第5節 海外移住

1.移住の概況

1950年代後半には年間1万数千人を数えた我が国の海外移住者は,我が国の高度経済成長や受入国経済の停滞等内外情勢の変化とともに漸減し,近年は年間2,500人前後で推移している状況である。主要な移住先は,北米,中南米,豪州等であるが,近年の傾向としては,カナダ,豪州などいわゆる先進国への移住を希望する者が多い。

なお,戦後(85年まで)の移住者総数は約25万人であり,また,海外に在住する移住者及び日系人の総数は175万人を超えるものと推定される。

2.移住施策

(1)国際協力事業団(JICA:JapanInternationalCooperationAgency)の業務

JICAは,移住希望者及び既移住者に対する援助を行っている。外務省は,85年度においてJICAの行う移住事業のため,20億6,559万円の交付金及び12億5,000万円の出資金を支出した。JICAは,右により,(イ)新規移住者の送出,(ロ)営農普及,医療,子弟教育,道路等生活環境の整備等既移住者に対する援護,(ハ)既移住者に対する事業資金の融資などの業務を行っている。また,85年度からの新たな事業として「海外開発青年」の制度を創設した。これは,海外移住に関心をもつ我が国の優秀な青年を3年間中南米諸国に派遣し,現地の日系団体等の事業に参加せしめ日系社会の活性化に寄与するとともに,将来これらの青年が現地に定住するための基盤造りを容易ならしめることを目的とするものであり,多数の青年がこれに応募した。同年度の送出者は29名とされたが,今後の発展が期待される。

なお,85年度においてJICAが取扱い送出した新規移住者は,134人である。

(2)都道府県の移住事業

各都道府県は,いずれも海外知識普及,県費留学生受入れ,海外県人会の育成等の事業を実施している。外務省は,移住政策の観点からこれらの事業を支援しており,85年度においては6,280万円の補助を行った。

(3)農業研修生派米事業

農業研修生派米協会は,外務省の補助を受けて,将来移住及び開発途上国に対する援助活動に寄与し得る人材を育成することを目的として,我が国農村青年を農業研修生として2年間米国に派遣する事業を行っており,85年には新たに120名の研修生を派遣した。

(4)その他の移住関係補助事業

日本海外移住家族会連合会は,外務省の支援と補助を受けて,移住者子弟研修及び海外日系人訪日団受入れの各事業を実施した。

3.海外移住審議会

海外移住審議会(海外移住政策に関する政府の諮問機関)は,かねて今後の海外移住のあり方について審議を重ねてきたところ,85年7月第48回総会において,「21世紀に向けての我が国民の海外発展と定住のあり方」と題する意見書をまとめ,内閣総理大臣へ提出した。同意見書は,これまでの日本人移住者が居住国の発展及び我が国との結びつきの強化に果たした役割を評価するとともに,今後は,既移住者への必要な支援を行うと同時に,我が国の国際化の促進という新たな観点から,国際理解推進のための教育,海外志向促進のための広報,移住者子弟への対応等の施策を充実するよう提言している。

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