(16)第24回OECD/DAC(開発援助委員会)上級会合プレスリリース(仮訳)
(85年12月3日,パリ)
開発協力の25年間のレヴュー
1.DAC加盟国は,世銀,IMFと共に12月2日~3日開催された上級会合において過去25年間の開発協力のレヴュー及び将来の援助政策のためこれまでの経験から教訓を引き出すため討議を行った(注1)。会合に参加した各国閣僚及び援助機関の代表は,経済成長の再活性化,貧困の構造的諸問題の解決,持続的かつ公平な開発の達成のための開発途上国の努力に対し,より多くまたより効果的な支援を行うとの各国政府のコミットメントを表明した。かかる目標の達成には,援助及び他の資金の流れとともに貿易及び投資に関する政策をも含むあらゆる関連政策に一貫性が必要とされる。
(注1)本件は,1月中旬に発表される85年DAC議長報告のテーマでもあり,1985年は,1960年DAC設立以来25周年に当っている。
2.厳しい外部条件,自然災害及び政策の欠陥等により,特にサハラ以南アフリカ及び中南米において最近深刻な後退が見られたにもかかわらず,開発は,60年代初期以来,全体としてめざましく進展した。多くの開発途上国は,ほとんどの先進国経済の歴史における記録を上回る早いペースで実質的な経済的・社会的進歩を達成した。
高所得石油輸出国を除く開発途上国の一人当り平均GNPは,この期間に,最近の深刻なリセッションおよび70%以上の人口増加にもかかわらず,ほぼ倍増した。
保健・教育水準は大きく改善され,非常に貧しい国においても,最も包括的な社会的指標である平均寿命が約40歳から約60歳へと上昇した。しかしながら,開発の成果は,非常に不均等であり,サハラ以南アフリカの多くの国は平均以下であり,全ての地域の国民の多数は非常な貧困状態のままである。
3.開発成果は,主に開発途上国自身の努力に負うものであった。OECD諸国の市場,民間資本及び技術へのアクセスは,重要な要素であった。しかしながら資金的・技術的援助も極めて重要な貢献を行った。DAC加盟国全体の援助は,60年代初期以来実質年平均2.5%で伸び,最近の10年間は4%まで加速し,現在では約290億ドルへ達した。
しかし,援助量の増加は,DAC加盟国のGNPの伸びを下回る場合もあり,ほとんどのDAC加盟国がODAの対GNP比率0.7%の目標を受け入れ,うち5カ国が達成しているものの,84年の対GNP比率は0.36%に止っている。
4.援助は,開発途上国の開発に対するコミットメントを強化し,一貫した政策・計画の採用・実施を支援した場合に最も成功している。援助は,経済及び自然の緊急事態(最近ではアフリカ)において苦しみを緩和し人命を救った。
援助により基本的なインフラ,制度・管理・技術部門の人材は,特に低所得国において強化された。援助は,研究,技術的助言,訓練及び資金援助を通し,アジアのほとんどにおいて主食作物の生産において自給達成に重要な貢献を行い,南アジアにおける慢性的飢餓の脅威を減少せしめた。
5.国際的な開発協力のシステム改善のため数年にわたり相当の努力が払われた。国際開発金融機関及び国際開発援助機関は,DAC加盟国から多くの資金を得て開発支援の主要なチャネル及び国際的援助調整の中心となっている。NGOは,草の根レベルで重要な貢献を行っている。
6.かかる背景の下に,開発援助は,個々の開発途上国の国家的開発プライオリティーに基づくべきことを認識しつつ,DACは,今後の開発協力にとって以下の重要な課題を挙げた。
(1)サハラ以南アフリカが目下の経済危機から脱し,経済成長にプライオリティーを置き,食糧安全保障及び生産的雇用に焦点をあて長期的低落を転換させることを支援する。
(2)極度の貧困状態に止まっている何百万の人々をより一層開発のプロセスへ組入れるため,かかる目標をコミットした南アジア及び他の地域の開発途上国に対し,より効果的な長期的戦略の策定・実施を支援する。
(3)貿易,民間融資及びODAにより経済成長及び国際収支の改善を促進し,インフレを抑えるという中南米及び他の地域の大口債務国の包括的な経済改革努力を支援する。
(4)企業活動,特に市場の役割拡大を促進する努力を通し,小農,民間企業及び投資家の創造エネルギーを開放・刺激する。
(5)研究,技術普及及び関連の制度的及び政策的諸措置を通し,全ての地域における主食作物に関し技術的な「緑の革命」をもたらす。
(6)公的管理部門が開発の効率及び福祉の制約要因となっている開発途上国において,公的管理部門の改善を行う。
(7)個々の開発途上国国民の最も緊急な必要性に適合した,教育,訓練,保健サービス等の人的資源開発に係る基本的な公的及び民間のサービスを拡大し,より効果的,安価なものとする。
(8)開発途上国の婦人に開発計画の策定・実施において十分な役割を与え,開発成果の公平な享受を図る。
(9)人道的かつ効果的な避妊方法を普及し,母子の健康を高めるのみならず,開発に対する急速な人口の増加圧力を軽減する。
(10)生態系の悪化から自然の開発資源を保護し,きわめて重要な生産資源を可能であれば回復する。
7.DAC加盟国は,かかる大きな課題は,開発途上国及び国際社会の双方に対し開発資金の量的拡大及び効果の向上を求めるものであることに意見が一致した。
DAC加盟国は,開発途上国が適切な調整及び開発計画を採用することにより,貿易,投資及び適当な環境下での民間融資の拡大とともに,より多くまたより効果的な開発援助を供与する必要性が生じることを認識した。
8.DACの集中的作業をもとに,援助担当の各国閣僚及び代表は,援助効果の向上努力のガイドラインとなる一連の具体的政策についての結論(別添参照)を承認した。これらの実施には,プロジェクトの選択・策定におけるより一層の厳密さ,柔軟性及び現実性,開発途上国の国及びセクター別開発計画への援助機関のより体系的な参加,及び開発計画策定・実施の面での被援助国支援におけるより密接な援助調整が必要である。
かかる実施面に係る教訓は,細心な援助評価と政策および具体的措置の改善における評価結果の効果的利用(フィードバック)の重要性を強調するものである。
9.また,DAC加盟国は,本件会合において,開発協力の環境面に関する最近のOECDの作業をレヴューし,環境目標を援助及び開発計画により十分に統合する必要性を強調した。
10.DAC加盟国は,AF及びSimilarTransactions(注2)の使用における透明性及び規律に対するコミットメントを再確認し,DACに対し83年に採択されたガイディング・プリンシプルの強化を求めた。
(注2)AF:AssociatedFinancing
DACにおいて混合借款問題を検討する際に使用している概念。譲許的資金(条件の緩和された資金,例,ODA)と非譲許的資金(例,輸出信用)との組合せであり,その一方又は双方が調達に対するタイド性のある信用を指す。このAFを対象取引として,DACは1983年にガイディング・プリンシプルを採択した。
SimilarTransactionsとは,AFではないが,AFと同様の経済効果を持つ取引を指すものとされているが,その正確な定義は存在しない。
11.ポーツ議長が本年末でDAC議長を去るに当り,DAC加盟国は,ポーツ議長の82年以来のDAC議長としての職務遂行に対し賛辞を送るとともに将来を祝した。
(別添)
援助経験のレヴューからの援助政策に対する結論
85年DAC上級会合において,DAC加盟国の経験のレヴューから援助の政策及び実施の改善のためのガイドラインとして以下の教訓が引出された。
A.プロジェクト選択・デザインのレベルにおける実施面の教訓
1.プロジェクトの持続性・活力は,プロジェクト選定における厳密さ,より明確かつ現実的な目標の設定,デザインのより一層の柔軟性及び問題点が明確になった場合のより迅速な調整により,改善可能である。
2.自立に向けて段階的に前進するとの合意の下に,リカレント・コスト及び維持管理費の現実的供与を行うべきである。
3.現地対象グループをプロジェクトの選択,デザイン,実施に,適当な場合には現地NGOと協力して,より一層積極的に組み入れるべきである。婦人を十分に開発プロセスへ参加させるとの表明されている目的に鑑み,プロジェクトの選定・デザインのプロセスに婦人を参加させるよう特別の関心を払うべきである。
4.被援助国の経済的・社会的条件に適合した技術の選択がプロジェクトの成功にとり重要である。
5.援助機関は,特に多数の援助国が関連している場合,小規模の被援助国に負担となっている複雑な手続きに,より一層関心を払うべきである。
6.効率的な調達は,プロジェクト費用,完成後の運営・補修の点で被援助国に実質的利益をもたらしうる。調達がタイドの場合,援助国が競争力を有している供給品を注意深く選択することを含め,柔軟に実施すべきである。効果的な価格及び品質の管理がなされなければならず,また特に内貨融資もしくは第三国調達が不可欠の状況ではタイド性を放棄しなければならない。
B.計画策定及び援助調整のレベルにおける実施面の教訓
7.援助は,より広範な開発目的・政策及び計画の支援に,より関心を払わなければならない。
8.開発途上国は,自国及び外部の資金の効果的及び調整のとれた利用のため一貫した開発戦略及び計画を必要としている。国際機関が本件分野の支援に適当であるが,二国間の援助国も,特に専門知識を有しているセクター・レベルでの政策助言及び応々にして費用のかかる事前の分析作業において役割を有している。
9.開発への包括的アプローチは,食糧安全保障及び農村開発が相互に関係し合っている分野において特に重要であり,大部分の低所得国において重要なプライオリティーを有している。
10.食糧援助は,資金的及び技術的な他の援助形態と統合され,食糧安全保障改善のための各国の計画及び政策と密接な連携を有しなければならない。緊急食糧援助が構造的食糧不足問題の解決に対する努力を弱めないよう確保することが必須である。
11.一層効果的な市場運営により公的企業の効率改善,民間企業に対する機会拡大及び経済全体の利益の拡大を図る政策措置に一層関心を払わなければならない。
12.全ての援助活動は,開発途上国の国及びセクターの公的支出計画に示されている如くの国家的開発プライオリティーに照らし検討されなければならない。かかる計画は,国際開発金融機関の協力・助言を得た援助国との注意深いレヴューと協議の対象となる場合には,開発援助の配分にとって特に役立つベースとなる。
13.純粋なコンセンサスに基づいた,実施面で有効な結論に連がる被援助国政府との援助調整のためのアレンジメントをより強化すべきである。
14.現在実施中及び計画中の援助活動についての被援助国間及び援助国・被援助国間における十分かつ率直な情報交換は,援助調整の成功及び援助の効果的利用にとり必須である。
15.政策及び計画は,開発途上国政府自身により策定・実施されなければならないものであることから,援助は,かかる分野の開発途上国の能力強化に焦点を当てなければならない。
16.援助依存を助長しうる援助形態に注意を払わなければならない。かかる危険性を有する援助形態の中には,食糧援助,使用目的の特定されない財政援助,長期的なリカレントコスト融資及びプロジェクト運営のための外国人専門家への大幅な依存が含まれる。被援助国の自立を促進する形態の援助は拡充すべきである。
これには,特に人的資源開発及び制度作りへの資金的・技術的な援助全般が該当する。