(12) 第13回主要国首脳会議(ヴェチア・サミット)関連文書
(イ) ヴェネチア経済宣言(仮訳)
(87年6月10日)
序
1. 我々主要先進7ヶ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は,過去のサミットで我々がコミットした政策を実行するに当たって我々諸国が個別に及び全体として達成した進展を回顧するため,1987年6月8日から10日までヴェネチアで会合した。我々は,我々諸国と世界経済の成長,安定,雇用及び繁栄のため,これらの政策を引き続き追及する決意である。
2. 我々は,1年前に会合して以来,多くの積極的な進展を回顧することが出来る。成長は,より低い率にはなったが,5年目に入っている。平均インフレ率は低下した。金利は一般に低下した。主要通貨間の関係には変化が生じており,これは今後経常収支ポジションをより持続可能なパターンとすることに貢献するであろう。また,この変化は,為替レートを経済の基礎的諸条件に概ね合致した範囲内のものとした。名目ベースでは不均衡はいまだ大きすぎるが,数量ベースでは貿易フローの調整は進みつつある。
マクロ経済政策及び為替レート
3. 東京会合以来,サミット参加国は,国内政策の一貫性と国際的な整合性を確保するために,経済政策協調を強化してきた。これは,より力強くかつ持続的な世界経済の成長,対外不均衡の縮小及びより安定した為替レートの関係を達成するために不可欠である。ルーブル及びワシントンで到達した政策合意を前提とすれば,為替レートが更に相当変動することは,成長を高め調整を促進する努力に対して逆効果となろう。我々は,これらの合意を迅速かつ完全に実施するとのコミットメントを再確認する。
4. 我々は,今やそれにもかかわらず我々のいくつかの国に残っている問題,即ち,依然として大幅な対外不均衡,引き続き高い失業,大幅な公的部門の赤字及び高い水準の実質金利といった問題を克服する必要がある。更に,貿易制限の継続と保護主義圧力の増大,多くの一次産品市場の継続的な低迷及び開発途上国が成長し,必要な市場を開拓し,また対外債務を返済する見通しの低下といった問題がある。
5. 対外不均衡の是正は,長期かつ困難な過程となろう。為替レートの変化のみでは成長を持続しながら対外不均衡を是正するという問題は解決しない。黒字国は,価格の安定を維持しながら内需を拡大し対外黒字を削減するための政策を策定する。赤字国は,着実かつ低インフレの成長を促進する政策をとりつつ,財政不均衡及び対外不均衡を減少させる。
6. 我々は,他の先進国も経済活動を世界的に持続するための努力に参加することを要請する。更に我々は,急速に成長し,大幅な対外黒字を有する新興工業国・地域に対しても,貿易障壁を削減し,その通貨が基礎的諸条件をより十分反映するような政策を追求することにより,開放された世界貿易体制を維持するための一層大きな責任を担うことを要請する。
7. サミット参加国間では,財政の規律は引き続き重要な中期的目標であり,多くの国にとっては,現在の公的部門の不均衡の縮小が引き続き必要である。サミット参加国の中で財政再建がかなり進展し,かつ大幅な対外黒字を有する国は,中期的な財政目標の枠組みの中で,国内成長を強化するための財政・金融政策をとることを引き続きコミットする。また,金融政策は,インフレなき成長を支え,為替レートの安定を促進すべきである。多くの国における低インフレの見通しに鑑み,市場主導による一層の金利の低下は有益であろう。
構造政策
8. また,我々は,特に雇用の創出のための効果的な構造政策の必要性につき合意する。このため,我々は,
― DOWN産業調整を早めるために競争を促進する。
― DOWN農産物需給の大幅な不均衡を縮小する。
― DOWN雇用創出的投資を促進する。
― DOWN労働市場の機能を改善する。
― DOWN国内市場の一層の開放を推進する。
― DOWN資本市場の不完全性及び制限の除去並びに国際金融市場の機能の改善を促進する。
多角的監視及び政策協調
9. 我々は,昨年東京で要請された多角的監視及び経済政策協調の強化のための取決めを策定し,かつ実施する上で,7ヶ国蔵相会議により達成された進展を暖かく歓迎する。経済指標の活用を含む協調の新たな過程は,より一貫性がありかつ相互に整合性のとれた政策を達成するための我々諸国の努力を強化するであろう。
10. 首脳は,為替レートに関するものを含め,ルーブル及びワシントンの7ヶ国蔵相会議において採択された重要な政策のコミットメント及び約束を再確認する。首脳は,もし将来において世界経済の成長が不十分な場合には,共通の目的を達成するための追加的行動が必要となることにつき合意する。よって,首脳は,必要な場合には,この目的のために適切な追加的政策措置を策定すること及び為替レートの安定を促進するために引き続き緊密に協力することを蔵相に要請する。
11. 経済政策協調は進行中であり,時間の経過とともに進展し,より効果的なものとなろう。首脳は,国際通貨基金(IMF)の協力を得つつ,為替レートを含む経済指標を用いてその経済の監視を特に以下により強化するとの7ヶ国蔵相会議が達した了解を支持する。
―各国経済について中期的な目標及び見通しを展開し,またサミット諸国について個々にも全体としても相互に整合性のとれた目標及び見通しを展開するとの各国のコミットメント。
― DOWN経済の趨勢を吟味,評価し,当初意図した方向から是正措置の検討を必要とするような相当な乖離があるか否かを決定するためにパフォーマンス指標を活用すること。
12. 首脳は,これらの措置は持続的かつインフレなき世界経済の成長と通貨の一層の安定の促進に向けての重要なステップであると考える。
首脳は,7ヶ国の蔵相及び中央銀行総裁に対し,以下を要請する。
― DOWN合意された政策措置とコミットメントの迅速かつ効果的な実施を達成するため,協調努力を強化すること。
― DOWNIMF専務理事と緊密に協力して経済の動向を監視すること。
― DOWN協調の過程をより効果的なものとするため,適当な場合には,一層の改善を検討すること。
貿易
13. 我々は,保護主義圧力の高まりを重大な憂慮をもって留意する。ウルグァイ・ラウンドは,多角的貿易体制を維持・強化し,全ての国の利益のために貿易の一層の自由化を達成する上で重要な役割を果たしうる。成長,貿易及び開発の相互関係を認識しつつ,ガットの原則及びルールに基づいた多角的体制を改善し,より広い範囲の世界貿易を,合意された効果的かつ実施可能な多角的規律の下におくことが不可欠である。保護主義的行動は,逆効果であり,為替レートが一層不安定化する危険を増大させ,開発と債務の問題を悪化させるであろう。
14. 我々は,ウルグァイ・ラウンドに関する閣僚宣言において再確認されたスタンドスティル及びロールバックの原則に従って適切な措置をとるとのコミットメントを全面的に支持する。サービス貿易,貿易関連投資措置及び知的所有権に関する原則とルールの多角的枠組みをガットにおいて確立することが重要である。このような多角的貿易体制の拡充は,成長を促進し,貿易,投資及び技術移転を促進するという点で開発途上国にとっても有益であろう。
15. ウルグァイ・ラウンドに関する閣僚宣言及びガットの原則に基づいて,我々は,全ての締約国に対し,相互の利益と全参加国の利益の増進を確保するため,包括的に,誠実に,かつ迅速に交渉することを要請する。カナダ,日本・米国及び欧州共同体は,今後数ヶ月間に広範な実質的提案をジュネーヴにおいて提出する。ウルグァイ・ラウンドの進展は注意深い政治的監視の下におかれよう。この関連で,交渉の開始,実施及び交渉結果の実施は一個の事業全体の一部として取り扱われるべきである。しかしながら,初期の段階で達成された合意は,交渉の正式な終結に先立って,合意により暫定的あるいは確定的なものとして実施することができ,また交渉の全体的バランスを評価するにあたって考慮に入れられるべきである。
16. 強力で,信頼性があり,かつ効果的なガットは,全ての貿易国の福利にとって不可欠であり,また,二国間での保護主義圧力の高まりに対する最良の防波堤である。ガットの機能は,開放された多角的体制を維持する役割及び紛争を処理する能力を高めることにより,また,ガットとIMF及び世界銀行との間のより良好な協調を確保することにより改善されるべきである。我々は,交渉期間中に,適当な場合には,閣僚レベルの貿易交渉委員会を開催することが有益であると考える。
農業
17. 東京会合において,我々は,農業問題の深刻さを認識した。我々は,世界需要に照らして,農業生産構造を調整する必要があることにつき合意し,この分野におけるOECDの作業を全面的に支持するとの決意を表明した。その際,我々は皆,農村社会の福利にとっての農業の重要性を認識した。過去1年,我々は,東京において示されたアプローチを積極的に追求し,プンタデルエステで採択された閣僚宣言におけるウルグァイ・ラウンド農業交渉の目的に関する合意について満足するものである。
18. 我々は,1987年5月13日のOECD閣僚理事会のコミュニケで示された農業に関する重要な合意,とりわけ,農業政策の協調的改革を均衡のとれた,かつ,柔軟な方法で実施することが求められている広範かつ緊急な問題に関する記述,主要農産物の需給不均衡の拡大が先進国及び開発途上国の双方に対して与える深刻な影響に関する評価,問題及びそれらの衡平で効果的かつ持続的な解決に対する責任の共有についての認識,並びに改革の原則及び必要な行動についての合意に対するコミァトメントを再確認する。長期的な目標は,食糧の安定供給の確保,環境保全及び雇用全般等の社会的及びその他の要請に配慮しつつ,農業助成の漸進的かつ協調的な削減及び他のあらゆる適切な手段を通じて,市場のシグナルが農業生産の方向づけに影響を与えうるようにすることである。
19. 我々は,国内において,また,ウルグアイ・ラウンドの包括的な交渉を通じて,必要とされる農業政策の調整を協調して達成するとのコミットメントを強調する。他の分野と同様この分野においても,我々は,閣僚宣言のマンデートに従って行われる交渉のための包括的な提案を今後数ヶ月間に提案する。我々は,次回の会合において,達成された進展及び残されている課題について検討を行う意向である。
20. その間ウルグァイ・ラウンド全体の迅速な進展の見通しを高めるようなより信頼性のある環境を醸成するため,また交渉から期待される長期的な成果に至る第一歩として,我々は,余剰農産物の生産をさらに刺激し,保護を増大させ,あるいは世界市場を不安定化させることにより,交渉環境を悪化させ,そしてより一般的に貿易関係を損なうような行動を差し控えることにつき合意し,また他の諸国に対しこれに合意することを要請する。
開発途上国及び債務
21. 我々は,多様な状況とニーズが存在する開発途上国における安定的な経済発展の促進を特に重視する。巨額の債務を抱えた多くの開発途上国の問題は,経済的及び政治的懸念を引き起こしており,民主主義体制の国における政治的安定にとって脅威となりうる。我々は,これら諸国の多くが,経済成長と安定を達成するために行っている勇気ある努力を賞賛する。
22. 我々は,政府開発援助が引き続き重要であることを強調し,我々の中のいくつかの国におけるこの点に関する努力の強化を歓迎する。我々は,政府開発援助の将来のレベルに関して国際機関により既に設定された目標(0― DOWN7%)を想起し,また,全般的な資金フローが開発にとり重要であることに留意する。我々は,借入れ国の政策改革を促進し,その構造調整計画に融資している地域開発銀行を含む国際金融機関の活動を強く支持する。特に我々は,
― DOWN助言と融資を通じたIMFの中心的役割を支持し,特に構造調整のため融資に係るIMFと世界銀行とのより緊密な協力を奨励する。
― DOWN国際開発協会(IDA)の第八次増資による貢献を満足の意を持って留意する。
― DOWN質の高い融資に対する需要の増大,債務戦略におげる世界銀行の役割の拡大及び世界銀行の資金的安定性を維持する必要性によって正当化される場合には,世界銀行の一般増資を支持する。
― DOWN政府開発援助に対する我々諸国の様々な貢献に鑑み,日本から開発途上国への資金供与を増加させるとの新たな措置を打ち出した日本政府の最近のイニシアティヴを歓迎する。
23. 主要な中所得債務国については,我々は,現在の成長志向的なケース・バイ・ケースの戦略を引き続き支持する。債務国の成長見通しを強化するためには,3つの要素,即ち,債務国自身による包括的なマクロ経済改革と構造改革の採用,国際金融機関,特に世界銀行による融資の拡大,及び債務国の改革を支援するための民間銀行による適切な融資が必要である。我々は,持続的成長及び貿易の拡大を支援することにより,我々の役割を果たす。債務に関する多くの合意は,成長をある程度回復し,不均衡を是正し,かつ,いくつかの国の信用力の大幅な回復を可能にした。しかし,いくつかの国は依然として,国内貯蓄の効率的活用,逃避資本の還流,海外直接投資の増加,及び特に金融市場の改革を促進するための適切な構造調整及び成長政策を欠いている。
24. 民間銀行による時宜を得た,かつ,効果的な融資の供与も同様に必要である。この観点から・我々は・民間銀行と債務国が,債務国に対して継続的な支援を供与するための代替的な交渉手続き及び金融手法の「メニュー」を開発するために行っている努力を支援する。
25. 特に債務国によって,債務を創出しない資本の移動,特に直接投資を促進する措置がとられるべきである。この関連で,多数国間投資保証機関(MIGA)が,できるだけ早期にその目的に沿い業務を開始すべきである。包括的調整計画を実施している国に対して,輸出信用供与機関が速やかにその業務を再開ないし増大させる柔軟性を維持することが重要である。
26. 我々は,価格が引き続き低迷している一次産品の輸出に全面的に,あるいは大部分依存している開発途上国の問題を認識する。一次産品市場の機能は,例えばより良い情報の提供やより高い透明性を通じて改善されることが重要である。国際金融機関の助力をうけて,これら諸国の製品の加工度向上の努力を支援し,市場アクセスの自由化を通じてこれら諸国の機会を拡大し,さらには構造変化のための国際環境を強化するといった政策を通じて,これら諸国の経済の一層の多様化が奨励されるべきである。
27. 我々は,主としてサハラ以南アフリカのいくつかの最貧国の問題が,他に類を見ないほど困難なものであり,特別の取り扱いが必要であると考える。これら諸国は,極度の貧困,自らの開発のために投資を行うには極めて限られた資源,管理しがたい債務負担,一,二の一次産品に対する高い依存度,さらにその債務の大部分が先進国政府あるいは国際金融機関に対するものであること,といった諸点に特徴付けられている。調整努力を行っている最貧国に対しては・既存の債務に対し,より低い金利の適用可能性が考慮されるべきであり,また,債務返済負担を緩和するため,特にパリ・クラブにおいて,より長期の償還期間や据置期間について合意がなされるべきである。我々は,この分野において我々の何カ国かが行った種々の提案,及び1988年1月1日から3年間にわたって構造調整ファシリティーの資金を大幅に拡充するとのIMF専務理事の行った提案を歓迎する。我々は,本年中にこれら提案に関する討議の結論が出されることを要請する。
28. 我々は,UNCTAD皿が,世界経済における主要問題と政策課題について共通の認識に到達するために開発途上国との討議の機会を提供することに留意する。
環境
29. 良好な環境を維持し,それを将来の世代に伝えるとの我々のこれまでのコミットメントに関し,我々は,環境専門家による環境測定技術及び慣行の改善及び調和に関する報告を歓迎する。よって,我々は,国連環境プログラム(UNEP)に対して,この重要な分野における継続的進展が確保されるよう,関心を有する他の国際機関及び諸国の助力を得つつ・国際標準化機構(ISO)と国際学術連合(ICS u)と協力して,情報交換及び討議のための場を設置するよう奨励する。環境専門家がその報告において明らかにした優先的環境問題に対して十分な注意が払われるべきである。
30. 我々は,成層圏オゾンの減少,気象変化,酸性雨,絶滅の危機に頻する種,有害物質,大気及び水汚染,熱帯林の破壊などの世界的規模の影響を持つ環境問題に対して効果的に取り組む努力を促進することについての我ん自身の責任を強調する。我々は,技術革新のインセンチィヴとしての,また清潔で費用効果が高く省資源的な技術の開発のインセンチィヴとしての厳格な環境基準や,低公害製品,低公害工場設備及びその他の環境保護技術の国際貿易の促進といった環境問題を更に検討していく考えである。
31. 我々は,東京会合以降,原子力エネルギーの管理における安全に関して,特に国際原子力機関(IAEA)における効果的な国際協力を強化する上で重要な進展があったことを歓迎する。
その他の問題
32. 我々は,国際協力を通じて生体機能の基礎研究を推進する目的で日本より提唱されたヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムのイニシアティヴを歓迎する。我々は,日本が行ったフィージビリティ・スタディのいくつかの討議に我々諸国の科学者が非公式に参加する機会を得たことに感謝している。我々は,このフィージビリティ・スタディが継続されることに留意し,その進展について今後とも報告を受けることを希望する。
33. 我々は,1987年1月京都で開催された,我々の社会における教育の将来の役割に関するハイレベル教育専門家会議によりなされた積極的貢献を歓迎する。
34. 我々は、生命科学の発展の倫理的影響に関する検討を継続する。我々は,1984年に日本,1985年にフランス,1986年にドイツ連邦共和国,1987年にカナダの各サミット参加国政府主催の下で開催された会議に引き続き,1988年4月にイタリアで次回の生命倫理に関する会議を主催するとのイタリア政府の申し出を歓迎する。
次回サミット
35. 我々は,明年再び会合することに合意し,カナダ首相のカナダにおける会合への招待を受諾した。
(ロ) エイズに関する議長声明(仮訳)
(87年6月10日)
7ヶ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は,保健問題に関してこれまでに示された懸念に基づき(ロンドン・サミットにおけるガンに関する議長の口頭声明及びボン・サミットにおける麻薬に関する議長の口頭声明),エイズが世界で潜在的に最も大きな保健問題の一つであることを確認する。エイズがこれ以上広まるのを防ぐため,国際協力及び共同キャンペーンにより国家的努力を強化しかつ一層効果的なものとすることが必要であり,また,とられる措置が人権に関する諸原則に沿ったものとなるよう確保しなければならない。この関連で,首脳は以下に合意する。
― DOWN国際協力は努力の重複によって改善されるものではない。既存の機関に対して十分な政治的支持を与え,かつ必要な財政的,人的及び管理的資源を提供することにより,これらの機関を強化することを優先すべきである。世界的レベルでエイズと闘うための国際的努力を結集するためには世界保健機構(WHO)が最適の場であり,全ての国はWHOと十分協力し,そのエイズ関連活動の特別プログラムを支援するよう奨励されるべきである。
― DOWNワクチンや治療法がない状況においては,エイズとの闘い及びその予防のための最善の望みは,エイズの深刻さ,エイズウイルスの伝染経路,及び感染又は伝染の回避のため個人がとりうる実際的な手段について一般国民を教育することを基本とする戦略にかかっている。国民教育キャンペーン及び国内政策に関する情報交換のために適切な機会が利用されるべきである。首脳は,エイズに関する国民教育についての閣僚レベルの国際会議をWHOと共催するとの英国政府の提案を歓迎する。
― DOWN予防,治療及び情報交換に関する基礎的及び臨床的研究のための協力が一層促進されるべきである(例えばECのプログラム)。首脳は,7ヶ国の研究者(例えば現在拡大されつつあるフランスと米国の研究者による共同プログラム等)及び世界中の研究者によるエイズの治療方法,エイズウイルスの構成要素に関する臨床試験及び有効なワクチンの開発のための共同行動を歓迎し,支持する。首脳は,エイズが提起する倫理的な問題に関する国際委員会の設置に向けたフランス大総領の提案を歓迎する。
(ハ) 東西関係に関する声明(仮訳)
87年6月9日
1. われわれ主要先進7カ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は,東西関係につき討議した。われわれは,共通の原則と目的及び平和の維持と強化に向けて共に献身していくことを再確認した。
2. われわれは,自由,民主主義及び人権尊重というわれわれに共通の諸価値が,われわれの社会の活力と繁栄の源泉であることを誇りをもって銘記する。われわれは,より自由で,より民主的な,そして,より人間的な世界を求めるとの誓いを新たにする。
3. われわれはいずれも,現存の同盟関係の枠内において,いかなる国の安全も脅かすことなく,自由を守り,侵略を抑止し,平和を維持するための強力で信頼できる防衛力を維持する決意である。われわれは,共通の利益にかかわるあらゆる問題につき引き続き緊密に協議を行っていく。われわれは,われわれ全てを導く諸原則から離脱することはない。
4. われわれが前回会合して以来,東西関係の進展のための新たな機会が開けた。われわれは,これらの動向に勇気づけられている。これらは,より自由で,より安全な世界を実現するとの決意の下に,われわれがそれぞれ追求してきた諸政策の正しさを確認するものである。
5. われわれは,ソ連の内外政策の最近の動向を,強い関心をもって見守っている。われわれは,それが東西諸国間の政治,経済及び安全保障上の関係の改善のため重要な意義を有するものになることを希望する。同時に,大きな相違が引き続き存在している。われわれはいずれも,ソ連の政策の全ての側面に対応するにあたって,依然,慎重な警戒を維持せねばならない。
6. われわれは,平和及びより低い軍備水準での安全保障の増大に向けたわれわれの決意を再確認する。われわれは,緊張を緩和させ,検証可能な軍備削減を達成するための包括的な努力を求める。われわれは,平和を維持するにあたり核抑止力が引き続き重要であることを再確認しつつ,軍備管理に関する対話が一層活発となり,核戦力の削減に向けてより好ましい展望が生まれつつあることに,満足の意をもって留意する。われわれは,均衡がとれ,実質的かつ検証可能な核兵器の削減に向けた米国の交渉努力を評価する。われわれは,兵力のより低い水準における通常戦力の安定の強化と化学兵器の全廃の達成に向けてのわれわれの決意を強調する。われわれは,これらの目標が積極的に追求され・具体的な合意の形となるべきであると信じる。われわれは,ソ連に対し前向きかつ建設的な姿勢で交渉するよう求める。これら諸問題の効果的な解決は,世界の真の永続的な安定にとって不可欠である。
7. われわれは,われわれの共通の関心事である諸問題につき,ソ連の言葉のみならず,ソ連の行動に対しても深い注意を払っていく。特に,
― DOWNわれわれは,東西社会間に信頼感を醸成するために不可欠な人権分野での顕著かつ永続的な進展を呼びかける。ヘルシンキ最終文書で合意し,又は約束し,それ以来確認されている諸原則及び誓約に合致するためには,なお多くのことが為されなければならない。
― DOWNわれわれは,地域紛争の早期かつ平和的な解決,特に,アフガニスタンの国民が自らの将来を自由に決定できるようソ連軍が迅速かつ全面的に撤退することを求める。
―われわれは,われわれの国民とソ連及び東欧の国民との間のより広範な接触,より自由な思想の交流及びより幅広い対話を奨励する。
8. 従って,われわれはいずれも,東西間の軍備競争をより低い軍備水準で安定化させること,地域紛争に対し安定的な政治解決を奨励すること,人権の永続的な改善を確保すること・及びより人間的な世界において政府間及び諸国民の間に接触と信頼を築くことを求める。東西諸国間の安定した建設的な関係のために永続的な基礎を構築するには,全分野にわたる進展が必要である。
(ニ) イラク・イラン戦争及びペルシャ湾の航行の自由に関する声明(仮訳)
(87年6月9日)
われわれは,イラク・イラン戦争の終結を促すため新たな協調した国際的努力が緊急に必要とされていることについて意見が一致している。われわれは,この戦争がイラク及びイラン双方の領土保全と独立を損なうことなく出来るかぎり早期に話合いによって終結することを希望する。両国は,この長期にわたる悲劇的な戦争により悲惨な苦しみを受けてきた。近隣諸国はこの紛争のあり得べき拡大に脅かされている。われわれは,再度,両当事者に対し戦争の即時終結につき交渉するよう呼び掛ける。われわれは,国連事務総長の仲介努力を強く支持するとともに,国連安全保障理事会によって公正,かつ,効果的な措置がとられることを求める。これらの目的を念頭において,われわれは,ペルシャ湾における航行の自由の原則はわれわれにとって,また他の諸国にとってもこの上もなく重要であり,かつ堅持されねばならないことを再確認した。ホルムズ海峡を経由する石油の自由な流れ及び他の通航は妨げられることなく続かねばならない。
われわれは,これらの重要な目標を効果的に追求するための方法につき引続き協議して行くことを誓う。
(ホ) テロリズムに関する声明(仮訳)
87年6月9日
われわれ主要民主主義諸国7カ国の元首及び首相並びに欧州共同体の代表は,ここヴェネチアに参集し,テロリズムの与える脅威に対するわれわれの国民の懸念を深く認識して,
ボン,ヴェネチア,オタワ,ロンドン及び東京サミットで発出されたテロリズムに関する諸声明に対するわれわれのコミットメントを再確認する。
航空機ハイジャック及び人質をとることを含むすべての形態のテロリズムを断固として非難し,テロリズムはその動機のいかんにかかわらず正当化されないとのわれわれの信念を繰り返す。
テロリスト及びその支援者に対しいかなる譲歩も行わないとの原則に対するわれわれ各自のコミットメントを確認する。
国際テロリズムの主唱又は支援に明白に関与しているすべての国家について,国際法の枠内において,かつ,自国の管轄権の範囲内で効果的な措置を引き続き適用する決意である。
われわれが前回1986年5月に東京で会合して以来テロリズムに対抗する国際協力の面でなされた前進,特にテロリズム対策に責任を有する9カ国の閣僚会合を5月にパリで開催したフランスとドイツのイニシアティヴを歓迎する。
国内措置並びにわれわれ相互の間及び,適当な場合には,他の諸国との間の国際協力を通じてテロリズムと闘うわれわれの決意を再確認し,したがって,志を同じくするすべての国に対しあらゆる適切な場における国際協力を強化し拡大するよう再度訴える。
旅行者の安全を向上する努力を継続する。われわれは,空港及び海運の保安の改善を歓迎し,この面における国際民間航空機関及び国際海事機関の作業を奨励する。われわれはいずれも,保安上の問題を惹起する航空会社の活動を注意深く監視し続ける。国家元首及び首相は,民間航空に影響を及ぼすすべての形態のテロリズムに対処する上で1978年のボン宣言をより有効なものとするため,この声明の附属書の諸措置をとることを決定した。
テロリストを裁判にかけるための法の支配を支持することを約束する。われわれはいずれも,関連する場において,国内法及び国際法の枠内で,テロリストの捜査,逮捕及び訴追についての協力を増大することを誓約する。特に,テロ行為を犯した者を国内法及び関連する国際協定に従って訴追し又は引き渡すとのこれらの国際協定により確立された原則を再確認する。
附属書
7カ国の元首及び首相は,国際テロリズムに関する東京声明において,民間航空に影響を及ぼすすべての形態のテロリズムに対処する上で1978年のボン宣言をより有効なものとすることに合意したことを想起する。このために,民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関するモントリオール条約に規定された犯罪を犯した者の引き渡し若しくは訴追を拒否する国又は当該航空機を返還しない国については,ボン宣言に述べられているとおり,これらの国への航空機の運行を停止させるため,7カ国の元首及び首相は,自国の政府が直ちに行動をとることを共同して決意した。
7カ国の政府は,同時に,ボン宣言に述べられているとおり,当該国からの航空機の自国への運行及び当該国の航空機のすべての国からの自国への運行を中止するために行動を開始する。
7カ国の元首及び首相は,また,上記条約又は犯人の引き渡し若しくは訴追に関するその他のすべての航空条約に将来関連の改正が行われた場合には,当該改正も対象となるようボン宣言の適用を時宜をみて拡大する意向である。
7カ国の元首及び首相は,他の政府に対してもこのコミットメントに参加するよう要請する。
(へ) 政治問題に関する議長総括(仮訳)
(87年6月10日)
ヴェネチア・サミットは,現下の主要な国際政治問題についての有益な意見交換のための機会となった。我々の討議は,昨日の東西関係,湾岸紛争及びテロリズムに関する声明発出に至ったことに見られる様に,建設的な協力の精神で行われ,我々の対応に有意義な一致があることを確認した。
東西関係においては,いくつかの地域問題について特別の注意が払われた。
アフガニスタン問題に関しては,アフガン国民が外部の軍事占領を逃れ,速やかに自らの将来を決定することができるよう,引き続き圧力をかけていく必要が改めて協調された。
カンボディアにおける外国軍隊の存在は東南アジアの平和と安寧にとり依然障害であることが留意された。
太平洋においては,新興独立島興国が困難な経済情勢に直面している。我々は,外部からの政治的干渉を完全に排するとの前提の下に,これら諸国の発展過程を支援していく必要性を強調した。
アジアにおいては,我々は,中国が進めている経済改革のための努力に特別の注意を払うべきであるとの点で意見の一致を見た。我々は,朝鮮半島情勢につきレヴューし,次期オリンピックが南北両朝鮮間のより開かれた対話の進展のために好ましい環境を醸成しうるとの確信を得た。フィリピンにおいては,現在の民主的政府は,我々の支援に値するような形で経済的,社会的改革を果敢に試みている。
アフリカは,漠大な潜在力を有している一方,極めて深刻な経済的,社会的,政治的諸問題を抱えている大陸である。我々は,南アフリカの情勢を特別の懸念を持って検討した。
我々は,アパルトヘイト制度が撤廃され民主的で人種差別のない新たな体制におき,かえられてのみ,現在の危機に対する平和で永続的な解決が見出されるとの点で合意した。従って,南ア社会の全ての構成員の代表者との真の対話を早急に開始することが必要であり,同時に,アパルトヘイトの犠牲者のための人道援助のイニシアティヴと,南部アフリカ開発調整会議(SADCC)加盟諸国による経済の発展と強化のための努力を支持することの重要性に留意した。
中近東において継続する危険な緊張と紛争並びにアラブ・イスラエル紛争の解決への具体的進展がないことに対し重大な懸念が表明された。公正でグローバルな永続的平和のための条件を創り出すため行動することの必要性が再確認された。
被占領地の状況についても懸念が表明された。
レバノン情勢は深刻な内部緊張とパレスチナ人キャンプの慢性的問題を抱えており,引き続き懸念の原因となっている。この点で我々は,国民和解に向け純粋な努力が傾けられるべき旨の希望を再確認した。
ラテンアメリカについては,民主的な政府を支持すること及び南米大陸全土において民主主義への回婦とその強化を奨励することを目的とする適切なイニシアティヴを推進する必要性が論議の中心であった。また,地域統合に向けての努力が成果のある,かつ,建設的な西側との対話をもたらす助けとなるものであり,従って,支持するに値するものであることについても意見の一致をみた。
中米における展開に関しては,グアテマラにおいて開かれる来るべきサミットが平和と安定に向けての道筋をつける上で積極的な役割りを果たしうるものであるよう希望が表明された。
最後に,国連諸機関の問題,特に,最近の財政上の諸困難につき議論を行い,これら問題を克服するための可能な方法につき検討した。