(12)85年のワインバーガー国防長官の国防報告

(85年2月4日,ワシントン)

1連邦予算全般及び国防関係予算の概要

2,000億ドルを上回る財政赤字の縮小は,第2期レーガン政権の最優先政策課題の一つであり,国内はもとより,広く国際的にも注目されるところとなっている。

このため,大統領は,再選後早々に,歳出削減によってこれを1988年度までにGNPの2%相当額(約1,000億ドル)に縮小するという目標の下に,共和党領袖との協議を行い,原則として全ての経費を「凍結」ないし削減するという考え方に立って,財政当局の立案した歳出削減案を,関係閣僚に示し,その協力を求めている。このような予算編成作業は異例のことである。

その結果,1986年度歳出は,支出額で,総額9,737億ドル,対前年度比146億ドル,1.5%増と,1965年以来の低い伸び率となっている。このうち,国防関係予算(National Defense:国防省予算の他エネルギー省予算等を含む広義の国防費)は,歳出ベースで319億ドル増(12.6%)となっており,国債利払費(9.3%増),年金・医療費(自然増による4.7%増)の他,主要項目のほとんどが減額ないしは小幅増となっていることを考慮すれば,国防関係費については,例外的な配慮と言えよう。

2国防関係費に関する説明の概要

(1)米国の国防計画の目的は,米国及びその同盟国を他国の侵略から防衛することにある。他国が米国及び友邦・同盟諸国の死活的な利益に脅威を及ぼすことを抑止するためには充分な防衛能力を維持する必要がある。

(2)国防省予算の対前年度増は,権限額で290億ドルであり,これは国の安全保障を確保するために必要な軍事力を整備する上での政府のコミットメントを継続させるものである。ソ連の軍事力の大幅な改善に直面して,ソ連の挑戦に対応するとともに,米国の国益を守るため,引き続き次の努力を行うことが要求される。

(イ)核攻撃に対する残存報復能力を保持することにより,これを抑止するため,核戦力全般を近代化すること。

(ロ)通常戦力の即応態勢及び継戦能力を改善するとともに,その装備の近代化を行うこと。

(ハ)米国の国益を守るとともに,同盟国を支援し,かつ,重要な資源に対する継続的なアクセスを確保するため,海外の緊要な地域に米軍を展開する能力を保持するに充分な海軍力を維持すること。

(ニ)世界における米国の国益を守り,また,特に,NATOの諸目的を達成するため,同盟・連帯を維持すること。

(3)個別計画

(イ)戦略戦力

1981年以降抑止戦略に基づく戦略戦力近代化計画を推進してきたが,1986年度予算においても,この努力を継続する。米国が近代的かつ優れた戦力を整備することによって,はじめてソ連に対して真の軍備削減交渉に向かわせることができよう。

(i) MXミサイルの研究・開発並びに調達。ミニットマン・サイロの改善。

(ii) トライデントSSBNの13番艦建造及びトライデントII型SLBMの開発・調達。

(iii) B-IB爆撃機48機の調達,ステルス爆撃機(ATB)の開発及びステルス技術を使用した新型空中発射巡航ミサイルの開発。

(iv) 宇宙監視能力の強化,衛星攻撃兵器(ASAT)の製造及びC3Iシステムの改善。

(ロ)一般的戦力

1986年度予算額は,予算権限額で,1,321億ドル,対前年度の9.5%増である。これは,即応態勢を向上し,又,新型改良兵器を整備することにより,緊急展開部隊を含む一般目的戦力を強化するためのものである。

(i) 陸軍

M-1戦車(840両),ブラッドレー歩兵戦闘車(716両),AH-64攻撃ヘリコプター(144機),ペイトリオット防空ミサイル等の調達を継続する。ペイトリオット・ミサイルの在欧米陸軍への配備は,1985年度に開始の予定である。またパーシングII型ミサイルの欧州配備を続けるほか,前年度に引き続き,軽師団の整備を実施する。

(ii) 海軍

1986年度における就役艦艇数は,1985年度の542隻から555隻に増加する見込みであり,600隻の目標を1980年代中に達成する予定である。また,今後5年間において,AEGIS巡洋艦(11隻),DDG(17隻),攻撃型潜水艦(19隻)等の建造を行うほか,空母の近代化(2隻),アイオワ級戦艦全艦4隻の現役復帰等を実施する。更に,F/A-18戦闘/攻撃機(84機),SH-60B対潜ヘリコプター(18機)等の調達を継続する。

(iii) 空軍

F-16戦闘機(180機)及びF-15戦闘機(48機,うち8機は制空・地上攻撃両用のE型)を調達する。このほか,MC-130H特殊作戦用航空機の追加調達,陸上発射巡航ミサイル(GLCM)の調達・配備等を実施する。

(ハ)海・空輸送戦力(戦略機動力)

C-5B輸送機(16機)及びKC-10輸送機(12機)の追加調達並びにC-17輸送機の開発を行う。民間機の活用(CRAF),在欧米軍のための陸上・航空装備品の事前集積等を実施する。

(ニ)研究・開発

小型ICBM,SDI,空軍用新型戦闘機,陸軍用新型ヘリコプター,新型攻撃型潜水艦,改良型空対空ミサイル等の研究・開発を行う。SDIは,米国及び同盟国に対する弾道ミサイルの脅威を除去する可能性を探求する研究計画であるが,1986年度では,その努力を強化することとしている。研究対象には,目標探知技術,指向性エネルギー兵器,運動エネルギー兵器等が含まれている。

(ホ)その他

情報収集能力の強化,予備戦力の向上,隊員施策の充実,兵器調達方法の改善等を推進する。

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