(6)2000年に向けての婦人の地位向上のための将来戦略

(要旨)

(85年7月26日,ナイロビ)

序章

・国連の創立,新国家の独立,国際婦人年,国連婦人の10年が婦人の地位向上に果たした役割を評価。

・婦人の地位向上のためには,国連婦人の10年のテーマ-平等・発展・平和-の継続とその相互関連性を踏まえた具体的,多角的戦略が必要。

・経済情勢の悪化がもたらした社会への婦人の平等参加促進の努力の遅れにより,国際婦人の10年の目的の実現が不完全。

・深刻な経済情勢の継続,構造的不均衡,先進国と途上国のギャップの拡大により深刻な危機状態にある途上国,特にアフリカの飢饉地域,債務国,低所得国の困難の緩和のためには新国際経済秩序の確立が必要。

・婦人の権利の効果的向上のためには,すべての国の法的権利,人民の自決権,独立,主権,自国内での平和な生活の権利を尊重した国際平和と安全が必要。

・「将来戦略」は長期的活動のための実質的ガイドラインであり,各国は各々の政治形態,行政能力等の実情にあわせて国内的優先度を定めることが必要。

I 平等

A障害

・帝国主義,植民地主義,アパルトヘイト,人種差別,不当な国際経済関係から生じる低開発による集団的貧困。

・男女差別撤廃のための法制度の不完全な実施。

・男女間の生理的差異に正当化された不平等の存在。

・法的権利の運用に関する婦人の知識及び婦人の権利に関する情報不足。

・差別的法制の残存,法制度全体と男女平等に関する法の間の矛盾の存在。

・社会の保守的要素に深く根ざした男女差別撤廃への抵抗

B基本的戦略

・男女平等の法的基盤の拡充強化。

・教育及び訓練の機会均等,雇用条件の平等の確保。

・婦人の地位に関する調査,統計及び差別撤廃実現に関する実効的制度の創設又は強化。

・婦人に関する固定的観念及びこれに基づく平等に対する障害の完全除去。

・婦人の地位を調査し向上させるための適切な機構の,政府の高いレベルにおける創設。

・家族の全構成員による家庭の役割分担及び経済面での婦人の目に見えない貢献に関する認識の促進。

C具体的措置

・女子差別撤廃条約その他の国際文書遵守のため国内法の見直しを行う適切な機関の設置。

・政府及び非政府機関からの男女同数のメンバーによる法改正委員会の設置。

・雇用分野における平等確保のための法制,その他の措置の実施。

・民法,特に家族法の改正。

・婚姻における平等のための法の整備。

・国内,国際会議の代表,外交官,国連幹部職員への婦人の平等な機会の確保。

・男女平等,婦人の役割等に関する教育プログラムの導入の促進。

・マスメディアにおける婦人のイメージ向上への努力。

・立法・行政措置による国及び地方レベルにおける政策決定過程への婦人の参加の確保。

・教育,組合,マスメディア等を通じた婦人の政治的権利に関する認識の促進。

・国及び地方の政策,活動に関し,その策定,調査,見直し,評価のすべての面への婦人の参加のための制度の創設。

II 発展

A障害

・生理的,社会的,文化的根拠による婦人の固定的役割の継続。

・軍拡による国際情勢の悪化,帝国主義,植民地主義,新植民地主義,拡大主義,アパルトヘイト,あらゆる形態の人種差別,搾取,武力政策,外国の占領,支配,覇権,及び先進国と途上国の経済発展のギャップの拡大。

・特に経済的に弱い立場にある途上国に深刻な影響を与えている重大な経済危機による「10年」の目標達成努力の弱体化。

・途上国との交渉を有利にするため圧力をかけることを目的とした先進国の威圧的政治,経済措置による途上国の発展への妨害。

・権利義務憲章,新国際経済秩序確立に関する宣言及び行動計画,第3次国連開発の10年のための国際開発戦略等の実現への先進国の政治的意志の欠如。

・通貨の不安定,巨額な対外債務及び先進国の国際経済協力,特にODAの減少,保護主義の強化による途上国の開発問題の悪化。

・開発と婦人の地位向上の多面的関係に関する意識と理解の不足。

・開発における婦人の参加促進のための政治的意志,適切な国内機構の欠如または不充分。

B基本的戦略

・すべての婦人が政策決定者,立案者,貢献者及び受益者として開発に実際に参加する上での障害の除去。

・婦人に悪影響を及ぼさないような,現在の経済情勢及び世界の通貨,金融システムにおける不均衡是正のプログラムの作成。

・途上国における社会的,経済的発展の促進。

・発展はそれ自体1つの望ましいゴールだけではなく,男女平等及び平和の維持を助長する重要な手段であるとの認識の確立。

・国内,国際レベルにおけるマクロ経済活動及び開発政策が婦人に与える影響の調査及びその改善。

・政府,国際機関等による婦人の自立性向上のための努力の強化。

・適切な機構の設置,強化及び法的措置によるあらゆるレベル,分野での婦人問題の組み込みの制度化。

・開発プログラムにおける婦人に対する偏見及び婦人問題の解決を妨げる先入観の除去。

・ハイレベルの管理職や専門家への婦人の登用及び婦人に対する教育訓練の平等な機会の提供。

・発展のあらゆる部門における婦人の有償及びとりわけ無償の貢献の経済統計,GNPへの反映。

・家庭の男女及び社会が親としての子に対する責任を分担するシステム創設への共同行動。

・婦人問題に関する調査努力の強化。

・発展途上国間の地域,国際レベルにおける技術協力の強化,拡充。

C具体的措置

(総括)

・開発過程への婦人の効果的な参加のための適切な国内機構の設置。

・あらゆるレベルの開発における婦人の参加促進に適した国内資源の配分及び計画の設置。

・政府による,性別の統計,情報の収集及び情報システムの開発。

(雇用)

・すべての職業における公正の確保及びパートタイム労働条件の改善。

・家庭責任との調和のための労働時間の弾力化の確立。

・雇用における差別撤廃及び婦人の労働条件の改善。

・母性保護措置及び男女双方の育児休業の確立。

・失業に対する対策の強化。

(健康)

・各国における健康開発行動計画の策定。

・健康教育の普及。

・水の確保,衛生施設整備計画,実施における婦人の参加の確保。

・家族計画に関する情報,サービスの確立。

・婦人の健康に関する調査統計の活用。

(教育)

・教育政策立案,実施への婦人の参加の確保。

・文盲根絶のための特別措置の実施。

・すべてのレベル,分野の教育における男女の機会均等確保のための措置の実施。

・男女の役割についての固定観念の排除,家庭における男女の共同責任の確保,女性学の振興をめざした教育プログラムの導入,教育過程の改善。

(食糧,水,農業)

・総合的に婦人を対象とし,その必要に応じた農村開発,食糧生産計画等の実施及び婦人の効果的参加の促進。

・国際社会,特に援助国によるアフリカの婦人の利益,役割を考慮した食糧生産強化のための援助の推進。

・作物の品種改良,土壌改良等の近代技術プログラムヘの婦人の参加の促進。

・農村婦人の自立促進のための,婦人団体やグループヘの財政,技術,制度的援助の提供。

・途上国の農村地域における水の供給計画,開発及び水資源保存への特別考慮。

(工業)

・国際機関,先進国による途上国の工業化努力への援助促進。

・婦人の科学技術,経営能力向上の実現。

・政府による,婦人の伝統的工業,小規模工業における努力に対する援助。

(貿易及び商業サービス)

・政府による貿易商業部門への婦人の完全な参加,雇用市場での性差別撤廃をめざした政策の実施。

(科学技術)

・科学技術及び宇宙の平和利用分野における政策決定への婦人の完全で効果的参加の促進。

・科学技術教育,訓練における婦人への門戸開放の促進。

・開発及び婦人の地位への科学技術の影響についての調査の実施。

(コミュニケーション)

・コミュニケーションに関する政策決定への婦人の参加の促進。

・婦人の開発,平和における役割,活動に関する情報交換のための国際協力。

(住環境,社会開発,輸送)

・住居や基礎施設に関する婦人の需要の調査及びこれの住宅供給,社会開発への導入。

・婦人の需要に応じた,特に途上国における農産物,水,薪の運搬における重労働の軽減をめざした輸送計画の実現。

(エネルギー)

・国のエネルギー計画への婦人の統合及び農村,都市の貧困婦人の重労働軽減を考慮したエネルギー供給の実施。

(環境)

・水資源開発及び砂漠化その他の環境災害のコントロールにおける国際経済協力のための機構の緊急な強化,及び環境改善のための国内・国際的活動への婦人の効果的参加の促進。

(社会サービス)

・働く婦人の二重労働軽減のため,保育所の供給等の社会基盤の整備の優先的実施。

・情報提供や法の制定による消費者保護。

・婦人や子供に対する家庭内暴力防止のための効果的措置の実施。

III平和

A障害

・国際的緊張及び国連憲章の侵害とこれがもたらす核軍拡,武力紛争,外国による占領,支配,帝国主義,植民地主義,アパルトヘイト,人権侵害,テロリズム,性差別等による平和への脅威。

・軍拡による,開発や人道的目的に利用されるべき資源の流用。

・平和に関する政策決定,平和のための努力,教育,調査への婦人の参加の制限。

・国際緊張緩和のための建設的協議推進に関する政治的意志の欠如。

B基本的戦略

・国際平和,安全の強化と維持及び外交,軍縮,国際協力を促進するすべての努力への婦人の完全な参加。

・軍縮等の世界的問題,個別の紛争に関する諸活動における婦人相互の協力。

・国連憲章の基本原則の尊重及び関連国連決議の実施。

・南西アジア及び中央アメリカにおける紛争の停止と外国軍隊の撤退に基づく政治的解決の実現。

・国家解放運動に果たした婦人の役割に対する認識と政策決定への平等な参加の確保。

・平和と安全,自決及び国家の独立が「10年」の目標達成の基本であるとの認識に基づいた戦略の策定。

・戦争・特に核戦争の危険に対する婦人の反対運動の高まりの尊重。

・社会のすべてのメンバー,特に若い世代に対する平和教育の確立。

・婦人に対する暴力の防止,婦人の犠牲者救済のための法的手段及び国内機構の確立。

C具体的措置

・世界軍縮キャンペーンヘの婦人の参加及び軍縮教育への婦人の貢献に対する支援。

・国際平和年のプログラムヘの婦人の参加の奨励。

・国際平和及び協力の増進に関する政策決定への婦人の参加の促進。

・婦人に対する外交への参加及び軍縮に関する会議への出席の平等な機会の提供。

・家庭や社会における平和教育促進努力への婦人の参加の奨励。

・現代の国際問題に関する婦人の知識増加のための条件整備。

・平和研究における婦人の参加の奨励。

IV 特殊な状況の婦人

特殊な状況にあるために婦人に共通な問題の他に特別な困難を抱えている婦人の向上のための追加的戦略,措置は次の通り。

A地方における貧困婦人

・地方の開発のための公正で安定した投資と経済成長政策の実施。

・貧困婦人の食糧生産能力増進のためのプログラムの策応

B都市における貧困婦人

・経済活動,差別撤廃,援助事業に重点をおいたプログラムの策定。

C武力紛争,外国の侵略,平和の脅威の地域における婦人

・武力紛争の制限を目的とした国際文書,交渉等を考慮した措置の実施。

D老婦人

・社会保障提供のための長期的政策の実施。

・雇用の可能性の開発及び社会的,娯楽的活動への参加の奨励。

・労働における搾取的待遇の撤廃。

・性的暴力からの保護。

F虐待されている婦人

・家庭内及び社会における暴力の犠牲となっている婦人への援助。

・婦人に対する暴力排除のための政策及び措置の確立。

G極貧の婦人

・国連婦人の10年の目的促進のための将来戦略,第3次国連開発の10年のための国際開発戦略,新国際経済秩序を基礎とした適切な行動の実施。

H人身売買,強制売春の犠牲となっている婦人

・売春のための婦人の人身売買廃止のための国際措置の緊急な実施。

・暴力,麻薬,売春に関係する犯罪防止のための規定の強化及び警察の国際的協力の強化。

I伝統的生活基盤を奪われた婦人

・国内及び国際レベルにおける環境破壊の制限。

・灌漑,植林等開発計画への婦人の参加を目的とした環境保全戦略の策定。

J単独で家庭を支えている婦人

・経済的独立の維持に充分な所得,社会的援助の確保。

・世帯主としての役割を男性のみに制限する法の撤廃。

K心身障害の婦人

・障害者に関する世界行動計画の適用の奨励。

・共同体レベルのリハビリテーションのための措置,生活のあらゆる面への参加の機会の提供。

L受刑中の婦人

・カラカス宣言の原則に基づいた国内,国際レベルにおける具体的措置の実施。

M難民女性

・難民の生じる根本的原因の排除。

・身の安全の保障の下での出身地への自主的帰還及び出身国の経済,社会,文化への完全な統合をもたらす継続的解決法の確保。

N移民女性

・受け入れ国による家族の結束の保護,雇用における平等,現存の社会保障による利益の享受の保証。

O少数土着の婦人

・政府による,少数民族の人権,尊厳,宗教,文化,言語に対する尊敬,保護及び社会的変化への参加のための措置の実施。

Pアパルトヘイト下の婦人と子供

・国連システム,政府,非政府機関による法的,人道的,医学的,物質的援助。

・国家解放運動団体の婦人部門への援助。

・隣接するアフリカの独立国の経済基盤へのアパルトヘイトの悪影響に関する認識の増大。

・ナミビアの独立に関する安保理決議の迅速で効果的な実施。

・政治,軍事,外交・経済の分野における南アの人種差別体制との協力終結のための効果的措置の実施。

・南アに対する制裁を要請する国連決議の国際社会による効果的実施。

・アパルトヘイト撲滅のための婦人のコミットメントの強化と,このために戦っている婦人への支援。

Qパレスチナの婦人と子供

・関連国連決議の実施。

・国連決議に基づくパレスチナ人の自決権及び独立国家創設の権利の回復。

・国連によるパレスチナ入の生活条件に関する適切な研究の実施。

V 国際及び地域協力

A障害

・国際的緊張,軍拡,国連憲章の原則の侵害及び経済不況による途上国の発展のペースの遅れ。

・国際機関における婦人職員の地位向上,雇用増大に関する不充分な成果。

・婦人活動のフォーカルポイントに指定された国際機関の資源不足。

・開発のための資源としての婦人の地位に対する認識不足。

B基本的戦略

・「将来戦略」の実施に関する情報収集のための効果的な協議報告システムの確立。

・途上国間技術協力の推進と技術協力政策立案への婦人の参加の確保。

・婦人の地位向上に関する情報交換における国際・地域間の調整の強化。

・平和,安全保障に関する国際・地域レベルの活動及び政策決定への婦人の参加の増大。

・国連,地域委,専門機関における男女職員の均等なバランス達成のための措置の実施。

C具体的措置

・婦人の地位委における,各国,地域,国際レベルの「将来戦略」の目標に向けての具体的措置とその実施状況に関する定期的報告の検討。

・婦人の地位委で検討されるガイドラインに基づいた各国,地域委,NGOからの情報収集手続きの合理化。

・各機関による開発における婦人に関する特定のガイドラインの作成。

・開発における婦人の中心的役割に対する認識の増大のための各機関のスタッフの訓練の実施。

・技術協力活動へのNGOの参加の奨励。

・国連システム及び援助機関による婦人の自立強化プログラムヘの援助。

・国連システムによる婦人のための訓練計画の強化の継続及び国連婦人の開発基金の重要性に対する認識の確立。

・婦人問題分野での国連機関の活動の見直し,調整に関する経社理の役割の充実。

・国連の将来の中期計画への婦人問題関係プログラムの編入。

・国連婦人の地位向上部による国連システム内の婦人活動のフォーカルポイントとしての任務の継続。

・婦人に関する国連世界会議の1985~2000年における最低1回の,必要な場合には例えば5年毎の開催の奨励(但し,その開催についてはその度毎に国連総会が決定し,既存の財源によるものとする)。

・地域レベルにおける婦人問題を取扱う機構の強化。

・国連による,政治における男女の平等参加及び国際貿易・技術移転等に関する国際的な決定,軍拡等の婦人への影響等に関する調査,分析の実施。

・国際婦人調査訓練研修所の強化。

・各国際機関における婦人職員の地位向上,増員の実現。

・男女平等の必要性と差別的慣行の除去に関する国レベルのキャンペーンを支援するための国際的プログラムの策定。

・国連システムによる,広告及びマスメディアにおける男女別の固定観念に関する研究の実施。

・マスメディアによる国際平和促進における婦人の役割に関する情報の普及。

・国連合同情報委の経済社会情報に関するプログラムヘの婦人問題の編入。

・政府及び国連システムによる「将来戦略」に関する広報の実施。

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