第7節 国連専門機関

1. 概況

(1) 国連専門機関は,労働・教育・科学・文化・農業・保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的・技術的観点から多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。

(2) 本来専門的・技術的観点から討議すべき専門機関の場において国際政治問題が持ち込まれる傾向は86年においても引き続きみられた。

(3) 我が国は,世界保健機関(WHO)を除くすべての専門機関で理事会メンバーを務める等,各機関の事業活動に積極的に貢献するとともに,財政面においても,分担金のほか多くの任意拠出金を拠出した。

2. 各国連専門機関における活動

(1) 国際労働機関(ILO:International Labour Organization)

(イ) 86年1月~87年3月の間には,第72回総会及び第232~第235回理事会が開催された。

第72回総会では「石綿の使用における安全に関する条約」(第162号)及び「石綿の使用における安全に関する勧告」(第172号)が採択された。

(ロ) 我が国は86年度,ILOに対して分担金約1,300万ドル(分担率10・23%)を支払い,マルチ・バイ方式による技術協力として「婦人の訓練及び雇用の多様化にかかわるセミナー」及び「ILOが行う技術協力にかかわる調査」のため約1,600万円の任意拠出をを行った。

(2) 国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Edu-cational, Scientific and Cultura1 0rganization)

(イ) 84年末の米国の脱退により86~87年度予算は,米国分担金相当額(25%)の削減が行われていたところ,85年末の英国,シンガポールの脱退により,新たに両国分担金相当額(4.9%)の凍結が5月の第124回執行委員会で決定された。また,9~10月の第125回執行委員会では,3か国の脱退に伴い,事務局の655ポスト削減,270人の職員の再配置が必要であったが,数人を除き全て解決された旨事務局より報告があった。我が国は,職員の国籍如何を問わず,職員削減・再配置過程において公平な取扱いが実行されるよう強く求めた。

(ロ) ユネスコの改革監視・促進メカニズムとしての機能が付与された特別委員会は,改革諸勧告が実施日程に沿って行われている旨評価したが,我が国は引き続き一層の改革が必要との立場をとった。

(ハ) ムボウ事務局長は,87年11月で任期が終了する(74年任命,80年再任)ところ,同人の三選を含む新事務局長選挙問題が注目されていた。第125回執行委員会秘密会議において,ムボウ事務局長は,自らは三選を求めない旨表明した。次期事務局長選挙手続きは開始されており,数名の候補者が名乗りをあげている。

(ニ) 86年度,我が国は,分担金1,954万ドル(分担率10.71%),国際情報開発計画(IPDC)に30万ドル,東南アジア基礎科学地域協力事業に10万ドル,西太平洋海域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業信託基金に計約16万ドル,東南アジア地域MAB(人間と生物圏)事業に2万ドルのほか,ヌビア・カイロ博物館事業及びモヘンジョダロ遺跡救済事業に計11万ドル等合計約89万ドルを拠出した。

(3) 人間居住委員会(Commission on Human Sett1ements)

5月,イスタンブール(トルコ)で開催された第9回委員会は,国連人間居住センターの活動報告につき討議したほか,国際居住年活動の推進,人間居住事業における住民参加の促進,建築資材の小規模生産の重視,次回会合のナイロビ開催に関する決議等を採択した。

また,第41回国連総会においても,前期委員会の勧告をうけ,人間居住委の10周年を記念する第10回会合に関する決議,国際居住年活動推進決議等を行った。

なお,我が国は,国連人間居住財団に対し,前年同様50万ドルの拠出を行った。

(4) 世界保健機関(WHO:World Health Organization)

(イ) 86年5月の第39回総会においては,我が国の属する西太平洋地域選出執行理事国数増加問題,エイズ問題,WHOのタバコ対策等が審議された。

(ロ) 86年4月には,世界看護指導者会議が,WHO,外務省等の協力の主催の下,本邦で開催されたほか,マーラー事務局長は,外務省賓客として来日した。

(ハ) 我が国は,86年WHOに対し,分担金2,493万ドル(分担率10.13%)を支払い,また,270万ドルを任意拠出した。さらに,WHOの附属機関である国際がん研究所に対し分担金63万1,000ドル余を支払った。

(5) 国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Or-ganization)

(イ) 86年(9-10月)にモントリオールにおいて,第26回総会が開催され,1987-89年度予算を決定したほか,同年度の事業計画,航空保安問題等につき審議を行った。同総会では理事国選挙が行われ,我が国は第1カテゴリー(航空運送において最も重要な国)でブラジルと共に第1位で当選し,理事国の地位を維持した。

(ロ) 同機関においては,航空テロ対策を積極的に推進してきているが,86年6月,理事会は二国間航空協定に盛り込むべき航空保安に関するモデル条項を作成した。さらに最近の空港テロ事件の頻発に鑑み,上記総会においては特に国際空港における不法暴力行為抑止のための文書作成につき検討することを決定した。

(ハ) なお,我が国は86年の分担金として271万7,000ドル(分担率9.02%)を支払つた。

(6) 万国郵便迎合(UPU:Universal Postal Union)

(イ) 86年4~5月に開催された執行理事会では,予算,人事,郵便業務及び技術協力等についての審議が行われた。また,10月に開催された郵便研究諮問理事会においては,機械化及び国際ビジネス郵便等についての検討が行われた。

(ロ) なお,我が国は,86年,分担金115万スイス・フラン(分担率5.1%)を支払った。

(7) 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)

(イ) 86年6月に開催された管理理事会では,予算及び技術協力等についての審議が行われた。

(ロ) 87年2~3月に開催された「放送業務に分配された短波帯の計画作成に関する世界無線通信主管庁会議」の第2会期では,短波放送に分配された周波数帯の使用方法についての検討が行われた。

(ハ) なお,我が国は,86年,分担金695万スイス・フラン(分担率6.5%)を支払った。

(8) 世界気象機関(WMO:World Meteorologica1 0rganization)

(イ) 86年6月,第38回執行理事会が開催され,世界気象監視計画,世界気候計画,研究開発計画,気象応用計画,技術協力活動,87年予算,第10財政期間(88~91年)の予算等について検討が行われた。

(ロ) 86年10月,第9回大気科学委員会が開催され,我が国は引き続き短・中期予報に関する活動センターとなるとともに,新たに短時間予報の活動センターを引き受けることとなった。

(ハ) 我が国は86年に85万2千ドル(分担率5.41%)の分担金を支払った。

(9) 国際海事機関(IMO:International Maritime Organiza-tion)

(イ) 86年11月の第57回理事会において,「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(仮称)案」が提案され,アド・ホック委員会を設立して検討されることとなった。

(ロ) 海上安全委員会において,引き続きr全世界的規模の海難救助安全システム(GMDSS)」の導入等について検討が行われた。

(ハ) 我が国は86年に115万4千ドル(分担率9.69%)の分担金を支払った。

(10) 世界知的所有権機関(WIPO:World Imellectual Property Organization)

(イ) 86年9月の調整委員会開催中にベルヌ条約百周年記念式典が行われた。

(ロ) 偽造からの保護(5月),特許法の八一モナイゼーション(5月),集積回路の国際的保護(6月),マークの国際登録(11月)等に関し,専門家委員会が開かれた。

(ハ) パリ条約改正外交会議のための諮問委員会が開かれた。

(ニ) 我が国は,86年に114万6,523スイス・フランの分担金(運転資金を含む)を支払った。

(11) 環境特別委員会(WCED:World Commission on Environ-ment and Development)

我が国の提唱により設立された環境問題に関する独立委員会であるWCED(ブルントラント委員長〔ノールウェー首相〕)は,本年2月23~27日まで東京において最終会合(第8回)を開催し,最終報告書及び東京宣言を採択した。同報告書はUNEP管理理事会の審議を経て国連総会に提出された。

我が国は,86年において東京会合開催のため25万ドルを拠出し,同委員会への拠出総額は175万ドルとなった。右は各国等拠出総額の約30%で第1位を占める。

 

 

 

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