5.諸外国における主要文書

(1)レーガン米大統領のジョージタウン大学戦略国際研究

センターにおける外交演説(要旨)

(84年4月6日,ワシントン)

1.米国外交の二大目標は安全な世界,個人の諸権利が尊重され,価値あるものが繁える世界の実現であるが,今日,核戦争の危険,テロリズム,暴力革命,独裁などが人々の心に暗くのしかかっている。

2.米国外交の基本原則は,現実主義,力の確保,経済成長,情報の確保,同盟国との責任分担,相互不可侵,敵対国との対話,超党派外交の確立である。

3.今日の米国はこれらの原則に新たな目を向け,外交政策の上での実行力を着実につけ,米国はより安全な国となった。70年代後半アンゴラやアフガニスタンの例の如く我々は抑止の力を有していなかった。しかし,今は違う。我々は抑止の力を有し,このことは将来の数百万人の人々の運命を基本的に変えたのである。米国は力と指導力を回復した。力による平和の維持はスローガンでなく,生活の中の事実そのものである。

4.経済の分野においても,米国は長期に亘った不況とインフレを克服した。生産性も向上し,ドルに対する信頼も回復された。これらは同盟国との緊密な協調により成し遂げられたものである。

5.米国は,ソ連と異なり力を正しく行使する方法を知っている。昨年グレナダで武力を使用した際は,これは近隣諸国の要請によるもので,同島に安定と自由が取りもどされた時,我々は引き上げた。ソ連のアフガニスタン侵攻にはそのような正当化すべき基礎がない。

6.核時代においてソ連との対話は不可欠である。かかる現実的な方針を進めるためには,行政府と議会との協調という我々の戦後外交にみられた金字塔の精神を再び回復することが必要である。今日,米国は,超党派によって四つの大きな課題を達成しなければならない。それらは(1)核戦争の危機の減少とそのための核兵器の削減,(2)世界の係争地域,戦略的に微妙な地域における安定基盤の強化,(3)経済発展と個人の自由の機会の拡張,(4)米外交を支持する超党派的コンセンサスの回復である。

(1)第一の課題―米国とNATO同盟国の35年間一貫した基本政策は,我々から戦争は仕かけないこと,敵に戦争が破滅以外何の利益も齎らさないことを納得させる抑止力を確保することであった。1980年代当初までに,我々は,欧州とアジアにおけるソ連のSS-20による核独占体制,米国の地上配備ICBMの脆弱化,戦略兵器の全面的増強を低減する軍備管理協定の失敗という三つの問題に直面していた。一般に,軍備管理協定が自動的に軍備の管理を齋らすという誤った印象を多くの人が有している。SALT1交渉が開始された1969年に,ソ連の保有する戦略核兵器の数は約1,500であったのに対し,現在は15,000に増大している。そして,この間SALTI及びSALTIIを含む軍備管理協定の枠組は存在していたのである。従って,核戦争の危険を回避する実際的な手段は,信頼し得る抑止力の確保と検証可能な軍縮の二つを平行して行うことでなければならない。1979年のNATO二重決定の実施もこの理由による。

我々の戦略面での政策は核の問題に注意深く答えており,このことは我々の批判者も認めている。より確固たる米国の安全を確保しうると主張して,超党派の絆を断ち切ろうとする者は,彼等の構想のもたらす結果を無視しているようにみえる。INFの配備を最後の段階で思いとどまるべきだという主張は我々の同盟国を裏切るものであり,核の一方的凍結を主張する者は,かかる凍結が検証し得ないものであり,不安定性を増すものであることを知るであろう。批判者が我々と現実的に世界の問題に対処するようになってくれたとき始めて超党派外交が機能する。

(2)第二の課題―地域的係争はその社会自体に内蔵される諸問題から発生していることが多いが,70年代を通じてソ連は,米国の力と決意の弱まりを見通して,世界の暴動,テロ,侵略に対する支援を行い,緊張を増幅させた。この結果,東南アジア,中近東,アフリカ,中南米各地域において,米国として容認できない多くの事件が発生した。これに対し80年代の初めまでには,米国の重要な利害にかかわる問題には,もっとうまく対処すべしとのコンセンサスが米国内に生まれてきた。地域的安定を効果的に達成するには経済,軍事の各援助,外交的仲介といった種々の手段を当該地域のニーズに応じてうまく組み合わせてバランスのとれたアプローチを行うことが肝要である。そして,そのためには,議会が断片的でなく全面的支持を与えてくれることが必須条件である。生半可な施策は最悪の結果を生むことになる。

(3)第三の課題―自由主義がダイナミックな発展の原動力であり,米国は世界経済の発展と人類の進歩に対する指導的責任をとるものであるが,世界経済秩序の確立は米国のみで行えるものではない。先のウィリアムズバーグ宣言の結果,仏,英,独のほか,日本がゆっくりとではあるが,着実に貿易自由化,資本市場の開放を行いつつある。米国及び世界の一層の発展のためには,米国を含め世界中にみられる保護主義を排除する要がある。自分は,客年の日本,韓国訪問に続いて,近く中国を訪問するが,環太平洋地域は未来の地域であり,そのダイナミックな経済成長は米国経済にとり絶好の市場となろう。

(4)第四の課題―我々は米国外交政策に対する超党派的コンセンサスを回復せねばならない。「党派外交は水際で止める」というのが米国の誇りある伝統である。70年代を通じて議会は大統領の外交面における権限を制約する百以上の決議を成立させてしまった。議会はレバノンヘの派兵に同意しておきながら,後になって派兵へ疑問を表明した。このことが米国の交渉の足をひっぱるとともに,シリアの非妥協的な態度を助長し,悪化した事態を長びかせることになった。

議会は,ヴィエトナム戦争を経た現在,新たに獲得した外交権限を責任を以て一貫して行使する能力を有していない。彼らの多くが未だヴィエトナム戦争時代にあると錯覚し,批判のみで問題解決の責任をとろうとしない。外交において大統領と議会といずれが強力であるべきかを論ずるよりも,双方が相手を外交における必要なパートナーと認めて責任を共有し超党派外交を築き上げる必要がある。両者が外交目標を共有することは容易だが,問題はコンセンサスを以て現実的な方策を作り上げることである。幸い,近年,スコウクロフト委員会,IMFへの新規拠出,キッシンジャー委員会と,超党派外交の三つの成功例があった。それにはエブラハム・リンカーンが終世尊敬した政治家ヘンリー・クレイのように,常に精神を高く保持し,国益を見失わず,祖国への愛をあらゆる政治的考慮よりも優先させる必要がある。

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