第4節 社会・人権・文化問題
1. 社会問題
(1) 児童問題
(イ) 86年に設立40周年を迎えたユニセフ(UNICEF:United Nations Children's Fund,国連児童基金)は,当初戦争によって荒廃した地域の児童の救済活動を行ってきたが,現在はその主要援助対象を開発途上国及び被災国の児童救済に移行してきている。86年4月の執行理事会では,ユニセフが乳児死亡率の低下等を目的として実施しているr児童革命」(特に予防接種運動)に対する各国の支持が表明されたほか,アフリカ支援の強化が決定された。
(ロ) 我が国はユニセフに対し,86年度1600万ドルの一般拠出を行うなど,積極的にユニセフの活動に協力している。また民間においても,(財)日本ユニセフ協会による募金活動,啓発活動を中心として協力が進められており,ユニセフに対する民間からの拠出は470万ドル以上に上っている。
(2) 障害者問額
81年の国際障害者年のフォローアップとして,第37回国連総会は,83年~92年を「国連障害者の10年」とすることを決定しており,86年の第41回国連総会においては,87年の専門家会合「主として障害者により構成される」をホストするとのスウェーデン政府の申し出を歓迎することなどを内容とする決議が採択された。
(3) 青年問題
85年の国際青年年のフォローアップとして86年の第41回国連総会では,各国及び国連機関が,雇用・教育等の青年の権利を保証するために引き続き優先的な手段をとることを要請する決議が採択された。
(4) 麻薬問題
(イ) 薬物乱用の深刻化に鑑み,第41回国連総会では,(i)既存の「麻薬に関する単一条約」「向精神剤に関する条約」に加え,薬物の不正取引を抑圧するための新条約の検討(第39回総会から開始)の促進,(ii)国際麻薬会議(国連事務総長の提唱に基づき,国連の主催により87年6月ウィーンにおいて開催予定)に対する各国への協力要請等を内容とする決議等が採択された。
(ロ) 我が国は上記の国連の諸活動に積極的に参加するとともに(i)麻薬統制にかかわるプロジェクトへ資金供与等を行うr国連薬物濫用統制基金(UNFDAC)」への拠出(86年度95万ドル),(ii)86年8月タイ,フィリピン,中国等16か国・地域の麻薬問題担当者を対象とする「アジア・太平洋地域における薬物問題に関する国際セミナー」(国連アジア極東犯罪防止研修所主催)の実施につき協力を行う等麻薬問題解決のために国際協力をすすめている。
2. 人権問題
(1) 86年度においても,我が国は国連総会第三委員会,経済社会理事会,人権委員会等人権分野を扱う国連のフォーラムに積極的に参加した。一方,他の国連機関同様,差別防止・少数者保護小委員会の会期がキャンセルされるなど人権分野における活動の面でも国連財政危機の影響が表面化した。
(2) 86年秋の第41回国連総会の第三委員会でも会議の合理化・効率化努力が行われ,会期の短縮等一定の成果は見たが,各国がそれぞれ重視する案件に対する思惑もあり,かかる努力を推進するにあたっての困難もみられた。また,同総会では例年同様テーマ別,国別の人権問題につき多くの議題の下で審議が行われたが,長年の懸案であった発展の権利宣言が採択されたことが注目される。同宣言は南北問題を人権の問題としてとらえて行くべきとする開発途上国側の要望を象徴的に示すものといえる。
(3) 87年2月~3月にかけてジュネーヴで開催された第43回国連人権委員会においては約70本の決議及び決定が採択されたが,討議内容は純粋な人権問題に加えて,人権とあらゆる開発面での問題をリンクさせる傾向が強まってきている。また,各地の人権問題では従来の地域に加えキューバの決議案についての審議が行われる等審議の政治傾向が強まった。我が国はかかる傾向の中にあって,本委員会が真の人権状況改善のため効果的な役割を果たすべきであるとの基本的考え方に立ち,積極的に審議に参加した。
3. 難民問題
(1) 現在,世界にはインドシナ難民約170万人,アフガン難民約440万人,アフリカ難民約350万人,パレスチナ難民約200万人など1,000万人以上の難民が発生しており,人道問題のみならず,関係地域の平和と安全に影響を及ぼし得る政治上の問題ともなっている。
国連においては・国連難民高等弁務官(UNHCR)を中心に,難民救済活動を行うとともに問題のいわゆる恒久的解決策である,(イ)本国自主帰還,(ロ)一次庇護国での定住,及び(ハ)第三国への定住の促進に努めてきている。自主帰還には政治的理由等により数々困難があるが,一次庇護国における定住はアフリカ難民を中心に,また・第三国定住はインドシナ難民を中心に各々促進されている。
(2) 86年10月開催されたUNHCR執行委員会では,救済活動,恒久的解決策促進のほか,欧州諸国での難民の不規則移動問題,難民キャンプヘの武力攻撃問題,及び一次庇護国の負担を軽減するための難民援助と関連した開発援助問題が討議された。
(3) 我が国は,国連等において難民問題に関する活動に積極的に参加してきているほか,資金面においても79年以降UNHCRに対する第2位の大口拠出国となっているのをはじめ,国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA),世界食糧計画(WFP),赤十字国際委員会(ICRC)を通じて,これまでに約8億5千万ドルの難民援助を行っており,世界の難民問題解決のため積極的に貢献している。
4. 婦人問題
(1) 86年2月の第31回婦人の地位委員会の勧告に基づき第41回国連総会により特別に開催が決定された同委員会1987年会合(87年1月)においては,婦人問題を国連の諸活動に組み込むため,国連中期計画(1984-89年及び1990-95年)及び婦人と開発のための国連システム全体における中期計画の検討が行われ,種々の勧告が採択された。また,同会合においては,婦人の地位委員会の毎年開催を求める勧告のほか,1990年に拡大婦人の地位委員会を開催し,さらに,1990年代と2000年に世界婦人会議を開催する旨の勧告も採択された。
(2) 我が国は,86年度に,国連婦人開発基金へ6,870万円及び国際婦人調査訓練研修所へ8万ドルの拠出を行った。
(3) 86年12月,我が国において,「ESCAP婦人情報ネットワーク・システムの開発に関する地域セミナー」(ESCAP主催)が開催された。
5. 人口問題
(1) 国連人口活動基金(UNFPA:United Nations Fund for Population Activities)は,開発途上国に対する人口問題分野での援助等を目的として,67年に設立されて以来家族計画,基礎データ収集,情報伝達・教育活動等に取り組んでいる。
(2) 我が国は,UNFPAに対し86年度4,593万ドルの拠出を行い,第1位の拠出国としてUNFPAの活動に積極的に協力している。
6. 国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)
(1) 毎年開催されていた管理理事会を隔年開催とするための試行として,86年は同理事会が開催されなかった。しかし各国政府代表による常駐代表委員の設置により事務局との協議の強化が引き続きはかられることとなった。また,オゾン層保護条約に基づくクロロフルォロカーボンズ(CFCs)ガス規制に関する議定書作成がUNEP主導で推進された。
(2) 我が国は,86年においても引き続き,環境基金に400万ドルを拠出し,年間拠出額で米国に次ぎ第2位(各国拠出総額の約14%)となっている。また,我が国は,86年国連総会における理事国改選において引き続き理事国となり,UNEP設立以来,理事国をつとめている。
7. 国連大学
(1) 我が国に本部を置く国連大学は,81年に策定された中期展望(82~87年)に基づき,世界各地の大学や研究機関等と提携して構成するネットワークを通じ,人類が直面する諸問題についての研究,研修及び知識の普及に努めている。
(2) 7月及び12月に大学理事会が開催され86-87年補正予算等が審議された。7月の理事会では,国連大学の過去10年の諸活動を評価するため,「国連大学の10年評価委員会」設置が決定され,9月正式に発足した。同委員会は数回の会合を経て87年7月の理事会に報告書を提出することとしている。
12月の国連大学理事会では,第2次中期展望(88~93年)案が学長より提出されたが,審議の結果次回理事会において引き続き審議されることとなった。又,ヘルシンキの世界開発経済研究所(WIDER)に次いで第2の国連大学直属の研究研修センターであるアフリカ天然資源研究所(INRA)が,象牙海岸の新首都ヤムソクルに設置されることとなった。
(3) 国連大学の活動経費の大半を賄う国連大学基金に対しては,これまでに我が国(1億ドル)をはじめ,フィンランド,英国等から約1億4,930万ドルが拠出されている(87年3月5日現在)。