(8)国連総会において採択された「アフリカの危機的経済情勢に関する宣言」

(84年12月3日,ニュー・ヨーク)

1)我々国連加盟国は,アフリカの直面する深刻な経済社会危機に対し深い憂慮を表明する。この数年間に亘り,事態は危機的度合を強め,開発過程のみならず,更に不幸なことには何百万の人々の生存すらも脅かす程深刻な状況である。

2)我々は,多数のアフリカ諸国を覆っている大規模で広範な亡霊の如き飢饉の恐怖に驚き心配している。1億5,000万を超える人々が飢餓と栄養不良に見舞われている。長期に亘る未曾有の旱魃,砂漠化の進行及びその他の自然災害は,深刻な状況に更に拍車をかけ,大陸全体の平常な生活を混乱に陥れている。食糧及び水供給の大規模な不足並びに家畜の減少により,何百万という人々が国内及び国境外への難民となっている。

3)以上の事態は未熟な経済的,社会的インフラストラクチャー,熟練した人材の不足,若干の一次産品の輸出への依存等の深く根ざしている構造的欠陥を抱える脆弱な経済体質を一層歪めている。

4)アフリカは,その豊かな潜在力にもかかわらず,すべての大陸の中で最も開発が遅れており,あらゆる経済指標においてはるかに他を下回っている。多数のアフリカ諸国の経済パフォーマンスは,一人当たり国民所得の低下及び経済成長率の停滞又はマイナス化によって特徴づけられる。更に,食糧生産は人口成長のペースに見合っていない。全ゆる予測によっても,アフリカ諸国の経済回復,成長及び開発は,アフリカ諸国が現在進めている努力に対する国際社会の十分な支援がない限り,見通しは非常に暗い。

5)更に,国際的な経済環境は,途上国に悪影響を与えており,就中既に脆弱であったアフリカ経済に破壊的な影響をもたらした。かかる影響は,交易条件の悪化,輸出所得の急激な減少,莫大な対外債務の負担及びアフリカ諸国への資金フローの停滞に現われている。

6)我々は,アフリカ諸国が自らの開発と現在の危機への対処に第一義的責任を有していることを認識している。それ故,アフリカ諸国は,非常に高い社会的及び政治的コストを払って,苦痛に満ちた調整措置に着手し,また右措置を継続している。かかるアフリカ諸国の決意に基づく努力及び国際社会による支援にも拘らず,状況は非常に重大なままであるので,更に多くのことがなされなければならない。

7)我々は,現在の危機に対処するにあたって,途上国闇経済技術協力の促進と同様に経済協力及び経済統合に向けてのアフリカ地域及びサブ地域間の努力が,アフリカの国家的・集団的自立及び持続的な開発を達成する上で重要な役割を果たしていることを認識する。

8)我々は,平和と安全の維持及び国際協力の強化は,開発を促進するために重要であることを承知している。

9)我々は,大規模な緊急援助が以下の分野で早急に必要である旨十分に認識している。

(1)追加的な食糧援助及びその他の緊急供与,更に右関連の輸送,貯蔵,被災民への分配に必要な技術・資金援助(2)水供給の改善(3)特に難民,流民を含む弱小グループのための健康・栄養の改善(4)国家の中核的家畜の保護(5)所得を創出するプロジェクト作成及び特に地方における新・再生可能エネルギープロジェクトの促進。

上記及び他の緊急のニーズに包括的に対応しかつアフリカ諸国の対応能力を促進するためには国際社会によってこれまで供与された援助に加えて,二国間及び多国間ドナー及び非政府機関からの一層の緊急援助を行う必要がある。

10)農業,工業部門及び経済的社会的インフラストラクチャー面でアフリカ諸国の再建・復興プロセスを促進し,支援するための緊急行動をとることが,特に重要である。国際収支改善のための充分な援助(支援)及びその他の適切な措置を通じて,重要輸入財の輸入能力を高めるための援助は,アフリカの持続的な経済・社会開発の再開と促進のための健全な基盤の創出を助けることとなる。

11)我々は,開発の必要に応えるにあたり,「ラゴス行動計画」及び「アフリカの経済・社会危機に関するECA閣僚会議特別メモランダム」等に列記されている国家政策及び措置が,各国,サブ地域の行動及び国際的な支援のための枠組を提供するものであることに合意する。

12)我々は,アフリカ諸国が食糧・農業分野に高い優先度を与えていることに鑑み,第一の緊急課題は,食糧生産において国家的・集団的な自立体制を早期に達成することである旨認識する。この関連で,第13回FAOアフリカ地域会議で採択されたハラーレ宣言が強調している如く,国家食糧戦略及び統合的農村開発計画は,特に食糧安全保障の達成にとり重要な役割を果たすものである。更に,我々は農村開発就中食糧生産において女性の役割が重要であり,かつ同役割に対し一層の大きな支援が与えられるべきであることを認識する。また適切なインセンティブ及び信用の供与,貯蔵・輸送の改善,食糧損失就中収穫後の損失の減少,農業輸出産品と食糧生産の間のより良いバランスの達成,農業生産の多様化,特に旱魃危険地帯における灌漑潜在力の活用が重要である。

13)「アフリカの旱魃の影響に対処するための地域行動計画」及び「砂漠化に対処するための行動計画」を実施するための国家的及び地域的努力を支援するための国際レベルの緊急行動をとることが必要とされている。

14)「アフリカの工業開発の10年」及び「アフリカの運輸通信の10年」を速やかに実施するための資金の増大が必要とされている。更に,国家,サブ地域及び地域レベルにおける熟練した人材の育成及び技術能力の創出のための努力は,より一層の国際的支援を必要とする。

15)我々は,悪化するアフリカの経済状況に鑑みて,債務問題,譲許的資金フロー及び輸出所得間の相互関連性並びにこれらが経済回復,成長,開発に与える直接的なインパクトは一層大きな意味を有することを十分認識する。それ故,かかる分野において「アフリカの経済・社会危機に関するECA閣僚会議特別メモランダム」,「アフリカの対外債務に関するアジス・アベバ宣言」,「サブ・サハラアフリカのための世界銀行特別行動計画」を考慮しつつ,アフリカ諸国の国内的調整努力を補完し支援するために,緊急の相互に補強し合う措置をとることが重要である。

16)アフリカは,非常に深刻な債務問題を有しており,右債務の元利返済は,すでに減少した輸出収入の中の非常に高い割り合いを占めている。本問題は,交易条件の悪化,実質タームにおける譲許的資金フローの減少,短期民間信用の利用増大等の要因により更に悪化している。資本の流入純増,緊急の債務救済措置なしには,アフリカの経済回復と開発は,期待し得ないものである。

17)二国間及び多数国間の信用供与者は,アフリカの債務問題を軽減するために協調的な措置をとるべきである。公的な又は公的に保証した債務については,各々の関係債務国との緊密な協議の枠組内においてその他の今後合意される措置と共に緊急に対処されるべき措置として,政府開発援助(ODA)債務の全体的又は一部の無償化,返済期間及び据置き期間の延長,より低利子又は譲許的利子,多年度債務繰り延べの拡大等があげられる。貿易開発理事会の1978年3月11日付け決議165(S-IX)の完全にして緊急な実施を確実にすることが肝要である。多数国間金融機関は,資金ディスバースメントを促進すべきである。国際的な利子率の低下は,更に,債務負担を緩和しよう。

また,民間銀行による全面的な協力が不可欠である。アフリカ諸国の債務管理能力は,特に国際機関による技術援助によって,改善されるべきである。

18)我々は,アフリカ諸国が,譲許的資金フローへの依存度の高さ及びその他の外的資源へのアクセスが限られていることに鑑み,二国間援助供与国及び開発金融・技術協力のための多国間チャンネルからの資金フロー量の実質的かつ持続的な増大を必要としていることを認識する。国際社会就中先進国及び多数国間金融機関は,アフリカ諸国への純資金移転を維持・増大するために追加資金を供与するべく努力しなければならない。世界銀行は,同銀行の「サブ・サハラアフリカのための特別行動計画」に必要な資金を動員するために,特別ファシリティーを含む可能なアプローチを,ドナー国と共に探求すべきである。

19)「後発開発途上国のための1980年代新実質行動計画」,就中ODAレベルに関する完全にして迅速な実施は,多くのアフリカ諸国への資金フローを大幅に増大させるものである。IDAへの追加的拠出及びIFAD増資の早期実施により少なくともアフリカに供与される資金の実質的額の現状維持が確保される。

20)アフリカ諸国は,数少ない一次産品輸出への過度な依存により,特に輸出所得の急速な減少を招く一次産品価格の急激な変動に対して脆弱である。それ故,長期間にわたり一次産品価格を安定させるための措置及びIMF補償融資ファシリティ等の輸出所得減少に対する補償融資アレンジメントの利用の改善と増大のための措置が緊急にとられる必要がある。アフリカの一次産品・加工品の市場アクセス改善,アフリカ諸国による生産多様化の努力,一次産品共通基金の早期かつ実効的な運用開始のためには,国際的行動の強化が必要である。

21)グラント・エレメントの増加資金のアンタイ化及び援助実施手続の簡素化に関する,ODAフローの形態と質は,特により迅速なディスバースメント,ノン・プロジェクト・プログラムやローカルコスト及びリカレソトコストを含むセクター援助のようなより柔軟な援助形態を増やすこと等によって,改善されなければならない。

22)我々は,援助調整及び資金の効率的・効果的使用に関し,一層改善の余地があると認識している。多国間及び二国間援助の調整は,第一義的に被援助国政府の責任であり,この観点より,効果的な国家レベルの調整メカニズムは重要な役割を果たしうる。国連システムは,要請に従い,この分野における対政府技術援助を拡大すべきであり,また,総会の関連決議に従い,計画及び実行レベルでの調整を強化する努力を遂行すべきである。

23)我々は,アフリカ諸国の緊要なニーズに対処するに当たり,国連は必要な資金を動員する点においてもまた特定の活動を実施する点においても重要な役割を果たしうる分野が多々あることを確信している。この関連で,アフリカにおけるプログラムに充てられている既存の資金を,アフリカ諸国政府との協議の上で,優先分野に対処すべく振り向けなおすべきである。国連のアフリカにおける活動の効率及びプログラム実施に関し一層の改善の必要がある。更に,追加的な自発的拠出は,優先分野にわたるプロジェクト及びプログラムの実施を確実にするために増大されるべきである。

24)我々は,国連システムの全機構・全機関に対し,アフリカに一層の注意を払い,アフリカ諸国が現在の危機及びその長期的な影響に対処することを支援するための資金の動員を継続するように要請する。

25)我々は,更に,二国間・多国間ドナー及び非政府機関に対し,アフリカ諸国の危機的経済状況を緩和するための,全ての必要な措置をとるよう要請する。

26)我々は,国連事務総長に対し,国際社会に対するアフリカの窮状の警告と啓蒙,アフリカヘの追加的援助の動員,国連システムのアフリカにおける活動の調整,状況のモニター及び定期的な報告の提出という賛辞に足る努力を継続することを要請する。

27)我々は,緊急な活動が行なわれない場合は,急速に悪化しているアフリカの状況は大惨事を招来しかねないことを確信する。それ故,我々は,本宣言に概略されたニーズに合致した緊急かつ協調された措置をとることにより,生存と開発という二つの要求を満たすためのアフリカ諸国の努力を支持することを全面的に約束する。

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