(24)第27回ソ連共産党大会におけるゴルバチョフ書記長演説

(骨子)

(86年2月25日,モスクワ)

1.外政

(1)レーガン回答及び米ソ首脳会談

「我々は,我々の根本的な敵対者を知っており,彼らとの関係と彼らとの交渉に関する複雑で長期間にわたる経験を蓄積。一昨日(23日),我々は1月15日付の我々の声明に対するレーガン大統領よりの回答を受領。我々はこの問題に関し米側提示の全てを注意深く検討しよう。しかし,大統領書簡は,同書簡受領以前にこの報告に記されていた国際情勢の評価を全く修正する基礎を与えていない。

同書簡は,核兵器廃絶が全ての核保有国が目指すべき目標であるとし,概して,軍縮と安全保障に関する諸問題についてのあれこれのソ連の立場・考えに同意。換言すれば,同回答では若干の希望を与えるが如き判断や立場が述べられている。しかしこれらの前向きの発言は,根本的な軍縮問題の解決を事実上妨害する種々の非難,リンケージ,条件に埋まっている。戦略核兵器の削減は,スターウオーズ計画に対する我々の同意,及びソ連の通常兵器の一方的な削減を条件としている。更に地域紛争の諸問題及び2国間関係の諸問題も結びつけられている。

欧州での核兵器廃絶は,英仏の立場への言及及びアジア地域における米軍事力を維持したままでのソ連東部の防衛の弱体化に関する要求によって阻止されている。核実験停止に対する拒絶は,核兵器が牽制抑止力として寄与するという考え方によって正当化されている。これは,核兵器廃絶の必要性という(同大統領の)書簡でも確認されている目標に真向から矛盾。全世界が停止を求めている核爆発問題に関し,核軍縮路線に乗り出さんとする米支配勢力がこれを望んでいないことが極めて明瞭な形で示されている。」

「米ソ首脳会談に我々が付与している意義は,同会談が軍備制限・削減という極めて重要な方向における現実的成果を作り出すべきであるという点。少なくともそこには合意を達成しうる問題が2つあり,即ち核実験停止と欧州地域におけるソ米中距離ミサイルの廃絶。当然のことながら,合意を目指す用意があればサミットの時期の問題は自然に解決されよう。我々はこの点に関しあらゆる提案を受入れよう。しかし空虚な交渉を行うことに意味なし。」

(2)国境問題及びアフガン問題

「他のあらゆる国と同じく,我々は陸の国境であろうが海の国境であろうが,自国の国境の安全に当然ながら大きな意義を付している。我々の隣国は多く,多様である。我々には,これら隣国のどの一国に対しても,領土要求はない。

我々は,これら隣国のどの一国に対しても脅威を与えてはいない。しかしながら,実生活により一度ならず確認されたように,我が国の国益もわが隣人諸国家の国益もかえりみることなく,ソ連国境の情勢を尖鋭化させんと試みている熱心なものは少なくない。例えば,我々はアフガン政府の要請により同国に駐留しているソ連軍を,極めて近い将来に祖国へ引きあげたいと考える。民主共和国アフガニスタンの内政に対する外部からの武力干渉の現実的停止を確保し,その(干渉)の再開なきことを確実に保障する政治的解決が達成されるや否や,ソ連軍は段階的撤退を行うということでその期間についてもアフガン側と合意している。」

(3)中ソ関係

「偉大な隣人たる社会主義中国とソ連邦との相互関係の一定の改善について満足をもって述べ得る。一連の国際問題に対するアプローチの相異は残っているが,多くの機会に,共同して働き,第3国(複数)に損失を与えないで,平等かつ原則的な基盤に立って協同行動をとることの可能性がある。中国共産党員は,第2次大戦におけるソ連と進歩勢力の勝利を中国における民族革命の勝利へのプロローグと名付けた。他方,人民中国の成立は社会主義の世界的な立場を強化し,最も困難な戦後の時期に帝国主義の多くの隠謀及び活動を打ちくだくことを促進し々将来的にはソ連と中国の協力は膨大な余力を残していると言い得をその余力は偉大なものであり,それは右協力が両国の利益に合致するからであり,社会主義と平和が両国民にとって不可分の最も貴重なものであるからである。」

(4)アジア・太平洋情勢

「アジア・太平洋方面の意義が増大。この広大な地域には複雑な矛盾の交錯が少なからずあり,政治情勢も個々の地方では不安定。そしてその際,遅滞なく自己の解決,自己の道を見出す要あり。おそらく先ずは調整することから始め,その後に同時平行的にアジアの種々異なる地域における軍事的対立の緊張をせめて取り除き情勢を安定化させるために病的な諸問題の政治解決の努力を結集する必要があろう。

アジアにおいても他の大陸(複数)においても軍事的危険性の火種が弱まらないということはやはり,焦眉の問題。我々は,中近東,中央アメリカ,アフリカ南部,地上の全ての係争地点における紛争状態の集団的な方途による解決を活発化させることを支持。このことを世界の安全保障の利益は強く要求している。」

(5)包括的国際安全保障体制一国連安保理常任理事国会議,国際経済保障問題会議構想

(包括的な国際安全保障体制構築のための軍事的,政治的,人道的各分野における諸原則に言及の上)

「これらの諸原則は2国間であれ多国間であれ,国際社会の諸国指導者間の直接的かつ組織的な対話のための出発点及び一種の指針となり得よう。それが平和の運命に係わることであるが故に,かかる対話は5核保有国たる安保理常任理事国の間のものがとりわけ重要。これら諸国は人類の運命に対し主たる責任を負担。これは,特権でもなく世界の問題への指導性をうんぬんするための基礎でもなく,わすれるべからざる責任。然りとすれば,これらの指導者が,円卓に集い,平和強化のために何ができ何をなすべきかにつき話し合っては如何なものか。

ソ連は世界経済,軍縮と発展の相互関連性,貿易と科学・技術協力の拡大の諸問題と展望に関するヘルシンキ・プロセスの枠組を含んだ国際的フォーラムにおける共同的検討に大いなる関心あり。我々は世界経済関係の重荷となっている問題すべてを,討議し得る経済安全保障問題に関する世界会議の将来における招集が重要な出来事となろうと考える。我々は,かかる方向を目指すあらゆる他の諸提案も真剣に検討する用意あり。」

(6)対日言及

(資本主義,米帝国主義,その先導的役割を果している多国籍企業の活動と民族国家の利益との間の矛盾に言及の上)

「3つの現代帝国主義センターすなわち米国,西欧及び日本の相互関係には顕在的,非顕在的矛盾が満ちている。60年代末まで米国が我が物とした最も身近な競争相手に対する経済上,金融上,技術上の優位は,深刻な試練をこうむった。

西欧及び日本はパトロンたるアメリカを何らかの面で圧迫することに成功。彼らは先端技術のような伝統的な米国の覇権領域でも米国に挑戦。

ワシントンは,常に同盟国に対し,内乱に備えて火薬を浪費しないようよびかけている。しかし,現代帝国主義の3センターをいかに一つの屋根の下に集結すべきか。かかる場合,米国人自身がドル及び金利を操作して,西欧や日本を犠牲にして自国の経済を養ってはいないだろうか。帝国主義の3センターの立場の合意はいかなる範囲において達成されるであろうか。その合意は,しばしば米国の圧力あるいは公然たる押付けの結果である。かかる合意は,今度は矛盾の克服ではなく,先鋭化をもたらす。西欧諸国の一連の政府,社会民主党,自由党において,また広範な世論の間で次のような議論が聞こえる。即ち現在の米国の政策は,自己の安全保障に関する西欧の考えと合致するであろうか。米国は「リーダーシップ」を過度に求めすぎてはいないだろうか。米国のパートナーは,他人のメガネは自分の目の代りにはならないと一度ならず確信しえたところである。

疑いもなく,帝国主義システムにおいては,勢力関係の変更の結果として,遠心的かつ求心的傾向の抗争は今後とも継続しよう。現代世界の現実的諸条件下において,3つの「勢力センター」の既存の経済的,軍事・政治的及び他の共通の諸利益の総体が断ち切られうると期待するのは困難である。しかし,この総体の領域内において,ワシントンは米国の指図に対する同盟国-競争者の従順な服従を期待すべきではなく,ましてこれらの国々の固有の利益の損失においておやである。

新たな資本主義の「勢力センター」は,現時点並びに別の輪郭が出来上る今後10年間において帝国主義間の独特な矛盾を露呈するだろう。これは,疑いなく,矛盾の固まりの一層の増加及びより一層密接な相互的絡み合い及びその先鋭化へと導こう。」

2.内政

(1)導入部において過去の党・国家指導における欠陥を批判。

(2)「社会・経済発展の促進」の戦略を詳述。経済改革,社会政策(教育,保健,家族強化,民族問題解決)につき説明,随所に「情報公開」,「人間ファクター」の重視・社会的公正の回復(不労所得の排除)等,ゴルバチョフ「語録」を挿入。

(3)国家・社会体制の強化についてソ連的民主制度,ソビエト,行政機関一般,労組,コムソモール等国家・社会団体の活動強化,治安機関及びソ連軍の地位に言及。

(4)党の指導力強化及びイデオロギー活動についてはほぼ伝統的ラインの繰返し。

(5)党綱領及び党規約改正案の国民討議について報告。

3.経済

(1)70年度以降の経済上の欠陥を座視した上で欠陥の克服に取り組むべし。

(2)科学技術発展の促進

(3)機械製作部門の重視

(4)エネルギー増産,輸送・建設部門の改善

(5)農業の打開(計画超過分の農産物の処分をコルホーズ,ソホーズに自由にまかせる,等)

(6)独立採算制の強化(「スミ」の実験にも言及)を通じて企業の自主性を強化

(7)計画化の改善,ゴスプランの機能強化

(8)財政政策(金融,信用)による経済活動への刺激

(9)より弾力的な価格政策の必要性

(10)消費物資の改善

(11)不法所得との関連で累進相続税も検討

(12)個人営業(但し,消費組合方式,または社会主義企業との契約方式に基づくべき)

(13)社会福祉の向上

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