第5節 開発途上国との関係
1. 南北問題
開発途上国をめぐる86年の経済情勢は,概して芳しくなかったが,このような中で,南北問題についていくつかの新しい動きが見られた。
まず,アフリカの危機的経済状況に対する国際的支援については,ここ数年来盛り上がりを見せていたが,このような動きは,86年5月の国連アフリカ特別総会の開催という形で結実した。この特別総会では,アフリカ経済の復興開発に向けての行動計画が全会一致で採択されたが,このことは,近年,「南北対話」において見るべき具体的成果がなかっただけに,特筆に値する。
次に,中南米を中心とした累積債務状況の悪化を背景に,国連総会において、途上国から・途上国の債務問題に関する決議案及び資金の逆移転問題に関する決議案が提出され,いずれも採択された。特に,途上国の債務問題に関する決議案については,従来,先進国と途上国の間の考え方の相違が大きく,当初,合意に至るのは至難の業と予想されたが,本件問題の包括的解決のために考慮すべき一般的な諸要素を内容とする決議案をコンセンサスで採択したものであり,今後,国連の場における本件議論の基盤となるものと思われる。
また,同じく国連総会において,米国が途上国の開発における民間部門の役割の重要性を強調し,他方,ソ連・東欧諸国が「国際経済安全保障」なる概念を再び持ち出してきたことが注目された。
UNCTAD(国連貿易開発会議)については,87年7月にジュネーヴにおいて第7回総会が開催されることが決定され,準備作業が本格的に開始された。
2. 累積債務問題
開発途上国の累積債務額は,86年には約1兆ドルを超えたと推計され(世銀推計),関係者の協調した努力により当面の危機は乗りきってきているものの,依然として途上国経済の健全な発展にとり大きな足かせとなっている。
債務問題は,85年を通じ,先進国経済の低迷及び一次産品価格下落を背景とした途上国の輸出不振の中で,改善がみられなかったが,86年に入っても,金利の低下等を除けば債務国をめぐる国際経済環境に大きな改善はみられなかった。なかでも,原油価格の大幅下落は産油債務国の債務返済困難を深刻化させた。
特に,大口債務国メキシコの債務返済困難が表面化し,新規融資を含む経済再建計画についてIMFとの協議が難航したため,一時はそのなりゆきが懸念されたが,86年7月に基本的合意に達し,右を踏まえ,債権国政府・国際金融機関・民間銀行による総額120億ドルの国際的な金融支援パッケージが成立し,当面の危機は回避されることとなった。右支援措置においては,経済成長率及び原油価格の変動に応じた新規資金供与及び再リスケ分の金利引き下げ等の民間銀行による弾力的な対応が含まれたことは注目に値する。
債務問題への国際的対応については,85年10月に,ベーカー米財務長官が,「持続的成長のためのプログラム」を提唱し・関係者の基本的同意を得ていたところ,メキシコ救済措置の実現は・かかる提案の趣旨を踏まえた関係者の努力の成果といえる。
また,86年5月の東京サミットにおいても,ベーカー提案を踏まえた関係者の協調やケース・バイ・ケースの対応等の基本戦略が確認されるとともに,債務国の調整努力が成果を挙げやすい国際経済環境を実現するための先進国の努力の重要性が確認された。
このように,債務問題については当面の危機は乗りきってきているが,債務国の経済調整促進による信認の回復と,自発的な対途上国民間資金フローの拡大という良循環が必ずしも軌道にのっておらず,かかる状況の中で,87年2月にブラジルが民間銀行債務の利払い停止を宣言するなど,債務返済に対し強硬な立場をとる国も現れてきていることが懸念され,関係者の一層の協調と努力が必要となっている。