(10)第40回世銀IMF総会におけるベーカー米国財務長官演説(要旨)

(85年10月8日,ソウル)

1.成長のための基礎

先進国における健全な政策と低インフレの持続的成長が債務問題に関する戦略及び債務累積国の経済成長拡大のための前提条件である。

2.債務問題に関する戦略

(1)我々は3年前に債務問題解決及び債務国における経済成長の回復のために,柔軟的かつ協調的なケース・バイ・ケースの戦略を開始した。同戦略は,一応の成果を収めたが,多くの主要債務国が最近再び,経済環境改善努力において後退を見せている。かかる状況を踏まえ,債務問題解決のためには,次の相互に補強し合う3点を内容とする「持続的成長のためのプログラム」が必要である。

(イ)経済成長と国際収支調整の推進及びインフレ低下のための主要債務国による総合的マクロ経済・構造調整政策の採用。

(ロ)かかる経済成長政策を行う主要債務国支援のため,IMFが引き続き中心的役割を果たしつつ,構造調整融資を拡充する国際開発金融機関と協力すること。

(ハ)上記総合的経済調整政策支援のための民間銀行融資の拡大。

(2)米国は,ケース・バイ・ケースの債務問題戦略を引き続き支持するものであるが,民間銀行及び国際開発金融機関における十分な資金供与は,債務国側に経済成長の見通しがある場合に実現するものであることに鑑み,途上国による適切な経済政策が重要であると考える。

3.債務問題戦略の3要素

上記2.の戦略の3要素に関するコメントは次の通り。

(1)主要債務国における構造調整

中所得債務国による適切な経済政策の実施・維持は,同諸国が必要とする資金調達実現にとり不可欠であり,同諸国はマクロ経済政策とともに経済成長達成のための中長期的な供給面に関する政策を実施すべきである。かかる制度的・構造的経済政策は次の諸点を含めるべきである。

(イ)雇傭,生産,効率性拡大のために民間部門を重視し,公共部門を削減すること。

(ロ)国内貯蓄を増し,国内及び海外よりの投資拡大のために税制改革,労働市場改革,金融市場改善を通じ供給面における政策を実施すること。

(ハ)貿易自由化とともに直接投資と資本流入を推進するための市場開放措置を取ること。

(2)国際開発金融機関の効率改善

(イ)経済成長の重要性を強調することは決してIMFの重要性を軽視するものではなく,IMFは引き続き途上国に対し経済調整と成長のための助言を行う中心的機関であるべきである。他方,IMFが支援する途上国の政策は,経済成長指向の政策であるべきであり,この観点より,IMFは世銀と密接に協力することが重要である。

(ロ)世銀は,経済成長重視の政策及び制度的並びにセクターレベルの改革支援のために,足の速い融資を拡充する余地があり,右は,民間銀行による融資の触媒機能を果たし得る。世銀及び米州開銀(IDB)の融資拡充計画は主要債務国に対する融資ディスバースメントを現行水準の年間約60億ドルから約50%引き上げることが可能である。ディスバースメント水準引上げのためには,国際開発金融機関は国際資本市場からの資金借り入れを増やす必要があり,又,同機関による融資は,途上国の債務返済と成長の推進を支援するような経済政策に対し行われるべきである。

(ハ)世銀は従来以上に民間部門支援の融資を行うべきであり,又,民間銀行との協調融資を推進すべきである。

(ニ)国際金融公社(IFC)の資本拡充及び最近交渉が行われてきた国際投資保証機構(MIGA)は,途上国支援のための世銀グループによる重要なイニシアティヴである。我々は全ての世銀加盟国特に主要債務国に対し,MIGA設立に対し全面的に支援するよう要請する。

(ホ)もし,途上国が経済成長重視の政策改善を実施し,民間銀行がパフォーマンスの良い途上国に対し新規の資金供与を行い,かつ,世銀融資に対する需要が世銀の増資を必要とする場合には,我々は世銀一般増資の時期及び規模につき真剣に検討する用意がある。

(ヘ)世銀の活動は,地域的開発金融機関の活動により補完されるべきである。主要債務国のいくつかが,中南米諸国であることに鑑み,IDBの融資が経済成長重視の構造改革に貢献するような方向で強化されるべきである。経済成長推進のための明確な経済戦略が確保される場合には,IDBによる適切な目標を持った非プロジェクト融資の拡充につき検討されることもあり得よう。

(3)民間銀行による融資拡大

(イ)民間銀行は過去3年において,重要な役割を果たしてきたが,ここ1年半の間に,債務国に対する融資純額が低下してきている。もし,民間銀行の新規融資が,途上国における経済成長政策を支援することになるとの確信を得られるならば,民間銀行が有している懸念は解消されるであろう。

(ロ)援助国が,国際開発金融機関支援を拡充し,被援助国が,適切な経済成長政策を採用することを求められるのであれば,民間銀行による支援拡充も同時に求められるべきである。

(ハ)我々の試算によれば,特に,深刻な債務問題に直面している中所得開発途上国に対し,向こう3年間において約200億ドルの新規融資が必要である。債務国が経済成長政策採用の約束を行なうことを条件に,民間銀行が,右融資の約束を行うよう希望する。これに関し,民間銀行側からの意見を歓迎する。

4.最貧国問題(IMFトラストファンド)

(1)国際収支問題に悩む低所得債務国に対し,今まで以上に,長期的観点より支援を行う必要がある。

(2)IMFトラストファンドの返済資金は,国際収支問題に悩む最貧国の経済問題解決のためのチャンスを与えるものと考えられる。27億ドルの同資金は,他の資金源による補完的資金とともに,債務国の総合的経済政策支援に貢献することが出来よう。又,かかる経済政策は,IMFと世銀が密接に協力することにより更に効果的となり得るものであり,場合によっては,両機関による共同アプローチにより,最も効果的となり得る。

(3)米国は,IMFと世銀とのより密接な協力を伴なう,より大胆なアプローチを検討する用意がある。

(4)米国は,他の援助国が同様の支援を行う用意があるのであれば,上記アプローチ支援のための資金確保につき検討する用意がある。

(5)いくつかの国が,かかるアプローチに対する留保を行っているが,右アプローチは最貧国を支援し,IMFと世銀との関係を強化するものであるので,今後数ケ月の間に更に検討するよう希望する。

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