(9)レーガン米大統領の戦略防衛構想に関する大統領発表

(85年1月3日,ワシントン)

核兵器の出現以来,歴代大統領は,侵略を抑止するための効果的な戦力を維持し,又,補完的な軍備管理協定を追求することによって,核(兵器による)破壊の危険を最少限度に留めるよう努力してきた。この努力は奏功した。我々及び我々の同盟諸国は,略々40年間に亘って西側の安全を守りつつ,核戦争を防止することに成功した。

当初は,我々は,抑止のために均衡のとれた防禦戦力及び攻撃戦力に依存した。しかしながら,この20年間に亙って,合衆国は,核兵器に対する防禦態勢を開発し,展開する努力を殆んど放棄し,代りに核(兵器による)報復の脅威に殆んど専ら依存して来た。我々は,第一撃を吸収した後に,我々とソ連が壊滅的な力をもって報復できると仮定するならば,安定した抑止力を確保できるであろうという考え方を受け入れた。そのような,どちらかといえば奇抜な考え方は,当時では,二つの理由によって尤もなものと思われた。第一に,ソ連は,米ソ双方とも概ね均衡した戦力を保持しており,何れの側も一方的な優位を獲得するためにバランスを変える努力を行うべきではないと考えていた。第二に,それ以外の方法はないと思われていた。防禦システムに関する技術水準の低さのために,効果的な防禦態勢を整備することは不可能であった。

今日では,これら二つの基本的な考え方は疑問視されるに至っている。ソ連の攻撃戦力及び防禦戦力の増強のペースは,危機に際して非常に重要な分野でのバランスを崩して来た。又,今では新しい技術が利用でき,本当に実効的な非核防禦態勢を実現する可能性もある。

このような理由で,又,核兵器の恐るべき潜在的な破壊力の故に,我々は戦争を抑止する別の方法を追求しなければならない。それは,軍事的にも又,道徳的にも必要である。平和と安定を強化する為のよりよい方法,急速な大量核報復の可能性に大きく依存する将来から,何人にも脅威を与えない防禦態勢に対する依存度を高める方向に移行する方法を追求しなければならない。

1983年3月23日,私は核搭載の弾道ミサイルによってもたらされる脅威を究極的に排除するための包括的,徹底的な研究計画,即ち戦略防衛構想の策定を指示することによって,この目標に向っての重要な第一歩を踏み出すための決定を発表した。

SDIは侵略を抑止するためのより優れた基礎を確保し,安定を強化し,又,合衆国及び我々の同盟諸国の安全を強化するための方策を見出すことを目的とする高等防禦技術に重点を置いた積極的な研究計画である。SDI研究計画は,将来の大統領及び将来の議会に対して,高等防禦態勢を開発し,その後これを展開すべきか否かの決定を支持するために必要な技術的知識を提供することになろう。

同時に,合衆国は,米ソ双方の核戦力の本当の削減をもたらす対等で検証可能な協定を達成するための交渉に取り組む決意である。このため,私の政府は,ソ連に対して,一連の包括的な軍備管理提案を行った。我々は,そのような努力を成功させるために,弛ゆまぬ努力を行っているが,平和の強化に努力するために,我々は更に努力を続けることが出来るし,又そうしなければならない。SDIに基づく我々の研究は,我々の軍備削減努力を補完し,又,一層安定した,平穏な世界を築き上げるための方途を切り拓くことに資するものである。我々が現在行っている研究は,1972年の対弾道ミサイル条約を含む我々の条約上の義務の全てに合致するものである。短期的には,SDI研究計画は又,現実の展開を含む現に進められている大規模なソ連の対弾道ミサイル(ABM)計画に呼応するものである。それは,ABM条約によって認められているところを超えた弾道ミサイル防禦能力の拡大のためのソ連の決定に対する強力な抑止力となるものである。次に,長期的には,我々は,SDIは,合衆国とソ連の双方が非常に大幅な削減に,又,究極的には弾道ミサイル及び弾道ミサイルが運搬する核兵器の廃絶に,容易に合意することが出来る極めて重要な手段となるものと確信している。

我々と我々の同盟諸国の死活的な関心事は微妙に連関している。彼等の安全と我々の安全は一つである。彼等も又,彼等に対する攻撃を抑止するための我々の核戦力に依存している。従って,SDIのもたらすべき成果を追求するに当って,我々は我々の友邦,同盟諸国と緊密に協力を続けて行くものである。我々は,将来防衛態勢を開発し,展開する決定―そのような決定に当っては,我々の同盟諸国との協議が重要な役割を果すことになろう―を行った場合には,侵略に対する合衆国の安全はもとより,同盟諸国の安全を確実に高めるよう努力するものである。

SDI研究計画を通じて私は,我が国の非常に優れた技術陣に対して弾道ミサイルを無力化し,陳腐化することによって世界の平和を強化するという大義のために尽すよう要請している。これを要するに,私は,我々の技術力をより一層平穏で安定した世界を築き上げるために利用することを提案するものである。そこで,私は,この研究計画を実施するに当たり,合衆国としては軍事的な優勢も,政治的な優位も求めるものではないことを強調したい。我々の目的とするところは,ひとえに,核戦争の危険を減ずるための方策を追求することにある。諸君が,以下の頁を読まれるに当っては,私は,我々の将来の性格が危殆に瀕していることを銘記し,我々が果そうとしている事―我々の現在の核(兵器による)報復の脅威への依存から脱却して,平和を維持するための我々の能力を強化すること―に思いを致すよう諸君にお願いするものである。私は又,この分野におけるソ連の大規模な,現に進められている努力と,共同防衛を確保するための我々自身の政府の憲法上の責任に照らして,SDI研究計画を考えるようお願いするものである。私は,この研究努力―我が国の未来にとって極めて重要となるべき努力―に対して諸君自身の強力且持続的な支持を与えることによってこれに協力されるよう期待する。

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