第7章 文化交流及ぴ報道・広報活動
第1節 我が国の文化交流の現状
1. 概況
(1) 諸外国との関係を長期的かつ安定した基盤の上に維持・発展させるためには,諸外国との文化交流の増進を図り,広く国民間の相互理解と友好親善を深めることが肝要である。特に,諸外国との間で摩擦が生じ,その背景として我が国に対する誤解や認識のずれが指摘される今日,文化交流の役割はますます重要となっている。
こうした観点から我が国は,諸外国との文化協定等の締結,文化交流に関する協議をはじめ,青少年交流事業,当省所管の特殊法人である国際交流基金を通じる事業,文化無償協力等を実施し,諸外国との文化交流増進に努めている。
(2) 外務省では文化交流の枠組として,文化協定等の締結とそれに基づく文化交流に関する協議を行っており,86年度においては,5月31日に日ソ文化協定に署名したほか,11か国との間で文化交流に関する協議を行った。文化交流事業としては,文部省,自治省及び地方自治体との協力の下に,大卒青年を欧米諸国等より語学指導等のために招致するJETプログラムを新たに開始したほか,青年招聰事業を大洋州島島嶼にも拡大するなど各種人物交流事業を拡充した。また,トルコ,エジプトにおいては大規模な日本週間が開催された。
国際交流基金は,各種人物交流,日本語普及,日本研究の振興,公演,展示事業等を行っており,86年度の事業費は約53億円であった。
なお,最近,民間や地方自治体の国際文化交流がますます活発になっており,政府としても,これらの活動との連携・協力を深めるべく努力している。
2. 諸外国との文化交流のための基盤強化
我が国は,86年5月31日安倍外務大臣の訪ソ時に署名した日ソ文化協定を含めて25か国と文化協定を,また東欧諸国等9か国と文化取極を締結している。
また,86年度においては,次のとおりの文化交流に関する協議を実施した。
第9回目・西独文化混合委員会(4月,ボン)
第3回目・フィンランド文化協議(4月,ヘルシンキ)
第12回目・仏文化混合委員会(6月,パリ)
第13回目・米文化教育交流会議(カルコン)(7月,東京)
第4回目・加文化協議(9月,ヴァンクーヴァー)
第1回目・アルゼンティン文化協議(9月,ブエノスアイレス)
第5回目・メキシコ文化混合委員会(9月,メキシコシティー)
第5回目・ベルギー文化混合委員会(10月,東京)
第2回目・オランダ文化協議(11月,ハーグ)
第11回目・英文化混合委員会(11月,エディンバラ)
第3回目・韓文化交流実務者間協議(12月,ソウル)
3. 国際交流基金による文化交流事業
国際交流基金の事業は,外務省の指導・監督の下,在外公館とも緊密に連絡をとりつつ実施されており,我が国の国際文化交流事業の中核として着実な成果を挙げている。
(1) 人物交流
(イ) 人物派遣
86年度は,開発途上国ヘスポーツ専門家98名を派遣したほか,文化人・学者210名を派遣した。
(ロ) 人物招聰
86年度には日本研究者98名,著名文化人89名,文化・教育・スポーツ分野の専門家77名を招聰した。また36か国から248名の中学・高校教員を招いて我が国の教育事情の視察を行った。
(2) 日本語普及
現在,世界各国の日本語教育機関における日本語学習者は約58万人といわれ,その数は増加の一途をたどっている。特にASEAN諸国,中国,韓国などにおける日本語学習者の増加は著しい。
日本語普及は基金の中心的事業であり,今後の日本語普及事業の強化,拡充のための「日本語国際センタ」(仮称)の建設に向けて着手した。
(3) 日本研究の振興
86年度に海外14か国の大学等に51名の日本研究学者・専門家を派遣する等,各種の助成を行った。
(4) 公演・展示事業
86年度には芸能団の公演2件を主催し,50件につき助成した。また,海外展示会として主催19件,助成11件を行い,さらに4件の国際展にも参加した。
主な公演事業としては・東南アジアに沖縄舞踊公演団,韓国に神戸室内合奏団を派遣し,鼓童(アジア),喜多流能楽団(北米),王女メディア(北米,欧州)の海外公演に助成した。
(5) 映画,テレビなどの視聴覚事業
アジア地域で黒沢映画特集,豪州でヤングシネマ特集等の巡回上映会を行ったほか,在外公館等との共催で,トルコ,エジプト,ソ連等における映画祭に協力した。
また,日本関係番組のTV放映を促進するため放映素材の提供に加え,「いのち」等のテレビ番組・文化映画の海外版作成を援助するなど幅広い事業を行った。
(6) 図書寄贈等
86年度に67か国,217の機関に対し,図書1万2,659冊及びマイクロ・フィルム,スライド等を寄贈するとともに49件の日本紹介図書の海外における出版を助成した。
4. 在外公館における文化事業
在外公館においては,現地の事情に合わせ自ら文化事業を企画・実施しているところ,86年度には,1億3,600万円の予算をもって,講演会,音楽会,日本語弁論大会等822件の事業が行われた。
5. 開発途上国との文化・教育協力
(1) 文化無償協力
開発途上国の文化・教育の振興に寄与するため,86年度においては,38件,総額14億7,700万円の文化無償協力を供与した。
(2) ASEAN青年奨学金制度
我が国はASEAN諸国の有為の青年に対する教育の機会増大に寄与するため,86年度も第7年度分として100万ドルを拠出した。
(3) アジア・太平洋地域外交官日本語研修計画
これら諸国の若手外交官に日本語及び日本事情を研修する機会を与えるため86年度は10か国から10名を受け入れた。
(4) 東南アジア文相機構(SEAMEO)への協力
我が国は,86年度には総額17万ドルの資金協力や専門家の派遣を行った。
(5) 遺跡保存のための協力
我が国はユネスコの遺跡保存のための国際的事業に対し,86年度にはパキスタンのモヘンジョダロ遺跡保護開発事業に10万ドルを拠出し,累計拠出額は90万ドルとなった。
(6) ASPAC文化社会センター
我が国は,86年度9万ドルの分担金を拠出し,同センターの各種事業に参加した。
6. その他の文化交流事業
(1) 教育交流
(イ) 留学生交流
外務省は,文部省と協力し,国費留学生の募集・選考を行っているのをはじめ,在外公館では私費留学生に対しても指導・助言を行っている。86年5月現在,我が国に約1万8,000名が留学している。
さらに86年度には第13回「東南アジア日本留学者の集い」を開催したほか,ASEAN各国における元日本留学者団体を中心に各種助成を行った。
(ロ) 英国人英語教師の招聰/語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)
86年度は英国より52名を招聰し,学校及び企業に配置した。78年度より実施してきた本事業は87年度より対象国及び招聰人数を拡大し(英国,米国,豪州,ニュージーランドより約850名を招聰),語学指導等を行う外国青年招致事業(JET:JAPAN EXCHANGE AND TEACHING)プログラムに発展することとなり,そのための募集・選考を86年度に開始した。
(ハ) 日米教育交流
我が国は日米交流計画(いわゆる「フルブライト計画」)に基づく共同事業の実施のため日米教育委員会の運営に参画している。
(2) 学術交流
外務省は,文部省,日本学術振興会の行っている欧米諸国,中国,東南アジア諸国等との学術交流事業に対し協力している。
(3) 青少年・スポーツ交流
外務省は,86年度において欧州,アジア,中南米,アフリカ及び大洋州島嶼国から470人の青年を招聰した。また,米国の「日米交流特別計画」に対し,約28万ドルを拠出し,これにより米国高校生100人が来日し,全国各地で約2か月間のホーム・ステイを行った。このほか,外務省は,総務庁,地方自治体,青少年団体等が行っている「青年の船」「東南アジア青年の船」等の青少年の国際交流事業に対し協力している。
スポーツ交流の分野では,86年度において「世界スポーツコーチ・サミット」を開催したほか,「対外スポーツ交流情報センター」を通ずる諸活動,国際交流サービス協会を通ずる「ザ・インターナショナル・スポーツ」の発行等を行っている。また,各種国際スポーツ大会への我が国代表団の派遣,各種スポーツ団体による選手派遣・受入れ,海外登山等について側面協力を行っている。