第4章 外交体制

 

1. 外務省組織の強化

 

 転機に立つ国際社会の中にあって、ますます重要性を高めているわが国の外交活動は、外務本省及び172の在外公館(大使館、総領事館、領事館、政府代表部)に勤務する4,148人(88年度末定員)の外務省職員によって支えられている。かかる実施体制の課題は、まず「国際協力構想」の推進、情報収集分析能力の向上、邦人保護・外国人問題への対応等の諸側面で、量的に増大し、質的にも高度化する事務に対応して、重点的に職員の拡充・養成を図っていくことにある。日本国内に比べ、政治、経済及び社会体制はもとより、自然環境の極めて厳しい地域で効果的に任務を遂行する環境を整えることも必要である。今日の国際情勢は多様化、流動化に向かっており、この中でわが国の国際的地位と責務は飛躍的に増大し、わが国の国際化も急速に進展してきている。

 しかるに、現状は外務省に課された重要な使命及び外交に対する需要の急激な増大に十分応え得る実施体制にはなく、体制を抜本的に拡充・強化していくことは焦眉()の急と言わざるを得ない。竹下総理大臣が、第114回国会の施政方針演説において、外交実施体制の強化の必要性を明確に述べたのは、正にかかる認識に基づくものである。

 89年度予算においては、かかる考え方に基づき、次のとおり機構の強化、定員の増大、予算の拡充等、外交実施体制の整備、強化に努めた。

(1) 機構・定員

(イ) 本省の機構については、大きな改編が二つ行われた。その第一は領事移住部の改編である。これは、領事移住政策の企画立案機能を強化し、更に従来に比し量的に急増し、質的に高度化しつつある領事関連事務に

 

在インド日本国大使館(ニューデリー)

 

対応するために、抜本的に体制を改めるものである。特に、長期的かつ総合的な政策の企画立案機能の強化(領事移住政策課)、海外における邦人の保護、テロ・ハイジャック等への対応体制の強化(邦人保護課、邦人特別対策室)、在日外国人の諸問題に関する調整、企画立案機能の強化(外国人課)に焦点があてられている。

 第二の改編は、北米局に地位協定課を新設したことである。国民の支持を得つつ在日米軍の円滑な駐留を確保することは、我が国の安全保障にとり不可欠な日米安保体制の効果的運用を図る上で極めて重要であるが、地位協定課はこのような在日米軍関連事務を専ら所掌するものである。

 このほか、省令職として平和協力、宇宙・南極問題、外交記録公開、移住問題を担当する企画官4、在日公館調整官1の計5ポストが新設された。

 在外公館関係では、「第三の国連都市」といわれるウィーンに実館として国際機関日本政府代表部を設置することとした。この結果、89年度末におけるわが国在外公館数は、大使館107、総領事館58、領事館2及び政府代表部6の合計173となる。

(ロ) また、外交機能強化のために不可欠な外務省定員の増大については、「国際協力構想」のための定員の増強を最重点分野としたほか、情報収集分析機能、経済関係事務、領事事務(邦人保護を含む)、官房体制等の強化を重点として掲げた。この結果、厳しい予算・定員事情ではあるが本省32人、在外74人、合計106人(対前年度比85人の増加)(注)の増員を図ることとしている。

(2) 予  算

 引き続き厳しい財政事情ではあるが、89年度予算においても以下の5項目の重点事項を中心に着実な予算拡充に努め、前年度比250億円増(伸び率5.7%)の4,666億円を計上した。これは88年度予算の対前年度伸び率4.1%を上回るものであり、外交の重要性が国民一般に広く認識されるようになってきた結果であると考えられる。

(イ) 定員等の増強
(ロ) 在外勤務環境の改善等の外交実施体制の強化
(ハ) 国際協力の推進(ODAの拡充、国際文化交流の強化、平和のための協力の強化、その他の国際協力の推進)
(ニ) 情報機能の強化
(ホ) 海外邦人対策等の整備・拡充

 

2. 邦人保護・安全対策

 

(1) 国民の海外渡航の急増とその形態の多様化

 わが国の国際化の顕著なあらわれの1つは、国民の海外渡航の急増とその形態の多様化である。88年中に海外渡航した邦人は約843万人にのぼり、この数は対前年比23%増で、前年に引き続き史上最高となった。また、88年10月1日現在、海外に居住する邦人数も約55万人(長期滞在者と永住者の合計)と、前年より5.8%増加した。

(2) 邦人保護の必要性の増大

 このように邦人の海外進出が急増する中で、邦人が海外での紛争、内乱、災害等の緊急事態や事故に巻き込まれたり、国際テロや犯罪の被害を受ける件数も急増し、さらにその形態にも従来みられないものが増えてきている。

 邦人が巻き込まれた大規模事故や緊急事態・事件に限ってみても、クウェイト機ハイジャック事件、ミャンマー(旧ビルマ)の騒(じょう)事件、英国でのパン・ナム機爆破事件、ラオスでの商社員誘拐事件、中国でのバス転落事件や中国情勢の悪化等、次々と発生しており、このほか日常的な事件、事故は枚挙にいとまがない状況であった。

 この結果、88年度中に在外公館が取り扱った邦人保護案件は7,988件にのぼり36%の増加であった。この増加率は邦人渡航者の増加率を大きく上回った。

(3) 外務省はかかる状況を踏まえ、邦人保護・安全対策には文字通り24時間体制で全力をあげて取り組んでいる。海外において邦人の安全を確保していくためには、政府側の態勢を一層充実させることと並び、国民の側においても、安全問題についての自覚を高め、自助努力を強化することが不可欠である。

 このため、外務省は、事件・事故を未然に防ぐとの観点から、国民の側の自助努力を促すとともに、個人から企業に至るまで、国民一般に対し、在外公館並びに省内の「海外安全相談センター」等を通じ、安全に係わる情報の提供及び指導に努めている。さらに、緊急事態に備えて、在外公館と在留邦人との連絡体制の整備や通信連絡網の拡充に努力している。また、サミット参加国の一員として、国際テロ防(あつ)のための国際協力を推進している。

 このほか、外務省では89年度予算の成立を待って、海外邦人の安全対策を強化し、外国人問題等の新しい領事問題に対処するため、領事移住部の機構改革を行った。

 

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(注)  対前年度比実質85人の増加というのは、106人から定員削減計画による減員45人を差し引き、アタッシェ受入れ等による他省庁からの振替24人を加えたもの。