第7節 科学技術及び原子力問題
1. 科学技術一般
近年,諸外国から科学技術分野における我が国との協力の要望が増大し,我が国の対外関係に占める科学技術の比重は高まっている。
(1) 二国間の科学技術協力
我が国は,85年末にインド及び韓国と,さらに86年5月にはカナダと,科学技術協力協定を結び,現在18か国との間に,計19本の科学技術協力協定を結んでいる。主な国との協力活動は次のとおり。
(イ) 日米協力
(a) エネルギー分野
日米エネルギー等研究開発協力協定に基づき,核融合,光合成,高エネルギー物理学,地熱エネルギー等の分野で協力が進展している。
(b) 非エネルギー分野
日米科学技術研究開発協力協定に基づき,宇宙開発,バイオテクノロジー,環境,農業等の分野にわたる約50の案件について協力が進展している。
(ロ) 日仏協力
86年12月,協定に基づく第9回混合委員会が東京で開催され,既存の協力プロジェクト(宇宙,バイオテクノロジー等18プロジェクト)につき意見交換が行われたはか,医用画像技術等新たに4つのプロジェクトの協力開始が合意された。
(ハ) 日西独協力
87年3月,協定に基づく第11回合同委員会が東京で開催され,既存の協力の拡充に加え,新たにロボットの知的制御,短波長レーザー技術等に関する協力の開始が合意された。
(ニ) 日伊協力
87年4月の第4回目伊経済関係事務レベル協議において,科学技術協力に関し2回目の協議が行われ,新素材,バイオテクノロジー等多くの分野の協力が合意された。
(ホ) 日・EC科学技術協力
84年2月の日・ECハイレベル協議において核融合,放射線防護,科学技術政策を協力案件として取り上げることにつき合意されたが,その後85年11月に開催された日・EC閣僚会議において核融合,新素材,バイオテクノロジー若手研究者の交流,科学技術政策会合の各分野の協力につき話し合われ,順調に協力関係が進んでいる。
(ヘ) 日加協力
86年9月,協定に基づく第1回合同委員会が加で開催され,73年以来行われてきた日加科学技術協議の下での既存の協力の拡充及び微小重力実験,電子海図等,8テーマに関する新たな協力の開始につき合意された。
(ト) 日豪協力
85年11月,協定に基づく第3回合同委員会が豪で開催され,現在,生物学,海洋科学技術等の分野にわたる約40テーマについて協力が進展している。
(チ) 日ソ協力
86年9月東京で,協定に基づく第3回目ソ科学技術委員会が7年ぶりに開催され,今後の日ソ科学技術協力につき意見交換が行われた。
(リ) 日・ブラジル協力
協定に基づき85年9月に開催された第1回合同委員会を踏まえて,現在,交流の具体化の詳細につき両国間で協議中。
(ヌ) 日中協力
84年4月,協定に基づく第3回科学技術協力委員会の結果,既存の協力テーマに加え,新たに4つのテーマ(冶金,電波,海洋保護等)につき協力を開始することが合意された。
(ル) 日韓協力
86年8月,協定に基づく第1回科学技術協力委員会が開催され,新たに24のテーマを今後積極的に推進することが合意された。
(ヲ) 日・インド協力
85年8月に締結された科学技術協力協定に基づく第1回合同委員会が86年9月,デリーで開催された。
(ワ) 日・ASEAN協力
83年に中曽根総理大臣が提唱した構想に基づき,ASEAN諸国を対象に85年よりバイオテクノロジー,マイクロエレクトロニクス及びマテリアルサイエンスの分野で協力が実施されている。
(2) 多数国間の科学技術協力
(イ) 生命科学と人間の会議
中曽根総理大臣が提唱したr生命科学と人間の会議」は,第3回会議が86年4月西独で,また,第4回会議が87年4月カナダで開催された。
(ロ) 国際核融合共同研究計画
85年の米ソ首脳会談での提案を踏まえて,87年3月に本件計画関係国(日,米,EC,ソ連)による第1回会合がウィーンの国際原子力機関(IAEA)において開催され,今後関係国間で話し合いを続けていくこと及び専門家よりなるワーキンググループを設置することに合意した。
(ハ) OECD
OECDの科学技術政策委員会(72年設立)はメンバー国間の科学技術政策の調和を図ってきており,現在科学技術が経済の再活性化に与える影響を見直すために大臣会合を開催し(87年10月),これを検討することとしている。
(ニ) 国際連合
国連総会の下で開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力のあり方を検討する「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD;Intergove-rnmental Committee on Science and Technology for Development)」の第8回会議が6月に国連本部で開催され,第41回国連総会では,同委員会の報告書を承認するとともに,科学技術融資システムの86年12月末日をもっての終了及び右に代わり,国連開発計画(UNDP)内に開発のための科学技術基金を設立する旨の決議を採択した。
(ホ) その他
このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO)等の国連専門機関,国連システム内及びその他の国際機関でも,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題等についての意見や情報の交換,政策面での検討等の協力が行われている。
2. 宇宙関係
(1) 我が国は,85年4月から2年間にわたり実施される米国の恒久的有人宇宙基地計画の予備設計作業に欧州宇宙機関(ESA)及びカナダとともに参加するための実施取極を85年5月に米国と締結した。現在,右予備設計段階に引き続き,詳細設計・開発並びに運用・利用段階の協力の枠組みに関する協議が米国との間で行われている。また,88年我が国の宇宙飛行士が米国のスペース・シャトルに搭乗して,各種の宇宙実験を行う第1次材料実験(FMPT)計画に関する協力のため,85年3月に交換公文を取り交わしたが,その後シャトル事故(86年1月)等により遅延が生じ,右計画は91年4月に行われることとされている。
(2) 海洋観測衛星「もも1号」打ち上げに伴う受信局の設置等に関し,86年12月タイ国政府との間に口上書の交換が行われた。
(3) 欧州との関係では,87年4月に第12回目・ESA(欧州宇宙機関)行政官会議が東京で開催された。
(4) 第41回国連総会では,国連宇宙空間平和利用委員会第29会期(9月)の報告書を承認し,「宇宙空間の平和利用に関する国際協力」と題する決議(41/64)及びリモートセンシング原則(41/65)が採択された。
(5) 87年4月,国際電気通信衛星機構(インテルサット)の第11回臨時締約国総会がワシントンで開催され,また,4月国際海事衛星機構(インマルサット)の遭難安全衛星通信にかかる資金調達方法について,専門家会合がロンドンで開催された。
3. 南極関係
(1) 南極の鉱物資源に関するレジーム作りのための特別協議国会合が86年4月ホバート(豪),同年10月~11月東京で開催された。
(2) 南極問題は,12月の第41回国連総会においても引き続き議題となっており,鉱物資源協議に関する情報提供要請等に関する3つの決議が採択された。
4. 原子力の平和利用
(1) チェルノブイリ原子力発輩所事故と国際協力
(イ) 86年4月に発生したソ連チェルノブイリ発電所事故は全世界に大きな影響を与え,原子力利用上の安全性確保の必要性はもとより事故発生の際の国際協力の必要性が国際的に認識された。
事故発生直後に開催された東京サミットにおいては本件につき活発な議論が行われ,原子力施設の安全性,原子力事故時の相互緊急援助供与,及び原子力の緊急事態や事故の際の情報交換等に関する国際協力を強化することを提言する「チェルノブイリ原子力事故の諸影響に関する声明」が我が国のイニシアティブで発出された。
(ロ) これを受け7月国際原子力機関の場における政府専門家会合で「原子力事故の早期通報に関する条約」及び「原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約」が作成された。この条約案はその後9月26日に国際原子力機関総会(特別会期)において正式に採択された後署名のために開放された。
両条約はそれぞれ国際的な影響を伴う原子力事故が発生した場合においてその影響を受ける国が事故に関する情報を早期に入手できる制度及び原子力事故または放射線緊急事態の場合における援助の提供を容易にする国際的な枠組みを定めるものである。
我が国は原子力の開発及び利用における安全のための国際協力の強化に積極的に貢献するとの観点から87年3月6日両条約に署名した。
(ハ) 原子力利用の安全性確保については,国際原子力機関主催の下でチェルノブイリ事故の事故評価のための専門家会合(86年8月)が開催され,ソ連より事故の原因,影響等について報告がなされた。
さらに,原子力安全関連事業活動拡充計画実施が86年9月の特別総会において決定された。また経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)は,チェルノブイリ事故に関し西側諸国の原子炉の安全性を確認するとともに事故の影響についての調査及び原子力の安全性等の5項目の分野で拡大計画を実施することを86年12月の特別運営委員会で決定した。
(2) 我が国の原子力開発利用に関する国際的環境整備
87年3月末現在,我が国の原子力発電設備容量は34基約2584万kWと米,仏,ソ連に次ぎ世界第4位の地位を占め,また86年度の発電電力量でも我が国の電源別発電実績(推定)で原子力が最大の割合を占め,今後一層の伸びが予想されている。これに伴い,我が国と諸外国との原子力分野の協力も一層強化されることが期待される。
このような我が国の事情を背景に日米間では両国間の原子力協力関係をより安定的なものとするための新しい枠組みを作成すべく協議を行ってきたが,87年1月両国の交渉当事者間における実質的な合意が成立した。
この間,東海再処理施設の運転については暫定的に現行日米原子力協定に基づく共同協定の期間が87年末まで延長された。
(3) 対開発途上国原子力協力
開発途上国に対する原子力協力について,我が国は,従来よりIAEAの技術協力基金に対し米ソに次ぐ拠出を行うとともに,IAEAの「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地城協力協定(RCA)」に基づく協力,特に開発途上国の重要課題である工業,医療問題等の解決に資するためアイソトープ・放射線利用,医学生物学利用プロジェクトを中心に技術,資金面等から積極的な協力を行い,主導的役割を果たしている。また同時に国際協力事業団(JICA)による政府ベース技術協力を通じてアイソトープ放射線の利用を中心に,研修員の受入れ,専門家の派遣等についても積極的な協力活動を行ってきている。
87年3月開催された国連原子力平和利用会議においては対途上国原子力協力のあり方につき原子力先進国側,途上国側それぞれより種々の見解が表明されたが,原子力先進国たる我が国としては,今後とも協力相手国の真のニーズを踏まえつつ,安全性確保,核不拡散等に配慮した責任ある協力を進めていく必要がある。