第8節 食糧・漁業問題
1. 食糧問題
(1) 世界の食糧需給動向
86年の世界の穀物生産量は,国連食糧農業機関(FAO)の予測によれば,史上最高となった85年の生産量をさらに1,600万トン上回り,18億5,800万トンに達すると見られている。これは,主として,米国,西欧等における生産減にもかかわらず,中国,インド等アジアの主要生産地域やアフリカの生産量が例年の水準を上回ったためである。
86/87年度(7月~6月)の世界の穀物貿易量は,86年におけるソ連の豊作等により,前年度より1,200万トン少ない1億7,400万トン程度に止まり,過去8年間の最低水準となる見込みである。その結果,同期末の世界の穀物在庫は,前年に比べ5,200万トン増え,4億4,800万トンとなるとみられている。
なお,86年におけるアフリカの穀物収穫は,旱魃の被害が大きかった84年に比し,30%以上増加して約5,500万トンと推定され,食糧供給状況は好転しつつあるが,アンゴラ,エティオピア,モザンビーク等一部の国では依然深刻な食糧不足が続いている。
(2) 主要穀物の安定確保
我が国は,国内生産と海外からの輸入を組み合わせ,食糧の安定供給を確保することを基本政策としている。このため生産性向上等の国内的努力とともに,主要供給国との友好関係の維持発展,開発途上国の食糧増産のための経済・技術協力の推進に努めており,また多数国間でもFAO理事会,国際小麦理事会,世界食糧理事会など農産物に関する数々の国際会議に積極的に参加し,情報交換や協議を行っている。
2. 漁業関係
我が国漁業は85年も1,200万トン台の漁獲量をあげたが,このうち210万トン余りが遠洋漁業により漁獲されている。新海洋秩序が定着した現在,沿岸国による自国漁業資源に対する権利の主張が年々強くなっているため,とれら外国水域での我が国の伝統的漁業の確保がますます難しくなってきている。先進国では対外漁獲割当の段階的削減の動きとともに漁業技術移転,合弁事業など自国漁業の振興への協力要求が強まり,開発途上国では経済発展のため入漁料の増額が引き続き要求された。また,環境保護団体は,海産哺乳動物や海鳥の保護,海洋廃棄物など海洋環境の悪化の防止を取りあげ,捕鯨のみならずさけ・ます等流し網漁業に対する圧力を一層強化してきた。このような厳しい国際環境の下で,我が国は沿岸各国との交渉において,漁業協力関係の促進を図るとともに,国内漁業者への影響に配慮しつつ漁場の確保に粘り強い努力を重ねた。
(1) 二国間漁業交渉
我が国遠洋漁業にとって最も重要な漁場である米国水域での操業を確保するため,米側と幾多の交渉を行ったが,米国の資源のアメリカ化政策を反映して,86年の割当は約48万トンにとどまった。他方,日本漁船による洋上買付事業は,急速に拡大し,86年は約58万トン(87年の両国水産業界洋上買付合意数量は約88万トン)の契約が成立し大幅な増加となった。ソ連も近年資源保存と自国水産業の発展を重視する立場を強めている。また,我が国漁船の操業違反に強い不信感を示しており,ソ連との漁業交渉は年々厳しさを増しているが,87年のソ連水域での割当は有償入漁の10万トンを含め30万トン(86年は15万トン),さけ・ますの漁獲割当量は前年同様2万4千5百トンとなった。このほか,韓国との間では,我が国周辺水域における日韓両国漁船の操業実態に見合った漁業関係を構築すべく現行漁業関係の枠組み見直しの協議が開始され・中国,カナダ,大洋州諸国等との間でも前年同様漁業交渉が行われた。
(2) 多数国間漁業交渉
86年4月に開催された北太平洋漁業国際委員会特別会議は,北米系さけ・ますの混獲問題解決のため,日米非公式協議の結果を反映したべ一リング公海における母船式さけ・ます漁業を93年に撤退する等の措置を決定した。
捕鯨については,米国の捕鯨訴訟で米政府の勝訴が決定したため,86年7月,日米捕鯨取決めに従って国際捕鯨委員会の商業捕鯨禁止決定に対する異議を撤回し,我が国の商業捕鯨は88年3月末をもって停止することとなった。