立つ。幾つかの国においては,為替レートの安定は国内価格と費用の安定を維持するために重要とみなされている。
 

(2)

 財政政策は,それが適切な場合には,財政健全化のプロセスを維持することにより,民間貯蓄への公共部門の需要を減らすことを目指す。各国政府は,また,税の構造に伴うゆがみを減らし,支出の水準と構成について,より綿密な精査とより改善された全体的管理を行うことにより,公共部門勘定の歳入・歳出両面の質及び効率性の向上を目指す。
 

(3)

 各国政府は,経済の潜在力を着実に改善し,インフレを加速することなく追加的雇用を創出し,マクロ経済政策の有効性を高めるために,構造改革の重要な分野における行動を強化する。
 

(4)

 経済面での国際協力は,マクロ経済政策及び構造政策の両面において,とりわけ対外調整プロセスを支援するために強化される。
 

(5)

 加盟国は,地域協定に参加乃至それを強化する際,国際的義務及び開放的・多角的貿易体制強化の目的に従って行動し,地域的自由化とダイナミズムによる利益が参加国ばかりではなく,広く世界経済にもたらされることを確保するよう努める。

7.

   閣僚は,経済政策委員会による構造政策サーベイランスに関するレポート(*)を歓迎する。閣僚は,広範な分野での改革を強力に推し進めることが,従来以上に緊要な課題であるというレポートの主要な結論を承認する。改革のための経済的条件は良好である。改革は,全ての加盟国及びユーゴースラビアにおいて,労働・資本・財市場の弾力性,効率性を一層高め,また,公共部門の効率を改善し,マクロ経済政策の効果を高めるであろう。閣僚は,多角的サーベイランスの実施に関する事務総長のレポートに留意する。これは,改革のモメンタムを持続させることに貢献する。閣僚は,事務総長が構造改革と政策に関するOECDのサーベイランスの発展,強化を継続することを求める。

8.

   個々の国に要求される具体的な経済政策指針につきレビューされ合意された。

9.

   米国においては,持続的かつ均衡のとれた成長確保のため,インフレ圧力を封じ込め,経常収支の赤字を更に削減することが引き続き優先課題である。国内需要の継続的抑制と財政赤字の一層の削減は,これらの諸課題の達成に決定的に重要である。米国当局は,引き続き,賃金,物価,需要の動向を綿密にモニターし,インフレ圧力がこれまでにとられた政策措置により減少しない場合には適切な行動をとるものとする。米行政府は,米大統領と議会指導者の間で合意された,連邦財政赤字を1990年度に1,000億ドルまで削減するための最近の措置が完全に実施されることを確保する。貯蓄・投資ギャップの削減に資するため,1993年までに連邦財政赤字を完全に解消するとの目的達成に向けて,必要に応じて,追加的措置が講じられよう。更に,困難に陥っている金融機関の置かれた状況への対応及び健全性確保のための監督制度の改善にも,優先的に注意が払われよう。更に,米国は開放的・多角的貿易体制を強化する目的に沿った貿易政策を実施する。

10.

   日本及び西独においては,当局は,近年弱まっていた対外調整を実質的に推進し得るような水準の,力強いインフレなき内需の成長を持続するために,引き続き慎重でありつつも機動的な中期的マクロ経済政策を実施するとともに,構造改革をより強力に推進する。
 

(1)

 日本では,最近税制を改善するために主要な改革が行われたが,就中,今後の人口の高齢化を考慮して,歳入・歳出構造の調整が一層推進されよう。物価安定と対外調整の両面に資する構造改革が促進されよう。これらの改革には,土地のより効率的な利用のための法的及びその他の障害の除去並びに土地税制の見直しが含まれる。流通及びその他のサービス部門の規制構造の改革を通じて,価格競争は強化され,内外の参入者に対する市場のアクセスも一層改善されよう。金融部門においてはすでに大きな進展が見られたが,金融の自由化及び国際化が今後とも継続されよう。日本はこれら及びその他の措置の遂行に当たり,財及びサービスの両面における一層の市場アクセスの改善を行い,もって輸入の力強い拡大に貢献する。
 

(2)

 西独は,財政健全化に関する中期計画を継続し,特に社会保障の総点検,多年度にわたる税制改革,電気通信部門の改革を含む主要な構造改革を開始した。労働時間,賃金構造及び職務配置についてより柔軟な制度を導入する努力が奨励されよう。長期失業者の再雇用の条件の改善について特段の注意が払われよう。運輸部門のように,参入に対する規制や障害が依然として大きいサービス部門は構造改革の必要性がある。国内金融市場に残存する構造的障害の削減,小売業における閉店時間の一層の自由化により経済の柔軟性の改善がはかられよう。構造改革は,経済のダイナミズムを増大し,経済の成長を強化し,また,国内市場をより指向する部門への資源の移動を支援することにより対外調整プロセスに貢献しよう。

11.

   他のOECD諸国は,適当な場合には同様の広範な政策指針に従うとともに,それぞれの国情を反映した具体的行動をとる。他の主要なOECD諸国における,緊急の優先課題として,
 

(1)

 フランスでは,経済をより競争力のあるものとするため,既に着手された改革が強化されよう。その際優先度は特に財政赤字削減継続,競争政策及び企業の基本的競争力の改善等の反インフレ戦略に与えられる。残存外国為替規制は除去され外国投資への一層の開放の過程は継続されよう。EC内での資本移動の自由化及び財政的調和のプロセスがもたらす税制への影響並びに現下の優先歳出事項,とりわけ研究及び訓練につき財源を確保する必要性に照らし,公共支出の管理は強化されよう。
 

(2)

  イタリアでは,金利上昇圧力をもたらし,公的債務の増大につながりインフレ圧力を高めている財政赤字の削減に向けての努力が強化される。同国は,また,公的部門の効率を高める努力を継続する。資源のより効率的な配分に寄与するため,官民両部門間の調整が改善されよう。税制改革が強化され,それにより,投資の持続的成長を支援するため利用可能な資源が増加しよう。特に訓練及び労働市場に関する広範な諸措置を通じて,イタリアは過熱気味の中央部-北部と依然高失業を抱える南部との間の構造的跛行性の低減に引き続き努力する。
 

(3)

 英国では,金融政策の目的は引き続きインフレ低下に向けられる。財政政策は,公的債務の一層の償還を行いつつ,中期的には均衡財政を目指す。種々の専門的サービスの提供にあたり,また,制限的貿易慣行法の改革を通じ,競争がさらに奨励される。税制改革も,特に,可能な場合には限界税率の一層の低減を通じ,引き続き経済パフォーマンスの改善をもたらそう。雇用訓練及び教育の水準も一層改善される。民間にとって,負担となっている規則の見直しと改革も継続される。
 

(4)

 カナダでは,最近の予算で打ち出された公約の遂行に優先度が与えられる。即ち,インフレ低下,財政赤字削減と公的債務の増大抑制,広範な課税基盤を有する売上税,即ち,財貨・サービス税の実施及び失業保険制度を所得維持ではなく人的資源の開発により重点を置く制度に改革することである。政府は各州間の取引に対する制限の撤廃に向けた努力を強化する。
 

(5)

 域内市場を1992年に完成し,経済的及び社会的結びつきを改善するための欧州共同体(EC)の計画は着実に前進しており,既に構造政策の改革,投資及び成長に強いモメンタムを与えている。これらの動きは,欧州経済圏を創出するためにECとEFTA諸国が既存の自由貿易協定を超えて協力関係を深め,拡大する共同の努力により補完され,また,開放的・多角的貿易体制を強化する目的に沿うものとする。
   

(金融市場及び海外直接投資)

12.

   金融市場及び海外直接投資の自由化の進行は,よりダイナミックな世界経済に貢献している。閣僚は,最近行われた資本移動及び金融サービスの分野におけるOECD自由化コードの強化が自由化プロセスに新たな弾みを与えることを歓迎する。OECDコード及びその他のインストゥルメントの基礎をなす原則は,各国政府が異なる金融制度の存在及び国際競争に対する開放度の違いから生ずる国際的困難を回避又は低減しようとする際に,各国政府に指針を与えるものである。

13.

   ますます一体化する証券市場は,監督機関が直面する課題を変化させてきた。OECDは,市場間のつながり,制度上のリスク及びこれらのリスクを管理する制度の能力の改善の余地について検討してきた。今後数年間の目標は,円滑で効率的で弾力的な金融制度の働きを確保するために,監督及び規制機関の間で国際的な協力を一段と進めることである。

14.

   対内直接投資に対する規制の低減において前進が見られ,資金フローが急速に増加してきている一方で,保護主義的な考え方は,時には貿易における緊張からの副次的効果として,投資の流れを脅かしている。閣僚は,国際投資及び多国籍企業に関するOECDの宣言及び決定についての1990年レビューに関し,保護主義に抵抗すること,開かれた投資環境を維持すること,また就中OECDの内国民待遇インストゥルメントの強化に関する決意を再確認した。国際投資問題へのOECDの取組みを特徴づけてきたバランスは,1976年の国際投資及び多国籍企業に関する宣言の異なる要素間バランスを含め引き続き保持されるべきである。

(労働市場,教育及び社会政策)

15.

 企業家精神及び雇用創出の環境は,特に小企業及び新規業種で改善され,節度ある賃金決定の成果が,過去数年間,多くの国において雇用の拡大に重要な貢献を果たした。しかしながら,一部OECD諸国では失業水準は依然として受け入れ難いほど高い。労働市場政策は,特に若年失業及び長期の失業の問題に取り組み,また,労働市場の硬直性の一層の減少を求め,雇用機会が十分に開拓されることを確実にしていくために,強化されるであろう。閣僚は,より雇用創出的な成長,機能的・地理的移動可能性の向上及びより円滑な労働力の調整の各々を目的とする長期的な労働市場政策の新たな枠組みを開発するために行っているOECDの努力を歓迎する。

16.

 しっかりした基礎教育は,義務教育後の教育及び勤労生活を通じての訓練の機会と組み合わされて,個人が雇用機会を十分に開拓する上で重要なものである。各国政府及び民間部門は,密接な協力によりこれらの基本的な要請を満たすべく努力を強化しなければならない。

17.

 社会保障制度は,連帯の重要な発露であり,個人の安定と尊厳とに大いに貢献し,構造的変化の受容を円滑にする。これらの制度は,実行可能でありつづけるためには,変化していく環境及び諸要請に対応させて行かなければならない。特に,これらの制度が,労働市場と人的資源の強化政策とを効果的に支えて行く上で果たし得る貢献を十分活用しなければならない。

18.

 より一般的には,社会・労働市場政策は,全てのグループ,特に恵まれない人々が,経済・社会に積極的に参加することを目指すべきである。このことは,人口の高齢化に伴い従属人口比率が上昇するにつれ,益々重要となり,市場のシグナル及び誘因を利用した政策,プログラム,資格付与及び行政組織のより適切な統合を必要とする。

(農業)

19.

 閣僚は,農業委員会と貿易委員会との共同報告(*)に留意し,その結論を支持した。主として北米地域の旱魃及び一定の範囲ではあるが政策的措置による生産の減少は,1988年における助成(PSE/CSEの暫定値による)の減少に貢献した。供給管理政策は,ある場合には生産の削減に効果的であったが,経済の深刻な歪曲をもたらす可能性がある。OECD事務局の推計では,OECD全体としての納税者及び消費者の負担となる農業助成の費用は,1988年に約2,700億ドルに達した。これは,1986年及び1987年の水準を下回っているが,1985年及びそれ以前の年の水準を依然として上回っている。農業生産を方向付ける上での市場シグナルの役割は殆どの場面で依然不十分である。貿易面での緊張は引き続き厳しく,市場アクセスの改善が行われた例は僅かであり,直接又は間接に輸出競争に影響を与える政策措置が依然として広くとられている。

20.

 従って,1987年及び1988年に閣僚が定めた諸原則に従い,現在の市場の活況を利用して,農業改革のプロセスを積極的に遂行することが何時にも増して必要である。かかる観点から,ウルグァイ・ラウンド交渉を成功させることは極めて重要である。従って,加盟国は,今後,中間レビューで合意された大枠の取組みに基づき,ジュネーヴでの実質的な交渉(交渉提案の提出を含む)に積極的に参加し,短期措置に関する各国の約束及び表明された意図を果たしていく。改革は,農業の支持及び保護の相当程度の段階的削減,及び強化され,かつ,運用上より効果的なガットの規則及び規律の強化を通じ,公正で市場指向型の貿易体制を目指して,国内的及び国際的レベルで相互に取組みを強化することによって完遂されなければならない。

21.

 OECDは農業改革のモニタリングに関する作業を継続する。これには,量的な指標(例えばPSE/CSE)及び分析の改善,中期的市場動向及び個々の政策の中期的な影響の分析,供給管理,直接所得支持など関連する全ての政策の目的と限界の評価,農業と環境の相互関係についての検討が含まれる。農村地域開発政策に関する作業は活発に継続され,農村地域において,環境を保全しつつ開発と成長を促進し,経済的にも実行可能な活動を触発する措置の選択と評価に貢献することが目指される。

(産業補助金)

22.

 産業補助金は,構造調整の障害,資源配分の歪曲,国際的な摩擦をしばしば生じさせることがある。このような産業補助金の削減は,各国経済の柔軟性を改善し,競争を基礎にした国際貿易を拡大する上で重要である。閣僚は,1986年及び1987年に権限が与えられたこの分野での作業の進展に留意し,同作業の強化に合意した。今後優先されるべきことは,情報収集を完遂すること並びに産業補助金の持つ経済的な影響についての透明性及び評価を確保するための作業の第二段階のための概念と手法に関し早急に合意することである。

(輸出信用補助金)

23.

 閣僚は,貿易と援助を歪曲する輸出信用補助金に対する多数国間の規律強化に向けた進展を満足の意をもって留意した。この努力は活発に継続されねばならない。閣僚は,権限あるOECDの関係委員会等に対し,最近改訂された輸出信用アレンジメントの実施を綿密にモニターするとともに,その目的が達成されているか否かを評価するよう要請した。

(エネルギー)

24.

 エネルギー消費の伸び,特に石油のそれは,石油及びエネルギー供給に圧力をかけており,その結果が,諸物価,インフレ及び経済成長のための潜在力に影響を及ぼす可能性がある。従って,省エネルギーとエネルギー効率の増大,供給の多様化,エネルギー技術の改善及び緊急時対応を達成するためには,IEA(国際エネルギー機関)加盟国のエネルギー担当大臣により強調されたように,強力かつ継続した行動が必要である。

(世界的規模の諸問題)

25.

 世界的な相互依存関係は,ますます深く認識されている現実であり,その結果,貿易体制,環境保全及び途上国問題に解決策を見出す努力の強化をもたらしている。

(開放的・多角的貿易体制)

26.

 既存の数多くの貿易制限措置及び慣行に対し,世界貿易の量的拡大を伴う過去1年間の力強い経済活動の効果は限られたものでしかなかった。多額の対外不均衡の継続及び構造調整の遅れは,保護主義圧力及び国際的な摩擦の原因となっている。政府による介入,灰色措置は多角的体制を蝕み続けている。「相互主義」及び「不公正貿易慣行」等の貿易に関する特定の概念の新たな解釈並びに二国間貿易の一定の均衡を目指す新たな手法がより強く主張されるようになってきている。閣僚は,多角的体制を脅かし,ウルグァイ・ラウンド交渉を損なうユニラテラリズム,バイラテラリズム,セクター主義及び管理貿易への傾向を断固拒絶した。

27.

 よって閣僚は,全てのかかる保護主義的傾向を停止し,逆転させるとともに,開放的多角貿易体制を強化することの決意を表明した。閣僚は,就中ガットの規定及びインストゥルメントに反する貿易上の差別的あるいは歪曲的措置の回避を求めているプンタ・デル・エステにおけるスタンドスティルおよびロールバックに関するコミットメントを遵守する。閣僚は,改善されたガットの紛争処理手続の効果的な使用とその一層の改善のための交渉において進展を図ることに合意した。更に閣僚は,上述のスタンドスティル・コミットメントに従い,ガットの原則と多角的体制の保全を損なうような差別的あるいは独自の行動を行わない。閣僚は,OECDにダンピング及び他の関連措置を含む加盟国の貿易政策の動向についてのモニタリングを実施させる。この点に関し,すべての新たな措置の早期通報についてのコミットの完全な遵守が肝要である。

28.

 これらの進展は,財とサービスの国際貿易に関するマルチラテラリズムを強化し,市場を開放するために,ウルグァイ・ラウンドの成功が必要であることを強調するものである。中間レビューの積極的な結果は,交渉の次の段階に健全な基礎を与えた。OECDは分析的,概念的な作業を行い交渉を支援する。閣僚は,新分野を含めた全ての問題について,ラウンドの期限に間に合うよう可能な限り早期に具体的な提案を提出し,遅滞なく実質的な交渉を開始する必要性に合意した。閣僚は,ウルグァイ・ラウンドを推進し,1990年に完了する決意であることを再度表明した。閣僚は先進国,途上国双方の全ての交渉参加国に対し,交渉を成功に導くために最も建設的な貢献をもたらすよう呼びかける。

(環境)

29.

 環境悪化の継続は,持続可能な経済開発と全ての人々の生活の質的向上を脅かすことになる。したがって,全ての国々が,地球的規模のものを含め,種々の環境問題に積極的に取り組むことが、肝要である。この点において,OECD加盟国は特別の責任を有している。最近の一連のハイレベルの諸会合は,国際協力のプロセスに重要な貢献をした。

30.

 環境問題の規模,緊急性及び経済的,社会的,生態学的な潜在的影響に鑑みれば,全ての関連する国内,地域及び国際機関を最も効果的かつ効率的な方法により動員する必要がある。OECDは,このプロセスに完全に協力するとともに,20年間にわたり実施してきた環境問題に関する作業の上に立って,その加盟国の構成と組織上の性格からOECDが特に貢献し得る分野に作業の焦点を当てる。

31.

 閣僚は,持続可能な経済開発に貢献する手段として,環境及び経済に関する政策決定をより系統的かつ効果的に統合することが決定的に重要であることを再確認したOECDは,経済分析の分野における能力を利用して,環境に関する提案やイニシアチブの費用,便益及び資源上の意味合い並びに政策の選択に関し,環境に関する政策決定を,確固とした分析基盤の上に置くための作業を実施する。また,必要に応じ,環境上の配慮を経済政策形成の不可欠な要素とするための手法の開発を行う。次のような分野で新領域を開くため,特別の関心が払われる。

-経済成長モデルへの環境上の配慮の導入。

-環境と貿易の関係に関する分析。

-どのようにして価格メカニズム及びその他のメカニズムを環境上の目的達成に使用できるかの認定。

-大気,気象,海洋その他の地球環境問題に対処するための技術を含む対応策の経済的費用・便益の評価(他の担当機関の作業と調整しつつ実施)。

-「持続可能な開発」概念の経済的用語による敷衍。

32.

 この点に関し,技術によるブレークスルーのための努力を強化することが,経済成長と環境保護を調和させる上で重要である。OECDは,環境上の技術革新及び技術の普及に対するインセンティブと障壁の検討を行う。また,技術上の選択に関する情報交換の拡大を促進する。

33.

 産業も,特に経済上の決定に環境上の関心を組み込むことにより,1990年代の環境上の課題に立ち向かうための中心的役割を担っている。OECDはこれら課題に応えるべく,引き続き政府と産業との間の緊密な協力を促進し,支援して行く。廃棄物の最小化,エネルギーと原材料を節約する産業プロセス,費用効率の良い「クリーン・テクノロジー」の企画と市場化,経済的に実行可能な汚染管理及び環境管理産業の開発といった分野では進展が起きつつある。これら活動と傾向の経済的側面を分析するとともに技術革新と技術の選択肢に関する情報交換を行うための幅広い努力が行われる。OECDとBIAC(経済産業諮問委員会)の共催により,10月に計画されている「1990年代における環境問題と産業政策」に関する会議は,かかる努力の一例である。農業部門も土壌浸蝕,水質汚濁等の環境問題を是正するために中心的役割を担っている。

34.

 環境とエネルギーの重要な関係については,IEA(国際エネルギー機関)とNEA(OECD原子力機関)を含めた緊密な協力が継続される。

 エネルギー安全保障,環境保護及び経済成長を促進させる統合的政策が求められている。地球温暖化と気候変動の危険についての証拠が増大していること及び本問題に対処する必要があることに鑑み,閣僚は,エネルギー政策がこれら課題に応えるためにどのような貢献が可能か及びこれら政策の経済・社会へのインパクトはどのようなものかを世界的規模で警戒を怠らず,真剣でかつ現実的な評価を要請する。OECD加盟国は,国際的・国内的環境問題解決のために各々のエネルギー政策面で貢献すべきである。IEA閣僚により確認されたように,これら閣僚は,それぞれの国のエネルギー政策において,飛躍的に改善されたエネルギー利用効率と省エネルギー,新技術及び国家的決定がなされている場合には建設,運転及び廃棄物処理にわたって,従来同様のかつ改善された安全性を確保しつつ原子力の活用を実施することに合意した。運輸部門も,環境に関しては特に重要である。OECDは,1989年11月に開催される予定の運輸と環境に関するECMT(欧州運輸大臣会議)閣僚会議の準備に積極的に参画している。

 35.

 閣僚は,開発途上国との協力が地球環境問題の解決のために欠くことのできないものであることに合意した。OECDは,加盟国の関連政策の経験を評価する。OECDは,かかる情報に基づき,経済成長を持続させることについての開発途上国の正当な関心及び必要性並びに環境上の課題に応える上での財政・技術的要請を考慮しつつ以下の点で加盟国間の政策調整に努める。

-開発途上国への技術移転のためのメカニズム。

-長期的な環境上の費用・便益と短期的な経済成長目的との間の均衡。

-開発援助機関による環境保護と天然資源管理に対する革新的アプローチの立案。

-開発計画への環境配慮の組み入れの促進。

 閣僚は,加盟国政府から直接的又は間接的融資を受けている特定の開発事業及び開発計画についての適切な環境責任手続きの開発を促進する。閣僚は,実施可能性のあるプロジェクトの環境に与える影響が周知されていることが重要であると認識する。

(開発途上国)

36.

 1980年代の開発途上国の状況の多様化によって,個々の開発途上国の政策が進歩のために重要であることが明確になった。継続可能な幅広い基盤をもつ成長と効果的な開発は,開発途上経済の安定化及び自由化,行政府の効率性,民間部門及び市場の役割の強化,貧困への取組み並びに人的資源の強化を目指し,各国の状況に深く関係する政策改革に依存している。DAC諸国及び多国間の開発・金融機関は,これらの分野における開発途上国の努力を支援するために援助努力や内容を調整し多様化させてきている。閣僚は,1990年代の主要な開発援助問題に関してDACが開始したレビューを歓迎する。この作業の結果は,1990年の閣僚理事会に提出されよう。

37.

 十分で適切で時宜にかなった金融支援は,開発途上国における主要な経済的,社会的改革の成功のために決定的に重要である。いくつかのDAC諸国の努力にもかかわらず,全体の譲許的援助の増加率が低減している。閣僚は,この傾向を逆転させ,援助の質を改善するための作業を継続するという決意を表明した。閣僚は,最貧途上国に対するODA債務帳消しあるいは負担除去の措置を歓迎し,可能な全ての援助国に対し,かかる線に沿って更に行動を考慮するよう要請する。OECD加盟国は,開発援助努力に加えて,開発プロセスに対する枢要な貢献として,開かれた活力のある国際経済環境を押し進める明確な責任を有する。かかる観点から,外国の民間投資を含む全体のネット資金フローを増加することも,開発途上国にとり重要である。

38.

 依然として続いている債務問題は,広範な開発途上国に影響を与えている。過去数年間に展開されたような共同の債務戦略の鍵となる諸原則は,ケース・バイ・ケース・アプローチが強調されつつも依然有効であり,効率的な成長指向型の改革を実施している国を支援するものである。かかる観点から,閣僚は,債務戦略強化のために,IMF理事会及び世銀理事会がIMF暫定委員会での合意に続き,最近行った決定を歓迎する。最後に閣僚は,全ての関係者に対し,これらの措置を踏まえ早急に行動するよう要請する。パリ・クラブは,トロント・サミットで合意された最貧債務国支援の方向づけに沿って活動している。債務に苦しむ諸国を支援するための協調的な努力が,強く追求され支持されなければならない。

39.

 金融的な措置は重要であるが,これらはOECD加盟国及び債務国双方の広範な一連の経済政策によって支持されなければならない。OECD加盟国における健全な金融・財政・構造政策は,成長を持続し,より低い金利,より多くの貯蓄を実現するために望ましい条件を作り出すことによって,債務国の金融状況を助けることになろう。また, OECD加盟国は,開放的・多角的貿易及び金融体制を強化し,開発途上国がより全面的に参加する拡大された自由な貿易を目指し,保護主義に抵抗し,市場が開発途上国の輸出に対して開かれたものになることを保証するため,あらゆる機会を利用しなければならない。

(非加盟国との協力)

40.

 閣僚は,世界経済における役割が重要性を増している多数の力強いアジアの諸経済との対話が,過去1年間に成功裡に開始されたことを歓迎する。世界経済の形態の変化及び政策決定に当っての重要な共通関心分野に関する最初の意見交換は建設的であった。これまでの経験は,重要になってきている問題を特定し議論するためのより一層意義ある接触について大きな展望が存在していることを示唆している。閣僚はこれらの進展を心から歓迎するとともに,より具体的な問題についての非公式の議論を通じて対話を進める努力を支持した。閣僚は,1990年の閣僚理事会における報告を要請した。

41.

 閣僚は,経済及び環境上の相互依存関係の拡大に鑑み,OECDが域外諸国の動向に引き続き注意を払うことが重要と考える。相互に有益な接触の可能性については,慎重に検討されるべきである。

 

目次へ

(2) 第15回主要国首脳会議(アルシュ・サミット)関連文書(仮訳)

 

(イ) 政治宣言

(1989年7月15日)

(a) 人権に関する宣言

 1789年,人間及び市民の権利が厳粛に宣言された。40年程前には国連総会において世界人権宣言が採択され,その後これが更に発展・法典化されて,今や市民的及び政治的権利に関する国際規約及び経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約において具体化されている。

 我々は,自由,民主主義の原則及び人権に関する我々のコミットメントを再確認する。我々は,法の支配こそが,すべての市民の権利と自由を公平に尊重し,保護すると共に,人間の精神が自由と多様性の中で発展し得る環境を提供するものであるとの我々の信念を再確認する。

 人権は,正当な国際的関心事である。我々は,人権と基本的自由が普遍的に尊重されることを奨励し,促進することを改めて確約する。

 将来を展望すると,人権の促進にとり好機とともに脅威も存在する。従って,我々は,人権の国際的な基準を支持するとの確固たるコミットメントを誓約するとともに,この国際的基準を再確認し更に発展させるとの意思を確認する。

 我々は,思想,良心及び宗教の自由並びに意見及び表現の自由を保護すべきことを強調する。これらの自由がなければ,他の権利を十分に実現することはできないからである。

 我々は,また,法の支配と意見の多様性を尊重すべきことを強調する。これらがなければ,国民を代表する政府も民主主義も存在し得ないからである。

 我々は,多元的な社会における結社の自由も同様に重要であると信じる。

 我々は,身体の保全及び尊厳についての個人の権利は保障されねばならないと考える。我々は,すべての形態の拷問を憎悪し,非難する。

 我々は,すべての人類が互いに友愛の精神をもって行動しなければならないと信じる。

 我々は,すべて人は,単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利及び機会平等の権利を有すると信じる。極度の貧困及び社会からの排除は,その状況に置かれた人々の尊厳を侵すものである。苦境ないし貧困状態にある人々に対しては支援が与えられねばならない。

 我々は,児童,障害者及び高齢者の権利は特別の保護を必要とすることを強調する。

 我々は,人間の尊厳が維持されるためには,人間科学の発達,例えば遺伝学や臓器移植の分野でなされた進歩が,すべての人権に則って応用されねばならないと考える。

 現在の世代たる我々は,将来の世代が健全な環境を受け継ぐことを確保する義務を負う。

 我々は,法の支配,不偏の正義及び真に民主的な制度がなければ,これらの権利及び自由を適切に保障することはできないとの信念を再確認する。

 

 

(b) 東西関係に関する宣言

1.  我々7ヵ国の首脳及び欧州共同体の代表は,我々が自由,民主主義及び人権の推進に普遍かつ至高の重要性を置いていることを再確認する。
2.  自由と民主主義の拡大を我々と同様に希求する徴候が東側においてみられる。東側の人々は,若い人々も含め,これらの価値を重ねて主張しており,多元的民主社会を要求している。東側の指導者の中には,自由と民主主義の拡大が彼らの国の近代化のために積極的な貢献をなしうることを理解し,法律,慣習及び制度の変革に着手している者もいる。他方,我々が強く非難する抑圧的な施策を講ずることによって,今なおこうした動きに対し抵抗を試みている指導者もいる。
3.  我々は,自由が拡大され,民主主義が強化されること,そしてこれによって数十年の軍事的対立,イデオロギー上の反目と不信に代わり,対話と協力の増進のための基礎が形成されることを希望する。我々は,現在進められている改革と,欧州の分断が縮小していく見通しとを歓迎する。
4.  我々は,ソ連政府に対し,その新たな政策や宣言を,国内及び国外において,更に具体的な行動に移すよう求める。欧州及びアジアにおけるソ連に有利な軍事力の不均衡は,我々各自にとり依然として現実の脅威である。従って,我々の政府は,警戒を続けなければならないし,我々の国の力を維持しなければならない。見通し得る将来においては,我々各自が,適切かつ効果的な核戦力と通常戦力とを適正に組み合せることによって,既存の同盟関係の中で抑止戦略を維持していく他に道はない。武器や軍事力の重要性が減ずるような世界の到来を促進するために,我々は,化学兵器についてはその世界規模での禁止を,欧州における通常兵力については我々の安全保障上の要求を満たす形で可能な限り低いレベルでの均衡を,また,米ソ両国の戦略核についてはその実質的な削減を早急に遂行することを改めて約束する。
5.  我々は,東側の国々に対し,我々各自の安全保障上の利益に合致し,かつ,国際貿易の一般原則とも合致した形で,均衡のとれた経済面での協力を健全な商業的基盤の上に発展させる機会を提供する。我々は,欧州経済共同体(EEC)と東側諸国との関係の発展,特に,ハンガリーとの協定締結,ポーランドとの現下の協議の過程で達成された進展及びソ連との交渉の開始に留意した。
6.

 我々は,ポーランドとハンガリーで進められている改革の過程を歓迎する。我々は,これら両国において起きている政治的変革が経済的発展なくしては持続し難いものと考える。我々各自は,この過程を支援し,両国の経済を後戻りしない形で変化させ開放させることを目指した経済的支援を適宜かつ調整した形で考慮する用意がある。我々は,各自が,これら両国に対し対内投資,合弁事業,経営技術の移転,職業的訓練及びより競争的な経済を発展させることを助長するような他の事業を通じて改革のはずみを維持するように,支援の手を差しのべるべきものと考える。

 我々各自は,経済改革を勧奨し,より競争的な経済の実現を促進し,貿易の新たな機会を提供するため,具体的なイニシアチブをとりつつある。

 我々は,ハンガリーとポーランドで進められている改革の過程に対する我々の支援策が一層効果を上げ,かつ,相互に補強し合うようにするため,関心を有する他の諸国及び多国間機構と協調しつつ,支援を調整していくことに合意した。我々は,関心を有する政府,公共部門及び民間部門が,改革の過程を支援するため,創造的な一層の努力を傾けるよう勧奨する。

 我々は,ポーランドとハンガリーにおける改革を協調して支援することに関し,今後数週間のうちに,関心を有するすべての諸国との会議を開催することを求める。我々は,現下の情勢でポーランドが緊急に食糧を必要としていることを強調する。

 我々は,これらの目的のため,欧州共同体委員会に対し,欧州共同体の他の構成国と合意した上で所要のイニシアチブをとるよう,また,サミット参加国に加え関心を有するすべての諸国と連携を図るよう要請する。

 

7.  我々は,IMFとポーランドの間の交渉が早急に妥結することを支持する。ポーランドが条件を満たせば,新債務戦略をポーランドに適用することが可能である。我々は,パリ・クラブにおいて,ポーランドの債務の繰り延べを迅速,柔軟かつ前向きな方法で支援する用意がある。
8.  我々は,世界各地の紛争に公正な解決を見いだし,低開発と闘い,資源と環境を保護し,そしてより自由でより開かれた世界を築くため,西側諸国と東側諸国が共に働く好機を目前にしている。

 

(c) テロリズムに関する宣言

1.

 我々は,すべての形態のテロリズムに引き続き断固として反対する。我々は,テロリズムと闘うに当たり,テロリスト及びその支援者に対しいかなる譲歩も行わないとの原則,並びに二国聞及びすべての関係国際場裡において協力することについての,我々各自の従来からのコミットメントを確認する。我々は,累次のサミットにおいて合意された政策へのコミットメントを改めて確認する。我々は,特に,国家支援テロリズムを非難する。我々は,テロリストが処罰されずに放置されることがあってはならず,国際法の枠内でかつ法の支配に従って裁判にかけられねばならないと決意している。我々は,テロ行為を支援し又は奨励してきた国家に対し,そのような政策を放棄したことをその行動によって示すよう求める。我々は,特に,人質をとることに対する断固たる非難を再確認する。我々は,人質をとっている者に対し人質を即時かつ無条件に解放するよう,また,人質犯に影響力を有する者に対し人質解放のためにその影響力を行使するよう求める。

2.

 我々は,すべての旅行者の安全について深く懸念し,国際民間航空に対する凶悪な攻撃及び航空輸送の安全に対するテロリスト・グループからの度重なる脅威に憤慨して,民間航空に対するすべての形態のテロリズムと闘うとのコミットメントを再確認する。我々は,航空機のハイジャック及び破壊工作からの保護のため国際的に合意された措置を強化することに貢献するとの決意を改めて表明する。

3.

 我々は,スコットランド上空において270名の死者を出した先般の航空機に対する攻撃を特に非難する。我々は,保安措置を一層強化することにより,このような攻撃を防止することに優先的に取り組むことにつき意見の一致をみた。我々は,この目的に向けて国際民間航空機関(ICAO)理事会が最近採択した作業計画を実施に移すことが重要と考える。

4.

 我々は,また,爆発物探知方法の改善の必要性についても意見の一致をみた。我々は,現在ICAOが優先事項として取り組んでいるプラスチック爆発物及び薄板状爆発物に探知用の識別策を施すための適当な国際的体制作りの努力を支持する。

 

 

(d) 中国に関する宣言

 我々は,既に,中国における人権を無視した激しい抑圧を非難した。我々は,中国当局に対し,民主主義と自由に対する正当な権利を主張したに過ぎない人々に対する行為を中止するよう強く促す。

 この抑圧に鑑み,我々各自は,深甚なる非難の意を表明し,二国間における閣僚その他のハイレベルの接触を停止し,また,中国との武器貿易があれば,これを停止するといった適当な措置をとるに至った。更に,我々各自は,現下の経済的不確実性に鑑み,世界銀行による新規融資の審査が延期されるべきことに同意した。我々は,また,中国人留学生が希望すれば,その滞在を延長することも決定した。

 我々は,中国当局が,政治,経済改革と開放へ向けての動きを再開することにより,中国の孤立化を避け,可能な限り早期に協力関係への復帰をもたらす条件を創り出すよう期待する。我々は,これらの出来事以来香港の人々が有している深い懸念を理解し,共有する。我々は,中華人民共和国政府が,香港に対する信頼を回復するために必要な対応をとるよう求める。我々は,国際社会の継続的な支援が,香港に対する信頼を維持する上で重要な要素になると考える。

 

(ロ) 経済宣言

(1989年7月16日)

1.  我々主要先進7ヵ国の元首及び首相並びに欧州共同体委員会委員長は,第15回年次経済サミットのため,パリで会合した。アルシュ・サミットは,1975年にランブイエで,また1982年にヴェルサイユで始められた一連のサミットに続き,サミットの新たな一巡の始まりとなる。1982年に開始された一連のサミットは,第二次世界大戦以後最も長期にわたる持続的な成長の時期の一つを経験した。これらサミットにおいては,効果的な協議が行われるとともに,新たなイニシアティブを打ち出し国際協力を強化する機会が得られた。
2.

 本年の世界経済情勢には,三つの主要な課題がある。

-均衡のとれた持続的成長を維持し,インフレを抑制し,雇用を創出し,また社会正義を増進するために必要とされる措置の選択と実施。これらの措置は,また,対外不均衡を調整し易くするとともに,国際的な貿易及び投資を促進し,開発途上国の経済情勢を改善するものでなければならない。

-開発途上国の発展及び世界経済への一層の統合。多くの開発途上国,特に健全な経済政策を実施している国においては,相当の前進が達成されている。他方,債務負担と根強い貧困の問題は,何億もの人々が影響を受ける自然災害によりしばしば困難の度を深めており,我々が引き続き連帯の精神をもって対処すべき深く懸念される問題である。

-将来の世代のために環境を保護する緊急の必要性。成層圏オゾン層の破壊,将来気候変動をもたらし得る二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの過剰排出等,我々の環境に対する深刻な脅威の存在が科学的研究により明らかになった。環境保護のためには,断固とした協調的な国際的対応を行うこと及び持続可能な開発に根ざした政策を世界的規模で早急に採用することが要請される。

(国際経済情勢)

3.  我々の経済の効率性と柔軟性を向上するための政策に重点を置くこと,及び協調的な努力と調整過程を強化することによって,成長が維持されてきた。中期的には,この期間に見られた活発な投資が,財とサービスの供給拡大への道を開くとともに,インフレの危険低減に力を貸すこととなろう。しかしながら,今後の見通しにおいて危険性がないということは決してない。
4.  現在まで,各国政府及び通貨当局の協調的努力により,多くの国においてインフレの脅威は封じられてきた。しかし,引き続き警戒していく必要があり,インフレが最近上昇を示した国においては,これを下降に向かわせるべく確固たる政策的対応がとり続けられる。
5.  対外不均衡の削減については一定の進展がみられたが,調整の勢いは最近目に見えて弱まってきた。協調して対外不均衡の調整を一層進展させることが必要である。
6.  米国,カナダ及びイタリア等の財政及び経常収支の赤字を抱える国においては,財政赤字の一層の削減が必要である。財政赤字を削減するための行動がとられる。このことは,貯蓄・投資ギャップと対外不均衡の削減に寄与し,インフレの抑制に貢献し,また金利の低下を通じて為替レートの一層の安定を促進し得よう。
7.  日本及びドイツ等の対外黒字を有する国は,引き続き,インフレなき内需の成長を促進し対外調整を助長するような,適切なマクロ経済政策と構造改革を追求すべきである。
8.  我々の国全ては,世界経済の健全な発展について責任を共有する。中期的には,赤字国は,対外調整と輸出の増大を通じ世界的な調整において重要な役割を果たさなければならず,また黒字国は,内需と輸入の増大のために好ましい状況をもたらす政策を通じ経済の世界的な拡大の持続に貢献しなければならない。
9.  新興工業国・地域の台頭とこれらの国・地域との対話の開始を歓迎する。我々は,これらの国・地域の中で相当規模の黒字を有するものに対し,対外不均衡の調整並びに開放的な貿易及び決済制度に貢献するよう要請する。このため,これらの国・地域は,為替レートがその競争力を反映することができるようにし,ガット上のコミットメントを実施し,また貿易障壁を削減すべきである。

(国際金融面での進展と協調)

10.

 我々諸国は,プラザ合意及びルーブル合意において,それぞれの経済の基礎的諸条件を改善し,それら基礎的諸条件に見合った為替レートの安定を促進するための監視と協調の政策を相互に補強し合う形で追求することに合意した。

 国内政策の一貫性とそれらの国際的な整合性を確保するため,経済政策の多角的監視と協調が進展してきた。用いられる手続きは,国際通貨基金(IMF)との協力により一層明確化され改善されている。

11.

 協調プロセスは,世界経済の発展に積極的に貢献してきており,国際通貨制度の機能の改善にも大いに貢献してきた。為替市場においても引き続き協力が行われてきた。

 国際通貨制度の機能及び安定性を経済の基礎的諸条件に合致した形で改善するためのこのような協調的かつ柔軟なアプローチを引き続き行い,また適当な場合にはそれを発展させることが重要である。

 従って,我々は,大蔵大臣に対し,協調プロセス,為替市場における協力,及び国際通貨制度の機能を改善するためとり得る措置の検討を継続することを求める。

12.

 我々は,国際通貨基金第9次増資の決議を本年末までに採択するために必要な作業を完了するとの決定を歓迎する。我々は,SDR配分の再開の問題が国際通貨基金理事会において依然検討中であることに留意する。

13.

 欧州共同体においては,欧州通貨制度が相当程度の経済政策の一本化と通貨の安定に貢献してきた。

(経済効率の改善)

14.  我々は,我々の経済の非効率性を取り除くための措置を引き続き促進する。これらの非効率性は,経済活動の多くの側面に影響を及ぼし,潜在的な成長率と雇用創出の見通しを低下させ,マクロ経済政策の有効性を減少させ,対外調整過程を阻害する。この関連で,税制改革,金融市場の近代化,競争政策の強化,及びエネルギー,工業,農業等全ての部門における硬直性の減少が必要である。同時に,教育,職業訓練,運輸,及び流通制度の改善,並びに労働市場に一層の柔軟性と流動性を与え失業を減少させることを目指した一層の政策も必要である。欧州共同体においては,単一欧州議定書に盛られたプログラムの1992年末までの完了に向けた着実な進展が,経済の効率化に既に強い弾みを与えてきた。
15.  我々のいくつかの国における80年代の貯蓄の低下は懸念の材料となっている。この低下した貯蓄水準は,実質金利高を招き,もって成長の阻害要因となりうる。不十分な貯蓄と巨額の財政赤字は,大幅な対外赤字と関わっている。我々は,政策協調の枠組みの中で,貯蓄を奨励し,障害がある場合にはこれを除去するような政策を推奨する。
16.  金融活動は,ますます新たな手法により世界的な規模で行われている。インサイダー取引は金融市場の信頼性を阻害しうるが,我々諸国間でその規制は大きく異なっている。これらの規制は最近強化されてきたか,強化されつつある。国際協力が追求され強化されるべきである。

(貿易問題)

17.  世界貿易は昨年急速に拡大した。しかし,保護主義は依然として現実の脅威である。我々は,あらゆる形態の保護主義と闘う決意を強く再確認する。我々は,プンタ・デル・エステ宣言のスタンドスティル及びロールバックのコミットメントを履行する。これらコミットメントはとりわけガット及びその関連規定と相容れないあらゆる貿易制限措置又は貿易歪曲措置の排除を求めている。我々は,改善されたガットの紛争処理手続の効果的な使用とその一層の改善のための交渉を促進させることに合意する。我々は,ガットの原則と多角的貿易体制の一体性を損なう如何なる差別的または独自の行動をも回避する。我々は,また,多角的貿易体制とウルグァイ・ラウンド交渉を害するおそれのあるユニラテラリズム,バイラテラリズム,セクター主義及び管理貿易への傾斜に反対することを誓約する。
18.

 去る4月にジュネーブにて行われたウルグァイ・ラウンド貿易交渉委員会の交渉が成功し,もって中間レヴューが完了したことは,極めて重要な成果である。これは,短期的のみならず長期的に農業改革を追求することを含め,全ての分野における今後の作業のための明確な枠組みを設定している。サービス,貿易関連投資措置,及び知的所有権等のガットの規律に未だ十分に取り込まれていない重要な分野における実質的な交渉のための必要な枠組みも設定している。

 開発途上国は,これらの交渉に積極的に参加しその成功に貢献した。全ての国は,可能な最大限の建設的な貢献を行うべきである。

 我々は,1990年末までにウルグァイ・ラウンドを完了するため,一層の実質的な進展を図ることにつき完全なるコミットメントを表明する。

19.  我々は,カナダと米国の間の自由貿易協定の発効,及び欧州共同体と欧州自由貿易連合(EFTA)諸国との間の緊密な経済関係の強化のためのより最近のイニシアティブを満足の意をもって留意する。我々は,これらの動きのみならず他の地域協力の進展が貿易創出的であり,かつ多角的な自由化プロセスに対し補完的であるべきであるとの政策を維持する。
20.  欧州共同体は,単一市場プログラムが貿易の諸側面において貿易創出的であり,かつ多角的な自由化プロセスに対し補完的であるべきであるとの強い決意を有する。
21.  我々は,貿易と援助を歪曲する輸出信用補助金に関する多数国間の規律強化に向けて進展があったことに,満足の意をもって留意する。この努力は,現行のガイドラインを,可能な限り早期に改善すべくOECDの関係部局において積極的に追求され,完了されなければならない。

(開発の一般的問題)

22.

 開発は世界共通の課題である。我々は,世界貿易体制を開放的にし,開発途上国の構造調整を支持することによりそれらの国を支援する。我々は,また,一次産品への依存度の高い国における経済の多様化と技術移転や資本の流れにとって好ましい環境の醸成を勧奨する。

 我々は,政府開発援助が引き続き重要であることを強調し,サミット参加国によるこの面での努力の増大を歓迎する。我々は,政府開発援助の将来の水準に関して国際機関により既に設定された諸目標に留意するとともに,開発のための全般的資金フローの重要性を強調する。

 我々は,同時に,援助の質並びに被援助プロジェクト及びプログラムの評価の重要性を強調する。

23.  我々は,開発途上国に対し健全な経済政策を実施するよう求める。決定的に重要なことは,対内投資を誘引し成長と逃避資本の還流を促進するような財政・金融政策を採用することである。
24.  我々は,トロント経済宣言において特別の注意が払われたフィリピンに対する多国間援助構想が大幅に進展したことに,満足の意をもって留意する。
25.  ユーゴースラヴィアの懸念される経済情勢に直面し,我々は,同国政府が二国間及び多数国間の支援を得られるような強力な経済改革計画を実施するよう勧奨する。

(最貧国の状況)

26.  国際通貨基金の構造調整ファシリティの拡充,最貧国及び重債務国のための世界銀行の特別援助プログラム,及びアフリカ開発基金の第5次増資は,いずれも調整プロセスに着手した国々に利益をもたらす重要な措置である。我々は,国際開発協会(IDA)の大幅な増資の重要性を強調する。
27.  我々が昨年トロントで要請したとおり,パリ・クラブは,1988年9月,最貧国の債務返済支払いの大幅な削減の実施条件につき合意した。13ヵ国が既にこの決定の恩恵に浴している。
28.  我々は,借款の贈与への転換のためにとられた措置とともに開発援助におけるグラント・エレメントの増大を歓迎し,このための一層の措置を要請する。債務繰り延べと同様に開発援助の弾力化が必要とされる。
29.  我々は,1990年にパリで開催される予定の後発開発途上国に関する次回の国連会議の準備が効率的かつ成功裡に進められることを大いに重視する。

(重債務国に対する債務戦略強化)

30.  我々の債務問題に対するアプローチは既に顕著な成功を収めているが,深刻な課題が今なお存在している。即ち,多くの国において,債務返済額の対輸出額比率は依然として高い水準に留まり,成長を促進するための投資に必要な資金が欠乏し,また資本逃避が重要な問題となっている。投資環境の改善は,過度の債務を伴うことなく持続可能な水準の成長を達成するための努力の枢要な部分でなければならない。これらの面で現在の状況を改善し得るか否かは,とりわけ債務国における持続的かつ効果的な調整政策に依存している。
31.

 我々は,これらの課題に取り組むに当たって強化された債務戦略に強くコミットしている。この戦略は,ケース・バイ・ケースを基本とし,以下の行動に依拠している。

-債務国は,国際通貨基金と世界銀行の支援を得て,貯蓄を活用し,投資を刺激し,また逃避資本を還流させることを特に目的とした健全な経済政策を実施すべきである。

-民間銀行は,新規貸付けを補完するものとして,自発的で市場原理に基づいた債務削減及び利払い軽減策にますます重点を置くべきである。

-国際通貨基金と世界銀行は,政策調整融資の一部を区分して扱うことにより,大幅な債務削減を支援しよう。

-限定的な利払い支援は,大幅な債務削減及び利払い軽減を伴う取引に対し,国際通貨基金と世界銀行の追加的融資を通じ行われる。このため,特別勘定の利用が合意されている。

-パリ・クラブにおける債務繰り延べの継続及び輸出信用機関の柔軟な対応。

-中期的なマクロ経済及び構造調整計画を支援し,輸出の不足と対外的な衝撃の悪影響を埋め合わせるための国際開発金融機関の機能の拡充。

32.

 この戦略の枠組みの中で,

-我々は,債務削減及び利払い軽減を促進するため適切な資金を供与するとの上記の二つの機関が行った最近の決定を歓迎する。

-我々は,債務国に対し,これら二つのブレトンウッズ機関によって定められた指針に沿った債務削減及び利払い軽減につながりうる強力な経済改革計画の策定を早急に進めるよう要請する。

-我々は,民間銀行に対し,債務国との交渉において現実的かつ建設的アプローチをとるとともに,債務削減,利払い軽減,及び新規資金を含む金融パッケージにつき合意を結ぶよう早急に行動することを要請する。我々は,公的債権者が民間債権者の代替となるべきでないことを強調する。我々の政府は,債務削減及び利払い軽減に対する不必要な障害を除去するため,適切な場合には,税制,銀行規制及び会計慣行につき考慮する用意がある。

(環境)

33.

 地球生態系の均衡をより良く保全する必要性につき世界中で認識が高まっている。このことは将来気象変化をもたらし得る大気への深刻な脅威を含んでいる。我々は,大気,湖沼,河川,海洋における汚染の増大,酸性雨,危険物質及び急速な砂漠化と森林減少に対し重大な懸念をもって留意する。このような環境の悪化は,種の存在を危険に晒し,個人及び社会の福祉を損なう。

 地球生態系の均衡を理解し保護するための断固たる行動が緊急に必要とされる。我々は,共有する経済的,社会的諸目的を満たし将来の世代に対する義務を履行するために,健康的で均衡のとれた地球環境の保全という共通の目標を達成するための協力を行う。

34.

 我々は,環境問題に関する科学的研究に一層の弾みを与え,必要な技術を開発し,環境政策の経済的な費用と効果につき明確な評価を行うよう全ての国に対し要請する。

 これらの問題のいくつかについて不確実性が残っているからといって,我々の行動が不当に遅延されてはならない。

 この関連で,我々は全ての国に対し,地球的規模で観測とモニターを強化するため力を合わせるよう求める。

35.  我々は,汚染を減らし代替策を提供するために技術移転の分野における国際協力も強化する必要があると考える。
36.  我々は,汚染を発生源で防止し,廃棄物をできる限り少なくし,省エネルギーを実施し,また費用対効果の優れたクリーン・テクノロジーを設計し市場化する上で,産業界が枢要な役割を担っていると考える。農業部門も,水質汚染,土壌浸食及び砂漠化等の問題への取組みに貢献しなければならない。
37.

 環境保護は,貿易,開発,エネルギー,運輸,農業及び経済計画等の問題と不可分である。従って,経済上の決定を行うにあたっては,環境に対する考慮が払われなければならない。実際,優れた経済政策と優れた環境政策は,相互に補強しあうものである。

 我々は,持続可能な開発を達成するため,経済成長と開発が環境保護と両立することを確保する。環境保護及び関連投資は経済成長に貢献すべきである。この点に関し,技術によるブレークスルーのための努力を強化することが,経済成長と環境政策を調和させる上で重要である。

 環境保護の費用,便益及び資源面への影響につき明確な評価を行うことは,可能な場合には天然資源全体の価値を反映させつつ,各国政府が,価格面での信号(例えば税金や政府支出)と規制措置を如何に組み合わせるかについて必要な決定を行う上で役立つこととなろう。

 我々は,世界銀行及び地域開発銀行がその活動の中に環境的考慮を統合するよう奨励する。OECD,国連及びその関連機関等の国際機関は,環境の質を向上させるため,各国政府による適切な経済措置の評価に資する分析技術を更に発展させることが求められる。我々は,OECDに対し,環境と経済上の決定との統合に関する作業を通じて選択的な環境指標を如何にして開発し得るか検討するよう求める。我々は,1992年の環境と開発に関する国連会議が地球環境保護に一層の弾みを与えることを期待する。

38.

 開発途上国が過去の損傷に対処することを支援し,環境の観点からこの好ましい行動をとることを奨励するため,援助の仕組みと特定の技術移転を経済的インセンティブに含めることもできよう。特定の場合には,政府開発援助の債務帳消し及び債務・環境スワップが環境保護において有用な役割を果たし得る。

 我々は,また,開発途上国がその経済成長を持続させることにつき有する関心と必要性,及び環境面の課題を満たす上で必要な財政的,技術的要請について配慮することが必要である点を強調する。

39.

 成層圏オゾン層の破壊は緊急課題であり,迅速な行動を必要とする。

 我々は,モントリオール議定書にとりあげられているフロンの生産及び消費を可能な限り早期に,遅くとも今世紀末までに全廃することに関するヘルシンキ会議の結論を歓迎する。モントリオール議定書でとりあげられていないオゾン層破壊物質に対しても特段の注意が向けられなければならない。我々は,適当な代替物質や代替技術の開発と利用を推進する。フロン代替物質計画が一層重視されるべきである。

40.

 我々は,気候変動をもたらす惧れがあり,環境を脅かし,究極的には経済をも脅かす二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出を抑制するための共通の努力を強く支持する。我々は,この問題に関し気候変動政府間パネルにより行われている作業を強力に支持する。

 我々は,温室効果ガス観測所の世界的ネットワークを強化し,気候変動を探知するための地球規模の気象学的情報ネットワークを設置しようという世界気象機関(WMO)のイニシアティヴを支持する必要がある。

41.

 我々は,エネルギー効率の一層の向上がこれらの目標に大きな貢献をなしうることにつき意見の一致を見ている。我々は,関係国際機関に対し,省エネルギー,より広く言えばあらゆる種類のエネルギーの使用効率を向上させ,関連する手法及び技術を促進させるための経済措置を含む措置を奨励するよう要請する。

 我々は,原子力発電所において最も高い安全基準を維持すること,及び発電所の安全な操業と廃棄物の管理に関する国際協力を強化することにコミットしており,原子力発電が温室効果ガス排出を制限する上で重要な役割を果たすことを認識する。

42.  森林減少もまた大気に害を及ぼしており,こうした動きは逆転されなければならない。我々は,世界の森林の規模を保全すべく持続可能な森林経営慣行の採用を呼び掛ける。関係国際機関に対し,1990年までに世界の森林の状態に関する報告を完成するよう求める。
43.

 熱帯林の保存は,世界全体にとり急務となっている。我々は,開発途上国が自らの天然資源を利用する上での主権を認めつつ,熱帯林の持続可能な利用を通じて,そこに存在する全ての種と土地及びその他の資源に対する地域社会の伝統的権利を保護することを促進する。我々は,この分野における前進の基礎としてドイツのイニシアティヴを歓迎する。

 この目的のため我々は,国連食糧農業機関(FAO)の枠組みの下で1986年に採択された熱帯林行動計画の早急な実施を強く支持する。我々は,国際熱帯木材機関(ITTO)で一致団結している消費国と生産国の双方に対し,森林の一層の保全を確保するため力を合わせるよう呼び掛ける。我々は,熱帯林を有する国の努力を,資金面及び技術協力を通じ,国際機関において支援する用意があることを表明する。

44.  温帯林,湖沼及び河川は,二酸化硫黄及び窒素酸化物等の酸性汚染物質による影響から保護されなければならない。このため,二国間及び多数国間の努力を積極的に推進することが必要である。
45.  大気保全に関連する問題は複雑さを増しており,革新的解決を必要とする。このための新たな方策が考えられ得る。我々は,気候変動に関する一般原則あるいは指針を定める枠組み又は包括的条約の締結が,国際社会による努力を結集しかつ合理化するために早急に求められていると考える。我々は,気候変動政府間パネルの作業及びその他の国際会議の成果を利用しつつ世界気象機関との協力の下に国連環境計画(UNEP)が行っている作業を歓迎する。科学的根拠により必要とされ,また許容される場合には,具体的責務を盛り込んだ特定の議定書をこの枠組みの中に組み込むこともできよう。
46.

 我々は,海洋を汚染廃棄物の投棄場所として無秩序に使用るすことを強く非難する。沿岸海域の悪化は特に問題である。海洋環境の持続的管理を確保するために,我々は海洋環境を保全し,その生物資源を保存するための国際協力の重要性を認識する。我々は,世界の海洋の現状についての報告を準備するよう国連の関係機関に要請する。

 我々は,海洋の油濁の影響を抑制,軽減する上で各国,各地域及び全世界の能力が向上すべきであるとの関心を表明する。我々は,全ての国に対し,最新のモニター及び浄化技術をより効果的に利用するよう要請する。我々は,全ての国に対し,海洋の油濁防止に関する国際条約への加盟及びその完全な履行を求める。我々は,また,国際海事機関(IMO)が一層の防止活動のための案を提示するよう求める。

47.  我々は,環境に関する既存の規則の完全な履行を確保することにコミットしている。この点に関し,我々は,既存規則の要約を作成することの必要性につき検討するとともに国際的なレベルで環境の法的側面に関して詳細な検討を行うため,学者,科学者,政府関係者の参加を得て,環境に係る国際法に関するフォーラムを1990年に主催するとのイタリア政府のイニシアティブに関心をもって留意する。
48.  我々は,既存の環境機関が国連体制の下で強化されることを提唱する。特に,国連環境計画は,その強化と財政的支援の拡充を緊急に必要としている。我々のうち何人かは,国連に新たな機関を設立することも考慮に値しうるということにつき合意した。
49.  我々は,ブラッセルで開催され,「人間による自然の管理」との概念に基づく環境倫理の普遍的規範の詳細を検討した生命倫理に関する第6回会合の報告に留意した。
50.

 世界で最も貧しくかつ最も人口稠密な国の一つであるバングラデシュが,破壊的な大洪水により定期的に大きな被害を受けていることは,国際的な関心事である。

 我々は,この重要な問題に対する技術的,財政的,経済的かつ環境的に健全な解決策を見い出すため,バングラデシュ政府を支援し,国際社会による効果的かつ協調的な行動をとる緊急の必要性を強調する。我々は,このような精神のもとで,既に供与された支援を考慮しつつ,フランス,日本,米国,及び国連開発計画(UNDP)により開始され,我々全ての国の専門家により精査された洪水対策に関する各種研究に留意する。我々は,これらの研究を受けて,洪水の影響軽減に真の改善をもたらすための確固たる基礎を確立すべく,国際社会の努力を調整することにつき世界銀行が合意したことを歓迎する。我々は,また,このような計画に積極的に加わる意思のある国々が参加してバングラデシュ政府の主催により今年末までに英国で開催される会合において世界銀行が議長を務めることを承諾したことを歓迎する。

51.  我々は,急速に悪化しつつある脆弱な乾燥地帯における状況の変化をモニターする必要性に応えたサハラ地域観測所設置共同計画のような計画に,政治的支援を与える。

(麻薬問題)

52.  麻薬問題は,危機的なまでの状況に達した。我々は,国内的及び国際的に断固たる行動をとる緊急の必要性を強調する。我々は,全ての国,特に麻薬の生産,取引及び消費の多い国に対して,麻薬生産に反対し,需要を削減し,更に麻薬取引自体及びその利益の洗浄に対する闘いを進めている我々の努力に加わるよう要請する。
53.

 従って,我々は,関係フォーラムにおいて次の措置をとることを決意する。

-麻薬生産国における不法栽培の転換のための二国間及び国連の計画に一層の重点を置くこと。国連麻薬乱用統制基金(UNFDAC)並びにその他の国連及び多数国間機関を支持し,強化し,また一層実効的なものとしなければならない。このような努力には,麻薬栽培及び取引を阻止するための効果的計画の実施のための特別な支援と開発・技術援助が含まれうる。

-不法な生産または取引の取締りを求めている生産国の努力を支持する。

-麻薬との闘いにおける国連の役割を,資金の拡充及びその活動の実効性向上を通じ強化すること。

-麻薬中毒の防止及び麻薬中毒者の更生に関する情報交換を強化すること。

一1990年に予定されているコカイン及び麻薬の需要削減に関する国際会議を支持すること。

-これらの問題に関する協力的かつ相互的援助の効率を向上させること。その第一歩は,麻薬及び向精神薬の不法取引に関するウィーン条約に速やかに加盟し,これを批准し,また履行すること。

-更に二国間または多数国間取極を締結し,適当な場合には,麻薬犯罪による利益を特定し,追跡し,凍結し,差押え,及び没収することを容易にするための措置等のイニシアティブとそのための協力を支援すること。

-サミット参加国及びこれらの問題に関心を有するその他の諸国からなる金融活動作業グループを招集すること。その権能は,銀行制度と金融機関を資金の洗浄のために利用することを防止するために既にとられた協力の成果を評価すること,及び多数国間の司法面での協力を強化するための法令制度の適合等のこの分野における追加的予防努力を検討することである。この作業グループの第1回会合はフランスにより招集され,その報告は1990年4月までに完成される。

54.

 エイズに対する国際協力

 我々は,ヴェネチア・サミット(1987年6月)で決定され1989年5月にパリで開催されたエイズに関する国際倫理委員会の創設に留意する。同委員会には,サミット諸国と他の欧州共同体の加盟国が会合し,世界保健機関(WHO)が積極的に参加した。

55.  我々は,多くの元首,首相及び諸機関の長から寄せられた意見に留意し,これらを関心をもって検討する。
56.

 次回サミット

 我々は,来年米国で会合することについての米国大統領の招待を受諾した。


(*)  このレポートは次の9分野を取り上げ行動を求めている:貿易政策と国際貿易体制,農業,産業補助政策,国際直接投資,金融市場,税制,競争政策,労働市場,及び公共部門。
(*)  「農業政策,市場及び貿易,1989年のモニタリング及び見直し」

目次へ