2.我が国の行った主要演説等
(1)第24回OECD閣僚理事会における議題2,「途上国の調整と前進のための協調」に関する安倍外務大臣の発言
(85年4月11日,パリ)
1.OECDが創立されて以来,今年で25年,4分の1世紀が経過したことになります。この四半世紀の間に世界は巨大な変化を遂げてきました。即ち,OECDの加盟国が信奉する民主主義の下で,平和と繁栄を求める努力が積み重ねられてきましたが,このような努力の中でも,人間生活をより豊かにする努力は着実に結果を生み出し,現在の我々が享受している物質的豊かさは,四半世紀前とは比較にならぬレベルに到達しております。しかしながら,他方では,このような経済的豊かさとは裏腹に,我々の直面しなくてはならぬ種々の問題が増大していることも否めません。
2.議長,私は昨年11月アフリカ諸国を歴訪し,旱魃による被災状況,飢えた難民の実情をつぶさに視察し,言語に絶する悲惨な状況に強い衝撃を受けました。私はこのアフリカ訪問の経験を踏まえ,昨年の国連総会における「アフリカの危機的経済情勢に関する宣言」採択に際し,アフリカ支援緊急アピールを発出し,緊急援助はもとより中長期的観点に立脚した対アフリカ食糧農業関係援助を積極的に推進し,アフリカの自助努力を支援していくことが必要かつ重要であることを広く国際社会に訴えた次第であります。我が国は,かかるアフリカの危機的状況に鑑み,近年着実に対アフリカ援助を強化し,緊急支援のみならず各分野における開発援助を実施してきております。本年度については贈与約600億円(約2.4億ドル相当)を目指すとともに,円借款についても世銀等との協調に留意しつつ約1億ドルを目途として弾力的に対応する方針であります。その際,特に,リハビリテーション援助,食糧農業関係援助及び輸出促進・輸入代替関係援助の3点を重視していく所存であります。また,援助調整,政策対話にも積極的に参加していく方針であり,その一環として,我が国は本年度よりサヘル・クラブに対し新規拠出を行うことを決定しております。
3.更に,途上国全体に目を移す時,ODAを引続き拡充していくことの重要性を痛感せざるをえません。限られた援助資金の効果的・効率的実施が重要であることは言うまでもありませんが,それはODAの着実な拡充といわば車の両輪をなして取り組むべき課題であると考えます。我が国は厳しい財政事情を抱えつつも,第1次及び第2次中期目標の下,ODAを着実に拡充してまいりました。また85年度予算においても,厳しい財政事情の中で,ODA一般会計予算について10%の伸び率を確保しました。これにより現行中期目標達成の手段であるODA一般会計予算はほぼ倍増を達成することができました。
議長,更にここで私は,我が国がその経済規模にふさわしい国際責任を今後とも果していくため,現行中期目標終了後,1986年以降も,新たな中期目標を設定し,引き続きODAの着実な拡充に努める方針を先週決定しましたことを表明いたします。その際,無償資金協力及び技術協力を拡充するとともに,国際開発金融機関に対する出資等の要請に対し積極的に対応すること等により,併せて質の面でも可能な限りの改善に努める所存であります。
4.途上国が直面しているもう一つの大きな問題は累積債務問題であります。80年代にはいっての増大する危機に際し,国際社会は相互依存の貴重な精神をしめしつつ困難を乗り越えてきました。しかしながら,長い時間と地域的拡がりの中で累積してきた途上国の債務の問題は,一朝一夕にして解決する問題ではありません。多くの途上国は,国内的な政治的・社会的困難に直面しながらも厳しい経済調整政策にとり組んでおりますが,かかる途上国の努力とそれに対する先進諸国の協力は,今後,恐らく次の世紀にまでとどく,長い期間に亘って必要とされることでしょう。我々は,これまで債務問題の克服にあたって基本的方針としてきた,本問題解決の為の最も現実的な方策であるケース・バイ・ケースのアプローチを継続しつつ,同時に途上国経済の直面している金融・開発・貿易等諸問題を幅広い視野から解決していくことによって問題の根本的解決に向けての歩みを一層確実なものにしてゆかねばならないと考えます。
5.議長,私は今まで途上国の直面する問題について述べてまいりましたが,途上国経済の自律的発展にあたって国際経済環境,就中国際貿易環境の安定がもたらす利益の重要性についても一書触れる必要があります。先進国の景気回復に伴い,一部途上国経済も又,若干の明るさを取り戻しつつあります。特にアジアの途上国は国際経済環境への柔軟な対応によりダイナミックな成長を遂げており,また中南米の主要債務国においては開発計画の縮小,金融引き締め等厳しい調整政策が続けられる中,貿易収支の顕著な改善が見られます。途上国が今後更に効率性・開放性を目指した政策を推進することは極めて歓迎すべきものであります。しかしながら,こうした地域においてすら各国の事情をより仔細にみるならば,必ずしも楽観を許す状況にはありません。途上国にとってはその生産物の先進国市場に対するアクセスの改善はもとより先進国が貿易ルールを確実に遵守することによる不確実感の払拭が自律的回復の基盤となります。その意味で,ここで我々が保護措置導入のスタンド・スティルとロールバックに再度コミットするならば,途上国にとってその意義は,少なくないものと考えます。更にこのコミットメントは,先進国と途上国との共通の利益に基いた新ラウンドの開始に大きな前進をもたらすと確信致します。新ラウンドに関しては,貿易の議題においてより詳しく述べたいと思います。
6.途上国の順調な経済発展の為には,我々OECD加盟国が共同して,良好な国際経済関係をつくりだしていくことが不可欠です。現在北米,欧州,太平洋の三つの地域が財政,国際収支,構造調整等の分野で種々の困難な問題に直面していることは周知の通りです。またこれらの問題が相互に密接に関連しており,一国のみの政策努力によって容易に解決しえないのも事実でありますが,それだからといって安易に自らの責任を回避し他国の非難に逃げるべきではありません。確かに,それぞれの問題の解決には痛みを伴いますが,より長期を展望してみれば,また途上国も含めたより広い視野にたち戻ってながめてみればこの痛みは決して大きなものではないと考えます。具体的なアプローチについては明日金子長官が詳細に述べることと思いますが,とのような認識の下に,三つの地域が知恵を出し合い,それぞれの努力を建設的に組み合わせていくことによって,インフレなき持続的成長を実現していくことが,OECD諸国のみならず,途上国の調整と再発展に,ひいては世界経済の発展の為に不可欠であると思います。
7.議長,我が国には結束の大切さについて次のような有名な戦国武将の逸話があります。彼は3人の息子が成人した時,彼らの前に3本の矢の束をとりあげ次の様に言いきかせました。「見よ息子たち,この矢の1本1本は簡単に折ることができる。
しかし3本束ねたままこれを折ることは容易でない。汝らも困難に直面したときは自らの利益のみを追求して仲違いすることなく,この矢の様に力を合わせてこれに立ち向かってほしい。1人1人ではできない如何なる困難も3人束になれば解決可能となろう。」私が今皆様に訴えたいのは,この協力の精神であります。世界経済の回復を一層着実なものとし,これを途上国にも均霑していく為には北米・欧州・太平洋という三つの矢の協力が不可欠です。私は,OECDという機関は正にかかる三つの矢を結びつける場所であると考えます。
8.昨年私は,高度情報化が世界経済の相互依存関係に変化をもたらしうること,及びそうした変化に如何に柔軟に対応するかが世界経済の発展のカギとなりうることを主張し,又,昨年が我が国のOECD加盟20周年にあたることに鑑み,その記念プロジェクトとしてかかる問題についてのスタディを後援したい旨提案致しました。現在,我々はいくつかのテーマを設定して各国有識者によるシンポジウムを開催するべく準備を行っております。この成功の為には,OECD各国及び事務局からの暖かい支持が必要であり,是非とも皆様の参加をお願い致したいと思います。
9.議長,最後に,新しい事務総長をお迎えし,これからの四半世紀がこれまでの四半世紀がそうであったと同じように加盟諸国内の協調と発展の歴史であること,即ち,3本の矢が決してばらばらになることなく束になって世界に貢献していくことを心から祈念して私のスピーチを終りたいと思います。
有難うございました。