(11) 国連環境特別委員会東京会合宣言(仮訳)

(87年2月27日,東京)

東京宣言

「国連環境特別委員会」は,国連総会により独立の機関として1984年に設立され,自らに以下の任務を課した。

a)環境と開発に係る重要問題を再検討し,これに対処するための革新的,具体的かつ現実的な行動提言を行うこと。

b)環境と開発に係る国際協力を強化すると共に,現在の様式や慣行を脱し,必要とされる改革に向かって政策や社会の動向に影響を与えることのできる新たな協力の形態を検討し,提言すること。

c)個人,ボランティア組織,経済界,研究機関及び政府の理解を深め,より多くの実践活動への参加を求めること。

ここ東京においてその任務を終えるにあたり,委員一同は,豊かで,公正で,そして安全な将来を築き得る,という信念を変えていない。

しかしながら,その実現の可能性は,すべての国々が持続的開発を,国内政策と国際協力の最優先目標として,また評価基準として採用することにかかっている。持続的開発とは,簡潔に言えば将来の世代のニーズを損うことなく現在の世代のニーズを満たすような人類社会の進歩への取り組み方,と定義づけることができる。西暦2000年を超えて,21世紀へと成功のうちに移行するには,社会の諸目的が,このような大規模な変換を遂げなければならない。また,いくつかの戦略を一致して強力に推進する必要がある。

「国連環境特別委員会」は,世界のすべての国々に対し,互いに協調し合い,また個々の努力を通じて,持続的開発を各国機関の諸目標に組み入れるとともに,以下の原則を政策行動の指針として採択することを求める。

1. 成長の回復

貧困は環境悪化の主たる要因であり,開発途上国の多くの人々に影響を与えるだけではなく,先進工業国を含む諸国から成る共同体全体の持続的開発を脅かすものでもある。特に,途上国においては環境の資源基盤を増強しつつ,経済成長を促す必要がある。先進工業国は世界経済の活性化に寄与することが可能であり,要求されていることでもある。是非とも必要なことは,債務危機解決のため,国際的な緊急行動をとること,開発資金の流れを大幅に増加させること,低所得一次産品輸出国の外貨獲得高を安定化させることである。

2. 成長の質の変換

成長は回復されても,その成長とは今までと異なったものでなければならない。即ち,持続可能性,公平性,社会的正義,安全性などを社会的目標として基盤に据えたものである。安全で環境保全型のエネルギーパスは,このための不可欠な要素である。教育,コミュニケーション,国際協力などはすべてこれらの目標の達成に寄与するものである。開発計画者は国の財産を評価する際,在来の経済指標のみならず天然資源の状況にも十分な考慮を払うべきである。所得の分配を改善し,自然災害や技術的リスクを低減し,保健衛生の状況を改良し,文化遺産を保護することはすべて成長の質の向上に寄与するものである。

3. 資源基盤の保全と強化

持続を可能にするには,空気,水,森林,土壌などの環境資源を保全し,遺伝子の多様性を維持し,エネルギー,水,原料を効率的に使用することが必要である。天然資源の1人当たりの消費量を減らすために生産効率の改善を加速し,環境を汚染しない製品や技術への移行をはかる必要がある。すべての国々に対し環境規制を厳正に施行し,むだの少ない技術を奨励し,新しい製品,技術,廃棄物の環境影響を予測することにより,環境汚染を未然に防止することが要請されている。

4. 持続可能な人口水準の実現

人口政策の立案にとっては,他の経済社会開発計画一例えば教育,保健衛生,貧困者の生計基盤の拡大一などが整合性をもったものとならなければならない。家族計画対策を広くいきわたらせることもまた,社会開発の一形式であり,ひいては夫婦,特に女性の自決権を認めるものである。

5. 技術の方向転換とリスク管理

技術は危険を生み出す一方で,危険を管理する手段を提供する。途上国の技術革新能力は大幅に強化される必要がある。また,すべての国々において,技術開発の方向が,環境要因を十分配慮したものになるように変えていかなければならない。新技術の普及に先立ってその潜在的影響を評価するため,国内的及び国際的メカニズムの確立が必要である。同様の制度は,河川の水路変更や森林伐採などの自然生態系への大幅な介入についても必要となる。損害賠償責任が強化される必要がある。環境と開発の問題に関する政策決定の過程には市民参加の拡大と,適切な情報への自由なアクセスが促進されなければならない。

6. 政策決定における環境と経済の統合

環境と経済は,相互に補強し合うことができるし,またそうしなければならない。持続を可能にするには,政策決定の影響に対する責任を拡大する必要がある。政策決定者は,その決定が自国の環境資源基盤に与える影響について責任を負わなければならない。この場合,環境破壊の症状にではなく破壊の原因に焦点を合わせるべきである。環境破壊を予見し未然に防ぐためには,経済・通商,エネルギー農業,その他の側面と同時に政策の環境的側面を考慮しなければならない。環境的側面についてはこういつた国内的及び国際的諸機関が,他の検討事項と同じレベルで検討されなければならない。

7. 国際経済関係の改革

長期にわたる持続的成長を達成するには,より公平で,かつ環境上の緊急課題によりょく同調した通商,資本,技術の流れを生み出すような広範囲にわたる改革が必要である。経済及び通商基盤の多角化され自立性が強化されることを通じて,途上国が機会拡大をはかるためには,市場へのアクセス,技術移転,国際金融面における抜本的な改善が必要である。

8. 国際協力の強化

国際協力に環境問題の諸要素を導入することにより・問題の緊急性が浮彫りにされ,また,相互の利益を認識するものである。資源の劣化と貧困の相互作用の問題を放置すれば,それは国境を越えて,地球的規模の環境問題と化すからである。国際開発の全分野にわたって環境の監視,評価,研究開発,そして資源管理により高い優先度を与えなければならない。そのためには,すべての国々が強い決意をもって,国際機関の機能を十分発揮させ,通商,投資などの分野の国際的ルールを確立し,遵守するとともに,国益が対立し調整のため交渉を要するような多くの問題についても,建設的な対話を行っていく必要がある。また,それは世界の平和と安全にとって本質的な重要性とは何かを認識することを求めるものである。人類の進歩には多国間協力を新しい次元に展開することこそが不可欠である。

我々が今世紀に於て,バランスをもってこれらの原則に合致する確たる前進をすることができるならば,次の世紀には全ての人類にとって,より安全で,より豊かで,より公平で,そしてより希望に満ちた未来をもたらし得ることを委員会は確信するものである。

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