(2)第24回OECD閣僚理事会における議題3,「貿易面を中心としたゲームのルールの強化」に関する安倍外務大臣の発言

(85年4月11日,パリ)

1.1984年,世界貿易は9彩と80年代最高の伸びを示しました。これは,OECD諸国を中心とした世界の景気の回復を示すものに他なりません。しかし,このような貿易拡大にも拘らず貿易をめぐる問題は跡を絶たず,むしろ,保護主義圧力は増大しております。遺憾なことに,新たな保護措置がとられているのが現実であります。かかる保護主義的動きの背景には景気回復のばらつき等の循環的要因のみならず種々の構造的要因があるとの認識が一般化しつつあります。とくに,労働市場の硬直性,経済合理性を失いつつある産業の転換の遅れ,技術革新に対する受容能力の不足等の要因が保護主義の巻き返しの進展を遅らせている最大の原因であるとも言えるのであります。たとえ一国全体として景気の回復が進んでも,一部のセクターにかかる問題がある時,これが比較的容易に保護主義的圧力となってしまうことは近年の経験が示すとおりであります。

2.我々はここで改めて1年前の合意を想起し再度保護主義と戦う政治的決意を新たにしなければならないと考えます。いかなる国も国内に困難をかかえております。

しかし,それを新たな保護措置の口実にすることはやめようではありませんか。

3.この1年のOECDの活動の大きな成果の一つである保護主義のコストとベネフィットの分析が指摘するように,保護主義のコストを負担する消費者の声はあまり強くありません。また,一国において保護主義的措置がとられると,他国における保護主義的動きを容易に誘発し,悪循環がはじまることとなります。各国政府が今後とも思いきった国内的リーダーシップを発揮することを期待したいと思います。更にその上で重要なことは,このペーパーにも明らかにされているように,保護主義的措置の導入はこれを導入した国の利益とはならないということを我々政策決定者が十分に理解し,国民にもこれが理解されるように努力していくことであると考えます。

4.我が国がその大幅な貿易黒字を背景として,市場の開放性につき種々批判を受けていることは十分承知しております。我が国市場については累次の開放措置を,他に代償を求めることなく一方的にとってまいりました。昨年12月の第6次措置においては,昨年の閣僚理で合意された保護主義のロールバック・フェーズ1を上回る措置を決定し,また,明日金子長官からも言及があると思いますが,2日前には,対外経済問題に関する最近の決定と今後の政策動向をとりまとめた対外経済対策を発表致しました。我が国としては今後ともこうした努力を続けていく方針であり,保護主義のスタンドスティル及びロールバックに関するOECD等の今後の作業に積極的に関与していく所存であります。しかしここではっきり申し上げておきたいことは,市場の開放の意味するところは,あくまで公平で自由な競争機会を提供するということであります。貿易バランスの不均衡がある限りにおいて我が国市場は閉鎖されているという誤ったパーセプションは,一方的な考え方と申せましょう。

5.保護措置を軽減,撤廃し,自由で多角的な国際貿易の発展を図るためには,一方で保護主義に抵抗するモメンタムを維持するとともに,これと並行して安定的な貿易のルール作りを推進することが必要であります。安定的な貿易ルール作りはGATT原則への復帰,GATTの強化を通じて達成されるべきであります。GATT原則の形骸化を防止し自由無差別な開放的貿易体制の維持・強化を図ることは喫緊の課題であります。また現下の世界貿易におけるもうひとつの課題は,サービス貿易の拡大等世界の経済構造の変化に適応することができるよう貿易体制を整備していくことであります。新ラウンドの重要性は正にここにあります。そしてOECD諸国が一致して新ラウンドを促進しうるか否かは,そのままOECDが今後貿易面でのルールの強化,新しい分野における貿易のルールづくりへの貢献という一大目標を達成できるか否かの一つの鍵となりましょう。

6.また,途上国の貿易環境の改善も現在の世界貿易の重要な目標の一つであります。この意味で新ラウンドの交渉に広く途上国の参加を得ていくことは,現在の世界貿易のかかえる問題からの当然の要請であります。そのために先進国側としては,途上国にラウンド参加のメリットを具体的に示しつつ,働きかけを積極的に行う必要があります。OECDとしても,この点について有益な役割を果たしうると申せましょう。

7.かかる点に鑑みれば,昨般ECが新ラウンドに対し正式にコミットしたことは一歩前進であり我が国としてもこれを歓迎致します。私はECが,日米等他の先進諸国とともに新ラウンドの早期開始に向けてさらに立場を明確にされることが重要と考えております。保護主義跳梁は我々に時間がないことを示しており,我が国としは,本年央に正式準備を開始し,準備を急ぎ,明年春にも交渉を開始することが是非必要であると考えます。これが実現しない場合には,80年代に新ラウンドを行うことは困難となりましょう。我々は次代に向かっての責任を十分に考える必要があると思います。

8.新ラウンドでとりあげられるべき項目あるいは交渉の進め方といった点については,今後準備の段階で各国間の協議により決定されていくことは当然でありますが,交渉対象項目については途上国の関心にも十分配慮しつつバランスのとれたパッケージにする必要がありましょう。交渉のスケジュールについては,交渉全体のフレームワークの中で対象項目の検討の成熟度を勘案したものとすることが,現実的でしょう。

9.議長,世界経済の持続的成長を確保するために現在最も必要なことは,将来の世界経済と貿易に対する確固たる見通し,明日への自信を与えることであります。新ラウンドの早期開始こそがこの重要な課題に応えるものでありましょう。新ラウンドはゲームのルールの再構築という我々の共通課題の実現を可能にする「窓」であります。この「窓」は決して広く開いている「窓」ではなく,そして実のところいつまでも開いていると考えることは極めて危険なことであります。

有難うございました。

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