(3) 米ソ首脳会談に関する両国首脳のテレビ演説
(イ)レーガン米大統領演説(要旨)
(86年10月13日,ワシントン)
御承知のように私はアイスランドにおけるソ連の指導者ゴルバチョフ書記長との会談を終えて帰国したところである。私が昨年ジュネーヴにおける首脳会談から帰国した時と同じ様に皆様に討議の模様についてお話ししたい。
これらの会談のもつインプリケーションは極めて大きく,かつそれは正に理解され始めたところである。われわれは,史上最も大幅,かつ寛大な軍備管理に関する提案を行った。われわれは,1996年までに地球上から米ソ両国の全ての弾道ミサイルを完全に廃絶するとの提案を行った。われわれはこの米国の提案をテーブルに置いたままにしてあるが,核兵器のない,より安全な世界へと導き得る合意に向けて,これまでの如何なる時点よりも近づいている。
先ず,私はゴルバチョフ書記長との会合において終始米国民が共に出席しているのだと考えていたことを申し上げたい。米国民の支持がなければ,これらの会談は決して開催し得なかったであろうし,また世界平和と自由という米国の外交政策の究極目的は追求し得なかったであろう。正にこの目的のために私ははるばるアイスランドに赴いたのである。
これらの会談について報告する前に会談の重要な一部を成す二つのことについて説明したい。一つは条約であり,もう一つはわれわれが開発を試みている核ミサイルに対する防御である。恐らく何千回もその名を聞いたと思うが,ABM条約とSDIである。
数年前に米ソは核ミサイル攻撃に対する防御を限定し,飛来する核ミサイルを途中で打ち落とす能力を有する少数のミサイルを両国内の一地点に配備するにとどめることにつき合意した。かくしてわれわれの真の防御政策は相互破壊保証(MAD),即ち,もし一方が核攻撃を行えば他方が報復できるという余地を残すものとなった。その相互破壊の脅威が双方にとって第一攻撃に対する抑止であると信じられたのである。
現在,われわれは互いに相手国を消滅させることのできる幾千もの核弾頭を相手に向け合っている。ソ連はABM条約に認められている通り,モスクワ周辺に少数のABMを配備している。米国は配備について悔やまなかった。何故なら国家全体の破滅の脅威の前にはかかる限定的な防御は全く役に立たないように思われたからである。
ここ数年間,われわれはソ連が国土全体に広がる防御を開発しつつあるかも知れないということに気づいた。ソ連はクラスノヤルスクに大きな近代的レーダーを据え付けた。
われわれはこれをソ連国土全体を防御するABMのためのレーダー誘導を供給するよう作られたレーダーシステムの重要な一部を成すものと信じている。これはABM条約違反である。
相互破壊及び両国民を殺致することは野蛮なことであると信じ,2,3年前,私は軍に対し核ミサイルが発射されてから目的に到達して人々を破滅させる前にこれを破壊させる実際的方法がないものか検討して欲しいと命じた。これがSDIと呼ばれるものの目的であり,米の科学者はこれが実際的であり,かつ幾年かすればわれわれはこれを配備する準備が出来ると確信している。ABM条約はこのような研究を許容しており,われわれは同条約に違反していない。われわれがSDIを配備する段階になった場合にはABM条約は6ヵ月前の通告で廃棄出来る。SDIは非核防御であることを明確に申し上げたい。
さて,われわれはアイスランドで第2回目の会合を行った。第1回目の会合及びその後の何カ月間か,われわれは核兵器を削減し,完全に廃絶する方途につき討議した。双方は交渉団をジュネーヴに送って核兵器を如何に削減し,あるいは廃絶するかについての合意を作成しようと努め丸これまでのところ成功していない。
土曜日と日曜日にゴルバチョフ書記長,シェヴァルナッゼ外相,シュルツ長官と私は10時間近く会談した。ただ,軍備削減のみに限定した訳ではない。われわれはソ連側における人権の蹂躙即ち,人々が迫害を受けることなく信教を実行するためにソ連を離れること,国境によって隔てられている夫,妻,家族と再開することをソ連が認めないことについて討議した。
ソ連はこの点について1975年に署名したもう一つの条約,即ちヘルシンキの合意に違反している。われわれはユリ・オルロフの自由を獲得したが,彼はソ連政府がヘルシンキの合意に違反していること及びソ連政府が市民の海外渡航,帰国を認めないことを指摘したかどで投獄された。
われわれはアフガニスタン,アンゴラ,ニカラグァ及びカンボディアといった地域の問題も討議した。しかし,ソ連側の選択により主要な議題は軍備管理であった。
われわれは欧州,及びアジアにおけるINFの配備につき討議し,それらを大幅に削減し得ることにつき一致をみているように思われた。双方は互いに向け合っている戦略弾道ミサイルを削減し,ゼロにまでもっていく方法を喜んで見出したいと考えているように思われた。そこでSDIの問題が持ち出された。
私は,われわれが現行の研究を継続し,もし最終の実験段階に到達した場合にはその段階でソ連の視察を認めることを約束する条約に今署名しても良いと提案した。そして,もしその計画が実際的なものであれば双方は攻撃ミサイルを廃絶し,新たな防御兵器の恩恵を共有しようというものである。私は,もしわれわれが攻撃弾道ミサイルを廃絶したとしても,防御兵器をもつことは相手をだましたり,気違いがいつの日か核ミサイルを作ったりすることに対する防御と成り得ることを説明した。結局世界は最早核ミサイルの作り方を知っているのである。
私はそれを世界の国々が第1次世界大戦後に毒ガスを禁止したにもかかわらず,今でもわれわれがガスマスクを持っていることになぞらえた。
ゴルバチョフ書記長がSDIに反対を唱え,ABM条約を何年にもわたって遵守するとの約束を提案したにもかかわらず,兵器を削減することにつきわれわれは前進しているようにみえた。
シュルツ国務長官は,双方のチームに対し,われわれのノートテーカーの全ての発言記録を渡し,彼らに夜を徹してこれをまとめさせ,一致点と相違点を見つけさせるよう提案した。双方のチームは朝6時30分まで徹夜で作業した。昨(12日)朝,ゴルバチョフ書記長と自分及び両外相が再度集まり,双方のチームの報告を取り上げた。それは極めて有望なものであった。ソ連側はSD1計画の配備を10年間遅らせるよう求めていた。
われわれの原則と安全を守りつつ,彼らの関心を満足させるため,われわれは10年間に全ての戦略核兵器,爆撃機,ALCM,ICBM,SLBM及びこれらの運搬する兵器の削減を開始することを提案した。当初5年間でこれらの兵器は50%削減される。
次の5年間でわれわれは残りの全ての攻撃的弾道ミサイル(あらゆる射程のもの)を廃棄し続ける。この問われわれはSDIの研究,開発,及び試験を進める。右はすべてABM条約の規定を遵守して行われる。10年たった時点で全ての弾道ミサイルが廃棄されたところで,われわれは進歩した防御の展開へと進む。同時にソ連側にも同様のことが認められる。
ここにおいて議論が始まった。ゴルバチョフ書記長は10年間全体にわたってわれわれにSDIの開発をさせないようにする文言を欲した。実質上ゴルバチョフ書記長はSDIを殺そうとしていた。そして自分がこれに同意しなければ,核兵器廃絶に向けた全ての作業が水に流される,即ち,キャンセルされることとなっていた。
自分はゴルバチョフ書記長に対し,自分はSDIを取引で渡してしまうことはない旨米国民に約束してある旨述べた。私が自国民に対し,政府は核による破滅から国民を守らない等とどうして言うことが出来ようか,自分はレイキャヴィクに赴くに当たり,われわれの自由と将来という二つのものを除いては,全て交渉可能との決意であった。
自分は依然,何らかの方途が見い出されるものと楽観している。ドアは開けられたままであり,核の脅威の除去を開始する機会は手の届くところにある。
このようにわれわれはアイスランドで進展を得た。われわれはソ連に対し慎重で思慮のある,そして就中現実的なアプローチを追求すれば,引き続き進展を得るであろう。政権の初期からこれがわれわれの政策であった。われわれはソ連及びその究極的意図に幻想を抱いていない旨明らかにし,全体主義と民主主義の道徳的区別につき率直に述べてきた。(米外交の目的は戦争の防止のみならず自由の拡張である,としつつ,その故にアフガン・ニカラグァ・アンゴラ・カンボディア等で自由の戦士を支援して来た旨言及。)
そして最後にソ連を真剣な交渉に駆り立てた最たるもの,即ち,軍事力の再建,戦略抑止力の再編成及びSD1作業の開始に着手した。
同時にわれわれはソ連との緊張を緩和し,戦争を防止し,平和を維持する方途の探求という今一つの主要目標も追求した。この政策は今やその配当をもたらしている。アイスランドにおけるその徴候の一つが軍備管理問題における進展であった。長年において初めてソ米軍備削減交渉は軍備管理に止まらず,軍備削減へと正しい方向に向かう動きを見せている。
しかし,軍備削減における進展がどうあれ,われわれは,アイスランドでの交渉テーブルの上に,他の基本的問題も載せられていたことを想起する必要がある。
その一つの問題が人権である。ケネディ大統領がかつて述べた如く,「そして,結局・平和というのは・基本的に人権の問題ではあるまいか。」
自分は,米国が,この問題を宣伝目的に利用する考えのない旨明確にした。しかし,ソ連国内の人権状況の改善が米ソ二国間関係改善のために不可欠であることも,また改めて明確にした。自らの国民の信頼を裏切る政府は,外国との約束を守ると信じることはできないからである。そこで,ジュネーヴと同じく,レイキャヴィクにおいても,ゴルバチョフ書記長に対し,米国民は,かかる会談で表明される言葉には,これに続く行動に比してはるかに重きをおいていない旨述べた。人権問題ないしソ連の意図の判断に関する限り,われわれは皆ミズリー州出身者である(注:証拠なしには信じない,との意)。証拠を見せなければだめである。
アイスランドでとり上げた今一つの問題もまた,米ソ間の相違の核心である。それは,地域紛争の問題である。首脳会談は,ソ連の行動が,アフガン,中米,アフリカ,東南アジアの人々に何を意味するかを米国民に忘れさせることはできない。ソ連の政策が変更されるまで,われわれは,これら地域の自由と独立のため戦っている友人達が必要な支援を得られるようにする。
最後に,第4の項目があった。これは,二国間関係の人的接触の問題である。(ジュネーヴに続いてアイスランドでも文化交流等の分野で進展の兆候があったとしつつ,米国は,少数のエリートのみならず,数千人の一般市民の交流につながる計画にコミットしている旨言及。)
このように,アイスランドでは,広範な議題について進展を得たことが御理解いただけよう。われわれは,4項目の議題を確認し,合意り重要な新たな基礎を発見し,若干の従来の不一致分野に探りを入れた。
ここで,もう一度SDIに戻りたい。今や米国民の中には,何故ゴルバチョフ書記長の要求を受け入れないのか,何故この合意のためにSDIを放棄しないのか,とたずねる人もあることが自分には分っている。
その答えは,単純である。SDIは,米国にとって,ソ連がレイキャヴィクで行った約束を守るという保険の証書である。SDIは,ソ連が,過去にしばしばそうであったように・万一・厳粛な約束を守らない場合の米国の安全の保証である。SDIこそがソ連をジュネーヴ及びアイスランドの軍備管理交渉に引き戻したものであり,SDIは,核兵器なき世界へのカギである。
ソ連は,このことを理解している。ソ連は自らのSDIに対し,われわれより,はるかに多大の資源・時間をつぎ込んできた。今日,世界で唯一の運用中のミサイル防御が,モスクワを取りまいている。
レイキャヴィクでゴルバチョフ書記長が要求したことは・ソ連が既に違反している発効後14年のABM条約の新版に米国が同意することであった。私は,彼に対し,米国では,そのような取り引きは行わない旨伝えた。
米国民は,次の重要な問題につき考えるべきである。
米国の防衛が,一体如何にソ連乃至他のだれかにとり脅威となるのであろう。何故,ソ連は,米国が永久にソ連のロケット攻撃に脆弱であり続けることをかたくなに求めるのか。現在,全ての自由主義諸国は,事故によるものであれ,意図的なものであれ,ソ連のミサイルに対しては,全く無防備である。
従って,自分は,また如何なる大統領であろうとも,ゴルバチョフ書記長とのアイスランドでの会談または,将来の如何なる会談でも必然的に飛躍的な進展または,社会的な条約の署名に結びつくということを約束することはできない。
われわれは,レイキャヴィク会談に臨んだ際の原則を放棄することはしない。われわれは,米国に悪しき合意を持ち帰るよりは,無合意を選ぶ。
この関連で,米国民が,更に米ソ首脳会談が行われるかどうかに関心を有していることを承知している。ゴルバチョフ書記長よりは,昨年ジュネーヴでわれわれが合意したように米国を訪れる考えであるか否かについては,何の示唆もなかった。私は,ここで,われわれの招待は今でも生きており,再度会合することは有用であると引き続き考えていることをくり返し明らかにしたい。しかし,訪米の決定は,ソ連が行わねばならない決定である。
しかし,現在の見通しが如何なるものであれ,私は,最終的には,首脳会談において進展が得られる見通し,並びに平和及び自由の見通しにつき依然希望を抱いている。現在のサミットは,過去のものとは非常に異なっている。これは,世界が変わってきたからであり,世界は,アメリカ国民が過去5年半懸命に努力し犠牲を払ったことにより変わってきた。国民のエネルギーは,経済力を復元し,更に拡大した。国民の支持が軍事力を回復させた。国民の勇気と危機に際しての団結は,敵対者をひるませ,友人を力づけ,世界をふるい立たせた。西側民主主義国及びNATO同盟は再活性化され,世界中で多くの国が民主主義の考え方と自由市場の原則に目を向けている。米国民が,大事な時に立ち上がったことにより,自由主義は力を得,強さを回復し前進しつつある。
従って,今回10月の会談から私が得た印象を一つだけ述べるとしたら,それは,過去と異なり,われわれが強い立場(POSIT10NOFSTRENGTH)より対処しているということであり,そのことにより,われわれは,より画期的な進展へ向けて,ソ連と共に敏速に動くことをほぼ手中にしているのである。
われわれの考え方は,(交渉の)テーブルの上に並べてある。それは無くなるものではない。われわれは,今回終了した段階を次の開始点にしていく用意がある。われわれの交渉担当者は,ジュネーヴに戻り,われわれは,ソ連の準備ができたところで,いつでも,どこでも前進させる用意がある。従って,希望を抱く十分な理由がある。
私は,この証左をゴルバチョフ書記長との会談において達成した進展の中に見た。また,私は,その証左を,昨日アイスランドを出発する際にケフラヴィックの米海軍施設の若い男女と話した時に見た。彼等は,アメリカの最良のものを代表しており,彼等と一緒に時間を過ごしたことを誇りに感じ,彼等の払っている犠牲及び国に対する献身に感謝した。彼等はわれわれ自身の自由だけでなく,米国の力と決意が無かったらより恐ろしい世界に住んでいたであろう人々の自由を守ることにコミットしている。
ジョン・クゥインシー・アダムズはかつて「自由と独立の基準が明らかにされる時にはいつでもそこにアメリカの心,祝福及び祈りを見ることができる」と述べた。彼は米国の国としての使命をうまく表現した。われわれは永続的平和と人類の自由という,人類最古の夢を実現する使命を帯びている。
もう一人の大統領ハリー・トルーマンは今世紀にわれわれは二つの歴史上最も悲惨な戦争を目撃したことに言及した後,r現在,人類にとり最も必要なことは平和と調和の中に共存することを学ぶことである」と述べている。
正しくこの理想を求めて,私は昨年ジニネーヴに赴き,先週アイスランドに行ってきた。またこの理想を求める故に,私は国民が私に与えてくれた全ゆる支持に今感謝したい。そして私はわれわれが自由が最高の価値を与えられ,平和が支配する世界へ向けての歩みを続けるにあたり,再度国民の支援と祈りを求めたい。
(ロ) ゴルバチョフ書記長演説(要旨)
(86年10月14日,モスクワ)
1. 今,政治局会議において,今次レイキャヴィク会合の結果を審議したばかりである。この大きな政治的出来事に関しわが党指導部がいかなる判断を下したかに関する報道が明日行われよう。会合が終了した今,その結果は国際世論注視の的である。われわれは会合において,軍拡の停止,核軍縮という世界政治の主要問題を極めて重要視するよう努力し,実際そのようになった。
本件におけるわれわれの根気強さの動機は一体何なのか。国外からは,その理由はわれわれの国内的諸困難である,ということをしばしば聞くことができる。西側の計算の中には,ソ連は最終的には軍拡に経済的に耐えることができず,さらにもう一押しし,力の立場を強化することさえずればよろしい,という訳である。ついでに言えば会合の後の米国大統領演説の中にはこのような響きがあった。かかる計画は砂上に築かれたもの(の如く根拠のないもの)であるばかりか危険である。というのは破滅的な政治諸決定へと導かれるかも知れないからである。われわれ自身の諸問題をわれわれは他人よりも良く知っている。問題はわれわれのところにあるが,われわれはそれらを公然と審議し解決を図っている。団結,人民の政治的積極性,ダイナミズムにより今日のソ連は強いのだということを言わなければならない。自分を守ることはわれわれはいつでも出来る。ソ連には,もし必要であるならば,あらゆる挑戦に耐えられるだけのものがあるのである。このことをソ連の人々は解っているのであり,世界はこれを知るべきである。しかし,力のゲームをわれわれは欲してはいない。
核の深淵から抜け出す実際的諸方策が必要であり,国際関係のラディカルな健全化のためソ・米の共同の努力,全国際社会の努力が必要であることをわれわれは確信している。この目的のためわれわれは,本件会合につきレーガン大統領の合意を得る前に,大きな予備作業を行った。
2. (第1回会談)
(1) レーガン大統領との第1回会合は土曜日10時30分から通訳のみの同席で開始された。
私は大統領に対し,主要問題に関しわれわれの具体的諸提案を聞くよう依頼した。これらは,それが採用されたなら核のない時代という人類にとって新しいエポックの始まりを意味するものであった。私がここで述べていることの意味は,既にSALT4,SALT-2その他の条約にあったような核軍拡の宣言というようなことではなく,比較的短期間に核兵器の廃絶が問題になっている,ということである。
(2) (戦略兵器)
第1の提案は戦略攻撃兵器に係わるものであった。私は最初の5年間にそれらを50%削減する用意がある旨述べた。その際,陸,海,空の戦略兵器いずれもが半減される。合意を容易にするため,われわれは大幅な譲歩を行い,従来の,ソ連領到達可能な米の中距離ミサイル及びFBSを含めるとする要求を取り下げた。また,われわれの重ICBMに関する米側の懸念をも考慮する用意があった。われわれは戦略兵器に関する提案を,本年1月15日の提案で述べられた如く,その全廃というコンテクストの中で検討した。
(3) (INF)
第2の提案はINFに関するものであった。われわれは欧州における米ソのINF廃絶を提案した。この際従来と異なり,英,仏核不算入を認めるという大きな譲歩を行った。われわれはまず欧州を核の脅威から解放し,その上で核兵器全廃へと進むことが必要と考えた。
われわれは飛距離1,000km以下のSRINFを凍結し,またそれらの将来について交渉に入る用意がある旨宣言した。また我が国のアジア地域にあるINFミサイルに関しては一この問題はレーガン大統領の「グローバル・オプション」に常に含まれていたものだがわれわれはやはり早急に交渉に入ることを提案した。
(4) (ABM条約の強化)
第3の問題は,我が方のパッケージ提案の有機的構成物となるものであるが,ABM条約と核実験停止に関するものである。もしわれわれが短期間のうちに核兵器の大幅な削減・廃絶が開始される全く新たな段階に入るとすれば,あらゆる不測の事態に備えておく必要がある。これは・これまで我が国の防衛の中核を成して来た兵器のことを指す。故に軍縮の過程では,均衡を崩し,軍事優位を保つため新兵器を開発するようなあらゆる可能性を除去する必要がある。
われわれは無期限のABM条約を厳密に遵守することを誓い,更に同条約体制強化のために,米ソ双方とも最低10年間は条約から離脱する権利を行使せず,その間に戦略兵器を全廃することを米側に提案した。大統領が宇宙兵器に固執することによって自ら作り出している困難を考慮して,われわれはその領域での作業の中止は要求しなかった。しかし,これはABM条約の全条項の安全な遵守,即ち研究は実験室の領域を出ない・ということを念頭においている。これは米ソ双方にとって同様に課せられた制約である。
(5) (検証)
会談の席上われわれは,断固としてかつ明確に,検証の問題を取り上げた。もし両国が核軍縮に着手するなら,ソ連は同問題に関する立場をより厳しいものとするであろう。検証は現実的,包括的かつ確信的でなければならない。また合意の遵守に完全な確信を与え,現地での検証をも含む必要がある。
(6) 大統領の最初の反応は必ずしも否定的なものではなかった。彼は,われわれの提案は希望を与えるものであるとまで言った。しかしここで米側同席者は狼狽の色を見せ,直ちにわれわれの提案への疑問・反対を述べ始めた。ジュネーヴ以来既に何度も耳にした内容一戦略核兵器の種々の上限,欧州ミサイルに関する「暫定提案」,SDIへのソ連の参加,ABM条約に代わる新条約の締結等一が持ち出された。私は驚きを表明した。我が方が欧州INFゼロ・オプション,アジアINFの交渉開始を提案しているのに,今度は米側がこれまでの立場を捨てるとは理解出来ない。また,ABM条約に関し,われわれはこの根本的に重要な合意の維持,強化を提案しているのに,米側が戦略バランスを保っているこのメカニズムを破壊し,SALT-2からの脱退に続いてABMに関する新条約を提案しているのも理解出来ない。SDRこついてもわれわれは検討した。もし米側が3段階のABMシステムを開発するというなら,われわれはこれに対抗措置をとるであろう。しかし,われわれの懸念は別のところにある。SDIは兵器を新たな空間に移すことを意味し,戦略状況を不安定化・悪化させる。もしそれが米側の意図なら,そうはつきり言うべきである。しかし彼らが本当に自国民の堅固な安全保障を得たいと望んでいるならば,その立場は根拠を欠くものである。
(7) 私は大統領に直言した。われわれは新たに大がかりな提案をしているのに,米側は既に聞きあきた,何物をも生み出さない言辞をくり返しているだけではないか,と。われわれの提案をもう一度注意深く検討し,一つ一つ項別ごとに返答してほしい,と。その上で,既にモスクワで用意されていた可能な訓示の草案の英訳を手交した。これらは,もし原則的に合意されれば,3つの条約草案を作成するために両国外相及び他の関係機関に送付されたであろうし,そして,私の米国訪問中にそれらに署名することも出来たであろう。
3. (第2回会談)
(1) 午後,われわれは再び会談した。レーガン大統領はその立場を述べたが,これは最初の1行からナフタリンのにおいのするものであった。何ら端緒となるような新しい思考も新鮮なアプローチも入っていなかった。米側がレイキャヴィクに手ぶらで来たことが明らかとなった。彼はただ自分のバスケットに木の実を入れるために手ぶらで来たという印象であっ々レーガン大統領には原則的問題を真剣に解決する用意,核・宇宙兵器の交渉に実際に弾みを与えるべく前進する用意がなかった。
(2) (戦略兵器)
我が方の提案が相手方の利益を考慮していることを確信し,われわれは会談で転機を得ようとする努力で退かないことを決めた。多くの問題の討議の後,戦略兵器に関し光が現われた。これをとらえ・われわれは妥協を求めて再度大きな譲歩をした。米ソ双方にあるICBM,SLBM,戦略爆撃機の戦略攻撃兵器の3本柱につき各々を50%削減することを提案した。ごうすれば,あらゆる種類の条約や細かな計算の必要がなくなるのだ。長い討議の後,われわれはこの問題で相互理解を得ることに成功した。
(3) (INF)
次にINFについて討議がなされた。米側は暫定提案に固執したが,われわれは断固これに反対した。欧州は核兵器から解放されるに値する。大統領は自身の「ゼロ・オプション」に反対するのは困難であった。それでもわれわれは米側がアジアの同盟国に対する特別の配慮という名目で合意を壊す意図であると感知した。ここでは米側から多くの無意味なことが語られた。われわれがこの問題でも更に一歩前に進んだとき初めて次の定式の合意が成立した。欧州ではミサイルの廃絶,ソ連東部(NAVOSTOKE)及び米本土に100個ずつの中距離ミサイル装薬(BOEZARYAD)というものである。重要なことは欧州大陸を核ミサイルより解放することに成功したことである。かくしてINF問題でも合意が成立した。核軍縮のこの方面でも重要な突破口がなされた。
(4) しかし,まだABMと核爆発の禁止の問題が残った。翌日までの夜の間中,双方の専門家グループが働いた。彼らは2回の大統領との会談で語られたことを綿密に分析し,夜間の討議の成果を自分と大統領に報告した。戦略攻撃兵器と中距離ミサイルに関し,協定の作成に着手する可能性が現われたとの結果が得られた。
4.(1) この状況でABM条約が重要な意義を帯びることになった。これまで何とか軍拡競争を抑制することを可能としてきたものを破壊してよいのか。もし双方が戦略兵器及びINFを削減するのであれば,双方はだれも安定と均衡を掘り崩す新たな手段を現在作らないという確信を持たねばならない。それ故,10年の期間は,米は,7年といい,ソ連は10年といったのだが,その期間中は核兵器が廃絶されるべきであり・双方がABM条約から離脱する権利を行使すべきでなく,研究と実験を実験室内に限るべきである。これを10年間と定めることが論理的であるように思われる。10年というのは偶然のものではない。最初の5年間で戦略兵器の50%が削減され,次の5年間で残りの50%が削減される。それで10年というのである。
(2) (核実験禁止)
この関連で,自分は,核実験の最終的な永久的な停止についての大規模な交渉を双方の代表者間で開始することを提案した。このような合意の準備の過程で核実験についての特別の問題を解決することが可能となるであろう。
(3) 回答として,われわれは再びジュネーヴにおいて既によく知られており,レーガン大統領の演説に再々公表されている以下のレーガン大統領の議論を聞いた。すなわちそれはSDIは防衛システムであり,もしわれわれが核兵器を廃止するなら,われわれは核兵器を手に入れることのできる狂人から自分を守ることができるだろうかということについてであり,米側はSDIについての作業の結果につき,われわれと共有する準備があるとしたが,自分はこの考えは真剣なものと受けとめられない旨述べた。昨日,SDRこついての自らの立場を正当化しようと試みつつレーガン大統領は,この計画は米国また同盟国に対しソ連のミサイル攻撃が不可能となるために必要である旨を表明した。ここでは,核を手にした狂人については言及がなく,再び「ソ連の脅威」が持ち出された。しかし,それは全くのトリックである。われわれはソ連と米国の戦略的な核兵器だけではなく,全ての核兵器の廃止を提案している。どこから,ソ連のミサイルから米国及び彼の友人の自由を確保する必要が生じたのか,もし核兵器がなければ何故それから身を守る必要があるのか,星間戦争に係るその企みの全ては特別の軍国主義的な性格によるものであり,ソ連に対する軍事的な優位をねらったものである。
5.(1) 戦略兵器及びINFミサイルに関する合意は達成されたけれども,上記2つの結果,既に全て最終的に解決されたと判断するのは時期尚早である。更にまる1日予定され,ほとんど8時間絶え間ない緊迫した議論があり,議論は何回も既に合意された問題に戻っていた。
(2) こうした議論において大統領は,イデオロギー上の問題を取り上げることを試み,社会主義的な平和とは何か,そこでは何か生じるのかにつき全く情報提供がなく理解できない旨を示唆した。
(3) 自分は軍備競争の廃止の問題におけるイデオロギー上の差異を調整する試みを拒否した。再びわれわれの提案の3つのパッケージについて協議を催促され,そのパッケージなしに完全な合意に達することが不可能となった。私はこの重要な協定の体制の確立及び核実験の停止についての協定の厳格な遵守の必要につき考えている。
6.(1) 一旦,核兵器の削減に合意したからには戦略的安定を揺るがせたり,合意を回避したりするようなことは断じて行わない,という状況を創り出す必要がある。それ故,ABM条約を無期限に維持するとの点につき確信を持つ必要がある。ここでのキーポイントは,ABM条約を宇宙への進出を許可することなく,実験室の枠に止めるとすることにより右体制を強化することである。軍備削減問題を解決しつつ,双方の,更に全世界の安全を保障するとの確信を得るため,ABM条約から離脱する権利を10年間行使しないことが必要である。しかしながら,米側は,明らかに違ったように考えていた。米は・自己の利己的目的で大規模な宇宙兵器システムを創設するため,ABM条約を弱体化させ,これを見直すことを事実上欲している。これに賛同することは,我が方から言えば全く無責任なことである。
(2) 核実験について言えば,何故米側が同問題の交渉を真剣に行いたがらないかは全く明瞭である。彼らは無期限にでも実験を行い,同問題の解決を何十年にもわたり延期したいのであろう。私は率直に言った。自分には,米の立場の誠実さにつき疑いが生じている。米側の立場にはソ側に損失をもたらすような何かがあるのではないか。もしも米側が核兵器の改善を続けるならば,どうして核廃絶に合意することができようか。そして,やはり,主な障害はSDIである,との印象が残る。この障害を除けば,核実験禁止についても合意をなし得よう。
(3) 討論を継続することが時間の浪費であることが明白となった段階で,私は,われわれが提起したパッケージ提案を想起させ,たとえ,核の大幅削減の可能性につき共通の立場を作り上げ得たとしても,ABM条約及び核実験問題につき合意を達成し得ないならば,われわれがここで作り上げようとしたものは崩壊するとみなすよう求めた。大統領と国務長官は,われわれの堅固さに強い反応を示した。しかし,これ以外に問題の立て方はなかった。われわれは,実に大規模な,明らかな譲歩を提案した。しかしながら,米側からは,これに見合うほんのわずかな回答さえもなかった。暗礁が作られた。われわれは,どういう形で会談を終了すべきかにつき考え始めた。それでもやはり,われわれは,相手方を建設的な話し合いへ引き出さんとの努力を続けた。
7. (第4回会談)
われわれは,昼食後,積極的結果を得るための基礎として以下のようなテキストを提示した。即ち今後10年間ABM条約から離脱する権利を行使せず,この間右条約の全ての条項を厳格に遵守し,実験室で行われる研究及び実験を除き宇宙におけるABM防衛の全ての宇宙的要素の実験を禁じ,さらにこの間最初の5年間(1991年まで)において双方の戦略兵器を50%削減し,次の5年間(1996年まで)に残りの50%を削減する,従って10年後には全ての戦略核が廃絶されるというものである。右テキストにコメントしつつ自分は重要な付言を行った。その要するところは,10年間の期間終了後,つまり核兵器がなくなったとき,われわれがそれ以降どうするかにつき相互に受け入れ可能な決定を特別交渉において行うことを提案するということである。しかしながらこの時もまた合意することはできなかった。自分はABM条約の違反に自ら手を貸すことに合意することはできない旨強く表明した。これはわれわれにとり原則の問題であり,われわれの国家的安全保障の問題なのである。
8. われわれは自己に可能な全てのことをやったが米側は今の現実に合わない従来の立場に止まっていた。なぜ米側がレイキャヴィクであのような(ソ連の提案を受け入れないという)態度をとったかと言えば,それには主観的な理由も客観的な理由もあるが,主要な理由は米国の指導部が米国内の産軍複合体・核その他の軍拡競争をビジネスにかえた多くの集団に依存しているということである。
9.(1) 自分の考えでは,米はその情勢判断において2つの誤りをおかしている。1つは,戦術的な誤りであり,それはソ連の方が軍縮への合意をより必要としているが故に,早晩米の戦略的独裁を復興させる試みに従い,ソ連の軍備のみを制限及び削減するだろうというものである。これはとんでもない思い違いであり,一刻も早くこの考えを捨てるならば米自身,ソ米関係また米の他国との国際関係もそれだけよくなるであろう。
(2) 2つめは戦略的誤りであり,それは米が最新かつ最長の宇宙軍拡を通じてソ連を経済的に疲弊させようと欲していることである。彼らは社会・生活レベルの向上という分野を含めわれわれに種々の困難さを作り出し,国民の間に指導部及びその政策に対する不満を呼びおこそうと欲している。更に彼らはソ連の社会主義諸国その他諸国との経済関係における可能性を制限し,そのことによりソ連の国際的影響力を制限しようと考えている。また米は高いレベルの軍備を維持し,また世界における危険な緊張を人為的に維持して,同盟諸国に対する好ましいコントロールを保証し,開発途上国国民の搾取を続けたいと願っている。しかしながらこれらは何ら積極的なものをもたらさず,これは米自身にとってもそうである。
10. 本日自分はレーガン大統領によるレイキャヴィク会合に関する声明を読んだが,彼は話し合われた全ての提案を自分の手柄にしている。思うに,これらの提案はそのような狡猜さに走らせるほど米国民及び全世界の国民にとり魅力的であるということである。
11.(1) 会合までの準備作業,レイキャヴィクにおける作業は無益に終わったのではない。われわれはこの関連で多くのことを検討し,見直した。この会合は,平和と軍縮を目指す闘争の今後の展開へ導く道をきよめた。われわれは,政策のかかる最も重要な側面において新たなアプローチをとることを妨げてきた,閉塞,ささいな点及びステレオタイプから解放された。
(2) われわれはどこに立っているか承知しているし,より明瞭に自己の可能性を見ている。レイキャヴィクヘの準備は,最終的な成功の可能性を増大する新たな大胆なプラットフォームの形成を助けた。かかるプラットフォームはソ連人民のみならず,その他人民の利益に応えるものであるのであり,信頼に値するのである。これが世界の多くの国で,様々な政治・社会階層に理解をもって迎えられることを確信する。
(3) 政権担当者を含めた世界中の多くの者がレイキャヴィクから真剣な結論を導くことができるし,そうしなければならない。核のない世界,包括的安全保障へ向けたかかる根強い努力が今までのところなぜ然るべき成果を生まないのか考える必要がある。
(4) レーガン大統領が,われわれの分析過程,ソ連の意図,ソ連の立場の可能性等につきより正確かつより十分に理解することを希望したい。というのも,レーガン大統領は直接,国際情勢の安定化と健全化を目指すわれわれの建設的な措置につき説明を受けたのであるから。
12.(1) 米指導部に時間が必要であるのは明らかである。われわれは現実主義者であり,10年間の長期にわたり解決を見出だせなかった問題が一気に解決されようとは思っていない。われわれは米側とのつき合いには少なからぬ経験を有している。内政の雰囲気はいかに変わりやすいものであり,平和に反対する者がいかに有力であるか知っている。あきらめ,ドア閉め,感情のおもむくまま行動するための十分すぎるほどの根拠はあるが,われわれは核時代においては正常な国家関係を築くには新たな努力が必要であることを真に確信しているのでそうはしない。他の選択肢はない。
(2) レイキャヴィク後,悪名高いSDIが平和への妨害物の象徴であり,軍国主義的計画,核の脅威を除去することを希望しないことの集約的な表現たることが万民により明らかとなった。それ以外にはSDIは理解できない。これはレイキャヴィク会合の最も重要な教訓である。
13.(1) 今次会合は大きな出来事であった。再評価が行われ,質的に異なった状況が作り出された。これまで行動してきたように行動することは最早できない。会合は有益であった。もしも,米国が遂に現実的立場へ移行し,空中楼閣を拒否するのであれば,本件会合は,改善に向けたあり得べき前進を用意した。本件会合は,選択されたコースの正当性,核時代の新たな政治的思考の不可欠性及び建設性を確信させるものであった。
(2) (国内経済の建て直しに言及し,経済の諸指数の改善に言及の後)これ(経済実績の改善)は,人民からの党の政策に対する最も有力な支持である。新たな条件の下での人民の労働は,ソ連の経済潜在力をより急速に拡大することを可能にし,これにより防衛力を強化する。