第5章 経済協力の現況

第1節 概要

1. 国際社会における責務としての経済協力

(1) 我が国は南北問題の根底にある相互依存の認識と人道的考慮を基本理念として開発途上国への経済協力を実施している。これは平和国家であり,自由世界第2位の経済力を有し,かつ対外経済依存度の高い我が国にとり最も重要な責務と言える。また,こうした援助を通じて開発途上国の開発を支援することは,開発途上国,地域さらには世界の平和と安定に貢献し,ひいては我が国の平和と繁栄にも資するものである。

(2) このような認識の下,我が国はすでに2度にわたる中期目標設定により政府開発援助(ODA)の計画的拡充に努めてきたが,85年9月には第3次中期目標を設定した。この中期目標は,86-92年の7年間のODA実績総額を400億ドル以上とする及び92年の実績を85年実績の倍とするよう努めるとともに,質の面でも可能な限りの改善を図ること等を内容としているが,87年春の中曽根総理大臣訪米の際,92年より2年繰り上げて90年に85年実績の倍増を達成するよう目標を繰り上げることを発表した。

2. 86年実績と87年度予算

(1) 我が国の86年のODAの実績(支出純額ベース)は56億3,400万ドルで,85年の37億9,700万ドルから484%の増加となり,また円ベースでは前年の9,057億円から4.8%増の9,495億円になった。これに伴いODAの対GNP比は前年と同じく0.29%であった。

2国間のODA地理的配分としては,従来よりアジア諸国に約7割,残りの3割をアフリカ,中近東,中南米の3地域におおむね均等配分しているが,86年については各々64.8%,10.9%,8.8%,8.2%であった。

また87年度の予算については,一般歳出が5年連続マイナス(87年度は対前年度比0.0%減)という厳しい財政事情にもかかわらず,一般会計分で対前年度比5.8%増の6,580億円が計上され,主要予算項目中最高の伸びが確保された。

ODAの質の改善にも引き続き特別の配慮がなされており,無償資金協力は,1,340億円で対前年度比8.1%(100億円)増となり,伸び率,増加額共に86年度(7.8%,90億円)を上まわっている。また技術協力予算も1,657億円と対前年度比11.7%増となり,85年度以来の高い伸び率となっている。

3. 効果的・効率的援助

我が国は経済協力の重要性に鑑み,上述のとおりODAの量的・質的拡充に努めてきているが,厳しい財政事情の下で限られた財源を有効に使用するとの観点から,経済協力の効果的・効率的な実施が重要課題となっている。このためには,以下の様なきめ細かい配慮を行うことが必要である。(1)途上国との政策対話,事前調査の拡充等による優良案件発掘のための努力,(2)技術協力と資金協力の有機的連携強化による相乗的効果増大,(3)相手国負担経費(ローカルコスト)の取扱いの弾力化,ノン・プロジェクト援助の活用等援助供与形態の弾力化,(4)フォロー・アップ援助やアフターケア援助の充実,(5)援助評価の拡充。

これらについてはすでに様々な形で実施に移されているが,今後共その充実に努める必要があろう。

4. 援助をめぐる国際的動向と,国際社会の期待に応えるための積極的援助

(1) 開発途上国への資金の流れの全体量は,1981年の1,391億ドルをピークとして85年には823億ドルまで減少しており,これは主に民間資金フロー及び輸出信用の低下によるが,一方その役割がますます重要となっているODAも主要援助国の財政困難等により大きな伸びは期待できない。こうした中で開発援助委員会(DAC)では,途上国への資金の流れ総量の確保,サハラ以南アフリカヘの重点的援助,構造調整プログラム実施努力への支援,援助調整の重要性が指摘されており,特に86年には約900億ドルの経常収支黒字を記録した我が国に対しては,対日審査等において量(特に対GNP比),質(グラントエレメント),援助対象(特に対サハラ以南アフリカ・LLDCへの援助),援助形態(一般アンタイ化),実施体制につき一層拡充の努力が期待されている。

(2) このように経済協力の開始から30年余りを経て,主要援助国となった我が国に対する期待はますます増大しつつあるが,我が国としては従来からの経済協力の方式の改善も図りつつ,こうした国際的な期待に応えさらには経済協力をめぐる国際的な動きをリードしていく努力を強めていくべきである。

こうした観点から87年4月の総理訪米の際,ODA7年倍増目標の2年繰り上げ実施に加え,87年から3年間で新たに200億ドル以上の完全にアンタイドの資金を債務問題で苦しむ諸国を中心とする開発途上国に還流すること,アフリカ諸国等後発開発途上国に対して積極的な支援を行う意図を表明した。

 

 

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