第2節 世界の中の日本
国際社会の変化は、わが国にも影響を及ぼす。昭和天皇の大喪の礼に対する世界の対応は、世界がわが国を重視していることを示した一つの例であった。これらの変化は、国際的諸問題解決のために、わが国がよ
り一層重要な役割を果たすことを求めるものである。
1. 一時代を画した大喪の礼
昭和天皇は、89年1月7日に崩御され、おりからパリで開催中の化学兵器禁止国際会議の席上、参加149か国の全員により黙とうが捧げられた。2月24日、新宿御苑において大喪の礼が行われ、世界164か国、EC及び27の国際機関の元首、弔問使節が参列した(参列者は、巻末資料参照)。今回参列した国の数及びその参列者のレベルは、史上例のないものである。正に一つの時代を画する出来事であった。
このことは、昭和天皇御自身や日本の皇室に対する各国の敬意の大きさに加え、今日の世界での日本の位置と、各国の日本に対する関心と重視の姿勢を如実に示すものでもある。
海外の報道機関も、この大喪の礼に強い関心を払った。国によっては、大喪の礼の時期に合わせて日本特集を組んだところも多く、世界の日本に対する強い関心を示すものである。多くの報道が、現在の日本の姿の中に、伝統文化と新しいものとの間の調和を見出し、日本の発展を改めて評価している。今後の日本について、その国力にふさわしい役割を果たしていくべきであるとの認識が、多くの報道の基調となっている。同時に、昭和という時代の歴史的評価にも触れている。海外の論調において、わが国の戦争責任を改めて問うものが少なくなかったことは、わが国として、よく考えていかなければならない点である。今回、単なる対日非難ではなく、日本が大国としてふさわしい国になるための注文という、いわば「建設的」批判が増加していたことにも留意する必要がある。
大喪の礼に参列する外国要人 (89年2月)
2. 日本をとりまく国際環境とわが国の立場
大喪の礼の際に示された各国のわが国重視の姿勢は、日本の占める国際的位置と日本のこれからの動向に対する強い関心を客観的に反映したものである。経済大国として大きな存在となった日本が、これから90年代を通じ21世紀に向けてどのような国になるかによって、良くも悪くも世界全体が影響を受けるようになったからである。
わが国の人口は世界の約2.5%、国土面積は0.3%を占めるに過ぎないが、わが国の経済力は、世界のGNPの1割を優に超え、先進民主主義諸国の中で第2位を占めている。世界貿易全体に占めるわが国の割合は、87年には8.0%に達している。わが国は、半導体、超伝導等のいくつかの先端技術の分野でも、世界をリードしている。88年には、政府開発援助(ODA)の実績額が91億ドルに達し、米国の98億ドルに迫る勢いを見せた。国連加盟の128の開発途上国すべてに経済協力を行った実績を有しており、87年には、29の開発途上国において、わが国が最大の援助供与国となった。国連に対する拠出金も、86年には4億7,000万ドルに達し、全拠出額の11.3%を占め、米国に次いで第2位の位置にある。今や、わが国は、世界の多くの問題の解決に、重要な役割を果たしつつある。
しかし、国際社会の中でわが国の置かれた環境は厳しい。政治の分野では、東西関係を始めとする新しい動きに対し、わが国としてどのように対応し、世界の平和と繁栄のため、どのような役割を果たしていくかという難しい課題に直面している。各地の地域紛争の解決やその後の復興に関して、わが国として積極的な貢献を行う必要も生じている。経済分野では、主に先進民主主義諸国間の問題として、大幅な対外不均衡、市場開放、内外投資、知的所有権等の緊急に解決を要する問題が生じている。先端技術を始め、科学技術に関する先進民主主義諸国間の競争も熾
世界におけるわが国の重要性が増大し、世界のあらゆる動きがわが国の利益に直接関係するようになった今日、わが国が積極的にこれらの諸問題の解決のために努力しない限り、わが国の利益を守ることは難しくなってきている。これらの諸問題に無関心でいることは、日本にとっては、もはや許されない。さらに、今日では、各国の国民世論の国際政治に与える影響力が高まっている。わが国は、外交の効果的な遂行のために、諸外国国民各層に対し、わが国の政策に対するより深い認識と理解を求める努力を行いつつ、「内向き」になることなく、積極的な対応をとっていかなければならない。
世界は着実に変化しつつあるが、わが国が守るべきものに変わりはない。それは、日本がいま享受している平和と繁栄であり、それをもたらした自由と民主主義であり、自由貿易体制である。国際秩序の主要な担い手の一人としての日本は、戦後の平和と繁栄の基礎となった諸価値を堅持しながら、世界のより一層の平和と繁栄のために、この変化の中にあっても積極的な役割を担っていかなければならない。そのためにも、わが国が果たさなければならない国際的役割は急増している。わが国には、政治、経済、社会等のあらゆる国内的側面を、世界の変化に適応させ、世界の平和と繁栄に貢献するものにしていく自己改革努力が一層不可欠となっている。このように「世界に貢献する日本」にふさわしい国内体制を整え、積極的な外交を推進することが、いま強く求められている。