第3節 緊急事態・事件に際する邦人保護

1.85年は世界各地で,邦人を巻き込んだ動乱,クーデター,紛争,地震等の緊急事態が相次いで発生した。主要なものは次のとおりである。

(1)イラン・イラク紛争は,85年も継続し,3月には,相互都市攻撃激化により,テヘランから邦人が緊急脱出する事態に至ったが,さらに,5月にも,都市攻撃が再発したため,在イラン,在イラク両大使館による邦人の安全確保の努力がなされた。

またペルシャ湾では,9月,日本人乗組員26名が乗船したクウェイト籍のコンテナ船がイランによりだ捕されたのを始め,日本関係船舶が臨検,だ捕を受ける事例が相次いだ。このため,海運関係者,関係省庁の間で緊密な連絡を維持し,安全航行のための対策を協議した。

(2)7月,ウガンダにおいてクーデターが発生し,治安が悪化したので,10人の在留邦人がケニア及びタンザニアに緊急出国し,両国にある我が国の大使館がそれぞれ邦人を援助した。

(3)中南米においては,9月にメキシコで大地震,11月にコロンビアで火山の爆発と,大規模な自然災害が続いて発生した。特にメキシコにおいては,通信の復旧に時間を要したこともあり,外務省は約4,000人の在留邦人の安否確認,我が国の留守宅への連絡に最大限の努力を払った。

(4)86年に入り,1月にイエメン民主人民共和国(南イエメン)でクーデターが発生した。激しい市街戦が展開され,また通信が途絶したことから,38人の在留邦人の救出は難航を極めたが,英国,フランス,ソ連,パレスチナ解放機構(PLO)などの国際協力もあり,全員無事に対岸のジブティに脱出した。

(5)2月,フィリピンにおいて,エンリレ国防相らの反マルコス行動に端を発した政変により情勢が緊迫したが,在フィリピン大使館は一部地域の邦人の一時退避を援助するなど安全確保に努めた結果,約1万人と推定される短期旅行者及び長期滞在者に混乱は見られなかった。

このように,緊急事態が頻発する状況に対応して,外務省は海外における邦人保護体制の一層の整備強化に努めている。

2.ハイジャック等人質を盾とした非人道的な暴力行為事件は,85年度中も世界各地で多発したが,邦人が人質として巻き込まれたハイジャック事件は,85年6月21日,ノールウェーの国内線旅客機で発生したもの1件のみであった。こうした事件の発生に際し,外務省は,関係在外公館と緊密な連絡をとりつつ,人質邦人の有無を確認した上,邦人保護及び事件解決のため最大限の努力を行っている。

 目次へ