(5)国際人口会議で採択された「人口と開発に関するメキシコ・シティ宣言」(仮訳)
(84年8月14日,メキシコ・シティ)
1.1984年8月6日から14日までメキシコ・シティにて開催された国際人口会議は,10年前にブカレストにおいて全会一致で採択された世界人口行動計画の履行状況につき検討を行った。
本会議は世界人口行動計画の原則と目的が実際に有効であることを再確認し,同計画を引続き履行するための一連の勧告を採択した。
2.過去10年間において,世界は大きく変化した。人々の福祉にとって重要な多くの分野において,国内及び国際的な努力により著しい進歩が見られるが,多数の国にとっては,不安定,失業増大,対外債務の累積,不況,更には経済成長低下の10年となった。絶対貧困の下にある人々の数は増大した。
3.経済困難及び資源問題は途上国においては特に深刻である。増大する国際間の格差は深刻な経済・社会問題を拡大した。国際協力の強化は福祉・富の増大,その公正かつ平等な分配,更に資源の浪費の減少をもたらし,ついては世界の人々のための開発,平和を促進することとなるとの確固たる,かつ幅広い支持を得た希望が述べられた。
4.人口増加,高い死亡率,疾病率また移動問題は引続き大きな懸念の原因となっており,緊急の行動を要する。
5.本会議において,人口目標・政策にとり不可分一体のものである経済的・社会的・人的開発の主要な目的は,生活水準及び生活の質の向上であることが確認された。本宣言はメキシコ・シティに参集した各国,国際機関がアパルトヘイトを含むあらゆる形の人種差別に反対し,経済・社会開発,人権,更には個人の自由を促進するために取る厳粛なる行動を定めたものである。
6.ブカレスト以来,世界の人口増加率は年率2.03%から1.67%に低下した。次の10年の増加率の低下はよりゆるやかなものとなろう。更に,毎年人口は増え続け,年増加数は2000年までには9千万人に達する。右増加数の90%は途上国において生じ,同時期までには61億人がこの地球上に居住するものと見られている。
7.先進国と途上国の人口統計上の差は歴然としている。平均寿命は殆んど全ての地域でのびているが,先進国では73歳であるのに対し,途上国においては57歳にすぎない。また,途上国の家族数は先進国より多い傾向にある。このような状態により人口的圧力が先進国・途上国の福祉及び生活の質の格差の拡大に影響するものとの懸念を生ぜしめている。
8.過去10年において,人口問題は開発計画の中で基本的な要素であるとの認識が深まってきた。開発政策,計画及びプログラムは人口,資源,環境,更に開発の間の密接な関連を反映すべきである。行動計画においては天然資源の合理的利用及び環境保護に十分配慮し,かつ更に悪化することを防ぎつつ,全ての重要な人口及び開発要因を総合的に結び付けることに優先度を与えるべきである。
9.最近数年の人口政策は順調である。死亡率,疾病率について見ると未だ十分ではないが低下した。家族計画プログラムは比較的低コストで出生率を低下させることに成功している。人口増加率が自らの国家の開発計画を阻害すると考える国は適当な人口政策及びプログラムを採用すべきである。時宜を得た行動により人口過剰,失業,食糧不足,更には環境破壊等の諸問題の顕著化を防ぐことができよう。
10.人口と開発政策は個人,家族,更にはコミュニティのニーズに応える上で,相互に補強し合うものである。過去の経験はあらゆるコミュニティ及び草の根の団体が政策及びプログラムの策定及び履行に完全な形で参加することが必要であることを示している。かかる参加によりプログラムは他方のニーズに応え,個人・社会の価値に合致するものとなる。また,人口問題についての認識を促進する方途でもある。
11.婦人の地位の向上及びその役割の増大はそれ自体重要な目標であるが,家族数の決定にも好ましい影響を及ぼすものである。コミュニティの支持が,婦人を開発プロセスのあらゆる局面に参加せしめる上で重要である。機構上及び経済的かつ文化的な障害は取除かれるべきであり,また,コミュニティにおいて婦人の社会的・政治的及び経済的な生活を支援するため幅広い早急な行動を取るべきである。かかる目的を達するためには,男性及び女性は家族生活,育児更に家族計画等の分野において責任を分け合うことが必要である。政府は婦人の地位及び役割を促進するための具体的な政策を画定し履行すべきである。
12.未計画の結果としての高い出生率は,個人,家族,特に貧困者の健康及び福祉に影響を及ぼし,多くの国の経済・社会的進歩を大きく阻害する。婦人及び子供は,未計画の出生の主な被害者である。数多く,間隔が近過ぎ,またあまりにも早期ないし晩期の妊娠は母子,乳児の死亡率及び疾病率の主要な原因となっている。
13.ブカレスト以来家族計画に重要な進展が見られるが,多数の人々は安全かつ効果的な家族計画へのアクセスを有していない。2000年までには16億の婦人が出産年令にあることとなり,そのうち13億は途上国に居住する。全ての夫婦,個人が自由かつ強制のない形で責任を有してその子供数及び出生間隔を決め,かつ右を実現するための情報・教育方法を受ける基本的な人権を行使できるよう努力がなされるべきであり,右権利の行使においては,コミュニティに対する責務とともに,生活及び将来の子供の利益が十分考慮されるべきである。
14.現代の避妊技術は家族計画プログラムに重要な進歩をもたらしたが,新しい方法を開発し,また,現在の方法の安定性,効用,更に適用性を増すための資金を増大することが必要である。低出生率の問題を解決するための研究も拡大する必要がある。
15.全ての人々の健康水準を向上させる目的の一つとして,プライマリ・ヘルス・ケアー制度による母子の健康に特別の考慮が払われるべきである。母乳哺育,十分な栄養,新鮮な水,免疫接種,脱水症状の克服等を通じ乳児の生命を守るための画期的な措置が取られるべきである。
右効果は人間性及び出生率という面で劇的な意義を有するものとなる。
16.次の10年は人口構成を急速に変化させ大きな地域的差異をもたらすこととなろう。途上国の子供・青年の絶対数は早急に増大し,彼等のニーズ・期待に対応するための特別のプログラムが必要となる。人口の高齢化は多くの国が経験する現象である。この問題は特に先進国において高齢者の社会的影響,また,社会的,文化的かつ経済的生活面で積極的に果し得る貢献という見地より考慮されるべきである。
17.急速な都市化は今後とも引続き顕著な問題であろう。本世紀末までに30億人つまり世界人口の48%が都市,往々にして大都市に居住するものと見られている。総合的な都市,農村開発戦略は人口政策の重要な一部であるべきである。右戦略は個人・グループ・地域にとっての費用対効果に関する詳細な研究の下に作られるべきであり,また,基本的人権を尊重し,規制するよりも奨励策を用いるべきである。
18.国際的な移動の数及び右性格は急速に変化していくであろう。不法な移動及び難民は特別な重要性を持ち,数多くの移動労働者があらゆる地域において存在している。
技能の流出は多くの国において重要な人的資源の問題である。個人及び関係者の社会的権利を確保し,基本的人権に合致しない取扱いないし搾取より保護することが重要である。これを達成するため,出入国間の協力及び国際機関の支援が要請される。
19.1974年以降の経験が示す通り,人ロプログラムの策定及び資金割当てを行うに際しての国家元首,その他の指導者の政治的コミットメントが世界人口行動計画を更に履行する上で重要である。政府はかかるプログラムの運営において自助努力の達成に優先度を置き,管理能力の強化,国内レベルにおける国際援助の調整を確保すべきである。
20.また,ブカレスト以降,人口分野における国際協力は国際社会により合意された勧告の履行にとって重要であり,かつ顕著な成功を収める方途であることが明らかとなっている。人口活動のための資金増加の必要性が強調される。十分かつ実質的な国際援助は各国政府の努力を大きく支援する。かかる援助は国際的協調の下に提供されるべきである。国連ファミリーは引続きその重要な責務を果していくべきである。
21.非政府機関(NGO)は世界人口行動計画の履行において引続き重要な役割を負っており,各国政府及び国際機関の奨励と支援を得るにふさわしいものである。国会議員,コミュニティ指導者,科学者,マス・メディアの他の影響力を有する立場にある人々の人口と開発の全ての面における支援が求められる。
22.ブカレストにおいて,人口問題の重要性及び経済社会開発との密接な問題が世界により認識された。メキシコ・シティのメッセージは平和と安全の中で共通の使命を負いつつ,この地球の全ての人々のための生活水準及び生活の質の向上を図ることをねらいとする世界人口行動計画を効果的に履行していくことを目的としている。
23.この宣言を発出するに当って,国際人口会議の全ての参加者は世界人口行動計画を更に履行すべく,右コミットメントを再表明する。