(2)日米欧委員会第16回東京総会委員長ステートメント(仮訳)

(85年4月25日)

日米欧委員会は,西欧,北米,日本という3地域の先進民主主義諸国間の相互関係を民間や議会のリーダー同士の話合いを通じて強化することを目的に,1973年に設立された。各地域の指導者的立場にある民間人による定期的会合および共同研究を通じて,日米欧諸国間のパートナーシップの3つの重要な側面が再確認されるようになった。すなわち,

1.日米欧諸国は,ともに民主主義的価値や民主的政府機構を重要視するパートナーの集まりである。

2.日米欧諸国は,世界各国民の自決権を堅持し,世界の平和を促進し,ソ連との積極的対話を強化することに共通の利害関係を見出す安全保障上のパートナーである。

3.日米欧諸国間のパートナーシップは,世界経済が適切に機能するためにも,また,先進工業諸国と開発途上諸国双方の経済成長にとっても不可欠なものである。

今回の東京総会では,3日間にわたり活発な議論が展開されたが,これはきわめて厳しい国際環境を反映したものであった。すなわち,世界経済は不確実性を一層高め,貿易摩擦が特に日米関係を中心に戦後このかたかってないほどの厳しさを加え,西欧諸国やカナダにおける失業率は継続的に高いレベルにとどまり,また経済的利益を改善するためには多くの国が国際的協調行動よりも一方的行動に重点を置き続けるといった状況が続いている。

3日間の討議を通じて,現下の危機的状況に対処し,より安定的かつ広範な広がりをもつ経済回復の地歩を確固たるものにするために,これまで以上に具体的な措置を展開することが急務であると繰り返し強調された。

来たる先進国首脳会議は,日米欧諸国間の調和という原則を再確認し,緊急アクション・プログラムを開始する格好の機会を提供するものと思われる。

日米欧の各国政府が要請される行動は,相互に関連しあっている。日米欧諸国政府は下記の諸事項を実行に移すべきである。

1.経済回復にとり障害となり,経済全体にも害を及ぼしうる保護主義的圧力に抗すること。

2.財およびサービス双方の貿易を対象とするガット新ラウンド早期開催を実現させるための,具体的交渉内容や,交渉全体の決定を含む具体的な手順をスケジュールに即して開始し,先進国首脳会議で交渉日程を決定すること。

3.国際金融上の不均衡,とくに基軸通貨をめぐる不整合性と為替レートの過度の変動につき,より集中的な討議を展開すること。日米欧諸国政府は,さらに然るべきレベルの専門家による会議を開催し,国際金融システムの根底をなす諸原則の徹底的な共通の再評価への道を開くべきである。

4.開発途上諸国における福祉の増進を支援すること。特に,サハラ以南のアフリカにおいては,現在の飢餓に対処し,世界銀行等の国際機関を通じて政策討議を強化し,食糧安全保障を増進させ,長期的農業生産を増加させるための各種のプログラムが,人道的見地からも経済的,政治的見地からも急を要する。

以上の共同行動に加え,日米欧の各地域は,以下の個別のプライオリティー分野を強調すべきである。

日本については,世界貿易金融システムの正常な機能に対する貢献の度合を強化する必要性がある。われわれは,資本の自由化,貿易障壁の軽減や,電子通信機器市場の開放度の拡大などを含む日本の自主的な積極的措置を歓迎するものである。前進に向けてのはずみを失わないようにするために,これらの措置を時を移さず実施することが必要である。また,日本はその非常に膨大な貿易黒字のゆえに,自ら先頭を切って,新ガット・ラウンドヘの道をリードしていく上で絶好の立場にあるといえよう。

米国に関しては依然として巨大な財政赤字を解消させることが米国の国益のみならず,世界経済にとっても,最も重要な問題である。財政上の均衡を回復させ,それを通じてドル価値を下げ,経常収支,貿易収支上の均衡を獲得させることができるのは,米国自身だけである。

西欧諸国に関しては,雇用機会を拡大させるための積極的行動が必要である。米国が財政赤字を縮小させ,それにより実質金利を下げることができれば,欧州諸国が拡大金融政策をとりうる余地が増す。西欧諸国は同時に,経済成長を妨げ,高い失業率を生み出してきた構造上の硬直性を減ずる必要もある。米国の場合と同様,カナダも,財政赤字を大幅に縮小する必要があるが,同時に,深刻な失業問題に対処する必要もある。

世界経済の回復は,決して自動的な過程ではない。日米欧諸国の政府および国民は,誤まった楽観主義にくみするべきではないが,同時に,不必要な悲観主義に陥るべきでもない。長期的な,インフレなき成長のための確固たる基盤は準備されうるし,準備されなければならない。

日米欧委員会

日本委員長渡辺武

北米委員長デービッド・ロックフェラー

欧州委員長ジョルジ・ベルトワン

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