(5) ウルグァイ・ラウンドに関する閣僚宣言(仮訳)
(86年9月20日)
閣僚は,プンタデルエステにおける締約国団特別会議の機会に会合し,多角的貿易交渉(ウルグァイ・ラウンド)を開始することを決定した。この目的のため,閣僚は次の宣言を採択した。多角的貿易交渉は本宣言第1部及び第2部において示された諸国に対して開放される。多角的貿易交渉を実施するために1つの貿易交渉委員会が設立される。貿易交渉委員会は,1986年10月31日以前に第1回目の会合を開催する。貿易交渉委員会は,適当な場合には,閣僚レベルで会合する。多角的貿易交渉は,4年以内に終結する。
第1部 物の貿易に関する交渉
閣僚レベル締約国団会議は,
保護主義を防遇し,巻き返し,貿易歪曲措置を除去することを決意し,
又,ガットの基本原則を維持し,その目的を更に増進させることを決意し,
又,より開放的,効果的かつ永続的な多角的貿易体制を構築することを決意し,
そのような行動が経済成長と開発を促進することを確信し,
金融・通貨の継続的不安定が世界経済に与える悪影響及び多数の開発途上締約国の債務問題に留意し,又,貿易,通貨,金融及び開発の関連を考慮しつつ,
関税及び貿易に関する般協定の枠組内及びその主催の下で物の貿易に関する多角的貿易交渉を開始することを決定する。
A 目的
交渉は次のことを目指すべきである。
(i) すべての諸国,就中,開発途上締約国の利益となるように世界貿易の一層の自由化及び拡大を実現すること。右には関税,数量制限及びその他の非関税措置及び障壁の軽減,撤廃による市場アクセスの改善が含まれる。
(ii) ガットの役割を強化し,ガットの原則及び規則に基づく多角的貿易体制を改善し,又,より広範囲の世界貿易を合意された,効果的かつ実施可能な多角的規律の下に置くこと。
(iii) 変化する国際経済環境へのガット体制の対応を強化すること。右は,就中,所要の構造調整を促進すること,ガットと関連国際機関との関係を強化すること,並びに高度技術製品の貿易の重要性の増大を含む貿易形態及び見通しの変化,商品市場の窮状及び貿易環境改善の重要性,就中,累積債務国がその債務上の義務を満たす能力を提供することの重要性,並びに通貨,金融,及び貿易の相互関連分野における補完的かつ効果的行動の必要性を考慮することにより行われる。
(iv) 成長と開発に影響を与える貿易政策と他の経済政策との相互関係を強化するための国内及び国際レベルでの並行した協力的行動を促進すること,及び,国際通貨体制の機能並びに開発途上国への金融及び実物投資資産の流れを改善するための持続的,効果的かつ確固たる努力に対して寄与すること。
B 交渉の一般原則
(i) 交渉は,すべての参加国に対する相互の利益及びより大きな利益を確保するため・透明性のある方法により,かつ本宣言で合意された目的,約束及び一般協定の原則に従って行われる。
(ii) 交渉の開始,実施及び結果の実施は一個の事業全体の一部分として取り扱われる。然しながら,交渉の早い段階で達成された合意は,交渉の正式な終結を待たずに,合意により暫定的或いは確定的に実施することができる。早期に合意がなされたとしても,右は交渉の全体的なバランスを評価するにあたって勘案されなければならない。
(iii) 異なった交渉セクターに亘る不当な要求を回避するため,幅広い交渉分野及び対象項目の中でバランスのとれた譲許が追求されるべきである。
(iv) 締約国団は,一般協定の第4部及び他の関連条項,並びに1979年11月28日の「異なるかつ一層有利な待遇並びに相互主義及び開発途上国のより十分な参加に関する締約国団の決定」に具現された開発途上国に対する異なるかつ一層有利な待遇の原則が交渉に適用されることに合意する。スタンドスティルとロールバックの実施にあたっては,開発途上締約国の貿易に対する阻害効果が回避されるよう特に配慮する。
(v) 先進国は,貿易交渉において行った関税その他の開発途上国の貿易に対する障害の軽減又は撤廃に関する約束について相互主義を期待しない。即ち,先進国は,開発途上国が貿易交渉においてそれぞれの開発上,資金上及び貿易上の必要に合致しない寄与を行うことを期待しない。従って,先進締約国は,開発途上締約国が自国の開発上,資金上及び貿易上の必要に合致しない譲許を行うことを求めてはならず,又,開発途上締約国は,そのような譲許を行うことを要求されない。
(vi) 開発途上締約国は,一般協定の規定及び手続きの下で寄与もしぐは交渉された譲許を行う能力又は相互に合意した措置をとる能力が・自国の経済の漸進的な発展及び貿易事情の改善に伴い向上することを期待し,又,その結果,一般協定に基づく権利及び義務の枠組みに更に十分に参加することを期待する。
(vii) 後発開発途上国に特有な事情及び問題並びにこれら諸国の貿易機会の拡大を促進するような積極的措置を勧奨する必要につき特別の配慮が払われなければならない。又,1982年の閣僚宣言の後発開発途上国に関する関連条項の迅速な実施に対しても適切な考慮が払われなければならない。
C スタンドスティル及びロールバック
各参加国は,以下の約束を直ちに開始し,交渉の正式な終結まで適用することに合意する。
スタンドスティル
(i) 一般協定或いはガットの枠内又は主催により交渉された協定の規定と斉合性のないいかなる貿易制限的ないし歪曲的措置もとらないこと。
(ii) ガット上の権利の正当な行使にあたっては,一般協定及び上記(i)で言及された協定に規定されているような,特定の事態を改善するのに必要な限度を越えて貿易制限的ないし歪曲的措置をとらないこと。
(iii) 自国の交渉上の地位を改善するような形でのいかなる貿易措置もとらないこと。
ロールバック
(i) 一般協定或いはガットの枠内又は主催により交渉された協定の規定と斉合性のない全ての貿易制限的ないし歪曲的措置を,強化された規則及び規律を含め交渉の目的に従って達成された多国間合意,約束及び了解を考慮しつつ,合意された期限内に,遅くとも交渉の正式終結日までに,廃止するか斉合性を確保せしめる。
(ii) この約束は,影響を受ける全ての参加国を含む関係参加国間の協議により各参加国間の衡平性を保ちつつ,漸進的に実施される。この約束は,いずれの参加国からその貿易上の利益に直接影響を与える措置につき表明された懸念を考慮する。
(iii) これらの措置の撤廃に対しては何等のガット上の譲許も要求されない。
スタンドスティル及びロールバックの監視
各参加国は・スタンドスティル及びロールバックに関するこれらの約束が遵守されることを確保するため,その実施が多角的監視の下に置かれることにつき合意する。貿易交渉委員会は,定期的見直し及び評価を含め,監視を実施する適切な機構を決定する。何れの参加国もこれらの約束の履行に関連すると信ずるいかなる行動及び不作為についても適切な監視機構の注意を喚起することができる。これらの通報はガット事務局に対して行われるものとし,ガット事務局は更に関連情報を提供することができる。
D 交渉対象項目
関税
交渉は,適切な方法により,高関税及びタリフエスカレーションの軽減又は撤廃を含め,関税を軽減し,あるいは適切な場合には撤廃するととを目指すべきである。全ての参加国間での関税譲許の範囲を拡大することに重点が置かれるべきである。
非関税措置
交渉は,ロールバックの約束の実施にあたってとられる如何なる行動にもかかわりなく,数量制限を含め非関税措置の軽減又は撤廃を目指すべきである。
熱帯産品
交渉は,加工品及び半加工品を含め,熱帯産品貿易のできる限りの自由化を目指し,又,同貿易に影響を与える関税及び全ての非関税措置を対象とすべきである。
締約国団は大多数の開発途上締約国にとっての熱帯産品貿易の重要性を認識し,本分野における交渉が,B(ii)に規定されているような交渉のタイミング及び結果の実施を含め,特別の配慮を受けることに合意する。
天然資源産品
交渉は,加工品及び半加工品を含め,天然資源貿易のできる限りの自由化の達成を目指すべきである。交渉は,タリフエスカレーションを含め,関税及び非関税措置の軽減又は撤廃を目指すべきである。
繊維及び衣類
繊維及び衣類の分野における交渉は,強化されたガットの規則及び規律に基づいて,本分野がガットへ究極的に統合されることを可能とならしめ,一層の貿易自由化という目的に貢献するような方法の確立を目指すべきである。
農業
締約国団は,世界の農業市場における不確実性,不均衡及び不安定性を削減するため,構造的余剰に関連するものを含め貿易制限及び貿易歪曲措置を是正し防止することにより,世界の農業貿易に一層の規律及び予見可能性をもたらすことが緊急に必要であることにつき合意する。
交渉は,交渉の一般原則を考慮しつつ,以下を通じて,農業貿易の一層の自由化を達成すること,並びに輸入アクセス及び輸出競争に影響を与える全ての措置を強化され,かつ,運用上より効果的なガット規則及び規律の下に置くことを目指すべきである。
(i) 特に輸入障壁の軽減を通じて,市場アクセスを改善すること。
(ii) 農業貿易に直接又は間接に影響を与える全ての直接及び間接の補助金並びにその他の措置の使用に対する規律を拡充することにより競争環境を改善すること。
右には,それらの否定的効果を段階的に軽減すること及びそれらの原因に対処することが含まれる。
(iii) 関連の国際的諸合意を勘案しつつ,動植物検疫上の規則及び障壁が農業貿易に与える悪影響を最小にすること。
上記の目的を達成するため,農業の全ての側面に第1義的な責任を有する交渉グループは,1982年のガット作業計画に従って作成され第40回ガット総会で採択された勧告を活用するとともに,農業貿易委員会の作業で提案された交渉方法を考慮するものとする。その際,交渉目的を達成しうる他の交渉方法を妨げないものとする。
ガット条文
参加国は,関心のある締約国により要請される現存のガット条文,規定及び規律の見直しを行うとともに,適切な場合には交渉を行う。
セーフガード
(i) セーフガードに関する包括的合意はガット体制の強化及び多角的貿易交渉の進展にとって特に重要である。
(ii) セーフガードに関する合意は,
―一般協定の基本原則に基づき,
―就中・透明性・対象範囲・重大な損害又はそのおそれの概念を含む客観的発動基準,時限性,漸減性及び構造調整,代償及び対抗措置,通報,協議,多角的監視及び紛争処理の諸要素を含み,
―一般協定の規律を明確化し強化するとともに全ての締約国に適用されるべきである。
MTN合意及び取決め
交渉は,適切な場合には,東京ラウンドで交渉された合意及び取決めを改善し,明確化しまた拡充することを目指すべきである。
補助金及び相殺措置
補助金及び相殺措置に関する交渉は,国際貿易に影響を与える全ての補助金及び相殺措置に関するガットの規律を改善することを目的として,第6条,第16条並びに補助金及び相殺措置に関するMTN合意の見直しに基づいて行われるべきである。これらの問題を扱うための交渉グループが設置される。
紛争処理
全ての締約国にとって有益となるように紛争の迅速かつ効果的な解決を確保するために,交渉は,より効果的かつ実施可能なガット規則及び規律がなしうる貢献を認識しつつ,紛争処理の規則及び手続きを改善し,強化することを目指すべきである。交渉は,採択された勧告の遵守を促進するための監督及び監視についての適切な取決めの作成を含むべきである。
不正商品貿易を含む知的所有権の貿易的側面
国際貿易に対する歪曲及び障害を削減するため,そして知的所有権の効果的かつ適切な保護の促進の必要性を考慮しつつ,また,知的所有権の保護のための措置及び手続き自体が正当な貿易に対する障壁とならないことを確保するため,交渉はガット規定を明確にし,また適切な場合には新しい規則及び規律を作成することを目指すべきである。
交渉は,ガットで既に着手されている作業を考慮しつつ,不正商品の国際貿易を扱う原則,規則及び規律の多角的枠組みを作成することを目指すべきである。
これらの交渉は,これらの事項を扱う世界知的所有権機関及びその他の機関で行われる補完的な活動を妨げるべきでない。
貿易関連投資措置
投資措置の貿易制限的及び歪曲的効果に関連するガット条文の運用の検討を踏まえ,交渉は,適切な場合には,貿易に対する悪影響を回避するために必要な規定を更に作成すべきである。
E ガット体制の機能
交渉は次の了解及び取決めを作成することを目指すべきである。
(i) 締約国の貿易政策及び慣行並びにそれが多角的貿易体制の機能に与える影響について定期的監視を行うことを可能とするようガットにおける監視を強化すること。
(ii) 特に閣僚の関与を含め,組織としてのガットの全般的有効性及び意志決定機能を改善すること。
(iii) 通貨及び金融に責任を有する他の国際機関との関係強化を通じて,世界的な経済政策決定における一層の一貫性を達成するようガットの貢献を増大させること。
F 参加
(a) 交渉は以下の国に対して開放される。
(1) すべての締約国。
(2) 仮加入国。
(3) 1987年4月30日以前にガット加入及び交渉参加意志を表明したガットの事実上の適用国。
(4) 既に通常理事会において締約国としてのメンバーシップの条件を交渉する意図を締約国団に対して通報している国。
(5) 交渉期間中に加入条件を交渉する意図の下に,1987年4月30日までにガット加入の手続きを開始した開発途上国。
(b) 然しながら・ガット規定の修正又は適用に関する交渉あるいは新しい規定の作成交渉への参加は締約国のみに開放される。
G 交渉の組織
本宣言第1部に含まれている交渉の計画を実施するために物に関する交渉グループが設立される。右交渉グループは,就中以下を行うものとする。
(i) 1986年12月19日以前に詳細な貿易交渉計画を作成し,実施に移すこと。
(ii) スタンドスティル及びロールバックに関する約束の監視のための適切な機構を指定すること。
(iii) 必要に応じ交渉グループを設置すること。幾つかの項目の相互連関性の故に,また上記B(iii)で言及されている交渉の一般原則を勘案した場合,1つの交渉項目の諸側面が1つ以上の交渉グループで討議される可能性があると認識される。このため各交渉グループは,必要に応じて,他のグループで扱われている関連の側面について考慮する。
(iv) 追加的な項目を交渉に含めることについて決定すること。
(v) 交渉グループの作業を調整し,交渉の進展を監督すること。原則として一時期に二以上の交渉グループが会合することがあってはならない。
(vi) 物に関する交渉グループは貿易交渉委員会に報告を行う。
(vii) 交渉中にそれまでの進展を見直すために,閣僚会合が開催される。その時点までの結果の見直しは,本宣言で示された目的及び約束を勘案しつつ実施される。
開発途上国に対する異なるかつ一層有利な待遇の効果的適用を確保するため,物に関する交渉グループは,開発途上締約国にとって関心のあるすべての項目を勘案しつつ,交渉の正式終結までに,本宣言で示された目的及び交渉の一般原則に照らして達成された結果の評価を行う。
第2部 サービス貿易に関する交渉
閣僚は,又,多角的貿易交渉の一環として,サービス貿易に関する交渉を開始することを決定した。
本分野における交渉は,透明性及び漸進的自由化の条件の下でのサービス貿易の拡大を目的とし,また,全ての貿易相手国の経済発展及び開発途上国の発展を促進する手段として,個別分野のありうべき規律の策定を含め,サービス貿易に関する原則及び規律についての多角的枠組みを確立することを目指すべきである。かかる枠組みは,サービスに適用される国内法令の政策目的を尊重し,関連の国際機関の作業を勘案すべきである。
ガットの手続き及び慣行はこれらの交渉に適用される。これらの事項に対処するためサービスに関する交渉グループが設立される。本宣言第2部における交渉への参加は・第1部と同じ国に対して開放される。ガット事務局による支援は,サービスに関する交渉グループにより決定される他の機関の技術的援助を得て行われる。
サービスに関する交渉グループは貿易交渉委員会に報告を行う。
第1部及び第2部における結果の実施
全ての分野における多角的貿易交渉の結果が確定した際,閣僚は,締約国団特別会議の機会に会合し,個別の結果の国際的実施に関し決定を行う。