第3節 邦人の保護
1. 事件・事故にあった邦人の保護・援助
86年度中に在外公館で取り扱った事件・事故件数は3,838件(4,229人)で,死傷者は416人を数えた(86年度から,従来在外公館限りで処理し本省に報告のなかった軽微な事件・事故も上記統計数字に加算したため,従来に比し件数が増加している)。また,被害数が圧倒的に多かったのは強盗・窃盗で件数2,278件,被害者数2,381人に昇った。その他の特徴としては,最近の麻薬犯罪に対する取締り強化の傾向を反映して,アジア地域を中心に,麻薬犯罪で逮捕され無期懲役を含む重刑を課せられた例が多いこと,ヨーロッパ地域を中心として,海外生活への不適応等に起因する精神疾患によるトラブルが増加していること,また,米国において,我が国暴力団の進出阻止のため,入国審査時に暴力団関係者の疑いがある者を前科を申告しないで米国査証を申請・取得したとして,査証虚偽申請の疑いで逮捕,国外退去処分に付される事案が増加していることなどがあげられる。
海外の邦人の援護は,在外公館と外務省そして留守宅とが緊密に連絡をとりつつ,旅券の緊急発給,病人の帰国援助,家族の付き添いのための渡航に対する助言その他を24時間体制で行っている。また,困窮した邦人の帰国のためには,帰国費用貸付け制度もある(86年度の貸付けは5件15名)。
海外で邦人が巻き込まれるトラブルの大半は,旅行者が,あらかじめ旅行先の事情を理解していれば防げるものである。外務省では,海外の治安状況等について情報提供に努めており,このようなトラブルを未然に防ぐという観点から87年3月には,各国の情報を集成した「海外安全ハンドブック」をまとめ公刊した。
事件・事故等援護関係統計(86年度第1~4四半期) 全世界
2. 緊急事態における邦人保護
(1) 戦争,内乱,大災害等各邦人の自助努力では対応できない「緊急事態」に際して,在外公館は,安否確認,安全対策の指導等の措置をとり邦人の安全確保に重要な役割を果たしている。
(2) 我が国の国際化に伴う海外進出邦人の増加の結果,かかる緊急事態に邦人がまき込まれるケースも増加しており,86年において緊急事態に際し,在外公館が何らかの措置を講じたケースは23件(別表)に上っている。
(3) 他方,緊急事態に対処する在外公館の機能を強化するため,外務省は87年度予算において緊急時邦人保護対策関係経費として総額約3億5千万円を計上した。これにより,在外公館と在留邦人間の緊急無線網の導入等緊急時通信連絡網の整備が図られることとなった。
(別表) 1986年における緊急事態に際する邦人保護事例
3. 誘拐
(1) 86年には世界各地で多くの誘拐事件が発生したが,邦人が巻き込まれたものでは11月15日,マニラ近郊で発生した三井物産マニラ支店長誘拐事件があった。同支店長は4ヵ月半(137日)後の87年3月31日夜無事救出されたが,本事件は,我が国大企業の現地責任者が対象となったことから,特に海外に進出している我が国企業関係者に大きな衝撃を与えたと同時に,海外における邦人の安全確保について教訓を残した事件であった。
(2) 政府は同支店長の無事救出のため,比当局の捜査と並行して,有力協力者のルートを通じての解決策を探求するなど邦人保護の観点から適切と考えられるあらゆる措置を講じた。また,政府は本件解決の遅延が日・比関係に及ぼす影響を考慮して総理特使(親書携行)を比に派遣し,アキノ大統領に対し本件の早期解決につき協力を要請した。他方,本件に深い関心を示していたアキノ大統領はじめ比関係当局は,事件発生から解決に至る間,終始最大限の努力を払った。