4.日本国政府が関与した主要な共同コミュニケ等
(1)第24回OECD閣僚理事会共同声明(仮訳)
(85年4月12日,パリ)
1.OECD(経済協力開発機構)の閣僚理事会は4月11日及び12日に開催された。
本会合の議長はカナダのジョー・クラーク外相及びマイケル・ウィルソン蔵相,副議長はスペインのフェルナンド・モラン・ロペス外相及びミゲル・ボイエル・サルバドル経済・商務・蔵相,並びにノルウェーのスヴェン・ストライ外相が勤めた。
2.OECDは,今年25周年を迎えた。OECDは創立以来加盟国間協力及び一層広い国際協力を推進する上で重要な役割を果してきた。ジャン・クロード・ペイユ事務総長にとって最初の閣僚理事会である今次会合は,このような方向へ一歩を進めるものである。本会合では以下の諸点につき合意が得られた。
3.一般経済情勢は過去2年間の間に顕著な改善をみた。景気回復の輪が広がりつつある。インフレ率は大幅に低下し,多くの国において,企業収益は力強く増加し,投資活動は増加してきた。世界貿易の大幅な増加は,先進国,途上国双方に対し広く利益を与えてきた。この世界貿易の増加は,これまでは米国経済の力強い成長に主導されてきたものである。米国が,より緩やかであるが持続的な成長を達成するであろうとの見通しは高い。日本においては生産拡大は活発に続くであろう。欧州ではほとんどの国においてより均衡のとれた回復が進み,持続的成長への見通しが高まった。
4.しかしながら,緊急に解決を迫られている問題は依然存在しており,その解決に向けての政策措置につき討議が行われた。相互に関連を有する四つの問題が議論の焦点となった。
(a)欧州諸国を中心に根強い高失業が,依然として主たる懸念の要因となっている。この懸念は失業がますます若年及び長期失業者に集中しているだけに一層深刻である。
(b)国際金融情勢は依然として不確実性を帯びている。例えば,実質金利の高どまり,OECD域内の経常収支の不均衡拡大,為替相場の不安定性及び一部途上国の債務状況が引き起こす緊張
(c)世界貿易は増大してきたが,保護貿易主義の圧力も増大してきている。貿易をめぐる緊張は緩和することなく,開放的な多角的貿易体制の強化に向けての進展は不十分かつ不公平なものであった。
(d)途上国の中には,より良き成長達成へ向けて大幅な前進をみた国もあったが,多くの途上国は依然として大きな国内的及び対外的問題に直面している。特に懸念されるのは,サハラ以南アフリカの深刻な状況である。
5.これらの懸念は軽減し得る程度に応じて持続的成長達成の見通しはより強められ,それによって投資及び経済の活力をもたらす信頼を強化することとなろう。第一に必要なことは,各国政府が自国の経済活動を高める為の国内政策をとることである。更に,政策全体として,インフレなき持続的成長に向けて経済活動の一層の調和を促進するための政策を追求し,開放的な多角的経済体制を強化していく共同の責任がある。以下の項目は,上記目的に向けての協調的アプローチを示したものである。
6.経済政策全般における優先分野
OECDにおいて過去数年間にわたり探求されてきた広範囲の経済戦略は,インフレなき持続的成長への道を開き,雇用増加への基礎を提供している。この戦略は,短期的考慮よりも中期的目標を重視するものであり,経済政策が一貫性と継続性を保つことの重要性を認識し,市場機能の向上により経済の調整力と技術革新力を強化することに特に重点を置くものである。この政策姿勢は,今後とも維持されるであろう。
7.これまでに達成された進展を基礎とし,政策の国際的影響を十分に考慮することにより,各国の協調的アプローチは,国際的な均衡を促進し,かつ,国内経済活動を改善することとなろう。このような政策の不可欠の要素として,OECD加盟国は次のような行動を取る必要がある。保護主義圧力への抵抗,歳出抑制,必要な場合には財政赤字の削減,雇用機会拡大の為のひとつの重要な方法としての構造的硬直性の軽減,財・サービス分野における国際貿易の大きな不均衡の軽減である。次に記述する各国による行動の優先分野は,国内的必要に答えるとともに,よりよい国際環境につながると思われた。
(a)米国において継続するとみられる財政赤字は,対GNP比率でみると,OECD諸国の平均より小さいとは言え,絶対額としては大きく,また政府債務の急増とそれに伴う金利支払の負担の増加をもたらしている。かかる傾向を修正することは,米国及び他国の景気拡大の持続に貢献するものである。したがって,米国として,歳出面で大幅な赤字の除去につながる方向での予算措置につき早急に明確な合意を形成することを最優先課題と考える。
(b)ドル高は,種々の要因によってもたらされたものであるが,米国の価格競争力を低下させることにより,米国内の保護主義的圧力の強まりを引き起こした。国内的及び国際的観点から,米国政府はかかる圧力に対し抵抗することを最優先課題と考える。
(c)日本経済は一貫して良好なパフ才一マンスを示してきた。米国の対外取引の状況を相当程度反映し,日本は大幅な経常(財・サービス)収支の黒字とその拡大並びに大幅な資本流出を記録している。この黒字を削減し,それを通じよりよい国際的環境づくりに貢献する為,日本は国内金融市場における規制緩和(ディレギュレーション)の継続,対内・対外投資の促進,市場アクセスの一層の促進及び輸入増加の奨励を最優先課題と考える。
(d)他のOECD諸国の状況は国によりある程度異なっており,従って各国の行動の優先分野やその実現可能性も異なるが,一般的には,インフレなき持続的成長の潜在能力を高め,これを徹底的に追求することが,失業を減少させるために必要である。また,これは国際経済均衡の改善及び世界経済回復の持続性の強化,さらには国際金融情勢の安定化を高めるためにも必要である。したがって,これらの諸国は,あらゆる範囲にわたる政策手段を動員し,各国の経済情勢及び制度的実情に見合ったかたちで,以下の政策を実施することを最優先課題と考える。
(i) 経済の適応力及び成長の雇用創出力を強めなければならない。この観点から,総体的労働コストの上昇率の継続的な抑制が重要である。すべての国において,パラ8に詳述されるように製品市場,労働市場及び資本市場の硬直性を削減することにより経済インセンティブを改善し,経済機会の増加をはかる措置に高い優先度が与えられている。すべてのセクターにおいて貿易障壁を減少させることは,かかる政策に不可欠の要素である。
(ii) 財政赤字の削減は多くの国にとって必要であり,また一部の国にとっては緊急の課題である。これには課税対象の拡大も含まれ得る。より一般的には,予算政策は公共支出の質の改善及び税負担の引き下げ措置を伴った歳出規模の全体的抑制を引続き目的とすべきである。
(iii) 供給サイドの活力が一層高まり,インフレ的国内不均衡が抑制され,為替レートにより誘発されるインフレ・リスクが減少すれば,実質需要が高まろう。加盟国政府は,適当と認める場合には,節度ある財政金融政策の枠組の中で個別に又は共同してこの政策を支持すべきである。これを支持することは,海外需要が弱まっていく中では特に重要である。
8.構造的適応における優先分野
高水準の雇用の回復は,0ECD加盟国の中心的な政策目標の一つである。その達成のためには各国経済の活力及び適応力の強化が必要である。又,構造変化が立場の弱い低所得層に不当な負担をかけないよう保証することによりかかる政策へのコンセンサスを強化することが必要である。各国は,あらゆる範囲にわたる社会・経済政策の着実な実施が,中期的にはかかる政策目標達成に貢献し,短期的にも経済への信頼を増大しうるものであることに合意した。OECDは昨年の決定に沿い,各国の調整政策に関する検討及び評価を深めつつある。事務総長はこの分野での利用可能な研究成果を利用しつつ,各国の経験に関する研究の準備を行なう。更に事務総長は近い将来,常駐代表者会合において,との分析に着手するための計画につき通報するとともに,次回の閣僚理事会において中間報告を行なう。また,経営者・労働組合をはじめ,広く社会全体が行動を起こすことも有意義である。いくつかの国においては,社会パートナー間の合意に基づく行動の探求が有用な場合もあろう。以下は,優先的行動分野である。
(a)新規企業創設,投資,技術革新,企業家精神発揚一特に中小企業に関し一のための一層の環境整備・規制,教育・訓練,競争,金融市場及び税制に関する政策の改善が主要な役割を果たす。調整を阻害するような補助金の削減も同様に重要
(b)政・労・使による以下の方法を用いた労働市場の一層の機能改善
-雇用の拡大を阻害している障害の除去
-賃金の弾力性及び適正な賃金の形成を通じ雇用創出能力を高めるとともに,経済厚生の適正な配分を可能とするような新しい集団賃金交渉を促進すること
-職業間,地域間にわたる労働力の流動性の促進及び右を可能とする条件の整備
(c)適正なレベルの社会移転支出を確保しつつ,現行の税制,社会保障制度が有する経済活動阻害効果を削減すること及び社会サービスの有効性を高め,社会的ニーズの変化に対する適応能力を強めること。
(d)深刻な若年失業及び長期失業の状況に対処するために,技能の向上及び勤務経験の提供を目的とした政策を強化すること。これは,十分な所得補助を維持し,職業に対するアクセスを妨げている人為的障害を出来るだけ取り除きつつ,失業人口を労働市場に復帰させることを狙ったものである。
9.閣僚は,保護主義の功罪に関するOECDの報告書を歓迎した。この報告書は,保護主義的措置は主としてそれを実施する国に対してほとんど便益をもたらさず,むしろ多大のコストを課するものであったことを一層明瞭に立証した。制限的な貿易措置は雇用を維持するための手段としては非効率的であるばかりか,肝心の調整を遅延させるものである。
10.外国為替市場
外国為替相場制度の機能改善には,OECD各国による適切な経済政策の遂行が第一に重要である。パラ7及びパラ8に示された政策措置も,外国為替市場の安定性強化のための基盤強化に資すると期待される。為替市場に対する協調介入は,不安定な為替市場を鎮め,相場感の大幅な変動を軽減するため,時には有効である。
閣僚は,10カ国蔵相会議における作業の重要性を再確認し,この作業が速やかに完了することへの希望を表明した。
11.貿易政策
閣僚は,開放的な多角的貿易体制に対するコミットメント及び一層の自由化によりその体制を強化するとの決意を再確認した。ガットにおける貿易交渉の新ラウンドは右目的の達成に大いに貢献しよう。したがって,かかる交渉の新ラウンドはできる限り早期に開始されるべきである旨合意された(いくつかの国は,右は1986年初頭であるべきとの考えを表明した)。閣僚は,ガットのかかる交渉の議題及び方法につき広いコンセンサスを得るため,高級事務レベルによる準備会合を,本年夏の終りまでに,ガットにおいて開催することを締約国団に対して提案することに合意した。かかる交渉への多数の先進国及び途上国の積極的参加は必要不可欠であると考えられる。本コミュニケに記載されている種々の政策措置は,それが国際経済・財政金融投資情勢の改善に資する限りにおいて,右交渉の準備を成功に導くものである。
12.保護主義的措置が再び蔓延することを回避することは,持続的経済回復及び多角的貿易制度の維持にとって死活的重要性を有する。これはまた,貿易分野における新しく広範囲にわたるイニシアティブのために必要な信頼感を確保するためにも重要である。したがって,閣僚は,効果的に保護主義を防止し,根強く残る保護主義圧力に抗するとの決意を強調する。
13.更に,これまで得られた貿易制限措置の緩和・撤廃についての成果にばらつきがあることに鑑み,閣僚は既存の貿易制限措置を緩和・撤廃するため,OECDにおける共同行動計画を目的とする作業を更に実質的に前進させることが重要であることを強調する。この計画の中で重要な要素は,10月中旬までにすべての加盟国は,一定期間内に漸進的に除去しうる措置すべてに関する提案を行なうことであり,その成果は明年,閣僚理に報告される。
14.更に,いくつかの特定の貿易問題-その中の多くのものは新交渉ラウンドに関連し得るであろう-が検討された。
(a)途上国との貿易機会を増大させることは,とりわけこれら諸国の多くが過重な債務負担に直面していることに鑑みて重要であることが強調された。より開放的であり,かつ,安定的な政策により,途上国にとって特に重要性の高い産品の市場アクセスを容易にすることが必要である。途上国は,経済開発のそれぞれの段階に応じて,自由化に向かう動きに参加しなければならない。
(b)タイド援助信用と輸出に対するアソシエイテッド・ファイナンシングの分野において,透明性と規律の強化に向けての措置は引続き速やかに進められるであろう。規律及び透明性の一層の強化のための新しい措置を速やかにとることが可能となるよう,1985年9月30日までに検討を終了するものとする。第一歩として,かかる資金供与において許容可能な最低グラント・エレメントの25%への引き上げ及び通報制度・協議手続の強化につき合意がみられた。
(c)農産物貿易の分野には,特に余剰の発生と処理に関し,深刻な緊張関係が存する。農業政策及び貿易・金融制度において不可欠な調整は,かかる緊張を軽減するために必要であり,これを早急に決定・実施するための断固たる努力が引続きなされるであろう。
(d)現在,継続中の作業の最初の段階での結論は,ハイテク製品市場へのアクセス及びハイテクノロジー自体へのアクセスが共に重要であることを示している。開放的市場と自由なアクセスは,この領域においても他のすべての貿易分野と同様の利益をもたらす。
(e)サービス貿易の重要性の増加に鑑み,その自由化に向けて努力を継続することが重要である。
(f)国家間のコンピューター通信の急速な成長は国際経済の重要な特徴となってきた。従って,OECD加盟国政府は越境データ流通に関する宣言を採択した。
(g)閣僚は,近年における情報通信技術の急速な発展を認識し,これが世界経済の相互依存関係に与える影響を検討する必要性を強調し,このテーマに関する一連の国際会議を主催しようという日本政府のイニシアティブを歓迎した。
15.途上国との関係
途上国・先進国間の経済・金融両面における相互依存関係は,世界経済が機能していく上で益々重要な要素となっている。途上国の状況は種々異なると共にしばしば困難なものであるため,建設的で実際的な協力が必要となり,又そのための機会が生じてきている。貿易アクセスや,コンセッショナル及びノンコンセッショナルな資金フローの改善は,かかる目的達成のための重要な手段である。
(a)多くの途上国は,自らの経済状況を改善するため,時には苦痛を伴う国内調整を通じて相当な努力を行っている。このような努力は歓迎され,又激励されるべきものである。こうした政策の成功を容易にするような国際経済環境を確保するため,OECD諸国が責任を有することが十分認識された。
(b)開発援助資金のフローを維持し,可能な限りこれを増大すること及びその質並びに効率性を改善し,援助コーディネーションを強化することが重要である。
(c)多くの低所得国で行なわれている政策改革努力を支援し,それら諸国の経済成長と経済開発の復調を助けるため,特別の努力が必要である。かかる低所得国の努力を援助するうえで,世銀,IMF及び他の国際機関一とりわけ国連の機関一は,特に協力を強化し,行動の効果を高めることにより,二国間の援助供与国とならんで重要な貢献を行なう。
(d)直接投資は,適正な条件の下であるならば,開発に対し重要な貢献をなし得る。直接投資は資金のみならず技術的専門知識を提供するものであり,この意味で奨励されるべきである。
(e)債務の全般的な状況は一応鎮静したものの,社会的・政治的次元では困難な問題が依然として残されている。低所得国の債務問題は特別の配慮を要する。世界的な景気回復の持続,開放的な貿易,持続的資金フロー,妥当な実質金利水準及び確固たる国内調整政策は,債務及び開発問題解決への進展を引続き持続するために不可欠である。4月17日-19日に開催されるIMF暫定委員会及びIMF・世銀合同開発委員会は途上国とともに本問題をレヴューするよい機会を提供しよう。
(f)サハラ以南のアフリカの開発危機は国際的に優先度の高い問題であり,一層の支援を必要としている。各国政府及び国民一般は,ともに飢餓に打ちひしがれた国々の緊急の必要性に対応しつつある。長期的開発のための効果的政策が緊要であり,その為の支援を続けなければならない。援助プログラムは農業及び農村の開発,食糧確保及び人造りに重点がおかれるべきであるとの幅広いコンセンサスが生じてきている。又,既存の生産設備の維持及び修復が重視されるべきである。
16.エネルギー政策は,引き続き経済活動の重要な要素である。エネルギー市場は現在緩和状態にあるが,石油供給の断絶に対応しうる体制を維持すると共にエネルギーの供給源の多様化及びその使用の合理化の為の長期的政策を継続することが引き続き肝要である。
17.環境問題は,国内的・国際的な関心事項である。環境政策はそれ自体において,又,経済効率と成長との関連において重要である。閣僚は,6月18日-20日に開催される環境大臣会合においてこの分野における検討が一層進展することを期待するものである。