(8) 中曽根内閣総理大臣の中国訪問関連文書
(86年9月27日,ワシントン)
(イ) 日中青年交流センター定礎式における中曽根内閣総理大臣スピーチ
胡ヨウ邦総書記閣下,
御在席の友人の皆様,青年諸君,
本日,日中青年交流センターの定礎式にお招きいただき・ここに胡ヨウ邦総書記閣下をはじめ中国指導者の皆様,並びに中国の青年男女の皆様を前に御挨拶をする機会を得ましたことは,私にとって大きな喜びであります。
思えば2年前の春,私が貴国を訪問し,胡総書記閣下と日中友好協力関係についてお話し合いした際,私たちは期せずして,日中両国及び日中関係の将来は,両国の青年の肩にかかっているとの認識で一致いたしました。その席で,私が,両国の青年が共に学び,共に語らい,共に遊ぶことができるような交流の場をつくってはいかがかと申し上げましたところ,胡総書記閣下は,直ちに強く賛意を表されました。とれが,日中青年交流センターの出発点であります。この構想は,同じく私の訪中時に発足を見ました日中友好21世紀委員会の討議を経て,1984年秋に具体化の提言を得,本日ここに定礎の式を迎えるにいたりました。誠に感激に堪えません。
御在席の皆様,
青年!青年は人類進歩の原動力です。
青年は旧弊を打ち破り,社会を改革してきました。歴史をひもとけば,青年が一国の運命を変えたことすら稀ではありません。
我が国の明治維新は,多数の若者が,我が身を顧みず守旧派と戦い,我が国を封建国家から近代国家へと脱皮させた壮絶なドラマでした。貴国においても,列強の軛から祖国を解放し,偉大な統合を成就した中国革命のため,一身を擲った青年たちは数知れません。
朋友們 我也是青年!
私もまた,「青年の心」をもって,日中友好関係の促進と国際社会の平和と繁栄の維持という意義ある事業の成功のため,全力を傾ける決意であります。
御在席の皆様,
日中の青年交流は,一昨年の中国側御招待による3,000名の我が国青年の訪中,昨年の500名の中国青年の訪日招待により,量的にも質的にも大きな飛躍を遂げてまいりました。私は,この勢いを止めることなく,一層促進すべきであるとの観点から,従来の交流に加え,当面今後5年間をめどに,新たに毎年100名の中国青年を我が国にお招きする「日中青年の友情計画」を発足させたいと思っております。相手の国を自らの目で見,自らの足で歩いた若者達は,必ずや21世紀の日中友好推進の中核として活躍してくれるにちがいありません。
青年!それこそが我々の未来への希望であります。
御清聴有難うございました。
(ロ) 上記定礎式における胡総書記スピーチ(中国側翻訳)
青年友人の皆様
君たちが主催した中国青年交流センターの定礎式に中曽根首相と私という二人で合わせて139歳の年寄りが連名して参加を申し込んだのは,君たちに祝意を表し,両国青年が友情の増進のために,このような極めて有意義な活動方式を又創り出したこと,に対し祝意を表すためであります。
中曽根首相は私の招請によりおいでになったわけであります。私がわざわざ首相をお招きしましたのは・このセンターの設立が首相の御提案によるものであり・又その必要経費の多くは,首相が日本政府を代表して贈与されたものであったからです。本日,首相閣下は又公務御多忙の中,時間をさいて祝賀にお越しになりました。首相と日本政府並びに日本青年のこのような美しい友情に対し,重ねて感謝の意を申しあげたいと思います。
このような友情あふるる集いにおいて,私は思わず数日前日本のある有名な女流作家との会見を思い出しています。私たちは青年達が如何にして愛国主義を発揚すべきかという主題について話しあいました。
私は世界諸国の青年が自分の祖国を愛すべきであると主張したのです。どの青年も自分のすべてを祖国の運命と結びつけるべきであり,青年は祖国の繁栄と富強のためにすべてをささげるべきであり,いざ自分を生み育てた祖国が侵犯されれば,身を顧みず祖国を守るべきであります。
だが,それが愛国主義の最も完ぺきな基準といえるでしょうか。それではまだ不十分だと私は考えています。他国の人民と睦まじくつき合い,友好的に協力するという遠い見通しを持つ国際主義の精神とも結びつかなければなりません。
もし,中国の青年は自分の国が裕富になることばかり考え,私たちの現行の開放政策に消極的であり,日本及び世界諸国の青年との団結,友好及び互助互恵に熱心でなければ,十分に分別をわきまえた愛国青年とは言えないでしょう。
歴史において,狭あいな愛国主義しかわきまえず,その結果誤国主義に陥ってしまったものは稀ではありませ』中日両国の青年は歴史の経験と教訓の中から知恵を汲み取り,自分自身を愛国主義の情熱と国際主義の精神にも富んでいる気高い現代人に鍛えていくよう,私は望んでやみません。
われわれ両国の青年はここ数年の体験から,中日友好のもたらした大きな利益を身にしみて感じとったため,中日友好を擁護・発展させる自覚を一段と向上させました。これを目にして,私は大きな喜びを覚えております。そこで私は自信満々に次のことを申しあげます。
われわれ両国はいっそう友好的な未来を切り開くことができるでありましょう。
われわれ両国は友好協力を通じて・アジアひいては世界の平和のためにより大きな貢献をなすことができるでありましょう。
われわれ両国は平和と友好の中でよりょく国民と後世の子孫に幸福をもたらすことができるでありましょう。
有難うございました。
(ハ) 中国側歓迎晩餐会における中曽根内閣総理大臣スピーチ
胡ヨウ邦総書記閣下,
並びに御在席の友人の皆様,
本日,胡総書記閣下のお招きにより貴国を訪問して,日中青年交流センターの定礎式に出席する機会を得ましたことは,私の大きな喜びであります。また,今夜は私どものためにかくも盛大な晩餐会を御開催いただき,さらに只今は閣下から心暖まる歓迎のお言葉を賜りました。とこに厚く御礼申し上げます。
御在席の皆様,
私は,先程,胡総書記閣下と2年半ぶりに親しくお話しいたしました。私が閣下にお目にかかるのは今回が4度目でありますが,閣下の溢れるような親しみのこもった笑みは,いつも私の心をなごませるのであります。
しかし同時に,私は,胡総書記閣下が,この会談中,時にふと見せられる厳しい表情に,閣下が中国の最高指導者として,10億の民の喜怒哀楽を背負いつつ,たくましい社会と豊かな経済を建設するため,日夜全力を傾注しておられる御日常を垣間見る思いがいたしました。
近時,貴国においては,「中華振興」を標語とした近代化のための大改革が進められており,最近は精神文明の建設にも力が注がれていると聞いております。このような物心両面にわたる発展と飛躍は,貴国の洋々たる未来を保証するものであると思います。しかし,改革には困難が伴うのが常であり,さまざまの障害に遭うことは避けられません。我が国も,国際性豊かな国家への脱皮を目指し,行政,財政,税制,教育等各分野で改革を進め,更に現在は経済構造の調整に取り組んでおりますが,種々の困難を体験しています。しかし,両国が進めているこれらの改革は,形態こそ違え,共に21世紀に向けての新たな国造りの基礎を固めることを目指すものであり,我々は,共に勇断をもってこれに臨まなければなりません。
御在席の皆様,
翻って世界を見るに,私が前回貴国を訪れてから今日までの2年半に,国際情勢は激動し,アジア・太平洋地域においても,様々な変化が生じておりますし,また,今後更に変動を生むような情勢も展開されつつあります。しかしながら,私は,日中両国の指導者,友人の皆様に対し常々申し上げているとおり,雨が降ろうが風が吹こうが,日中両国が「平和友好,平等互恵,相互信頼,長期安定」の4原則を実践し,固く結合していることが,アジア・太平洋地域の安定の基礎であり,世界平和確立の基本であると思うのであります。
皆様御記憶の通り,昨年来,両国間にはいくつかの問題が生じました。それは,私にとって少なからぬ痛みの伴う試練でありました。しかし,容易ならざる問題であればあるほど,相互に主権と独立を守り,国民感情を尊重しつつ友好を増進し,安定を更に確実なものとするよう,長期的視野に立ってその解決に努め,そのために自らが飛沫を浴びることを厭わず,また自らの犠牲において敢えて困難に取り組むのが政治家の使命であります。私は,両国関係を律する基本的諸原則の着実な実施のため,全力をふるって努力いたしております。胡総書記閣下におかれても我が国との友好的かつ安定的な真の協力関係を維持するために,国内に様々な事情を抱えられながら,必要ある時は自ら身を乗り出して,懸命に努力されたことを,私はよく承知いたしております。
貴国の古き賢人は次のように述べております。
「君子は憂えず懼れず,内に省みて疚しからずんば,夫れ何をか憂え何をか懼れん」
(君子不憂不懼,内省不疚,夫何憂何懼-論語,顔淵)
御在席の皆様,
日中両国関係を更に揺るぎないものにするには,百の言葉よりも,両国民間の真の友情と信頼に基づく実行が必要であり,特に,両国の指導者間の決定的な友情と信頼に基づいた行動が不可欠であります。幸い胡総書記閣下と私との間には,強固な相互信頼に裏打ちされた揺るぎない友情が厳然と存在しております。私は,これを生涯大事にしていきたいと念じております。
次代の青年に日中将来の夢を託して日中青年交流センターが定礎されたこの記念すべき日に,我々は,両国が両国関係の基本原則を守り,お互いの友情と尊敬を大切にして,日中関係の輝ける将来のため,お互いに力のかぎり尽力することを改めて誓い合いたいと思います。
それでは最後に,御主人の杯をお借りし,
中華人民共和国の一層の繁栄のために,
日中友好協力関係の発展のために,
胡ヨウ邦総書記閣下の御健康のために,
御在席の皆様の御健康のために,
乾杯致したいと思います。
乾杯!
(ニ) 上記歓迎晩餐会における胡総書記スピーチ(中国側翻訳)
尊敬する中曽根康弘内閣総理大臣閣下,
尊敬する日本の貴賓の皆様,
友人の皆様,同志の皆様
この度,首相閣下が私の招きに応じられ,中日青年交流センターの定礎式出席のため,わが国にお越しになり,本日午後,私たちは中日友好事業の後継者を養成する大度のために最初の土をかけたのであります。そして,いま私たちは又一堂に会し,首相閣下並びに日本の貴賓の方々を歓迎する中国人民の気持を表し,私及び在席のすべての中国の同僚はみな大きな喜びを覚えています。
首相閣下と知り合ってから,私たちの間ではすでに何回にもわたって,友好的な会見を重ね,ただいま,私たちは又極めてなごやかな雰囲気の中で,共に関心を寄せている諸問題について,隔意なく意見を交換しました。私たちはみな双方の間にすでにきずきあげられた真摯な友情を非常に大切にし,且又これをわれわれ二つの民族,両国人民の友好往来の縮図と見なしており,われわれ両国間の友好関係とともに,この友情を絶えず発展させていきたいと念願するものであります。
近年来の両国関係を回顧すれば,われわれ両国の指導者によって共に確立された「平和友好,平等互恵,相互信頼,長期安定」という4原則はすでに人心にいっそう深く入り込んでおり,中日両国の友好協力に尽力されている両国の朝野各界のたゆまない努力は,より実り豊かな成果を収めつつあり,中日友好21世紀委員会の双方委員の方々も次の世紀ひいてはより長期にわたる両国の友好を切り開くために多くの有益なお仕事をなされてきました。実践によって十分に立証されたように,今日の中日善隣友好関係がわれわれ両国に重要な利益をもたらし,しかも,アジアひいては世界の平和の擁護のために積極的な役割を果たしています。人々は,社会体制とイデオロギーの差異をのりこえ,中日友好事業を断固として変わることなく新しい世紀に推し進めていくことは歴史がわれわれの世代に賦与した崇高な使命であるということをますますはっきり認識するようになりました。
両国の友好関係の発展は,首相閣下の貴重なご貢献とかけ離れることはできません。長い間,閣下はずっと中日友好に確固たる信念を抱かれ,そのために大きな情熱と心血をそそがれ,とりわけ両国関係にかかわる一部の重要な問題に対し,高度の責任感と政治家の風格で,適時に両国の友好大局にプラスになる賢明なご決断を下されました。これに対し私たちは,大いに賞賛するものであります。ここで重ねて申しあげたいのですが,かつて中日友好事業のために尽力された貴国の朝野各界の方々はみな中国人民の忘れることのない友人であり,中日友好を志ざすそれらの方々の真心を込めた友情は,日本人民に対する中国人民の友情とともに,われわれの後世の子子孫孫の心に永遠にきざまれることでありましょう。
友人の皆様,同志の皆様
来年は両国人民が同慶すべき中日国交正常化15周年にあたりますが,過去を回顧し,未来を展望する際,私は両国関係の未来に自信に満ちています。中日往来の歴史的移り変わりはすでに私たちに色々な教訓,利益及び啓発をあたえ,国交正常化以後の友好協力は又私たちのために,極めて貴重な経験を積み重ねましたが,それは即ち,いかなる状況の下でも,私たち双方は誠意を持って相接し,互いに信頼しあうべきであり,中日共同声明及び中日平和友好条約を厳守すべきであり,得難い友好的な局面を大切にし,生じた問題を適時に善処すべきであります。このようにすれば,私たちは絶えず両国関係の健全な発展を推進することができ,両国及び両国人民のためにより大きな貢献をなすことができます。
それでは,乾杯の提案をしたいと思います。
日本国の御繁栄と人民の御多幸のために,
中日善隣友好協力の長期にわたる安定した発展のために,
中曽根康弘内閣総理大臣閣下の御健康のために,
中江要介大使及び日本の貴賓の方々並び御在席の友人の皆様,同志の皆様の御健康のために,
乾杯。