(14)ソ連最高会議におけるゴルバチョフ=ソ連共産党書記長の演説(要旨)

(85年11月27日,モスクワ)

1.先週行われたソ米首脳会談は,中央委政治局が評価しているように,ソ米両国関係のみならず世界政治全体における重要な出来事である。私は現在の情勢との関連においてジュネーブ会談の結果と意義を評価したい。

2.第1に,ジュネーブ会談への道のりが多くの理由のために長く困難であったことを述べておかねばならない。1980年代初期に政権についた米政府は公然と対立方針をとり,ソ米関係の肯定的発展の可能性そのものを否定した。この年月の反ソ・レトリックの調子と米国支配層によって実践された「力の立場」からの行動の性質は今日でもだれもが覚えていると思う。

3.ソ米関係における必要量少限の信頼を達成しようとする長年の相互の努力は忘れさられ,事実上2国間協力の1本1本の糸が断ち切られた。デタントそのものが米国の利益に反するものとのらく印を押された。

4.ソ連に対する軍事的優位を達成する方針に従った米政府は自国の核その他の再軍備計画を推進した。米国製第一撃ミサイルが西欧に配備され始めた。こうして,高いレベルの軍事的政治的不安定さとそれに伴う危険に満ちた状況が形成されていった。

ついには「スターウオーズ」計画,いわゆる「戦略防衛構想」が出現した。ワシントンはこの構想に取りつかれるようになった。宇宙に兵器を進出させる計画は例外なく地球上の全人類にとって極めて危険である。

5.しかしわれわれはまたもう1つの事実を知った。すなわち米国の政策は必然的に現実とは相いれない。ソ連はその同盟諸国とともに自らに対する軍事的優位を許さないことを明確に宣言した。

6.米国の同盟国の安全の利益に対するワシントンのあからさまな無視と,危険な軍事的優位を求めてあらゆる手段に訴えようとするその姿勢に直面して,米国の同盟国の間にさえ混乱が生じた。米国国内でもこうした方針は深刻な不信を生んだ。

「スターウオーズ」準備計画の宣言は世界中に警報を発した。

7.これは,対決を目指した方針が世界の発展を決定すると考えた人々にとっては誤算であった。これと関連して,世界支配の夢は基本的に誤っていると付け加えておこう。

8.軍事戦略的均衡の破壊を目指す米国の方針を断固として拒絶しているソ連は大規模な平和のイニシアチブを打ち出し,平和と安全の重要問題に対するアプローチにおいて抑制と建設性を発揮した。

9.われわれのイニシアチブは,世界舞台においてわれわれが何を達成せんとしているか,われわれが米国とその同盟国に対して何をするよう求めているかを明確に示した。ソ連によるこれらの行動は世界世論の熱烈な賛同を得,各国の政府によって高く評価された。

10.これらのファクターの影響を受けてワシントンは策を講じることを余儀なくされた。これ見よがしの平和愛好性が米政府の声明に現れた。これらは行動に裏打ちされていなかった。

今年の初めに,われわれのイニシアチブによって,宇宙および核兵器全般をその相互関係の中で包括的に扱い,宇宙での軍拡競争の防止と地上でのその停止を目指した,ソ米新交渉に関する合意が達成された。

11.ソ米関係の雰囲気および若干の米国の国際行動は変化を受け始めた。

12.われわれは,ソ米関係および世界情勢全般を決定する問題,すなわち安全保障の問題が交渉の中心になるとの前提に確固として立脚していた。その際われわれは,欧州および世界の政治的,戦略的現実,われわれの友邦と同盟国の意見,各国の政府と民間団体の見解,首脳会談が行われるべくあらゆる可能な事を行うようにとのソ連に対する彼らの絶えざる要望を考慮に入れた。

13.米国大統領との最初の1対1の会談およびその後の首脳会談はジュネーブ会談で大きな位置を占めた。つまりこれらの会談ではソ連代表団がその解決を求めてやって来た問題,国際生活の中心に置かれている最も焦眉の問題,核戦争の防止と軍拡競争抑制の問題が直接提起された。この点にこそわれわれの会談の主要な意義があり,それが会談の結果を左右する,と私は大統領に述べた。

14.ジュネーブ会談は時として極めて先鋭で,この上なく率直だった(と私は言いたい)と強調しなければならない。互いに出し抜きあったり,政治的・宣伝工作的な紋切り型を押し付けることは不可能だった。この戦争と平和のカギとなる問題に余りにも多くのことがかかっているからである。

15.米国側は会談の際,自国の戦略防衛構想(SDI)の実施を頑固なまでに主張した。われわれに向かって,元来兵器でない,もっぱら防衛的な手段の創出が問題になっているかのように言った。同手段が情勢の安定化と核戦争全般の防止に役立つかのように言った。また,近い将来,同手段を共有しよう,互いに実験室のドアを開放しておこうという提案さえ行った。われわれは大統領に対し,そうした考えには同意できないと率直に言った。われわれはこれらの問題全体を綿密に分析し,次のような明確な結論に達した。つまり宇宙兵器は全く防衛的なものではなく,それは宇宙の盾のかげから先制核攻撃を加えることができ,報復攻撃を阻止するか,すくなくともそれを弱めることができるという危険な幻想を生み出しかねないものであると。宇宙兵器それ自体が地上の目標の撃破手段として使用されないという保証がどこにあるのか。米国の対ミサイル防衛宇宙システムが「盾」としてではなくて,攻撃兵器コンプレクスの一部として構想されていることは,あらゆることから明らかである。もちろんわれわれは,米国の計画が予定している宇宙手段はそもそも兵器ではないという主張に同意することはできない。米国が同計画により創出することに成功したあかつきには,それをわれわれと共有するつもりであるという言明も同様に信ずることはできない。たとえ実験室のトビラを開放するにしても,それはもっぱら攻撃用宇宙兵器の創出禁止に対する監視を行うためであって,これらの兵器を合法化するためでは全くない。

16.われわれに対して,ミサイルヘの恐怖を一掃し,核兵器全般を廃絶する希望が述べられた。そのような希望は歓迎できるばかりである。それはわれわれの政策の目標とも完全に一致している。だが,それなら攻撃宇宙システムを創出せずに,軍備を一掃する方がはるかに容易ではないか。一体なぜ何百,何千億ドルも支出して,核兵器に加えて宇宙兵器までたくわえようとしているのか。それに一体どんな意味があるのか。

17.私は大統領に,果たして米国指導部は,米国の宇宙兵器が創出された場合,われわれが戦略兵器を削減し,自らの手でそれを弱体化すると本気で考えているのかとたずねた。そんなことを期待してはならない。それとは正反対のことが生じるだろう。

18.ソ連はもし必要なら,均衡を回復する目的で,米国人が創出する「スターウオーズ」の電子・宇宙機構を無力化するため自己の兵器の効力,精度と威力を高めることを余儀なくされるだろう。果たして米国人は,ワシントンが計画する宇宙兵器の編隊に宇宙でわが国の兵器が加わった場合,居心地がいいと感じるだろうか。米国は宇宙空間での独占者になることを期待したりはできない。こうしたことはみな,極めてバカげている。

19.ソ米両国の利益,世界の諸国民の利益に合致するようなソ米関係の真の転換のためには,新たなアプローチが必要だと私は思う。それは両国指導者の政治的意志に多分にかかっている。ソ連は米国に対して敵意は抱いておらず,米国民を尊敬していると,私はジュネーブで強調した。われわれは,米国の国益を損ないたいという願望の上に自国の政策を立案しているのではない。そればかりか,われわれは戦略バランスを自国に有利に変えようとも望んでいない。なぜ望んでいないかというと,そんな状況は相手方のさい疑心を強め,全体の情勢の不安定さを増すからである。

20.われわれは確実な防衛という観点からは,ソ米が現在実際に保有しているよりもはるかに低い軍備水準で足りると確信している。つまり,軍備の制限・削減を目指す実際的な重みのある措置,ソ米両国の安全および世界の戦略的安定を弱めないばかりか強化する措置は全く可能だと思う。

21.ジュネーブ会談で討議された他の諸問題について言おう。まず,地域紛争問題から始めよう。

22.米大統領はアフガニスタン問題に触れた。これに関連して,ソ連がアフガニスタンをめぐる情勢の政治的調整のため一貫して行動しているということが改めて確認された。われわれは,友好的な,われわれの隣人であるアフガニスタンが独立した非同盟国であること,またアフガンヘの内政不干渉体制が確立され,保証されることを目指している。まさにそのことによって,同国からのソ連軍部隊の撤退問題も解決されるだろう。ソ連とアフガニスタン政府はひたすらそれを目指している。だが同問題の速やかな解決を妨げている者がいるとすれば,それは第1に米国である。米国は反革命徒党に財政援助し,彼らを支持し,武装して,同国情勢の正常化を目指す努力を妨げている。

23.ジュネーブ会談の主要な結果を一体どのように評価することができるか。会談は無論,有意義な出来事だった。直接の,明快で具体的な対談は有益であり,双方の立場を正確に比較できるのは有益である。真剣に検討し,行き詰まりを打開しなければならない一触即発の先鋭な問題があまりにも多く蓄積されていた。われわれは米大統領との間に確立された個人的接触を評価している。最高指導者の対話は常に,国家間関係において真の契機である。このような対話が行われたということが重要である。現在の複雑な時代には対話それ自体が情勢安定化の要因である。だがわれわれはリアリストであり,軍拡競争停止に関する最重要問題の解決は会談では見いだすことができなかったと率直に言わねばならない。「スターウオーズ計画」を米国指導者が放棄しようとしないことが,ジュネーブで現実の軍縮,とりわけ核兵器と宇宙兵器の中心的問題について具体的合意に達することを不可能にした。双方が蓄積した兵器の量は,会談の結果,減りはしなかった。軍拡競争は続けられている。そのことは失望を呼び起こさずにはおかない。

24.ソ連と米国には,世界情勢および個々の地域の出来事の展開に関する他の一連の原則的問題で相変わらず大きな意見の相違があった。だがわれわれは,ジュネーブで達成された合意の意義を過小評価するつもりは全くない。そのうちの最も重要なものを想起しよう。それは第1に,共同声明の中で,核戦争は決して起こしてはならない,核戦争には勝者はあり得ないという共通の理解を成文化したことである。

ソ米の義務は,この争う余地のない真理に立脚して両国関係を築き,軍事的優位を求めないことである。われわれは,最高レベルで共同で確認されだこうした理解は,両国の対外政策の基礎に実際に据えられねばならないと考える。

25.もちろん共同声明は条約ではないが,両国指導者の原則的方針を多分に制約するものである。ソ米は核兵器拡散防止体制の効力の全面的向上を促進する自己の義務を確認し,この方向での共同の実践的措置について合意した。現在の不穏な国際情勢の下で,このことは世界での安定性の維持と核戦争ぼっ発の危険の減少にとって少なからぬ意義を持っている。両国指導者が化学兵器といった野蛮な兵器の完全全面禁止と廃絶を共に支持したことは原則的意義を持っている。

26.会談の結果,ソ米2国間協力の発展の多くの方向で一連の有益な合意が得られたことは,もっぱら歓迎できることである。私は,これらの合意は,もちろん,作成されたものを誠実に取り扱い,その中に込められた一切のよいものを発展させ,故意の口実を探し求めようとしないならば,両国と両国民の信頼のレベルを高めるよい基盤となるだろうと思う。首脳レベルでの新たな会談も含めて,ソ米の政治的接触を続けることに関しジュネーブで達成された合意が持つ意義について特に言わねばならない。こうして,ジュネーブでの全体的バランスは肯定的なものであると言うことができる。このような希望のもてる成果の達成は無論我が国の建設的な一貫した政策によって決定的に促進された。それと同時に,会談での米国の立場に一定のリアリズムの要素が現れたことについても言わなければ公正でないだろう。そのことは一連の問題の解決を促進した。

27.もちろん,ジュネーブで取り決められた一切の有益なものの実際の意義は,実際行動の中でのみ発揮され得るものである。これに関連して,ソ連としては断固たる決意で,米国との緊密な協力の精神で軍拡競争の制限と国際情勢の全般的健全化にまい進ずる意向であると言明したい。われわれは,米側にも同様なアプローチが現れることを期待している。その時には,ジュネーブで行われた活動が真の実を結ぶだろうと確信する。これが,この出来事と国際関係におけるその役割に対するわれわれの評価である。

28.こうした評価をわれわれの同盟諸国,社会主義兄弟諸国も共有していると満足をもって言うことができる。そのことは,ソ米ジュネーブ首脳会談終了直後に行われたプラハでのワルシャワ条約加盟諸国指導者会議がこの上なく明白に証明している。プラハ会議の出席者は「情勢は無論,依然として容易ではない。情勢健全化のたたかいは続けられる。だからこのたたかいの条件は,今日では改善されたということができる。ジュネーブ会談は,平和確保を目指すわれわれの長期にわたる共同の緊密に調整される努力の重要な一環である」と強調した。

29.ソ米ジュネーブ対話の結果はどうなるかという問題を提起するのは自然である。

われわれはすでに述べたように,新たなソ米首脳会談の開催に関する合意に大きな意義を与えている。この問題に対しわれわれは形式的にアプローチしないと強調したい。両国指導者の新たな会談が今後行われるという事実そのものではなく,その結果がどうなるかが重要である。諸国民は,ジュネーブで決められた道を実際に前進することを期待している。まさにそのためにわれわれは努力する。次期ソ米首脳会談へ向けた準備を今からでも,まつ先の順序で,実際政治の分野で開始しなければならない。

30.現在,核戦争の脅威を著しく弱め,さらに核戦争ぼっ発の可能性を完全に根絶する現実のチャンスが存在している。このチャンスを逸することは,致命的な誤りだろう。われわれは,ジュネーブで戦略防衛構想(SDI)について述べられたことが,米側の最終的な立場ではないことを期待している。私とレーガン大統領は,ジュネーブ核兵器・宇宙兵器交渉の両国代表団に本年1月の両国合意を基礎として交渉を促進するよう委託することを取り決めた。こうして両国は,核兵器削減の総合的見地から解決をはかりつつ,宇宙での軍拡競争を防止する必要があるということを首脳レベルで確認したのである。ソ連はまさにそれを達成すべく努めるだろう。われわれは,ほかならぬこのことを米国に呼びかけ,共同で自ら負った義務を実際に遂行し,全人類の希望にこたえるだろう。

31.核実験の停止問題について述べたい。ソ連はあらゆる種類の核実験のモラトリアムを宣言した。そしてもし米国が相互主義でこたえるなら,同モラトリアムを延長する用意がある。われわれは米国指導者に,情勢全体に極めて良い影響を及ぼし,情勢をかなり変え,両国の信頼を強化するような具体的かつ積極的な決定を期待している。われわれのモラトリアムは依然効力を持っている。それは来年1月1日に期限が切れる。米国政府がこの点を考慮し,自国民およびすべての国民に対する大きな責任感を自覚し,われわれの呼びかけに肯定的にこたえる立場に移行する可能性がまだ存在すると思う。われわれはこの問題をジュネーブで米国大統領に提起した。その答えは沈黙であった。それだからこそ私は,いまこのことを語り,この点を強調するのである。

32.ソ連指導部はアジア・太平洋地域を真剣に重要視している。ソ連の最長の国境線はアジアにあり,われわれはここに隣国のモンゴルから社会主義ベトナムに至るまでの誠実な友邦と信頼すべき同盟国を持っている。この地域が緊張と武力衝突の源とならないよう保障することは極めて重要である。われわれは,平和,善隣,相互信頼と協力のためのこの地域におけるすべての国家間の政治的対話の拡大を支持している。

33.われわれは,宇宙軍事化に反対している中国の立場と核兵器先制使用を放棄しているその声明を歓迎している。

34.われわれは日本とのより良い関係を目指しており,これが可能であると確信している。これはわれわれ両国が隣国であるという単純な事実に根ざしている。また,ソ日両国の利益は核の脅威の排除という死活問題においてもいやがうえにも一致している。

35.われわれは,ラテンアメリカ,アフリカ,中東の多くの国々との対等な協力関係を確立した。ソ連はこれらの関係を発展させるべく果敢に活動し続ける。

36.軍国主義は国家の敵である。軍産複合体の金銭欲にかりたてられた軍備競争は全くの狂気である。これはすべての国家と国民の死活の利益に影響を与える。だからこそ,核兵器廃絶の代わりに軍備競争を宇宙に進出させるようわれわれに提案されてもわれわれは断固「否」と答える。われわれが「否」と述べるのはこうしたステップが資金の気違いじみた浪費の新たな局面を意味しているからである。われわれが「否」と述べるのはこれが,すでに世界の上に暗くたちこめている脅威の増大を意味しているからである。われわれが「否」と述べるのは,生活そのものが軍備競争ではなく平和のための共同活動を求めているからである。

37.ソ連はこの方向での国際生活の発展を断固支持している。

38.ソ連のイニシアチブによって各国の科学者たちの参加のもとに,エネルギー問題を抜本的に解決する可能性を開いている「トカマク」熱核反射炉事業に関する活動が始まっている。科学者たちによると,今世紀中にも無尽蔵の熱核エネルギー源である「地球の太陽」を開発することが可能である。われわれは,この重要な事業を続けることがジュネーブで合意されたことを満足をもって指摘する。

39.宇宙における平和協力および宇宙の研究と開発における各国の試みを調整するための世界宇宙組織の創設についての広範かつ詳細な計画を国連に提出したのはわが国である。こうした協力にとっては真に無限の可能性が存在している。この計画は基礎的な研究事業とその成果の地質学,医学,材料学,気象学,環境学への応用を盛り込んでいる。この計画はグローバルな衛星中継通信システムと地球の遠隔調査の開発を盛り込んでいる。最後にこの計画は大型軌道科学ステーション,各種の有人宇宙船および全人類のためのその利用,低空宇宙の究極的工業化といった最新の宇宙工学の発展を盛り込んでいる。これらすべては「スターウオーズ」に対する現実的な対抗策であり,全人類のための平和な未来に向けられている。

40.われわれの政策は明確に平和と協力の政策である。われわれの外交政策の成功は社会主義体制の体質に固有のものである国民経済において達成された成果は,われわれの方針の正しさを証明する経済的のみならず重要な道徳的,政治的帰結である。

41.われわれは,祖国に対する高い責任を認識しているすべての党員,すべての農民,すべての技術者と科学者,すべての労働集団が自らの義務を果たすことを確信している。

42.われわれは,1986年度の計画が首尾よく遂行および超過遂行され,わが国が更に豊かで強力になり,地球の平和が強化され勝利することを保障するためのあらゆることがすべての職場で行われることを確信している。

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