I 資 料
1. 国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説
(平成元年2月10日)
第114回通常国会の再開に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにし,国民の皆様のご理解とご協力をお願いしたいと存じます。
(昭和から平成へ)
まず最初に,昭和天皇の崩御に対し,衷心より哀悼の意を表する次第であります。
私たちは,この悲しみを乗り越え,心と力を合わせて,国運の一層の進展と世界の平和,人類福祉の増進に努め,新しい平成時代を築いて行かなければなりません。
「平成」には,その名の示すごとく,平和が我が国の内外に達成されることを願う意味が込められております。私は,人類が希求する平和を恒久的に確保し,かけがえのない美しい地球を守り,育て,後世にのこしていくことこそ,新しい時代に生きる私たちに与えられた最大の使命であると確信いたしております。
顧みれば,昭和の時代は,世界的な大恐慌に始まり,悲しむべき大戦の惨禍,混乱と窮乏極まりない廃墟からの復興と真の独立,比類なき経済成長と国際国家への発展に至る正に激動の時代でありました。これらの時代を通じ,我が国は,多くの困難と試練に遭遇したわけでありますが,これを克服し,今や経済的な繁栄を達成するとともに,平和を目指す国家として国際社会の中で名誉ある地位を占めるに至りました。私は,今日の豊かな日本を建設された国民の努力と英知に改めて深い敬意と感謝の意を表し,さらに新しい時代への力強い前進を決意する次第であります。
また,戦後の我が国の繁栄は,米国を中心とする自由主義諸国の努力と協調に支えられた国際秩序に大きく負っていたことを忘れてはなりません。今日,国境という枠を超えて活動と交流が深まり,国と国の相互依存や多極化の傾向が強まる中で,国際秩序の担い手として,我が国が果たすべき責務はかつてないほど大きなものとなっております。人類と地球の未来のために,米国や欧州,アジア諸国を始め多くの国と力を合わせ世界の平和と繁栄を支えていくとともに,一層主体的に世界の期待と要請にこたえていかなければならない時代を迎えていることも確かであります。
私は,この度米国を訪問し,就任直後のブッシュ米大統領と会談して,忌憚
平成時代を迎えて,私たちは,これまで以上に斬新な発想とたくましい気力をもって,活力に満ち,しかも文化豊かな国づくり,世界に開かれた国づくりを着実に進めて行くべきだと存じます。日本には,長い歴史と伝統があります。これを誤りなく継承しつつ,しかも必要に応じて時代に先駆けた挑戦を繰り返すことにより,時には痛みを分かち合いながら,人類共通の願いにこたえることこそ,私たちにとって大事な課題ではないでしょうか。
時代の転換点ともいうべき今,もう一度初心に立ち返り,来るべき時代への洞察と未来を切りひらく勇気ある実践が,強く私たちに求められていることをひしひしと感じてなりません。
来る2月24日に昭和天皇の大喪の礼を挙行することとしておりますが,国民の代表や世界の国々から弔問のため来日される多くの首脳や要人を迎えて,厳粛にしかも滞りなく執り行うよう万全の準備を進めてまいります。
(政治改革の断行)
今日,リクルート問題等を契機として国民の間に政治に対する不信が広がっております。このことは,我が国の議会制民主主義にとって,極めて憂慮される事態であると認識いたしております。
政治改革は,竹下内閣にとって最優先の課題であります。私は,各方面からの厳しいご批判を真剣に受け止め,皆様と力を合わせて,必ずや政治への信頼の回復を成し遂げなければならないと固く心に誓っている次第であります。
政治は,それを動かす精神や文化を抜きにしては考えられず,また,政治倫理については,第一義的には政治にかかわる者一人一人のモラルに帰着する問題であることも確かだと思います。私を始め政治に責任を負う立場にある者は,率先して自粛自戒し,自らの姿勢を正すことが求められております。私は,政治家自らが自己改革し,衆・参両院で決められた政治倫理綱領を守り,国会の自浄能力を高めるための環境づくりを急ぐことによって,国民の負託にこたえていくしか道はないと思うのであります。
このため,政治資金における公私の区別の明確化と透明性の確保を図り,金のかからない政治活動を確立するとともに,さらにその基礎をなす選挙そのもののあり方についても検討を進め,思いきった改革をしなければなりません。
このような考えの下に,当面の問題だけでなく中・長期的な課題を含め,多方面の方々からご意見やご提言をいただくこととし,先般,有識者による政治改革に関する会議の場を設けました。これらの改革は,政府のみにて達成できるものではなく,国会,各党各会派の皆様のご理解とご努力によって初めて成し遂げられるものであります。私は,自らのすべてをかけて,皆様とともに,その実現に取り組む決意であります。
また,全体の奉仕者である公務員についても,その職務を行うに当たって,いやしくも疑惑を招くことのないよう一段と綱紀の粛正を図ってまいる所存であります。
(「ふるさと創生」の実現)
私は,もう一つの大きな目標として「ふるさと創生」を国づくりのテーマに,いよいよその具体化に向かって前進してまいる所存であります。これからの我が国に必要なことは,その経済的豊かさにふさわしい日本を築いていくことにあると考えております。
私はかねてより「ふるさと創生」を唱えてまいりましたが,それは,日本人一人一人が自らの住む地域を「ふるさと」と感じることができるような,充実した生活と活動の基盤をつくり,真の豊かさを目指すものであります。同時に,一層開かれた社会を築きあげ,世界の人々に敬愛される日本を創造していくことにほかなりません。
豊かな自然や住みよい都市環境,地域における人と人との心の通い合い,住民の創意工夫をいかした町づくり,村づくり,地域づくりを進め,そして何よりも家族の団らん,あたたかい家庭を大切にしながら,国内はもとより,世界と交流し貢献していくという新しい社会をダイナミックに創造いたしたいと存じます。
このように「ふるさと創生」には,輝かしい未来をつくる夢とロマンがあります。しかし,自主的で地道な努力の積み重ねと忍耐強い継続なしにはこれを実現することはできません。多くの人々が「ふるさと創生」という一つの大きな目標に向かって知恵や努力を結集していけば,やがて壮大な運動となり,心豊かな人々によって更に素晴らしい日本,美しい地球がつくられていくことを,私は大いに期待しているところであります。
以上の考え方に立って,国政の各分野にわたり,基本的な方針を申し述べたいと存じます。
(外交施策)
最近の国際情勢には,新たな潮流がみられます。特にソ連の対外姿勢の変化を背景に,米ソ間の対話を始め中ソ関係正常化の進展,世界各地の地域紛争における解決への具体的努力などがみられ,今後の展開が注目されます。このような変化はいまだ緒についたばかりであり,楽観は許されませんが,歓迎すべき変化については,これを定着,発展させるため,我が国としても,新たな創意をもち,体制を整備しつつ,積極的な外交を展開していくことが必要であります。
国際社会において相互依存関係が深まる中で,我が国は経済のみならず国際関係全般にわたって,これまでにない大きな責任と役割を有しております。私は,政権を担当して以来,「世界に貢献する日本」の推進を最重要課題としてまいりました。今後とも平和憲法の下,他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないという不変の方針を堅持し,世界の平和と繁栄のため最善を尽くす決意であります。
我が国が国際的貢献を果たすに当たっては,まず自国の平和と安全を守る努力がその前提となります。私は,日米安全保障体制を堅持し,その円滑かつ効果的運用を図り,また非核三原則と文民統制を確保しつつ,中期防衛力整備計画に従い,節度ある防衛力の整備に努めてまいります。なお,平成3年度以降の防衛力整備については,現行のような中期的な計画を策定する必要があると考えており,今後検討を進めてまいります。
また,世界有数の経済規模を有する我が国には,世界経済の持続的成長のため,更に多くの努力が求められていることも確かであります。主要先進国との政策協調を促進し,為替レートの安定を図りつつ,内需主導型の経済構造を定着させ,規制緩和を含む構造調整を一段と推進するとともに,輸入の拡大,市場アクセスの一層の改善に努めていかなければなりません。さらに,多角的自由貿易体制の維持・強化を目的としたウルグァイ・ラウンドの交渉についても,最大限の努力を行ってまいります。特に,農産物貿易については,食料の安全保障等に十分に配慮しつつ,交渉の進展に向けて積極的に対応していきたいと存じます。
世界の平和と繁栄に一層貢献していくため,私は,昨年,平和のための協力,政府開発援助(ODA)の拡充,国際文化交流の強化を三つの柱とする「国際協力構想」を打ち出しましたが,今年は,この三本柱の一層の具体化を図りたいと存じます。
まず,「平和のための協力」では,国連の平和維持活動に対する各国の期待の高まりにこたえて,資金面での協力はもちろんのこと,要員派遣についても我が国にふさわしい分野において強化し,そのための体制の整備に努めてまいります。先の訪米の機会にデ・クエヤル国連事務総長と会談した際,私はこの「平和のための協力」について説明し,賛同を得たほか,昨年私が提唱した核実験検証を含む核軍縮問題に関する国連会議を,本年4月京都で開くことについても合意したところであります。
また,本年は,アフガン難民の支援を強化するほか,4月開始予定の国連のナミビア独立支援活動に対し,資金面並びに選挙監視等の要員派遣面での協力を行ってまいります。カンボディア問題においても,国際的な枠組みの中での紛争解決とその後の復興に向け,積極的に協力していく考えであります。
次に,「ODAの拡充」では,昨年策定した第4次中期目標の着実な達成に向け努力するとともに,一層効果的,効率的な援助の実施に努めてまいります。このような努力に加え,開発途上国の累積債務問題が,世界経済の発展のためにも克服しなければならない問題であることにかんがみ,資金還流などを図り,その解決に向け積極的に取り組まなければならないと思います。
そして,「国際文化交流の強化」では,海外での対日関心の急激な増大に対応していくとともに,留学生・研究者などを含む人的・知的交流等を進め,また人類共通の財産としての世界の諸文化の維持・発展に寄与していくことといたしております。さらに,地方においても様々なレベルでの海外との交流を推進するなど,草の根外交や地方の国際化のための施策を強化してまいりたいと存じます。
青く美しい地球は,人類共通のふるさとであります。これを末永く後の世にのこすことは私たちの責務であり,人類の英知を結集していかなければならない課題であります。そのため,地球温暖化を始めとする地球規模での環境問題の解決に積極的に取り組む考えであり,国連及び各国との協力の下,本年秋には,地球環境保全に関する国際会議を東京で開催する予定であります。また,地震などの自然災害や麻薬問題など国境を越える課題に対しても,引き続き国際協力を進めていきたいと存じます。
我が国が,積極的な外交を推進するに当たっての基本的な立場は,先進民主主義諸国の主要な一員として西側諸国との協調を図りつつ,アジア・太平洋地域の一国としてその地域の安定と発展に貢献していくことであります。
特に,東西関係を始めとする国際情勢が一層好ましい展開を示すように日米欧を中心とする西側諸国相互間の連帯と協調が重要であります。私は,本年7月フランスで開催される主要国首脳会議などの国際的な場において,世界が直面する諸問題の解決に向け日米欧の協力関係を更に強化してまいる所存であります。
中でも,日米関係は我が国外交の基軸であります。私とブッシュ大統領は,今後とも二国間の課題を静かな対話と地道な努力を通じて解決していくとともに,両国が相携えて世界の平和と繁栄のために貢献すべく,政策協調と共同作業を一層進めることを確認したところであります。
また,西欧諸国との関係強化も重要であります。昨年の2度にわたる訪問を踏まえ,西欧諸国の首脳との信頼関係を一層強固なものとすることにより,世界的視野に立った協力を強化してまいります。
ソ連との関係では,最近の2度にわたる外相会談で,日ソ間に横たわる諸問題や緊要な国際問題について率直な意見交換が行われました。我が国としては,北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより,真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが一貫した方針であります。ゴルバチョフ書記長の「新しい思考」に基づく政策転換が対日関係に反映されることを期待しつつ,昨年12月の外相会談で合意された最高首脳レベルをも含む対話の拡大・強化を通じ,更に粘り強い外交努力を続ける所存であります。
アジア・太平洋近隣諸国との関係を強化し,発展させることは極めて枢要であります。中でも民主化の進む韓国との友好協力関係を一層発展させるとともに,朝鮮半島の緊張緩和のための環境づくりに努力し,また近代化を目指して力を尽くしている中国との間に良好で安定した関係を維持,発展させることは,我が国外交の重要な柱であります。さらに,私は朝鮮半島をめぐる動きを注視しつつ,日朝関係の改善に努力いたします。またASEAN諸国や太洋州諸国等との関係強化に意欲をもって取り組んでまいります。
このほか,外交の幅を地域的にも広げることを目指して,中南米,インド亜大陸,中近東,アフリカなどの地域との間で,首脳レベルの交流を精力的に展開し,関係強化を図ってまいりたいと考えております。
(税制改革の円滑な実施)
先の国会において,税制改革関連六法が成立し,長年の課題であった税制改革が実現いたしました。私は,この改革が,我が国経済社会の活力を維持し,豊かな長寿・福祉社会をつくる礎となるものと確信いたしております。国会における審議や辻立ちを通じて,国民の間に消費税の導入について種々の懸念や不安があることは,十分承知いたしております。それを解消し,新しい税制に対する国民の信頼を得るためには,この制度を円滑に実施に移していくことが不可欠であり,最大限の努力をしてまいりたいと決意いたしております。
政府としては,先般,新税制実施円滑化推進本部を設けたところでありますが,今後とも私自ら陣頭に立って,新税制について理解を得るための広報や相談等を積極的に実施し,また,消費税が円滑かつ適正に転嫁されるようきめ細かな対策をとるとともに,便乗値上げの防止にも配慮してまいります。消費税が実施に移され,身近なものとなれば,必ずや大幅減税とあわせて,税制を改革して良かったと感じていただけるようになるものと確信いたしております。いわゆる税率の歯止めについては,竹下内閣として税率の引上げを提案いたす考えのないことを明言いたします。
(行財政改革の推進)
行財政改革と税制改革は日本が新しい時代に向かって歩むために,ともに必要なものであり,私は,「車の両輪」に例えられると思っております。税制改革が実現し,その円滑な実施が求められている今日,行財政が効率的に運営されることは,一層重要であります。平成元年度予算においては,歳出の徹底した合理化に取り組み,平成2年度に特例公債依存体質から脱却するという目標に向け前進するとともに,平成元年度に実施する事項を中心に行政改革の方針をとりまとめたところであります。多額の公債残高を抱えるなど行財政をめぐる厳しい状況を踏まえ,これからも,行政の各面にわたり制度や歳出を見直し,手綱を緩めることなく行財政改革を進めてまいる決意であります。
また,地方財政については,今回の補助率などの見直しに際し,所要の措置を講ずるなど,その円滑な運営を期することといたしております。
国土の均衡ある発展と地方の活性化のため,国・地方にわたる行政改革を行い,真の意味での自主的,自立的な地方自治の体制を築きあげることがいま強く求められております。昨年12月臨時行政改革推進審議会に対し,国と地方の行政の役割や機能分担,費用負担など幅広い問題について,掘り下げた検討をお願いしたところでありますが,その答申をまって改革に一層積極的に取り組む所存であります。
(新しい「ふるさと」づくり)
全国各地には,それぞれの個性があります。新しい「ふるさと」づくりは,自らの地域に根付いた歴史,伝統,文化や産業を見直し,その中から地域の特性を引き出し,大きく伸ばし育てることに尽きます。
そのためには,これまでの発想を転換して,地域が自主性と責任をもって,各々の知恵と情熱をいかし,小さな村も大きな町もこぞって,地域づくりを自ら考え,自ら実践していくことが極めて重要であります。この自立の精神により,私は,誇りと活力に満ち,しかも文化の香り豊かな「ふるさと」を築くことができると信じております。各地域で青写真をつくり,人間味あふれた「ふるさと像」を描いて,その実現に向けて努力していただきたいと思います。政府におきましては,全国各地で動きのみられる自主的,主体的な村づくり,町づくりにおこたえすることができるよう,地域の活性化の具体化に向けて積極的な支援を図ってまいります。
一方,東京への過度な集中や依存から脱却し,多極分散型の均衡ある国土づくりを強力に推進いたします。このため,第4次全国総合開発計画に基づき,ふるさとづくりの基盤となる都市・産業機能などの地方分散,地域の振興拠点の開発整備及び大都市地域の秩序ある整備を図るとともに,高規格幹線道路,空港,整備新幹線などの交通網及び情報・通信体系の整備やイベント開催などソフト面の施策の充実による交流ネットワーク構想を進めてまいります。さらに,今後とも国の行政機関等の移転の推進に全力を挙げて取り組んでまいります。
また,北海道の総合開発と沖縄の振興開発のための諸施策を引き続き積極的に推進していくことはもとよりであります。平成2年に開催される「国際花と緑の博覧会」については,その成功に向けて諸般の準備を進めているところであります。
いまや土地問題は,早急にその解決を図らなければなりません。東京圏では地価の鎮静化傾向がみられるものの,依然として高水準で推移する一方,大阪圏などにおいても地価上昇がみられ,引き続き地価の抑制に努めていく必要があります。政府一体となって,需給両面にわたる土地対策を強力に推進するとともに,土地の公共性についての共通の国民意識を確立していくことが必要であり,本国会に土地基本法案を提出いたしたいと存じます。
(明るく活力に満ちた長寿・福祉社会の建設)
我が国は,いまや世界最長寿国となり,正に人生80年時代を迎えております。4人に1人が65歳以上という本格的な長寿社会の到来を間近に控え,高齢者が社会を支える重要な一員として,その豊かな経験や知恵をいかせるよう,雇用,社会保障を始め,経済・社会のシステム全体をこれからの時代にふさわしいものとしていく必要があります。
このため,各人が生涯を通じて,その能力や創造性を発揮できるよう65歳程度までの継続雇用を始め,多様な就業機会の確保,社会への参加を促進し,その条件整備を図りつつ,公的年金を中心とした老後所得の確保に意を用いたいと存じます。
国民の誰もが,長い人生の中で,家族とつながりをもち,長生きをしてよかったと感じられることが長寿・福祉社会の目指すところであります。この目標の下に,生涯を通じた健康づくりを一層推進し,地域における保健・医療・福祉サービスの総合的展開を図り,在宅サービスの拡充を中心とする一方で,老人保健施設等の施設サービスの拡充に努めてまいります。また,高齢者を含む三世代が生き生きと生活できる住みよい街づくりを進めていきたいと考えております。
国民の生活を支える公的年金については,給付の改善を行うとともに,厚生年金について,世代間の給付と負担の均衡を確保するため,平成10年度から支給開始年齢を段階的に引き上げ,さらに,制度の一元化に向けて被用者年金制度間の負担調整を実施することをお願いしたいと存じます。医療保険についても,制度間の給付と負担の公平化等の改革に取り組みたいと思います。
寝たきり老人や障害者,母子家庭など経済的,社会的に弱い立場にある方々へのきめ細かな配慮を行うことはもちろんであります。このほか,長寿を支える科学技術研究の推進や,がん対策,エイズ対策を始め難病の克服に全力を尽くしてまいります。
(教育改革の推進)
教育は,我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し,世界に貢献していく基礎を築くものであり,このため教育改革に全力で取り組んでまいらなければなりません。私は,日本人としての自覚に立って,国際社会の中でたくましく活動できる個性豊かな青少年を育成するため,道徳教育の充実など教育内容の改善,教員の資質の向上,高等教育の個性化,活性化等を積極的に推進するとともに,国民の様々な学習意欲にこたえる生涯学習社会を築くことが必要であると確信いたしております。さらに,国民の文化・スポーツに対する関心の高まりにこたえるため,文化施設の整備,生涯スポーツ,競技スポーツの振興を図ってまいります。
(豊かな経済社会の実現)
豊かで多様な国民生活の実現,国際社会への貢献,地域社会の均衡ある発展などの課題に取り組み,未来をひらくためには,我が国経済社会の発展基盤を確かなものとしておくことが必要であります。我が国経済は,堅調な拡大局面にありますが,インフレなき持続的経済成長と対外不均衡の一層の是正を図るため,引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めるとともに,新しい経済計画「世界とともに生きる日本」にそって経済構造調整を進め,内需主導型経済構造への転換と定着を実現してまいります。
他方,我が国経済社会が成熟しつつある今日,高い経済力を国民一人一人の生活にいかすことによって,真に豊かさが実感できる社会を築きあげることが急務であると存じます。
国民の多様化したニーズに対応して供給構造を変革し,国際的に均衡のとれた物価水準を確保して消費生活の充実を実現してまいらなければなりません。しかも,民間の活力や創意をいかすことを基本に,生産・流通・サービス機能や価格形成に係わる規制の緩和,制度等の改善を積極的に進めていくことが肝要であると考えております。このため,昨年12月には,規制緩和推進要綱を決定したところであり,その着実な実行を図ってまいります。
農業については,内外の厳しい状況に対応して足腰の強い,産業として自立しうる農業を確立するとともに,生産性の向上を図り,国民の皆様の納得を得られる価格水準で食料の安定供給が行われることが重要であります。活力ある地域社会の維持,国土・自然環境の保全,さらには生きがいの充足など農業の持つ多面的な役割も重視していかなければなりません。これらの観点から,農業の長期展望の確立,構造の改善,農山漁村の活性化などの施策を一層強力に推進してまいります。また,牛肉・かんきつ等については,必要な国内措置の実施に万全を期す考えであります。
厳しい環境変化に直面している中小企業については,健全な発展が可能となり,地域経済の活性化に資するよう,構造転換対策等を強力に実施してまいります。また,資源・エネルギーの安定供給の確保に努めてまいります。
完全週休2日制の普及など労働時間の短縮は,我が国全体として取り組むべき課題であります。広く労使との対話を深め,地域雇用開発の推進,健康で豊かな勤労者生活の実現などに努めてまいります。
今日,国民生活にゆとりと潤いが求められており,このため住み良い住宅供給の促進,安全で良好な居住環境,都市環境の形成など相対的に遅れている社会資本の整備,生活面での情報化,大規模地震対策,十勝岳などにおける防災対策,水資源対策など多面的な対策を講ずるとともに,地方の芸術,伝統産業,スポーツの振興など特色ある地方文化の創造を図ってまいります。また,社会資本整備を円滑に進めるため,大深度地下の利用について検討を行うとともに,リニア・モーターカーなど新しい交通システムの実用化に向けて研究を進めてまいります。
さらに,国民の安全をおびやかすテロ・ゲリラ事件等の犯罪や事故の防止に力を尽くしてまいります。
時代を切りひらく鍵の一つは,学術研究及び科学技術の振興であります。創造的,基礎的な研究開発を総合的に進めるとともに,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの推進などの国際交流を促進いたします。
(結び)
私たちは,過去と未来をつなぐ今を生きながら大きな使命を担っております。世代から世代へ先人の意志を引き継ぎ,力を合わせて,新しい文明を創造していくこと,それこそが時代の大きな節目を越えようとしている私たちに課せられた命題にほかなりません。もとより,争いや対立に進歩はなく,この地上から過度の競争や相互不信を取り除く賢明で地道な努力が必要であります。私は,調和と信頼,そして尊い命やかけがえのない自然を大切にする心やさしい政治を勇敢に実行することによって,いかなる困難も克服することができると確信し,ひたすら歩き続けてまいります。
何事かを為さんとする時,あらゆることが忍耐によって成し遂げられるということは,洋の東西を問わず人々を導く指針であります。いつの時代にあっても,謙虚にしかも誠実に,学びつつ実践し,反省しつつ前進する心構えを忘れてはならないと思うのであります。
私たちが進む道の遠く険しきを思い,私は自らに与えられた責任の重さを改めて痛感いたしております。これから後も,一日一日の歩みを怠ることなく,不動の信念を貫き,平和で豊かな世界と日本を築くため,全力を尽くす決意であります。
国民の皆様の一層のご理解とご協力を切望する次第であります。
(平成元年2月10日)
第114回国会が再開されるに当たり,我が国外交の基本方針につき所信を申し述べます。
(はじめに)
本演説の冒頭に当たり,一言申し述べます。去る1月7日のパリにおける国際会議において,デ・クエヤル国連事務総長より,昭和天皇の崩御がしらされました。その時,ミッテラン仏大統領の提唱により,急遽
(世界の平和と繁栄への貢献)
さて,「平成」の時代の初めに際し,思いを致しますのは,1945年以降の我が国民の軌跡であります。私たちは先の大戦の反省の下に,ひたすら平和を希求しつつ,それぞれの分野で渾
かかる見地からも我が国外交が,引き続き先進民主主義諸国の主要な一員としての立場とアジア・太平洋地域の一国としての立場を踏まえて,その役割を果たすべきは,当然のことであります。同時に今後は,中南米,インド亜大陸,中近東,アフリカとの関係においても,「国際協力構想」を更に肉付けして,外交の幅を広げていくことが,重要となってまいりました。
(国際情勢の動きと,西側先進民主主義諸国の結束の強化)
しかもその我が国を取り巻く国際情勢には,新しい動きが生じております。
IMF全廃条約の発効,アフガニスタンからのソ連軍の撤兵合意の成立を始め,ソ連の対外姿勢の変化を背景とする東西関係の新しい展開は,将来への期待をはらむものであります。西側先進民主主義諸国といたしましては,現在の変化の肯定的な側面を評価することに臆
しかし,これをもって直ちに,東西間の対立構造が根本的に変化したとは言い得ません。現在の世界の平和が,基本的には,力の均衡と抑止により維持されていることが自明の理である以上,東西間には,依然,戦略核兵器等の軍備管理・軍縮問題,さらには地域問題,人権問題といった課題が残されております。
また,中ソ間の動きに目を転じれば,両国外相の相互訪問が行われ,首脳会談も予定されるなど,関係正常化の動きが見られますが,これがアジアの平和と安定に資する方向で進展することを期待するものであります。
したがって,我が国といたしましても,これらの国際情勢の新しい動きによっていかなる実質的な変化がもたらされるかを,注意深く見守っていくべきであり,極東の安定と東西関係の更なる安定化のため,米国を始めとする西側諸国と,今後一層連帯,協調してまいる所存であります。
当然,我が国自身がかかる国際情勢を慎重に見つめ,自衛のために必要な限度において,節度ある防衛力を整備していくことは,今日の状況においても,重要であります。同時に,政府としては,日米安保体制を堅持し,その一層の円滑かつ効果的な運用確保のためにも,引き続き努力しなければならないと存じます。このような我が国の努力は,アジアの平和と安定に貢献するからであります。
今般,米国では,レーガン大統領が任期を終え,ブッシュ新政権が発足しました。レーガン前大統領は8年間にわたり,アジア・太平洋地域に対し一貫して高い関心を維持し,特に対日関係の強化に格別の貢献をされたことを,私たちは高く評価しなければなりません。当然その姿勢をブッシュ新政権も継がれると思いますが,まさに我が国こそ,新政権との間においても,我が国外交の基軸である日米関係の一層の強化のため尽力せねばならないと存じます。私自身,今般総理に同行して米国を訪問し,ブッシュ大統領,ベーカー国務長官を始めとする主要閣僚ともお会いしました。その際,日米両国が世界のGNPの3分の1以上を占めている現実に立脚して,両国が引き続き協力関係の強化に取り組むとともに,政策協調と共同作業を通じて,世界の諸問題の解決に貢献し,世界の平和と繁栄のため,各々がふさわしい役割を果たしていくことの重要性につき,意見の一致をみることができました。
また,最近の西欧諸国の対東側外交の活発化や1992年のEC域内市場統合へ向けての動きには,注目すべきものがあります。私は先般,西欧を訪問し,各国の首脳・外相と忌憚
ソ連との間では,昨年12月,シェヴァルナッゼ外相を迎えて,2年7か月振りに日ソ外相間定期協議と,さらに併せて平和条約締結交渉を行いました。この機会に,同外相との間で極めて実務的で真剣な話し合いが行われた結果,ゴルバチョフ書記長の我が国訪問実現に向けての準備の開始に合意したことを始め,日ソ間の一層の政治対話拡大の方向が確認されたのであります。領土問題につきましては,双方により,歴史に遡
また,東欧につきましては,その動向が今後の東西関係に大きな影響を及ぼす可能性があることにも鑑
(アジア・太平洋諸国との関係)
次にアジア・太平洋諸国について申し上げます。
我が国は,アジア・太平洋地域の一国として,域内諸国との友好協力関係の増進に努めるとともに,サミットを始めとする幾多の場においても,同地域の問題に対する関心を積極的に表明するなど,その安定と発展に意を用いてまいりました。
韓国との関係は,近年一段と緊密の度を増しており,昨年も,盧泰愚
また,北朝鮮との関係改善につきましては,朝鮮半島をめぐる国際政治の均衡に配慮しつつ,進めていきたいと考えますが,そのためにも早急に第十八富士山丸問題の解決が必要であります。政府といたしましては,本問題解決のために各般の努力が払われていることに留意し,可及的速やかに日朝政府間の接触が実現し,その話し合いの過程において本件の解決が図られることを希望いたします。
中国との友好協力関係の維持・発展は,アジアひいては世界の平和と繁栄にとって重要な意義を有しております。我が国は,現在「改革と開放」の方針の下,近代化建設を目指す中国の努力を高く評価し,今後ともできる限りの協力を行うとともに,日中共同声明,日中平和友好条約及び日中関係四原則を踏まえ,さらに両国関係発展のために尽力する所存であります。
東南アジア地域の安定の要
また,この地域の平和と安定にとって不可欠なのはカンボディア問題の解決であります。これにつきましては,最近,当事者間の対話が活発になり,政治解決達成への気運が高まって来ております。同問題解決のためには,ヴィエトナム軍の完全撤退の確保と過去ポル・ポト政権が行ったような非人道的な政策の再来を阻止することが重要でありますが,我が国といたしましても,カンボディア人の真の民族自決の実現を目指した関係国の和平努力を支持しつつ,独立,中立,非同盟の新カンボディアの誕生に向けて,積極的な役割を果たしていく考えであります。
さらに,様々な動きの見られるインド亜大陸の安定と経済発展のために引き続き協力するとともに,同地域の国々との関係の一層の強化に努めていく所存であります。
豪州との間では,先般の日豪閣僚委員会で合意された「建設的パートナーシップ」の構築に向け,努力してまいります。さらに,昨年末,我が国が外交関係を樹立しましたマーシャル諸島共和国,ミクロネシア連邦などの太平洋諸国とも今後,友好協力関係を更に強化してまいります。
また,PECCを始めとする太平洋協力に対しても,積極的に支援してまいります。
(中東との関係)
次に中東に移りますが,中東における情勢は依然として流動的であります。
中東紛争につきましては,パレスチナ民族評議会及びジュネーヴ国連総会におけるPLOの和平のための現実的政策の表明,これを踏まえた米国とPLOとの直接対話開始等,和平実現に向け,大きな流れが生じつつあります。しかし本問題の解決には,なお関係当事者の不断の努力が要請されるところであります。私自身,昨年中東紛争当事国4か国を訪問し,それらの国々が我が国に寄せる期待の大きさを痛感した次第でありますが,我が国といたしましては,国際的協調の下,かかる関係当事者の和平努力に対し積極的に協力していく所存であります。
イラン・イラク紛争は,昨年8月20日に停戦が実現しました。私もパリで両国外相と会談しましたが,両国は依然和平交渉を続けており,合意は見られておりません。我が国は,今後とも,安保理決議598号に基づく紛争の平和的解決のために,国連事務総長の和平努力に対する支援を中心に,可能な限りの努力を行っていく所存であります。
アフガニスタンに関しましては,ジュネーヴ合意に基づきソ連軍が撤退いたしますが,今後は,アフガン人自身による国民の総意を反映した暫定政権が同国に樹立されることを強く希望します。
(中南米,アフリカとの関係)
続いて,中南米,アフリカについて申し上げます。
中南米諸国は,約百数十万人の我が国からの移住者や日系人が在住し,伝統的に我が国とは親密かつ友好的な関係を有しておりますが,近年,累積債務問題等による経済困難の増大に直面しております。私は,同地域諸国の我が国に対する期待と国際場裡
中米和平の動きは,最近残念ながら停滞いたしておりますが,関係者の粘り強い努力による真の平和の実現を強く希望いたします。また,中米和平の進展を見つつ,同地域の経済復興開発,難民援助,人造り等にできる限りの協力を行っていく所存であります。
アフリカ諸国は,依然として食糧問題,累積債務問題等の多くの困難を抱えております。我が国は,ノン・プロジェクト無償資金協力,国際機関との協調融資,債務救済措置等を通じて,同地域諸国に対する積極的支援を更に強化してまいります。
しかし,南アフリカ共和国のアパルトヘイトには断固反対しなければなりません。そのために我が国は,各種の対南ア規制措置を講じておりますが,対南ア貿易でも引き続き関係各方面に慎重な対応を求め,また,アパルトヘイトの犠牲者のための人道的援助,及び南ア周辺諸国に対する経済協力も強化してまいります。
(世界経済の健全な発展への貢献)
以上の外交推進のためには,世界経済の健全な発展が基礎であり,主要先進国間におけるマクロ政策協調の維持が極めて重要であります。そこに我が国の使命があります。我が国といたしましては,内需主導型の経済運営を行うとともに,構造調整,規制緩和,及び更なる市場アクセスの改善によって,対外不均衡の一層の是正を図らねばなりません。その一方,我が国は,他の主要先進国とともに,開発途上国,就中
かつ,世界貿易進展のためにも,多角的自由貿易体制の維持・強化を,主張しなければなりません。私は昨年末,ウルグァイ・ラウンドの中間レヴュー閣僚会合に出席し,交渉の早期成果のとりまとめと後半の交渉に向けた指針づくりに積極的に参画いたしました。今後の交渉の道は決して平坦
さらに,米加自由貿易協定及び1992年に予定されているECの域内市場統合が,排他的でなく,開放された多角的貿易体制の強化に資するものとなるよう,関係国との対話を深めてまいります。
(国際協力構想)
さて,相互依存関係の益々深まっている現在の国際社会において,我が国の平和と繁栄は,世界の平和と安定に極めて密接に結びついております。したがって,世界のGNPの1割を優に超える経済力を有し,今や国際秩序の主要な担い手の一人となった我が国は,自らの平和と繁栄のためにも,そして地球全体の福祉のためにも,「経済大国日本は軍事大国にならず」という信条の下,「世界に貢献する日本」を実現すべく努力していくことが必要となってまいりました。
竹下総理は,我が国外交の最も基本的な課題への取り組みの上に,新たな貢献の具体的施策として「国際協力構想」を内外に明らかにされました。すなわち,「平和のための協力」,「ODAの拡充」,「国際文化交流の強化」の三本の柱であります。
[平和のための協力]
この総理の積極的な考えを受け,我が国は,世界への貢献に新境地を開きました。私が昨年,自ら陣頭に立って中東紛争当事国を訪問したのも,また,国連アフガニスタン・パキスタン仲介ミッションや国連イラン・イラク軍事監視団等に対し,資金面での協力に加え,要員の派遣を行ったのも,かかる観点からであります。
私は今後,要員の派遣を更に進めていく所存であり,そのために必要な体制整備を行ってまいります。当面は,本年4月1日発足予定の国連ナミビア独立支援グループに対し,地方自治体等の協力も得つつ,選挙監視等の分野において要員を派遣する考えであります。また,カンボディア問題等につきましても,紛争解決に向け国際的な枠組が設立される場合には,積極的に協力し,併せて復興援助についても検討していく所存であります。さらに,アフガン難民の自主帰還支援,あるいはジョルダン川西岸及びガザ地域等中東のパレスチナ難民救済のため,引き続き協力を惜しまない所存であります。
国連等の国際的な場で進められている軍縮努力への参画も,「平和のための協力」の重要な一環であります。先にも申し上げました,先月の化学兵器禁止パリ国際会議が成功裡
さらに,国際社会の平和と安定を脅かすテロには断固反対との立場から,その防止のための国際協力を一層強化・推進してまいります。
[ODAの拡充]
政府開発援助につきましては,我が国は今日まで,国連加盟国中,128の開発途上国全てに対しODAを供与した実績を有しております。これは,我が国国民の御理解,御協力の賜
ODAの実施に際しましては,これまでも,5年間に500億ドル以上を供与するとの第4次中期目標の下,累積債務問題,第一次産品市況の低迷等の経済困難に直面する相手国の諸情勢を勘案し,量の拡充のみならず,内容や質の面での改善に努力してまいりました。また,累積債務問題に悩む後発開発途上国に対しましては,約55億ドルの債務を無償化するとの新たな債務救済措置も決定いたしました。さらに,技術協力の拡充,青年海外協力隊の強化にも努めてまいりました。今後は,国民の皆様の御意見に留意しつつ,援助のより一層の効果的実施を図るため,実施体制の整備・拡充を図るとともに,民間援助団体(NGO)や地方との連携,及び国際開発金融機関,国連諸機関との調整,協力を強化してまいります。
[国際文化交流の強化]
国際文化交流におきましては,文化を通じて国際的に貢献し,また,人類共通の財産である文化遺跡の保存への協力等により,世界の諸文化を維持発展させていくことが肝要であります。私は,高まる対日関心に応
(地球的規模の問題への貢献)
加うるに今や我々は,地球温暖化現象を始めとする環境問題や自然災害問題,あるいは麻薬問題等,その影響が国内にとどまらず,国境を越え,地球的規模にまで広がっている多くの問題に直面しております。政府といたしましては,諸外国とも協力の上,今後このような問題にも,国際協力構想の一環として積極的に取り組んでまいる所存であります。
(結び)
以上,今日の我が国外交は,極めて多様な課題を背負い,その重要性は益々高まっております。国益に沿って積極的な外交を展開することは,国民の負託にも応
加えて,緊急事態における在外邦人保護体制の整備や,海外子女教育の拡充などにも新しい努力が必要とされます。
我が国が世界とともに歩み,世界とともに栄えていくためには,世界自らが閉鎖的でなく「開かれた世界」となると同時に,我が国自身が世界に対し「開かれた日本」となることが必要と考えます。この観点から,近年,地方公共団体,民間各層における国際文化交流活動や海外との人的交流が活発になっている事実は,歓迎すべきことであります。政府といたしましても,こうした傾向を一層促進し,「ふるさと国際化」を図っていくべく,交流活動の基盤整備及び情報提供の強化に更に努めていく所存であります。
惟
我が国外交を進めるに当たり,国民各位及び同僚議員の力強い御支援をお願いいたす次第であります。
(平成元年6月5日)
この度,私は,内閣総理大臣に任命され,国政を担うことになりました。政治の大きな岐路に立ち,身の引き締まる思いがいたします。私は,決意を新たに,力の限りを尽くし,自らに課せられた重責を誠実に,しかも勇断をもって果たしてまいる所存であります。
(政治の理念と改革)
第二次世界大戦は,我が国民に忘れられない惨禍をもたらしました。私が約4年振りに帰還し,目の当たりにした祖国は,廃墟
今日,我が国が享受しているこの平和と繁栄は,内にあっては,戦後日本全体が選択した民主主義体制の下で,自由市場経済の理念に基づく個人の自由な意志と活力の尊重,そして外との関係にあっては,米国との同盟関係によって確保された国の安全保障及び国際協調がもたらした安定的な対外環境により,可能となったものであります。
もとより,民主主義の基本は,国民の厳粛な信託にこたえて,誠実で明解な国政が行われることにあります。しかし,昨今,国民の政治に対する信頼が大きく損なわれております。私が政治改革を断行する決意に燃えているのも,この民主主義の原点に立ち戻り,国民の納得できるわかりやすい政治を行っていくべきであると考えるからにほかなりません。国民の政治に対する信頼を回復することこそが,我が国の平和と繁栄の基盤をゆるぎないものとし,同時に,我が国の対外的なイメージを回復,強化するために不可欠であります。
そのため,議会史上例を見ない政治不信を引き起こしたリクルート問題に関し,政治的あるいは道義的な「けじめ」をつけるだけでなく,このような不祥事が二度と起こることのないよう,根本にさかのぼった措置を採ることが肝要であります。高い政治倫理の徹底を図るとともに,政治資金における公私の区分の明確化と透明性の確保,さらには,金のかからない政治活動と政策を中心とする選挙の実現など政治のあり方そのものを抜本的に改革しなければなりません。
政治は,古来から,その国の風土や文化,国民意識を抜きにしては語れないと言われており,このため国民意識をも変革し,これを高めることが必要であると考えております。
政治改革の理念と方向については,竹下前内閣における「政治改革に関する有識者会議」によるご提言や自由民主党の「政治改革大綱」において,基本に立ち返った改革案が示されております。
私は,いかなる厳しい試練に遭遇しようとも,これらの理念と方向に沿って,政治改革を大胆に実行することこそ,国民の負託にこたえる途であると考えており,政治改革を,内閣の最重要課題として,不退転の決意をもって取り組む覚悟であります。
申すまでもなく,これらの改革は政府のみにて達成できるものでなく,国会,各党各会派の皆様のご理解とご協力によって初めて成し遂げられるものであります。自由民主党を始めとして,各党各会派間において,大局的見地に立って十分論議を尽くしていただき,順次成果が得られることを切望します。私としても,皆様とともに,全力を挙げてその実現に取り組んでまいります。
新内閣の発足に際し,各閣僚等の賛同の下に,就・辞任時における資産の公開,在任中の株や不動産などの取引の自粛と保有株式などの信託を申し合わせ,内閣としてなすべき政治改革の第一歩を踏み出したのも,かかる考えによるものであります。
また,全体の奉仕者である公務員についても,昨今の国民の批判を厳しく受け止め,その職務を行うに当たっては,国民からいささかの疑いを受けることのないよう,今後とも綱紀粛正の徹底に努めてまいる所存であります。
(外交の基本姿勢)
今日の国際情勢は,戦後最大の転機に至っていると考えます。戦後四十有余年間,国際関係を規定してきた米ソを中心とした東西関係は,大きく変化しつつあります。また,中ソ関係は,ほぼ30年振りに正常化されました。さらに,第三世界における地域紛争は,解決に向けて急速な動きを示しております。加うるに,幾多の国においては,民主化への動きが起こっております。このように,世界は新しい時代を模索しつつあります。その背景には,我が国を含めた先進民主主義国の信奉する自由と民主主義という価値が,より広範な国々に基本理念として受け入れられる一方,東側諸国や開発途上国において,政治的自由を希求し,経済的停滞を打破しようとする各国民の抑えることのできない民主化に向けての強い願望があります。このような動きは,日本が選択した民主主義体制の正当性を証明するものといえましょう。我が国としては,今日の日本の平和と繁栄の源となり,かつ,諸国民が希求する自由と民主主義という基本的価値を,単に与えられたものとして捉えるのではなく,これを積極的に担い,支え,この下での繁栄を図っていくべきであります。日本は,このような基本的価値の下で,国際的に貢献し得る経済力を有するに至ったのであり,「世界に貢献する日本」の原点は,ここにこそあると考えます。
これは,日本国憲法に述べるとおり,「われらは,いづれの国家も,自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」からであります。世界的に諸国民の間の相互依存関係がますます強まっている今日,国際協調にその生存を依存している我が国としては,国際的な責任を果たしていくことが,我が国自身の国益に不可欠であることを認識しなければなりません。自由世界第2位の経済規模を有するに至った我が国は,自己の改革を成し遂げつつ,より大きな国際的責任と役割を果たさなければならないという意味で,歴史的転換期を迎えていると考えます。
このような転換期にあって,内外政の一層の一体化は必然であります。来るべき21世紀を展望し,我が国の国際社会への貢献を更に推進するとともに,国民の福祉を一層向上していくためには,良好な国際環境の確保と着実な内政の確立が不可欠であります。
個人の自由と民主主義に立脚した国の繁栄と,国民の安寧の確保という視点に立ってみれば,従来の我が国の外交政策の基本,すなわち,米国との関係を基軸とした先進民主主義国の主要な一員としての立場と,アジア・太平洋地域の一国としての立場という二つの座標軸にしっかりと立って,国際責任を果たすとの外交路線が正しかったことは疑いを入れません。私としては,このような外交路線を継続し,発展させてまいります。
安全保障に関しては,日米安全保障体制を堅持するとともに,憲法の下,専守防衛に徹し,非核三原則と文民統制を堅持し,節度ある防衛力の整備を進めてまいりたいと考えております。
日米間を始めとして,我が国を取り巻く貿易・経済問題は,深刻の度を日毎に深めております。私は,戦後の世界的な自由貿易体制の恩恵を最大限受けた我が国が,強い経済力を持つに至った現在,自己中心的な論理のみを主張することは,妥当ではなく,世界的な視点に立って行動していくことが我々の国益にも資するものと考えます。我が国として正すべき国内の制度や慣行については,これを是正することに躊躇
私は,竹下前総理が提唱された「国際協力構想」を,外務大臣として積極的に推進してまいりました。この構想は,世界各地における紛争を収拾し,さらには,その再発を防ぐ「平和のための協力」,諸国民を貧困から脱却させるための「ODAの拡充」,多様な価値観を持つ諸国民の間の相互理解を促進するための「国際文化交流の強化」の三本柱を中心としております。私は,この構想を,日本の繁栄のために,また,人間性が最大限に尊重される国際社会を築くためにも,引き続き力強く推進していく考えであります。そして,この構想を一段と発展させ,累積債務問題や地球温暖化を始めとする地球的規模の環境問題の解決に向けて積極的なイニシアティヴをとることが,世界最大の純債権国,黒字国であり,かつ自由な民主主義国家としての我が国の責務であると確信いたしております。特に,地球環境問題の解決は,人類の英知を結集していかなければならない課題であり,本年9月には,国連及び各国の協力の下,「地球環境保全に関する東京会議」を開催してまいる所存であります。
確かに,我が国の国際的地位の向上に伴い,我が国に対する期待と同時に批判が生じております。私は,誤った批判については,その是正を求めるとともに,謙虚に受け止めるべき批判に対しては,我が国の行動と実践によって,これに対応していくべきであると考えます。私は,我が国の姿を真に理解し,我が国に対するいわれのない批判に潜む誤解を解く上で,文化の相互交流が担う大きな役割に着目いたしております。異質な文化に対する寛容な心を培い,多様な文化の活発な交流を通じて,より豊かな開かれた国際社会を実現することは,我が国が果たすべき重大な責務であります。
以上のような哲学の下に,自信をもって我が国が努力を続けていけば,必ずや,我が国は正当な評価を受け,憲法の理想とする国際社会における名誉ある地位を確保することができるでありましょう。
私としては,このような基本的な考え方に立って,外交全般に臨みたいと考えます。来る7月のアルシュ・サミットにおきましては,全世界的な観点に立って,政治,経済両面における先進民主主義諸国の連帯の確保に努めます。
(新税制の円滑な実施)
先般の税制改革は,急速な高齢化・国際化を迎えている我が国の将来展望を踏まえ,これまでの税制の持つひずみを是正するとともに,国民福祉の充実などに必要な歳入構造の安定化を図るものであります。私は,シャウプ勧告以来40年振りのこの税制改革の趣旨を生かし,健全な財政基盤を確立する努力を続けてまいります。
多くの議論を呼んだ消費税は,実施されて2か月を経ました。この間,消費者や事業者の皆様には,適切かつ冷静に対応していただき,全体としてみれば,おおむね円滑に実施されていると受け止めております。しかし,消費全体に広く薄く課税する間接税は,我が国の場合はなじみが薄いものであるため,戸惑いや不安を感じている方も少なくないと思います。
私は,国民の皆様の声に謙虚に耳を傾けながら,便乗値上げの防止や円滑かつ適正な転嫁の実現への取組みを始めとして,消費税が国民の生活の中に定着するよう幅広い視野に立ち,各般の努力を行ってまいる所存であります。なお,免税制度等各方面からご指摘を受けている諸問題については,税制調査会においてその実情を十分勉強していただいた上で,適切に対処してまいりたいと存じます。
消費税の税率については,前内閣と同様,私の在任中において,その引上げを提案する考えのないことを表明いたします。
(真に豊かな社会の建設)
我が国は,世界に例を見ないほど急速な勢いで高齢化社会を迎えつつあります。長い生涯を健康で生きがいを感じながら過ごすことのできる社会,高齢者が社会を支える重要な一員である社会こそ,築き上げるべき真に豊かな社会であると考えております。雇用制度や年金・医療・福祉などの社会保障制度を始め高齢者のための施策の一層の充実を図ることは言うまでもありませんが,国民の自助努力と相まって,働く年齢層の人達にとって過重な負担を招くことのないようにしなければなりません。老いも若きも共に手を携えて生きる豊かな社会に向けて,国民全体として知恵を出し合っていかなければならないと考えております。
農業は,内外の厳しい情勢の中で,足腰の強い産業として新たな発展を期すべき転機を迎えております。より一層の生産性の向上を図り,農業経営の安定を確保しつつ,国民の納得し得る価格での食料の安定供給を行うとともに,我が国農業の未来を切り開いていくため,魅力ある農業の展開に向けた将来展望の確立,農業構造の改善,生産基盤の整備,技術の向上などの施策を強力に推進いたします。農林漁業の持つ多面的な役割を重視し,農山漁村の活性化などに意を用いてまいります。
教育改革は,我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し,世界に貢献していく基盤を築くものであります。国際社会の中で,たくましく活動できる個性的で心豊かな青少年の育成はもとより,生涯学習社会の実現に向けて,引き続きその改革に取り組んでまいります。
狭隘
(土地対策)
土地問題の解決は,内政の中核的課題の一つであります。今国会に提出している土地基本法案は,土地対策を強力に推進し,土地の公共性について共通の国民意識を形成する上で重要な役割を担うものであり,本法案の早期成立を念願いたします。
国土の均衡ある発展をもたらす鍵は,東京への一極集中の是正と地域の活性化にあります。そのためには,第4次全国総合開発計画に基づき,多極分散型の国土の形成を図るとともに,地域が主体性と責任を持って地域づくりに取り組むことが基本であります。これは,前内閣が「ふるさと創生」という形で推進してきたものであり,真に豊かな地域社会の形成を目指して,諸施策を展開してまいります。さらに,政府が率先して地方分散を推進するという観点から,国の行政機関等の移転については,これまでの方針どおり着実に推進してまいります。
(行財政改革)
行財政改革は,効率の良い活力にあふれた社会を形成し,簡素にして効率的な行財政を確立するため,引き続き強力に推進すべき課題であります。新しい税制が国民の理解と協力を得て十分定着するためにも,行財政の効率化は一層重要であります。これまでも特殊法人の整理・合理化や行政機構の簡素合理化など各般にわたる改革を行ってきましたが,行財政をめぐる厳しい状況を踏まえ,行政の各面にわたり,視点を新たにして制度や歳出を見直し,スリムな行政組織によるサービスの向上を図ってまいります。当面,財政改革の第一段階として,平成2年度に特例公債依存体質から脱却するという目標の達成に努めてまいります。国土の均衡ある発展と地方の活性化のため,真の意味での自主的,自立的な地方自治の体制を築きあげるよう,臨時行政改革推進審議会の答申を待って,国・地方にわたる行政改革に,積極的に取り組んでまいります。
本国会に提出された各種の法案や条約については,これらが国民生活に大きな影響を持つものであることにかんがみ,速やかに審議の促進を図り,一日も早く成立するよう,皆様のご理解とご協力をお願いする次第であります。
(結び)
正に改革の時は今。民心が求める倫理の確立を図り,「清潔な政治」「信頼される政治」を目指し,さらに,日本の未来,世界の未来に想いをはせ,私は,裂帛
私は,この内閣を,「改革前進内閣」と命名したいと思います。「政府はスリムに,国民は豊かに」との基本的考え方の下,政治・行政・財政の全てにわたり改革を進めていくことに全身全霊を傾けてまいる決意であります。
国民の皆様及び同僚議員諸兄の一層のご理解とご協力を,心よりお願いする次第であります。