第5節 諸外国との相互理解
今日の国際社会が年々相互依存関係を深める中で,我が国は,戦後の急速な経済復興を経て今や自由民主主義諸国の中で米国に次ぐ経済規模を有するに至り,国際政治経済分野で我が国の動向が与える影響,そしてそれに伴って我が国の果たすべき責任は近年格段に大きくなってきている。このような状況を背景として,諸外国の我が国に対する期待と関心もかってないほどの高まりを見せている。
しかし,他方でいまだ相互理解の不足に基づく誤解や相互不信が国際社会において,たとえば欧米との経済摩擦に見られるごとく国家間の摩擦を生じていることも否定し得ないところであり,我が国としても諸外国との相互理解を増進するために文化交流や広報活動を従来にも増して一層積極的に推進していく必要がある。
1.文化交流
諸外国との関係を長期的かつより安定した基盤の上に維持・発展させるためには,諸外国との文化交流の増進を図り,広く国民間の相互理解及び友好親善を深めることが肝要である。特に,諸外国との間で摩擦が生じ,その背景として,我が国に対する誤解や認識のずれが指摘される今日,文化交流の役割はますます重要となっている。
こうした観点から,我が国は,青少年交流等政府が直接実施する事業のほか,外務省所管の特殊法人である国際交流基金を通じる人物交流,日本語普及,公演・展示及び映画等視聴覚事業などの各種文化交流事業及び開発途上国の文化,教育の振興に協力する文化無償協力などを実施している。なかんずく日本語普及については,ASEAN諸国,中国,韓国などを中心に,日本語学習熱が高まっていることを背景として,我が国は特に力を注いでおり,85年度においては,第2回目の日本語能力試験を17か国において実施した。また,85年は,日韓国交正常化20周年記念行事で見られたとおり,各種の文化行事を結びつけた総合的企画が世界各地で行われるようになってきており,文化交流の実をあげている。
我が国はまた,文化交流の法的枠組として,33か国と文化協定及び文化取極を締結しており,さらに,これらの協定等に基づき,16か国との間で文化交流に関する協議を行っているが,85年度においては,スペイン,中国及び米国と協議を行った。
近年,民間及び地方自治体の行う文化交流活動が増加しており,外務省としても,86年1月に,国際文化交流に関する法人等連絡会を開催するなどして,これら諸団体との連携を強化している。
2.広報活動
他方,内外の広報活動についても,文化交流と同様,日本の国際的な役割が大きなものになってきていることに伴い,その重要性はますます高まっている。
諸外国との良好な関係を促進し,世界の平和と繁栄に寄与することを国是とする我が国にとって,今や世界の動きを正しく認識するため正確な情報を得ることのみならず,我が国の実情及び外交政策を諸外国に正しく伝えることにより我が国に対する理解を一層深めることの重要性が飛躍的に高まってきていることは論をまたない。特に,我が国の大幅な経常収支黒字を背景として,我が国に対する関心が高まり,また批判も増えており,諸外国の我が国に関する正しい認識を増進し,国際相互理解を一層深める努力を重ねることはますます重要な課題である。このような認識の下,外務省としては,民間・地方自治体とも協力しつつ,各種手段による海外広報活動を実施している。
外務省は,海外広報活動を推進するに当たり,昨今の欧米諸国との経済摩擦に十分留意し,我が国の対外経済政策やその背景にある我が国経済社会の実情などを諸外国の世論指導者層,マスコミ関係者を主たる対象に,機会をとらえて,かつ,講演会,シンポジウム,日本招へい等々各種手段を通じて説明,説得することに努めている。また,一方では,主に一般の人々を中心に,各種広報資料,広報映画会などを通じ現代の日本及び日本人をバランスよく理解してもらう努力を払っている。
さらに,今日のように「開かれた日本」の実現が求められている状況の下では,国民一人一人が日本の置かれた地位を正しく認識し,国際化に寄与することが一層大切になってきているが,そのためにも外務省として国際情勢並びに我が国の外交政策に対する幅広い国民の理解の増進を目指すとともに,地方自治体,民間団体等と密接に連携し,国民レベルで行われる国際交流活動に対して積極的な協力・支援を行うことがますます重要になってきている。